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リマインドと想起の不一致(14)

2016年02月27日 | リマインドと想起の不一致
リマインドと想起の不一致(14)

 ぼくは早起きして、試験会場でもある高校に向かった。この三年間の総決算でもある。

 受かればぼくはここに通うのだ。失敗は許されない。

 しかし、ここしか受けていないのだ。頭数をそろえるために確約に近いものがあるのだろうが、本人の不安が完全に一掃されるわけでもない。ぼくは願書を出す際に道に迷ったが、今回はその失敗もない。

 ぼくはひじりのことを頭から追い払う。できない相談でもない。ひとの頭は複雑だ。一つのことばかりに集中することができない。ぼくはいまはテストの問題をクリアすることに専念している。学んだことを思い出して、さらに答案に見合ったものに応用する。夏のあの日に覚え込んだことと同じだと思い出す。ひじりのこころはあの時、誰のことを思っていたのだろう。

 次の科目になる。なかなか順調にすすんでいた。ぼくは友人たちのことを考えている。全員、合格してほしいと願いながらも、その望みは充たされないことも知っていた。今日は私立校の受験日だ。公立はまだ先だ。両方に受かった場合はどうするのだろう? 両方が二位や三位の希望校なら、どのような妥協を見せるのだろう。

 ぼくはひじり以外に告白されたことはない。もし、順番が違っていたら、他の誰かと交際をはじめていたのだろうか。成っていない日々を想像しても答えはでないが、この幸せを別の女性が与えてくれるとは思えなかった。

 すべての科目が終わる。二月の空気は冷たい。それでも解放にともなう安堵感が冷気に耐えることをことのほか喜んでいた。

 ぼくは電車に乗る。前の座席に小さな女の子が母親とすわっていた。どことなくひじりと容貌が似ていた。彼女のあの年頃は、どういう性格だったのだろう。シャイを克服する少女もいて、サイズが変わっただけでまったく同じ性格を毎年、更新するひともいる。女の子はなぜか急にぼくに手をふる。ぼくは離れた場所で、ひじりがしてくれた行動が乗り移ったようにも感じていた。

 駅に着く。そのまま家に向かった。疲れたのか夕飯前にねむってしまった。

 目が覚める。高校生に夢のなかでなっていた。ひじりの新しい制服姿に会った。ぼくらは会う範囲、出歩く地域を拡げる。彼女が好きになった場所を教えてもらい、ぼくが見つけた新しい場所に彼女を連れて行く。

 未来はどうやら訪れていないからこそ美しいのだった。


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