田中雄二の「映画の王様」

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『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』

2016-07-07 08:00:11 | 映画いろいろ

『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(85)(1986.1.22.イイノホール)

マイケル・チミノは損をしている

 ニューヨークのチャイナタウンを舞台に、勢力の拡大を狙うチャイニーズ・マフィアの若きボス(ジョン・ローン)と、ベトナム戦争の体験から黄色人種に憎悪を抱く一匹狼の刑事(ミッキー・ローク)の戦いを描く。

 マイケル・チミノは損をしている。若いうちに『ディア・ハンター』(78)などというとてつもない映画を撮ってしまったおかげで。見る側はさらにその上を求めてしまうからだ。

 とは言え、この映画の出来はそれほど悪くはない。前作『天国の門』(80)に比べれば飽きずに見られるし、激しいバイオレンスシーンや、チャイナタウンの祭りなどに見られるお得意の群衆シーンも見事である。

 また『ディア・ハンター』『天国の門』とこの映画を、チミノの“エスニック(少数民族)三部作”として捉えれば、なぜ今回は中国系、ポーランド系のエスニックを主役に据えたのかも納得できる。さらにベトナム戦争へのこだわりもデビュー作の『サンダーボルト』(74)から貫かれている。このあたりは、チミノの一貫性が感じられて思わずうれしくなる。

 と言う訳で、この映画から“チミノ復活”を感じなくもないのだが、前作『天国の門』で露呈されてしまったストーリーテラーとしてのまずさは解消されてはいなかった。

 アリアーヌを交えてのいつもの三角関係はまだしも、対立する二人の主人公の関係が描き切れていないのに反して、ラストに二人の決闘を持ってきたところには少々無理があった気がする。もっともそうしたまずさをもろともせず、映像の力で見せ切ってしまうところがチミノの面目躍如なのだが。

 ただ、見る側には『ディア・ハンター』のチミノのイメージが強過ぎるから、ちょっとやそっとの映画では満足できないのだ。やはりマイケル・チミノは損をしている。

 後記:この映画は『ディア・ハンター』に続いて、今は亡き年上の“映画の友”と一緒に見た。彼はカメラマンだったので「アリアーヌの部屋のインテリアが素晴らしかったね」とビジュアル的な印象も語ったが、無類のチミノファンでもあったので、「みんなチミノがどうすれば満足するんだろう。彼に多くを求め過ぎなんじゃないかな」と言っていたことを懐かしく思い出した。


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