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『餓鬼(ハングリーゴースト)-秘密にされた毛沢東中国の飢饉』ジャスパー・ベッカー著 川勝貴美訳

2007年04月03日 | 外国関連


餓鬼.jpg



昨日の黄砂、東京でもものすごかったです。おそろしいなぁ、と感じたのは初めてですね。外にとめておいた私の車などは、まるで泥水をかけられたようでした。韓国でも、学校が休みになるほど深刻らしいですね。

黄砂の原因は、温暖化などいろいろあるでしょうが、中国の大躍進政策(1958年から)の時に、当時の人口6億人がいっせいに、木を切り倒しました。そのあたりから、中国内でも生態系がくずれてしまい、大規模な自然災害が続いているように思います。


中国のプロレタリア文化大革命、略して “文革” がどういうものだったか、高校の世界史の教科書には、“国内がこれにより混乱し、発展を阻害した” と簡単に書いてありますが、そこでは一千万人というおびただしい数の人が「敵」として、リンチなどで殺害されるという、凄まじい集団殺人もあったわけです。

他に逮捕、拷問、追放など何らかの被害にあったのは何と一億人!と言われています。(『知識ゼロからの現代史入門(青木裕司)』) 全人口の6分の1ですか。


多くの資本家や知識人、教師、官僚、政治家が標的とされただけではなく、宗教も弾圧され、教会や寺院の破壊、チベットでも僧侶などが投獄、殺害されたりしました。恐るべき迫害の実態があったのですが、その頃の中国は鎖国のような状態で、正確な情報が出てきませんでした。


労働者の革命だということになっていましたが、実態は当時、国家主席を辞任していた毛沢東らが、劉少奇小平たちの追い落としを狙った権力闘争なわけです。実際に劉少奇は奥さんが批闘大会というな名のリンチにかけられ、自らも殺されたようなものですし、小平は紅衛兵に乱入され、子どもを4階から叩き落されて下半身不随にされてしまったそうです。


時代の空気もあったのでしょう、それを見抜けなかった日本の新聞などは文革礼賛の記事を書いてしまったということですから、どうしようもないですね。いまだにそのことで非難されています。


当の中国共産党がすでに、最大の過ちであったと認め、謝罪までしていますし、今では日本の教科書にもつるし上げの場面と思われる写真が載っています。ただし、毛沢東はそれを主導したのではなく、“利用された”ことになっていて、いまだに天安門広場に “国父” として肖像画が掲げられているんですね。

毛沢東.jpg


では文革の前、なぜ毛沢東は国家主席の座を劉少奇にいったん譲らなければならなかったのか。国民には人気がありながらも党内で力を失う原因となっていたのが、大躍進政策の大失敗です。


大躍進の政策当時、中国のほぼ全土を襲ったとされる飢餓があり、数多くの餓死者を出したのですが、このことは日本の教科書には出てきません。中国はそれをひた隠しにしていたらしいのですが、その死者の数は、1千5百万人から4千万人という途方もない数が言われています。Wikiでは、2千万人~5千万人と、解説されています。


つまり、あの文革での死者をはるかに上回る数の死者を出したのですが、実態は闇の中です。本書はその大躍進の政策によって、どれほどの死者が出ていたのか、どうして失敗したのかなどを丹念にルポルタージュしたものです。

中国はとても広大な国土で気候もさまざまですから、ある地域で不作であっても、別のところでは豊作ということもあるそうですが、調べてみるとこの時ばかりは濃淡はあっても、ほぼ全土に渡って餓死者が出ていたようです。自然災害ばかりではなく、人禍によってもたらされた飢餓だったわけです。



目次は以下のようになっています。

第1部
 中国―飢饉の大地(飢饉の大地;立て!飢えたる者よ!;ソ連の飢饉 ほか)

第2部
 大飢饉(飢饉の概観;河南省―嘘が生み出した大災害;安徽省―鳳陽について語ろう ほか)

第3部
 大きな嘘(農民を救った劉少奇;毛沢東の失敗とその遺産;いったい何人死んだのか? ほか)


さまざまな証言や記録が出てくるのですが、とにかく恐ろしいのは飢餓の様子を記した部分です。もちろん作物は役人に取り上げられてしまいますし、草や木の実、土までも食べようとするわけです。

道端に死体が転がっている様子や、さらにまた、人食いの話が出てくるのですが、自分の子ども食べてしまうような状況が決して珍しくないのです。ちょっと読んでいて気分が悪くなるくらい多くの証言が載っています。筆者は3千万人が餓死したと推測します。

そんな厳しい状況であっても、農業政策の失敗を批判できないために、毛沢東には稲穂の上で子どもが遊んでいるというような報告しかなされないそうです。見かねて毛沢東に忠言した幹部は失脚してしまう。

この悲惨な状況の後始末をするために登場し、実績を上げてきたのが、現実主義者の劉少奇や小平で、小平のかの有名な


いい猫とはネズミを取る猫だ。その猫が黒い色をしているか、白い色をしているかは関係ない


つまり “生産できれば良いので、やり方が社会主義的であろうが資本主義的であろうが問題ではない” という意味の発言がこの時期にされるわけです。


その成功を見て、このままでは権力を握られてしまう、資本主義を中国に入れるつもりじゃないかと恐れた毛沢東が、文化大革命に乗り出すわけですね。


抗日の英雄のキバは、自らの政敵や自国民にも容赦なく向けられていたんですね。事実上の独裁体制の恐ろしさが身に染みる一冊です。逆に、これまで中国を賛美したマスコミは結果的には、独裁者の暴走を許し、中国国民を苦しめ、近代化を大幅に遅らせたことにならないでしょうか。現在の北朝鮮と似ているとも感じます。


以前、『毛沢東を越えたかった女(松野仁貞)』をご紹介しました。その有名女優は “中国には二人の神がいる。一人は毛沢東、もう一人は私、劉暁慶” という言葉を残していますが、やはり、毛沢東はアンタッチャブルな神の存在なんですね。


餓鬼(ハングリー・ゴースト)―秘密にされた毛沢東中国の飢饉

中央公論新社

詳細
毛沢東を超えたかった女

新潮社

詳細


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『餓鬼(ハングリーゴースト)-秘密にされた毛沢東中国の飢饉』ジャスパー・ベッカー著 川勝貴美訳
中央公論新社:461P:2520円
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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (milesta)
2007-04-03 16:43:07
東京でも黄砂ですか。しかもそんなに凄まじく。信じられません。
文革のことを『ワイルド・スワン』で読んだときは驚きました。昨日まで「先生」と言って地域の尊敬の的だった人が今日は家から引きずり出されてリンチというようなことが繰り返されていたなんて!
その時の被害者や餓死者の数を、この記事で改めてみると、中国は巨大すぎて一人一人の命が軽んじられているのではないかと思ってしまいます。

『大地の咆哮』には水問題の深刻さが書いてありましたが、こちらの数字もびっくりするようなものでした。
中国の水資源は一人あたり世界平均の四分の一しかなく、しかもそのうち使用可能な量は20パーセントだけ。
無謀なダム建設・使用により毎年黄河で押し流される土砂の量は16億トン(利根川では50年間で合計1億トン、長江でも15年で3億トン)。
中国で砂漠化されていく広さは、毎年大阪府の二倍の面積に値する。←これが黄砂の原因でしょうか?

こういう数字を他人事だと思っていたところがありますが、黄砂などがあると日本への影響などいろいろと考えてしまいますね。
milestaさん (VIVA)
2007-04-03 23:11:08
本当に昨日は驚いて、TVのニュースをはしごしました。何も伝えない番組とトップに近い扱いをしているものがありました。

黄砂って本当に黄色なんですね(笑)。

実は、ワイルドスワンを今読んでいます。もう何年も前に買ったのに、本当にず~と、ず~っと積読で、放っておいたのですが、ちょうど筆者が生まれて、夏先生が亡くなったあたりです。

本書も同様ですが、ワイルドスワンなんか読んでいますと、文化の違いを痛切に感じます。またいろいろ教えて下さい。
Unknown (パピヨン土方@ビジネス洋書を1分で読む@最先端ビジネス情報!)
2007-04-04 06:37:25
こんにちは。黄砂がひどかったですね。

 独裁政権というものは、多くの犠牲がつきものですね。毛沢東の時代に限らず、中国という国は油断のならない国ですね。外交を誤ると、日本は多くの損害を被ることにならないかと、心配しています。

 
ワイルドスワン (ysbee)
2007-04-04 07:57:13
milestaさんもおっしゃっているように、
私も『ワイルドスワン』驚きの連続で一気読みしました。
まだこちらへ来て2・3年しかたっていない頃でしたから
もうずいぶん前になります。

社会全体の価値観が一夜で転倒する。
知識人が標的になって、むごい仕打ちを受ける。
こども(というよりも「毛沢東手帳を掲げるガキ」という趣きですが)が大の大人を糾弾し、死刑にまでいたる………

すさまじいまでの社会変革が生々しく描写されていてショックでした。
当時オフィスビルをシェアしていた日本人仲間の間で、上下2巻そろって回し読みになった本です。
その頃はまだ英語の本に慣れていなかったので日本語版で読みましたが、英語の本で、これ以上文化大革命についてリアルに記述された出版物はないということで、アメリカでもロングセラーになってたようです。

それから10年以上たってから、ニューヨークタイムズのコラムニストNicholas Kristolと奥さんのSheryl WuDunnのインタビューをテレビで見てました。
その番組の最後で初めて彼女がBlack Swanの作者だとわかり、文革からピュリッツァー賞受賞のジャーナリストになるまでには、想像を絶する人生があったのだろうなぁ、と感慨深いものがありました。夫婦でよく実録本を出しており、ほとんどベストセラーです。

ちょっと本題からそれましたが(いつもながらでm(_ _)m)
思い出したついでの書き置きポストです。
パピヨンさん (VIVA)
2007-04-04 10:03:47
本当にそう思います。急速な近代化の最中ですから、中国とどう付き合うか、日本の外交は余計難しいでしょうね。いずれにしても中華思想と力に対する信奉というのが、不気味だと感じました。
ysbeeさん (VIVA)
2007-04-04 10:21:31
ワイルドスワンはそうでしょうね、日本でもすごい反響でしたから。ブラックスワンというのははじめて聞きました。おもしろいですか。日本のアマゾンでは2冊お二人の著書があるだけでした。あとで英語で検索してみますね。
Wild Swan (ysbee)
2007-04-04 11:23:50
もとい、もとい、大もとい!
「Wild Swan」です。
どっからきたんですかBlack Swan。洒落にもならないBlack joke。
座布団はがされないうちに高座を降ります。スゴスゴ…(v_v)***idiot!
もといついで (ysbee)
2007-04-04 11:27:27
スペルミスです!
Nicholas Kristof.
クリストル、じゃなくて クリストフ。
トーフの角を探してます。ウロウロ...(v_v)***stupid!
ワイルドスワン5? (bucky)
2007-04-04 12:04:10
しみじみと、体制を批判できなくなる事の怖さを感じます。昔も今も、どの時代の何とは敢えて言いませんが、同じ権力がずっと続くのは良くない。

ワイルドスワン、私も10年位前に読みました。衝撃的な内容でしたね。ただ、その後、昨年か「マオ」を読んで、「ちょっと、これは・・・とらえ方がどうなのか」と感じ、途中で読むのを止めてしまったという話もありますが。VIVAさん、これ読みました?
ysbeeさん (VIVA)
2007-04-04 13:08:18
No problem でございます。わざわざありがとうございます。