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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果 2022年9月-

2022-10-13 14:00:13 | 最近の論文など

<2022年9月>
9月になると果実・種子がさらに多くなり、特にムクノキが非常に増えた(図9-1)。エノキも高頻度で検出されたが、量は減った。1例であるがカキノキの種子が検出された。その2つの種子はいずれも歯形が残っていた。ミズキの種子も検出された。昆虫は8月の19.4%から5.0%と大幅に減少した。

図9-1. 2022年9月の検出物。

 小林がカキノキの前に設置しているセンサーカメラに9月18日の夜にタヌキが現れた。このタヌキは後ろ足立ちになって背を伸ばしてカキの実を取ろうとした。何度か失敗した後、ついに枝を捉え、カキの実をくわえて一度地面に置いてからくわえ直してその場をさった(図9-2)。

図9-2. カキの実(黄色い矢印)を狙って後ろ足立ちになり、一度地面に置いてからくわえ直してこの場をさった(2022.9.18 小林撮影)。

<2022年10月8日>
9月にも果実・種子が増えていたが、10月になるとさらに増えて果実が44.6%、種子が31.5%で合わせて76.1%に達した。内訳はムクノキが最も多く、カキノキがこれに次、エノキはさほど多くなかったが、出現頻度は高かった。1例だが哺乳類の毛がまとまって出た。種は特定できないが、タヌキの幼獣の可能性がある。昆虫は1.4%と非常に少なくなった。人工物は8月以降検出さえrておらず、タヌキの食物状況はよくなったと思われる。

図10-1. 2022年10月の検出物。

<2022年11月4-6日>
 11月も果実が豊富であることを反映してフン組成でも果実が31.0%、種子が35.7%を占めた。最も多かったのはムクノキでエノキがこれに次いだ。2例だけ果実が少ないサンプルがあった。一つはカエルの骨とザリガニが検出されたものであり、沼に行って採食したものと察せられる。もう一例はフンのほとんどがひも(紐)で占められていたもので、靴の縛り紐と思われた。ひもに2種類あり、いずれも5 cmよりも短い長さに分断されていた。

図11-1. 2022年11月の検出物。

<2022年12月>
果実がさらに増え、ほとんどがムクノキとエノキのような状態になりました。

調査地のムクノキの果実 22.11.29

ムクノキの下に集まるタヌキ 22.12.4


ムクノキの果実、種子がいっぱいのタヌキの糞 22.12.8

2022年12月の検出物
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浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果 2022年7月-8月

2022-10-13 13:59:38 | 最近の論文など

<2022年7月15-27日>
7月の糞では種子が多かったが、その主体はエノキであった。種子だけのものもあったが、果皮がついたままのものもかなりあった(図7-1)。今年の果実はまだ緑色で枝についたままであるったが、早く熟した果実が落下したのを食べたのかもしれない。8月11日には赤く色づいたエノキの果実を確認した(図7-2)。クワの種子も検出されたが(図7-1)、これも今年のものであろう。昆虫はほとんどが細かく分解されていた。イネ科の葉が多いサンプルもあった。人工物としては白くゴムのような弾力のあるものが検出されたが(図7-2)、量は少なかった。イネ科の葉が多い例や、甲殻類が多い例もあった。2例であるがドングリが検出された(図7-1)。1例ではほとんど全体が検出され、内側の子葉部分(でんぷん質)は消化されていた。ドングリは供給量は大きいがタヌキの糞からはほとんど検出されないので、珍しい事例と言える。調査地にはコナラは多く、ドングリは大量にある。小林が設置したセンサーカメラにはタヌキがドングリを食べた瞬間が撮影されていた。タヌキにとってドングリは殻の部分が硬いために砕きにくく、食べたときに「味わう」ことにならないため、食べないのかもしれない。同じ食肉目でもクマはドングリを非常に好むので、興味深い。「甲殻類」としたものの一部はアメリカサリガニの「顎脚」と似ていた(図7-1)。


図7-1. 2022年7月の検出物 格子は5 mm

図7-2. 2022.08.11 浦和商業北側エノキの果実

<2022年8月18-20日>
脊椎動物や甲殻類は減少し、昆虫は安定的だった。少ないが巻貝が検出された(図8)。エノキの果実、種子が非常に多かった。図8-1には巻貝をあげた。巻貝は分サンプルに入っていたが、小林の観察によると、タヌキの糞を食べにきている巻貝があることがわかり、これはタヌキが食べたのではないことがわかった(図8-2)。


図8-1. 2022年8月の検出物


図8-2. タヌキの糞を食べにきた巻貝(2022.9.8 小林撮影)



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浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果 2022年4月-6月

2022-10-13 13:59:12 | 最近の論文など
<2022年4月>
 2022年4月9日に回収した糞を分析した。今回もサンプルごとの違いが大きかった(図6a)。種子は少なくなり、センダンが10個の糞サンプルうち1粒だけあったに過ぎない。昆虫と節足動物の外骨格が多くなった。昆虫は微小な脚のほか、幼虫の皮膚があった。外骨格は不明が多かったが1例でカニが検出された(図6b)。植物はイネ科の葉を含め葉がほとんど出なくなった。一部にサクラの花弁があった。人工物としては1例でプラスチックがあったが、3月よりさらに少なくなった。


図6a. 2022.4月のフン組成


図6b. 2022.4月フンからの検出物

参考 サクラの花弁

<2022年5月10日>
 5月になり、木のはは展開し、草本類も伸びたが、タヌキの食物としては少数例で双子葉草本の葉が検出されたものの、季節にふさわしい食物は特になかった。むしろ古い木材と思われるボロボロのブロック状の材が多かった。これは食物として食べられたとは考えられず、中にいた昆虫を食べるときに混食されたのかもしれない。4月に少なくなっていたカエルの骨が検出された他、やはり4月に少なくなっていた種子がやや増えた(図7a)。多かったのはエノキの種子で噛み砕かれたものもあった(図7b)。ムクノキの種子が1例あった。また少量ながらクワの種子もあった。今年のクワはまだ結実していないので、前年の果実を探して食べたのかもしれない。1例だが鳥類の羽毛が多く検出された。

図7a. 2022.5月のフン組成

 主要な検出物を図7bに示した。


図7b. 2022年5月の検出物. 格子間隔は5 mm

 「サクラ種子」としたものは属レベルしかわからなかったが、その後、小林が現地で落下していたソメイヨシノとオオシマザクラの果実を採取し、種子標本を作ったらソメイヨシノの種子であることがわかった。図7dに見るように、ソメイヨシノの種子は半球型で扁平な傾向があるが、オオシマザクラはやや水滴状に上方が尖る傾向があることで区別ができた。

図7c. 5月10日のサンプルで検出されたサクラ種子


 
 占有率の大きいものから小さいものに並べる「占有率-順位曲線」(こちら)を求めると、3つのパターンが認められた(図8)。一つは比較的大きい最大値からほぼ直線的に小さくなり、多数のサンプルから出現したものでS型とした(図8a)。S型には脊椎動物(カエルの骨)、昆虫、種子、葉があり、タヌキにとって遭遇率が高く、可能な限り摂取すると考えられる。

図8a. 占有率-順位曲線, S型の例

 第2のタイプはL字型で、最大値はある程度大きいが少数例しかないために、カーブは急激に下がってL字型となる(図8b)。これには鳥の羽毛と人工物が該当した。これらは遭遇率が低く、タヌキが確保しにくいと考えられる。

図8b. 占有率-順位曲線, L字型の例

 第3は低い値を続けるためカーブは横一文字のようになるもので、果実と植物の支持組織が該当した(図8c)。これは一般には遭遇率は高いが、タヌキにとってさほど魅力が高くないために、多くは摂取しないと考えられる。支持組織はこれに該当するが、果実(果皮と果肉)はタヌキにとって魅力的なはずであり、消化率が高いために糞での占有率が低かったものと考えられる。

図8c. 占有率-順位曲線, F型の例

<2022年6月9-16日>
サンプルごとのばらつきがかなり大きく、1では葉、4では哺乳類の毛、5では無脊椎動物(主に甲殻類*)、6では種子(エノキ、ビワ、クワ)が多かった(図9)。種子はエノキは昨年の落下果実によるものと思われる。サクラ、クワ、ビワは今年のものである。クワは全部のサンプルから検出された。人工物は少なかったが、1例から輪ゴムが検出された(図10)。

図9. 2022.5月のフン組成


図10. 2022年6月のタヌキの糞からの検出物

*これまで「甲殻類」としてきた外骨格はカニではないかと思っていたが、小林はアメリカザリガニではないかと思った。というのが「細い脚」(歩脚)の先端に小さなハサミがあったが、カニにはこれがないからである。そこで6月24日に白幡沼でアマリカザリガニを捕獲しようとしたが、これは不首尾であったが、死骸を拾うことができた。それを見ると確かに小さいハサミが確認でき、脚全体の質感や色もピタリと一致したので、これはアメリカザリガニであると判断した。同じサンプルから平坦な外骨格も検出されたが、これは尾の瓦状に重なる部位と先端の花びら状に広がる部位(尾扇)に該当することがわかった。これに伴いこれまでの記述を修正した。

図11. これまで「甲殻類」とした歩脚(左)と、アメリカザリガニの死骸から得た歩脚(右)

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浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果 2022年1月-3月

2022-10-13 13:58:49 | 研究

<2022年1月14日>
 2022年1月14日は10サンプルを分析した(図1a)。試料ごとのばらつきはやや大きかったが、センダンの果実と種子が多い糞が多かった。果実と種子が増加した。また量は多くないが鳥の羽毛、ネズミの肋骨部分、カエルと思われる骨などが検出された。また輪ゴム、ゴム栓、プラスチック袋(菓子類などを包む薄い膜状のもの)など人工物が%検出された。センダンの種子のほか、ムクノキ、エノキの種子も検出された(図1b)。多くはないがゴム製品などの人工物が検出されている(図1b)。


図1a. 2022年1月15日の糞組成


図1b. 2022年1月14日の検出物

<2022年1月25日>
 2022年1月25日に採取した糞11個を分析した。多くの試料でイネ科の葉が検出された(図1c)。イネ科の葉は消化しないまま排泄され、面的なため、ポイント枠法では過大に評価されるので、実際に食べた量はそれほど多くないと推察される。種子としてはムクノキとエノキが検出され得たほか、サンプルNo. 1からはカキノキの種子が検出された(図1d)。不明の種子も少数あった。またコメの種皮も検出された。



図1c. 2022年1月25日のタヌキの糞組成。番号は試料番号(順不同)

 ユニークなサンプルとして、サンプルNo. 8はムクノキの種子が多数含まれたほか、ヤママユと思われるガの繭(まゆ)が検出された(図3b)。これは高槻の経験では初めての記録である。またサンプルNo. 11からはカニの体の外骨格が、またサンプルNo. 8からは輪ゴムが検出された。

図1d. 2022年1月25日のタヌキの糞からの検出物 

 1月15日から10日ほどしか経っていないにもかかわらず、内容が大きく変化し、イネ科の葉が増え、種子が減少し他ことから、タヌキの食糧事情は悪くなってきたと考えられる。

<2022年2月18日>
2022年2月18日に採取したタヌキの糞10個を分析した。サンプルごとの変異が大きく、エノキ、ムクノキなどの種子が過半量を占めたものが3例、人工物が過半量を占めたものが2例、イネ科の葉が過半量を占めたものが2例、カニが過半量を占めたものが1例などあった(図2a)。

図2a. 2022年2月18日のタヌキの糞組成。番号は試料番号(順不同)

 検出物は動物としては鳥の羽毛、カニの外骨格などがあった(図2b)。羽毛が検出されたのは1例だけであったが、鳥の死体を食べたのかもしれない。カニの外骨格は赤色であったので、ベンケイガニであるかもしれない。量は多いとは言えないが、出現頻度は10例中4であったから、タヌキは池でカニを探して食べているのかもしれない。種子としてはエノキ、ムクノキが多く、センダンもあった。オニグルミの果皮のような硬いスポンジ質の果皮もあった。直径5 mmほどある落葉広葉樹の枝先も検出された。人工物としてはチョコレートなどのアルミ包装紙、食品の包装紙、ゴムのような柔らかい人工物、いわゆる「レジ袋」、輪ゴムなどがあった。食品包装紙には「伊藤園」という文字が確認できた。また皮革製品があったが、片側に白い塗装があり(皮革製品1)、糸がついたもの(皮革製品2)もあったので靴の一部ではないかと思われた。


図2b. 2022年2月18日のタヌキの糞からの検出物

 人工物では皮革製品が多かったが、皮革製品の検出例は他の場所でもある。タヌキはその匂いを嗅ぐと動物の体の一部と思って食べるのかもしれない。皮革製品は片面が白い塗装をしたものや糸がついたものがあったので、靴などであるかもしれない。これらは当然全く消化されておらず、量的に多い場合はタヌキの健康上の問題もあるかもしれない。種子はムクノキとエノキがこれまでと同様に検出されたが、1例ではセンダンもあった。エノキ、ムクノキの果実はすでに樹上にはないから、タヌキは地上に落ちた果実を探して食べるものと考えられる。今回はカニを含むサンプルが4例あり、1例では54.7%に達した。またイネ科の葉が多く検出されたのが2例あった。

<2022年3月>
 2022年3月9日と11日に回収した糞を分析した。今回もサンプルごとの違いが大きかった(図3a)。種子は少なくなり、脊椎動物の骨が増加した。種子はエノキが少しと、センダン、ムクノキが10個の糞のうち1粒だけあったに過ぎない。骨は太く、ヒキガエルの四肢骨と思われるものが多かった。細かく破砕されていたが、識別できるものもあり、椎骨、指骨もあった(図3b)。糞回収地の近くに白幡沼があり、ヒキガエルはよく見かけられる。節足動物の外骨格と思われる小さな半透明の剝片が多かった。ただし先月このカテゴリーに多かったカニの甲羅は検出されなかった。イネ科の葉がコンスタントに出て、量的に多いこともあった。人工物としてはプラスチック、ゴム紐などがあったが、2月よりは少なくなった。

図3a. 2022年3月のタヌキの糞組成(%)

 主要な検出物を図3bに示した。前肢骨?としたのは、哺乳類には見られない中空構造でカエルの前肢である可能性がある。今後確認したい。

図3b. 3月の主要な検出物. 格子間隔は5 mm



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浦和のタヌキの食性

2022-10-13 13:58:23 | 研究
浦和商業高校のタヌキの食性

高槻成紀・小林邦夫

東京周辺のタヌキの食性はかなり明らかになってきた(皇居:酒向ほか2008,Akihito et al. 2016、赤坂御所:手塚・遠藤2005、明治神宮:高槻・釣谷2021、新宿御苑:Enomoto et al. 2018、東京西部郊外:Hirasawa et al. 2006Sakamoto and Takatsuki 2015, Takatsuki et al. 2017, 高槻 2017; 高槻ほか 2018)。この地域のタヌキの食性は基本的に果実を主体にしており、特に秋と冬は果実をよく食べる。ただし夏には果実が少なくなるので、食物中に昆虫が多くなり、食物が最も乏しい冬の終わりから早春には鳥や哺乳類の羽毛、毛、骨などが検出されるようになる。これらの調査は主に郊外や山地で行われたが、市街地のものもある。ただし皇居、赤坂御用地、明治神宮などは都市に例外的な森林があり、都市的緑地を代表するとは言えない。市街地での調査事例としては川崎市(山本・木下1994)と小平市の津田塾大学の事例(高槻 2017)がある。川崎市では果実とともに人工物が非常に多かったが、小平市ではそうではなかった。これは家庭ゴミの提出方が変化し、1990年代まではゴミ提出法が管理されていなかったためにタヌキが利用できたが、その後カラスによるゴミ被害が増えたために、家庭ゴミはボックスなどに入れて提出されるようになったためにタヌキは利用しにくくなったものと考えられる。このように市街地のタヌキの食性分析例は少なく、さらなる分析事例が必要である。
 本調査の調査地である浦和商業高校は埼玉県浦和市にあり、武蔵浦和の駅に近いため開発が進み、緑地は非常に限定的であり、ビルや住宅地に囲まれているため、市街地のタヌキの食性調査事例として適している。最近、浦和商の一角にタヌキが生息し、ため糞場も確認されたので、糞分析を試みることにした。

方法
調査地は武蔵浦和駅の東500mほどの位置にあり、東北新幹線が近く、その西には首都高速道路大宮線があるなど交通の要所であり、開発が進んでいる(図1)。


図1 調査地の位置

 浦和商業の西側には白幡沼があり、その東側には弁天神社の小さな祠があって周囲に樹林がある(図2)。タヌキはこのあたりに生息し、昼間でも複数の個体が観察される。ため糞はこの樹林内にあり、そこからフンサンプルを回収した。


図2. 白幡沼南西部から東をのぞむ

 採集にあたっては,糞の大きさ,色,つや,新しさなどから同一個体による1回の排泄と判断されるタヌキの糞数個を1サンプルとし,それを複数採取した.
 糞サンプルは0.5 mm間隔のフルイで水洗し,残った内容物を次の15群に類型してポイント枠法(Stewart 1967)で分析した.昆虫(鞘翅目,直翅目,膜翅目,幼虫など),節足動物(多足類など),無脊椎動物(甲殻類,貝類など),鳥類,哺乳類,脊椎動物の骨,その他の動物質,果実,種子,緑葉(イネ科,スゲ類,単子葉植物,双子葉植物など),枯葉,植物その他(コケ,キノコなど),人工物(輪ゴム,ポリ袋,紙片など),その他,不明.「脊椎動物の骨」の中には一部に鳥類,両生類の骨とわかるものもあるが,多くは不明であり,哺乳類の骨の破砕された小片も含まれる.
ポイント枠法では,食物片を1 mm格子つきの枠つきスライドグラス(株式会社ヤガミ,「方眼目盛り付きスライドグラス」)上に広げ,食物片が覆った格子交点のポイント数を百分率表現して占有率とした.1サンプルのポイント数は合計100以上とした.

結果と考察
* 月ごとの結果は
 2021.12月-2022.3月 こちら
 2022.4月 - 6月  こちら
 2022.7月, 8月    こちら
 2022.9月- 11月    こちら

<月比較>
 月比較をすると次のようであった(図1)。


図1. タヌキの糞組成の月変化

 2021年12月は「植物その他」が多く、コメの種皮の可能性があるが特定できない。
 2022年1月上旬にはエノキ、ムクノキなどの果実と種子が増えた。1月下旬にはイネ科が増えたが、糞分析は内容物を面積で評価するのでイネ科の葉のような面的なものは大きく評価されるが、食物としては貢献度は小さいと思われる。
 2月には再び果実・種子が多くなり、ポリ袋などの人工物も増えた。
 3月は果実・種子がこれまでで最も少なくなった。脊椎動物の骨が多くなったが、これはヒキガエルの骨であった。その占有率は18.6%だが食物としてはその2倍以上の意味があるだろう。種子と人工物は2月より少なくなった。
 4月には、種子は1サンプルからセンダンの種子が1個検出されただけだった。昆虫が大きく増加し、無脊椎動物も増えて両者で半量となった。1例ではカニが検出された。人工物も少なくなり、透明なプラスチックと糸が検出されただけであった。植物供給量は増加したが、糞中では減少したので、果実がなくなり、昆虫などの供給状態が良くなって葉を食べなくなったものと推察される。
 5月は再びエノキなどの種子が検出された。カエルの骨が10例中7例あった。1例では鳥の羽毛があった。これまでの葉は枯れ葉が主体でイネ科が少量あったが、5月には双子葉草本が見られた。「その他」が26.9%と多かったが、その主体は木質の材であり、ボロボロの微細なブロック状であった。これは古い枯れ木の材と思われ、食物として摂取したものとは思われず、中にいる昆虫などを食べるときに一緒に食べたのかもしれない。人工物としては菓子類の包袋と思われる「銀紙」が2例、紙類が1例あった。
 4月と比較するとカエルの骨、種子、「その他」が増え、昆虫、無脊椎動物が減った。なお、小林が設置しているセンサーカメラの動画に5月12日にタヌキがヒキガエルを捕食し、引きちぎって食べるところが撮影された。動画から静止画を取り出したのが図3である。図3左ではヒキガエルが体を縮めたような姿勢をとり、タヌキがこわごわと前肢を出している。図3右はその3分後で、ヒキガエルに噛み付いて、前肢で押さえ、首を引いて引きちぎっている。このことからも、ここのタヌキがヒキガエルを食べることが確認された。

図3. センサーカメラ(動画)が捉えた、タヌキがヒキガエルを捕殺する様子。左はタヌキがヒキガエルに右前肢を伸ばしている。右ではヒキガエルを前肢で押さえて首を上げて口で引きちぎっている。2022年5月12日22:38-22:41。

 6月になると糞が見つけにくくなくなった。センサーカメラによってもタヌキの訪問頻度が減り、しかもダンゴムシが群がって分解も進むので、糞が残っていないのである。そこで、小林が早朝に訪問することを試みた。センサーカメラも作動させることで、いつ排泄されたかも確認するようにした。その結果、1日1個くらいは発見されることもあることがわかり、6個の糞を確保した。分析の結果、甲殻類(アメリカザリガニ)が多く、果実は減ったが、前年に落下したエノキが検出される一方、今年のサクラ、クワ、ビワ、ウメなどの種子も検出された。葉と哺乳類もやや増加した。
 7月も糞が見つけにくかったが、8個が確保された。エノキの果実が増えた。エノキは今年の果実はまだ緑色で樹枝についているからタヌキが食べたのは去年落下した果実と推察したが、8月11日にはオレンジ色に熟した果実が確認された。8月の結果と総合的に考えると、7月時点でも早めに落下した果実を食べていた可能性がある。またクワの種子も検出された。クワは今年の果実が熟したものと考えられる。人工物はゴムのような弾力のある白い物体が少量検出されたにすぎないから、残飯をあさるというほどの食物不足ではないようだ。
 8月も糞の分解が進むため、サンプリングが困難だったが、7月同様に採集確率を高めて10個を確保した。組成は7月と似ており、果実と種子が多く、ほとんどはエノキであった。エノキは8月上旬にはオレンジ色あるいは暗褐色に熟していたから、サンプリングした中旬以降にタヌキが食べたのは今年のものと考えられる。甲殻類と植物の葉は減少した。
 9月になると、8月とは違いがあった。ムクノキの種子・果実が増え、エノキ果実・種子とともに果実が26.1%、種子が28.9%となり、合計で75%に達した。その分、昆虫と哺乳類が減少した。気温も低下したので、昆虫が減少し、果実が増えたことを反映しており、これからは「秋の食性」になるものと推察される。
 10月にはさらに果実・種子が増えて4分の3を占めた、文字通り「実りの秋」になった。内訳ではムクノキが最も多く、カキノキ、エノキがこれに次いだ。
 11月も果実・種子が主要であったものの、果実はやや少なくなり、種子が増えた。昆虫、葉、人工物が増えた。人工物は1例で糞のほとんどを靴紐と思われる紐が占めていた(こちら

 これまでの結果を見ると、本調査地のタヌキの食性はカエルと甲殻類という白幡沼の動物を利用し、時にはかなり依存的であるということが特徴と言えそうである。また月変化としては3月までは果実が主体であったが、4月以降は動物質が増加した。果実はエノキ、ムクノキが非常に多い。このことは調査地に果実をつける樹木があまり多くないためと思われ、相対的にこれら限定的な果実への依存度が高いこともこの調査地のタヌキの食性の特徴であろう。
2022年11月8日 記




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10月の訪花昆虫調査の結果

2022-10-08 22:38:12 | 報告
 2022年10月の調査結果をまとめました。

 花はアキノキリンソウとヤマラッキョウがいずれも35%で、ノハラアザミも多くて、この3種が92%を占めました。

10月の花数

 訪花昆虫は甲虫(大半はハムシ)が過半数を占め、ハチが33%で、ハエ・アブはこれまでと違い、8%にすぎませんでした。

10月の昆虫数の内訳

<それぞれの花にはどういう昆虫が来たか>
 主要な花3種について、どういう昆虫が来ていたかを見ると、アキノキリンソウでは甲虫(多くはハムシ)が最も多く、次いでハチでした。


 ヤマラッキョウは少し違い、ハムシが突出して多く、ハエ・アブもハチと同じくらい来ていました。
 

 ノハラアザミは明らかに違い、ハチ(マルハナバチが多い)が最多で、甲虫を上回りました。
 

 花の形を見るとアキノキリンソウはキク科で筒状花で、ハムシはここに潜り込んでいました。

アキノキリンソウ

アキノキリンソウにいるハムシとハチ

 このハムシは私が図鑑で見る限りルリマルノミハムシのようです。後ろにつく脚は「太もも」が極端に太く、触ろうとするとピンと跳ねて視界から消えます。

ルリマルノミハムシ

 ヤマラッキョウの花は一つを取り上げるとコップのような形で、これならハエなども吸蜜できるかもしれません。

ヤマラッキョウの花序

ヤマラッキョウの小花

 ノハラアザミは代表的なキク科の花で多数の筒状花が集合したもので、時々長い雌蕊が突出しています。


ノハラアザミの筒状花

 蜜が筒の底にあるはずですから、マルハナバチやチョウが長い口で吸蜜します。

ノハラアザミ、トラマルハナバチ

ノハラアザミ、イチモンジセセリ

<昆虫はどういう花を選んだか>
 今度は昆虫ごとにどの花に訪問したかを見てみます。
 ハチは口が長いので筒状花からも吸蜜できるはずで、キク科のアキノキリンソウとノハラアザミに多かったことは矛盾しません。


 ハエアブは舐めるための短い口を持っていますから、皿型の花なら大丈夫ですが、筒型は吸蜜できないはずです。結果を見るとヤマラッキョウに多かったのでこれも矛盾しませんが、ノアザミにもある程度来ていました。



 甲虫としてはハナムグリもいましたが、大半はハムシでした。このハムシは捕まえようとするとピンと跳ねて消えてしまいます。花の上で吸蜜しているかどうかわかりません。訪問数ではヤマラッキョウとアキノキリンソウが多い結果でした。


 このように、花の作りと訪花昆虫には大まかな対応関係があるように思えます。

++++++++++++++++

 昆虫数の月変化を見ると5月から7月までは少なかったのですが、8月、9月と急増して、10月に減少するという変化を取りました。7月は上旬に調査をしたので、中旬以降であればもっと多かったはずです。

昆虫数の月変化

 このグラフではわかりにくいので、内訳を取り上げると、8月にハエ・アブが最多となり、その逆に甲虫が最少になりました。5, 6月と10月を比べると、ハチが多くハエ・アブと甲虫が少なめでした。

昆虫の割合の月変化


元に戻る こちら
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10月8日の訪花昆虫調査

2022-10-08 10:30:22 | 報告
 今年は5月から訪花昆虫の調査をしてきましたが、10月が最後になります。急に涼しくなったので昆虫は減っているはずです。8日に日程調整しましたが、このところ天気が悪く、7日は1日中雨で東京でも寒いくらいでした。ただ天気予報では8日は回復するだろうということでした。当日の朝、東京は曇りで「これはダメかな」と思ったのですが、いくだけ行くことにしました。遠山に着くと薄曇りくらいでした。
 現地に着くと数人が待っておられました。空は明るくなり、調査はできそうでした。簡単に打ち合わせをして3班に分かれて調査を始めました。

記録をとる

 私はいつもの芳賀さんと二人で林を担当しました。花はグッと少なくなり、ノハラアザミくらいしか目につきませんでしたが、調査を始めるとヤマラッキョウやヤマトリカブトもありました。

ヤマラッキョウ

ヤマトリカブト

 訪花昆虫はあまりいないだろうと思っていたので、ノハラアザミにミヤママルハナバチがいると嬉しくなって眺めました。芳賀さんは本当に生き物が好きなようで、ミヤマを見ては「かわいいー」と優しく話しかけていました。

ミヤママルハナバチ

ヤマトリカブトにはほとんどいなかったのですが、それでもトラマルが来たので喜びました。

調査中の芳賀さん

 途中で見える草原はススキが枯れて秋の装いでした。

ロッジを見下ろす

 一番上の尾根に着きましたが、富士山は見えませんでした。そこにサクラスミレの狂い咲きがありました。思っていたよりは昆虫の記録が取れました。

 花を見ながら少し早めにロッジに戻りました。

リンドウ

アキノキリンソウ

ハバヤマボクチ

ノコンギク

 三々五々に集まってきて、お昼になりました。いつものことながら、リンゴ、ナシ、カキ、ブドウ、それにポポなどみなさん果物を持ってきておられて美味しくいただきました。さすがに「果物の山梨」です。あれこれ雑談をしましたが、作る側からすると例えばブドウの糖度が少し低いだけで受け取ってもらえず、困るとのことでした。食べても味に違いは感じられなくても、箱の中の一つノブドウが不合格に箱全体がダメとなるのだそうです。それから畑の土壌調査があって、調査に10万円もかかるので、角田さんの場合、4つの畑があるので40万円もかかるということでした。それだけの額を売り上げるのは大変なはずです。「まったくJAは意地悪をしているみたいだ」とのことでした。


お昼の団欒


 奥平親子は午後に別の予定があるということで、記念撮影をしました。

記念撮影

 午後は別の場所を調べ、2時頃には終わりました。夏に子供が見つけたというギンリョウソウモドキの話になり、「では見にいこう」ということになりました。上むきに果実がなっていました。

ギンリョウソウモドキ

 みなさん、楽しく調査をしてくださり、楽しい一日になりました。

 調査結果は こちら


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植物・植生

2022-10-08 07:04:05 | 研究
植物・植生

<動物と植物の関係>
我が家(東京都小平市)の周りでの鳥類種子散布 2021.4.2 こちら
 
生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 −.
高槻成紀. 2022. Binos, 29: 1-7.   こちら new!

麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布. 
高槻成紀. 2020. 麻布大学雑誌, 32: 1-9.  こちら 

スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例
高槻成紀・望月亜佑子. 2021. 人と自然, 32: 99−108 こちら

乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた (2021年8月) こちら
乙女高原での訪花昆虫調査(2022年8月) こちら

<草原の動態>
山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -. 
高槻成紀・植原 彰(2021)植生学会誌, 38: 81-93. こちら 

ススキとシバの摘葉に対する反応 – シカ生息地の群落変化の説明のために
高槻成紀(2022) 植生学会誌, 39: 85-91. こちら new!

乙女高原のスミレ こちら new!
高槻成紀・植原 彰

乙女高原の訪花昆虫 2022年7月 高槻成紀・植原 彰 こちら 
乙女高原の訪花昆虫 2022年9月 高槻成紀・植原 彰 こちら
乙女高原の訪花昆虫 2022年10月 高槻成紀・植原 彰 こちら

<都市の植生>
2018年台風24号による玉川上水の樹木への被害状況と今後の管理について. 
高槻成紀. 2020. 植生学会誌,  37: 49-55. こちら
 
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ヤマネの巣に使われたサルオガセ

2022-10-04 09:09:49 | 最近の論文など
八ヶ岳のヤマネの巣材について公表した(こちら)。その中で巣材にサルオガセが使われていたと記述したが、これを地衣学の専門家が読んで、写真などの提供を求められた。それが2022年10月に出版された「図説地衣学講義」に引用されたので、紹介する。それによるとこのサルオガセは主にヨコワサルオガセであるらしい。流石に専門家は写真を見ただけでわかるようだ。

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