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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

アファンのフクロウの食べ物

2018-06-01 02:56:51 | 報告
アファンの森にはフクロウがすんでいて、架けた巣箱に営巣し雛を育てます。


巣箱にネズミを運んできた親フクロウ(2012年撮影)


 一つの巣で育つ雛の数は大抵2羽ですが、今年は4羽も巣立ちました。


今年最初に巣立ったフクロウの雛(2018.5/16, アファン の森財団提供)


 私たちはこの巣に残されたフクロウが食べて吐き出したものを調べています。その分析試料を確保するため、6月14日にアファンの福地さんが巣箱まで登って回収してくださいました。アルミ製のハシゴで巣箱まで登って巣の底の巣材を取り出してくれました。これを持ち帰って少しずつ小骨を取り出します。




巣材を取り出すアファンの森の福地さん


 フクロウはネズミを食べることに特化した猛禽類で、巣に残されたものもほとんどはネズミなのですが、ときどき鳥の羽や骨、ヒミズ、ヤマネなども出てきます。
 おもな食べ物であるネズミには、森にすむアカネズミ、ヒメネズミのタイプと草原や牧場などにすむハタネズミのタイプがあります。この2つのネズミは歯の形がまったく違うので、下顎骨が出てくれば識別ができます。




 これまでの調べで、アファンの森のフクロウが利用するネズミの数のうち、アカネズミ系は比較的安定していますが、ハタネズミは年によって大きい変動があり、アカネズミ系を大きく上回る年があるかと思えば、それより少ないこともあることがわかっています。ハタネズミのようなネズミは年により数の変動があることが知られており、同じ仲間のレミングが爆発的に増えることがあります。「ハーメルンの笛吹き」という童話で、ネズミが笛を吹く男に導かれて川になだれ込むという描写がありますが、この「ネズミ」はハタネズミ系のものだと考えられています。
 さて、持ち帰った巣材はもともとはチップ材ですが、その形で残っているものは少なく、分解して粉のようになっています。そこから適量を取り出してバットに広げ、少しずつ点検しながら、丁寧にピンセットで取り出します。


バットに取り出した巣材


 取り出されるネズミの骨にはさまざまなものがあります。わりあい目につくものとしてPの次のような形をしたものがありますが、これは寛骨、つまり腰の骨です。これにもいくつかタイプがあるので、ネズミの種類によって違うものと思われますが、私には区別はつきません。それから大腿骨もわかります。これは付け根に「骨頭」と呼ばれる球状のコブのようなものが付いていて特徴的なので区別できます。人間でも大腿(太もも)は360度どの角度にも曲げることができますが、それはこの構造があるからです。大腿骨の下には膝の骨である「脛骨」があります。多くの動物では脛骨と腓骨が並行に走っていますが、ネズミの場合、脛骨と腓骨は上下の部分で癒合し、ちょうどバイオリンの弓と弦の関係になっています。


検出されたネズミの骨


 前脚の方では上腕骨が特徴的な形をしており、中央の少し上に人の鼻のような突起があります。上腕骨は上で肩甲骨につきますが、肩甲骨はあまり出てきません。薄いので、おそらく消化されてしまうのだと思います。上腕骨の下には尺骨と腓骨がありますが、腓骨細長いだけで特徴がありません。消化されてしまうのか、小さすぎて見つからないだけなのかわかりません。尺骨は上腕骨との関節部が半円形にくびれているのでわかります。
 こういう四肢骨のほか、頭部が割れたものも出てきます。


ハタネズミの頭骨


 この分析で一番重要なのは下顎骨です。これはアカネズミ系とハタネズミではっきりと違います。



 最大の違いは歯で、アカネズミ系の臼歯は普通の哺乳類によくある歯根がありますが、ハタネズミの臼歯は変わっていて、縦筋がいくつもある洗濯板のような特異なものです。



 下顎骨全体の形も違い、写真ではわかりにくいですが、ハタネズミの方が厚みがあります。

 この違いはネズミの食性と関係しており、アカネズミは主に果実など栄養価の高い植物質を食べますが、ハタネズミは繊維質の葉や地下部なども好んで食べます。そういう食べ物は歯を摩滅させますから、ハタネズミの板状の歯は伸び続けます。これに関連してハタネズミはよく発達した盲腸を持っており、ここで繊維質の食べ物を発酵させて利用します。

 これらのどれにも該当しないひょろ長い骨があり、鳥の脚の骨だと思われます。クチバシも出てきます。

 さて、アカネズミとハタネズミの下顎骨の数をグラフにすると下図ようになりました。これを見ると、アカネズミは比較的安定しているのに対して、ハタネズミはそれよりやや少ないことが多いのですが、2016年は飛び抜けて多くなっています。同じようなことは2002年にも記録されました。


アファンの森のフクロウの巣に残されたアカネズミとハタネズミの下顎骨の数の推移


 詳細はわかりませんが、ハタネズミが何らかの理由で急に多くなることがあるようです。アファンの森にはアカネズミ系のネズミが多いのですが、周りに畑や牧場があり、ハタネズミはそういう場所にいるので、フクロウは、ハタネズミが増えた年には少し遠出をしてハタネズミを捕獲するものと思われます。

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