籐椅子と成りおほせたる家人なり 鈴木章和
成りおほせたると言っているが、家人すなわち妻が亡くなられたわけではなさそうだ。籐椅子になってしまう妻にはユーモアが漂うからだ。なぜ籐椅子になったのか。それはいつも籐椅子に横たわっていたために妻の体が籐椅子と一体化してしまったのだ。いつもビールを飲んでいるためにビヤ樽になってしまった夫と家事を怠けて籐椅子になってしまった妻。その横を豚児(とんじ)すなわち豚になってしまった愚かな息子が通る。謙譲の表現は面白い。『夏の庭』(2007)所収。(今井 聖)
籐椅子】 とういす
◇「籐寝椅子」(とうねいす)
籐の茎などで編まれた椅子で、専ら夏に用いられる。仰臥出来るように大型に作られたものを籐寝椅子という。
例句 作者
木曽川の音の中なり籐の椅子 長谷川 櫂
籐椅子のヌードモデルのガウンかな 浅井陽子
籐椅子に夜を大事にしてをりし 嶋田一歩
籘椅子や一日かならず夕べあり 井沢正江
竹籟を聴くまどろみや藤寝椅子 渡部抱朴子
週末は虹を門とす藤寝椅子 中島斌雄