TAOコンサル『市民派アートコレクターズクラブ』

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伊勢和紙でつくる名刺

2012年06月01日 | 私の数寄な一点展


 新しい名利は、和紙でつくるのだ。そう決めこんでいました。どこの和紙にしようかなといろいろ検討。まさかないでしょうと思いつつ、生まれた土地の名前を入力して検索してみたら、ヒットするではありませんか。その名は、伊勢和紙。知ってしまったからには、伊勢和紙で名刺をつくるほかありません。
 その前にリサーチ。手触りは一応は確かめてみたいもの。けれども、なかなか東京では売っていないもようです。そこで、伊勢出身の母親にヒアリング。すると「外宮さんの近くにお店があったと思う。おじいちゃんならよく知ってたかも」との情報が。祖父はとっくに天国。ならばと直接、大豊和紙工業さんにコンタクト。すると、とってもご親切なことに、見本の名刺を郵送してくださったのでした。ところが、色は真っ白しかないとのこと。無垢な心の持ち主でない私に純白は不似合いなわけです。できれば、草木染めのような色がいい。それに、もっともっと荒削りで無骨な植物の繊維を感じさせる手触りがいい。などと、次々と欲が出てしまう。
 大豊和紙工業の社長、中北さんいわく、「4月、5月になれば(3月のやりとり)少しづつバリエーションもできていくと思います。手漉きの作業は順次進めていて、そのときどきの原料の残りで名刺も作っていこうと職人さんたちと話をしていたところです。チリの入った未晒し楮や、藍染めの名刺や杉皮を砕いて入れたものなど考えています」とのこと。こんな小口の個人客に、なんてご丁寧な対応なのでしょう。けれども、名刺づくりに1、2ヶ月も待てません。私は、後ろ髪をひかれつつ和紙名刺を断念。次に刷るタイミングに、満を持してお願いすることにしようと誓ったのでした。耳付き(淵が直線的に裁断されていない)和紙への印刷は難しそうですから、印刷会社も限られてしまうはず。印刷ではなくハンコを作って押すという手もあります。和紙の名刺らしさを活かすにはどうすればいいか。そんなアイデアも固めながら。
「はい、それならすぐに送付しますね」と簡単に和紙名刺が実現しなくて、今ではよかったと思っています。すぐに出来上がらずに、時間がかかるものをじっくり待って、ようやくお目にかかれるほうが、愛着もわくというもの。名刺ですから、愛着わきすぎて配りたくなくなるのも困りますが。これだ!という色と風合いの伊勢和紙に出会えることを、気長に待ちたいと思います。そもそも、伊勢神宮に和紙を代々奉納している会社に、名刺をつくってもらうなんて、今の私には贅沢すぎますしね。
 「今回は普通の紙で名刺を作ることにします」とお伝えしてから3か月あまり。6月の下旬に、中北さんから「藍染めの名刺出来上がりました」と写真付きのメールが届きました。「藍染めの名刺が約200枚出来上がりましたのでご案内申しあげます。20枚で税込840円です」とのこと。お値段も良心的。けれども、私はまだまだ名刺の残量が豊富なので今回は見送り。藍染め名刺は、とても涼しげで今の季節にもぴったり。こんな名刺を差し出してみたいけれども、差し出されてもみたい。

 中北さんの会社のホームページでは、和紙にまつわる歴史の記述などもあり面白いです。三重県生まれの本居宣長「玉勝間」の一節も掲載されていたので、転載します。

~~紙の用、物を書く外いと多し。まづ物を包むこと、また箱籠の類ひに張て器となす事。又かうより、かんでこよりと云ふ物にして物を結ぶ事などなり。これらの外にも猶ことにふれて多かるべし。然るにもろこしの紙は唯だ物を書くにのみ宜しくて、件の事どもにはいといと不便にぞありけり。かくて皇国には国々より出る紙のいと多くて、厚きうすき、強(こわ)きやはらかなる、さまざまあげも尽くしがたけれど、物書くにはなほ唐の紙に及(し)くものなし。人はいかがおぼゆらむ知らず。我は然(しか)おぼゆるなり。~~~

 日本の紙は用途が多い。書写材料としてだけではない。という内容だそう。本居宣長は、短い期間ですが、紙屋さんの養子となっていた記録があります。その体験がくだんの一節に反映されているのかもしれません。本居宣長の言葉通り、中北さんの会社では、伊勢和紙の可能性を模索されています。写真プリント用の和紙もあるとは意外。中北さん、今後とも、名刺に限らず新作のご案内をどうぞよろしくお願いいたします。(山本理絵)



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