玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

「玉川上水にはフン虫がいるよ」2018

2018-08-25 23:01:21 | 生きもの調べ
以下に紹介する写真の公表は全て関係者のご了解を得ています。
スタッフの感想
保護者の感想
色を塗った糞虫模型


2018年8月25日、去年に引き続いて「玉川上水にはフン虫がいるよ」を行いました。今年は豊口信行さんが企画してくださいました。彼はこれまで玉川上水で子供対象の観察会に参加して気に入ってくれたみたいで。「今年はやらないんですか?」と聞かれ、「やらないというわけではないんだけど、私はやろうという人に応える形だったので・・・」と言ったら、「それなら、今年は私がやりたいです」と動いてくれました。チラシを作って、公民館などに出向いて配布や勧誘をしてくれ、頭が下がりました。


チラシ


初めは申し出が少なかったのですが最後の最後になってバタバタと連絡があり、最終的には18人もの子供がきてくれることになりました。

 前の日の24日の夕方にトラップを設置しました。豊口さん、棚橋早苗さん、武蔵美の学生さん2人が参加しました。


糞虫トラップを設置する


 トラップはプラスチック容器に犬のフンをぶらさげたものです。ぶら下げるにはフンをティーパックに入れて、割り箸に挟んで容器の上に渡すだけです。こうしておけば糞虫が匂いにつられてやってきて「着地」すると、そこにはフンがないというわけです。ただ、糞虫はよく飛ぶので、飛べないように容器の底に少し水を入れておきます。そうすると溺れた状態になり、飛べないのです。


糞虫トラップ


 これを10個セットし、おいた場所の柵の柱に赤テープをつけてあとで来た時にわかるようにしておきました。

 25日は朝8時半にコンビニに集合し、9時から受付をしてから玉川上水に行きました。説明するために近くの林に行きました。トラップがどういうものか、これから確認に行くということを伝えました。この段階で子供達は「ふんちゅう」がどういうものかも知らないわけです。


今日の予定などを話す


 トラップを置いたところまでは100メートルほどあるので、ゆっくり歩きました。


玉川上水を歩く


 緑陰と言いますが、猛暑の日であったにもかかわらず、玉川上水の緑の中は涼しく、花を見たりしながら進んで、トラップのところにきました。
「昨日、ここにトラップといってフン虫がくる仕掛けをしておきました」
といってトラップをのぞくと、うまいことに4匹がきていました。


「いた、いた。入ってたよ」


 と言って容器に入っているコブマルエンマコガネを見てもらいました。


トラップに入った糞虫を覗く


それから茶こしで水を流して糞虫をシャーレに入れました。
 ここで、大切な話をしました。
「こういう調査をした時は、使ったものをそのままおいておかないで、片付けます。だから、君は柵につけたテープを剥がして、この袋に入れてね。それから君は糞の入ったティーパックをこれに入れてね。割り箸は君に頼もうかな」


トラップに使ったフンはこれに入れて片付けてね


と、調査で使ったものは現場に残さないということを伝え、その作業を分担してもらいました。


糞を片付けてくれたいつきさん


採れた虫の説明をする


 糞虫だけでなく、ハネカクシがきていたトラップもあったので、一見甲虫に見えないハネカクシの説明をしました。甲虫の特徴である鞘翅は硬いものですが、その下には薄い膜質の飛ぶための翅が収納されています。カブトムシなどでは鞘翅が胴体全体を覆っていますが、ハネカクシは胴体の大部分は裸出していて、鞘翅は付け足しのように小さくなっています。それでも、ちゃんと飛ぶための翅はあって、収納されています。


甲虫の体の説明をする

 こうして10個のトラップを確認しましたが、糞虫としてはコブマルエンマコガネだけで、2個はゼロでしたが、8個には数匹が入っており、中には7匹も入ったものがありました。入っていたフン虫の数は多いものから順に,7, 4, 3, 2, 2, 2, 1, 0, 0で、1トラップ平均2.2匹でした。


糞虫が7匹も入っていたトラップ

 子供達は初めて見る糞虫や調査のようすに興味を持ったようで、ノートをとる子もいました。


糞虫を採集するようすを見る子供たち


トラップごとに採れたフン虫の数を書いたメモ



メモを取るゆみかさんとしおりさん


 回収が終わった時点でこう話しました。
「10個のトラップを見たけど、だいたい2、3匹の糞虫がいたよね。こんな小さいトラップにこれだけいたということは、この林にはもっともっといるということだよね。ということはそのたくさんの糞虫が食べる餌になるウンチがあるということなんだ。それはイヌの散歩をした時に、イヌがしたウンチもあるし、ここにはタヌキが住んでいて、タヌキのウンチもあるんだ。もし、フン虫がいなかったら、ここはウンチだらけになって臭くて汚くなってしまう。だからフン虫はとてもだじなことをしているんだよ」

 小一時間ほどが経って、武蔵野美術大学に移動しました。


教室のようす


 はじめに、私の方からこれからすることを話しました。動物の糞を食べるという特殊な食性を持つ糞虫とはそもそも何なのでしょう。糞という世界のどの文化でも嫌われるものを食べるなどとんでもないことに違いありません。常識的な大人でも(いや、だから)糞虫は「嫌な存在」です。それをわかってもらうために次のような話をしました。

「動物はいろいろなものがいるけど、必ず何かを食べます。そして食べたら、必ずウンチをします」
子供は「そんな話をするなんて」などとは思いません。
「君は今朝、朝ごはんで何を食べた?」
「パンとか」
「それから」
「ヨーグルト・・・」
「そうか。パンは草の実を集めて粉にして熱をくわえて作るものだし、ヨーグルトは牛のミルクから作るので、植物と動物です。食べ物はみんな動物が植物なんだよ」
「人はサルの仲間だから、ほかのサルもそうだけど、果物が好きで、あれば肉も食べるんだよ。ではライオンは?」
「肉!」
「そうだね、シカみたいな動物を捕まえて食べるね。だから動物」
「ヤギは?」
「草」
「そうだね、ウシとかシカも同じだけど、木や草の葉だから植物」


動物の食べ物を説明する


「こういうふうに動物によって好きな食べ物が決まっているんだけど、中にはウンチを食べる動物もいるんだ。それがフン虫。フン虫はカブトムシなんかの仲間なんだけど、フンをバラバラにするために、手にギザギザがあるんだよ。フォークみたいなものがついているわけだ」
と言って黒板に糞虫の特徴を描きました。

 それから、発泡スチロールで作ったタヌキの模型を取り出しました。


発泡スチロールで作ったタヌキ


「これはタヌキね。近所の角上(魚屋)で発泡スチロールの箱をもらってきて作ったんだけどね(笑い)、それをカッターで切って作ったんだ。これをこう開くよ」


タヌキの模型で説明する


といって3枚貼り合わせた発泡スチロールを開きました。そこには口から肛門に至る消化管が描いてあります。


消化管を描いたタヌキの内側


「タヌキは木の実などをくわえると、歯でガジガジと噛んで、飲み込むんだ。食べ物は食べ物が通る道という意味で「食道」を通ってここにある胃袋という袋に入るよ。胃袋からは薬みたいな物が出て、食べ物を溶かして栄養を体に送るんだよ。そのあとは細いホース見たいな腸をグニャグニャと通って・・・・」
そこまで言ったとき、一人の子が
「グニャグニャと行ってウンチになって出るんだ(会場笑い)」
「先生がこれから言おうとしていることを言ってしまったね(会場笑い)」
そして紙粘土で作っていたウンチを肛門からポトンと落としたら、みんな大笑いをしました。




タヌキのお腹の中を通った食べ物はウンチになってお尻から出るんだよ


紙粘土で作ったタヌキの糞


くみさん


はなさん


こうくん


 それから、タヌキの顔について説明しました。一つは、歯がヒトのものと違い尖っていることを伝えるため、もう一つは、私たちがイメージとして持っている「タヌキの丸顔」は顔の脇にある長い毛のためで、頭骨自体は意外に細長いということを知ってもらいたいと思ったからです。そのために、本物の頭骨に粘土をつけ彩色した模型と、頭骨そのものを見せました。


タヌキの頭骨に粘土をつけた模型


タヌキの頭骨を説明する


 「はい、タヌキのこと、ウンチのこと、フン虫のことを話したので、これからフン虫をよく見てもらいます」
 と言って、用意した3台の実体顕微鏡と虫眼鏡を使って、さっき採集してきたコブマルエンマコガネをよく見てもらうことにしました。多くの子は顕微鏡はいうまでもなく、虫眼鏡も初めてで興味深そうに眺めていました。



シャーレのコブマルエンマコガネ


あかねさん


だいちくん だいほくん


こうくん


いつきさん


 それからいよいよスケッチをしてもらうことにしました。

「さっき顕微鏡で見たフン虫を頭に残してスケッチブックに大きく描いてね。描き始めてからもう一回見たくなったら、見てもいいよ」
子供達は思い思いに、自分の頭にある糞虫を描き始めました。


あかねさん


こうくん


しおりさん


なつきさん


たいきくん


たくまくん


 スケッチがだいぶんできたようなので、次の作業を説明しました。

「はーい、ちょっと休んでこちらを見てください」
と言ってコブマルエンマコガネの大きい模型を取り出しました。

コブマル君の模型


コブマルエンマコガネの粘土模型


「これはね、先生が作りました」
というと
「え、スゲエ!」
という子供の声とともに保護者の方から歓声が上がりました。
「ね、なかなかカッコいいでしょ。それでね、みんなにも粘土でフン虫を作ってもらうことにします」
子供達のうれしそうな表情が見られました。

 粘土を一握り取り出して、丸くし、ヘラで胴体の境目や翅のたて模様などの付け方を説明しました。
「それからね、先生の作ったのは脚まで粘土で作ったけど、それは大変なので、今日は脚は竹の枝を使うことにしました。竹には節があるので、それが昆虫の脚らしく見えるんだ。これを体にちょんと差し込むと脚になるよ」


糞虫の粘土模型を作る段階

 子供達は生き生きと粘土の糞虫を作り始めました。これを見て今回、私自身に発見がありました。スケッチでは明らかに年齢差がありましたが、粘土の方は小さい子も驚くほど上手に作っていたのです。おそらく立体を二次元の紙に描くというのは頭の中でワンクッションある約束事ですから、慣れない子にはその意味がわかりにくいのではないか、そんなことを思いました。


えいたくん


じゅりさん


はなさん


けんいちくん


ゆみか さん


たくまくん


まさきくん


けんいちくんの弟


「それで、今日は粘土で作るだけで、まだ湿っているので色は塗れないけど、お家に持って帰って明日になると乾くから、絵の具で色をつけてください。先生は黒じゃなくて青い糞虫にしました。みんなも自分の好きな色に塗ってみてくださいね」こちら

 たくさんの粘土の糞虫ができましたが、たいきくんだけは、脚も粘土で作ることに挑戦していました。時間はだいぶかかりましたが、ついに力作ができました。みなさんに紹介したら、思わず拍手が沸き起こりました。


たいきくんとその作品


 実は私が紹介しようとして「作品」に触ろうとしたら、まだ未完だったらしく、たいきくんが私の手を振り払ったので、思わず笑いが漏れました。「なかなか見どころのある奴だ」とうれしく眺めました。

 11時半になったので、感想文を書いてもらうことにしました。小さい子たちは「楽しかった」程度の短い言葉でしたが、次の3人は大きいので、さすがにすばらしい内容でした。







 そして、まとめをしました。

「今日は玉川上水でわなにフン虫が入っているのを見ましたね。フン虫がいるということは食べ物になるフンがあるということで、それは玉川上水にタヌキがいるということ、だからタヌキが住めるようないい林があるからです。でも、もしフン虫がいなかったら、汚くてくさい場所になってしまうはずです。でも、フン虫いて、一生懸命フンをバラして食べてくれるから玉川上水はきれいです」
「掃除してるんだ」
「そうだね、フン虫は掃除をしてくれてるんだね。でも知らない人はウンチにくる虫なんてきたなーい、と嫌います。そういうのは良くないよね。今日、糞虫をよく見て、スケッチしたり、粘土で作ったりして、糞虫のことを勉強したから、小さな虫でもとても大切な役割をしているということを覚えておいてね。ではこれで今日の教室を終わります」

 その後、準備していた「認定証」を手渡しました。申し込みが直前だったために印刷が間に合わなかった子はその場で名前を書きました。


認定証

「私はタヌキの糞を調べているので、自分のことをタヌフン博士と呼んでいます」と言ったら笑いが起きました。


こうくん


けんいちくん


まさきくん



 それから記念撮影をすることにしましたが、黒板がさみしいのでタヌキの落書きをしたら、子供達が「タヌキに似てなーい」とか厳しいコメントをくれました。


落書きをする


記念撮影。この時写らなかっただいほくんとくみさんは別の写真を添えました。


 終わってから二人の男の子が糞の模型を見て笑っていました。子供はウンチが好きなものです。


えいたくん かなとくん

 振り返れば豊口さんの準備は大変だったと思います。公民館や学校、お店、駅などに行ってチラシを配りました。棚橋さんはチラシのデザインをしたり、チラシの配布もしてくれました。関野先生には教室を使わせてもらい、当日も縁の下の力持ちでお手伝いいただき、関野ゼミの学生さんもトラップの設置や当日の子供の対応をしてくれました。麻布大学の若林さんやリー智子さんも子供にアドバイスなどしてくれました。こうした人の支えがあって、無事終えることができました。準備段階での「合言葉」は「子供に楽しい体験をしてもらい、自分たちも楽しもう」ということでした。細かな不手際はあったのですが、子供達の真剣な眼差しや、好奇心に満ちた様子を見て、「ああ楽しんでくれたんだ」と思えました。

 最後に子供達の作品を紹介します。「子供のわりに」などという但し書きは一切無用です。そういう色眼鏡なしにつぶさにこの作品を見ると、子供達がまちがいなく素晴らしい才能を持っているということがわかります。これを伸ばすも摘み取るも、教育、現代の学校教育がそれを果たしているかどうか、こういうささやかな活動は、そういうことを考えるきっかけにもなると思いました。いずれにしても、子供達も私たちも楽しい時間を過ごすことができました。


子供達の作品

 一言添えるなら「コブマルエンマコガネくんもありがとう。君たちがトラップに入ってくれなければ何もできなかったのだから」

スタッフの感想は こちら
保護者の感想は こちら


撮影:豊口信行、棚橋早苗、若林英璃奈、高槻成紀
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