田中雄二の「映画の王様」

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『悪い奴ほどよく眠る』

2018-03-13 09:45:24 | 映画いろいろ
 森友学園問題のニュースを見ながら思い出したのが黒澤明監督の『悪い奴ほどよく眠る』(60)だった。1981年の元日にテレビで見た際のメモが残っていた。



 全く黒澤明という人は何という人なんだ。よくもまあ、こんなに腹立たしい、後味の悪い、すごい映画を作ったものだ。官僚制度が生み出す歪みや、官僚の無責任さなどは、『生きる』(52)でも鋭く描いていたが、この映画では、さらに醜く、どぎつく、救いようのないほど徹底的にその嫌らしさを描いている。

 公団汚職にまつわる悪を告発しようとする主人公の西(三船敏郎)と自分の身を守る事しか考えない汚職者たち(森雅之、志村喬、西村晃ら)のすさまじい攻防の中に、西(実は板倉)の悲劇の復讐劇、板倉(実は西・加藤武)との友情、和田(藤原釜足)の下っ端役人であるが故の弱さや上司への忠節、岩淵(森)をはじめとする上層部の悪らつぶり、佳子(香川京子)と辰也(三橋達也)の兄弟愛、西と佳子の夫婦愛といったさまざまなドラマを描き込みながら、上級官僚たちの恐ろしく憎たらしい姿を浮き彫りにし、あと一歩で敗れる西の姿を対照的に見せながら、「これでいいのか!」という叫びで締めくくる。

 実際、われわれは和田のような事なかれ主義で生きている場合が多く、西のように真っ向から悪に立ち向かおうとはしない。たとえ立ち向かっても西のようにやられてしまうのが目に見えているから、「これでいいのか!」と感じながらも、誰もそうしようとは思わないのだ。この映画は、そんなわれわれの弱点を見事に批判している。悪が勝つというところに黒澤たちのメッセージがあるのだろうが、それにしてもあのラストシーンはあまりにも腹立たしい。佐藤勝の音楽が効果的で見事。又もや黒澤映画の脇役の層の厚さに感嘆した。

 あの頃と何も変わっていない…。

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