東北大学時代
学生時代からニホンジカを研究してきた。出発点はシカが植物群落のおよぼす影響である。これ事態を現在も継続させているが、大学院時代に群落への影響を調べるためにはシカの食性を知らないといけないと考え食性分析をした。このことがひとつの流れになっている。そして北海道から屋久島までのシカの食性を調べ、地理的な傾向があることを見いだした。反芻銃の消化器官も調べた。食性分析ですぐに落葉樹林にすむシカにはササが重要であることに気づき、その理由を解明した。またシカ密度がもっとも高い場所にはシバ群落が成立することから、その生産特性、採食耐性、種子散布などを調べた。こうしたシカ研究は、1980年代から農林業被害、さらには自然植生への影響という応用的な問題とつながるようになり、その分野でも発言や活動をしてきた。
東京大学時代
東大大学院時代に学生のテーマとして新しい動物の研究に挑戦した。ツキノワグマの食性を長期にわたって調べ、ナッツ類の結実との関係を見いだした。エゾヒグマの食性、被害問題、生息地選択などを調べた。金華山のニホンザルの食性、群落利用、社会的地位と資源利用の関係などを調べた。ニホンジカの下顎の形態が日本の南北で違うこと、これが食性と対応していること、集団の状態と歯の摩滅とに関係があることなどを示した。
留学生とは以下のような研究をした。中国の姜さんとは、モウコガゼルの消化器官と食性の関係をニホンジカのそれと比較し、反芻獣のサイズと環境との関係を論じた。スリランカのウダヤニさんとはスリランカのアジアゾウが同所的なスイギュウ、アクシスジカ、家畜ウシといかなる資源利用をしているかを解明し、乾季には競合的である可能性を示した。カンポスアルセイスさんとはスリランカとミャンマーのアジアゾウについて飼育実験とGPS発信器による行動圏利用とを組み合わせて種子散布者としての重要性を指摘した。スリランカのジャヤセカラさんと熱帯雨林の樹上と地面に果実を置いて自動撮影カメラで訪問動物を調べたところ、昼間と夜、樹上と地上で異なる動物が果実を分割しながら利用していることが分かった。ベネズエラのガリンデスシルバさんは金華山のシカのオスについて、順位と糞中テストステロン濃度とに関係があることを示した。
姜さんとのモウコガゼルの研究から、その生息地の本場であるモンゴルに行きたいと思っていたが、2002年に実現した。そしてガゼルを受け取りにしてGPS首輪で衛星から位置情報を得るという方法で世界ではじめてガゼルの季節移動のルート解明をした。ガゼルについては食べ物がヤギ、ヒツジとよく似ているので、家畜の管理が保全の鍵を握っていることを示した。モンゴル草原にはシベリアマーモットがいる。大型の齧歯類で、地下にトンネルを作るが、その出口にマウンドができ、そこだけ別の植物が生育している。そしてそこには訪花昆虫がよく訪れる。このようなマーモッとが生き物のつながりにおよぼす影響を調べた。
麻布大学
麻布大学に来てからは、金華山のシカは一貫して継続調査しながら、調査地も対象動物も拡大した。ひとつは大都市圏郊外にあるという大学のロケーションを活かして、1)ロードキル、2)里山、3)都市緑地の動物、を調べている。また長野県の八ヶ岳、アファンの森でいくつかの動物についてやや応用的な調査を始めた。モンゴルでの研究も継続発展させている。国立公園にはタヒ(野生馬)がいて個体数を増やしているので、アカシカとの競合が懸念される。またオオカミ、キツネ類、ネコ類もいて「肉食ギルド」を形成している。このような、動物の種間関係を調べている。一方、モンゴルは牧畜の国だから、家畜の管理は草原生態系に重大な意味をもっている。放牧圧の違いが群落にいかに影響するか、またそれがネズミ群集や訪花昆虫にいかに影響するかも調べている。
以下にはこれらの研究を5つの項目に分けて紹介する。