少し前の報道によると、胡錦濤・中国国家主席の訪米時、歓迎式典で胡主席がスピーチをしている最中に、一人の女性記者が「胡主席、あなたに残された日はもうわずかだ。ブッシュ大統領、法輪功への迫害をやめさせてください」と、中国語と英語で叫び、シークレットサービスに連行される騒ぎがあったようですね。そして、その女性の抗議の間、中国では信号を遮断され、受信できなくなったとか。権威に傷が付くのを恐れたのでしょうね。
この事件に象徴される、中国の政治体制や思考回路はそのうち変わるのでしょうか。胡錦濤氏が主席に就任した時に、日中の新時代が来る、『新思考』と期待され、その一つの現象ではないかと話題になったのが本書です。
著者の馬氏は中国人民日報の高級評論委員です。本書は氏が書いた3本の論文から成っており、表題となっているのはそのうちの一つです。私は書名から、以前ご紹介した『親日派のための弁明・金完燮(キムワンソプ)著』の衝撃を思い出し、中国にも日本擁護の内容を意見表明できる土壌ができつつあるのだなと思って手にとってみましたが、大きなカン違いでした。
表紙の女性は“趙薇”という中国の有名女優だったのですが、この日章旗に似たデザインの服に怒った男に何と、コンサートの最中に突き飛ばされた上、ペットボトルで持ってきた糞尿をかけられました。それ以前にネット上では荒れ狂うかのように、彼女に対して殺せだのレイプしろだのの罵詈雑言が飛び交い、結局事件後、趙薇が全国に謝罪せざるを得ない事態に追い込まれ、その男は逮捕されるどころか英雄扱いで、彼のために奨学金を集める運動まで起こったそうです。
馬氏の主張は、そこまでやってしまう中国の行過ぎた民族主義に対する警鐘です。と言っても反省しようなどという、殊勝な内容ではありませんし、政府批判などは皆無です。「日本は我々中国にひどいことをしたが、総理大臣は何人も現地を訪れ謝罪し、中国に巨額の援助をしている。石原慎太郎など右翼政治家はいるが、軍国主義にはならないのだから仲良くしておいた方が得だ」というような主張です。それでもこの論文は中国では大論争になったそうです。
むしろ、それ以外の2本の論文の方が、私には非常に興味深く読むことができ、中国に関心のある方には本当にお薦めです。どのようにして社会主義のまま、一党独裁体制でここまで市場開放を成し遂げ、WTOにまで加入し、現在の発展を謳歌しているのかが実によく分かりますし、問題点も浮き彫りになっています。
その上、最後の翻訳者の背景解説はとてもありがたいものです。開放された中国とはいっても言論が全くの自由ではなく、その中で本書のようなものが出版された意味が良く理解できます。非常に読みやすく、大変勉強になる一冊でした。
「反日」からの脱却中央公論新社詳 細 |
http://tokkun.net/jump.htm
『反日からの脱却』馬立誠
中央公論新社:393p:3045円
一党独裁という形はどこまで持つんでしょうかね。個人的には、かなり大胆な変化が起こる可能性があるのではないかと期待しているのですが…。