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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

アンケートのお願い

2021-11-19 18:56:24 | 最近の動き
みなさま

玉川上水についてのアンケートにご協力お願いします。


周辺にも拡散していただけるとありがたいです。

2021.11/19
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乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた

2021-08-08 12:49:57 | 最近の動き
2021.8.12

乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた – 2013年との比較 –

高槻成紀(文責)・植原 彰・井上敬子・鈴木辰三

2021年8月8日に訪花昆虫の調査をしました。台風が近づいているというので行こうかどうか迷いましたが、後で後悔するくらいなら行くだけ行ってダメなら諦めればいいと思い、行くことにしました。塩山駅で植原さんに拾ってもらって移動するあいだも半分は「ダメかな」と思わせる曇天で、時おり小雨も降りました。
 現地に着いてようすを見ると、薄曇りで「できなくはない」くらいにはなりました。「ひょっとしたらできるかもしれない」と思えるくらいになって集合の10時になり、鈴木さんと井上さんも来てくれたので、「巻尺張りだけはやろう」ということになりました。調査法の打ち合わせをしている間に、少し空が明るくなってきて、薄日もさすくらいになりました。

乙女高原には歩道があり、管理されているので歩きやすく、歩道の両側には杭があってロープが張ってあります。曲がり角に番号をつけ、その間に「コースB」というようにアルファベットの記号をつけました。これを4人で分担して記録を取ることにしました。ゴールに向かって100mの巻尺を張り、昆虫がいた花の位置を記録できるようにしました。右側幅2mの範囲内の花に昆虫が来ていたら、それを時刻と距離とともに記録するようにしました。つまり往復で歩道の両側4mをカバーすることになります。昆虫は以下の10群に分けました。

ハエ、アブ、アリ、カメムシ、甲虫、ガ、チョウ、
ハチ(マルハナバチ以外)、マルハナバチ、不明

結果をまとめたのが表1で、訪花昆虫が見られた花は26種、訪花昆虫の総数は859匹でした。それぞれの花にきた昆虫の数は1匹というものがいくつかありましたが、多いのはヨツバヒヨドリで260匹も来ていました。次はシシウドの102匹、ノハラアザミの72匹などが続きました。昆虫の数の合計を見ると、アブが209匹、ハエが192匹で、この2つ(双翅目)を合わせると401匹に達しましたから、これが半分近くということです。次が甲虫で151匹、マルハナバチが147匹でした。

表1. 2021年8月の乙女高原での訪花昆虫数


このうち訪花昆虫数が50匹以上と特に多かったトップ5を取り上げたのが図1です。これを見ると明らかな傾向があって、オミナエシとヨツバヒヨドリはハエ・アブが大半を占めていました。一方、ノハラアザミはほとんどがマルハナバチでした。この間にチダケサシとシシウドがあり、チダケサシでは半分くらいが甲虫で、シシウドはハチ、甲虫、ハエなどが3分の1くらいを占めていました。


図1. 202年18月に訪花昆虫がよく来ていた花、トップ5の内訳

図2. 訪花昆虫がよく来ていた花

次に昆虫数が20以上であった8種を取り上げたのが図3です。


図3. 訪花昆虫がよく来ていた花(昆虫数20匹から50匹)


図4. 比較的訪花昆虫が多かった花

訪花昆虫の内訳を見ると、イタドリとワレモコウはハエ・アブが多く、ウスユキソウとイケマはアリが多く、ヤマハギとタチフウロはマルハナバチが多いというはっきりした傾向がありました。傾向がはっきりしないのはヒメトラノオとシモツケソウでハエ、マルハナバチなどが20-30%を占めていました。
 このように多くの花で訪花昆虫にはっきりした傾向があったので、理由を考えてみます。オミナエシ、イタドリ、ワレモコウなどは花が小さく、皿のような形をしているので、ハエ・アブが蜜を舐めやすいだろうと推察できます。逆にノハラアザミ、ヤマハギのように花の形が複雑で蜜が花の奥にある花の場合はハチ・アブは蜜が吸えず、マルハナバチのように口が長く伸びる昆虫しか利用できないだろうという推察もできます。ウスユキソウとイケマは花が小さく開いているのでアリが来ていましたが、これも納得できます。
しかしヨツバヒヨドリも小さな筒型の花なのでこれにたくさん来ていたハエ・アブは蜜がちゃんとなめれるのだろうかと疑問が残ります。一方タチフウロはいかにも蜜が吸いやすいように開放型の形をしているのでハエでも蜜が吸えそうですがほとんどがマルハナバチでした。だから話はそう単純ではなさそうです。
こういうデータがわかってくると、花を何気なく見ていたことに気づきます。もっと花の作りなどをしっかり見ないといけません。

 ところで、この調査は柵を作って乙女高原の花を守ることで花が戻ってきて、その結果、訪花昆虫も戻ってきたことを示したいということで始めたものです。私は2013年に卒業生の加古さんの研究テーマとしてこのことを調べていました。そこで加古さんのデータと比較してみました。表1と同じまとめをしたのが表2です。ただし加古さんはアブとハエを区別せず「アブ」でまとめています。花の種数は18種ですから、2021年の26種は44%増しということになります。特にヤナギランとオオバギボウシは、私は去年まで花を見ていないので、今年花を見ただけでなく、訪花昆虫のデータが取れたのでとても嬉しく思いました。このほか2013年に記録されず、今年記録されたものにはオミナエシ、イタドリ、イケマ、ヒメトラノオがありました。ことにオミナエシは今はたくさんあるので2013年に全く記録がなかったというのは意外感があります。

表2. 2013年8月の乙女高原での訪花昆虫数


 初めに2013年と2021年の昆虫全体の内訳を見ると、基本的にはよく似た組成でした(図5)。どちらもハエ・アブがほぼ半分、マルハナバチが20%ほどでした。2013年の方がチョウが多く、2021年の方が甲虫が多い点は違いました。しかし全体の数が8倍も違うので、2021年にチョウガ「減った」わけではなく、偶然ですがどちらも14匹でした。


図5. 2013年と2021年の訪花昆虫の内訳. 
年の後の()内の数字は合計値.

次に2013年と2021年の訪花昆虫数を比較したのが図6です。全ての花で大幅に増加しましたが、ヨツバヒヨドリは2013年でも最多で、5倍に増えました。そのほかでも大幅に増えましたが、特にシシウド、チダケサシなどは増加が目立ち、オミナエシ、イタドリでは2013年に全く記録がありませんでした。


図6. 2013年と2021年の訪花昆虫数の比較

次に「念のため」という感じで、ある程度訪花昆虫が多かった2種について昆虫の内訳を比較したのが図7です。これを見るとどちらの年でもヨツバヒヨドリではハエ・アブが、ノハラアザミではマルハナバチが多かったということがわかりました。同じ花ですから、年によって違わないのは当然といえば当然です。


図7. ヨツバヒヨドリとノハラアザミの2013年と2021年の訪花昆虫の内訳。訪花昆虫数は花の名前の後に記した。

 このように乙女高原がススキ原のようになっていた2013年に訪花昆虫の調査をし、その後2015年11月に柵が完成し、野草の回復の様子を見守ってきました。(柵については こちら
 それから5年後の去年、訪花昆虫の調査をしてもらい、はっきりと違いがあることがわかりました。去年は週末に雨が続き、私はどうしても都合がつかず、植原先生たちにお任せしたのですが、今年は順調に調査ができました。去年とほぼ同じデータが取れて、大きくいえば一桁訪花昆虫が増えました。これまで見なかった花にも訪花昆虫が確認され、少ししかなかった花に大量の昆虫が訪れていました。植物が回復することは、同時に花と昆虫のつながり(リンク)が回復するということです。昆虫が増えればそれを利用する小動物も増えるなどさらなるリンクが生まれるはずです。豊かな乙女高原が戻ってきたことが確認できてとても嬉しく思いました。



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最近の動き

2020-12-01 23:06:49 | 最近の動き
2021.1.13 『シカ問題を考える』(2015、ヤマケイ新書)が韓国で翻訳されて出版さた。

2020.12.12 「はけの自然と文化をまもる会」で「 タヌキや身近な動植物と私たちの暮らし」という講演をした。こちら
2020.12.6 「木の実 草の実 たねしらべ」を実施した。こちら
2020.11.17 高尾山周辺のシカの糞分析例 こちら
2020.11.22 「はけの自然と文化をまもる会」で「花マップの調査からわかる玉川上水」という講演をした。こちら


2020.11.12 アファンの森でタヌキの糞のサンプリングをした。



2020.10.10 宗兼明香・南 正人との共同研究である以下の論文が
   「哺乳類科学」に受理された。
    長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性
2020.10.2 「麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布」が
  「麻布大学雑誌」に受理された。
2020.9.21   石川愼吾氏、比嘉基紀氏との共同研究である以下の論文が
   「日本生態学会誌」に受理された。
   四国三嶺山域のシカの食性−山地帯以上での変異に着目して 
2020.8.30  稲葉正和氏、橋越清一氏、松井宏光氏との共同研究である以下の論文が
   「Mammal Study」に受理された。こちら
   Seiki Takatsuki, Masakazu Inaba, Kiyokazu Hashigoe, Hiromitsu Matsu.
   Opportunistic food habits of the raccoon dog – a case study on Suwazaki
    Peninsula, Shikoku, western Japan
   タヌキの日和見的な食性 - 愛媛県の諏訪崎での事例 -
2020.8.28 日本哺乳類学会特別賞の受賞 こちら 
2020.7.25 鏡内氏との共同研究である以下の論文が「Wildlife Biology」に受理された。
   Kagamiuti, Yasunori and Seiki Takatsuki.
   Diets of sika deer invading Mt. Yatsugatake and the southern Japanese
   South Alps in the alpine zone of central Japan
   中部日本の八ヶ岳と南アルプスの高山帯に侵入しているニホンジカの食性 こちら
2020.5.26  谷地森氏との共同研究である以下の論文が「哺乳類科学」に受理された。
   高槻成紀・谷地森秀二「高知県のタヌキの食性 – 胃内容物分析 – 」
2020.4.25 以下の論文が「植生学会誌」に受理された。
  高槻成紀「2018 年台風 24 号による玉川上水の樹木への被害状況と
   今後の管理について 」こちら
2020.3.25 「津波の来た海辺」が出版。このうち「タヌキも戻ってきた」を
   分担執筆。
2




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日本哺乳類学会特別賞の受賞

2020-08-28 21:52:31 | 最近の動き
2020年9月6日付で日本哺乳類学会特別賞を受賞することになりました。受賞理由は
「長年にわたる研究活動を通じて哺乳類学ならびに日本哺乳類学会の発展に寄与」したということで、光栄なことです。
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都市化する社会の人と動物

2019-07-09 23:04:52 | 最近の動き
都市化する社会の人と動物

麻布大学いのちの博物館上席学芸員 高槻成紀(たかつきせいき)

 動物を研究してきたものとして、人と動物のことを考えてみたいと思います。動物の話題といえばパンダのシャンシャンでしょうか。生まれた時から大の人気者で、中国へ返す日程が延長されたと報じられました。これは結構な話ですが、多くの人が認識していないことがあります。それはパンダは一体、どういう動物なのかということです。
 動物は人間との関係でいえば、家畜とペットと野生動物の3つに分けることができます。家畜は生産動物とも呼ばれ、ウシやブタに代表される動物たちで、肉やミルクを提供する形で私たちの生活に役立っています。家畜の生活は人に管理されており、家畜化される前の原種が絶滅してしまったものもいます。ペットは可愛がられるという形で人の役に立っており、広く人の役に立つという意味で、また、生活を人に管理されるという意味で家畜と同じです。イヌは伝統的には番犬とか猟犬など実用的な働きをしてきましたが、今は家族のような存在になっています。家畜でもペットでもない動物は野生動物です。
 同じ動物でも、このように人間との関係として眺めると大きく性質が違うことがわかり、それによって我々が接すべき姿勢も違うはずです。そういう視点からいうと、パンダはどの動物群になるでしょう。家畜でないことはわかります。野生動物といえばライオンとかゾウなどが連想されますが、シャンシャンはそういう動物とは違うような気がします。ではペットでしょうか。可愛らしいし、白黒の模様も野生動物のイメージとは違います。それにのんびりとタイヤで遊んだり、昼寝をしていたりするので、その点でもペットかなと思います。しかしそれは正しくなく、パンダは紛れもない野生動物です。野生動物とは人間とは無関係に自分の力で生きることのできる動物であり、その環境で長い時間をかけて進化してきました。
 動物園を訪れる人たちはシャンシャンの可愛い面だけを見ますが、その感覚はペット、あるいはぬいぐるみを見るものです。しかし現実にはパンダは絶滅の危険がある野生動物なのです。パンダがなぜ絶滅しそうであるのか、今後どうなるかを考える人はほとんどいません。


 可愛いとされるパンダの目玉模様を外してみると全然可愛くない顔になります。



 これは私たちが外見に強く影響され、勝手にイメージを持つことを示しています。それでも、パンダは良いイメージだから問題は小さいといえます。かわいそうなのは悪いイメージを持たれている動物です。例えば、オオカミは欧米では長い間、悪魔のように毛嫌いされてきました。それはヨーロッパでは長い間、ヒツジを飼育する農業をしてきたからで、そのヒツジをオオカミが襲って殺すことがよくありました。おとなしいヒツジ、それも子羊が殺されたのを見た農民はオオカミに強8として絵画に描かれています。


オオカミのイメージ(中世の絵をもとに高槻が描く)


 ヨーロッパの価値観を持ち込んだアメリカへの入植者はオオカミを見つけると徹底的に殺しました。殺したオオカミの前で撮影した記念写真がたくさん残されています。


日本ではさほど嫌われた動物はいないようですが、コウモリが嫌いな人は多いし、哺乳類以外も考えれば、ヘビは怖がられて嫌われます。特定の動物ではなく、そもそも動物は気持ちが悪い、嫌いだという人は少なくありません。最近私が電車に乗ってきたとき、車内にアゲハチョウが入ってきました。その時に女性が悲鳴をあげてパニックのようになりました。チョウがパタパタと飛んでいれば多少気にはなりますが、何も実害はありません。その時、私は「ああ、この人は生活の中で昆虫に接することがないのだな」と思いました。

 このように、偏見によって特定の動物を嫌悪するのは良くないことですが、私にはそれ以上に気がかりなことがあります。それは無関心ということです。
 私が調べてきたニホンジカは奈良公園のものがよく知られていて、のんびりと芝生で草を食べる動物というイメージですが、実際には各地で増えすぎて農林業被害だけでなく、山の森林に深刻な影響を及ぼすまでになっています。またイノシシも大きな農業被害を出しています。そのため、こうした動物は駆除されており、シカもイノシシも毎年60万頭もの膨大な数が駆除されています。しかし、多くの人はそのこと自体を知らないし、なぜ駆除しなければならないかも理解していません。都市に住む人が増える中で、動物の実態が捉えられなくなっているのです。「イタチごっこ」という言葉はありますが、イタチを見たことのある人がどれだけいるでしょう。有名な「故郷(ふるさと)」の歌は「ウサギ追いしかの山」で始まりますが、ノウサギを見たことのある人もとても少なくなりました。それだけ現代の日本社会が動物に接する機会を失っているということです。

 半世紀にわたって動物を研究してきた私が感じるのは、どの生き物も懸命に生きているということです。絶滅に瀕している動物もいれば、増えすぎて人間との間に難しい問題を引き起こしている動物もいます。しかし、その動物自身が変化したのではありません。問題のほとんどは人間によって動物の生息環境が変化させられたことによるものです。そのことが明らかであるのに、都市住民が増える中でそのことが実感しにくくなっています。

 そのことを象徴する意味で、私の好きな古今亭志ん生の噺の枕を紹介します。

「あれ、どうしたんだい。あのカニ、まっつぐ歩いてらぁ」
するとカニが
「ちょっと酔っちゃったもんで」

 これがどっと受けるのですが、私はこの話を聞いて昭和の時代の人と動物の関係の空気のようなものを感じます。その時代、誰もがカニを見たことがあり、カニは横に歩くことを知っていました。子供も大人も路地で時間を過ごしたので、酔っ払いがフラフラと横歩きをするのも見たことでしょう。そういうことが前提にあるから志ん生の噺がどっと受けたわけです。しばらく前の日本では、カニだけでなく、さまざまな動物が身の回りにいて、人々はいつでもこういう動物に接して生きていました。そしてカニにはカニの、カエルにはカエルの事情があって、人間とは違う生き方をしている。人にとって意味のないこともそれぞれの動物にとっては大事なこともあるのだということを共有していました。思いやりというほどゆとりのあるものだったかどうかはわかりませんが、動物がいるからと大騒ぎをして徹底的に殺すということはなかったように思います。

 冒頭のパンダに戻ると、私たちは動物の外見から勝手なイメージを持ち、メディアからの情報に影響されてステレオタイプに捉えがちです。そのことで、ある動物を熱愛する一方で、別の動物を嫌悪します。都市生活をしていれば動物に接することもなくなりますから、その傾向はますます強くなっています。そのため野生動物のことを知らず、無関心になっています。無知・無関心は偏見を生み、問題がさらに深刻になります。私はこのことがさらに進むことを心配しています。
 本来、動物を身近に感じて暮らしていた日本人が都市生活をするようになって無関心になり、偏見を持つようになりました。その傾向は都市化が進む中でさらに強くなるでしょう。その過程で、人と動物の関係を希薄にするのは望ましくないことです。私たちの社会はそのことを意識し、動物の実情を伝える努力をもっとしなければならないと思います。そして、子供たちに動物や自然のことを教える努力をもっとする必要があると思います。

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モモンガ 外観の観察

2018-12-02 09:29:00 | 最近の動き

 ムササビを入手して、その処理も終わらないうちに同じ半場さんから「今度はモモンガを手に入れたよ」と連絡がありました。山で愛犬が拾ってきたということです。それを送ってもらいました。
 体重は104グラムで、ムササビの10分の1、胴長も90ミリでムササビの3分の1ほどしかありません。目が大きく可愛いのですが、ヒゲが52ミリもありました。


モモンガの横顔 目が大きく、ヒゲが長い

また、尾が長くて、ムササビで205ミリだったのですが、モモンガで140ミリあり、半分以上でした。つまり胴長に対する尾の比はムササビで0.79であったのに対して、モモンガは1.56もありました。



 背面を見るとムササビとさほど違わない印象ですが、針状軟骨を広げて飛膜を最大限に開くと「座布団」ではなく前半で広くお腹のあたりでは狭くなる形になりました。






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ムササビ後日談 2

2018-11-28 18:03:37 | 最近の動き
 ムササビの死体を提供してくださった半場さんはヨットの心得があるとのこと。針状軟骨の話をしたら「それならヨットのバテンのようなものだな」ということでした。聞いたことがなかったので調べてみたら、ヨットのメインセール(主帆)に水平に入れる「骨」で、やはり柔軟性があるもののようです。これがないと風が吹いた時に帆がパタパタとなるのだと思います。それを抑えるのに芯になるのがバテンということのようです。そうであれば、ムササビの針状軟骨はまさにヨットのバテンに相当すると思います。


ヨットの部分の名前。バテンはメインセールの芯として機能


ムササビの「バテン 」である針状軟骨。イラストでは針状軟骨を強調しており、実際には皮下にあってこのようには見えません。


 もう一度バテンと針状軟骨を比較してみます。ヨットではマストがあって、そこに帆を張る。帆は風をはらんでヨットが動く力になるが、そのためにはブームとマストで三角形の帆を固定する必要があります。三角形であることで力が下に集中し、ヨットは安定するわけです。
 一方、ムササビの飛膜は滑空するためですから、広ければ広いほどよいわけで、前後の脚に最大限付いています。だからヨット本体に対応する胴体にマストである前肢、後肢が2本あると見做すことができます。前肢をマストとみて少し違うが後肢をブームと見ることもできなくはありません。そうすると針状軟骨はまさにバテンに対応します。ただ、ヨットの場合は風を孕むことと、安定することが帆の構造を決めたのに対して、ムササビ ではできるだけ空気をはらんで対空時間を長くすることが必要条件になります。そのために針状軟骨は飛膜のバタバタを安定させるというより、被膜の面積を拡大するということの意味が大きいと思われます。もし針状軟骨がなければ、前肢に続く皮膜はダラリと垂れさがったりするでしょうが、それが針状軟骨でピンと広がるはずです。つまり小指と針状軟骨で三角形上の芯を作って、飛膜を外側に広げ、安定性をもたらしているのだと思います。

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ムササビの滑空

2018-11-17 16:55:53 | 最近の動き
ムササビの標本作りで針状軟骨を加熱して失敗しました。調べてみたら私が小指の変形だと思っていた針状軟骨は小指ではなく、全く独立したものでした。そのこともあって少し勉強しました。こちら
 体のつくりはそれが機能しているところを見なければわかりません。それでネット検索をしていたらとても良い写真がありました。こちら
それを説明するために以下に書き込みをしました。



 まず前肢です。ムササビは滑空するときに四肢を最大限伸ばして飛膜面積を最大にするのはまちがいありません。でも、私たちが水泳の時に腕を伸ばし、手先まで直線的にまっすぐにしようとするのとは違い、ムササビは掌を手首のところで大きく内側(顔側)に曲げています(図の②)。これは針状軟骨を外側に押し出すためです(①)。そのことで尺骨以上の長さを外側に広げることができます。針状軟骨には筋肉がついていないことはOshida(2010)で明らかになっていますから、針状軟骨そのものを意志で動かすことはできません。そのために掌をぐっと内側にすることで手首の部分を支点にして針状軟骨を傘のように開くのです。
 この写真でわかることももう一つは、顎のあたりから手首まで飛膜があるということです。だから飛膜は前後肢の間にあるだけでなく、前肢の前にもあることがわかります。
 後肢について言えば、前肢よりも膝の部分で折れ曲がっており、足首を大きく曲げるということもないようです(④)。針状軟骨がないのだから当然と言えば当然のことです。後肢の飛膜の出発点は寛骨(大腿骨の付け根)よりはずっと下(写真で言えば右)にあり、尾骨で言えば尾の付け根よりは末端側まで広がっています。だから飛膜の面積は相当稼いでいます(⑤)。
 尾は水平に広げて空気抵抗を最大限にしています(⑥)。

これを人が毛布でも使って滑空しようとしているのに例えてみます。


もし人がムササビになろうとしたら

普通なら飛膜を最大面積になるように手先までまっすぐに伸ばします。でもムササビがやっているのは、普段は肘の脇にカマのような針状軟骨を持っていて、飛ぶときに手首をギュッと内側に曲げることでカマをビュンと外側に広げ、肘から手先ほどの長さ(これを1尺と呼んだからこの骨を尺骨という)ほどを拡大することに成功しているということです。まことに見事というほかありません。

 良い写真があったので、針状軟骨について理解が進みました。


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著作など

2018-01-10 05:44:36 | 最近の動き

<公表した本、論文など>
 2016年に出版された本は以下の3冊です。
「タヌキ学入門--かちかち山から3.11まで 身近な野生動物の意外な素顔」、誠文堂新光社。

これは一般向けにタヌキのことを紹介したもので、生物学の話だけでなく、昔話などにも言及しました。


「玉川百科 こども博物誌 動物のくらし」、玉川大学出版部。

これは小学生の低学年を対象にしたもので、哺乳類だけでなく、鳥類、寮生爬虫類、魚類も含み、それぞれの専門家にわかりやすく書いてもらいました。イラストがすばらしく、よいできになりました。



「増補版野生動物管理−理論と技術−」,羽山伸一・三浦慎悟・梶光一・鈴木正嗣,編、文英堂出版,東京。

これは専門書で、このなかにつぎの2つを書きました。
生態系と野生動物のインパクト.:117-142.
食性分析.:295-297.

 論文は4編書きました。
足立高行・植原 彰・桑原佳子・高槻成紀.2016.
 山梨県乙女高原のテンの食性の季節変化.
 哺乳類科学,56: 17-25.
足立高行・桑原佳子・高槻成紀,2017
 福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析.
 保全生態学,21: 203-217.
 この2つは大分の足立さんがテンの糞を長いあいだ根気強く分析されたもののまとめをお手伝いしたもので、乙女高原のテンの糞は植原さんが採取したものです。福岡のものは11年間におよぶもので、そのあいだにシカが増えて、テンが食べる昆虫や低木の果実などが減ったことがわかりました。

Yamao, K, R. Ishiwaka, M. Murakami and S. Takatsuki. 2016
Seasonal variation in the food habits of the Eurasian harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan.(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Zoological Science, 33: 611-615.
 これは日の出町廃棄物処分場跡地に復活したススキ群落にもどってきたカヤネズミの食性を糞分析で解明したもので、夏の昆虫、冬の種子と季節変化があることが初めてわかりました。またダンゴムシやシデムシなど地表を歩く昆虫などが食べられているという意外なことも初めて明らかになりました。

Morinaga, Y., J. Chuluun and S. Takatsuki. 2016.
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia : a comparison of traditional nomadic grazing and experimental sedentary grazing, (伝統的遊牧と固定飼育によるヒツジとヤギの体重の季節変化の違い:モンゴル北部での事例)
Nature and Peoples, in press
 これは伝統的な遊牧で育てた場合と実験的に固定飼育した場合、ヒツジやヤギの体重がどう違うかを比較したもので、固定するとやせることがわかりました。私たちは事情を知らないで「モンゴルは土地面積に対する生産性が低い」と批判する声があるのを、それには意味があるのだということを示したいと思いました。

書評
高槻成紀, 2016.
日本のイヌ- 人のともに生きる 菊水健史・長澤美保・外池亜希子・黒い眞器.
JVM. 69: 197. 
高槻成紀,2016.
「女も男もフィールドへ」椎野若菜・的場澄人(編)(2016)古今書院
哺乳類科学, 56: 293-295.

エッセー、解説など
高槻成紀, 2016. いきものばなし10, ニホンジカ. ワンダーフォーゲル,2016.2: 156-157.
高槻成紀, 2016. 唱歌「ふるさと」から里山の変化を考える. 環境会議, 2016春: 40-45.
高槻成紀, 2016. 麻布大学いのちの博物館を語る. 日本農学図書館協議会誌, 181: 7-14.
高槻成紀, 2016. 東京のタヌキ。東京人, 372(2016年7月): 7.
高槻成紀, 2016. 子供たちに動物の息吹を伝えたい.週間読書人,2016.8.5
高槻成紀, 2016. シカ研究者がみた最近の日本の山. 木の目草の芽, 125: 1-4.

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講演など

2016-12-31 02:37:09 | 最近の動き
<講演など>
振り返ってみれば、「こんなに?」というほどたくさんお話ししており、われながら驚きます。

1月15日 かわさき市民アカデミー、「シカと植物の関係」
2月13日 相模原・町田大学地域コンソーシアム、「麻布大学いのちの博物館ができるまでとこれから−大人も子供も学べる場を目指して」
3月10日 TBSラジオ「荻上チキSession22」
3月19日 B&B、「動物博士! うんちを集めてるって本当ですか!?」
4月18日 武蔵野美術大学、「玉川上水のタヌキを調べる」
4月23日 アースデイ東京2016、「森の再生」「地域創生」
4月24日 国立市公民館環境講座、「動物の言い分〜都市生活と野生動物〜」
4月25日 武蔵野美術大学、「生き物のつながり、1. 花と虫」
4月25日 武蔵野美術大学、「生き物のつながり、2. 分解昆虫」
5月18日 御岳山、
7月12日 かわさき市民アカデミー、「野生動物の言い分」
9月01日 森林インストラクター東京会、「森林と動物−シカを中心に動植物の
つながりを考える -」
9月09日 ラディッシュボーヤ、「森から海へ」
10月02日 館山猟友会、「シカ問題を考える」
10月29日 兵庫県養父、「シカ問題とその背景」
11月15日 武蔵野美術大学、「玉川上水調査 これまでにわかったこと」

このときの講演の動画はこちら

11月18日 かわさき市民アカデミー、「森林管理と生き物のつながり」
11月20日 相模原市立博物館、「東京西部に生息するテンとタヌキの食性比較」
11月24日 早稲田大学エクステンションセンター、「唱歌ふるさとの生態学」
11月25日 日本山岳会、「シカ研究者がみた最近の日本の山」
11月27日 桐生自然観察の森、「シカと植生と人間について」
11月29日 かわさき市民アカデミー、みどり学1「シカ問題を考える」
12月01日 早稲田大学エクステンションセンター、「野生動物の言い分ータヌキやクマに語らせたら・・・」
12月06日 かわさき市民アカデミー、みどり学フレッシュ「身近な野生動物−タヌキを例に−」
12月21日 Darwin Room, 「玉川上水調査 これまでにわかったこと」


Darwin Room で清水さんと


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仕事

2016-12-31 01:33:14 | 最近の動き

<仕事>

 2015年3月の定年退職し、4月からは「麻布大学いのちの博物館」設立のお手伝いをすることになりました。博物館は2015年9月に開館したのですが、半年は専任の人はおらず、派遣職員の方に受付や資料整理などをしてもらっていました。それが2016年4月からは事務職員がついて、本格的に動き出しました。私は上席学芸員という立場です。


麻布大学いのちの博物館外観

常設展示のほかに企画展として「ロードキル」、「動物の目」を実施しました。また新規収蔵展示として「須田修氏の遺品」の展示をしました。


ロードキル展


動物の目 展


須田修氏遺品 展

これとは別に夏に「夏休み子供教室」として動物の骨の勉強をしてもらいました。


夏休み子供教室

団体来館もあり、解説をしました。またミュゼットという学生の博物館支援サークルがあり、毎週土曜日に「ハンズオンコーナー」として、動物の骨をさわってもらう活動をしてもらいました。オープンキャンパスや大学祭では展示解説をしてもらいました。このほか増井光子資料の登録作業などをしています。


<調査>
 今年の3月から武蔵野美術大学の関野吉晴先生が進めておられる「地球永住計画」の活動の一環として玉川上水の動植物を調べることを始めました。タヌキを「主人公」にし、食性、糞を利用する糞虫を調べるほか、訪花昆虫や動物散布される果実の調査などをしました。毎月観察会をし、参加者の協力をえて調査をしました。玉川上水にはほぼ毎週、夏には週に2、3回通いました。


解説をする

 これまでの継続調査も続けられるものは続けています。タヌキの糞分析の比重が大きく、仙台の海岸のタヌキは知人が毎月糞を送ってくれています。東松島でニコルさんたちが進めている「復興の森」にいって観察したり、タヌキの糞を採取したりしています。長野の黒姫にあるアファンの森でもタヌキの糞を集めています。今年からは明治神宮でもタヌキの糞集めをできるようになりました。なおタヌキの糞分析といえば陛下が皇居のタヌキの食性を糞分析であきらかにしたすばらしい論文を書かれたことも私にとって重要なことでした。
 乙女高原は昨年の終わりから今年にかけてシカの影響を防ぐために大きな柵が作られたので、その群落調査に行きました。11月の草刈りのときにカヤネズミのものと思われる地表巣を発見しました。


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「ふるさと」の生態学書評

2015-04-20 22:43:37 | 最近の動き
本日4月26日の毎日新聞に「唱歌ふるさとの生態学」の書評が掲載されました。



2015年7月 4日

【この1冊】『唱歌「ふるさと」の生態学』日本の里山風景はなぜ失われたのか

著者・高槻 成紀
ヤマケイ新書、定価800円+税

 小学唱歌「故郷(ふるさと)」が世に出たのは1914年(大正3年)。それから、ちょうど1世紀後。「故郷」に盛られた歌詞から、現代日本がいかに遠い所に来てしまったかを生態学者が読み解く、興味深い1冊が出た。

 「故郷」は「兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川」で始まるが、現代人の大部分は山でウサギを見たこともなければ、川でフナを釣った経験もない。どちらも姿を消してしまった。それを「都市開発が進んだため」などと簡単に片づけるだけでは、コトの本質を見誤る。本書はそれを丹念に分析している。

 著者は、「故郷」で歌われた風景は、日本の農村が何百年にわたって整備してきた里山のたたずまいであり、自然と調和した生活の場だったと規定。しかし、戦後の高度成長期を経て、過疎化などで調和が崩れ、ウサギの代わりにイノシシ、シカ、クマが里山に姿を現すようになった。具体的には本書を読んでもらえば、その理由がよくわかる。「もっと豊かに」「もっと便利に」と生活水準の向上を追い求めた日本人は、それを達成した代わりに、「故郷」が描いた自然を失った。

 見方を変えれば、もはや帰れないとわかっていながら、今なお多くの人々が愛唱する「故郷」という唱歌の不思議な魅力は、今後も失われることはないに違いない。東日本大震災後、被災者らによって繰り返し歌われたことは、まだ記憶に新しい。“お手軽新書”が幅を利かせている昨今、マレにみる良書。 (のり)


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