高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

その他の動物(哺乳類以外)

2016-01-01 03:33:53 | 研究5 その他の動物
八ヶ岳のフクロウ
SUZUKI, T., A. HIGUCHI, I. SAITO, S. TAKATSUKI
FOOD HABITS OF THE URAL OWL (STRIX URALENSIS) DURING THE NESTLING PERIOD IN CENTRAL JAPAN.
Journal of Raptor Research, 47 304-310.
この論文は鈴木大志君の卒業論文がもとになっています。八ヶ岳にかけられた20ほどのフクロウの巣に残されたネズミの骨を分析したところ、草原性のハタネズミと森林性のアカネズミ系の骨が出て来ましたが、その比率は巣の位置と牧場との距離に比例して、牧場に近いほどハタネズミが多いという結果でした。このことは森林伐採によってネズミの生息が変わり、それがフクロウの食性に影響するということを示唆します。実際に八ヶ岳の牧場でネズミの捕獲調査をしたら、牧場ではハタネズミだけが、ミズナラ林ではおもにアカネズミが捕獲されました。日本のフクロウはユーラシア北部にヨーロッパまで分布していますが、大陸ではおもにハタネズミを食べています。日本のフクロウは密生した森林でアカネズミ食に特化したもののようです。論文の査読者とのやりとりでよい勉強をさせてもらいました。



アファンの森のカエル
小森 康之・高槻 成紀 , 2015. new!
アファンの森におけるカエル3種の微生息地選択と食性比較.
爬虫両棲類学会報 2015(1) : 15-20. この論文はアファンの森にいる数種のカエルのうち、数の多いアマガエル、ヤマアカガエル、トチガエルの3種をとりあげ、どこにいたか、何を食べていたかを比較したものです。カエルの食べ物を調べた研究はかなりあるのですが、ほとんどは田んぼのカエルです。田んぼというのはきわめて単純な環境です。またここの種についてはかなりの分析例があるのですが、同じ場所に複数いるカエルの比較をしたものはごく限られています。そういうわけで、林も、草地も、池もあるアファンの森ではどうなっているかを調べてみました。担当した小森君は両生類、爬虫類が大好きで、アファンの森に言ってはカエルをみつけて、どこにいたかを記録し、捕まえて「強制嘔吐法」という方法で、要するに喉を刺激するとカエルは胃を出す!ことを利用したテクニックがあるので、それで調べることを試みました。ところがアファンのカエルはすべて胃がカラでした。それでしかたなく一晩飼育して、糞を回収しました。糞が出るのだから胃にないはずはないのですが、クマがいて危険なので、夜の捕獲は禁じました。カエルは夜食べて昼には内容物が腸まで移動していたものと思われます。糞からどのくらいわかるか心配でしたが、3種の違いをいうということについてはそれを指摘するサンプルを得ることができました。
 どこにいたか?についてはアマガエルは草や枝の上が多く、ヤマアカガエルは林の地面、ツチガエルは池の近くだけにいました。なんとなく私たちがもつイメージを裏付けるものでした。食べ物もこれを反映していて、アマは甲虫など草や枝にいるもの、アカはミミズやカマドウマなど地上にいるものがよく出てきました。ただし、ツチはとくに水辺にいるものはでてきませんでした。
 田んぼのように畦と田しかない物理的にも単純な場所と、森林では立体構造、生えている植物、そこにすむ小動物もはるかに複雑です。しかもアファンには池もあれば、草地もあります。そこでカエルは違う場所にいて、違うものを食べることで資源分割をしていると思われることを支持するデータがとれました。
 小森君は東京の都心で生まれ育ったのですが、生き物が好きで、飼育もずいぶんした(現在も)ようです。それだけに、アファンの森の生き物の豊富さに感激したようです。がんばってよい卒論を書いてくれたので、それが学術雑誌に掲載され、うれしく思いました。

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その他の動物(食肉目)

2016-01-01 03:30:39 | 研究5 その他の動物

食肉目
ツキノワグマの秋冬の食性は大きく変動
Hashimoto, Y., M. Kaji, H. Sawada and S. Takatsuki. 2003.
Five-year study on the autumn food habits of the Asiatic black bear in relation to nut production.
Ecological Research, 18: 485-492.
 これまでのツキノワグマの食性を調べてみると食べ物の主体は植物であることがわかった。とくに冬眠前のクマはドングリを大量に食べるが、ドングリ類は結実に豊凶があるため、クマの秋の食性は大きな年次変動を示すことがわかった。ナラ類の凶作年でもブナが豊作のときはブナを食べるが、ナラ類もブナも凶作の年にはサルナシなどのベリー類も食べるようになる。果実の実りはクマの動きにも影響することは明らかで、クマの保全はこうした果実の豊凶を考慮に入れる必要がある。

夕張のヒグマはメロンを食べる
Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2005.
Stomach contents of brown bears Ursus arctos in Hokkaido, Japan.
Wildlife Biology, 11: 133-144. 北海道の浦幌というところで、ヒグマの生態を調べた。ここを含めた駆除されたヒグマの胃内容物を調べたら、春には一部シカが検出され、夏にはアリなど、秋はドングリ類やベリー類がよく食べられていた。夕張では夏にメロンが食べられていた。

Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2005.
Stomach contents of brown bears Ursus arctos in Hokkaido, Japan.
Wildlife Biology, 11: 133-144.
ヒグマは農作物に被害を出しているが、ヘアートラップによって個体識別をすると、実は同じクマが何度も出てくることがわかり、農民が考えるほど多数のクマが加害者ではないことがわかった。

ヒグマの生息地の変化
Sato, Y., T. Aoi, K. Kaji and S. Takatsuki. 2004.
Temporal changes in the population density and diet of brown bears in eastern Hokkaido, Japan.
Mammal Study, 29: 47-53. 北海道の浦幌では1970年代にヒグマの探検的な調査がおこなわれ、食性が調べられている。それと1990年代ののもを比較したところ、キイチゴなどパイオニア的な植物の比率が増加した。また糞密度もより「人里的」な場所に偏るようになっていた。このことはヒグマの生息地が変化し、ヒグマの生活内容も変化している。

浦幌のヒグマの行動圏は広い
Sato, Y., Y. Kobayashi, T. Urata, and S. Takatsuki. 2008.
Home range and habitat use of female brown bear (Ursus arctos) in Urahoro, eastern Hokkaido, Japan.
Mammal Study, 33: 99-109. 浦幌のヒグマの行動圏は43km2で、渡島半島や知床よりも広かった。とくに夏は広いがこれは食料が乏しいからと考えた。調査した2頭のうち、1頭は森林にいたが、もう1頭は農地に依存的だった。

東京郊外のタヌキの食性
Hirasawa, M., E. Kanda and S. Takatsuki. 2006.
Seasonal food habits of the raccoon dog at a western suburb of Tokyo.
Mammal Study, 31: 9-14 東京西部にある日の出町の雑木林でタヌキの糞を拾って分析したところ、春は葉、初夏はキイチゴやサクラなどの種子、秋にはさまざまな果実が出現し、冬には鳥や哺乳類も出現した。基本的には雑木林の植物を軸に季節に応じて「旬」のものを食べていたが、秋の果実としてはギンナンとカキ(柿)が多く、植栽木の果実も重要であった。しかし予測していた人工物は意外に少なかった。同じ日の出町にある廃棄物処分場跡地ではソーセージにプラスチックのマーカーを潜ませて放置したところ、林から草地への「持ち出し」が多かった。いどう距離は200m程度であった。


アライグマは水生動物を食べていなかった
高槻成紀、久保薗昌彦、南正人 (2014)
横浜市で捕獲されたアライグマの食性分析例
保全生態学研究, 19: 87-93 この論文は横浜市で有害鳥獣駆除で捕獲されたアライグマの腸内容物を分析したものです。アライグマはその名前のイメージから水辺で食物を食べると考えられ、水生動物に影響があると言われて来ました。そのような場所もあるかもしれませんが、実際、分析した例はほとんどないことがわかりました。私たちが調べてみましたが、114ものサンプルを分析しても、水生動物は頻度でも5%以下、占有率では1%以下にすぎませんでした。多かったのは果実や哺乳類などでした。なにごとも実際に分析してみなければいけません。そうすれば、予想を裏付けることもありますが、意外なことがわかることもあります。初めから思い込みで決めるけることは差し控えなければいけません。


乙女高原のテンの食性
足立高行・植原 彰・桑原佳子・高槻成紀.2016.
山梨県乙女高原のテンの食性の季節変化.
哺乳類科学 56: 17-25.
乙女高原で自然観察指導をしている植原先生がテンの糞を7年間にわたり756個も集め、足立・桑原さんが分析し、私が解析をした。全体には果実が重要で、夏には昆虫、冬と春には哺乳類が重要になるなどこれまでの知見を確認した。種子は種までわかったので調べてみると林縁に生える植物、とくにサルナシが重要であることがわかった。実は密かにシカが増加したのではないかと予測していたが、それは否定され、シカはすでに2000年時点でかなりいたと考えるほうが妥当であるらしかった。



東京西部のテンの食性、年次変化
Tsuji, Y., Y. Yasumoto and S. Takatsuki. 2014.
Multi-annual variation in the diet composition and frugivory of the Japanese marten (Martes melampus) in western Tokyo, central Japan.
Acta Theriologica, 59: 479-483.この論文は東京西部の盆堀というところのテンの食べ物を糞分析で調べたもので、ミソは異なる年代を比較したことです。テンの食性そのものを調べた論文はけっこうあり、日本でもいくつかありますが、ほとんどは1年間を調べて季節変化を出したものです。しかし、果実依存型の動物の場合、結実の年次変動があり、1年だけで決めつけるのは危険です。辻さんはニホンザルでこのことを指摘し、粘り強く経年変化を調べています。H25年度の4年生安本が分析をし、辻さんが10年ほど前に分析したものと比較しました。思ったほどの違いはありませんでしたが、それでも果実の違いはたしかにあり、90年代にはサルナシが少なかったのですが、2000年代には多くなり、おそらくそれに連動して哺乳類や鳥類への依存度が小さくなりました。


「福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析−」 
足立高行・桑原佳子・高槻成紀
保全生態学研究21: 203-217.
福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。


テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。

これまでの事例を通覧してみた
草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子
哺乳類科学 印刷中

 私は麻布大学にいるあいだに学生を指導していろいろな動物の食性を調べました。個々の卒論のいくつかはすでに論文になっていますし、これから論文にするものもあります。今回、それらを含め、個別の食性ではなく、多様度に注目してデータを整理しなおしました。多様度を、サンプルごとの多様度と、同じ季節の集団の多様度にわけて計算してみました。予測されたことですが、反芻獣の場合、食べ物が反芻胃で撹拌されているので、糞ごとの多様度と集団の多様度であまり違いがなく、単胃でさまざまなものを食べる食肉目の場合、糞ごとに違いがあり、ひとつの糞の多様度は小さくても、集団としては多様になるはずです。実際にどうなっているかを調べたら、びっくりするほど予想があてはまりました。その論文が「哺乳類科学」に受理されました。多くの学生との連名の論文になったのでうれしく思っています。下のグラフの1本の棒を引くために、山に行って糞を探し、持ち帰って水洗し、顕微鏡を覗いて分析し、データをまとめたと思うと、一枚のグラフにどれだけの時間とエネルギーが注がれたかという感慨があります。


サンプルごとの多様度(黒棒)と集団の多様度(灰色)の比較。草食獣は違いが小さいが、食肉目では違いが大きく、とくにテンではその傾向が著しい。


「山梨県東部のテンの食性の季節変化と占有率−順位曲線による表現の試み」
箕輪篤志,下岡ゆき子,高槻成紀
「哺乳類科学」57: 1-8.

2015年に退職しましたが、ちょうどその年に帝京科学大学の下岡さんが産休なので講義をしてほしいといわれ、引き受けました。それだけでなく、卒論指導も頼みたいということで4人の学生さんを指導しました。そのうちの一人、箕輪君は大学の近くでテンの糞を拾って分析しました。その内容を論文にしたのがこの論文です。その要旨の一部は次のようにまとめています。
 春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワ,コウゾ,サクラ類などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキ,クマノミズキ,ムクノキ,エノキ,アケビ属などの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.
 タイトルの副題にある「占有率−順位曲線」というのは下の図のように、食べ物の占有率を高いものから低いものへ並べたもので、平均値が同じでも、なだらに減少するもの、急に減少してL字型になるものなどさまざまです。この表現法によって同じ食べ物でもその意味の解釈が深まることを指摘しました。


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研究4.2 その他の動物(海外)ただしモンゴルを除く

2016-01-01 03:20:19 | 研究5 その他の動物
スリランカのゾウと他の有蹄類との資源利用
 スリランカでは農業増産のために開発が進み、森林は過去50年で国土の80%から30%にまで減少した。野生動物は国立公園などに閉じ込められる形になった。アジアゾウもその例外ではないが、乾季になると公園の外に出て農業被害を与え、問題となっている。こうした背景から国立公園内でゾウとスイギュウ、アクシスジカの資源利用を調べた。その結果、乾季にはとくにゾウとスイギュウの資源利用が重複すること、また植物はこれら草食獣の影響を強く受けていることがわかった。公園の管理はこうした種間関係を理解したうえでおこなうべきだと提言した。(Weerasingheとの共同研究)論文69

種子散布者としてのアジアゾウの可能性
 アジアゾウの保全は十分に認識され、活発におこなわれているが、その理由は「絶滅危惧種だから」というものである。私たちはそのことに生態学的根拠を与えるため、ゾウの種子散布者としての役割を示そうとした。そのために上野動物園で種子の消化実験をおこない、その結果と生息地での行動圏利用情報を組み合わせて、種子散布距離を推定した。(Campos-Arceizらとの共同研究。論文106)

スリランカのアジアゾウによる農業被害
 スリランカの農地でアンケート調査をおこない、ゾウによる被害を解析した。被害はほとんどがオスによるものであり、夜に侵入されることが多かった。イネの実ったあとの水田やバナナの葉が伸びる時期など農作物の生育と被害に対応があった。農家の塩や米をおいた部屋が破壊される事故もあった。こうしたゾウ側の情報と農業カレンダーを理解したうえでの被害対策を提言した。論文123

インドサイの種子散布者としての可能性

アジアゾウでおこなったと同じ実験をおこない、種子散布者の可能性を検討した。実験は多摩動物公園でおこなった。種子が消化管を通過して排泄されるのは30時間にピークがあり、小さいサイではやや速かった。回収率は++%程度で、種子散布者である可能性が示された。(野口なつ子との共同研究)

スリランカ熱帯林の哺乳類群集と果実利用
 スリランカのシンハラージャ熱帯林で樹上と樹下に果実をおき、自動撮影カメラによって訪問者を解明した。同時に周囲に同一種のない母樹を選び、果実と未詳の位置を特定した。その結果、樹上と地上で、また昼間と夜間で違う哺乳類が訪問しており、彼らの「すみわけ」が示された。(Jayasekaraとの共同研究)論文85, 105, 122

スリランカのサンバーの食性
 サンバーは熱帯の大型のシカでニホンジカと同じCervus属に属す。その食性は未知であったが、糞分析によってはじめて明らかにされ、グレーザー的であることがわかった。(Padmalalとの共同研究)論文86

チベットのクチジロジカの食性
 北海道大学のチームが持ち帰ったチベットのクチジロジカの糞を分析したところ、食物の主体はイネ科であることがわかった。クチジロジカはシカの中で最もオープンな環境に進出した種として知られ、北アメリカのワピチ(エルク)と同位的であるとされ、それからグレーザーであろうと予測されていたが、この分析はそれを支持するものとなった。論文31
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研究4.1 その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)

2016-01-01 03:20:05 | 研究5 その他の動物

霊長目
Tsuji, Y. and S. Takatsuki. 2012.
Interannual variation in nut abundance is related to agonistic interactions of foraging female Japanese macaques (Macaca fuscata).
International Journal of Primatology, 31,DOI 10.1007/s10764-012-9589-0
辻大和さんは大学の3年生のときから金華山のサルの食性を軸にした研究を継続しています。たいへんな努力家で、よいデータをたくさんとってくれました。中でもこの研究は力作で、サルの食性を長年継続調査するとともに、結実状態、その栄養分析、個体識別したサルの順位を総合的に調べて、豊作の年には群れ全員が良質な栄養を十分にとれることを示しました。それも重要ですが、今日昨年に起きたことの発見が重要でした。ブナが凶作でカヤが豊作の年の冬にはサルがカヤの木に集中するのですが、そのとき社会的に優位なサルがカヤの木を独占したのです。カヤの木はあまり大きくないため独り占めが可能なのです。劣位なサルは栄養が悪くなって妊娠しませんでした。つまり凶作年には全体に繁殖率が悪くなるのではなく、劣位なサルだけがつらい状況になるということです。これを示すにはたくさんのデータを何年も継続しなければならず、文字通りの力作となりました。

サルの食性などとシカの存在
 金華山のサルはシカがいることによって意外な影響を受けている。たとえばサルは基本的に森林を利用するのだが、金華山では草原があり、そこにメギが多い。メギはトゲがあるためにシカが食べられず、草原で多くなっている。メギは甘い蜜を出す花を咲かせ、ベリーをつけるが、サルはその両方を好むため、普段は出ない草原に出る。これはシカが生息地や資源植物を変えていることの「間接効果」とみることができる。
(辻との共同研究)論文92

 サルは木の枝から食べ残しの小枝を放り投げる。早春の、シカにとって食物が最も乏しい時期にサルが放り投げるブナの花や若葉のついた小枝は「棚からぼたもち」である。実際地上のシカの餌と小枝の栄養価は大きく違うことがわかった。サルにとってはプラスでもマイナスでもないが、シカにとっては大きな意味があり、場合によっては生死を分つ可能性もある。この論文のタイトルは「困ったときの友こそ真の友」とした。
(辻らとの共同研究)論文128

金華山のサル食性の年変動
 金華山のサルの食性は春の葉と花、夏の葉と果実、秋のナッツとベリー、冬の草本と季節変化し、サルにとっては秋から冬の食料事情が重要であるが、それは樹木の結実状態に大きく影響される。調査したあいださまざまな豊凶の組み合わせがあり、年次変動が大きいことが示された。
(辻らとの共同研究)論文105, 121

 特殊なケースとして、台風がある。2004年9月21日にメアリー台風が通過して金華山でも大木が倒れるなどした。それまでミズキの果実を樹上で食べたり、カヤの実を地上で食べたりしていたサルは、台風後はレモンエゴマの種子と地上のコナラのドングリを食べるようになった。台風によって枯葉や泥が多くなって地上のナッツを食べにくくなり、移動もたいへんなので、狭い範囲でレモンエゴマの種子を集中的に食べた。
(辻との協同研究)論文131

サルの食物と社会

 金華山のサルは春に新芽、秋から冬にはナラ類のドングリはないのでブナやケヤキ、イヌシデなどのナッツを食べる。実は夏は葉が硬くなってしまうため、食物が乏しく、アリなども食べるが、一部のサルは海岸に出て海草まで食べる。秋は長い冬に備えて脂肪を蓄積しないといけないので重要な季節であるが、木の実の実りは年により大きく違う。金華山ではブナやイヌシデなどは林に広くあるが、カヤという大きな実をつける木はポツンポツンとしかない。ブナなどが凶作でカヤが豊作の年はサルのあいだで競争が起き、地位の高いサルだけがカヤを食べることができ、彼女らは妊娠するが、下位が低いメスは妊娠できない。凶作年は群れ全体の妊娠率が低くなるのではなく、劣位のメスが妊娠しないことがわかった。
(辻大和との共同研究。彼の研究については辻大和のホームページ参照)。

齧歯目
カヤネズミの営巣
Kuroe, M., S. Ohori, S. Takatsuki and T. Miyashita. 2007.
Nest-site selection by the harvest mouse Micromys minutus in seasonally changing environments.
Acta Theriologica, 52: 355-360.
カヤネズミはイネ科群落の高い部分に巣を作ってくらす。利用するのはオギが最も多かったが、秋にはオオカサスゲも利用した。これには葉が緑色であることが重要で、オギが枯れたあとスゲにシフトした。
     

カヤネズミの食性
Okutsu,K., S. Takatsuki, and R. Ishiwaka. 2012
Food composition of the harvest mouse (Micromys minutus) in a western suburb of Tokyo, Japan, with reference to frugivory and insectivory
Mammal Study 37: 155–158. 
この論文は奥津憲人君の卒業論文の一部で、カヤネズミの食性を量的に評価したはじめての論文となりました。東京西部に日ノ出町という町があり、そこに廃棄物処分場跡地があります。要するにゴミ捨て場です。そこに土をかぶせてスポーツグランドにしたほか、一部に動植物の回復値を作りました。ススキ群落が回復し、ノウサギやカヤネズミが戻って来ました。カヤネズミは体重が10gもないほど小さなネズミで、独特の球状の巣を作ります。そこに残された糞を顕微鏡で分析したのですが、分析する前に次のようなことを予測していました。体が小さいということは体重あたりの体表面積が広いということですから、代謝量が多く、良質な食物を食べなければならないはずです。でもススキ群落はほとんどがススキでできていて硬い繊維でてきています。カヤネズミが食べられるようなものではありません。そうするとカヤネズミとしてはススキ群落にいる昆虫とか、生育する虫媒花の花や蜜のような栄養価の高いものを選んで食べている可能性が大きいはずです。実際に調べてみると確かに昆虫の体の一部や、なんと花粉が見つかったのです。ただし、カヤネズミの生活を撹乱してはいけないので、糞は繁殖の終わった12月に採集しました。したがって夏から秋までの蓄積をみたことになります。実際には季節変化があったはずで、これは今後の課題となりました。

カヤネズミの食性の季節変化と地上小動物を食べることの検証
 Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki
Zoological Science in press
カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを解明したのがOkutsu and Takatsuki (2012)です。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。

改良型トラップ

高槻成紀. 2014.
「カヤネズミの本―カヤネズミ博士のフィールドワーク報告―」畠佐代子, 世界思想社, 2014
哺乳類科学, 54:
畠佐代子さんがすばらしい本を出しました。カヤネズミは黒江さんや奥津君と論文を書いたことがあり、H25年卒業の山尾さんと食性を調べたこともあったので、とても興味をもって読みました。カヤネズミのことが、畠さんの組織する「カヤネット」によって多数の仲間によってあきらかにされたこと、その研究活動のスタイルそのものについても言及しました。

翼手目
オガサワラオオコウモリの食性
 果実食であるオガサワラオオコウモリの食性を糞から分析した。オオコウモリは自然林の果実も食べていたが、街路樹として植栽されているアコウなどの栽培植物をよく食べていた。そして飛翔できることから道路の敷設などの影響を受けずにこれらの果実を利用していた。同じ属のオオコウモリは、島のオオコウモリは嵐の影響を受けやすく、臨機応変に食性の可塑性があるといわれるが、オガサワラオオコウモリもそのような食性をもっていると考えられる。(藤井との共同研究)論文94

小笠原、媒島の埋土種子集団
 媒島にはヤギが放置され、無人島となった。ヤギの採食圧は強く、草本群落も失われて島内の広い範囲が拉致かして、沿岸にまで土砂が流失していた(1990年当時)。島内の異なる群落から土壌を持ち帰り発芽試験をしたところ、森林だけから木本の種子が発芽した。したがってヤギの影響は土壌中の種子集団にまでおよんでいたことになる。(Weerasingheとの共同研究)

長鼻目
ゾウの食べ物は臨機応変
マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性(Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban, Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )
Mammal Study, 41(3): 155-161.
これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。


ゾウの糞を拾った詩織さん

アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。


このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。

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