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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

マルハナバチ3種

2022-08-24 21:34:36 | 報告
訪花昆虫調査でマルハナバチが3種記録されました。オオマルハナバチ、トラマルハナバチ、ミヤママルハナバチです。それぞれが来ていた花を調べたら明らかな違いがありました。オオマルがヒメトラノオ、トラマルがノハラアザミ、ミヤマがヤマハギです。
乙女高原で見られた3種のマルハナバチの花ごとの頻度

この結果は去年の結果でも、マルハナバチ調べ隊の結果でも同じでした。「これにはわけがあるはずだ」と思い、それぞれの花を調べるとヒメトラノオはコップのような形、ノハラアザミはごく細い筒状の花が束になっている、ヤマハギはやや複雑で蜜はツボのような花の中にあることがわかりました。マルハナバチの口の中舌(後述)の長さを調べた論文によると、中舌の長さはトラマル>ミヤマ>オオマルとなっており、花の形と大体対応しているようでした。
 「これは実際にハチの口をみなければ」と思い、植原さんにお願いしてハチを採集してもらいました。


文献を探したら、マルハナバチの口の測定部位が書いてあり、口吻長と中下長を測定していました(江川・市野, 2020)。ところが送ってもらった標本を見ると、口が伸びているハチも少しありましたが、そうでないものが多く、どうして測定するのだろうと思いました。
 下の写真がミヤマの側面です。

ミヤママルハナバチ

ところが、手にとって口の部分にピンセットを置いて下に伸ばしたら、びっくりすることにビョンと口が伸びました。

口を伸ばしたところ

 その長さにも驚きましたが、文字通り「格納」されていて、何か機械のように出てきるのに驚きました。論文に描いてあった図とは違う感じでしたが、私なりに口吻長と中下長を次のように決めました。

測定部位

 中舌は先ば曲がっていることが多いので、長さの測定は真っ直ぐに伸ばして行いました。ノギスを使って0.1mm単位で測定しました。
 その結果は次のグラフの通りで体長はミヤマだけが短いという結果でした。口吻と中舌はトラマル>ミヤマ>オオマルで確かに江川・市野(2020)の通りでした。

マルハナバチ3種の測定結果

 私の測定結果は江口・市野(2020)とは少し違い、どれも短めでしたが、順序は同じでした。これは測定部位が違う可能性もありますが、マルハナバチの大きさは地域ごとにかなり違うという論文もあるので、乙女高原ではこうだったということにします。

口吻長の比較。eは江口・市野(2020)のデータ
中舌長の比較。eは江口・市野(2020)のデータ

 こういうミリ単位の微細な違いによってハチが選ぶ花を違え、そのことで同じ花で取り合いをしないで資源を分かち合っていると言えます。そのことを「和やかに」とか「平和的に」と表現してもいいですが、マルハナバチの進化では最適の花を選ぶということをした結果ということになります。
 
文献
江川 信・市野隆雄. 2020.
高地におけるマルハナバチ属の体サイズの種間および種内変異:標高の異なる地点間での比較.
New Entomol., 69: 39-47.
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訪花昆虫調査の結果

2022-08-16 14:46:08 | 報告
訪花昆虫調査(2022年8月11日)の結果報告

手際の良い植原さんからさっそく生データのファイルが送ってきました。それを入力して整理したので、報告しておきます。

コンテンツ
1.  全体について
2. 訪花昆虫と花
3. 花の形と昆虫の口の形 こちら
4.  これまでの月との比較 こちら
5.  2021年の8月との比較 こちら
6. まとめ
資料 花と昆虫の写真 こちら

調査は調査地に図1のようなコースを決め、2, 3人ずつ5つの班に分かれて、1班が2コースをゆっくり歩いて、花に訪花昆虫がいたら、花の名前と昆虫の数を記録しました。


図1. 乙女高原に定めた調査コース

1.  全体について
歩いたのべ距離は967.8メートルで、平均速度は124.1m/時でした。訪花昆虫の数は1150匹で、10メートル中の昆虫発見数は11.9匹でした。

表1. 訪花昆虫調査のまとめ



これをコースの植生によって森林、林縁、草原に分けると発見された昆虫数は森林は少なくて4.4匹/10m、林縁と草原は15匹/10mほどでした。林には花が少ないせいです。


図2. 場所タイプ別の訪花昆虫発見数(10メートル当たり)

2. 訪花昆虫と花
 訪花昆虫が記録された花の数は合計1150であり、内訳はヨツバヒヨドリが37.6%もの多くをしめ、シシウドの20.8%と合わせると過半数となりました(図3)。


図3. 訪花昆虫がきた数の順に並べた花のグラフ

 次に昆虫数を見るとハエ・アブが72.6%を占め、甲虫、ハチと続きました。


図5. 訪花昆虫の数を比較した図

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訪花昆虫の写真

2022-08-11 20:12:26 | 最近の論文など
参加者が撮影した訪花昆虫を、花のあいうえお順に並べました。


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訪花昆虫調査 2022.8.11

2022-08-11 15:26:54 | 報告
8月の訪花昆虫調査

活動の様子と結果の取りまとめ(こちら)に分けて報告します。以下は活動の様子です。

2022年8月11日に訪花昆虫の調査をしました。今回は夏休みと言うこともあってか子供が参加することになりました。それから乙女高原で訪花昆虫の調査で学位論文を書いた国武陽子さんが久しぶりに来て調査に参加したいということでお嬢さんと来てくれました。いつものように塩山駅で一足先についていた国武さん親子と一緒に植原さんに車に乗せてもらい、乙女高原を目指しました。着くとシシウドの花が目立ちました。ロッジ前には皆さんが待っておられました。全体で13人になったということです。


ロッジ前で植原さんの説明を聞く

<参加者>
・植原さん
・国武さんとそのお嬢さん(小5)
・奥平さんとその息子さん(小4)
・春日さんとその息子さん(小2)
・小澤さんとそのお孫さん(中)
・鈴木さん
・井上さん
・芳賀さん
・高槻

 自己紹介をしてから調査法の説明をし、記念撮影をしました。


 記念撮影

10時半過ぎには各班に分かれて調査を始めてもらいました。

手分けしてそれぞれのコースに分かれる

遠くからはススキ原に見えましたが、中に入るとタチフウロ、ワレモコウ、オミナエシなどが咲き乱れ、うっとりするようでした。


咲き乱れる野草たち

「涙が出そう」
国武さんが言いました。シカに食べられてなくなっていた野草が柵の中で回復してくれたことに感激したようで、私も同じ気持ちでした。

 私は今回も芳賀さんとのペアで、林を通るコースAとBを担当しました。明るいところではヨツバヒヨドリが目立ちました。時々見えるオニユリが「夏だな」と感じさせました。



 7月よりは花が多いと感じました。上の方に行った時に、見慣れない赤い色の塊が見えました。なんだろうと思ったら、遠目でわからなかったのですが、フシグロセンノウが重なって塊のように見えたのでした。ほとんど見られなくなっていたオオバギボウシもたくさん開花しており、マルハナバチが潜っていました。同じ花に何度も出入りしていました。

オオバギボウシとマルハナバチ 

 コースAが終わったら12時を回っていたので、お昼にすることにしました。ロッジ前に戻ると国武さんたちがいました。それから少しずつ戻ってくる班があり、テーブルが賑やかになってきました。雑談をしていると、一時をかなり回ってから小川さんたちが戻ってきました。よほど昆虫が多かったようです。
 「どうぞ」
と芳賀さんが漬物とスモモを出してくださいました。「太陽」とか「貴陽」とか品種名がついているらしく、違いがあるようでした。いただいたら甘みと酸っぱみが絶妙でとても美味しかったです。
 お弁当を食べ終わったら子供たちが昆虫ネットを持って虫取りを始めました。


一人の子が
「ルリボシカミキリ」
と言ってとってきました。
「えー、すごい!」
とみんな撮影モードになりました。そうしたら国武はるかさんがもう1匹のルリボシカミキリをとってきたのでさらにびっくりしました。こちらはオスでひとまわり大きいものでした。生き物好きが集まっていたので、みんな嬉しそうでした。



「それにしてもヤナギランが増えたよね」
「ちょっとピークを過ぎたんですよね。ちょっと前、あそこの斜面の下のところにたくさん咲いて感激しました」
「柵を作ってすぐに戻ってくるのと、少し遅れるのとあるんだね」

 お菓子が配られたりしてお腹がいっぱいになりました。
「午後は何時からにしますか?」
「そうね、まったりしてしまったから、一時半くらいでどうですか?」
「それはいくらなんでも遅いんじゃない?」
「そうか、じゃあ一時10分でどうですか?」
「そうしましょう」
ということで午後の調査を再開しました。

私たちはコースBを始めましたが、ここは尾根に近づくと林が切れて花が増えます。ヒメトラノオ、シモツケ、タチフウロ、ツリガネニンジンなどがたくさん咲いていました。

 

 

 芳賀さんは花にマルハナバチ がきていると
「かわいー!」
とひとりごとのように口にするので、本当に好きなんだなと思いました。
 終わってからコースJの上まできたら、下から老夫婦が登ってきて、いかにも植物が好きなようで、すれ違いざまに
「素晴らしいところですね」
と言われました。上から見ると良い天気で、遠くまできれいに見えました。


ロッジ前に戻ると、皆さんが次々に戻ってきました。
「あー疲れた」
という子もいましたが、充実した顔をしていました。大人がする調査についてきているというのではなく、子供自身が昆虫を見つけたり、採集をしたり、中には記録を書く子もいて、文字通り大人も子供もなく、同じ立場で調査に参加していました。
 戻ってきた人はデータをわたし、採集してきた昆虫も渡してくれました。皆さん手慣れたようすで腕章や双眼鏡など調査道具を戻し、箱に詰めてロッジに運びました。こうしたことも植原さんが長年こうしたイベントを繰り返し実施してきて、こうした作業が自主的に行うものだということを自然な形で伝えてきたおかげなのだと思いました。最後に挨拶をして私にも一言と言われたので話しました。

「今日は子供も参加してくれたのでとても楽しくできました。柵ができて数年経ちました。おかげで花が戻ってきましたが、こういう調査は珍しい植物が回復したで終わることが多いのですが、花だけでなく、花と昆虫のリンク(結びつき)が戻ってきたことを記録することが大切だと思います。それが子供を含めて多くの人の協力でできたことはとてもいいことだと思います。調査そのものとしてもとても意味がありますが、このことは乙女高原の保全のための資料としても価値があると思います。今日はありがとうございました。」
と締めくくりました。

 帰りの車の中では国武さんの現在の研究活動の話を聞きました。千葉県の東金にいてそこではマルハナバチが種類も限られるのであまり調査をしておらず、それよりもいい里山があり、大学も地元との結びつきを重視しているので、トウキョウサンショウウオの保全がらみの調査をしているということでした。そのことは両生類であって水も陸も良い状態であること、それは里山の農業の営みと深く結びついているので、高齢化して農作業も変わってしまった現状ではサンショウウオにも悪影響が出ているということでした。環境変化に対する脆弱性はイモリ、サンショウウオ、カエルの順だそうです。こうなると生物の調査だけでは足りなくて、農業のあり方や行政との関係も不可欠になりそうです。

 子供たちを含めて様々な人の参加があり、久しぶりに国武さんとも話ができて充実した、楽しい一日になりました。帰りの電車では眠りこけました。
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5.2021年の8月との比較

2022-08-11 14:56:08 | 報告
5. 2021年の8月との比較

 2021年8月8日に同じ調査をしていたので、比較をしてみます。まず訪花昆虫が確認された花の数ですが、両年ともヨツバヒヨドリが最多で、シシウドがこれに次ぎました(図10)。どちらも2022年の方が多く、特にシシウドは倍増しています。これらが実際に増えた可能性がありますが、調査の条件が多少は違うので、この違いよりも全体としてはほぼ同じであったと読み取るのが妥当だと思います。


図10. 2021年8月8日と2022年8月11日の訪花昆虫が確認された花の数

ところが昆虫の数は違いました(図11)。2021年にはアブが最も多く、これに次いでハエ、マルハナバチと少しずつ少なって行きました。ところが、2022年にはアブだけが突出して多く2位以下を大きく引き離しました。これは調査条件の多少の違いではとても説明がつきません。原因はわかりませんが、2022年にはハエ・アブが特別に多くなりました。その他の昆虫ではマルハナバチが大幅に少なくなりました。


図11. 2021年8月8日と2022年8月11日の訪花昆虫の数

 なお、2022年にはヤナギランが目立って増えました。調査した8月11日の結果では、訪花昆虫の数は多くありませんが、2021年に1例だけだったのに対して、2022年には8例になりました。ヤナギランの開花期はややピークを過ぎていたので、もう少し早くに調べればもっと多かった可能性が高いです。

6.まとめ
 8月中旬の調査で多くの訪花昆虫が記録されましたが、その数はシカの影響が強くて虫媒花が少なくなっていた2013年のほぼ10倍でした。2015年に柵ができて7年目で花と昆虫のリンクが戻ってきたということです。ただしこの数は2021年の同期とほぼ同じでしたから回復はもう少し前だったと思われます。花としてはヨツバヒヨドリとシシウドが多く、これも2021年と同じでした。しかし昆虫の内訳は両年で大きく違い、アブが突出して多くなりました。この原因は不明です。また訪花昆虫が最も多かったヨツバヒヨドリは筒型の花であるにもかかわらず、訪花していた昆虫はアブ・ハエが多く、花の形と昆虫の口の形の対応では説明がつかず、このことを説明するのは重要な課題です。植原さんと、
「調べるとわかることもあるけど、わからないことが出てきて、もっと調べたくなるよね」
とよく話しますが、本当にそう思います。


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4.これまでの月との比較

2022-08-11 14:55:06 | 報告
4.これまでの月との比較
この調査は今年の5月から始めました。その比較をすると、今回昆虫数が飛び抜けて多くなったことがわかります(図9a)。


図9a. 昆虫合計数の月変化

 この「突然さ」は7月は調査を3日に行ったので、6月の調査との間隔が狭く、8月の調査との間隔が広かったことによるようです。実際には7月中旬で花が増えたので、そのころに調査をしていれば上昇カーブはもう少し段階的だったと思われます。その内訳を見るとハエ・アブの増加が著しいことがわかります(図9b)。チョウも増えていますが、数字そのものは0.3匹/10 mに過ぎません。要するにどの昆虫も増加したが、ハエ・アブが目立って多かったということです。


図9b. 昆虫数の月変化(1) 


図9c. 昆虫数の月変化(2) 

昆虫の内訳を見ても、相対値は甲虫が少なくなり、ハエアブが非常に多くなったことがわかります(図9d)。つまり7月上旬は昆虫は少なかったのに8月になるとアブ・ハエを主体として急に昆虫が増えたということです。ただし、花の観察によれば、その増加は7月中旬くらいから起きていたようです。


図9d. 昆虫の数の内訳の月変化

 いずれにしても、8月になると10 mに10匹以上、つまり1 m進むごとに1匹以上の訪花昆虫が記録されたことになります。シカの影響が強かった2013年8月12日にも麻布大学の学生であった加古菜甫子さんが同じ調査をしています。この時は1.3匹/10mでしたから実に9.5倍も増えたことになります。まさに「桁違い」に回復したことになります。このことにも感銘を受けますが、マルハナバチの結果から学んだのは。昆虫の微妙な違いが選ぶ花に違いを生み、それを支えるかのように多様な花が咲いていることで、共存が可能になっているらしいということです。


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3.花の形と昆虫の口の形

2022-08-11 14:53:48 | 報告
3. 花の形と昆虫の口の形

「さまざまな花にさまざまな昆虫が訪れている」のですが、そこにはなんらかのルールがあるはずで、花は来てもらいたい昆虫が来る工夫をしているはずだし、昆虫は自分の好みで花を選んでいるはずです。それには多様な要因があって簡単に説明されるはずはありませんが、それでもなんとか理由を考えてみたいと思います。一つの説明はタチフウロに代表されるような皿状の花にはハエやアブのような棍棒状の口で蜜を舐めるタイプの昆虫がよく行き、アザミ類に代表されるような筒状の花には長い口で蜜を吸うタイプのチョウやハチがよく行くであろうという説明です。
 このことを見るために訪花数が20以上記録された花について、訪問していた昆虫の数を調べてみました(図6)。


図6. 訪花昆虫数の多かった9種の花への訪花昆虫の数。アブ・ハエの多いものを茶色、チョウ、ハチが多いものを水色、「その他」が多いものを緑色で示した。縦軸は不同。

 この図では花の形で分けるのではなく、訪花昆虫の数でタイプ分けをしました。舐めるタイプのハエとアブが多かった花は6つありました。このうち5つはアブが最多でしたが、イタドリはハエの方が多く来ました。このうち、ワレモコウは典型的な皿型で、花序の形も楕円球状で昆虫が安定しにくそうで、チョウやハチはほとんどいませんでした。そのほかヒメトラノオ、オミナエシ、イタドリも皿状でした。しかしヨツバヒヨドリとシラヤマギクは筒状花であり、これにアブ・ハエが多かったことは花と昆虫の口の形だけでは説明できないことを示しています。とくにヨツバヒヨドリは訪花昆虫数が最も多い花でしたから、なんとか納得できる理由が知りたいものです。花を分解すると、たくさんの小花の束があり、その中に3,4個の小花が入っています(図7)。その小花は長さ5mm、太さは1mm未満のごく細い筒状で、その底に蜜があるとすると、ハエやアブには舐められないように思えます。ハエやアブはヨツバヒヨドリの花に来て蜜が吸えているのでしょうか。


図7a. ヨツバヒヨドリの花序(左)、小花の束(中)、その中にある小花

シラヤマギクも筒状花ですが、花粉が多いのでハエ・アブは花粉を舐めるのかもしれません。
 マツムシソウは訪花昆虫数は17でとくに多くはないですが、そのずべてがアブでした。マツムシソウの花はノギク類のように中央に筒状の花があり、周辺に舌状花がある構造です。それを分解してみると、確かにそういう作りですが、中央の花の筒はV字型でキク科のような筒とは違うようでした(図7b)。周辺部にある舌状花も同様です。これならアブでも吸蜜できるようです。


図7b. マツムシソウの頭状花とそれを構成する小花

次に口の長いチョウやハチが多かった花にノハラアザミとイケマがありました。特にノハラアザミにはマルハナバチが27回も訪問しており、マルハナバチの記録全体で71でしたから、ノハラアザミだけで38%も占めていることになり、マルハナバチが特に好む花と言えそうです。アザミは筒状花です。

マルハナバチについて
 マルハナバチ について種ごとに花の選択を比較してみたら、オオマルはヒメトラノオを、トラマルはノハラアザミを、ミヤマはヤマハギを際立ってよく利用していました(図8)。同じマルハナバチでもこれだけはっきりした違いがあるのにも何らかの理由があるはずです。


図8a. マルハナバチ3種が訪問した花への訪花回数

 このことを伝えたら国武さんから重要なコメントがありました。

「ご存じ通り、マルハナバチは長舌系と短舌系に分かれ、乙女高原でいえば、ナガマルとトラマルが長舌系、コマル、オオマルが短舌系、ミヤマは中間のグループになります」。

この分野ではよく知られていることのようですが、私は、マルハナバチは多少大きさや色が違っても、同じように長い口で筒状の花の蜜を吸うのを得意とするハチのグループだとしか思っていませんでした。私の無知はさておき、このことを知った上で結果を見直してみましょう。
 オオマルはヒメトラノオによく来ていましたが、ヒメトラノオの花を見るとコップ型で短舌型のオオマルにぴったりです。トラマルはノハラアザミによくきていましたが、アザミは筒状花で筒の長さは1 cm以上ありますから長舌型のトラマルにぴったりです。ミヤマは「好き嫌い」が一番はっきりしていて、まるでヤマハギだけを訪問しているみたいでした。ミヤマは短舌型と長舌型の中間型とされているそうです。ヤマハギの花はマメ科の蝶形花で、正面の旗弁に模様があり、これは昆虫に「この奥においしい蜜があるよ」というシグナルです。ハチは舟弁に着地して、中にある雄蕊に触れて奥に入って蜜を吸うと思います。


図8b. ヒメトラノオ、ノハラアザミ、ヤマハギの花の作り

花の奥に壺状の部分があり、アザミのように細長い筒ではないので、さほど長舌でなくても吸えるのでしょう。乙女高原のものではありませんが、東京でヤマハギにハチがきたときの写真を見ると旗弁の直下に口を差し込んでいます(図8c)。

図8c. ヤマハギで吸蜜するハチ(ミツバチ?)小平市

<その後、植原さんにマルハナバチを送ってもらって口の長さを測定しました> こちら

 さて、ハチが多かったイケマの花は皿型ですから花の形では説明できませんが、イケマではハエもアリも多く、他の花とは少し違うようでした。

 舐めるタイプと吸うタイプ以外の、甲虫、アリ、カメムシなどを「その他」とすると、これが多い花はあまりありませんでした。その中で、シシウドは相対的に甲虫が多い傾向がありました。もっともシシウドにはアブ、ハエも多く、甲虫だけが多いのではありません。実際、シシウドではハナムグリ、ハナカミキリ、ハムシなど甲虫類をよく見かけました。
 そのように見ると、ワレモコウやオミナエシのように皿型で舐めるタイプの昆虫に強く偏るタイプの花と、イケマ、シシウドのように舐めるタイプも来るがハチも昆虫、アリなども来るジェネラリスト的な花は類型できそうです。イケマとシシウドは代表的な集合花であり、花序が大きいのである程度大きさのある甲虫類が安定的に滞在できるという面もあるかもしれません。

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