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リマインドと想起の不一致(3)

2016年02月14日 | リマインドと想起の不一致
リマインドと想起の不一致(3)

 手紙。

 用事などを書いて他人に送る文書。意味を調べれば回答はいたって味気ないものだ。そこに感激や一喜一憂は微塵もない。悲嘆も衝撃もない。

 ぼくは短い内容が書かれた手紙をもらう。

「さなえから聞きましたが、わたしのことが好きだというのは、本当でしょうか? 冗談でしょうか? もし、本当ならば、うれしかったので。とても、うれしくなると思うので」

 さなえというのは、ひじりの親友だった。ぼくは、なぜ自分の気持ちを告げる気になったのか覚えていない。ただ、絶対的に彼女の耳に入るのは覚悟していた。空振りになっても困ることはない。小さな面子だけが汚されるだけだ。別に誰かを裏切ったとか、不正行為をしたという最低な行動に属するものでもない。フラれるというのは、どこかで通る道なのだ。七五三の小さな衣装のように。普通の男性ならば避けて通ることもできないし、経験する回数も皆無ではいられない。結局は、早いか遅いかだけだ。しかし、結果として、ぼくには先延ばしになってくれるようだ。

 ぼくは電話をする。手紙という悠長な時間を抹殺する。電話のダイヤルを回して、待っている間に、この手紙こそ冗談であり、ぼくをからかうだけのために、はしごを引き抜く楽しみによって仕組まれたプロットという可能性も捨て切れないことに気付く。さなえとひじりは、ぼくが本気にしたという点で笑うのだ。ぼくは急に小さな面子を一気にふくらませる。すると、彼女自身が電話口に出た。



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