かつて松竹の撮影所があった神奈川県大船で行われた「大船まつり 映画パレード2016」にウエスタン・ユニオンの一員として参加。一応『荒野の七人の』(60)のジェームズ・コバーンのつもり。
周りは、甲冑軍団、寅さん軍団、スター・ウォーズ軍団…と、和洋折衷のカオス状態。最初は恥ずかしかったが、徐々に慣れていく自分が怖かったりもして。なかなか楽しゅうございました。
午後は近くのレストランに場所を移し、今年公開60周年を迎えたジョン・フォード監督の『捜索者』について語り合う。
会に先駆け『捜索者: 西部劇の金字塔とアメリカ神話の創生』(グラン・フランケル著)を読破した。19世紀、米西部開拓時代に実際に起きたコマンチ族による白人少女シンシア・アン・パーカーの拉致事件に始まり、その息子クアナがたどった数奇な運命、彼らの生涯を基に、『捜索者』の原作を書き上げたアラン・ルメイの人生、それを映画化したジョン・フォードと演じたジョン・ウェインへと至る500ページ余の大冊。情報量のボリューム満点、読み応えも満点の素晴らしい本だった。
読後、改めて『捜索者』を見直すと、新たな発見がたくさんあった。映画製作の裏側や映画の奥に潜むものを知ると、映画はさらに面白く見られるということ。
パンフレット(56・外国映画出版社(フォレンピクチャー・ニュース))の主な内容
解説/「捜索者」に寄せられたアメリカ各紙の讃辞/梗概/ジョン・フォードが作った新しい西部劇「捜索者」について(槇由起雄)/ジョン・ウェイン、ナタリー・ウッド
パロディの基や時代背景を知らないと…
舞台は1950年代、キャピトルピクチャーズの社運を懸けた超大作史劇『ヘイル、シーザー!』の撮影中に、主演俳優(ジョージ・クルーニー)の誘拐事件が発生。スタジオの“何でも屋”マニックス(ジョシュ・ブローリン)に事件解決が託される。
スチュアート・M・カミンスキー原作の『探偵トビー・ピータース』シリーズ、あるいは『ロジャー・ラビット』(88)のような、映画撮影スタジオを舞台にしたミステリーコメディ。
マニックスが誘拐事件を追う中で、史劇、ミュージカル、西部劇、ロマンス大作など、当時の映画製作のさわりが見られる。ジーン・ケリーのようなチャニング・テータム、エスター・ウィリアムズのようなスカーレット・ヨハンソン、好漢の西部劇スターを演じるアルデン・エームライク…。誰かさんのような俳優、監督、編集者、記者が次々に登場する。
いかにもコーエン兄弟らしいディテールに凝ったマニアックな作品。パロディの基や時代背景を知っていればいるほど楽しめるが、一般的にはどうなのだろうと少々心配になる。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
無名の者たちの心意気や生きた証しを描いた
『殿、利息でござる!』
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1049991
家族ってやっかいだけど愛おしい
山田洋次監督が好んで描くテーマは、家族、故郷、労働、青春、そして不器用な恋愛です『男はつらいよ』シリーズにもそうしたテーマがちりばめられていました。
この映画の横糸は、東北で一人暮らしをする老父(三國連太郎)が、かつて出稼ぎで訪れた東京を再訪する話です。そして縦糸として、彼の次男のフリーターの若者(永瀬正敏)とろうあの女性(和久井映見)との恋が描かれ、やがてその二本の糸が交差していきます。
できのいい長男よりもできの悪い次男の方がかわいくて気が許せると思う父。そんな父は、好きな人がそこにいれば苦しい仕事もなんのその、相手に障害があってもそんなことは構わないという次男の生き方を見てなんだかうれしくなってしまうのです。
この映画の、親が上京して子供のもとを訪ねるというパターンは小津安二郎監督の『東京物語』(53)にならっています。その中で描かれる「家族って、やっかいだけど、愛おしい」という思いは、山田監督の近作『東京家族』(13)や『家族はつらいよ』(16)にも通じています。
『青春デンデケデケデケ』(92)
時代を超えた青春映画の名作
芦原すなおの直木賞受賞小説を大林宣彦監督が映画化しました。今回の舞台は、大林監督が得意とする地元・尾道ではなく、1960年代の香川県観音寺です。
ベンチャーズの「パイプライン」(サビの部分が”デンデケデケデケ”と聴こえる)に感化されてバンドを組んだ4人の高校生(林泰文、大森嘉之、浅野忠信、永堀剛敏)のロックに明け暮れる高校生活を描きます。
大林監督は、あえてくすんだ色調の画面にし、手持ちカメラでの撮影による揺れや移動を生かして、ドキュメンタリータッチで彼らの姿を追います。
彼らや周囲の人々の日常を極普通のものとして描いたからこそ、この映画は時代を超えた青春映画の名作足り得たのです。
クライマックスは町の皆が集う学園祭での演奏会。そして彼らにも、卒業、別れ、青春の終わりが訪れます。
見終わった後に、もう一度高校時代に戻りたい、けれども決して戻れない、と気づいてちょっと切なくなるような、すてきな映画です。
全編を彩る当時のヒット曲に加えて、久石譲の音楽も印象に残ります。特にメインテーマ曲の「青春のモニュメント」が絶品です。
相撲は際物でも、単なるスポーツでもない
この映画の主人公は教立大学4年生の山本秋平(本木雅弘)。彼は、穴山教授(柄本明)に呼び出され、卒業に必要な単位と引き換えに相撲部に入ることを提案されます。ところが部は廃部寸前で、部員は相撲通なのにまだ一度も勝ったことがない8年生の青木(竹中直人)たった一人でした…。
この映画は、フランスの詩人ジャン・コクトーが相撲について書いた「力士たちは、桃色の若い巨人で、シクスティン礼拝堂の天井画から抜け出して来た類稀な人種のように思える~」という文章を、相撲部のOBで顧問の穴山が暗唱するシーンから始まります。オープニングで、相撲は際物でも、単なるスポーツでもないということをきちんと明示しているのです。
そして、端々に穴山と青木の“相撲ガイド”を交えながら、全く相撲に興味がなかった秋平が、相撲に対して本気になっていく姿を描いていきます。演じる俳優たちの取り組みが段々と様になっていき、まわし姿がかっこ良く見えてきます。
監督の周防正行は、『ファンシイダンス』(89)の修行僧、『Shall we ダンス?』(96)の社交ダンスなど、ハウツー物を得意としていますが、この映画では相撲の仕組みや魅力を分かりやすく説明しています。もちろんクライマックスは部の生き残りを懸けた大学対抗のリーグ戦ですが、結果は見てのお楽しみ。一種の“スポ根”物なのに見た後にはさわやかな印象が残ります。
幸せっていうのは…
幅広い年代の生徒が集まる、東京・下町の夜間中学を舞台にした群像劇。労働と教育というテーマは、山田洋次監督が1970年代からこだわってきた題材です。『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』(80)にも夜間高校の授業風景が印象的に登場します。
この映画のクライマックスは、クラスの一員だったイノさん(田中邦衛)の死をきっかけに、「幸せとは何か」「人はなぜ学ぶのか」を教師(西田敏行)と生徒たちが語り合う授業のシーンです。
笑いあり涙ありの回想を挿入しながら、見事なディスカッションドラマが展開されます。そして、和夫(萩原聖人)が「幸福とは…、ああ、生きてえなあとか、生きてて良かったなあとか、そういうこと。でもよく分かんねえ」と語ると、それを受けて江利子(中江有里)が「それを分かるために勉強するんじゃない。それが勉強なんじゃない」と語ります。
これは『男はつらいよ 寅次郎物語』(87)で、甥の満男(吉岡秀隆)に「人間は何のために生きてるのかな」と聞かれた寅次郎(渥美清)が「あ-生まれて来て良かったなって思うことが何べんかあるだろう、そのために人間生きてんじゃねえのか」と答えるシーンとも通じます。
山田監督は自作の中で常に幸せとは何かを問い掛けています。冨田勲がこの映画のために作曲したテーマ曲のタイトルもズバリ「幸せっていうのは…」です。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
事件の背景や人間模様をじっくりと描いた
『64-ロクヨン-前編』
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1048797
『陽のあたる教室』(95)
音楽を媒介とした心の交流
1960年代から現代まで、音楽教師ホランズ(リチャード・ドレイファス)の半生を編年体で描きます。原題は「ホランズ氏の作品」。その作品とは生徒たちのことです。生活のために教師となり、音楽家になる夢を捨てた自分は人生の敗者だと思っていた男が、教師として多くの生徒に影響を与えた人生の勝者だったというのが大きなテーマです。監督のスティーブン・ヘレクは、よく似たテーマを描いたフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』(46)を参考にしたと語っています。
主人公が音楽教師ということで、もちろん授業ではバッハ、ベートーベンといったクラシックが流れます。また、ホランズは、クラリネットが苦手な女生徒のためにアッカー・ビルクの「白い渚のブルース」を教え、耳の不自由な息子のために手話を交えながらジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」を歌ったりもします。
ほかにもジョージ・ガーシュインの「アイ・ガット・リズム」やジャクソン・ブラウンの「プリテンダー」などが登場します。そして最後は、定年を迎えたホランズを送るために、生徒たちが一同に会して彼が作曲した交響曲を演奏するのです。音楽を媒介とした教師と生徒の心の交流が心地良く展開していきます。ヒット曲を使って時代の変化を表すという手法は、同時代の『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)とも共通するものです。
アメリカのテレビ界を揺さぶった実話を映画化
1950年代後半のアメリカのテレビ界を揺さぶった実話をロバート・レッドフォード監督が映画化しました。そのスキャンダルとは…。
NBCの人気クイズ番組「21」は、風采の上がらぬチャンピオン(ジョン・タートゥーロ)に代わって、ハンサムな大学教授(レイフ・ファインズ)をスターにするため、あらかじめ問題と解答を彼に知らせていたのです。
レッドフォード監督は、クイズ番組のやらせの実態をサスペンスフルに暴きながら、テレビが大衆を飲み込み始めた時代を見事に再現しています。そこには、テレビというメディアの持つゆがみや階層による差別なども描き込まれています。
また、当時のヒット曲「マック・ザ・ナイフ」の使い方も印象に残ります。オープニングでは軽快なリズムのものが流れ、何か楽しいことが起きるという期待感をあおりますが、全てが明るみに出たラストではスローなリズムに変調され、祭りが終わった後のような空しさを感じさせます。とてもうまい使い方です。
結局、この後もテレビは勝ち続け、クイズ番組も生き続けましたが、過去の事件を掘り起こし、今の時代にも通じる普遍的な問題として描いたところにアメリカ映画の本領が発揮されているのです。