独立プロの勃興を描いたドキュメンタリー
タイトルの薩チャンは山本薩夫、正ちゃんは今井正のこと。二人は東宝を追われ、1950年代に独立プロを起こし、監督として数々の映画を製作した。本作は、この二人を中心に、新藤兼人、家城巳代治、亀井文夫、吉村公三郎なども加えて、当時を知る関係者にインタビューし、独立プロの勃興を描いたドキュメンタリー。
『真空地帯』(52)『荷車の歌』(59)(山本)、『にごりえ』(53)『真昼の暗黒』(56)『キクとイサム』(59)(今井)、『裸の島』(60)(新藤)『雲ながるる果てに』(53)(家城)などの名場面もたっぷり見られる。
山本や今井の映画には、共産主義、労働運動、平和運動、民主運動への共感と啓蒙、あるいは反権力という思想が根本に流れていたが、作られた映画は皆力強く、鋭く時代を捉え、社会問題を提起した。そして主義や思想云々は別にして、一本の映画として見ても見応えのある良作が多かった。
後に、山本は大映、今井は東映を中心に“大手”に返り咲いて映画を撮ったが、それは、もともと彼らには職人監督としての優れた資質があり、どんなテーマを描いても一流の映画として仕上げる腕を持っていたからこそ可能だったのだ。
本作は、女性プロデューサーの宮古とく子などから、貴重で面白い証言も得ているのだが、全体的には、彼らの業績をただ羅列しただけの平板な印象を受けるのが残念。彼らの暗部や屈折も含めてもう少し構成を工夫すれば、新藤の『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』(75)のような広がりを持ち得たかもしれない。
この映画に出てくる映画が見たくなるのは、本編が持つ“映画力”に圧倒されるからに他ならない。
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