高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

研究8 その他

2016-01-01 08:27:57 | 研究
「須田修氏遺品寄贈の記録」
高槻成紀・金子倫子
麻布大学雑誌
論文ではありませんが、「須田修氏遺品寄贈の記録」を書きました。これは麻布大学の明治時代の卒業生である須田修氏の遺品をお孫さんの金子倫子様が寄贈されたことを機に、寄贈品について私とやりとりをしたことを含め紹介したものです。麻布大学は昭和20年に米軍の空襲により学舎を消失したので、戦前の資料は貴重です。それを博物館ではありがたくお受けしたのですが、それに添えるように2つの興味ふかいものがありました。ひとつは「赤城産馬會社設立願」で、須田氏のご尊父が群馬県の農民の貧困さを憂え、牧場を作ることを群馬県に提出したものです。その文章がすばらしく、文末に当時の群馬県令揖取素彦の直筆サインがありました。また「夢馬記」という読み物があり、これは須田氏が誰かから借りて書き写したもののようです。内容を読むと、ある日、馬の専門家がうたた寝をしていたら、夢に馬が現れて「最近、日本馬は品質が悪くてよろしくないから品種改良をせよという声が大きいが、そういうことをいうものは馬のことを知らず、その扱いも知らないでいて、この馬はダメだといってひどい扱いをする。改良すべきは馬ではなく騎手のほうだ」といって立ち去った。目が覚めたら月が出ていた、というたいへん面白いものでした。こうした遺品についてのやりとりをしたので、金子様にも共著者になっていただきました。




牧場設立願いに書かれた揖取群馬県令のサイン

Mammal Study」が産声をあげた頃
『哺乳類科学』57: 135-138

日本哺乳類学会はMammal Studyという英文誌を刊行していますが、これは20年前にスタートしました。この雑誌は今や国際誌となり、質も向上し、たくさんの論文が世界中から寄せられ、きびしい査読を受けるようになりましたが、かつてはそうではありませんでした。最初のときに私が編集委員長をしたのですが、今年20周年を迎えるので、現在の編集委員長が当時の思い出などを書いてほしいということで依頼がありました。思い出しながら当時のようすを書くとともに、古い文献などもひもといて学会の先人の志なども紹介しました。
 その一例です。
「哺乳類科学」の創刊号をひもとくと,九州大学の平岩馨邦先生が若手研究者に次のようなことばを贈っておられる(平岩 1961)。曰く「”Keep the fire burning”私たちのともした。いと小さい火を若いみなさんで、もりたてて大きく燃やして頂きたいものである」.
 最後につぎのようにまとめました。
 内田先生が「老いも若きも一致協力して邁進しようではありませんか」と呼びかけられたことが、こうした時代の流れとともに学会の実質的な体力を蓄えることにつながったと思う。ネズミの研究が主体であった我が国の哺乳類学は中型、大型の哺乳類も対象とするようになり、生態学や形態学、遺伝学などもカバーするようになってバランスもよくなってきたし、野生動物管理などの面も力をつけてきた(高槻 2008)。こうして学会という木が育つための土壌に栄養が蓄積し、水も光も得て力強く育ってきた。これにはよきリーダー、コミュニケーション手段の進歩、制度の改革なども大いに力になったが、しかし私は「このおもしろい哺乳類学を進める学会をよいものにしたい」という会員の情熱がそれを実現したのだと思う。まさに半世紀以上前に平岩先生が点(とも)された「いと小さい火」が大きな炎に育ったとみてよいだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究6 野生動物と人間の関係(制作中)

2016-01-01 08:20:52 | 研究3 野生動物の人間の関係
人間活動のあおりをうけて減少し、絶滅に瀕している動物がいるかと思えば、増えすぎて農林業に被害を及ぼして問題を起こしている動物、また外来種が日本の生態系に悪影響をおよぼすなど、人間と野生動物とのあいだにさまざまな問題がある。こうした問題にも取り組んでいる。

アイムサ・カンポス-アルセイス、アシアー・ラリナーガ、ウダヤニ・R・ヴェーラシンハ、高槻成紀、ルイス・サンタマリア. 2010.
動物園との野生動物の生態研究:アジア
ゾウの種子散布の事例
どうぶつと動物園, 2010 春号: 24-29.



 麻布大学は都心と山地の中間に位置し、市街地と緑地が混じり合った状態にある。こういう場所は野生動物の自動車事故(ロードキル)が多い。清掃局に回収される動物を調べたらタヌキがもっとも多く、ハクビシン、アナグマなどがこれに次いだ。緑地の程度、事故数、町田市における過去の事故死の数と分布などをもとに、ロードキルの発生パターンを類推した(立脇隆文との共同研究)。

大石侑香・高槻成紀・若生謙二・瀬戸口明久. 2015.
野生動物から家畜への道.
人と動物の関係学会誌, 41:33-42.
「奈良のシカは野生動物なのですか?」「どうしてシカはウシやウマのような家畜にならなかったのですか?」というような質問をもらい、そのことを考えてみました。

高槻成紀, 2016.
東京のタヌキ。
東京人, 372(2016年7月): 7.
東京についての話題を集めた雑誌にタヌキのことを紹介しました。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

その他の動物(有蹄類)

2016-01-01 07:41:30 | 研究
各種動物について 有蹄類
カモシカはグルメ
     
Takatsuki, S., Y. Kobayashi-Hori and T. Ito. 1995.
Food habits of Japanese serow (Capricornis crispus) in the western foothill of. Mt. Zao, with reference to snow cover.
Journal of Mammalogial Society of Japan, 20: 11-155.

 カモシカはシカと違い、群れを作らないで、単独で森林に暮らしている。なわばりをもつために低密度で生活している。蔵王のカモシカはハイイヌガヤ、ヒメアオキ、イヌツゲなどの常緑低木の葉をよく食べていた。逆に生育地に多いササはあまり食べていなかった。

Kobayashi, K. and S. Takatsuki.2012.
A comparison of food habits of two sympatric ruminants of Mt. Yatsugatake, central Japan: sika deer and Japanese serow
Acta Theriologica, 57: 343-349.
この論文は私の長年の懸案を解決したものです。私はシカの食性を調べて来ましたが、機会があってカモシカの食性も調べたことがあります。明らかにカモシカのほうが常緑樹の葉や果実などをよく食べているという確信があったのですが、いずれもシカがいない場所のカモシカだったので、その違いはカモシカの食性ではなく、場所の違いを反映しているだけかもしれないということを反証できないでいました。同じ東北地方で比較したこともありますが、シカは岩手、カモシカは山形でした。5年前に八ヶ岳で調査するようになり、そこにはシカもカモシカもいることがわかりました。それで小林謙斗君といっしょに糞分析をしました。予想が見事にあたり、シカはササをおもに食べていましたが、カモシカは常緑黄葉順などをよく食べていました。また糞の粒径もカモシカが小さいほうに偏っていました。このことにはシカとカモシカの進化が関係しており、消化生理学的な説明も可能です。

カモシカはグルメ、もうひとつの事例
 静岡県のカモシカの胃内容物111個を分析した結果、生息地の植生の多様さにもかかわらず、安定的に常緑広葉樹を中心とした木の葉が出現し、カモシカの食性の安定性が示された。これはカモシカがなわばりをもち、低密度で生活し、植生に強い影響を与えないことに関係していると考えた。
Jiang, Z., H. Torii, S. Takatsuki, and T. Ohba. 2008.
Local variation in diet composition of the Japanese serow during winter.
Zoological Science, 25: 1220-1226.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究5 モンゴル(製作中)

2016-01-01 07:20:35 | 研究2 モンゴル
モゴッドの地形と植生

いま、明治大学の森永由紀先生のチームで馬乳酒の調査をしています。私はウマの食性とウマの暮らす場所の植生の記載を分担しています。場所はモンゴルの中央北側、ブルガン県のモゴッドというところです。この写真はそこの代表的な地形と植生を示しています。
 調査をもとにモゴッドの地形と植生の対応を図示しました。



 これと実際の植生ゾーンを対応させながら説明します。

1) 山が高いと北側斜面にカンバの林(A)があります。



その下にはマツムシソウとかナンブトラノオなど綺麗な花を咲かせる花の多い土も湿り気のある層がありますが、今年は夏まで雨が降らなかったということで、花はほとんどありませんでした。

2) 崩壊斜面
 その下は斜面の角度によりますが、急であればがれ場になり、ジャコウソウやArenariaなどしかないような植物の乏しいところがあり、傾斜のゆるいところは表土の動きが少ないので植物が多くなります(B)。


斜面上部の植物の乏しいゾーン


ジャコウソウThymus、Arenaria

 しかし全体としては表土を下に「提供する」ゾーンなので植物は少なく、遠目には土色にみえます。そこから下に行くと上から移動してきた表土が溜まる場所になります。斜面が礫を主体としていたのに対して砂質あるいはそれより細かいシルトになります。おそらく土中の水分も多いものと思われ、植物が多くなります。写真でみても斜面下部は薄緑色になっています。このゾーンは凸斜面ではあまり厚みのある層にはなりませんが、凹斜面、つまり雨が降ると水が流れる斜面では扇状地になります(C1)。日本のような場所の扇状地と同じものかどうかわかりませんが、扇型の地形です。このゾーンは場所によってはかなりの面積になります。

3) 緩斜面
 その下に平地といってよいほどゆるやかな斜面(C)があり、こことその上の扇状地にはStipaというイネ科が出ます。これが一番広い面積をもち、家畜の餌場としても重要な場所です。下の緩斜面は土砂の供給頻度は扇状地よりは一段と少ないと思います。


<Stipaの出る緩斜面>

4) 沖積地
 それより下はここの最下部です(D)。ここになると地面が湿ります。この写真の例ではIrisというアヤメの仲間が生えています。これは毒草なので家畜が食べ残します。土壌は灰色のシルト質で水を抜いた田んぼのような感じです。モンゴルでは滅多に降らない雨が降ると水がたまります。


<Irisゾーン>

 その上の斜面は日本では考えにくことですが、雨がふっても表土を軽く拭くようにして中をみるとサラサラに乾いています。緩斜面は斜面からの土砂の供給がありますが、ここはそれとは違う物の動きがあると思います。斜面から降りてきた水がここにたまり斜面方向とは直角な水路としての動きをするはずです。
 この最下部の谷の幅などの関係でさらに多湿になると、Irisはなくなり、Carex(スゲ)のゾーンになります。ここはグジグジで場所によっては地表水がみえます。ここは寒冷地ですから凍結融解をくりかえすために、デコボコになります。亀甲状土またはアースハンモックと呼ばれるようです。構造土のひとつです。


<アースハンモック>

ここには、緩斜面にはまったくない、ウメバチソウやウマノアシガタなどもでてきます。

 

ウメバチソウ、ウマノアシガタ

 ただ、これがでてくるのは谷の幅が十分に広く、「底」の部分が深くて水が集まる場所に限られ、ここまでにはならないで、Irisゾーンで終わるところや、緩斜面で終わるところもあります。Carexはみずみずしい緑でいかにもよい飼料だと思え、実際、ここには家畜がいつもいます。私たちが調べたところ、この植物は現存量はさほどありませんが、生産量は大きく、それだけに家畜の重要な食物になっています。


モウコガゼルの季節移動

 モウコガゼルはかつてはモンゴル全体から中国西部にかけて広く分布していたが、現在では狩猟のためにほぼモンゴルだけに限定され、モンゴル内でも東部などに残っているだけになった。このガゼルは数百頭もの大群をなして突然表れたり消えたりすることが知られていたが、その移動ルートは不明であった。そこでガゼルを生け捕りにして電波発信器をつけ、衛星で捕捉する方法で移動ルートを解明した。夏と冬で300キロもの距離を移動することがわかった。またロシアと中国を結ぶ鉄道によって移動が阻まれていることもわかった
(伊藤健彦らとの共同研究)。論文95, 97, 102, 119

モウコガゼルとモウコノロバの動きを捉えた
 この論文はモンゴルのモウコガゼルとモウコノロバにGPS発信器をつけて動きを調べたところ、鉄道の東西で捕獲して放したにもかかわらず、一頭も鉄道を越えたことがなかったことから、こういう移動性の大きい動物の保全にとって鉄道のような障壁が障害になっていることを示したものです。いまモンゴルでは露天堀りで鉱山開発が進みつつあり、鉄道建設も予定されているので、こうした配慮が必要だと提言しています。Plos Oneという新しい形式の論文ですが、査読者の名前ものるようで、有名なFesta-Bianchetが読んでくれたようです。
Takehiko Y., Badamjav Lhagvasuren, Atsushi Tsunekawa, Masato Shinoda, Seiki Takatsuki, Bayarbaatar Buuveibaatar, Buyanaa Chimeddorj
Fragmentation of the Habitat of Wild Ungulates by Anthropogenic Barriers in Mongolia.
PLoS ONE 8(2): e56995. doi:10.1371/journal.pone.0056995



モウコガゼルの食性

 モウコガゼルは体重30キロほどの小型有蹄類であり、移動性が大きい。生息地は典型的なイネ科草原であるが、ガゼルはそのサイズからして、典型的なグレーザーではありえない。その中でできるかぎり良質な双子葉草本を食べていた(姜との共同研究)。論文62, 81, 82。ガゼルは家畜と草原を共有する場合もある。家畜にはウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどがいるが、体の大きさや消化生理からすると、その食性をガゼルと比較すると、ウマは大きく違い、ウシはやや似ており、ヤギ、ヒツジは似ていると予測された。実際に砂漠、乾燥草原、典型草原で比較してみると、ガゼルはどこでもニラの仲間と双子葉草本をよく食べ、安定していたが、ウマとウシは場所の植物を反映して違いが大きかった。ヤギ、ヒツジは牧夫が管理するために場所ごとの植物を反映しておらず、ガゼルとの共通性が大きかった。
(カンポスアルセイス、吉原佑との共同研究)論文90, 125

タヒ(野生馬)とアカシカの資源利用比較

 タヒはモウコノウマとも呼ばれ、1960年代にモンゴルで絶滅した。しかしヨーロッパの動物園にいた個体が1990年代にモンゴルに「里帰り」した。フスタイ国立公園では順調に個体数が回復しているが、その反面アカシカと資源の利用で問題がある可能性が生じて来た。そこでタヒとアカシカの資源利用を比較したところ、タヒは草原をアカシカは森林をよく利用すること、食物としてはタヒはほとんどイネ科を、アカシカはイネ科のほかに双子葉草本をかなり利用することがわかった。ただしこれは春と夏の結果であり、それ以外の季節は今後分析する予定である。
(大津綾乃との共同研究)

オオカミとキツネ類の食性比較

 フスタイ国立公園にはオオカミ、キツネ類(アカギツネ、コサックギツネ)、アナグマ、オオヤマネコなどの肉食獣がいて「肉食ギルド」を形成している。このうちオオカミとキツネ類の食性を糞分析によって解明した。オオカミは一年中哺乳類を中心に食べており、キツネ類は夏は昆虫、秋は果実、冬は果実と哺乳類をおもに食べていた。食べられていた哺乳類は、オオカミではヤギ、ヒツジを中心に中大型が多かったが、キツネ類では齧歯類が多かった。
(藤本彩乃との共同研究)

シベリアマーモットによる生態系エンジニアリングと間接効果

 モンゴルではマーモットが食用とされてきたが、最近減少したため禁猟となっている。禁猟の目的は資源確保にあるが、私たちは生物多様性の観点から保全が必要だと考えた。マーモッとは地下のトンネルに暮らすため、出入り口にマウンドを作る。マウンドはイネ科草原に異質性をもたらし、そこにはしばしば双子葉草本が多くなる。こういう現象を「生態系エンジニアリング」という。その多くの植物は虫媒花であり、ハチ、アブ、チョウなどが引きつけられてくる。こうして単調なイネ科草原に異質で生物多様性の高い「ホットスポット」が作られていることがわかった。
(佐藤雅俊との共同研究)

「ナリン」の意義の生態学的説明

Kakinuma, K. and S. Takatsuki. 2012.
Applying local knowledge to rangeland management in northern Mongolia: do 'narrow plants' reflect the carrying capacity of the land?
Pastoralism: Research, Policy and Practice, 2012, 2:23
この論文はモンゴル北部のボルガン地方で、過放牧にみえる草原が実はそうでもないということを示したものです。この地方はモンゴルとしては降水量があるので、山の北部には森林があるほどです。ですから草の伸びもよいのですが、家畜になめるように食べられて芝生のようになっています。その優占種はスゲの仲間です。共同研究者の柿沼薫さんは、牧民に聞き込みをして「ここはよい草地ですか?」と質問をしたところ、よい、悪いという返事があり、よいところには「ナリン・ウブスが生えているから」というのです。ナリンは細い、ウブスは草です。このことは双子葉草本は回復力がないが、小型のイネ科やカヤアツリグサ科は再生力があることを知っているということです。柿沼さんは実験的に柵を作って一夏おいてみたところ、中では草丈が高くなりましたが、この柵を移動させることで、家畜のお腹にはいってしまたはずの植物量を推定したのです。そうしたらみかけよりずっと生産量が多いことがわかりました。私たちはモンゴルの牧民が信じている知識を、科学的に検証し、正しいものはその理由を示したいと思っています。そして多くのことにはそれなりの理由があることがわかってきました。牧民の「知恵」としては理由がわからないままに信じていて説明ができないこともありますが、長いあいだに経験的に言い伝えられてきたことが多いと思うのです。そういうことを示すことのできた論文になりました。

遊牧の意義の生態学的説明

 モンゴルでは1990年代の耐性変化後市場経済が導入され、人口増加、家畜頭数増加、定着化が進んでいる。その結果、遊牧が不活発となり、草原が荒廃する傾向がある。遊牧を土地利用効率の低い「遅れた」農業形態だとする見解があるが、私たちは遊牧のもつプラスの意義を科学的に示したいと考えている。そこでヤギとヒツジを一群は定着的に、一群は遊牧させて、体重変化を調べたところ、ヤギでは一年目では違いがなかったが、翌年、定着群は軽くなった。ヒツジでは実験開始の初冬から定着群が大幅に軽くなり、翌年も軽いままであった。したがって遊牧は家畜の体重を増加させるのに有効であることが示された。
(森永由紀との共同研究)

過放牧が送粉系におよぼす影響

 放牧の定着化が草原の劣化を起こしているが、これは畜産生産力の低下という意味で懸念されている。しかし私たちはこれを生物多様性の劣化という視点から調べてみた。モンゴル北部のブルガンで、放牧圧に応じて軽牧区、中牧区、重牧区を選び、群落と訪花昆虫を調べたところ、軽牧では花の種類、数、昆虫の数が多く、複雑な花形の「スペシャリスト」花が多かったが、中牧では現象し、重牧ではきわめて貧弱になった。また重牧では皿状のさまざまな昆虫が訪問できる「ジェネラリスト」花しか生育していなかった。このように定着にともなう群落変化は草地生産だけでなく、生育する植物の多様性を貧化させ、昆虫との結びつきを分断するという意味で問題であることを指摘した。
(吉原、佐藤との共同研究)

やっぱり牧民の知恵だ
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia: a comparison of nomadic and sedentary grazing
[放牧のしかたがモンゴル北部のヒツジとヤギの体重季節変化におよぼす影響:遊牧群と固定群の比較]
Nature and Peoples, 27: 27-31.

 この論文はモンゴルのヒツジとヤギの体重を調べたものです。モンゴルですごしていると遊牧生活のすばらしさを、自分の生活と対比として、しみじみと感じます。そのことを文章で表現するという方法もあるでしょうが、私たちはそれを自然科学的表現をしたいと思いました。どういうことかというと、モンゴルは広いことで知られた国です。人口密度は2人/km2ほどで、日本の340人/km2とは200倍も違います。それは「無駄が多い」ことでもあり、それだけしか住めないということは「土地生産性が低い」ともいえます。農耕民である中国人はそのことを「劣っている」とみなしました。モンゴルを「蒙古」といいますが、蒙はバカということ、古は古いです。ひどいものです。今でも一部のヨーロッパ研究者にはモンゴルに対して土地生産性をあげるための「提言」をする人がいます。でも乾燥地で土地を耕すことは長い目でみれば土地を荒廃させることが明らかになっています。私たちはモンゴル人と交流するなかで、頑固だなと感じることもありますが、この頑固さがこの土地と生活を守ってきたと賞賛したくなることがあります。
 そうしたことの一つが遊牧です。農耕民の生活とこれほど違うことはありません。広い土地を季節ごとに移動する - 農耕民からすれば落ち着かない貧しい無駄の多い生活です。でもそれには根拠があるのではないかと私たちは考えました。そこで通常の遊牧をする群れと、牧民にお願いして群れを一箇所で動かさないように頼み、その体重を1年追跡してもらいました。牧民は家畜を名前をつけて一頭づつ知っています。その体重を毎月測定してもらったのです。
 ヒツジの群れはスタート時は遊牧群と固定群で体重に違いはなかったのですが、冬の終わりになると固定群のほうがどんどんやせていき、違いが出ました。翌年の回復期にはつねに固定群が軽くなりました。

ヒツジの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 ヤギのほうは最初(6月)、遊牧群のほうが少し軽かったのですが、8月には追いつき、その後は違いがなくなり、2年目は逆転しました。
 これらの結果は、表面的に「土地を有効に利用して高密度に家畜を飼うべきだ」という発想がモンゴルのような乾燥地では合理性がないことを示しています。放牧の体制はさらに複雑なシステムですが、体重ひとつとっても伝統的な遊牧に合理性があることを示せたことはよかったと思います。

ヤギの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究2 調査法など

2016-01-01 04:19:31 | 研究2 調査法
研究にとって技術や方法はきわめて重要です。直接使う方法について点検したり、改良したりしています。

調査法など

糞分析の妥当性
金華山でシカの食性を定量的に評価したくて、糞分析を採用することにしましたが、そのためにシカに既知量の飼料を与えて糞を分析する実験をしました。
Takatsuki, S. 1978.
Precision of fecal analysis: a feeding experiment with penned sika deer.
Journal of Mammalogical Society of Japan, 7: 167-180.

ヒグマでもポイント枠法
糞分析も胃内容物分析もポイント枠法という方法を採用しますが、これは食物の投影面積を評価するものです。ヒグマの胃内容物でこの方法の確認をしました。
Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2000.
Applicability of the point-frame method for quantitative evaluation of bear diet.
Wildlife Society Bulletin, 28: 311-316.

ポイント法と頻度法
Takatsuki, S., M. Hirasawa and E. Kanda. 2007.
A comparison of the point-frame method with the frequency method in fecal analysis of an omnivorous mammal, the raccoon dog. Mammal Study, 32: 1-5. 
サンプルが多数ある場合はポイント法でも頻度法でも重要なポイントは読み取れる。ポイント法は頻度にも使え、時間がかからない利点があり、頻度法では量的評価に問題がある。大量のサンプルがあれば、両方の情報から安定的に重要である食物、頻度は高いが労的には少ない食物、一時期にしか出ないがその時期には量的にも多く食べられる食物などの傾向が読み取れる。

タヌキとハクビシンの食性分析とポイント枠法
高槻成紀・立脇隆文. 2012.
雑食性哺乳類の食性分析のためのポイント枠法の評価:中型食肉目の事例.
哺乳類科学, 52: 167-177. この論文は動物の食性分析法としてのポイント枠法の有用性をアピールしたもので、実は学生実習のデータです。タヌキとハクビシンの夏と冬の胃内容物をポイント枠法で分析すると、どのくらいの時間がかかるか、カウントするにつれて食物内容が増えていくが、どのくらいで十分といえるのか、食物ごとの出現頻度と占有率はどういう関係にあるか、ポイント枠法は食物の面積を表現する方法だが、その数字と重量はどういう関係にあるかなどを調べました。その結果、時間は重量法の3分の1くらいですむこと、200カウントすればほぼ満足がいくカテゴリー暴露ができること、組成も信頼性があること、「おいしいがなかなかない食物」と「どこにでもあるがおいしくない食物」の関係が頻度と占有率のグラフから明瞭に表現できることなどがわかりました。
 この方法が普及してほしいものです。分析した胃内容物は交通事故で死んだ動物から得たもので、よい論文を書くことで私たちなりに追悼の意味をもたせました。

頻度法だけでは限界あり
高槻成紀. 2011.
ポイント枠法の評価:コメント
哺乳類科学,51: 297-303.
日本の中型食肉目の食性分析は頻度法が使われてきたのですが、頻度法による評価は問題があります。このことを総説しました。

バイオマス指数の検討
Takatsuki, S. and M. Sato. 2013.
Biomass index for the steppe plants of northern Mongolia.
Mammal Study, 38: 131-133. 植物量は刈り取って重さを測定するのが最も正確であるが、非破壊的に継続調査する場合や、重量ほど正確でなくてもよく、大量のプロットを調査する場合などは簡便な方法が必要となる。そこで被度と高さの積によって「バイオマス指数」を求め、重量との関係を調べたところ、ほぼ満足にいく精度で推定できることがわかった。

頭数推定のための糞数調査
高槻成紀・鹿股幸喜・鈴木和男.1981.
ニホンジカとニホンカモシカの排糞量・回数.
日本生態学会誌,31:435-439.
シカの頭数を知ることは重要ですが、「動くもの」の数を知るのはむずかしいことです。そのため、間接法として糞粒あるいは糞塊数を数える方法が工夫されています。その基礎として、仙台の八木山動物園で飼育下のシカで1日あたりの排糞数、回数を調べました。同時にカモシカとの比較をしました。この結果はその後の糞塊調査によく引用されます。

金華山では密度がわかっているので、それと糞粒密度がよい対応をすることを示しました。
高槻成紀.1991.
シカ密度既知の場所における糞粒法の適用例-ハビタット利用推定法の可能性-.
哺乳類科学,30:191-195.

GPSの精度を確認する
Jiang, Z., S. Takatsuki, M. Kitahara, and M. Sugita. 2012.
Designs to reduce the effect of body heat on temperature sensor in board house of GPS radio collar.
Mammal Study, 37: 165-171.
この論文は野生動物保護管理事務所のジャン(姜兆文)さんがGPS発信器の機能について野生動物の動きを調べる前に予備調査をして得た知見を記述したものです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

その他の動物(哺乳類以外)

2016-01-01 03:33:53 | 研究5 その他の動物
八ヶ岳のフクロウ
SUZUKI, T., A. HIGUCHI, I. SAITO, S. TAKATSUKI
FOOD HABITS OF THE URAL OWL (STRIX URALENSIS) DURING THE NESTLING PERIOD IN CENTRAL JAPAN.
Journal of Raptor Research, 47 304-310.
この論文は鈴木大志君の卒業論文がもとになっています。八ヶ岳にかけられた20ほどのフクロウの巣に残されたネズミの骨を分析したところ、草原性のハタネズミと森林性のアカネズミ系の骨が出て来ましたが、その比率は巣の位置と牧場との距離に比例して、牧場に近いほどハタネズミが多いという結果でした。このことは森林伐採によってネズミの生息が変わり、それがフクロウの食性に影響するということを示唆します。実際に八ヶ岳の牧場でネズミの捕獲調査をしたら、牧場ではハタネズミだけが、ミズナラ林ではおもにアカネズミが捕獲されました。日本のフクロウはユーラシア北部にヨーロッパまで分布していますが、大陸ではおもにハタネズミを食べています。日本のフクロウは密生した森林でアカネズミ食に特化したもののようです。論文の査読者とのやりとりでよい勉強をさせてもらいました。



アファンの森のカエル
小森 康之・高槻 成紀 , 2015. new!
アファンの森におけるカエル3種の微生息地選択と食性比較.
爬虫両棲類学会報 2015(1) : 15-20. この論文はアファンの森にいる数種のカエルのうち、数の多いアマガエル、ヤマアカガエル、トチガエルの3種をとりあげ、どこにいたか、何を食べていたかを比較したものです。カエルの食べ物を調べた研究はかなりあるのですが、ほとんどは田んぼのカエルです。田んぼというのはきわめて単純な環境です。またここの種についてはかなりの分析例があるのですが、同じ場所に複数いるカエルの比較をしたものはごく限られています。そういうわけで、林も、草地も、池もあるアファンの森ではどうなっているかを調べてみました。担当した小森君は両生類、爬虫類が大好きで、アファンの森に言ってはカエルをみつけて、どこにいたかを記録し、捕まえて「強制嘔吐法」という方法で、要するに喉を刺激するとカエルは胃を出す!ことを利用したテクニックがあるので、それで調べることを試みました。ところがアファンのカエルはすべて胃がカラでした。それでしかたなく一晩飼育して、糞を回収しました。糞が出るのだから胃にないはずはないのですが、クマがいて危険なので、夜の捕獲は禁じました。カエルは夜食べて昼には内容物が腸まで移動していたものと思われます。糞からどのくらいわかるか心配でしたが、3種の違いをいうということについてはそれを指摘するサンプルを得ることができました。
 どこにいたか?についてはアマガエルは草や枝の上が多く、ヤマアカガエルは林の地面、ツチガエルは池の近くだけにいました。なんとなく私たちがもつイメージを裏付けるものでした。食べ物もこれを反映していて、アマは甲虫など草や枝にいるもの、アカはミミズやカマドウマなど地上にいるものがよく出てきました。ただし、ツチはとくに水辺にいるものはでてきませんでした。
 田んぼのように畦と田しかない物理的にも単純な場所と、森林では立体構造、生えている植物、そこにすむ小動物もはるかに複雑です。しかもアファンには池もあれば、草地もあります。そこでカエルは違う場所にいて、違うものを食べることで資源分割をしていると思われることを支持するデータがとれました。
 小森君は東京の都心で生まれ育ったのですが、生き物が好きで、飼育もずいぶんした(現在も)ようです。それだけに、アファンの森の生き物の豊富さに感激したようです。がんばってよい卒論を書いてくれたので、それが学術雑誌に掲載され、うれしく思いました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

その他の動物(食肉目)

2016-01-01 03:30:39 | 研究5 その他の動物

食肉目
ツキノワグマの秋冬の食性は大きく変動
Hashimoto, Y., M. Kaji, H. Sawada and S. Takatsuki. 2003.
Five-year study on the autumn food habits of the Asiatic black bear in relation to nut production.
Ecological Research, 18: 485-492.
 これまでのツキノワグマの食性を調べてみると食べ物の主体は植物であることがわかった。とくに冬眠前のクマはドングリを大量に食べるが、ドングリ類は結実に豊凶があるため、クマの秋の食性は大きな年次変動を示すことがわかった。ナラ類の凶作年でもブナが豊作のときはブナを食べるが、ナラ類もブナも凶作の年にはサルナシなどのベリー類も食べるようになる。果実の実りはクマの動きにも影響することは明らかで、クマの保全はこうした果実の豊凶を考慮に入れる必要がある。

夕張のヒグマはメロンを食べる
Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2005.
Stomach contents of brown bears Ursus arctos in Hokkaido, Japan.
Wildlife Biology, 11: 133-144. 北海道の浦幌というところで、ヒグマの生態を調べた。ここを含めた駆除されたヒグマの胃内容物を調べたら、春には一部シカが検出され、夏にはアリなど、秋はドングリ類やベリー類がよく食べられていた。夕張では夏にメロンが食べられていた。

Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2005.
Stomach contents of brown bears Ursus arctos in Hokkaido, Japan.
Wildlife Biology, 11: 133-144.
ヒグマは農作物に被害を出しているが、ヘアートラップによって個体識別をすると、実は同じクマが何度も出てくることがわかり、農民が考えるほど多数のクマが加害者ではないことがわかった。

ヒグマの生息地の変化
Sato, Y., T. Aoi, K. Kaji and S. Takatsuki. 2004.
Temporal changes in the population density and diet of brown bears in eastern Hokkaido, Japan.
Mammal Study, 29: 47-53. 北海道の浦幌では1970年代にヒグマの探検的な調査がおこなわれ、食性が調べられている。それと1990年代ののもを比較したところ、キイチゴなどパイオニア的な植物の比率が増加した。また糞密度もより「人里的」な場所に偏るようになっていた。このことはヒグマの生息地が変化し、ヒグマの生活内容も変化している。

浦幌のヒグマの行動圏は広い
Sato, Y., Y. Kobayashi, T. Urata, and S. Takatsuki. 2008.
Home range and habitat use of female brown bear (Ursus arctos) in Urahoro, eastern Hokkaido, Japan.
Mammal Study, 33: 99-109. 浦幌のヒグマの行動圏は43km2で、渡島半島や知床よりも広かった。とくに夏は広いがこれは食料が乏しいからと考えた。調査した2頭のうち、1頭は森林にいたが、もう1頭は農地に依存的だった。

東京郊外のタヌキの食性
Hirasawa, M., E. Kanda and S. Takatsuki. 2006.
Seasonal food habits of the raccoon dog at a western suburb of Tokyo.
Mammal Study, 31: 9-14 東京西部にある日の出町の雑木林でタヌキの糞を拾って分析したところ、春は葉、初夏はキイチゴやサクラなどの種子、秋にはさまざまな果実が出現し、冬には鳥や哺乳類も出現した。基本的には雑木林の植物を軸に季節に応じて「旬」のものを食べていたが、秋の果実としてはギンナンとカキ(柿)が多く、植栽木の果実も重要であった。しかし予測していた人工物は意外に少なかった。同じ日の出町にある廃棄物処分場跡地ではソーセージにプラスチックのマーカーを潜ませて放置したところ、林から草地への「持ち出し」が多かった。いどう距離は200m程度であった。


アライグマは水生動物を食べていなかった
高槻成紀、久保薗昌彦、南正人 (2014)
横浜市で捕獲されたアライグマの食性分析例
保全生態学研究, 19: 87-93 この論文は横浜市で有害鳥獣駆除で捕獲されたアライグマの腸内容物を分析したものです。アライグマはその名前のイメージから水辺で食物を食べると考えられ、水生動物に影響があると言われて来ました。そのような場所もあるかもしれませんが、実際、分析した例はほとんどないことがわかりました。私たちが調べてみましたが、114ものサンプルを分析しても、水生動物は頻度でも5%以下、占有率では1%以下にすぎませんでした。多かったのは果実や哺乳類などでした。なにごとも実際に分析してみなければいけません。そうすれば、予想を裏付けることもありますが、意外なことがわかることもあります。初めから思い込みで決めるけることは差し控えなければいけません。


乙女高原のテンの食性
足立高行・植原 彰・桑原佳子・高槻成紀.2016.
山梨県乙女高原のテンの食性の季節変化.
哺乳類科学 56: 17-25.
乙女高原で自然観察指導をしている植原先生がテンの糞を7年間にわたり756個も集め、足立・桑原さんが分析し、私が解析をした。全体には果実が重要で、夏には昆虫、冬と春には哺乳類が重要になるなどこれまでの知見を確認した。種子は種までわかったので調べてみると林縁に生える植物、とくにサルナシが重要であることがわかった。実は密かにシカが増加したのではないかと予測していたが、それは否定され、シカはすでに2000年時点でかなりいたと考えるほうが妥当であるらしかった。



東京西部のテンの食性、年次変化
Tsuji, Y., Y. Yasumoto and S. Takatsuki. 2014.
Multi-annual variation in the diet composition and frugivory of the Japanese marten (Martes melampus) in western Tokyo, central Japan.
Acta Theriologica, 59: 479-483.この論文は東京西部の盆堀というところのテンの食べ物を糞分析で調べたもので、ミソは異なる年代を比較したことです。テンの食性そのものを調べた論文はけっこうあり、日本でもいくつかありますが、ほとんどは1年間を調べて季節変化を出したものです。しかし、果実依存型の動物の場合、結実の年次変動があり、1年だけで決めつけるのは危険です。辻さんはニホンザルでこのことを指摘し、粘り強く経年変化を調べています。H25年度の4年生安本が分析をし、辻さんが10年ほど前に分析したものと比較しました。思ったほどの違いはありませんでしたが、それでも果実の違いはたしかにあり、90年代にはサルナシが少なかったのですが、2000年代には多くなり、おそらくそれに連動して哺乳類や鳥類への依存度が小さくなりました。


「福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析−」 
足立高行・桑原佳子・高槻成紀
保全生態学研究21: 203-217.
福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。


テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。

これまでの事例を通覧してみた
草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子
哺乳類科学 印刷中

 私は麻布大学にいるあいだに学生を指導していろいろな動物の食性を調べました。個々の卒論のいくつかはすでに論文になっていますし、これから論文にするものもあります。今回、それらを含め、個別の食性ではなく、多様度に注目してデータを整理しなおしました。多様度を、サンプルごとの多様度と、同じ季節の集団の多様度にわけて計算してみました。予測されたことですが、反芻獣の場合、食べ物が反芻胃で撹拌されているので、糞ごとの多様度と集団の多様度であまり違いがなく、単胃でさまざまなものを食べる食肉目の場合、糞ごとに違いがあり、ひとつの糞の多様度は小さくても、集団としては多様になるはずです。実際にどうなっているかを調べたら、びっくりするほど予想があてはまりました。その論文が「哺乳類科学」に受理されました。多くの学生との連名の論文になったのでうれしく思っています。下のグラフの1本の棒を引くために、山に行って糞を探し、持ち帰って水洗し、顕微鏡を覗いて分析し、データをまとめたと思うと、一枚のグラフにどれだけの時間とエネルギーが注がれたかという感慨があります。


サンプルごとの多様度(黒棒)と集団の多様度(灰色)の比較。草食獣は違いが小さいが、食肉目では違いが大きく、とくにテンではその傾向が著しい。


「山梨県東部のテンの食性の季節変化と占有率−順位曲線による表現の試み」
箕輪篤志,下岡ゆき子,高槻成紀
「哺乳類科学」57: 1-8.

2015年に退職しましたが、ちょうどその年に帝京科学大学の下岡さんが産休なので講義をしてほしいといわれ、引き受けました。それだけでなく、卒論指導も頼みたいということで4人の学生さんを指導しました。そのうちの一人、箕輪君は大学の近くでテンの糞を拾って分析しました。その内容を論文にしたのがこの論文です。その要旨の一部は次のようにまとめています。
 春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワ,コウゾ,サクラ類などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキ,クマノミズキ,ムクノキ,エノキ,アケビ属などの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.
 タイトルの副題にある「占有率−順位曲線」というのは下の図のように、食べ物の占有率を高いものから低いものへ並べたもので、平均値が同じでも、なだらに減少するもの、急に減少してL字型になるものなどさまざまです。この表現法によって同じ食べ物でもその意味の解釈が深まることを指摘しました。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究4.2 その他の動物(海外)ただしモンゴルを除く

2016-01-01 03:20:19 | 研究5 その他の動物
スリランカのゾウと他の有蹄類との資源利用
 スリランカでは農業増産のために開発が進み、森林は過去50年で国土の80%から30%にまで減少した。野生動物は国立公園などに閉じ込められる形になった。アジアゾウもその例外ではないが、乾季になると公園の外に出て農業被害を与え、問題となっている。こうした背景から国立公園内でゾウとスイギュウ、アクシスジカの資源利用を調べた。その結果、乾季にはとくにゾウとスイギュウの資源利用が重複すること、また植物はこれら草食獣の影響を強く受けていることがわかった。公園の管理はこうした種間関係を理解したうえでおこなうべきだと提言した。(Weerasingheとの共同研究)論文69

種子散布者としてのアジアゾウの可能性
 アジアゾウの保全は十分に認識され、活発におこなわれているが、その理由は「絶滅危惧種だから」というものである。私たちはそのことに生態学的根拠を与えるため、ゾウの種子散布者としての役割を示そうとした。そのために上野動物園で種子の消化実験をおこない、その結果と生息地での行動圏利用情報を組み合わせて、種子散布距離を推定した。(Campos-Arceizらとの共同研究。論文106)

スリランカのアジアゾウによる農業被害
 スリランカの農地でアンケート調査をおこない、ゾウによる被害を解析した。被害はほとんどがオスによるものであり、夜に侵入されることが多かった。イネの実ったあとの水田やバナナの葉が伸びる時期など農作物の生育と被害に対応があった。農家の塩や米をおいた部屋が破壊される事故もあった。こうしたゾウ側の情報と農業カレンダーを理解したうえでの被害対策を提言した。論文123

インドサイの種子散布者としての可能性

アジアゾウでおこなったと同じ実験をおこない、種子散布者の可能性を検討した。実験は多摩動物公園でおこなった。種子が消化管を通過して排泄されるのは30時間にピークがあり、小さいサイではやや速かった。回収率は++%程度で、種子散布者である可能性が示された。(野口なつ子との共同研究)

スリランカ熱帯林の哺乳類群集と果実利用
 スリランカのシンハラージャ熱帯林で樹上と樹下に果実をおき、自動撮影カメラによって訪問者を解明した。同時に周囲に同一種のない母樹を選び、果実と未詳の位置を特定した。その結果、樹上と地上で、また昼間と夜間で違う哺乳類が訪問しており、彼らの「すみわけ」が示された。(Jayasekaraとの共同研究)論文85, 105, 122

スリランカのサンバーの食性
 サンバーは熱帯の大型のシカでニホンジカと同じCervus属に属す。その食性は未知であったが、糞分析によってはじめて明らかにされ、グレーザー的であることがわかった。(Padmalalとの共同研究)論文86

チベットのクチジロジカの食性
 北海道大学のチームが持ち帰ったチベットのクチジロジカの糞を分析したところ、食物の主体はイネ科であることがわかった。クチジロジカはシカの中で最もオープンな環境に進出した種として知られ、北アメリカのワピチ(エルク)と同位的であるとされ、それからグレーザーであろうと予測されていたが、この分析はそれを支持するものとなった。論文31
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究4.1 その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)

2016-01-01 03:20:05 | 研究5 その他の動物

霊長目
Tsuji, Y. and S. Takatsuki. 2012.
Interannual variation in nut abundance is related to agonistic interactions of foraging female Japanese macaques (Macaca fuscata).
International Journal of Primatology, 31,DOI 10.1007/s10764-012-9589-0
辻大和さんは大学の3年生のときから金華山のサルの食性を軸にした研究を継続しています。たいへんな努力家で、よいデータをたくさんとってくれました。中でもこの研究は力作で、サルの食性を長年継続調査するとともに、結実状態、その栄養分析、個体識別したサルの順位を総合的に調べて、豊作の年には群れ全員が良質な栄養を十分にとれることを示しました。それも重要ですが、今日昨年に起きたことの発見が重要でした。ブナが凶作でカヤが豊作の年の冬にはサルがカヤの木に集中するのですが、そのとき社会的に優位なサルがカヤの木を独占したのです。カヤの木はあまり大きくないため独り占めが可能なのです。劣位なサルは栄養が悪くなって妊娠しませんでした。つまり凶作年には全体に繁殖率が悪くなるのではなく、劣位なサルだけがつらい状況になるということです。これを示すにはたくさんのデータを何年も継続しなければならず、文字通りの力作となりました。

サルの食性などとシカの存在
 金華山のサルはシカがいることによって意外な影響を受けている。たとえばサルは基本的に森林を利用するのだが、金華山では草原があり、そこにメギが多い。メギはトゲがあるためにシカが食べられず、草原で多くなっている。メギは甘い蜜を出す花を咲かせ、ベリーをつけるが、サルはその両方を好むため、普段は出ない草原に出る。これはシカが生息地や資源植物を変えていることの「間接効果」とみることができる。
(辻との共同研究)論文92

 サルは木の枝から食べ残しの小枝を放り投げる。早春の、シカにとって食物が最も乏しい時期にサルが放り投げるブナの花や若葉のついた小枝は「棚からぼたもち」である。実際地上のシカの餌と小枝の栄養価は大きく違うことがわかった。サルにとってはプラスでもマイナスでもないが、シカにとっては大きな意味があり、場合によっては生死を分つ可能性もある。この論文のタイトルは「困ったときの友こそ真の友」とした。
(辻らとの共同研究)論文128

金華山のサル食性の年変動
 金華山のサルの食性は春の葉と花、夏の葉と果実、秋のナッツとベリー、冬の草本と季節変化し、サルにとっては秋から冬の食料事情が重要であるが、それは樹木の結実状態に大きく影響される。調査したあいださまざまな豊凶の組み合わせがあり、年次変動が大きいことが示された。
(辻らとの共同研究)論文105, 121

 特殊なケースとして、台風がある。2004年9月21日にメアリー台風が通過して金華山でも大木が倒れるなどした。それまでミズキの果実を樹上で食べたり、カヤの実を地上で食べたりしていたサルは、台風後はレモンエゴマの種子と地上のコナラのドングリを食べるようになった。台風によって枯葉や泥が多くなって地上のナッツを食べにくくなり、移動もたいへんなので、狭い範囲でレモンエゴマの種子を集中的に食べた。
(辻との協同研究)論文131

サルの食物と社会

 金華山のサルは春に新芽、秋から冬にはナラ類のドングリはないのでブナやケヤキ、イヌシデなどのナッツを食べる。実は夏は葉が硬くなってしまうため、食物が乏しく、アリなども食べるが、一部のサルは海岸に出て海草まで食べる。秋は長い冬に備えて脂肪を蓄積しないといけないので重要な季節であるが、木の実の実りは年により大きく違う。金華山ではブナやイヌシデなどは林に広くあるが、カヤという大きな実をつける木はポツンポツンとしかない。ブナなどが凶作でカヤが豊作の年はサルのあいだで競争が起き、地位の高いサルだけがカヤを食べることができ、彼女らは妊娠するが、下位が低いメスは妊娠できない。凶作年は群れ全体の妊娠率が低くなるのではなく、劣位のメスが妊娠しないことがわかった。
(辻大和との共同研究。彼の研究については辻大和のホームページ参照)。

齧歯目
カヤネズミの営巣
Kuroe, M., S. Ohori, S. Takatsuki and T. Miyashita. 2007.
Nest-site selection by the harvest mouse Micromys minutus in seasonally changing environments.
Acta Theriologica, 52: 355-360.
カヤネズミはイネ科群落の高い部分に巣を作ってくらす。利用するのはオギが最も多かったが、秋にはオオカサスゲも利用した。これには葉が緑色であることが重要で、オギが枯れたあとスゲにシフトした。
     

カヤネズミの食性
Okutsu,K., S. Takatsuki, and R. Ishiwaka. 2012
Food composition of the harvest mouse (Micromys minutus) in a western suburb of Tokyo, Japan, with reference to frugivory and insectivory
Mammal Study 37: 155–158. 
この論文は奥津憲人君の卒業論文の一部で、カヤネズミの食性を量的に評価したはじめての論文となりました。東京西部に日ノ出町という町があり、そこに廃棄物処分場跡地があります。要するにゴミ捨て場です。そこに土をかぶせてスポーツグランドにしたほか、一部に動植物の回復値を作りました。ススキ群落が回復し、ノウサギやカヤネズミが戻って来ました。カヤネズミは体重が10gもないほど小さなネズミで、独特の球状の巣を作ります。そこに残された糞を顕微鏡で分析したのですが、分析する前に次のようなことを予測していました。体が小さいということは体重あたりの体表面積が広いということですから、代謝量が多く、良質な食物を食べなければならないはずです。でもススキ群落はほとんどがススキでできていて硬い繊維でてきています。カヤネズミが食べられるようなものではありません。そうするとカヤネズミとしてはススキ群落にいる昆虫とか、生育する虫媒花の花や蜜のような栄養価の高いものを選んで食べている可能性が大きいはずです。実際に調べてみると確かに昆虫の体の一部や、なんと花粉が見つかったのです。ただし、カヤネズミの生活を撹乱してはいけないので、糞は繁殖の終わった12月に採集しました。したがって夏から秋までの蓄積をみたことになります。実際には季節変化があったはずで、これは今後の課題となりました。

カヤネズミの食性の季節変化と地上小動物を食べることの検証
 Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki
Zoological Science in press
カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを解明したのがOkutsu and Takatsuki (2012)です。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。

改良型トラップ

高槻成紀. 2014.
「カヤネズミの本―カヤネズミ博士のフィールドワーク報告―」畠佐代子, 世界思想社, 2014
哺乳類科学, 54:
畠佐代子さんがすばらしい本を出しました。カヤネズミは黒江さんや奥津君と論文を書いたことがあり、H25年卒業の山尾さんと食性を調べたこともあったので、とても興味をもって読みました。カヤネズミのことが、畠さんの組織する「カヤネット」によって多数の仲間によってあきらかにされたこと、その研究活動のスタイルそのものについても言及しました。

翼手目
オガサワラオオコウモリの食性
 果実食であるオガサワラオオコウモリの食性を糞から分析した。オオコウモリは自然林の果実も食べていたが、街路樹として植栽されているアコウなどの栽培植物をよく食べていた。そして飛翔できることから道路の敷設などの影響を受けずにこれらの果実を利用していた。同じ属のオオコウモリは、島のオオコウモリは嵐の影響を受けやすく、臨機応変に食性の可塑性があるといわれるが、オガサワラオオコウモリもそのような食性をもっていると考えられる。(藤井との共同研究)論文94

小笠原、媒島の埋土種子集団
 媒島にはヤギが放置され、無人島となった。ヤギの採食圧は強く、草本群落も失われて島内の広い範囲が拉致かして、沿岸にまで土砂が流失していた(1990年当時)。島内の異なる群落から土壌を持ち帰り発芽試験をしたところ、森林だけから木本の種子が発芽した。したがってヤギの影響は土壌中の種子集団にまでおよんでいたことになる。(Weerasingheとの共同研究)

長鼻目
ゾウの食べ物は臨機応変
マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性(Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban, Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )
Mammal Study, 41(3): 155-161.
これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。


ゾウの糞を拾った詩織さん

アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。


このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究1.4 シカの生態・保全

2016-01-01 03:19:10 | 研究1 シカ
シカの生態など

シカとカモシカの排糞数

 シカは1回に約100個、1日に12回くらいの排糞をする。カモシカも1日の総数は1000個あまりだが、回数は3回くらいで1回の回数は300個くらいであった。この数字はその後、糞粒法、糞塊法などに応用された。
高槻成紀・鹿股幸喜・鈴木和男.1981.ニホンジカとニホンカモシカの排糞量・回数. 日本生態学会誌,31:435-439.

シカの分布は雪が少ないところ
 一般に有蹄類は蹄面積が小さいから雪を苦手とする。ニホンジカの蹄圧と脚の長さから雪の不快場所を苦手とすると予測され、実際のシカ分布と積雪深の関係を調べたところ、1m以深にはほとんど分布していないことがわかった。
Takatsuki, S. 1992. Foot morphology and distribution of Sika deer in relation to snow depth. Ecological Research, 7: 19-23.

シカは雪を避けて上下移動
 岩手県のシカに電波発信器を装着して上下移動を調べたところ、積雪にともなって山を下りる個体と、一年中低地にいるシカがいることがわかった。
Takatsuki, S., K. Suzuki, and H. Higashi. 2000.
Seasonal up-down movements of sika deer at Mt. Goyo, northern Japan. Mammal Study, 25: 107-114.

シカはなじみの場所に戻る
 金華山のシカを強制移動し、電波発信器を装着して追跡したところ、放逐後すぐにもといた場所に向かって移動を始め、その後、シカ密度の高い神社周辺を回避してから、自分のなじみの行動圏にもどった。(鈴木らとの共同研究)論文78

シカの一生を追う

 南正人氏、大西信正氏を中心に金華山のシカを個体識別して長期追跡調査が継続されている。毎年3月に集まって生け捕りをして、大きさや遺伝子情報をとるなどの調査をしている。これにより個体別の生長、社会的順位と繁殖成功、メスの妊娠履歴、体格と順位など多くの興味深い事実があきらかになりつつある。

Minami, M., N. Oonishi, N, Higuchi, A. Okada and S. Takatsuki. 2012.
Costs of parturition and rearing in female sika deer (Cervus nippon).
Zoological Science, 29: 147-150.
この論文は金華山で長年シカの観察をしてきた南さんたちのグループがとってきたデータと合同でおこなってきた体重などの計測を総合的に解析したもので、メスが出産育児をすることの負担がいかに大きいかを示しました。金華山のメスジカは妊娠率が低いことは知られていました。<以下未完>

シカの食物と形態をめぐって
Ozaki, M., G. Suwa, T. Ohba, E. Hosoi, T. Koizumi and S. Takatsuki. 2007.
Correlations between feeding type and mandibular morphology in the sika deer.
Journal of Zoology, 272: 244-257.
 北海道から九州までの9つのシカ集団の歯を解析したところ、イネ科をよく食べる集団ほど臼歯(M1, M3)の磨滅が速く、降水量とは負の相関があった。M3の磨滅と寿命には関係があった。金華山のシカの歯の磨滅はとびぬけて速かった。(尾崎らとの共同研究)


Ozaki, M., K. Kaji, N. Matsuda, K. Ochiai, M. Asada, T. Ohba, E. Hosoi, H. Tado, T. Koizumi,
G. Suwa and S. Takatsuki.
2010.
The relationship between food habits, molar wear and life expectancy in wild sika deer populations.
Journal of Zoology, 280: 202-212.
DNA研究によって明らかにされたニホンジカの「北タイプ」と「南タイプ」を比較すると、北タイプのほうが第一大臼歯(M1)とM3、下顎の突起が大きかった。これは過去に起きた「グレーザー化」によるものと考えた。

保全関連
シカによる林業被害

 農林業の被害は面積や金額で評価される。しかしそこには生物学的な現象があるはずである。たとえばヒノキへのシカの採食は生息地のササが雪に埋もれたときに発生するが、それはシカにとっての食物環境の変化を反映しているからである。(上田との共同研究)
Ueda, H., S. Takatsuki and Y. Takahashi. 2002.
Bark stripping of hinoki cypress by sika deer in relation to snow cover and food availability on Mt Takahara, central Japan.
Ecological Research, 17: 545-551.

Ueda, H., S. Takatsuki and Y. Takahashi. 2003.
Seasonal change in browsing by sika deer on hinoki cypress trees on Mount Takahara, central Japan.
Ecological Research, 18: 355-364.

伐採とシカの生息地利用
 岩手県五葉山の低山地に広域の伐採がおこなわれた場所がある。伐採地は光条件がよくなり、シカの食料であるミヤコザサが増加するが、シカは行動的特性から林縁から遠くへは出ない。その結果、ササへの影響やシカ糞の密度は林縁に集中することがわかった。
Takatsuki, S. 1989.
Edge effects created by clear-cutting on habitat use by Sika deer on Mt. Goyo, northern Honshu, Japan.
Ecological Research, 4: 287-295.

 また送電線沿いは失火の際に延焼を防ぐため伐採帯があるが、ここはシカにとっての食料があり、かつ両側に逃げ込むための森林もあるため、シカの利用度が高い。
Takatsuki, S. 1992.
A case study on the effects of a transmission-line corridor on Sika deer habitat use at the foothill of Mt. Goyo, northern Honshu, Japan. Ecological Research, 7: 141-146.

シカ生息地における伐採と植林の影響

 シカの生息地には人工林化された場所も多い。そのような場所には伐採後の明るい群落、植林木がまだ若い明るい人工林、その後の暗い人工林がある。また植林をしないで広葉樹林へ遷移を進めた林分もある。営林署の林班図をもとに造林後の年数を比較し、時間軸上に植林木以外の植物のバイオマスを測定したところ、伐採後の増加のあと、人工林では10年ほどで急減し、その後も減少して貧弱な暗い林になったが、落葉樹林では中途までは同じパターンをとったが、若い林で減少したあと、回復することがわかった。Takatsuki, S. 1990. Changes in forage biomass following logging in a sika deer habitat near Mt. Goyo. Ecological Review, 22(1): 1-8.

シカにとって牧草

高槻成紀.2001.
シカと牧草-保全生態学的な意味について-.
保全生態学,6:45-54.
シカの生息地に牧場があればシカは牧草をよく利用する(論文45)。牧草は栄養価が高く、長い期間生育するように品種改良されてきたから、シカにとっては理想的な飼料である。日本では道路沿いに牧草が生育して、林道などを通じて山のシカにも食料を提供することになっている。

シカと牧場利用

Takatsuki, S. and S. Nakano. 1992.
Food habits and pasture use of Sika deer at a foothill of Mt. Goyo, northern Japan.
Ecological Review, 22(3): 129-136. 牧草は栄養価が高く、消化率もよいから、シカの生息地に牧場ができるとシカは好んで利用しようとする。ただシカはオープンな場所を怖がってでない側面もある。岩手県五葉山の山麓には牧場があるが、ここのシカは牧草をよく利用しているが、とくに牧場内に林がある部分をよく利用していた。

高槻成紀. 2012.
シカと高山.
私たちの自然, 2012(1/2):24-27.

Yamada, H.and S. Takatsuki. 2015.
Effects of deer grazing on vegetation and ground-dwelling insects in a larch forest in Okutama, western Tokyo
International Journal of Forest Research, Vol. 2015, ID 687506, 9 pages
この論文は山田穂高君の修士論文をもとにしたもので、奥多摩に作られたシカ排除柵の内外を比較したものです。通常は植物への影響を調べるのですが、この研究では植物の変化が土壌の動きにおよぼす影響と、地上にすむ昆虫への波及効果も調べました。植物がなくなって減る昆虫がいたと同時に、糞虫や死体を分解するシデムシの仲間は柵の外で多いという結果が得られました。こうしてシカがいることが植物の変化を解して物理環境にもそこにすむ昆虫にも多様な影響をおよぼすことを示すことができました。



高槻成紀, 2016.
いきものばなし10, ニホンジカ
ワンダーフォーゲル, 2016.2: 156-157.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究1.3 シカの個体群学

2016-01-01 03:18:36 | 研究1 シカ
シカの個体数

 宮城県の金華山という面積10km2ほどの島には500頭ほどのシカが生息している。島という閉鎖系に何頭のシカが生息できるかは生物と環境の関係を解明する生態学の基本的な課題といえる。このシカもシカの頭数は1966年に我が国で初めて調査され、その後も継続的に調査されてきた。

大量死

 その間少なくとも2度の「大量死」が起きた。私たちはその時の死体を回収し、年齢構成などを明らかにした。(鈴木和男、三浦慎悟らとの共同研究)
鈴木 和男, 高槻 成紀.1986. 金華山島における1984年春のシカの大量死. 哺乳類科学, 26:.33-37
Takatsuki, S., S. Miura, K. Suzuki and K. Ito-Sakamoto. 1991. Age structure in mass mortality in the sika deer (Cervus nippon) population on Kinkazan Island, northern Japan. Journal of Mammalogical Society of Japan, 15: 91-98.
Takatsuki, S., K. Suzuki and I. Suzuki. 1994. A mass-mortality of Sika deer on Kinkazan Island, northern Japan. Ecological Research, 9: 215-223.

シカの個体群学的パラメータ

 シカの頭数変動は生まれる数と死ぬ数とのバランスの上になりたっている。個体レベルでは何歳で妊娠し。何歳まで生きるかが重要な情報となる。私たちはこれを栄養状態のよい岩手県の五葉山と栄養状態の悪い宮城県金華山で比較した。五葉山では1歳から妊娠を始め、妊娠率は80%以上(双子もある。論文64)だが、金華山では4歳くらいまでずれこみ、妊娠率も50%程度と低い。このように環境の違いはシカの繁殖に大きな影響を与えている(南正人、大西信正、岡田あゆみ、樋口尚子らとの共同研究)。

小さい子ジカは死にやすい
 エゾシカの出産日と死亡率の関係を調べた。遅生まれの子ジカは冬を迎えるまでの生長日数が限られるために、十分な体重に達する前に冬を迎え、死亡率が高くなる。その臨界体重は20kgであったが、これは岩手県五葉山の死亡個体の体重が20kg以下であり、生存個体がそれ以上であるのと対応していた。(松浦との共同研究)
Takatsuki, S. and Y. Matsuura. 2000. Higher mortality of smaller sika deer fawns. Ecological Research, 15: 237-240.

シカの初期死亡が初めて明らか

 金華山のシカで、1994年から2005年にあいだに生まれた234個体を追跡したところ、生後2年以内に96頭が死んだ。最初の1週間で死んだのは21頭で、オスのほうが多かった(13頭)。最初の冬に23.1%が死に、出生時からは32.5%が死んだ。2年目以降は死亡率が急に小さくなった。内訳をみるとカラスによる攻撃が18.9%、転落などの事故死が10.8%などで、不明が多かった(59.5%)。(南、大西らとの協同研究)
Minami, M., N. Ohnishi, N. Higuchi, and S. Takatsuki. 2009. Early mortality of sika deer, Cervus nippon, on Kinkazan Island, northern Japan. Mammal Study, 34: 117-122.

シカの栄養状態診断指標としての腎脂肪

 岩手県五葉山のシカは狩猟されているため低密度で栄養状態がよい集団である。性、年齢によっても季節的なパターンが違うが、その基礎として腎脂肪指数と大腿骨髄脂肪の関係を示した。
Takatsuki, S. 2000. Kidney fat and marrow fat indices of the sika deer population at Mt. Goyo, northern Japan. Ecological Research, 15: 453-457.
Takatsuki, S. 2001. Assessment of nutritional condition in sika deer by color of femur and mandible marrows. Mammal Study, 26: 73-76.

シカの歯の摩滅。同じ島でも場所により違う
Florent Rivals, Seiki Takatsuki, Rosa Maria Albert, and Laia Maci�. 2014.
Bamboo feeding and tooth wear of three sika deer (Cervus nippon) populations from northern Japan.
Journal of Mammalogy, 95:1043-1053.
Rivalsさんはフランス人でいまスペインの古生物学研究所にいます。大量死に興味があるらしく、私たちの1984年の金華山シカ大量死の論文を読んで私に連絡をくれ、標本を調べさせてほしいということで昨年麻布大学に来ました。ニホンジカにとってはササが重要であること、金華山は特殊でササを食いつくし、今はシバに依存的であることを話し、その流れで論文を書きました。Rivalsさんの手法はシリコンで臼歯の表面を写し取り、それから雄型をとって電顕で表面の摩耗を読み取るというものです。イネ科の葉には珪酸体というガラス質の小さな細胞があり、これが歯の表面をこすったり、けずったりするのですが、その珪酸体が植物の種によって形や大きさが違うため、表面の形が違うというわけです。金華山のシバを食べるときは、土壌鉱物が雨で歯につく機会が大きく、それが歯を大きくけずることがわかりました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究1.2 シカと植物

2016-01-01 03:18:18 | 研究1 シカ
シカが森林に与える影響

 シカは毎日大量の植物を食べ、しかも高密度で生活するから、植物群落は強い影響を受ける。そういう環境の群落は構造的にも、種の組成も大きく変容するが、森林群落を動的にみると天然更新(世代を引き継ぐこと)が阻害されることになる。これを金華山のブナ林で調べたところ、種子生産と実生の発生は本土並みであったが、その後シカに食べられて更新が阻害されていることが示された(牛来拓二との共同研究)。
Takatsuki, S. and T. Gorai. 1994. Effects of Sika deer on the regeneration of a Fagus crenata forest on Kinkazan Island, northern Japan. Ecological Research, 9: 115-120.
また金華山のモミ林と対岸の牡鹿半島を比較し、下生えや実生が貧弱になっていることを示した。(平吹嘉彦との共同研究)
Takatsuki, S. and Y. Hirabuki. 1998. Effects of sika deer browsing on the structure and regeneration of the Abies firma forest on Kinkazan Island, northern Japan. Journal of Sustainable Forestry, 6: 203-221.
平吹喜彦・高槻成紀.1994. 牡鹿半島駒ケ峰に残る温帯混交林の組成と構造. 宮城教育大学紀要,29:33-47.

山梨県の乙女高原
山梨県の乙女高原はきれいな花がたくさんあることで多くの人が楽しんできたが、最近シカが増えてそれらの花が少なくなったといわれる。そこで3年前に作った咲くの内外で植物の草丈を調べたら、ほとんどの植物は柵内で高くなった。つまり確かに柵の外ではシカに食べられて生育が抑制されていることがわかった。ただしシカがこのまないヨツバヒヨドリtp、シカに食べられても再生力のあるススキは柵内外で違いがなかった。
Takahashi, K., A. Uehara and S. Takatsuki. 2013. Plant height inside and outside of a deer-proof fence in the Otome Highland, Yamanashi, central Japan. Vegetation Science,30: 127-131.



シカのすむ島の群落

 四国や九州にはシカのすむ小さな島があり、群落は強いシカの影響を受けている。そういう場所に共通なのは1)森林の更新阻害、2)シカの嫌いな植物の顕在化、3)シバ群落の発達などである。シカの嫌いな植物は場所によりさまざまだが、テンナンショウ、キイチゴなどは同じ属で違う種が見られる。
Takatsuki, S. 1977. Ecological studies on effect of Sika deer (Cervus nippon) on vegetation, I. Evaluation of grazing intensity of Sika deer on vegetation on Kinkazan Island, Japan. Ecological Review, 18(4): 233-250.
Takatsuki, S. 1980. Ecological studies on effect of Sika deer (Cervus nippon) on vegetation, II. The vegetation of Akune Island, Kagoshima Prefecture, with special reference to grazing and browsing effect of Sika deer. Ecological Review, 19(3): 123-144.
Takatsuki, S. 1982. Ecological studies on effect of Sika deer (Cervus nippon) on vegetation, III. The vegetation of Iyo-Kashima Island, southern Shikoku, with reference to grazing effect of Sika deer. Ecological Review, 20(1): 15-29.
Takatsuki, S. 1985. Ecological studies on effect of Sika deer (Cervus nippon) on vegetation, VI. Tomogashima Island, Wakayama Prefecture. Ecological Review, 20(4): 291-300.
Ecological studies on effect of Sika deer (Cervus nippon) on vegetation, VII. Miyajima Island. Ecological Review, 21(2): 111-116.

アズマネザサへのシカの影響
 アズマネザサは金華山の一部にしかないので、人が持ち込んだものである可能性が大きいが、そこではとくに冬の重要な餌である(論文5)。そのアズマネザサは本来3mにもなるが金華山では30cmくらいしかない。しかし密度はたいへん高く、面積当たりの総慎重はシカがいない場所と違いがなかった。このように一部の植物は食べられても再生することで維持されており、そのことによってシカに安定的な食物となっている。
Takatsuki, S. 1980. The effects of Sika deer (Cervus nippon) on the growth of Pleioblastus chino. Japanese Journal of Ecology, 30: 1-8.

シカとミヤコザサ

 シカは細い足の先に小さな蹄をもっているため、深い雪が降ると沈んでしまい、動けなくなる。そのため分布も雪の少ない地方に偏っている。北日本の太平洋側はそういう場所にあたるが、そこにはミヤコザサという枝分かれしない、草丈の低いササがある。ササの体制は積雪と深い関係があり、雪の少ない場所では枝を持たず、冬芽を地面近くにもつミヤコザサでなければ生育できない。「ミヤコザサ帯」はシカの分布と一致し、その生態はシカの採食にも適応的であることがわかった。
高槻成紀.1992.「北に生きるシカたち」, どうぶつ社

ササの減少と波及効果
 京都芦生ではシカが増加してチマキザサが減少した。ササは被度が大きく、常緑でもあるので、森林全体の生物に大きな影響をおよぼす。今後の影響が懸念される。(田中との共同研究)
田中由紀・高槻成紀・高柳敦. 2008. 芦生研究林におけるニホンジカ(Cervus nippon)の採食によるチマキザサ(Sasa palmata)群落の衰退について. 森林研究, 77: 13-23.

シバ群落

 森林が伐採されたり、木が倒れて明るい場所ができたりすると、ススキが侵入することが多い。ササの多い場所ではササ群落になることもある。そういう場所でシカの密度が高くなるとススキ群落がシバ群落に移行する。これは「退行遷移」とされる。シバは形態学的に刈り取りに適応的で、シバとススキを混植して違う頻度で刈り取ると、低頻度ではススキ群落、高頻度ではシバ群落になることが示された。
 シバ群落はきわめて生産性が高いため、シカを「引きつける」が、現存量は小さいので、冬になると価値が非常に小さくなる。したがって一年を通じてみれば、シバ群落だけでは多数のシカを「養う」ことはできない。このことは有蹄類の生息地は景観レベルで理解されるべきことを示している。(伊藤との共同研究)
Ito, T. Y. and S. Takatsuki.2005. Relationship between a high density of sika deer and productivity of the short-grass (Zoysia japonica) community: a case study on Kinkazan Island, northern Japan. Ecological Research, 20: 573-579.

大量死と植物の反応
 1984年に金華山でシカの「大量死」が起きて個体数が半分くらいに減少した。その年には、それまでシカに食べられて盆栽状になっていたガマズミが枝を伸ばし、それまでとはまったく違う樹形を示した。このことから逆に高密度下では植物がつねに強い採食影響を受けていることが示された。(坂京子との共同研究)
Takatsuki, S. and K. Saka. 1988. Recovery of Viburnum dilatatum after a die-off of sika deer on Kinkazan Island. Ecological Review, 21(3): 177-181.

シカによるシバの種子散布

 シバ群落は高い生産性のためにシカを「引きつける」が、その結果、大量の種子が葉とともに取り込まれる。食べられた種子は消化過程で傷つくが、おもしろいことにシバの種子は傷つくことでむしろ発芽率が向上する。したがってシバはシカによって種子散布をされていることになるが、実際には明るい群落に排泄されればよいが、暗い森林に排泄された場合は発芽率が低く、無駄になることがわかった(伊藤健彦、今栄博司、藤田裕輝との共同研究)。

シカと生息地選択

 金華山の群落に対してシカがどういう選択性を示すかを調べたところ、一般に草本群落がよく利用され、森林群落は選択性が低かった。草本群落でもシバ群落はとくに生育期は非常によく選択されたが、冬には激減し、逆にアズマネザサ群落は冬でもよく利用された。森林では針葉樹林はむしろ冬によく利用された。
高槻成紀.1983. 金華山島のシカによるハビタット選択.哺乳動物学雑誌,9:183-191.

尾瀬のシカは湿地を「耕す」
 
 多雪地である尾瀬にニホンジカが侵入したことは驚きをもって受け止められたが、そのシカの群落への影響を調べたところ、湿地を掘ってミツガシワの地下茎を食べていることがわかった。ミツガシワは緩い水流のある深い湿地に生育するので、その生育値が掘り起こされると湿原の水流が変化し、ほかの植物も影響を受ける。これは一種の「生態系エンジニア」といえる。(五十嵐との共同研究)
Takatsuki, S. 2003. Use of mires and food habits of sika deer in the Oze Area, central Japan. Ecological Research, 18: 331-338.
Igarashi, T. and S. Takatsuki. 2008. Effects of defoliation and digging caused by sika deer on the Oze mires of central Japan. Biosphere Conservation, 9: 9-16.

シカによる植生への影響:総説
 こうしたシカの影響についてBiological Conservation誌に総合的な総説をした。
Takatsuki, S. 2009. Effects of sika deer on vegetation in Japan: a review. Biological Conservation, 142:1922-1929.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究1.1 シカの食性関係

2016-01-01 03:18:00 | 研究1 シカ
シカの研究
 シカが植物群落におよぼす影響というテーマで研究を始めたので、その後もそれを発展させながら、いろいろな研究に展開しています。その軸になるのはシカが植物を「食べる」ことで生き物同士のつながりが生まれているということにあります。シカの研究は1.1シカの食性、1.2シカの群落への影響、1.3シカの個体群、1.4その他に分かれます。

ニホンジカの食性を調べる

 私が研究を始めたいまから30年くらい前、シカの食べ物については図鑑などに「シカは木の葉や草の葉やササなどを食べる」と書いてあるだけだった。私はシカと植物の関係を調べるために、どうしてもシカの食べ物の内容を知らないといけないと考えて分析を始めた。最初は糞分析という方法を開発し、後には胃内容物が確保されるようになり、ニホンジカで初めて食性を定量的に分析できるようになった。
Takatsuki, S. 1978. Precision of fecal analysis: a feeding experiment with penned sika deer. Journal of Mammalogical Society of Japan, 7: 167-180.

シカの食物と形態をめぐって
 北海道から九州までの9つのシカ集団の歯を解析したところ、イネ科をよく食べる集団ほど臼歯(M1, M3)の磨滅が速く、降水量とは負の相関があった。M3の磨滅と寿命には関係があった。金華山のシカの歯の磨滅はとびぬけて速かった。(尾崎らとの共同研究)論文112
 DNA研究によって明らかにされたニホンジカの「北タイプ」と「南タイプ」を比較すると、北タイプのほうが第一大臼歯(M1)とM3、下顎の突起が大きかった。これは過去に起きた「グレーザー化」によるものと考えた。(尾崎らとの共同研究)
"Ozaki, M., K. Kaji, N. Matsuda, K. Ochiai, M. Asada, T. Ohba, E. Hosoi, H. Tado, T. Koizumi,
G. Suwa and S. Takatsuki. 2010.." The relationship between food habits, molar wear and life expectancy in wild sika deer populations. Journal of Zoology, 280: 202-212.

同じ種でも食べ物は違う

 動物種ごとに栄養生理学や消化器官の特性などにより食性が決まるが、同じ種の中でも違う可能性がある。とくにシカのように性的二型が明瞭な種ではその可能性が大きい。ニホンジカでオス、メス、子ジカで食性を比較したところ、春と秋にオス、メス、子ジカの順で栄養価が高いことがわかった。ただし食物が最も豊富な夏はどのクラスのシカもよい食物を摂取できるから、また冬には逆にどのクラスも共通に選択の余地がなくなるために違いがなくなると解釈した。
Padmalal, U.K.G.K. and S. Takatsuki. 1994. Age-sex differences in the diets of Sika deer on Kinkazan Island, northern Japan. Ecological Research, 9: 251-256.
 富士山のシカの冬の消化管内容物と消化管を調べたところ、「大きい個体ほど低質で大量に食べるため、消化管が大きい」という予測ははずれ、妊娠メスの胃内容物は質もよく、胃も大きく、腸も長かった。このことから、栄養要求の大きいメスは冬のあいだ質も量もよいものを確保していると考えた。(姜との協同研究)
Jiang, Z, S. Hamasaki, H. Ueda, M. Kitahara, S. Takatsuki, and M. Kishimoto. 2006. Sexual variations in food quality and gastrointestinal features of sika deer (Cervus nippon) in Japan during winter: implications for feeding strategy. Zoological Science, 23: 543-548.

シカはササを食べる

 食性分析に大きな成果はシカはササをよく食べるということがわかったことである。分かってしまえば当たり前のようなことだが、生息地の豊富にあり、しかも常緑であるササは、越冬期のシカにとってはとくに重要である。しかし草食獣の研究が進んでいる欧米にはササがないため、このことはまったく知られていなかった。
白糠
Campos-Zrceiz, A. and S. Takatsuki. 2005. Food habits of sika deer in the Shiranuka Hills, eastern Hokkaido - a northern example among the north-south variations of food habits in sika deer -. Ecological Research, 20: 129-133.
日光
Takatsuki, S. 1983. The importance of Sasa nipponica as a forage for Sika deer (Cervus nippon) in Omote-Nikko. Japanese Journal of Ecology, 33: 17-25. 高槻成紀.1986. 1984年に大量死した日光のシカの胃内容物分析(中間報告). 栃木県立博物館報告,4:15-22
五葉山
Takatsuki, S. 1986. Food habits of Sika deer on Mt. Goyo. Ecological Research, 1: 119-128.
金華山
Takatsuki, S. 1980. Food habits of Sika deer on Kinkazan Island. Science Report of Tohoku University, Series IV (Biology), 38(1): 7-31.
山梨県乙女高原
Takahashi, K., A. Uehara and S. Takatsuki. 2013. Food habits of sika deer at Otome Highland, Yamanashi, with reference to Sasa nipponica. Mammal Study, 38: 231-234.
京都芦生
田中由紀・高槻成紀・高柳敦. 2008. 芦生研究林におけるニホンジカ(Cervus nippon)の採食によるチマキザサ(Sasa palmata)群落の衰退について. 森林研究, 77: 13-23.)
屋久島
Takatsuki, S. 1989. Pseudosasa owatarii as a forage for sika deer on Yakushima Island. Bamboo Journal, 7: 39-47.,
Takatsuki, S. 1990. Summer dietary compositions of sika deer on Yakushima Island, southern Japan. Ecological Research, 5: 253-260.

シカの食性:ミクロスケール:金華山のシカの食性は場所により違う、でもイネ科

 はじめに金華山のシカの食性を調べた。胃内容物はとれないので、糞分析法を開発した。それを野外に応用したが、小さな島といえど場所によって違いが大きいことがわかった。神社境内にいるシカは夏にシバをよく食べたが、山の中にいるシカはススキなどのイネ科をよく食べ、神社北の草原にいるシカはアズマネザサをよく食べた。しかしいずれもイネ科を食べるという点では一貫していた。
Takatsuki, S. 1980. Food habits of Sika deer on Kinkazan Island. Science Report of Tohoku University, Series IV (Biology), 38(1): 7-31.

シカの食性:メソスケール
 栃木県というスケールでのシカの食性変異を調べると、山地はミヤコザサが多かったが、低地になるとそのほかのイネ科が多くなった。
Takatsuki, S. and H. Ueda. 2007. Meso-scale variation in winter food composition of sika deer in Tochigi Prefecture, central Japan. Mammal Study, 32: 115-120.
また伊豆半島でも上部ではササ、下部では常緑広葉樹が主体であり、垂直変異を示した。
Kitamura, T., Y. Sato and S. Takatsuki. 2010. Altitudinal variation in the diet of sika deer on the Izu Peninsula: patterns in the transitional zone of geographic variation along the Japanese archipelago. Acta Theriologica, 55:89-93.

山梨県乙女高原のシカの食性

Vegetation Science より許可を得て掲載
この論文は高橋和弘君が乙女高原のシカの食性を糞分析法で明らかにしたもので、次の2点が評価されました。これまでのシカの食性論文の多くは季節変化を4季節で表現してきましたが、この論文ではほぼ毎月の月変化を示しました。また、その結果、冬を中心としてミヤコザサに依存的な季節と、ササに依存しない季節とに2分されることを示しました。このことは乙女高原が森林伐採によって草原となり、その後も刈り取りで草原が維持されていることを反映しています。もし森林だけであれば、岩手県五葉山や栃木県日光などのように一年中ミヤコザサに依存的なはずです。この論文では糞分析に加えて、ササの採食率も測定しました。

Takahashi, Kazuhiro , Akira Uehara and Seiki Takatsuki
Food habits of sika deer at Otome Highland, Yamanashi, with reference to Sasa nipponica.
Mammal Study, 38: 231-234.

シカの食性:マクロスケール:日本列島での変異


 各地でのシカの食性が解明されるにつれて、北日本ではササやイネ科を、南西に本では常緑樹の葉や果実をよく食べる傾向があることが分かって来た。前者をグレイザー、後者をブラウザーといい、関東以北はグレイザー、中国地方以南はブラウザーであることがわかった。しかし房総、東海、近畿などでは場所による変異が大きく移行帯であることがわかった。
Takatsuki, S. 2009. Geographical variations in food habits of sika deer: the northern grazer vs. the southern browser. Sika Deer: Biology and Management of Native and Introduced Populations, (eds. D. R. McCullough, S. Takatsuki and K. Kaji): 231-237. Springer, Tokyo.

 シカの食性の垂直分布をみると、ほとんどの場所では同じ植生帯に属すため大きな違いはないが、屋久島では中腹以下ではブラウザーだが、山頂付近だけヤクシマヤダケを主体とするグレーザーであった。
Takatsuki, S. 1989. Pseudosasa owatarii as a forage for sika deer on Yakushima Island. Bamboo Journal, 7: 39-47.,
Takatsuki, S. 1990. Summer dietary compositions of sika deer on Yakushima Island, southern Japan. Ecological Research, 5: 253-260.

また伊豆半島でも上部ではササ、下部では常緑広葉樹が主体であった。
Kitamura, T., Y. Sato and S. Takatsuki. 2010. Altitudinal variation in the diet of sika deer on the Izu Peninsula: patterns in the transitional zone of geographic variation along the Japanese archipelago. Acta Theriologica, 55:89-93.

シカとカモシカの食性比較

 同じ反芻獣であるニホンジカとニホンカモシカでありながら、シカはササやイネ科を食べるが、カモシカは木本の葉や果実をよく食べることを示した。ただしこれは同じ東北地方であっても厳密に同所的ではないために、その違いが動物の違いによるのか、生息地の植生の違いによるのかは不明であった。論文21, 115。そこで2種が同所的にすむ八ヶ岳で調査したところ、ここでもシカがササを、カモシカは木本の葉を食べており、違いは動物の選択性によるものであることを示した。
Kobayashi, K. and S. Takatsuki.2012. A comparison of food habits of two sympatric ruminants of Mt. Yatsugatake, central Japan: sika deer and Japanese serow Acta Theriologica, 57: 343-349.

シカの胃のつくり

 ニホンジカがササを主体としたイネ科を食べるということは、消化しにくい植物を消化できるということである。そのためには発酵胃が発達している必要がある。そこでシカの胃を調べたところ、シカ科のなかでもっとも大きな第1、2胃をもっていることがわかった。この傾向は体重と相関があり、後天的に発酵胃が発達することがわかった。
Takatasuki, S. 1988. The weight contributions of stomach compartments of sika deer. Journal of Wildlife Management, 52: 313-316.

西日本のシカの食物と消化器官
 兵庫県のニホンジカの食物と消化器官を調べたところ、以下のことがわかった。第3胃は夏よりも冬が相対的に大きく、低質な食物を消化するためと考えた。夏にはオスよりメスのほうが胃が大きく、小腸が長かった。メスは冬より夏にオスより第4胃内容物重、第1,2胃重、小腸が大きかった。したがって夏のメスは体重のためではなく、子供を泌乳するために大量の食物を食べ、消化器官に保持しようとすると解釈した。妊娠よりも泌乳のほうが栄養要求が大きいのであろう
Jiang, Z., S. Hamasaki, S. Takatsuki, M. Kishimot and M. Kitahara, 2009. "Seasonal and sexual variation in the diet and gastrointestinal features of the sika Deer in western Japan: implications for the feeding strategy. Zoological Science, 26: 691–697.

落葉広葉樹林帯の植物の栄養成分

 常緑樹、落葉樹、双子葉草本、イネ科、ササ、低木などの栄養成分を季節に応じて調べて、それぞれの特性を示して基礎資料とした。(池田との共同研究)
池田昭七・高槻成紀.1999.ニホンジカとニホンカモシカの採食植物の栄養成分の季節変化-仙台地方の例-. 東北畜産学会会報,49:1-8.
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究7 教育など

2016-01-01 02:04:34 | 研究概要


高槻成紀. 2011.
生物が消えていく.
学校図書、中学校国語, 2: 130-132.
自分の文章が国語の教科書に載ることがわかったとき、とても感激しました。そして、すぐに父のことを想い出しました。父や九州の寒村に生まれ、家庭が貧しかったために、教育が受けられなかったことを一生の無念と感じていました。そして子供が好きで、子供の教育をこの上なく大切だと考えていました。だから、このことを知ったら心から喜んでくれたろうと思ったのです。

高槻成紀. 2011.
モンゴル草原の生物多様性
理科教室, 54: 74-77.
モンゴルの研究はあまり論文にしていないのですが、何に興味をもち、どんなことを調べているかを紹介しました。

高槻成紀. 2011.
私にとってのクマ
Bears Japan, 12: 23-24.
自分はクマの研究をしませんでしたが、指導する院生がヒグマとツキノワグマを研究してくれたので、いっしょに研究できました。そのとき思ったのは大学にいるより調査地にいることの大切さです。若い頃アメリカにいってマッカラーさんという研究者が学生を山の中に「放り投げて」いるのをみて、自分もそういう立場になったらそうしたいと思っていたのです。それには学生に対する絶対の信頼感が不可欠で、それに挑戦したということを書きました。

高槻成紀. 2012.
生態学者が都市に住む
都市問題, 2012.9:1.

高槻成紀. 2012.
オオカミを見る目
「新しい国語1」, 東京書籍
自分の文章が国語の教科書にのった2つめの経験でした。

高槻成紀. 2012
おもしろいと思うことをやればいい:菊池さんから教えてもらったこと
「ねこさんに教えてもらったこと菊池多賀夫博士追悼文集」
東北大学時代にお世話になった菊池先生は、私が植物生態学研究室の助手でありながら、動物のことに深入りしつつあり、それでよいのかと迷っているときに「おもしろいことをやればいいんだよ」と勇気付けてくださいました。

高槻成紀. 2012
小さな会誌に書かれた菊池さんの文章
「ねこさんに教えてもらったこと菊池多田夫博士追悼文集」
高槻成紀. 2012.
幸せな男たち
Ouroboros

高槻成紀. 2012.
食物連鎖を教える
理科教室, 2012(6): 36-41.

高槻成紀. 2012.
フクロウが運んできたものー高校生の大学体験記
UP, 475(2012.5): 38-43.

高槻成紀, 2013
おとぎ話
教科研究国語, 196 (2013前期): 2-4

高槻成紀, 2012.
食物連鎖を教える
理科教室, 2012(6): 36-41.
いま初等教育の現場はたいへんです。先生に貸される課題がたいへん多く、また社会からのきびしい批判からしてはいけないことだらけです。そうした中で理科で生き物のことを教えることがいかにたいへんかは想像できます。とくに生態系について教科書で概念を説明するだけでは生徒に興味を持たせるのはむずかしいと思います。そのためにどうすればよいかを考えて書きました。

高槻成紀. 2014.
せめて嫌いにさせないで—生き物を教えるということ—
日文教育資料[生活・総合]「生活&総合navi], 2014,Vol. 69: 8-11.
タイトルそのものです。理科の先生が、自分は昆虫がさわれないで、あるいは嫌いでいながら、「昆虫は足が6本です」などと説明しても、それを聞いても子供が昆虫に興味をもつことはありえません。ただ、好きになりなさいとまでは言わないまでも、せめて気持ちが悪いのだというようなことはいわないでほしい、そういうことを書きました。

高槻成紀. 2014.
骨の解説
このは, 8, 文一総合出版
 麻布大学にある標本を紹介してもらうチャンスがあったので、解説をしました。これは翌年、博物館開館のひとつの要因になったかもしれません。

高槻成紀, 2015.
ウサギは逃げるのがとっても得意
ふしぎのお話365: 120.
この本に3つの内容を紹介しました。

高槻成紀, 2015.
シカのツノは何にためにあるの?
ふしぎのお話365: 191.

高槻成紀, 2015.
動物と果実がおりなす深い関係
ふしぎのお話365: 277.

石井誠治・高槻成紀, 2015.
教科・生活科の中の動植物について
生活&総合navi, 71: 8-11.

高槻成紀, 2016.
子供たちに動物の息吹を伝えたい.
週間読書人. 2016.8.5

高槻成紀, 2015.
博物館
畜産の研究
麻布大学いのちの博物館の開館までのことを書きました。

高槻成紀, 2016.
麻布大学いのちの博物館を語る
日本農学図書館協議会誌, 181: 7-14.
これも同様です。

高槻成紀・金子倫子,2017
須田修氏遺品寄贈の記録
麻布大学雑誌, 印刷中
明治時代音大先輩のお孫さんである金子さんとのやりとりを記録として残すことにしました。たいへん楽しい文通になりました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究3 アファンの森の生き物調べ

2016-01-01 01:19:50 | 研究4 アファンの森の生き物調べ
長野県北部にあるアファンの森はC.W.ニコルさんが、荒廃する日本の里山の森をよみがえらせようと、一つのモデルとして管理をしている林です。私たちの研究室では2009年からこの林で動植物の調査を始めました。調査は経験的におこなわれている森林管理が生物にどういう影響をおよぼしているかという観点でおこなっています。また、生物調査とは別にアファンの森でおこなっている環境教育活動などにも参画しています。

森林管理が環境と地表植物におよぼす影響

アファンの森には落葉広葉樹林、人工林、草地などがあり、落葉広葉樹林にもササなどの下生えを残したものと、刈り取ったものがある。こうした管理の違いが気象や地表植物に与える影響を調べたところ、暗い林、明るい林、草地の順で温度が高く、湿度が低い傾向があった。また地表植物はこの順で種数も量も大きくなることが示された。またそれぞれの群落から土壌を採取して発芽実験をしたところ、草地では草地の植物が多かったが、森林には外部から持ち込まれる種子があった。なお林縁はとくに多様性が高いことがわかった。(嶋本祐子との共同研究)論文117

森林管理が花と訪花昆虫におよぼす影響

群落が明るくなると花が咲き、花があれば訪花昆虫が増えるはずなので、そのことを示すために、ルートを決めて訪花昆虫がいたら記録したところ、草地には非常に多くの花があり、多様な昆虫が利用していることが示されました。とくにヒヨドリバナ、メタカラコウ、サラシナチョウマなどには多くのチョウ、ハチ、アブ、ハエなどが訪問していた。森林では少なかったが、相対的にはハチが多く、森林固有の花と虫の組み合わせもあった。(嶋本祐子、野口なつ子との共同研究)

フクロウの食べ物




アファンの森にはフクロウがおり、人工巣で営巣することが知られている。その巣の底にたまった「小骨」を分析したところ、大半がネズミであることがわかった。ネズミは下顎から森にすむアカネズミ系と草地にすむハタネズミに区別できることがわかった。その数はハタネズミが7割ほどであり、「森のネズミ」は少なかった。このことはアファンのフクロウは草地や周辺の牧場で餌をとっており、本来のフクロウの食性とは違うことを意味している。(鈴木大志、加古菜圃子、佐野朝美との共同研究)

自動カメラによる哺乳類調べ

管理の行き届いた森と放置された森で哺乳類を比較したところ、全体では12種の哺乳類が確認され、ニホンザルとカモシカをのぞけば大体の地上生哺乳類が生息することが確認された(ただし齧歯類は識別困難)。398枚の有効ショットがあり、管理林のほうが多様性が高かった。しかし放置林は特定の種(タヌキ、イノシシなど)が高頻度で撮影された。(奥津憲人との共同研究)論文116


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする