竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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麦の穂を描きて白き団扇かな  後藤夜半

2019-05-25 | 今日の季語


麦の穂を描きて白き団扇かな  後藤夜半

季語は「団扇(うちわ)」で夏。真っ白な地に,すっと一本か二本の「麦の穂」が淡く描いてある。水彩画タッチか、あるいは墨一色の絵かもしれない。いずれにしても、いかにも涼しそうな絵柄の団扇だ。その素朴な絵柄によって,ますます背景の白地が白く見えると言うのである。作者、お気に入りの団扇なのだろう。この句に目が止まったのは,私がいま使っている団扇のあまりに暑苦しい図柄の反動による。街頭で宣伝物として配られていたのをもらってきたのだから、あまり文句も言えないのだが,それにしてもひどすぎる。まずは、色調。パッと見て,目に飛び込んでくる色は、赤色,橙色,黄色だ。これって、みんな暖色って言うんじゃなかったっけ。「うへえっ」と図柄をよく見ると,どうやら夏祭りを描いているらしい。それは結構としても,最上部の太陽からは、幼稚園児の絵のように,太い橙色の光線が地上を照らしている。その地上には祭りの屋台が二軒出ていて、これがなんと「たいやき屋」と「たこやき屋」なのである。普通の感覚なら,氷屋なんかを出しそうなところに,選りに選って汗が吹き出る店が二軒も、左右にぱーんと大きく描かれているのだ。そして、客のつもりなのだろう。店の前には、ムーミンもどきの黄色と緑色の大きなお化け状の人物(?!)が二人……。そして絵のあちこちには、めらめらと燃え上がる真っ赤な炎みたいなものも配されていて,もうここまでやられると、力なく笑ってしまうしかないデザインである。あきれ果ててはいるのだけれど、でも時々,どういうつもりなのかと眺め入ってしまうのだから、宣伝物としては成功しているのかもしれない。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)

【団扇】 うちわ(・・ハ)
◇「白団扇」 ◇「絵団扇」 ◇「古団扇」 ◇「渋団扇」
扇が外出用なら、団扇は主として家の内に居て寛いで涼を取る時に使うという様に、庶民的な感じが強い。楕円形の他、方形や円形のものもあり、千葉・岐阜・京都・丸亀など産地も多い。

例句 作者

母親に夏やせかくす団扇かな 正岡子規
手にとりてかろき団扇や京泊 有働 亨
筆筒に団扇さしたる机かな 河東碧梧桐
修驗者の嶺暮れてくる團扇かな 福島壺春
いつよりを晩年といふ渋団扇 有馬朗人
戦争と畳の上の団扇かな 三橋敏雄

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