1993.2.16.『オフ・ザ・グランド』(ポール・マッカートニー)
90年のワールドツアーは、ポールと俺たちファンにとっては、今までつきまとっていた、ビートルズとしての、ウィングスとしての、ソロとしての、といった“区分け”を突き破って、一本の太い線でつながったトータルとしてのポール・マッカートニーの存在を確認するためのものだった気がする。
思えば、ポールがここにたどり着くまでには、ビートルズの解散というトラウマから20年、ジョンの死から10年という歳月が、その解放には必要だったのだし、俺たちにファンにしても、その間、彼を見限りかけたことがあったのも否めない。何しろ20年は長い。
だが、その長い模索の時代を越えてしまえば、過去の自分を認めてしまえば、もう何も怖いものはない。後は、自らの演奏者としての、メロディメーカーとしての天賦の才を素直に発揮すればいいのだと、きっとポールは気付いたのだ。
そんなさまざまなものを超越した、自信にあふれた結果がこのアルバムだという気がした。聴きながら無性にうれしくなったり、楽しくなったり、感動したりもする、そんなアルバムなのだ。
相変わらず軽快でリズミカルなマッカートニー節でありながら、新しさも感じさせる「オフ・ザ・グランド」「ホープ・オブ・デリバランス」「ピース・インザ・ネイバーフッド」という流れ。『プレス・トゥ・プレイ』(86)あたりから目立ち始めた硬質なバラードの結晶の一つである「ゴールデン・アース・ガール」「ワインダーク・オープン・シー」。そしてラストを飾る、ポール流の「ギブ・ピース・ア・チャンス」か「イマジン」とも呼ぶべき「カモン・ピープル」…。
ツアーから引き継がれたバンドのメンバーとのチームワークの良さやエルビス・コステロの存在も含めて、前作『フラワー・イン・ザ・ダート』(89)に勝るとも劣らない傑作に仕上がっている。唯一の欠点は意味不明のジャケットか。
つまり、驚くべきことにポールは、50歳を超えて、ロックミュージシャンとして最も落ち着いた幸福な絶頂期を自ら作り上げたのだ。これはかつて例のないことであり、ロック=夭折という定義?を見事に払拭してくれたとも言えるのだ。やはりただ者ではなかった。すごい男だ。ファンであり続けてきて本当によかった。
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