
島を出し船にしばらく青嵐 片山由美子
船と陸との距離が明解。その距離がしだいにひろがる。その時間が「しばらく」だ。ここには時間と距離が詰まっている。空間構成が中心に据えられていて情緒に凭れない。知をもって空間を捉える山口誓子に発した伝統が鷹羽狩行を経由して着実にこの作者に受け継がれていることがわかる。こういう方法に今の流行は抵触しない。しかし、それは俳句の伝統的な要件を踏まえた上でクールな時代的感性を生かした現代の写生である。『季語別・片山由美子句集』(2003)所収。(今井 聖)
【青嵐】 あおあらし(アヲ・・)
◇「風青し」 ◇「青嵐」(せいらん)
初夏の青葉のころに吹きわたる爽やかなやや強い風のこと。「夏嵐」とも。概ね南寄りの風である。「せいらん」とも読むが「晴嵐」と紛らわしいので「あおあらし」と読まれることが多い。同じ南の風でも「南風」(みなみ・はえ)の方が生活に密着した語であると言える。
例句 作者
なぐさめも男は一語青あらし 山岸治子
両の手は翼のなごり青嵐 掛井広通
衛兵の見やる一点青嵐 斎藤佳代子
水神を祀れる巌青あらし 藤本安騎生
岡の上に馬ひかへたり青嵐 正岡子規
兵は征きて勲八等の青嵐 名和未知
威張りゐる妊婦あづかる青嵐 西岡晴子
青あらし天守に登る草履あり 前田普羅