田中雄二の「映画の王様」

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ウォルフガング・ペーターゼンの映画『U・ボート』

2022-08-17 23:00:23 | 映画いろいろ

『U・ボート』(81)(1982.1.13.東洋現像所・技術検討試写会)

 またドイツがすごい映画を作った。最近、『マリア・ブラウンの結婚』(78)『ブリキの太鼓』(79)など、ドイツならではの、戦争の傷や痛みを感じさせる映画が作られているが、この映画も、第二次大戦に敗れ、ナチスという悪霊から解き放たれるために、いまだに必死にもがいているドイツにしか作れない映画だと感じた。

 同じく第二次大戦の敗戦国でありながら、日本で作られる戦争映画とは、残念ながら一味も二味も違う。同じような傷を持ちながら、この違いは一体どこから生じるのだろう。

 もし、この映画のような題材を日本で映画化しても、恐らくラストのどんでん返しは出てこないだろう。すると、潜水艦の乗組員たちの苦労を描くのにとどまり、チームプレーを描いたスポーツ映画を見せられたような気分になるかもしれない。

 それに引き換え、この映画はすごい。Uボート内を中心に見せる構成のうまさ、狭いUボート内をハンディカメラで追っていくスピード感、英国軍の駆逐艦と繰り広げる戦闘シーンのすさまじさ、極限状態に追い込まれていく乗組員たちの人物描写…。スタッフもキャストもほとんど無名の人たちなのに、よくぞここまで作ったものである。

 特に、人物描写では“男の姿”が見事に描かれていた。艦長(ユルゲン・プロホノフ)、機関長、乗組員たちが、みんな男そのものなのである。それは、魚雷を受け、海底に沈んだ艦を、乗組員たちの必死の作業で浮上させるシーンに象徴される。その時、艦長がつぶやく「俺はいい部下を持った」という一言には、男同士の信頼に対する矜持が込められていると感じた。

 そして、母港への帰還となるのだが、このまま終わったのでは、Uボートの動静だけを見たような気分になって、戦争映画としての印象は薄くなるのではと、ちょっと心配になってきた。

 ところが、ラストに驚くばかりのシーンが用意されていた。帰還したUボートを迎え、喜ぶ人々が、一転して、空襲に見舞われるのである。一瞬にして歓喜が恐怖に変わるのだ。まさにこれこそが戦争の実態なのだろうと思わされる。

 次々と倒れていく乗組員たち、沈むUボートを見ながら、では、艦を浮上させるための、あの必死の作業は一体何だったのだ、結局報われなかったではないか、という怒りが湧いてくる。

 このラストシーンの衝撃が、この映画をただの戦争映画とは全く別物にしたと言っても過言ではない。このように、戦争を描く場合は、見る者に怒りを覚えさせるほどのすさまじさが、不可欠であってほしいと願う。戦争を知らない世代の一人として。

 そんなこの映画のラストシーンを見ながら、ふと『八甲田山』(77)のことを思い出した。なぜなら、あの映画も、雪中行軍という難事から奇跡の生還を遂げた軍人たちが、直後の日露戦争で全員戦死したという、やるせないテロップとともに終わったからである。

 あの時も、彼らが必死に行った雪中行軍とは一体何だったのか、という怒りが湧いた。その怒りとは、引いては戦争という理不尽で無慈悲なものに対する怒りにもつながるものだろう。

【今の一言】この時の無名の監督こそが、ウォルフガング・ペーターゼンだったのである。


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