竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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かたまるや散るや蛍の川の上 夏目漱石

2019-06-29 | 今日の季語


かたまるや散るや蛍の川の上 夏目漱石

少年時代、夏休みになると、近所のお姉さん(18歳くらいだった)に頼んで、よく野外映画会に連れていってもらった。往復二里の山道である。帰り道ではこの句のとおり、川の上には蛍が密集して光っていた。そんな情景のなか、お姉さんと僕は、互いに無言のままひたすら家路を急いだのだった。漱石がこの句を作ったのは明治29年。ちょうど百年前である。敗戦直後の山口県の田舎の蛍は、明治期の漱石が見た蛍と同じように、群れながら明滅していたというわけである。ということは、お姉さんと僕は、いつも黙って明治の夜道を歩いていたということにもなる……。長生きしている気分だ。『漱石俳句集』(岩波文庫・坪内稔典編)所収。(清水哲男)

【螢】 ほたる
◇「ほうたる」 ◇「源氏螢」 ◇「平家螢」 ◇「螢合戦」 ◇「螢火」 ◇「初螢」 ◇「恋螢」 ◇「朝螢」 ◇「昼螢」 ◇「夕螢」 ◇「雨螢」

ホタル科の甲虫類。普通見るのは源氏蛍や平家蛍。両種類とも、雄、雌、蛹、幼虫、そして卵も光る。蛍の名所を名前にして、宇治蛍、石山蛍などと呼ばれることもある。初夏の闇夜に青白く妖しい光を放ちながら飛んでいる蛍は、夏を代表する風景の1つであろう。

例句 作者

死蛍夜はうつくしく晴れわたり 宇多喜代子
蛍火に闇の息づく百戸村 沼沢破風
じやんけんで負けて蛍に生まれたの 池田澄子
蛍に足裏の冷えて寝ねにけり 岡田詩音
手囲ひの蛍放してふたりかな 高畑信子
蛍火の寺にあらたな闇育つ 石 寒太
ほうたるの行方は琴座あたりかな 阿波岐 滋
原子炉を見たる一夜の蛍かな 橋本榮治
舞妓の髪匂ふ貴船のほたる川 千谷頼子
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