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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

野生馬タヒを復帰させたモンゴルのフスタイ国立公園の森林に及ぼすタヒとアカシカの影響

2020-11-30 22:09:54 | 研究
野生馬タヒを復帰させたモンゴルのフスタイ国立公園の森林に及ぼすタヒとアカシカの影響

高槻成紀・大津彩乃

タヒの復帰に成功されたフスタイ国立公園にはカンバ林が残っているが、面積が減少している。それには永久凍土の減少が重要な要因だが、タヒとアカシカの採食も可能性がある。公園内の西の林と東の林で、タヒとアカシカの糞密度、カンバの状態を比較した。アカシカの糞は西の林で多く、タヒの糞は東の林で高かった。カンバの死亡率は西の林で62,9%、東の林で12.6%であった。下枝高は西の林で172.0 cm、東の林で148.3cmであり、バラツキは西の林で小さかった。アカシアは立ち上がって枝の葉を食べるためでディアラインが認められた。カンバの若木はどちらでも80%程度が盆栽状であり、更新は妨げられていた。これらの結果から、フスタイ国立公園のカンバ林は永久凍土減少だけでなく、タヒ・アカシカの強い影響によっても減少していると考えた。


調査地の景観


西の林と東の林でのタヒとアカシカの糞数

西の林と東の林でのカンバの基底面積。黒:生存木、灰色:枯死木

西の林と東の林でのカンバの枝下高

西の林と東の林での樹木の本数
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モンゴル、フスタイ国立公園のタヒ(モウコノウマ)とアカシカの群落利用と食性

2020-11-30 21:35:03 | 最近の論文など
モンゴル、フスタイ国立公園のタヒ(モウコノウマ)とアカシカの群落利用と食性
大津彩乃:高槻成紀

この論文は2020.12/21にWildlife Biologyに受理された。

モンゴルのフスタイ国立公園では1960年代に野生状態で絶滅したタヒをヨーロッパの動物園から復帰させ、その後順調に回復している。ここにはアカシカも生息しており、両種が高密度になると食物をめぐる競合の可能性があるため、食性の定性評価が必要である。そのため糞分析のより食性と生息地選択を調べた。タヒは主にイネ科を食べ、草原をよく利用したが、アカシカはイネ科と双子葉をよく食べ、森林をよく利用した。したがって現状では両種は住み分け、食い分けをしているといえる。今後どちらかあるいは両種が増加すれば競合の可能性もあるし、植生への影響も強くなることを考察した。

調査地

タヒとアカシカの群落利用

タヒ(灰色)とアカシカ(黒)のフン中の植物片の大きさ別の重さ

タヒとアカシカの糞中のタンパク質含有率
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インドネシア、西ジャワのパンガンダラン自然保護区でのルサジカの食性    - 同所的なコロブスとの関係に注目して

2020-11-30 09:33:39 | 研究
高槻成紀・辻大和

ジャワ中部のパガンダランのルサの食性を調べたところ、雨季と乾季で明瞭な違いがあった。雨季には芝生状のCynodonが50%を占めるほど依存的であった。これに対して乾季にはCynodonは20%前後に減少し、繊維が30-40%に増加した。この時期にはルトンの落とした枝をルサが食べられることが知られているが、糞組成でも果実が増加した。

調査地の地図

ルサのフンに占める主要種の占有率の季節変化
Cynodonn:イネ科の1種、other grasses:その他のイネ科、 dicots:双子葉植物, fiber:繊維, culm:イネ科の茎

糞組成の季節変化のDCA展開。右側は主要成分の位置

降水量、主要食物の占有率、「落穂拾い」の頻度
rainfall:降水量, major foods:主要食物(Cynodonnイネ科の1種, fruit果実), gleaning:ルトンが落とした果実をルサが拾って食べることを「落穂拾い」という
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モンゴルのフスタイ国立公園のタヒとアカシカの食性と生息地選択

2020-11-30 09:17:57 | 研究
モンゴルのフスタイ国立公園では1960年代に野生状態で絶滅したタヒをヨーロッパの動物園から復帰させ、その後順調に回復している。ここにはアカシカも生息しているため、両種が高密度になると食物をめぐる競合の可能性があるため、食性の定性評価が必要である。そのため糞分析のより食性と生息地選択を調べた。タヒは主にイネ科を食べ、草原をよく利用したが、アカシカはイネ科と双子葉をよく食べ、森林をよく利用した。したがって現状では両種の生物学的違いにより競合関係にはないと考えた。今後の管理についての示唆を示し、総合的な保全が重要であることを考察した。

調査地の位置


タヒ(灰色)とアカシカ(黒)の糞における主要食物が占める占有率の季節変化
grass:イネ科、dicot:双子葉植物、culm:イネ科の茎:fiber:繊維

糞組成のDCA展開

タヒ(灰色)とアカシカ(黒)の糞中の植物片の大きさごとの重さの比較

タヒ(白)とアカシカ(黒)のフン中のタンパク質含有率
タヒ(白)とアカシカ(黒)の群落選択を指標する糞密度の比較
forest:森林, edge:林縁, grassland:草原


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長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性

2020-11-26 21:22:30 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
宗兼明香・南正人・高槻成紀

 長野県東部の御代田町のカラマツ林に生息するテン(ニホンテンMartes melampus)の食性を糞分析法により明らかにした.評価は出現頻度法とポイント枠法の占有率によった.平均占有率は,春には哺乳類(64.1%),夏と秋には果実(夏は65.3%,秋は78.0%)が多かった.種子の出現からわかった果実利用は月ごとに変化し,春にはミズキなど,夏にはサクラ属など,秋にはマタタビ属やアケビ属などが多かった.昆虫は夏でも4.9%に過ぎず,他の地域より少なかった.これは本調査地に果実が豊富なためと考えられた.頻度法による評価では平均占有率が小さかった昆虫や葉が過大に評価された.占有率−順位曲線からは平均値や頻度法ではわからない,食物の供給量とテンの食物選択性を読み取ることができた.テンに利用された果実には林縁植物が多いことからテンが林縁植物の指向性散布をする可能性が示唆された.

調査地

表1 テンの糞組成

各季節の主要食物の「占有率ー順位」曲線
一部の個体しか食べることができないとL字型になる

主要種子の占有率の月変化

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仙川のタヌキの食性

2020-11-26 16:14:10 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
<はじめに>
 仙川は小金井から始まって南東に流れて野川と合流したあと二子玉川で多摩川に合流する川です。川とはいっても上流部分はいわゆる「三面張り」、つまり自然の川を底も両岸も
人工的にコンクリートにしています。ただし仙川では両岸は鉄板になっています。また水は流れていません。したがって「川」と呼ぶには相当無理がある感じです。
 この仙川上流部にタヌキがいるという情報があったので、様子を見にいったところ、ため糞が見つかりました。私は「都会のタヌキ」の食性を調べたことがあります。一つは小平市の津田塾大学のキャンパス、もう一つは明治神宮です。津田塾大は確かに市街地にありますが、キャンパス内には立派なシラカシの林があるために、ムクノキなどの果実や植栽されたものですが、カキノキとイチョウの果実が主要な食物になっていました(こちら)。もう一つの明治神宮の森は津田塾大学以上に立派な林ですから、やはりムクノキやギンナンがタヌキの重要な食物になっていました。だから、都会のタヌキを調べたと言っても、正確には「都会の立派な林に住むタヌキ」しか調べていないことになります。
 その意味では仙川のタヌキは文字通り都会の極端に人工化された環境に住むタヌキといえますから、そのタヌキが何を食べているかを知ることは、人と野生動物との共存という意味でも意義のあることです。

<仙川の環境>
 仙川の「川底」に降りると、底の部分はコンクリート、両側は鉄の壁で、高さが2メートルあまりもあります。ユニットになっている鉄板は凹凸がありますが、隙間はなく、足がかりになりそうなものもないので、タヌキには上下ができそうもありません。ところどころに鉄の手すりがありますが、もちろんタヌキは使えません。

仙川の「川底」から眺める

 しかも川の両側には高さ1メートル余りの金網柵があるので、人も出入りできません。このことはタヌキにとって人はほとんど来ないという意味で、安全性は確保されていると言えます。

仙川を上から見下ろす

<ため糞>
 その仙川の一角でタヌキのため糞を見つけました。ここから新しいものを数個拾って分析することにしました。またセンサーカメラをおいておきました。

見つかったため糞

 これがタヌキのため糞であるのは間違いないことではありますが、カメラには糞をするタヌキが写っており、確かにタヌキが利用していることが確認できました。

糞をするタヌキ

 このため糞場で5月15日から17日、19日、21日と順調に糞を拾うことができましたが、22日
以降、パタリと利用されなくなりました。理由は不明ですが、あるいはセンサーカメラを警戒したのかもしれません。しかしカメラを設置した初めの方で警戒し、次第になれるのが普通なので、1週間ほどしてから使わなくなったのは不思議です。実はこの近くで営巣していることが確認されており、子供の成長に伴い行動圏が変化した可能性もあります。
 そのため、糞が集められなくなったのですが、5月31日に別の場所2カ所でため糞を見つけることができました。

<分析結果>
 5月に16個の糞を分析しました。分析するには、まず糞を0.5mm間隔のフルイの上で水洗します。そのあとで、特殊なスライドグラスにのせ、顕微鏡でのぞいて多い少ないを評価します。細かいことは略しますが、「有無」ではなく、多い少ないを表現します。
 その結果は以下の円グラフの通りです。
仙川のタヌキの糞組成

 多かったのは種子(19%)、哺乳類(16%)、昆虫(13%)、無脊椎動物(11%)、貝(11%)などでした。種子のほとんどはサクラの種子で、仙川に落ちていたのはヤマザクラのサクランボでした。

仙川に落ちていたヤマザクラのサクランボ

 ただ種子によってヤマザクラとソメイヨシノは区別ができないようです。

サクラ種子 (格子間隔は5mm)

 「哺乳類」としたのは毛で、タヌキの毛と思われるものは微量で、多くはネズミの毛を思われる細く、短いものでした。その割には哺乳類の骨が少ししか出てこなかったのは不思議でした。

哺乳類の毛 (格子間隔は5mm)

 昆虫は甲虫やアリとわかるものもありましが、多くは細かい断片で、識別できませんでした。
 貝としたのは、カタツムリの殻で、これは別の場所ではあまり見かけないものでした。

カタツムリの殻 (格子間隔は5mm) 

<まとめ>
 全体を見ると、動物と植物がほぼ半々で、文字通り雑食性と言えます。ただし、日本のタヌキは果実依存で、ふつうは植物の方が多いので、このことが仙川のタヌキの食性の特徴かもしれません。食物環境としては、植物が貧弱で、川底にナガバヤブマオなどの方か外来雑草が生えている程度ですが、地上に植えられているサクラ、ヤマグワ、ミカンなどの果実が落ちてくるようです。今後も糞が確保できたら、季節変化を追跡したいと思います。

<タヌキがいなくなった>
その後、調査地からタヌキがいなくなりました。どこに行ったのかわかりません何度も糞を探して歩きましたが、見つからなくなりました、残念ながら調査を停止しました。
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ニホンザル2群の群落利用に対する人の影響 – 林縁に注目して

2020-11-26 16:03:28 | 研究
ニホンザル2群の群落利用に対する人の影響 – 林縁に注目して
海老原 寛・高槻成紀

伐採、植林、農地化、森林の分断化などの活動はニホンザルの生息地を改変し、その群落利用に影響した。神奈川県厚木市の森林をよく利用する「森林群」と農地をよく利用する「農地群」の群落利用を比較したところ、両群とも秋に落葉広葉樹林と夏に林縁をよく利用し、農地群は森林と農地の林縁をよく利用し、秋・冬には農地群による広葉樹林の利用が増えた。猿にとってオープンな場所は心理的に危険を感じるため両群とも森林をよく利用した。落葉樹林が人工林になり、農耕地には食物が豊富にあるため、サルは林縁を利用するようになったものと思われる。本調査では、従来面積的に狭いため、独立した生息地として認められてこなかった林縁を取り上げたことで、サルの群落利用が一歩深く理解できるようになった。

サル2群の行動圏に占める群落の割合
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スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例

2020-11-26 09:48:05 | 研究
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響  —アファンの森と隣接する人工林での観察例—.
高槻成紀・望月亜佑子

人と自然, 32: 99−108 こちら

日本の国土の27%は常緑針葉樹の人工林で占められている。これまで日本の林業は生産性が重視され、森林の生物多様性保全という視点は十分でなかった。本研究では、スギ人工林の間伐が下層植生や訪花昆虫による受粉(ポリネーション)に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。間伐を行うことによって照度、温度が好転した。下層植物のバイオマス指数(被度と高さの積)はスギ人工林に対して間伐1年目は1.7倍、2年目には80倍と大幅に増加した。特に先駆性の低木や、明るいところを好む大型双子葉草本が大幅に増加した。虫媒花植物も増え、ポリネーション数は大きく増加した。ポリネーションはスギ人工林ではまったく観察されなかったが、間伐林では落葉広葉樹林とほぼ同じ程度観察された。本研究はスギ人工林を間伐することで、生物多様性機能が回復することを示した。

位置図


調査地の景観


間伐林とスギ人工林の照度の月変化。間伐によって明るくなった。

間伐林とスギ人工林の湿度の月変化


間伐林とスギ人工林の地表温度の月変化


各群落のバイオマス指数 生育型によるまとめ。間伐2年目で植物量が急に増え、特に低木が大きく増加した。

各群落のバイオマス指数 散布型によるまとめ。間伐により鳥類散布型と動物被食散布型が増えた。

各群落のバイオマス指数 受粉型によるまとめ。間伐により虫媒花が大きく増えた。

各群落における訪花昆虫の数の月変化。スギ人工林では訪花昆虫が全く見られなかったが、間伐林では落葉樹林並みに増えた。

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麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布

2020-11-26 08:48:41 | 研究
2020.10.8
麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布
高槻成紀
麻布大学雑誌

私は2007年に麻布大学に移りましたが、2009年にキャンパス内のカキノキにくる鳥が外部から運んできて落とす種子の調査をしました。
 森林の動態は極めて複雑であり、種子散布一つをとっても、多種が重なり合って生育しており、林床に植物や枯葉があるために実際の調査(種子の回収)が困難です。その点、都市緑地では樹木が孤立しており、林床が土か、場合によっては舗装されているので、回収が可能です。注目したのは - 対象として樹木の下にその樹木の種子が落ちるのは当然ですが - 鳥類が持ち込んだ別の樹木の果実も落とされる点です。調べた結果少なくとも37種、7918個の種子が確認され、外部から多様な種子が持ち込まれていることがわかりました。

センダンの果実を食べるヒヨドリ

表1 麻布大学のカキノキに鳥類によって運び込まれた種子または核。回収期間は2009年11月、12月。

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人工林が卓越する場所でのシカの食性 鳥取県東部若狭町での事例

2020-11-25 21:19:28 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
人工林が卓越する場所でのシカの食性 鳥取県東部若狭町での事例

高槻成紀・永松 大

日本各地でシカが増加し、森林植生に強い影響を与えるとともに林業被害も増加している。スギ人工林が卓越する鳥取県東部の若桜町では過去20年前からシカが急増し、林床植生が貧弱化した。林業被害対策にはメカニズム解析が不可欠で、シカの食性は一つのポイントとなるが、人工林の卓越する場所でのシカの食性は知られていない。植生は、スギ人工林では柵外はコバノイシカグマ以外は非常に乏しかったが、柵内にはチヂミザサ、ススキ、スゲ類などがあった。落葉広葉樹林でも貧弱で、ムラサキシキブなどが散見される程度であったが、柵内ではタケニグサ、ベニバナボロギク、ジュウモンジシダ、ガクウツギ、ニシノホンモンジスゲ、ススキなどがやや多かった。シカの糞分析の結果、シカの糞組成は植物の生育期でも緑葉が20-30%程度しか含まれておらず、繊維や枯葉の占有率が大きいことがわかった。夏に葉の占有率がこれほど小さいのは神奈川県丹沢のシカで知られているだけである。
調査地地図



調査地の景観。ディアラインが見える。

主要食物の占有率の季節変化
grass イネ科、Dicot 双子葉、dead leaves 枯葉、others その他、culm 
イネ科の茎、fiber 繊維

人工林と広葉樹林の柵内外のバイオマス指数
Pla-out 人工林柵外、Pla-in 人工林柵内、Bro-out  広葉樹林柵外、Bro-in 広葉樹林柵内; short form, 小型草本、tall forb 大型草本, graminoid イネ科・カヤツリグサ科, liane つる, fern シダ, woody plant 木本

検出物の顕微鏡写真
dwarf bamboo ササ, grass イネ科, sedge スゲ, monocot 単子葉, dicot 双子葉, dead leaf 枯葉, culm イネ科の茎, fiber 繊維

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高尾山周辺のシカの分析事例

2020-11-25 11:44:03 | 研究
高尾山周辺のシカの分析事例

高槻成紀

この数年で裏高尾でのシカの増加が著しく、高尾山への進入は時間の問題とされている。現にすでにシカが発見されたという断片的な記録もある。そこでシカによる植物への影響の痕跡について調査をしている。現地ではアオキに食痕が目立つようになっているが、アオキは表皮細胞が特徴的なのでシカの糞から検出されると特定できる。シカはとくに冬にアオキを好んで食べるので、食性の良い指標になる。今後、シカの影響でアオキが減少すればシカの糞にも出現しなくなるであろうから、現段階で調べておくことは価値がある。そこで関係者にシカの糞の採集をお願いしていた。今回2例のシカの糞が確保されたので、分析した。断片的ではあるが、報告しておく。

シカの糞サンプルは2例で、1例は2020年11月11日に南高尾の中沢山(標高350 m)で宮崎精励氏が採集した1例、もう一つは2020年11月12日に裏高尾のコゲ沢で山崎勇氏が採集した1例である。糞は0.5mm間隔のフルイ上でよく水洗し、顕微鏡下でポイント枠法で分析した。

その結果、糞組成は非常に低質であることがわかった。コゲ沢の例では繊維が58.2%であり、葉はイネ科が3.5%、双子葉植物が7.3%でこの中ではアオキが多かった。南高尾の例では稈(イネ科の茎)が56.8%、繊維が38.7%で葉は3.5%にすぎず、アオキは検出されなかった。


図1. シカの糞組成

 この2例に共通なのは、シカが葉を微量しか食べておらず、栄養価の低い繊維や稈が非常に多かったことである。ただ、サンプル数が少ないので、偶然そのような糞が採集されたためかもしれない。今後、さらにサンプル数を増やして、現在の高尾山周辺のシカが置かれた食料事情を推定したい。

 シカの糞確保にご尽力いただいた、森林インストラクター等協会の石井誠治氏、宮崎精励氏、高尾の森づくりの会の山崎勇氏に感謝します。



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シカは生息地を変化させることで自らの食性を変える 小島での17年間の調査

2020-11-25 10:18:57 | 研究
1975年から1972年までの16年間、シカが高密度で生息する金華山島のススキ群落と芝群落で植生とシカの糞組成をモニタリングした。大型草食獣による植生変化がたの大型草食獣に影響与える研究はあるが、自らの食性に与える影響は知られていない。また長期的な植生変化の調査はあるが、草食獣の食性の長期調査はない。調査開始から最初の10年間にススキ群落は芝群落に入れ替わり、これに伴ってシカの食性もススキ、アズマネザサ、シバからほぼシバだけに変化した。シバ群落は強い採食圧により維持されるが、これにはシバの生産特性と高温多湿な日本の気候によるものと考えた。


調査地の位置

調査地1(神社境内)の景観

調査地2の1983年の景観 ススキが優占


調査地2の1986年と1993年の景観、ススキがなくなってシバ群落に置き換わった。

調査地2におけるススキMiscanthus sinensis、アズマネアサPleioblastus chino、シバZoysia japonicaの優占度の推移

調査地2におけるススキMiscanthus sinensis、アズマネアサPleioblastus chino、シバZoysia japonicaの草丈の推移

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シカの調査

2020-11-25 04:56:25 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
シカの角(島と本土の比較) こちら
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シカの角(島と本土の比較)

2020-11-25 04:19:50 | 研究1 シカ
Good looks versus survival: Antler properties in a malnourished sika deer population
「かっこいい?」それとも「生きる?」:貧栄養なニホンジカ集団の角は健康な集団の角とどうちがうか

シカの角(antler)はオスジカの視覚的ディスプレーとして機能し、実際に角を絡めて突き合わせて押し合いをする武器でもあり、順位を決める上で重要である。したがってオスは見かけが立派であり、長く、丈夫な角をもつほうが繁殖成功を高めるのに有利。しかしウシ科などの角(horn)と違い、毎年落ちるからコストがかかる。もし資源が乏しいと、そのような角をもつことと生存の両立がむずかしくなる。
 この研究はシカが高密度にいる島のシカの角に何が起きるかを調べる。そのために栄養状態のよい本土集団と角の長さ、周、密度を比較した(図1)。ポイント(枝)は1歳では本土、島とも1本だが、2歳になると本土は2本以上になったが、島では1本だった。その後島が本数が少ないが、5歳になるといずれも基本4本になった(図2)。長さは本土では1歳の200mmから直線的に増加し、5歳以上で400mm以上になった。島では2歳までは<50mmで、その後長くなって6歳以上で400mm前後になった(図3)。重さは本土では1歳の20gから6歳で>400gになったが、島では1,2歳は<10 gで、その後増加して200 gほどになった(図4)。密度は年齢、長さに無関係で島は本土より小さかった(図5)。体型/長径比も年齢、長さに無関係で島が小さく、偏った楕円形であった(図6)。同じ重さであれば、島の方が長く、より「スリム」であった(図7)。枝の重量比は島のほうが大きかった(図8)。
 このように、島のオスは貧栄養環境下で角への投資は抑制しながらも、バトルのための機能を最大化しようとしているようだ。


図1 計測部位
図2 年齢とポイント数(○本土、●島)
図3 年齢と角の長さ(○本土、●島)
図4 年齢と角の重さ(○本土、●島)
図5 年齢と角の密度(○本土、●島)  角の断面
図6 年齢と断面の長径/短径の比(○本土、●島)
図7 重さと長さの関係(○本土、●島)
図8 角全重に対する枝の重さの割合(□本土、■島)
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