青田中信濃の踏切唄ふごとし 大串 章
自註に、こうある。「昭和三十八年作。初めて信州に旅をした。大空のかがやき。青田のひかり。信州の緑の中で聞く踏切の音は都会のそれとは全く異なっていた」。先日私が新幹線から見た青田も美しかったが、新幹線に踏切はない。青田中から新幹線の姿を叙情的にうたうとすれば、どんな句になるのだろうか。『自註現代俳句シリーズ7・大串章集』所収。(清水哲男)
【青田】 あおた(アヲタ)
◇「青田面」(あおたも) ◇「青田風」 ◇「青田波」 ◇「青田道」
苗を植えてまもない田を「植田」というのに対して稲が生育して一面青々とした田を「青田」という。植田が青一色になる頃は土用の日差しも強く、青田を吹き行く風(「青田風」)になびく稲は波のように揺れ(「青田波」)、見るからに爽快である。《植田:夏》
例句 作者
青田道来て礼拝の顔揃ふ 谷島 菊
自転車が占む青田道青田駅 小黒黎子
青田青し父帰るかと瞠るとき 津田清子
ていれぎの水流れ入る青田かな 森薫花壇
鉄塔の四肢ふんばつて青田中 久田岩魚
日本海青田千枚の裾あらふ 能村登四郎
青田より青田へ飛騨の水落す 島田妙子