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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

玉川上水の植生状態と鳥類群集 考察

2022-12-20 09:45:38 | 研究
論 議
鳥類群集と生息地の植生
都市鳥類と緑地の関係については多くの研究があり,緑地面積やその構造が鳥類群集の種数や個体数に影響を与えることが示された(樋口ら 1985,加藤 1996など)。本研究はこれらを参考にしつつ,東京に残された貴重な緑地帯である玉川上水の植生状態が大きく異なる4カ所を選んで,植生状態と鳥類群集との対応関係を明らかにすることを目的とした。
調査した4カ所の人口密度と緑地率を比較すると,おおむね西から東に向けていわゆる「都市化」が進んでいるから,人口密度が高くなり,緑地率は杉並以外は30%前後で杉並が21.8%と低いことがわかる(付表4)。つまり自然度が「西高東低」となっている。しかしその全体傾向とは違い,玉川上水沿いの樹林はさまざまな理由によりこの「西高東低」になっていない。西にあるのに樹林が貧弱であったのが小金井で,サクラ以外の樹木が皆伐されたために多様度が極端に低く,樹高も低く,低木層の被度も4カ所中最も小さかった。逆に東にあるのに樹林が豊かであったのは三鷹で,ここでは玉川上水が面積の広い井の頭公園を通過するので樹林は連続的である。
このような樹林帯の違いは鳥類群集に強い影響を与えていた。最も特徴的なのは鳥類の個体数とその内訳であった(図9)。樹林帯が豊かな小平と三鷹では鳥類の種数と個体数が多く,内訳は樹林型,非都市型,都市樹林型など森林性の種が多かったが,樹林幅の狭い杉並では個体数が少なく,都市オープン型の割合が大きかった。そして樹林が貧弱な小金井では鳥類の個体数が最も少なく,内訳では都市オープン型が多かった。つまり樹林が貧弱であると森林性の鳥類が少なくなる可能性が示唆された。
個別に検討すると,三鷹の井の頭公園の部分は玉川上水沿いの樹林帯を包み込むように樹林が続いており(図4),植被率も60%と4カ所中最も大きかった(表1)。鳥類の個体数が玉川上水沿いの樹林内と樹林外のどちらでも多かったことはこのことと対応する(図8)。
小平では多くの樹林調査の測定項目の数値も三鷹についで2位であった(表1)。小平に特徴的だったのは,鳥類個体数が玉川上水沿いの樹林の内側では4カ所中最多であったのに対して,外側では最少であり,両者の違いが著しかったことである(図8)。このことは,小平では樹林帯が広く,鳥類の生息に適しているが,その外側の多くは住宅地であるために鳥類の生息には不適であるためだと考えられる。
このことは繁殖期と越冬期においても基本的に同様であったが,繁殖期は小平と三鷹でほぼ同様であったのに対して,越冬期には小平が目立って個体数が多かった(図10)。その理由は不明だが,以下のような可能性がある。冬季はカラ類などが混群を形成し,葉を落とした落葉樹林で採餌したり,猛禽類やカラス類から逃れようとして常緑樹林や宅地の庭の緑に逃げ込むのがみられる。このことが小平と三鷹の井の頭公園の植生の状態と関連する可能性がある。小平では玉川上水沿いの樹林帯の幅が広く(表2),低木類も多いのでカラ類の混群がよく見られると同時に,玉川上水に隣接する津田塾大学にシラカシ林があるので(図4A),ヒヨドリやカラ類の混群が集中し,センサス時にもここで多くの鳥類が記録された。これに比較すると井の頭公園では玉川上水沿いの樹林は公園の樹林と連続し(図4C),常緑樹が分散するため小平のように混群が玉川上水の樹林帯に集中することが少ない。ここでも混群は観察されるが,上水内は見通しがきかない中低木の常緑樹があるため,センサス時には発見しにくく、記録されなかった可能性は否定できない。
杉並では三鷹,小平に比較すると鳥類が乏しかったが(表2),これは玉川上水沿いの樹林帯の幅が狭く(表1),しかも両側に大型道路が走っており,周辺に緑地が少ないこと(図4)にも関係していると考えられる。
小金井は鳥類が最も貧弱であった。種数は4カ所中で最少の19種で,最多の三鷹の29種より大幅に少なかった(表2)。しかもセンサスルートの距離は小金井のほうが三鷹(1.4 km)よりも長かった(1.6 km,表2)。ここの植生はサクラが散在するだけなので植被率も低く,樹高も低く(表1),鳥類の生息には適していない可能性がある。小金井のサクラは樹高の平均値が7.5 mであり,この結果は生息地の樹高が8 m未満になると鳥類の種数が少なくなるというMaeda (1998)の指摘を支持する。また低木層の植被率も小金井は19%と小さく(表1),加藤(1996)の低木層の被度が小さくなると鳥類の種数が少なくなるという指摘を支持する。小金井の場合は杉並と違い,周辺に広い緑地として小金井公園があるが,玉川上水とは離れており,その間に五日市街道があって隔離されている(図4)。そして玉川上水沿いの樹木としてはサクラしかなく,餌や隠れ場も少ないので,小金井公園にいる鳥類も玉川上水沿いの緑地はあまり利用しないのかもしれない。鳥類生息地の周辺の緑地の重要性は鵜川・加藤(2007),加藤・吉田(2011),加藤ら(2015)でも指摘されており,杉並で鳥類がかなり乏しかったことも,周辺の緑地が乏しかったこと(図4)を反映している可能性がある。
鳥類の多様度を場所間で比較すると,種数,個体数,タイプ分けほどの違いがなかった。多様度は種数と上位種の占有率によって決まる。樹木の多様度は,小平,三鷹,杉並では第1位の樹種の占有率が35-79%と比較的小さいために多様度指数は大きかったのに対して,小金井はサクラが99%を占めていたために多様度指数が極端に小さかった(図6A, B)。これに比較すれば,鳥類の多様度は小金井が最低ではあったが,他の場所よりも極端に小さいということはなかった(表2)。シャノン・ウィーナーの多様度指数は小金井が3.35で最大の三鷹の3.65と違いは小さく,シンプソン指数は小金井と小平で違いがなかった(いずれも0.875)。この理由は個体数が最多であった種の占有率が場所ごとに違いが小さかったためである。すなわち,小金井ではムクドリが21.0%,小平,三鷹,杉並はヒヨドリがそれぞれ20.4%, 18.0%, 19.1%であった。

鳥類群集の季節変化
調査した4カ所では鳥類の個体数はかなり大きな季節変化を示した(図7)。これを東京都の他の緑地での鳥類群集の調査と比較すると,赤坂御用地では本調査と同様に夏に鳥類群集の種数と多様度指数が減少した(濱尾ら 2005)。中でもヒヨドリは8, 9月には記録されなかったが11月に急増し,本調査と同様のパターンをとった。シジュウカラは5月に最多となった後減少し,本調査とおおむね同様なパターンをとった。メジロも6月に最多となり,9月に最少となった後回復するという本調査と同様のパターンをとった。皇居でも同様で,多様度指数は9月に最小となり,春と冬には大きかった(西海ら 2014)。そしてヒヨドリ,シジュウカラ,メジロは9月に最も少なくなった。このように本調査で得られた玉川上水での鳥類群集の季節変化は他の東京の緑地のものと基本的に同様であると考えられた。

緑道の連続性と生物多様性の視点
本調査は都市緑地における鳥類の種数や個体数の実態を樹林の状態との関係に着目して記述した。鳥類の種数と個体数が最も貧弱であった小金井地区は「史跡玉川上水整備活用計画」(東京都水道局 2009)により1.6 kmほどの範囲でサクラだけを残して他の樹木が皆伐された。ここでは文化財としての桜並木復活が優先されたが,本調査の結果は,このような樹林管理が鳥類にマイナスの影響を与える可能性を示した。この範囲周辺では桜並木のためにさらに伐採する可能性がある。しかし東京都が重視する生物多様性保全を考えれば,これ以上の伐採は再検討する必要があろう。
これまでにも玉川上水の植生管理において,住民の安全という面からサクラ類だけを残すと風害に遭いやすいなどの問題があることが指摘されたし(高槻 2020),保全活動のシーンでは樹種をとりあげて「サクラを残すか,ほかの樹木も残すか」という樹林管理についての議論がおこなわれてきた。これに対して,本調査は初めて生物多様性保全の視点にたち,樹林管理が鳥類群集に波及する可能性を示した。今後の都市緑地管理においては生物多様性保全の観点を取り入れ,樹林の状態と鳥類をはじめとする生息動物との関係にも配慮されることを期待したい。

付記
* 1:測定した樹木の測定部位に瘤などがあった場合はその直下で測定し,樹幹の断面が楕円形などに歪んでいる場合も周長を測定した。一部に上水の肩部に生えた樹木があり,危険なので,塩化ビニールパイプで作ったT字状の器具で,2方向から精度1 cmで直径を測定し,平均直径を求めた。予備調査によれば胸高周測定から求めた直径D1と,T字状器具で測定した直径D2では最大でも5%しか違いがなかった(n = 30)。
*2:樹林が一様である小平と小金井ではそれぞれ3カ所と4カ所をとったが,三鷹では井の頭公園の樹林が広がる場所とその下流の住宅地内の帯状区で違いがある可能性があったので6カ所とった。杉並も場所により道路との関係で帯状区の幅に変異があったので5カ所とった。
*3:玉川上水は掘削されたために水路の両側はほぼ垂直の壁面となっている。岸の肩部分の外側には歩道があり,安全のために柵が設置されている。この柵から壁面の「肩」の間に樹林帯があり,その幅は場所により違いがある。
*4:小平では大出水幹男がカウントをおこない,尾川直子が補足し,高槻成紀が記録をした。小金井では大石征夫が一人でカウントと記録をした。三鷹では鈴木浩克がカウントし,菊池香帆が記録をした。杉並では大塚惠子がカウントし,田中操,黒木由里子,高橋健が補足と記録をした。



玉川上水の植生状態と鳥類群集 結果

2022-12-20 09:44:26 | 研究
結果
1)樹林調査
A. 植被率と樹高
植被率と樹高の測定結果を表1に示した。調査範囲内の植被率は三鷹(60.6%)と小平(56.1%)が高く,杉並が40.3%でこれらに次ぎ,小金井が5.1%と極端に低かった(表1)。


玉川上水沿いの樹林帯での植被率は小金井以外は80%以上であったが,小金井だけが11.1%と極端に低かった。低木層の植被率は三鷹(61.9%),小平(47.7%),杉並(38.0%)の順で小さくなり,小金井が19.0%と大幅に小さかった。
樹高は三鷹と小平で15 m以上と高く,杉並がこれらに次ぎ,小金井は7.5 mと低かった。

B. 胸高断面積
各調査区で樹種ごとの胸高断面積の合計値を算出し,主要種をとり上げたところ場所ごとに違いが明瞭であった(図5)。


小平ではコナラQuercus serrata,クヌギQ. acutissima,イヌシデCarpinus tschonoskiiなどの落葉樹が多かった。小金井ではサクラ類Cerasus spp.だけで構成されており,合計値は16,000-20,000 cm2/100 m程度であった。三鷹では,20,000 cm2/100 mを超えた場所が2カ所あった。内訳は調査区ごとに多様で,ムクノキAphananthe asperaが多い調査区,シラカシQ. myrsinifoliaが多い調査区,ケヤキZelkova serrata,イヌシデが多い調査区があった。杉並で平均28,000 cm2/100 m前後で,45,000 cm2/100 mあった調査区もあった。ただし10,000cm2/100 m程度の調査区もあった。内訳はサクラ類が多い場所が3カ所,ヒノキChamaecyparis obtusaが多い場所が1カ所あったほか,エノキCeltis sinensis var. japonicaが多い調査区もあり,多様であった。

C. 樹林の多様度
4カ所の樹林の胸高断面積によるシャノン・ウィーナーの多様度指数H’を図6aに示した。指数はすべての樹木をもとにした指数1と,直径10 cm以上の樹木だけをもとにした指数2を算出した。これによると帯状区3,13,1など多様度指数2が指数1よりやや小さい場合があったものの大きな違いはなく,ほとんどの調査区では両者が連動していた(図6a)。


これらに対して小金井ではサクラ類しかなかったので,多様度指数は極めて小さかった。シンプソンの多様度指数Dも基本的に同じで,杉並に1カ所値の小さい帯状区があったものの,小平,三鷹,杉並では大きく,小金井だけが著しく小さかった(図6b)。



2) 鳥類群集
A. 鳥類群集の個体数,密度,多様度
表2には鳥類の個体数を示したが,この数字は各調査時での発見個体数を調査区の長さ1 kmに換算した数字を7回分合計したもので,個体数の多寡の指標とした。樹林帯の幅は小平が35 mと最も広く,小金井と三鷹が20 m,杉並が15 mで最も狭かった(表2)。



個体数は小平が最多の673.1羽で,三鷹がこれに近く(640.0羽),杉並が466.2羽と少なく,小金井が小平,三鷹の半分以下(283.4羽)であった(表2)。このことは樹林帯の幅が広いほど鳥類の個体数が多いことを示唆する。鳥類群集の多様度指数のうちシャノン・ウィーナーの多様度指数H’は三鷹(3.65),小平(3.44),杉並(3.43),小金井(3.35)の順で小さくなった。一方,シンプソンの多様度指数Dは三鷹(0.894)と杉並(0.891)が近く,小平(0.875)と小金井(0.873)がやや小さく接近していた。樹木の多様度では小金井だけが極端に指数値が小さかったのに比較すれば,鳥類の多様度指数は違いが小さく,小金井だけが目立って小さいということはなかった。
 これらの項目を繁殖期と越冬期で比較したところ,個体数は全ての場所で越冬期の方が多かった(表3)。


 これはヒヨドリのような漂鳥が夏には少なくなり,秋に戻ってくることなどによるものと考えられる。種数は小平では越冬期の方が2種少なく,そのほかではやや多かったものの,違いは小さかった。多様度は季節の違いはほとんどなかった。場所ごとには種数,個体数,多様度いずれも小平,三鷹,杉並,小金井の順で小さくなった。ただし多様度は小平と三鷹,杉並と小金井がほぼ同じであった。

B. 個体数の季節変化
 個体数の季節変化を見ると,最も多かった小平では1月から次第に少なくなり9月に最低値に達した後急増して12月に最大値となるV字型をとった(図7)。



 次に多かった三鷹ではほぼ同様のパターンをとったが12月は小平ほど多くはならなかった。杉並ではやや乱高下し,5月が最多で7月が最少だった。最も少なかった小金井ではほぼ常に最低値であった。その結果多くの月で小平,三鷹,杉並,小金井の順であったが,9月だけは4カ所の値が接近した。

C. 玉川上水沿いの樹林帯内外の鳥類
玉川上水沿い樹林帯の内側と外側で記録された鳥類数を図8に示した。樹林調査により鳥類の生息環境としての樹林の多様度は小平,三鷹,杉並,小金井の順に小さくなることがわかったので,図8ではこれに対応して鳥類の個体数の合計値をこの順に並べた。


 樹林帯の内側の個体数は小平が非常に高く,三鷹と杉並が半数程度で,小金井が最少であったが,外側は小平で少なく,三鷹は内側以上であった。杉並は内側の8割程度,小金井では内側とほぼ同じであった。なお,4カ所全体で樹林帯の内側と外側の個体数を比較すると(付表2),内側が多かったのはウグイスCettia diphone,エナガAegithalos caudatus,メジロZosterops japonicus,コゲラDendrocopos kizuki,シジュウカラParus minor,などであり,外部の方が多かったのはハシボソガラスCorvus corone,スズメPasser montanus ,ホンセイインコPsittacula krameria manillensisなどであった。ドバトColumba livia,ハシブトガラスCorvus macrorhynchosなどは内外の違いが小さかった。

D. 鳥類群集のタイプ分け
次に鳥類群集の内訳を鳥類の生息地利用のタイプによって類型別に比較した(図9)。


 各タイプで個体数の多かったのは次の通りである。樹林型:エナガなど,非都市型:ウグイスなど,都市樹林型:シジュウカラ,ハシブトガラス,メジロなど,都市オープン型:ムクドリ,スズメなど,ジェネラリスト:ヒヨドリ,キジバト,ハシボソガラスなど,その他:オオタカなど。
個体数が最多であった小平では都市樹林型が最も多く,ジェネラリストがこれに次いだ。三鷹もほぼ同じであったが,都市オープン型が小平よりやや少なく,樹林型がやや多かった。杉並では都市樹林型が三鷹の半分ほどで,ジェネラリストも少なかったが,都市オープン型は小平,三鷹の2倍以上と多かった。小金井では都市樹林型が杉並の半分以下になり,ジェネラリスも少なかったが,都市オープン型は杉並と同程度であった。杉並と小金井には樹林型はほとんどなかった。
 相対値では,小平と三鷹では都市樹林型が49%前後を占めたが,杉並では36%,小金井では23%と少なくなったのに対して,都市オープン型はこの順で12%,5%,26%,36%と多くなった。ジェネラリストはどこでも30%台であった。つまり樹林の幅が狭くなり,樹木の胸高断面積合計が小さくなり,種数が単純になるという樹林の貧弱化に伴い,鳥類の個体数は少なくなり,内訳は都市樹林型と樹林型は少なくなり,都市オープン型が多くなった。
以上は7回の調査の合計数であるが,繁殖期と越冬期では鳥類の生活の意味も違うので,繁殖期の5, 7月と,越冬期の1, 12月とを取り上げて図9と同様の比較をした(図10)。


繁殖期は通年の結果と似ており,小平と三鷹では都市樹林型が多く,杉並と三鷹で都市オープン型が多かった(図10A)。越冬期は小平が目立って多く,内訳を見ても都市樹林型が非常に多く,都市オープン型も多かった(図10B)。三鷹はこれら(都市樹林型と都市オープン型)は少なかったが,ジェネラリストはやや多く,相対値は過半数となった(図10B)。杉並では三鷹よりも都市オープン型が多かった。小金井では都市樹林型が非常に少なく,都市オープン型がこれを上回った。全体としては季節分けをしても通年と基本的には似ていたが,越冬期には小平で都市樹林型が目立って多いという点が違った。

玉川上水の植生状態と鳥類群集 方法

2022-12-20 09:44:03 | 研究
方法
調査地の概要
 玉川上水は江戸時代(1652年)に造成された水路である。多摩川の羽村で取水して東進し,もともとは四谷大木戸までの43 kmの長さがあったが,現在は杉並区までの30 kmが開渠で,それより下流は暗渠になっている。玉川上水は東京都が管理しており「史跡玉川上水保存管理計画」(東京都水道局2007)を土台とする「史跡玉川上水整備活用計画(東京都水道局2009)に基づいて管理されている。この計画は玉川上水が遺跡であることから現状維持を基本とするが,水路・法面の壁面の崩壊を抑止し,良好な状態で保存するとしている。また小金井においてはサクラ並木の保存を目的とし,サクラの樹勢が劣化してきたので,サクラ以外の樹木の抑制が必要であるとし,実際2020年までに1.6 kmほどの範囲でサクラ以外の樹木はほぼ皆伐された。
調査地とした場所は上流の西側から,小平市,小金井市,三鷹市,杉並区の4カ所で(図1),東側ほど都市化が進んでいる。




 玉川上水沿いの緑地は基本的に上水の両側に樹林帯があり,その外側は道路や宅地であって樹林がアーケード状となっているが,その状態はこれら4カ所で異なっている。小平では樹林帯幅が約35 mと広いため後述する鳥類のセンサスルート範囲の多くを占め,その外側には宅地が多いが,玉川上水に隣接する津田塾大学のキャンパスに樹齢100年前後のシラカシ林や小平市中央公園の樹林もあるほか,雑木林や農地もある(図2A, 図3A)。


 小金井では「史跡玉川上水整備活用計画」によって1.6 kmほどの範囲でサクラ以外の樹木は伐採され,樹林帯の幅は20 mほどしかなく,サクラが間隔をおいて植えられているので調査範囲に占める樹林(サクラ植林)の占める割合は小さく,上水部分には広いオープンスペースがある(図2B, 図3B)。周辺には小金井公園の広い緑地や屋敷林があるが,玉川上水は五日市街道と上水通りに挟まれており,これらの緑地とは隔離されている。三鷹でも樹林幅は約20 mであるが,このうち井の頭公園では樹林に連続して周辺にも樹林があるので,調査範囲の多くは樹林が占める(図2C, 図3C)。井の頭公園以外では樹林外はオープンな場所がある。杉並は最も都心寄りであり,上水の両側に交通量の多い道路があり,樹林幅は15 m前後で,調査地範囲に占める樹林の割合は小さい(図2D, 図3D)。


 調査地の周辺の緑地は小平では玉川上水の樹林帯に隣接した公園や大学キャンパスがある場所とこれらの緑地がないところがある(図4A)。小金井では都道である五日市街道を挟んで広大な小金井公園がある(図4B)。三鷹では玉川上水は井の頭公園を通過するのでそこでは樹林が連続的だが,その下流では樹林帯だけになる(図4C)。杉並ではほぼ玉川上水の樹林帯だけで,周囲の緑地は乏しかった(図4D)。


生息地の樹林調査
 都市鳥類は調査地の樹林面積の影響を受けることが知られているが(樋口ら 1985; 一ノ瀬・加藤 1994; 加藤1996),玉川上水では樹林が連続的なので孤立緑地としての面積は測定できない。しかし樹林帯の幅には影響を受けると想定されるから,空中写真をもとに鳥類センサスルート(長さ1 kmあまり)の中にランダムに5カ所の幅60 m,長さ60 mの区画をとり,樹林の植被率を出した。
 また都市鳥類は樹林構造の影響も受けることが知られているので(樋口ら 1985; 一ノ瀬・加藤 1994; Callaghan et al. 2018など),ルート内の樹木の本数と胸高断面積,樹高,低木層の植被率を測定する樹林調査をおこなった。この調査では,ルート内に長さ100 mの帯状区をとり,生育する樹木の胸高周(高さ1.2 m)を精度1 cmで測定した*1。帯状区は場所により3カ所から6カ所とった*2。これら帯状区の幅は場所ごとに2 mから5 mほどの違いがあった*3。低木類の植被率はルートセンサス内にランダムに10カ所の2 m四方の区画をとり,目視により植被率を推定した。これらの調査は被度の評価に適した2021年の6月から9月にかけておこなった。サクラ類にはヤマザクラCerasus jamasakura,ソメイヨシノCerasus × yedoensis,イヌザクラPadus buergerianaがあったが,交雑が起きていて判別ができないものもあったので,イヌザクラ以外は「サクラ類」Cerasus spp.とした。測定値から胸高断面積を算出し,その合計値に対する各種の相対値をもとに2つの多様度指数を算出した。一つは次式で定義されるシャノン・ウィーナーの多様度指数である。

H’= -Σ (pi × ln pi)

ただしpiは種iの相対値
もう一つは次式で定義されるシンプソンの多様度指数である。
         D = 1 – Σ(pi2)
ただしpiは種iの相対値

 樹高はルートセンサス内でランダムに10本の樹木を測定した。測定には角度測定器(ミツモト,アングルファイダーレベル)を用い,角度と水平距離から樹高を求めた。樹高測定は2022年の4月下旬におこなった。

鳥類調査
 鳥類の調査はルートセンサス法により同じ日の同じ時刻(午前7時00分から)に4カ所で同時に開始し,センサスには約1時間をかけた。調査は2021年1月から11月までの奇数月に1日を選んで6回おこない,12月の1回を加えて合計7回おこなった。ルートセンサス法は一定の見落としは避けがたいものの(濱尾 2011),標準的な方法とされている(大迫 1989; Diefenbach et al. 2003; 環境省自然環境局生物多様性センター 2009)。上記の4カ所にセンサスルートをとり,1人から5人が1班として上水沿いの歩道のルート(長さ1.3-1.6 km)をゆっくり歩きながら左右それぞれ約30 m,全体で約60 m幅の範囲内で発見した鳥類の種類と個体数を記録した*4。調査員は20年以上の経験を積んだベテランであり,各自が日頃調査している場所を担当した。
 本調査では玉川上水沿いの樹林の状態と鳥類の関係に着目し,上水沿いの樹林内にいた鳥類とその外側にいた鳥類を区別して記録した(図3参照)。鳥類群集の多様度は種ごとの個体数をもとにシャノン・ウィーナーの多様度指数H’とシンプソンの多様度指数Dを算出した。

 都市化あるいは緑地の状態と鳥類の関係を理解するため,個々の種だけでなく鳥類の生息地利用の傾向のタイプで比較することが有効である。都市鳥類についてはこれまでいくつかの類型が試みられているが(濱田・福井 2013; 加藤・吉田 2011),本論文ではセンサスで記録された鳥類をJAVIAN Database(高川ら 2011)をもとに類型した。JAVIAN Databaseには各種の生息地利用が,市街地,農耕地,草地・裸地,森林のほか水辺環境などに類型されて示されているので,その組み合わせで以下の6タイプに分けた。
1)樹林型:環境利用がほぼ森林に限定的な種
2)非都市型:市街地以外を利用する種
3) 都市樹林型:市街地と森林を利用する種。ワカケホンセイインコはJAVIAN Databaseにないが,このタイプとした。
4) 都市オープン型:市街地と森林以外の環境を利用する種
5) ジェネラリスト:市街地,農耕地,草地・裸地,森林のほぼ全てを利用する種
6) その他:以上の類型に当てはまりにくい種で,具体的にはオオタカ(冬はジェネラリストだが,夏は農耕地と森林を利用),ツミ(冬は草地・裸地以外,夏は農耕地と森林を利用)である。これらはジェネラリストに近いが,典型的とはいえないタイプである。
 このタイプ分けによる個体数比較を繁殖期と越冬期それぞれで比較した。
なおカモ類,サギ類など水辺を利用する鳥類は発見が断片的であり,樹林との関係という調査目的とも直結しないので,本稿では解析から外した。

玉川上水の植生状態と鳥類群集 はじめに

2022-12-20 09:38:42 | 研究
高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫

摘要
はじめに
方法 こちら
結果 こちら
考察 こちら
謝辞 こちら

摘要
玉川上水は東京の市街地を流れる水路で,その緑地は貴重である。玉川上水の樹林管理は場所ごとに違いがある。本調査は2021年に玉川上水の樹林管理が異なる4カ所(小平,小金井,三鷹,杉並)で鳥類の種ごとの個体数の調査(7回)と樹林調査(18地点)を実施した。鳥類群集は上水沿いの樹林帯と周辺の樹林も豊富な三鷹と小平で豊富であった。緑地が両側を交通量の多い大型道路に挟まれた杉並では,鳥類の種数と個体数が少なかったが,オナガ,ハシブトガラス,ドバトは比較的多かった。サクラ以外の樹木を皆伐した小金井では,近くに広い小金井公園があるにもかかわらず,鳥類群集は最も貧弱であった。とくに森林性の鳥類が少なく,都市環境でも生息するムクドリ,スズメなどがやや多いに過ぎなかった。玉川上水での鳥類群集の季節変化は都心の皇居や赤坂御所などと共通しており,夏にヒヨドリや他の森林性鳥類は減少した。これらの結果は,玉川上水の鳥類群集が植生管理の影響を強く受ける可能性を示唆する。今後の玉川上水の植生管理においてはこのような生物多様性の視点を配慮することが重要であることを指摘した。

はじめに
 都市緑地は必然的に面積や形状に制約があり,人の利用や管理の仕方によって生育する植物や生息する動物も影響を受ける。このため自然状態に比べて動植物の種数や個体数が貧弱になりがちである(Elmqvist et al. 2013; Alberti et al. 2017; Kondratyeva et al. 2020)。例えば行動圏の広い中大型の哺乳類などは生息できないことが多い(McCleery 2020; 園田・倉本 2003; 岩澤ら 2021など)。それに比較すれば鳥類は飛ぶことで分断された緑地をつなぐように利用できるため,全体の種数は非都市環境に比べて限定的ではあるものの(上田ら2016),哺乳類に比較すれば豊富である。
都市緑地と鳥類群集の関係については樋口ら(1985)以来の研究蓄積がある。樋口ら(1985)は東京周辺の面積の異なる51カ所の樹林で鳥類の種数を調査し,面積が広いほど鳥類の種数が多いことを示し,その要因として面積の他にも樹種,被度,孤立の程度などの可能性を指摘した。一ノ瀬・加藤(1994)はこれを発展させ,鳥類群集と樹林地を群集学的に類型し,要因の中で樹林面積が最重要であることを確認した。また加藤(1996)は東京都心で同様の調査をおこない,樹林面積とともに樹林の構造が重要であり,とくに低木層の発達するほど鳥類の種数が多くなることを示した。同様の傾向は神奈川県の丘陵地でも得られた(森田・葉山2000)。またMaeda(1998)は東京の住宅地において同様の調査をし,樹高8 m以上の樹木密度と樹高が増加すると鳥類個体数を多くなることを示した。
一方,2000年以降になると個々の緑地の大きさや構造だけでなく,景観レベルで緑地の孤立度や距離などに着目した研究も進んだ。森本・加藤(2005)は横浜の緑地の鳥類群集を調査して,緑地の面積や低木の被度とともに,緑地をつなぐ緑道があることで鳥類群集の豊かさが高くなることを示した。また岡崎・加藤(2005)は都市緑地の鳥類群集を調査し,孤立樹林の周辺での土地利用のあり方が鳥類群集に影響を与えることを示した。一方,鵜川・加藤(2007)は関連の研究を総説し,都市の鳥類にとっては緑地以外の場所(マトリックス空間)のあり方も重要であることを示唆した。加藤・吉田(2011)は景観レベルでの影響に注目し,東京周辺のマトリックス空間に農地や草地が多いと自然度の高い環境を好む鳥類が増えることを示した。
同様の研究は海外でもおこなわれ,都市化により生物多様性が減少することの例として鳥類を位置付けることが多い(Melles et al. 2003; Pauw & Louw 2012; Serres & Liker 2015; Hensley et al. 2019)。すでに1970年代に都市では鳥類群集が貧弱化することが指摘されていたが(Emlen 1974; Lancaster & Rees 1979など),この年代には景観レベルの視点はなかった。その後,景観レベルの解析がおこなわれるようになった(Trzcinskiwt et al. 1999; Austen et al. 2001; Fahrig 2001など)。これは日本でも同様である。この中で注目されるのは世界の51の都市を対象にしたCallaghan et al. (2018)の調査で,これによれば初期から指摘されてきた緑地面積が最重要であり,景観レベルでの要因はさほど重要ではないとされた。そして都市に残された大面積の緑地の保全が重要であるとした。また最近では鳥類の食性など生態学的特性と都市緑地との関連を解析した例がある(Leveau 2013; Lim & Sodhi, 2004; Kark et al. 2007など)。ただしこれは我が国ではほとんどない。
本調査で対象とした玉川上水は緑地が乏しい東京を流れる水路で,上水沿いの緑地は鳥類の貴重な生息地となっている(奥村・加藤 2017)。この緑地の大きな特徴は幅が狭いながらも30 kmもの長い範囲を連続していることにある。森本・加藤(2005)はこのような緑地を「緑道」と呼び,都市緑地をつなぐ機能を評価した。琵琶湖疏水も一種の緑道であり,都市的な鳥類はいるが,森林性の鳥類は乏しいという報告もある(宮本・福井 2014)。米国ノースカロライナ州の緑道ではその幅が鳥類の種類に影響するとされ(Mason et al. 2007),玉川上水でも同様の傾向があるとされる(奥村・加藤 2017)。玉川上水の緑地はもともとの樹林の状態や管理の仕方などにより,場所によって植生が大きく違う。例えば樹林の幅が30 m程度ある場所もあれば,20 m未満の場所もあるし,サクラだけが点々と植えられた場所,樹林周辺に連続的な林がある場所もある。こうした植生の違いは,上記のようにそこに生息する鳥類にも影響するはずであり,玉川上水は都市緑地の状態が鳥類群集に及ぼす影響を知る上で好適な条件を備えているといえる。
この調査はこのような視点に立ち,玉川上水の異なる管理を受けた緑地と鳥類群集との関係の解明を目指した。開渠部30 kmのうち樹林が豊かな場所の代表として小平と三鷹,最も都心寄りの杉並,樹林が伐採されてサクラしかない小金井の4カ所を選んだ。特に小金井では1.6 kmほどの区間で樹林帯が伐採されて玉川上水の緑地の連続性が途切れ,鳥類の生息への影響が注目される。調査地を4カ所としたのは主に調査者数が限定的であったからであり,このため都市緑地と鳥類群集の関係についての一般性を解明するのではなく,具体的な緑地の違いと鳥類群集の事実関係の記述をすることで,この分野への貢献をすることを目指した。

ゴマについて

2022-12-05 12:20:41 | 研究
9月くらいから目に付く種子が出ていました。私はイネ科の何かだと直感して色々調べてみましたが、どうも該当しません。そのうちわかるだろうと思っていましたが、11月にはこれが大量に出てくる分がいくつもありました。これはなんとかしないといけないと思っていたのですが、糞を回収してくれている稲葉さんとやりとりをしていたら「おむすびでも食べてそのゴマが出てきたんでしょうか」というコメントがあり、ハッと思いついて我が家のゴマを見たらピッタリです。写真の左側がゴマそのもので、右側はタヌキの糞から出てきたものです。


稲葉さんに聞くと、ゴマの畑は見当たらないとのことですが、残飯で確保できるような量ではないので、家庭菜園でもあるのかもしれません。
 いずれにしても一件落着でホッとました。


浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果 2022年1月-3月

2022-10-13 13:58:49 | 研究

<2022年1月14日>
 2022年1月14日は10サンプルを分析した(図1a)。試料ごとのばらつきはやや大きかったが、センダンの果実と種子が多い糞が多かった。果実と種子が増加した。また量は多くないが鳥の羽毛、ネズミの肋骨部分、カエルと思われる骨などが検出された。また輪ゴム、ゴム栓、プラスチック袋(菓子類などを包む薄い膜状のもの)など人工物が%検出された。センダンの種子のほか、ムクノキ、エノキの種子も検出された(図1b)。多くはないがゴム製品などの人工物が検出されている(図1b)。


図1a. 2022年1月15日の糞組成


図1b. 2022年1月14日の検出物

<2022年1月25日>
 2022年1月25日に採取した糞11個を分析した。多くの試料でイネ科の葉が検出された(図1c)。イネ科の葉は消化しないまま排泄され、面的なため、ポイント枠法では過大に評価されるので、実際に食べた量はそれほど多くないと推察される。種子としてはムクノキとエノキが検出され得たほか、サンプルNo. 1からはカキノキの種子が検出された(図1d)。不明の種子も少数あった。またコメの種皮も検出された。



図1c. 2022年1月25日のタヌキの糞組成。番号は試料番号(順不同)

 ユニークなサンプルとして、サンプルNo. 8はムクノキの種子が多数含まれたほか、ヤママユと思われるガの繭(まゆ)が検出された(図3b)。これは高槻の経験では初めての記録である。またサンプルNo. 11からはカニの体の外骨格が、またサンプルNo. 8からは輪ゴムが検出された。

図1d. 2022年1月25日のタヌキの糞からの検出物 

 1月15日から10日ほどしか経っていないにもかかわらず、内容が大きく変化し、イネ科の葉が増え、種子が減少し他ことから、タヌキの食糧事情は悪くなってきたと考えられる。

<2022年2月18日>
2022年2月18日に採取したタヌキの糞10個を分析した。サンプルごとの変異が大きく、エノキ、ムクノキなどの種子が過半量を占めたものが3例、人工物が過半量を占めたものが2例、イネ科の葉が過半量を占めたものが2例、カニが過半量を占めたものが1例などあった(図2a)。

図2a. 2022年2月18日のタヌキの糞組成。番号は試料番号(順不同)

 検出物は動物としては鳥の羽毛、カニの外骨格などがあった(図2b)。羽毛が検出されたのは1例だけであったが、鳥の死体を食べたのかもしれない。カニの外骨格は赤色であったので、ベンケイガニであるかもしれない。量は多いとは言えないが、出現頻度は10例中4であったから、タヌキは池でカニを探して食べているのかもしれない。種子としてはエノキ、ムクノキが多く、センダンもあった。オニグルミの果皮のような硬いスポンジ質の果皮もあった。直径5 mmほどある落葉広葉樹の枝先も検出された。人工物としてはチョコレートなどのアルミ包装紙、食品の包装紙、ゴムのような柔らかい人工物、いわゆる「レジ袋」、輪ゴムなどがあった。食品包装紙には「伊藤園」という文字が確認できた。また皮革製品があったが、片側に白い塗装があり(皮革製品1)、糸がついたもの(皮革製品2)もあったので靴の一部ではないかと思われた。


図2b. 2022年2月18日のタヌキの糞からの検出物

 人工物では皮革製品が多かったが、皮革製品の検出例は他の場所でもある。タヌキはその匂いを嗅ぐと動物の体の一部と思って食べるのかもしれない。皮革製品は片面が白い塗装をしたものや糸がついたものがあったので、靴などであるかもしれない。これらは当然全く消化されておらず、量的に多い場合はタヌキの健康上の問題もあるかもしれない。種子はムクノキとエノキがこれまでと同様に検出されたが、1例ではセンダンもあった。エノキ、ムクノキの果実はすでに樹上にはないから、タヌキは地上に落ちた果実を探して食べるものと考えられる。今回はカニを含むサンプルが4例あり、1例では54.7%に達した。またイネ科の葉が多く検出されたのが2例あった。

<2022年3月>
 2022年3月9日と11日に回収した糞を分析した。今回もサンプルごとの違いが大きかった(図3a)。種子は少なくなり、脊椎動物の骨が増加した。種子はエノキが少しと、センダン、ムクノキが10個の糞のうち1粒だけあったに過ぎない。骨は太く、ヒキガエルの四肢骨と思われるものが多かった。細かく破砕されていたが、識別できるものもあり、椎骨、指骨もあった(図3b)。糞回収地の近くに白幡沼があり、ヒキガエルはよく見かけられる。節足動物の外骨格と思われる小さな半透明の剝片が多かった。ただし先月このカテゴリーに多かったカニの甲羅は検出されなかった。イネ科の葉がコンスタントに出て、量的に多いこともあった。人工物としてはプラスチック、ゴム紐などがあったが、2月よりは少なくなった。

図3a. 2022年3月のタヌキの糞組成(%)

 主要な検出物を図3bに示した。前肢骨?としたのは、哺乳類には見られない中空構造でカエルの前肢である可能性がある。今後確認したい。

図3b. 3月の主要な検出物. 格子間隔は5 mm




浦和のタヌキの食性

2022-10-13 13:58:23 | 研究
浦和商業高校のタヌキの食性

高槻成紀・小林邦夫

東京周辺のタヌキの食性はかなり明らかになってきた(皇居:酒向ほか2008,Akihito et al. 2016、赤坂御所:手塚・遠藤2005、明治神宮:高槻・釣谷2021、新宿御苑:Enomoto et al. 2018、東京西部郊外:Hirasawa et al. 2006Sakamoto and Takatsuki 2015, Takatsuki et al. 2017, 高槻 2017; 高槻ほか 2018)。この地域のタヌキの食性は基本的に果実を主体にしており、特に秋と冬は果実をよく食べる。ただし夏には果実が少なくなるので、食物中に昆虫が多くなり、食物が最も乏しい冬の終わりから早春には鳥や哺乳類の羽毛、毛、骨などが検出されるようになる。これらの調査は主に郊外や山地で行われたが、市街地のものもある。ただし皇居、赤坂御用地、明治神宮などは都市に例外的な森林があり、都市的緑地を代表するとは言えない。市街地での調査事例としては川崎市(山本・木下1994)と小平市の津田塾大学の事例(高槻 2017)がある。川崎市では果実とともに人工物が非常に多かったが、小平市ではそうではなかった。これは家庭ゴミの提出方が変化し、1990年代まではゴミ提出法が管理されていなかったためにタヌキが利用できたが、その後カラスによるゴミ被害が増えたために、家庭ゴミはボックスなどに入れて提出されるようになったためにタヌキは利用しにくくなったものと考えられる。このように市街地のタヌキの食性分析例は少なく、さらなる分析事例が必要である。
 本調査の調査地である浦和商業高校は埼玉県浦和市にあり、武蔵浦和の駅に近いため開発が進み、緑地は非常に限定的であり、ビルや住宅地に囲まれているため、市街地のタヌキの食性調査事例として適している。最近、浦和商の一角にタヌキが生息し、ため糞場も確認されたので、糞分析を試みることにした。

方法
調査地は武蔵浦和駅の東500mほどの位置にあり、東北新幹線が近く、その西には首都高速道路大宮線があるなど交通の要所であり、開発が進んでいる(図1)。


図1 調査地の位置

 浦和商業の西側には白幡沼があり、その東側には弁天神社の小さな祠があって周囲に樹林がある(図2)。タヌキはこのあたりに生息し、昼間でも複数の個体が観察される。ため糞はこの樹林内にあり、そこからフンサンプルを回収した。


図2. 白幡沼南西部から東をのぞむ

 採集にあたっては,糞の大きさ,色,つや,新しさなどから同一個体による1回の排泄と判断されるタヌキの糞数個を1サンプルとし,それを複数採取した.
 糞サンプルは0.5 mm間隔のフルイで水洗し,残った内容物を次の15群に類型してポイント枠法(Stewart 1967)で分析した.昆虫(鞘翅目,直翅目,膜翅目,幼虫など),節足動物(多足類など),無脊椎動物(甲殻類,貝類など),鳥類,哺乳類,脊椎動物の骨,その他の動物質,果実,種子,緑葉(イネ科,スゲ類,単子葉植物,双子葉植物など),枯葉,植物その他(コケ,キノコなど),人工物(輪ゴム,ポリ袋,紙片など),その他,不明.「脊椎動物の骨」の中には一部に鳥類,両生類の骨とわかるものもあるが,多くは不明であり,哺乳類の骨の破砕された小片も含まれる.
ポイント枠法では,食物片を1 mm格子つきの枠つきスライドグラス(株式会社ヤガミ,「方眼目盛り付きスライドグラス」)上に広げ,食物片が覆った格子交点のポイント数を百分率表現して占有率とした.1サンプルのポイント数は合計100以上とした.

結果と考察
* 月ごとの結果は
 2021.12月-2022.3月 こちら
 2022.4月 - 6月  こちら
 2022.7月, 8月    こちら
 2022.9月- 11月    こちら

<月比較>
 月比較をすると次のようであった(図1)。


図1. タヌキの糞組成の月変化

 2021年12月は「植物その他」が多く、コメの種皮の可能性があるが特定できない。
 2022年1月上旬にはエノキ、ムクノキなどの果実と種子が増えた。1月下旬にはイネ科が増えたが、糞分析は内容物を面積で評価するのでイネ科の葉のような面的なものは大きく評価されるが、食物としては貢献度は小さいと思われる。
 2月には再び果実・種子が多くなり、ポリ袋などの人工物も増えた。
 3月は果実・種子がこれまでで最も少なくなった。脊椎動物の骨が多くなったが、これはヒキガエルの骨であった。その占有率は18.6%だが食物としてはその2倍以上の意味があるだろう。種子と人工物は2月より少なくなった。
 4月には、種子は1サンプルからセンダンの種子が1個検出されただけだった。昆虫が大きく増加し、無脊椎動物も増えて両者で半量となった。1例ではカニが検出された。人工物も少なくなり、透明なプラスチックと糸が検出されただけであった。植物供給量は増加したが、糞中では減少したので、果実がなくなり、昆虫などの供給状態が良くなって葉を食べなくなったものと推察される。
 5月は再びエノキなどの種子が検出された。カエルの骨が10例中7例あった。1例では鳥の羽毛があった。これまでの葉は枯れ葉が主体でイネ科が少量あったが、5月には双子葉草本が見られた。「その他」が26.9%と多かったが、その主体は木質の材であり、ボロボロの微細なブロック状であった。これは古い枯れ木の材と思われ、食物として摂取したものとは思われず、中にいる昆虫などを食べるときに一緒に食べたのかもしれない。人工物としては菓子類の包袋と思われる「銀紙」が2例、紙類が1例あった。
 4月と比較するとカエルの骨、種子、「その他」が増え、昆虫、無脊椎動物が減った。なお、小林が設置しているセンサーカメラの動画に5月12日にタヌキがヒキガエルを捕食し、引きちぎって食べるところが撮影された。動画から静止画を取り出したのが図3である。図3左ではヒキガエルが体を縮めたような姿勢をとり、タヌキがこわごわと前肢を出している。図3右はその3分後で、ヒキガエルに噛み付いて、前肢で押さえ、首を引いて引きちぎっている。このことからも、ここのタヌキがヒキガエルを食べることが確認された。

図3. センサーカメラ(動画)が捉えた、タヌキがヒキガエルを捕殺する様子。左はタヌキがヒキガエルに右前肢を伸ばしている。右ではヒキガエルを前肢で押さえて首を上げて口で引きちぎっている。2022年5月12日22:38-22:41。

 6月になると糞が見つけにくくなくなった。センサーカメラによってもタヌキの訪問頻度が減り、しかもダンゴムシが群がって分解も進むので、糞が残っていないのである。そこで、小林が早朝に訪問することを試みた。センサーカメラも作動させることで、いつ排泄されたかも確認するようにした。その結果、1日1個くらいは発見されることもあることがわかり、6個の糞を確保した。分析の結果、甲殻類(アメリカザリガニ)が多く、果実は減ったが、前年に落下したエノキが検出される一方、今年のサクラ、クワ、ビワ、ウメなどの種子も検出された。葉と哺乳類もやや増加した。
 7月も糞が見つけにくかったが、8個が確保された。エノキの果実が増えた。エノキは今年の果実はまだ緑色で樹枝についているからタヌキが食べたのは去年落下した果実と推察したが、8月11日にはオレンジ色に熟した果実が確認された。8月の結果と総合的に考えると、7月時点でも早めに落下した果実を食べていた可能性がある。またクワの種子も検出された。クワは今年の果実が熟したものと考えられる。人工物はゴムのような弾力のある白い物体が少量検出されたにすぎないから、残飯をあさるというほどの食物不足ではないようだ。
 8月も糞の分解が進むため、サンプリングが困難だったが、7月同様に採集確率を高めて10個を確保した。組成は7月と似ており、果実と種子が多く、ほとんどはエノキであった。エノキは8月上旬にはオレンジ色あるいは暗褐色に熟していたから、サンプリングした中旬以降にタヌキが食べたのは今年のものと考えられる。甲殻類と植物の葉は減少した。
 9月になると、8月とは違いがあった。ムクノキの種子・果実が増え、エノキ果実・種子とともに果実が26.1%、種子が28.9%となり、合計で75%に達した。その分、昆虫と哺乳類が減少した。気温も低下したので、昆虫が減少し、果実が増えたことを反映しており、これからは「秋の食性」になるものと推察される。
 10月にはさらに果実・種子が増えて4分の3を占めた、文字通り「実りの秋」になった。内訳ではムクノキが最も多く、カキノキ、エノキがこれに次いだ。
 11月も果実・種子が主要であったものの、果実はやや少なくなり、種子が増えた。昆虫、葉、人工物が増えた。人工物は1例で糞のほとんどを靴紐と思われる紐が占めていた(こちら

 これまでの結果を見ると、本調査地のタヌキの食性はカエルと甲殻類という白幡沼の動物を利用し、時にはかなり依存的であるということが特徴と言えそうである。また月変化としては3月までは果実が主体であったが、4月以降は動物質が増加した。果実はエノキ、ムクノキが非常に多い。このことは調査地に果実をつける樹木があまり多くないためと思われ、相対的にこれら限定的な果実への依存度が高いこともこの調査地のタヌキの食性の特徴であろう。
2022年11月8日 記





植物・植生

2022-10-08 07:04:05 | 研究
植物・植生

<動物と植物の関係>
我が家(東京都小平市)の周りでの鳥類種子散布 2021.4.2 こちら
 
生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 −.
高槻成紀. 2022. Binos, 29: 1-7.   こちら new!

麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布. 
高槻成紀. 2020. 麻布大学雑誌, 32: 1-9.  こちら 

スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例
高槻成紀・望月亜佑子. 2021. 人と自然, 32: 99−108 こちら

乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた (2021年8月) こちら
乙女高原での訪花昆虫調査(2022年8月) こちら

<草原の動態>
山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -. 
高槻成紀・植原 彰(2021)植生学会誌, 38: 81-93. こちら 

ススキとシバの摘葉に対する反応 – シカ生息地の群落変化の説明のために
高槻成紀(2022) 植生学会誌, 39: 85-91. こちら new!

乙女高原のスミレ こちら new!
高槻成紀・植原 彰

乙女高原の訪花昆虫 2022年7月 高槻成紀・植原 彰 こちら 
乙女高原の訪花昆虫 2022年9月 高槻成紀・植原 彰 こちら
乙女高原の訪花昆虫 2022年10月 高槻成紀・植原 彰 こちら

<都市の植生>
2018年台風24号による玉川上水の樹木への被害状況と今後の管理について. 
高槻成紀. 2020. 植生学会誌,  37: 49-55. こちら
 

山形県西川町のタヌキの食性

2022-05-15 20:53:16 | 研究
山形市近郊のタヌキの食性

高槻成紀・中村夢奈(やまがたヤマネ研究会 代表)

 タヌキの食性分析は他の野生動物に比較して比較的よく調べられている(高槻 2018)。しかしその大半は関東地方のタヌキに関するものであり、そのほかは少数例が点在するに過ぎない。東北地方では山形県での事例(加藤ほか 2000)と東日本大震災後の仙台の海岸における事例(高槻ほか 2018)があるに過ぎない。
 今回、山形でヤマネの研究をしている中村氏の協力で共同調査ができることになったので、分析結果を報告する。月ごとの結果はこちら

調査地
 タヌキの糞を採取したのは山形県西川町大井沢(38度23分15.13秒 139度59分30.00秒)で、山形市の西方約35km、標高481mである。


図1 調査地(黄丸)の位置

ここは寒河江川沿いで、この川が北上し、北方で本流と合流する部分に月山湖がある。糞採集地は湯殿神社の近くである(図1)。ここは山形県でも多雪地であり、採取した5月3日時点ではまだ残雪があったが(図2a)、5月20日になると雪は融けていた(図2b)。


図2a. タヌキの糞採集地の景観(2022年5月3日)

図2b. タヌキの糞採集地の景観(2022年5月20日)

 タヌキのタメ糞を発見し、色や質感から1回に排泄分と判断されたものを1サンプルとして分析した。分析法はポイント枠法(高槻・立脇 2012)を用いた。

結 果
 個別の結果は別記した(こちら)。5月3日には糞ごとに違いが大きく、哺乳類が多い糞や鳥類が多い糞などがあり、全体としては果実、哺乳類の毛、脊椎動物の骨などが多かった(図3)。哺乳類と鳥類でほぼ半量あったが、このように多い例はほとんどない。
 5月20日には雪が融け、タヌキの糞内容も大きく変化して、ほとんどの糞に幼虫が多く含まれた。


図3. タヌキの糞組成の変化

考 察
 これまで情報の乏しかった東北地方多雪地のタヌキの糞を分析することができた。5月3日にはまだ残雪があり、晩冬といえる時期であった。平均値では鳥類、哺乳類が多く、しかもサンプルごとにばらつきが大きかったことを考えると、タヌキの食糧事情は悪く、低確率で遭遇した哺乳類や鳥類の、おそらくは死体を集中的に食べるものと推察される。というのは、供給が安定していれば、頻度は高くサンプルごとのばらつきはこれほど大きくはならないはずだからである。果実の平均占有率は24%で、他の場所よりは少なかった。これらは果皮と果肉で、種名はわからなかった。ヒモと輪ゴムが検出されたことは、ここのタヌキがある程度人工物を利用していることを示唆する。
 5月20日になると雪が融け、タヌキの糞も全くといってよいほど変化し、幼虫が多く見られた。この幼虫は体長20 mm程度であった。現時点では不明であるが、量が多いので、ハチなどの集団生の社会昆虫である可能性がある。
 今後も継続して調査したい。

残念ながらその後、うまく継続的に糞サンプルが確保できず、調査は中断しています。

文 献
加藤智恵・那須嘉明・林田光祐. 2000. タヌキによって 種子散布される植物の果実の特徴. 東北森林科学会誌, 5: 9-15. こちら
高槻成紀. 2018.タヌキが利用する果実の特徴 – 総説. 哺乳類科学, 58: 1-10.  こちら
高槻成紀・岩田 翠・平泉秀樹・平吹喜彦. 2018.仙台の海岸に生息するタヌキの食性  - 東北地方太平洋沖地震後に復帰し復興事業で生息地が改変された事例 -.   保全生態学研究, 23: 155-165.  こちら
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・野々村 遥・菅谷圭太・宮岡利佐子・箕輪篤志. 2018.     動物の食物組成を読み取るための占有率 − 順位曲線の提案−集団の平均化による情報の消失を避ける工夫 −哺乳類科学, 58: 49-62. こちら
高槻成紀・立脇隆文. 2012. 雑食性哺乳類の食性分析のためのポイント枠法の評価: 中型食肉目の事例. 哺乳類科学, 52: 167-177. こちら

山形県西川町のタヌキの食性 月ごとの結果

2022-05-14 19:48:30 | 研究
<2022年5月3日>
 10例のサンプルの組成には大きい変異があった(図1)。図1では組成を哺乳類の多い順に並べ、次に鳥類、そして脊椎動物の骨が多い順に並べた。これを見ると4つの資料では哺乳類が40-70%を占めた。2つでは鳥類の羽毛が多く、他の2例では脊椎動物の骨が多かった。また果実が多いサンプルが4つあった。


図1. タヌキの5月3日の糞組成(%)。左から哺乳類、鳥類、脊椎動物の骨が多い順に並べた。

  個別サンプルから平均値を示したのが図2である。多かったのは果実の24%、哺乳類の22%であり、これについで脊椎動物の骨(14%)、鳥の羽毛(9%)などが続いた。哺乳類、鳥、脊椎動物の骨を合計するとほぼ半量であり、これだけ鳥類、哺乳類が多い例は少ない。


図2. タヌキの糞組成の平均値

 検出物を図3に示した。脊椎動物の骨の中には哺乳類の長骨が粉砕されたものがあり、縁は鋭く尖っており、消化管を傷つける可能性のあるものもあった。昆虫の多くは幼虫であり、そのほかに微細に粉砕された翅、脚などが検出された。植物の葉は落葉樹の枯葉が多かったが、少数ながらイネ科の緑葉が検出された。種子は少なかったが、ヤマブドウの種子が検出された。また出現頻度は2例だけだったが、人工物があり、化学繊維のヒモと輪ゴムが検出された。


図3. 5月3日の検出物. 最初の数字はサンプル番号, 格子間隔は5 mm.

 このデータに基づき「占有率ー順位曲線」(高槻ほか 2018)を求めたところ、3タイプが認められた。
 一つは大きい値から徐々に下がるもの(Sタイプ)で、果実が該当した(図4a)。これは多くのタヌキに需要と供給がある、つまり生息地にある程度確実に存在し、タヌキの食物として魅力ある食物と言える。

図4a. 占有率ー順位曲線のS型の例

 2つ目はL字型で、最大値は大きいが出現頻度が高いためにL字型になるもので、昆虫、脊椎動物の骨、人工物、哺乳類の毛、鳥類が該当した(図4b)。ほとんどが動物質であり、タヌキは好んで食べる(需要が高い)が、供給が限定的ために出現頻度が低いものである。ただし人工物は最大値が小さかったので、非典型的である。また哺乳類は10例のうち5例で検出されたので、低頻度とはいえず、これも非典型的である。

図4b. 占有率ー順位曲線のL字型の例

 第3のタイプはF型で低い値で高頻度であった(図4c)。葉と植物の支持組織が該当し、タヌキにとって供給はあるが、魅力ある食物とはいえず、食べても少量しか食べないものである。

図4c. 占有率ー順位曲線のF型の例

<5月20日>
 5月20日になると糞組成は全く違うものになり、全てのサンプルで幼虫が多くなった(図5)。頻度も占有率も大きいことから、ハチなど社会性昆虫の集団で育つ幼虫である可能性がある(図6)。2例でイネ科の葉が10-20%程度検出された。1例で哺乳類の椎骨が検出された。またドングリの殻と中身(澱粉質)が検出された。今回は人工物は検出されなかった。

図5. タヌキの5月20日の糞組成(%)


図6. 5月20日の検出物. 最初の数字はサンプル番号, 格子間隔は5 mm.


その他の調査

2022-01-01 09:10:26 | 研究

その他

シカ
高尾山に迫るシカ 2019.5.27 こちら
裏高尾の植物に見られたシカによる食痕 2019.12.5 こちら

サル
ニホンザル2群の群落利用に対する人の影響 – 林縁に注目して こちら


ヤマネ

八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用と巣材 2021.5.4 こちら
ヤマネの巣材に使われたサルオガセ 2022.10.4 こちら
八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性 2021.5.5 こちら


鳥類
都市における鳥類による種子散布の一断面 予備調査 こちら 2020.4/15

我が家(東京都小平市)の周りでの鳥類種子散布 こちら 2021.4/16
アファンの森のフクロウの食べ物こちら 2018.6.21

バードストライク ビルにぶつかったデンショバト 2019.3.6  こちら


その他
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例 こちら

柵をした乙女高原の訪花昆虫 - 2018年 -こちら 2018.9.20 


生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 

2021-12-24 18:43:02 | 研究
生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 −

Binos, 29: 1-7(2022)

要 約
 都市緑地の多肉果をつける樹木には冬季に野鳥によって別の樹木で採食した果実の種子がもたらされ、一冬に30種ほどが記録されている。これらの種子の一部は発芽定着すると想定されるが、そのことを調べた調査はほとんどない。そこで、都市の大規模霊園という場所の特殊性を利用して、生垣内に生育する若木で散布状態を調べた。予測としては、鳥散布型の種子はより均一に散布され、重力散布型の種子、あるいは鳥散布型でも母樹が近くにある場合は集中的に散布されることが想定される。生垣(1.5 m×8 m程度, n = 90)で若木の密度を調べたところ、シラカシ(248本)、ムクノキ(212本)、エノキ(143本)など合計で959本が確認された。若木の分布パターンを見ると、若木分布を密度-順位曲線をもとに考えると、鳥散布型果実のうち、ムクノキ、エノキは分散型であったが、クワ属はやや集中的だった。鳥散布型でも母樹が霊園内にあったトウネズミモチは集中型であり、かつ分散型でもあった。重力散布型のシラカシは強い集中型であった。風散布型のケヤキは分散型の傾向があった。このように生垣内の若木の空間分布は種子散布特性と母樹のあり方で説明できた。都市緑地では鳥散布型の植物が鳥類によって種子散布されていることが実証的に明らかにされた。

はじめに

 鳥類による種子散布は植物の世代交代に重要な意味を持っている。これまでシードトラップを用いたり、舗装地面を利用するなどの方法で鳥類が運び込んだ種子が調べられてきた(橋口・上田 1990; 田中・佐野 2013; 小島・高槻 2020; 高槻 2020)。そして多様な種子が散布され、市街地においてさえひと冬に30種ほどの種子が散布されることが示された(小島・高槻 2020; 高槻 2020)。都市では必然的に自然が失われ、生物多様性の劣化が起きる。その中で孤立した緑地が鳥類の種子散布によっていわば「つながれる」ことは大きな意味がある。一般に都市環境においては森林環境に適応的な特殊な生活史を持つ鳥類が減少し、一部のジェネラリスト的な種が増えることが知られている(Clavel et al. 2011White et al. 2018)。このような鳥類は食性幅が広いために、鳥類-植物のネットワークは鳥類の種数が減少するほどは減少しないとされている(García et al. 2014White et al. 2018Schneiberg et al. 2020)。そのような意味において都市環境で鳥類による種子散布の実態を明らかにすることは意義がある。
 都市において鳥類が種子散布することは確実だが、散布後の発芽や定着についてはほとんど調べられていない。そうした中で故選・森本(2002)は京都市街地の樹木と種子散布の関係を調べて、エノキ、ムクノキなどの鳥類散布の実生が増加していることを示したが、調査は200 m四方の区画内の実生数と母樹数の対応に留まり、散布の実態の把握はできていない。
 筆者は東京西部の小平霊園において種子散布の実態を調べたが(こちら)、このような大都市の霊園は広いオープンスペースに少数の樹木があり、下草や低木は定期的に刈り取り処理をされる。霊園の中にはツツジなどの生垣があり、その中に明らかにもともと生垣にはなかった植物が観察される。これらの植物はほぼ間違いなく何らかの原因で種子がもたらされ、そこから発芽したものと考えられる。
 このように、都市の大規模霊園には
1)市街地に囲まれた広いオープンスペースである、
2)樹木はあるが低密度である、
3)低木や草本は抑制する管理が行われる、
4)オープンスペースに生垣があり、そこに外部由来の種子が散布され、その一部が生育している、
という特殊な状況がある。これを種子散布研究という視点からすれば、生垣は「種子トラップ」になっており、一種の野外実験が行われていると見ることができる。つまり生垣に生育する植物は生垣の植物ではなく、外部からもたらされたものであり、その植物をもたらした母樹がその場所の周辺にあるかないかを確認できるという条件が満たされている。
 本調査は、このような条件を利用して、霊園の生垣に生育する植物を記録し、その種子散布様式との関係を明らかにすることを目的とした。

方 法
調査地

 調査は東京都の多摩地区北部にある小平市の小平霊園(北緯35°74’、東経139°48’)で行なった(図1)。


図1. 調査地(小平霊園)の位置図

 小平霊園は1948年に開園し、面積は65haである。外縁にシラカシなどの樹木が植えられており、園内の主要道路にはサクラ、アカマツ、ケヤキなどが植栽されている。小平市は人口約20万人で、東京都としては農地、公園などの緑地が比較的多い。

方 法
 生垣は主要道路沿いにあり、主にツツジ類であり、少数ながらドウダンツツジなどもあった。生垣の幅は1-2 mで、長さは短いものは2 m程度、長いものは10 mほどで、多くは幅1 m程度で分断されている(図2)。

図2. 小平霊園内の生垣

 これらの生垣をプロットとし、その中に生育する木本植物も個体数を記録した。生垣から突出したものもあるが(図3, 4A)、選定されるので目立たない場合もあるので丁寧に観察した。そのプロットにもたらす可能性のある樹木の参考にするために、プロット周辺の樹木のうち、その樹高と同じ距離にある樹木の種名を記録した(図4B)。図4Bの場合、樹木1は散布の可能性があるが、樹木2はその可能性がないとした。これはその樹木から散布される果実・種子が重力散布あるいは風散布であれば飛来する可能性があると考えたからである。またプロットの真上に樹木があった場合はそれも記録した。これは鳥類が止まり木として利用した場合に、その下に散布される種子が多くなると考えられるからである。


図3. 生垣に生育するシラカシの若木


図4. A: 生垣で生育する外部由来植物のイメージ、
B: 霊園内の生垣と樹木の位置関係を示すイメージ

 生垣に運び込まれた種子が重力散布によりものであれば、プロットの真上にある樹木が多いはずであるし、風散布によるのであれば、周辺で記録された種との対応があるはずであるし、鳥類散布であれば、これら出自となる樹木とは関係がないか、弱いはずである。このことを表現する指標としてプロットあたりの個体密度の順位曲線を用い、これを「密度-順位曲線」とした。これはプロットごとの個体密度の値の大きいものから小さいものへと配したグラフで、重力散布であれば集中してゼロのプロットが多くなるからL字型、風散布であれば母樹を中心に次第に少なくなるから急傾斜のカーブ、鳥類散布であれば広く分散されるからなだらかなカーブになると想定される。

結 果
 90のプロットのうち89のプロットに外部由来の植物が見られ、密度は0.8本/m2から8.0本/m2までの幅があった。出現した木本植物は11種であった。ただし「クワ属」にはヤマグワもマグワもあり、さらに判別の困難なものもあったのでまとめて「クワ属」とした。

+++ コラム +++
以下には密度-順位曲線を示す。ここでこの曲線の説明をする。もし種子が鳥によって散布されたら、左図のように実生は「広く薄く」生育しているはずであり、重力散布で母樹から落ちたり、多少風によって散布される場合、右図のように母樹の近くに集中するはずである。

図5. [広く薄く」散布された場合と「狭く集中して」散布された場合の区画の
イメージ。鳥散布では「広く薄く」、重力散布では「狭く集中」する。

 この結果を生垣ごとに高密度から低密度に並べたのが「密度^順位曲線」で「広く薄く」の場合は、富士山の裾野のように横長になるはずであり、「狭く集中」の場合は滑り台のように急角度のカーブになるはずである。

++++++++++++++++++++++

 密度-順位曲線は、密度が0.08/m2 以上であった6種を取り上げた。このうちシラカシはカケスが散布する可能性はあるがほとんどは重力落下するはずである。また小平霊園ではトウネズミモチは生垣近くに母樹があるので、鳥散布であっても「狭く集中」することが予測される。そのほかは鳥散布である可能性が大きい。実際の結果を示したのが図6である。
 鳥散布型の多肉果であるムクノキ、エノキ、クワ属のうち、ムクノキとエノキはなだらかなカーブをとり、出現頻度も高かった。クワ属はやや急勾配で低頻度だった。


図6a. 鳥散布型の主要種の密度-順位曲線

 トウネズミモチは非常に高密度なプロットが数点あり、1本/m2程度の低密度のプロットも多かったのでL字型となった(図6b)。トウネズミモチは生垣の近くに結実する木があったためカーブが急になるとともに、鳥に散布されるものもあるために裾が広がったものと考えられる。シラカシの堅果は基本的に重力散布であり、生垣の近くにもあったのでグラフの左端に集中していた。ケヤキは風散布型であり、霊園内にも多いが、頻度は低く、勾配はなだらかであった。


図6b. 鳥散布型(トウネズミモチ)、重力散布型(シラカシ)、風散布型(ケヤキ)の主要種の密度-順位曲線

考 察

 種子散布のタイプと種子を供給する母樹を考えて若木の密度-順位曲線から若木の密度の広がりを予想した。この予想と実際の密度-順位曲線を比較すると、重力散布であるシラカシは確かに「高密度であるプロット以外は若木はない」というパターンをとった。このカーブはL字型というよりI字型というべきかもしれない。鳥類散布は頻度が高い傾向があったが、トウネズミモチはプロットの近くに母樹があるケースがあったので、典型的なL字型をとった。その他の鳥散布型の樹種ではなだらかに裾を引くパターンをとった。その他にも低密度・地頻度な鳥散布型の樹種があり、これらは密度-順位曲線を描くには適していなかったが、周囲に母樹はなかったから鳥類が散布したと考えられた。
 このように生垣に種子が散布されそこから芽生えたと考えられる若木の密度と頻度のパターンによって、種子散布のタイプと母樹の存在が若木の分布パターンに大きな影響を与えていることが概ね説明された。しかし未解決の課題もある。付表1には同じ小平霊園の樹下で種子回収をした調査結果(高槻、未発表)を合わせて示した。

付表1. 生垣内の若木密度とセンダン、トウネズミモチの樹下で回収された種子の割合(%)。出現タイプはA: 若木も回収種子ともにあり、B: 若木はあったが、回収種子なし、C:種子は回収されたが若木はなし。



 表のタイプAは本調査で若木が確認され、散布種子調査でも回収された種であり、13種が確認された。
 タイプBは生垣に若木が確認されたが、散布種子は回収されなかった11種で、このうちアカメガシワとクワ属は夏に結実するが、種子回収調査を冬(12月から2月まで)におこなったため回収されなかった可能性が大きい。他の9種は種子回収調査の範囲では運び込まれなかったと考えられる。
 タイプCはこれとは逆に、種子は回収されたにもかかわらず生垣に若木が確認されなかったもので、9種があった。このうちセンダンとモチノキは調査対象以外の生垣では確認したが、数は少ない。クロガネモチは種子がセンダンの樹下で多数回収されたが若木は確認されなかった。タイプCは種子散布されても生垣では発芽しにくいか、発芽後の生存率が低いと考えられる。
 野鳥について定量的なカウントはしていないが、最も頻繁に観察されたはヒヨドリである。そのほかではムクドリやハシブトガラスが果実を採食するのが観察された。これらの野鳥が生垣に止まって種子を吐き出したり糞を排泄することで種子散布していることの実態の一部が明らかになった。都市においては特に森林に生息し、生息地選択や食性などが特殊化した鳥類は減少し、融通が効く「ジェネラリスト」が相対的にも、絶対数でも増加するとされる(Clavel et al. 2011White et al. 2018)。ジェネラリストは食性幅も広いから、さまざまな果実を食べ、種子散布する。スペインのある都市緑地ではズグロムシクイ(Sylvia atricapilla)というジェネラリストが主要な種子散布者で、特にヨウシュヤマゴボウを散布しているという(Cruz et al. 2013)。東京圏ではヒヨドリがその典型例であろう。実際、1970年代に盛んに植栽されたトウネズミモチの分布拡大は鳥類によるものだとされる(吉永・亀山 2001)。本調査でも生垣内で最も多かった若木はトウネズミモチであった。同時にムクノキとエノキも多く、在来の高木種も高頻度に散布されていることがわかった。霊園での生垣は定期的に剪定されるから、これらの若木が大きく育つことはないが、この事例からわかることは、都市緑地にこれらの種子が散布され、若木も生育しているということである。これらほど数は多くないが、そのほかにも多種の樹種が種子散布され若木が育っていることが確認された。このことから、都市緑地においてヒヨドリを中心として野鳥が樹林の動態に影響しているのは確実と考えられる。このことは都市緑地の生物多様性を考える上でも参考にされて良いことであろう。


タヌキの食性

2021-08-01 18:58:08 | 研究
タヌキの食性
 裏高尾のタヌキの食性 2019.3.18 完了 「哺乳類科学」に公開 こちら
  津田塾大学のタヌキの食性 完了 「人と自然」に掲載 こちら
  津田塾大学のタヌキの糞に出てくる食べ物の推移 こちら  2019.2.27  
 明治神宮の森のタヌキの食性 こちら 2021.6.1
  仙川(小金井市)のタヌキの食性 2020.6.1分析中 こちら
 東京都小金井市の「はけ」のタヌキの食性 こちら 21.10.10
  八王子市滝山自然公園のタヌキの糞の中身 こちら 2019.1.10
  丹沢のタヌキの糞 2019.5.18 こちら 
  アファン の森のタヌキの食性 こちら 英語版 2018.12.28
  愛媛県八幡浜のタヌキの食性 
こちら  
  高知県のタヌキの食性 胃内容物分析2019.10.17 完了 こちら 
  タヌキの糞からドングリ こちら 2018.3.8
  タヌキの糞からシカの毛が出た こちら 2018.3.10
  タヌキの糞からイチイ こちら 2019.11.20


高槻がタヌキの食性を分析した地点


● タヌキの糞を確実に確保できる人はご一報ください。高槻


文献

2021-06-08 07:16:34 | 研究
Akihito,T. Sako,M. Teduka & S. Kawada,2016. Long-term trends in food habits of the raccoon dog,Nyctereutes viverrinus,in the imperial palace,Tokyo. Bulletin of National Museum,Natural Science,Series A (Zoology),42: 143-161.
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唐沢孝一・越川重治・金子凱彦. 2015. 第7回 東京都心におけるカラスの集団塒の個体数調査(速報). としちょう・NOW. 2015.12.27, http://toshicho.blogspot.com/2015/12/7_27.html(2019年12月27日確認)
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高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本唯・野々村遥・菅谷圭太・宮岡利佐子・箕輪篤志,2018.動物の食物組成を読み取るための占有率− 順位曲線の提案 − 集団の平均化による情報の消失を避ける工夫 − . 哺乳類科学,58: 49-62.
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用語解説

2021-06-08 07:05:57 | 研究
用語解説
※1 ギンナン:イチョウの種子をギンナンという.ギンナンは一般にはイチョウの「果実」とされるが,イチョウは裸子植物であるから果実を持たない.種子の外側にある種皮が肥大して「被」となり,カルボン酸を含むので不快な匂いがする.タヌキはギンナンを丸呑みし,種子は消化されずに排泄される.
※2頻度法:糞分析の例では,試料集団のうちある食物を含んでいた糞が何例あったかを表現する方法で,「あり,なし」だけを表現し,糞内での量的な占有率は問わない.
※3ポイント枠法:食物の占有率を表現するには重量,体積,面積などがあるが,ポイント枠法は面積を簡便に表現するため,資料を格子の上に広げ,ある食物が格子を何点覆ったかを計数する方法である.重量や体積のように食物を取り上げる必要がないし,実際の面積を測定しなくて良いので,短時間で評価が可能である(高槻・立脇 2012).
※4占有率–順位曲線:食物の成分は平均値で表現されることが多いが,例えば占有率が同じ50%でも全サンプルが50%前後で平均値が50%である場合と,半数が大きい値,半数が小さい値で平均値が50%になる場合では意味が違う.占有率–順位曲線はこのことを表現するために工夫した表現法で,成分ごとに上位から下位に占有率を並べることにより,その曲線がとる形で集団内での占有率の分布が把握できる(高槻ほか 2018).
※5疥癬:ヒゼンダニ(学名:Sarcoptes scabiei var. hominis)の寄生による皮膚感染症.ヒゼンダニは体長0.3-0.4mmで,メスが皮膚の角質層の下にトンネルを掘る.罹患したタヌキの皮膚は角質化し,脱毛するため,タヌキは痩せ,衰弱する.