落語家の伝記映画というのもある。
沢島忠監督の『おかしな奴』(63)では、渥美清が「歌笑純情詩集」で人気を得た三遊亭歌笑を演じている。歌笑は交通事故で亡くなるのだが、同年の『拝啓天皇陛下様』で渥美が演じた落語の世界にいるような主人公ヤマショーも交通事故で亡くなるという結末だった。
マキノ雅弘監督の『色ごと師春団治』(65)では、藤山寛美が桂春団治を演じている。春団治といえば、「芸のためなら女房も泣かす」の一節が有名な「浪花恋しぐれ」でも歌われたが、その女房役は南田洋子。ええ味出してました。どちらも、おもしろうてやがて悲しき物語だった。
架空の落語家を主人公にした映画としては、森田芳光監督の『の・ようなもの』(81)が筆頭。若い頃、主人公の志ん魚(しんとと)を演じた伊藤克信に似ているとよく言われた。
志ん魚の師匠役は本物の入船亭扇橋。志ん魚が、「人形焼の匂いのない仲見世は寂しい、思い出の花屋敷に足は向く。シントトシントト…」といった具合に、目の前の風景や地名をネタに描写していく「道中づけ」を行うシーンがなんともいい。
津川雅彦がマキノ雅彦名義で監督した『寝ずの番』(06)では、兄の長門裕之、中井貴一らが落語家を演じた。津川はミムラと共演した中原俊監督の『落語娘』(08)では談志のような落語家を演じている。
平山秀幸監督の『しゃべれどもしゃべれども』(07)では、国分太一が古典大好きの二つ目、今昔亭三つ葉を。師匠役は伊東四朗。
深川栄洋監督の『トワイライトささらさや』(14)では大泉洋と小松政夫が師弟役。弟子の霊が師匠に乗り移る、つまり小松が大泉を演じるという愉快なシーンがある。そのほか、ピエール瀧が落語家に扮した林家しん平監督の『落語物語』(11)も。
また、外伝として、春風亭柳昇が自らの従軍体験を記した原作を、フランキー堺の主演で映画化した『与太郎戦記』(69)、同じく高島忠夫主演の『陸軍落語兵』(71)もある。昔の落語家は文章も達者だったのだ。
最後に、江戸時代の貧乏長屋を舞台にした黒澤明の『どん底』(57)に伝わる逸話を。黒澤は撮影前に長屋の雰囲気を知らせるために、古今亭志ん生を撮影所に招いてスタッフ、キャストの前で一席語ってもらったという。
で、その志ん生が落語家役で出演した『銀座カンカン娘』(49)をテレビで見たら、彼だけが別の空間にいるような、何とも不思議な存在感を醸し出していたのに驚いた。
蛇足
東銀座の東劇でたまに「シネマ落語」をやっています。
「違いのわかる映画館 東劇」はこちら↓
http://season.enjoytokyo.jp/cinema/vol20.html
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