てくてく日々是雑感

こんにちは。てくてくねっとの たま です。
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幸田文『台所のおと』

2008年08月12日 | 本棚
恩師の舅の危篤に心づくしのおでんを差し入れようとてきぱきと働く高校生のいよ子に、居候の女性が投げかける「ひとの取込事をきくとハッスルしちゃうのは、家庭的な女のいやらしい癖だってこと、知らないの」という物言い、なかなかぴりっとさせる。その言葉に軽く傷つくものの、結果は実って救われる小編『おきみやげ』。
概して幸田文の登場人物(主人公)は働き者だ。病床、離婚、嫁ぎなど、作者自身が投影された物語には、うまくいくことばかりではない人生の壁やら溝やらを前に、苦しんだり悩んだり力んだり踏ん張ったりする姿が率直に描かれている。かっこいい話、大団円はなく、なんとなくほっとゆるむことや、救われる部分もあるにはあるが、全体に気難しい空気が漂い、眉間にしわ寄せつつ、しわの間に細かい機微を見る。すぱすぱと無駄のない文章に、働く人の手を見る。


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