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リマインドと想起の不一致(17)

2016年03月03日 | リマインドと想起の不一致
リマインドと想起の不一致(17)

 ぼくは、ぼく自身である受験票の数字を手にして、一致する番号を掲示板に見つける。将来の運命を預けるのはここになった。

 ぼくは多少の歓喜を感じている。ドイツの作曲家のよろこびの歌ほどではないが。なれない道筋を駅まで歩く。またもや切符を買ったが、今後ははじめての定期を購入することになるのだろう。学生割引という中間のものだが。

 途中で電話で家に報告した。その足で学校に戻った。ひじりも自分の学校に結果を見に行っているはずだ。合格というメダルを手に入れられたのだろうか。

 友人たちにも合否を訊かれる。彼らの半分と三年前に出会った。もっと長い期間を共にした友人もいる。どちらにしろ親しくなっていった。永続性を確かに感じながらも、新たな友人をこれから離れた場で見つけてしまうのだろう。幸福か不幸か判断も入り込ませずに。同年齢の、同じことをするものたちが、共通項の多さという単純な理由のため仲良くなるのだ。

 家に帰ると、ひじりから連絡があった。彼女も受かっていた。彼女にとってもぼくにとってもそれはうれしい事柄に違いないが、決定的に会う時間が減るという事実も意図せずに連れてきてしまうのだ。

「何か、記念になることをしないと」と彼女は言う。
「例えば?」
「そうだね」ひじりは思案をしている様子だ。「でも、何か考えて」と風向きを変えた。

 ぼくは電話を切り、風呂に入りながら記念になることという真っ当なプランを考えていた。

 ふたりで祝えるもの。記憶にのこるもの。あの日を当事者としてなつかしむことができるもの。ぼくは下半身が勝手に意志をもつことを知っていた。異性の身体はひじりでなくても、代用ですら興奮するきっかけになってしまうのだ。これはどういう風にプログラミングされている所為なのだろう。

 だが布団にくるまれて目のうら側に浮かんでくるのはひじりの姿だけだった。ぼくは試験から解放されたが、ひじりには捉われていた。彼女がよろこぶもの。そのことをテーマにして一日を作ってみたいと思う。

 滅多にないことだが、この日はなかなか寝付かれなかった。未来にすんなりと入るのは、子どものころに遊んだ空き地の土管をくぐり抜けるようなものかもしれなかった。身体を小さくして屈んで通過する。その際に荷物が多ければ通れないだろう。どうしても後に置いて来てしまわなければならないものも生まれる。なるべくなら捨てるものも少なくしたいのが人情だ。

 ぼくはその架空の映像を暗い中に投射させる。友人たちは数人だけしかのこらない。ひじりは絶対に必要だ。ぼくらはもう一段階、先きに進まなくてはならないだろう。関係を決定的にさせるもの。すると、またもやうずく。美しい恋の話として完結するつもりだったのに、生身というのは天上だけに住むことを認められないし、居場所をもっと汚すことも放棄できなかった。


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