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浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果 2022年4月-6月

2022-10-13 13:59:12 | 最近の論文など
<2022年4月>
 2022年4月9日に回収した糞を分析した。今回もサンプルごとの違いが大きかった(図6a)。種子は少なくなり、センダンが10個の糞サンプルうち1粒だけあったに過ぎない。昆虫と節足動物の外骨格が多くなった。昆虫は微小な脚のほか、幼虫の皮膚があった。外骨格は不明が多かったが1例でカニが検出された(図6b)。植物はイネ科の葉を含め葉がほとんど出なくなった。一部にサクラの花弁があった。人工物としては1例でプラスチックがあったが、3月よりさらに少なくなった。


図6a. 2022.4月のフン組成


図6b. 2022.4月フンからの検出物

参考 サクラの花弁

<2022年5月10日>
 5月になり、木のはは展開し、草本類も伸びたが、タヌキの食物としては少数例で双子葉草本の葉が検出されたものの、季節にふさわしい食物は特になかった。むしろ古い木材と思われるボロボロのブロック状の材が多かった。これは食物として食べられたとは考えられず、中にいた昆虫を食べるときに混食されたのかもしれない。4月に少なくなっていたカエルの骨が検出された他、やはり4月に少なくなっていた種子がやや増えた(図7a)。多かったのはエノキの種子で噛み砕かれたものもあった(図7b)。ムクノキの種子が1例あった。また少量ながらクワの種子もあった。今年のクワはまだ結実していないので、前年の果実を探して食べたのかもしれない。1例だが鳥類の羽毛が多く検出された。

図7a. 2022.5月のフン組成

 主要な検出物を図7bに示した。


図7b. 2022年5月の検出物. 格子間隔は5 mm

 「サクラ種子」としたものは属レベルしかわからなかったが、その後、小林が現地で落下していたソメイヨシノとオオシマザクラの果実を採取し、種子標本を作ったらソメイヨシノの種子であることがわかった。図7dに見るように、ソメイヨシノの種子は半球型で扁平な傾向があるが、オオシマザクラはやや水滴状に上方が尖る傾向があることで区別ができた。

図7c. 5月10日のサンプルで検出されたサクラ種子


 
 占有率の大きいものから小さいものに並べる「占有率-順位曲線」(こちら)を求めると、3つのパターンが認められた(図8)。一つは比較的大きい最大値からほぼ直線的に小さくなり、多数のサンプルから出現したものでS型とした(図8a)。S型には脊椎動物(カエルの骨)、昆虫、種子、葉があり、タヌキにとって遭遇率が高く、可能な限り摂取すると考えられる。

図8a. 占有率-順位曲線, S型の例

 第2のタイプはL字型で、最大値はある程度大きいが少数例しかないために、カーブは急激に下がってL字型となる(図8b)。これには鳥の羽毛と人工物が該当した。これらは遭遇率が低く、タヌキが確保しにくいと考えられる。

図8b. 占有率-順位曲線, L字型の例

 第3は低い値を続けるためカーブは横一文字のようになるもので、果実と植物の支持組織が該当した(図8c)。これは一般には遭遇率は高いが、タヌキにとってさほど魅力が高くないために、多くは摂取しないと考えられる。支持組織はこれに該当するが、果実(果皮と果肉)はタヌキにとって魅力的なはずであり、消化率が高いために糞での占有率が低かったものと考えられる。

図8c. 占有率-順位曲線, F型の例

<2022年6月9-16日>
サンプルごとのばらつきがかなり大きく、1では葉、4では哺乳類の毛、5では無脊椎動物(主に甲殻類*)、6では種子(エノキ、ビワ、クワ)が多かった(図9)。種子はエノキは昨年の落下果実によるものと思われる。サクラ、クワ、ビワは今年のものである。クワは全部のサンプルから検出された。人工物は少なかったが、1例から輪ゴムが検出された(図10)。

図9. 2022.5月のフン組成


図10. 2022年6月のタヌキの糞からの検出物

*これまで「甲殻類」としてきた外骨格はカニではないかと思っていたが、小林はアメリカザリガニではないかと思った。というのが「細い脚」(歩脚)の先端に小さなハサミがあったが、カニにはこれがないからである。そこで6月24日に白幡沼でアマリカザリガニを捕獲しようとしたが、これは不首尾であったが、死骸を拾うことができた。それを見ると確かに小さいハサミが確認でき、脚全体の質感や色もピタリと一致したので、これはアメリカザリガニであると判断した。同じサンプルから平坦な外骨格も検出されたが、これは尾の瓦状に重なる部位と先端の花びら状に広がる部位(尾扇)に該当することがわかった。これに伴いこれまでの記述を修正した。

図11. これまで「甲殻類」とした歩脚(左)と、アメリカザリガニの死骸から得た歩脚(右)

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