高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

もくじ

2024-12-31 03:56:31 | もくじ
このブログでは主に研究について紹介します。

最近の動き 

今進めている生き物調べの報告 
 シカの食性 こちら
 シカ その他 こちら
 タヌキの食性 こちら 
 フクロウの食性 こちら
 その他の動物 こちら
 植物・植生 こちら

  玉川上水の保全関連 こちら

 標本 こちら new
 海外調査
  モンゴル2018年の記録こちら
  モンゴル、フスタイ国立公園のタヒとアカシカの食性と群落選択 こちら
  
  野生馬タヒを復帰させたモンゴルのフスタイ国立公園の森林に及ぼす
   タヒとアカシカの影響 こちら
  インドネシア、西ジャワのパンガンダラン自然保護区でのルサジカの食性 
   - 同所的なコロブスとの関係に注目して こちら
 
最近の論文 2020-2022 2023- new
私の著書 こちら
それ以外の著作 new
最終講義
退職記念文集「つながり」
唱歌「故郷」をめぐる議論


研究概要
 研究1.1 シカの食性関係
 研究1.2 シカと植物
 研究1.3 シカの個体群学
 研究1.4 シカの生態・保全
 研究2 調査法など
 研究3.1 その他の動物(有蹄類
  その他の動物(食肉目)
  その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)
  その他の動物(哺乳類以外)
 研究3.2 その他の動物(海外)
 研究4 アファンの森の生物調べ
 研究5 モンゴル(制作中)
 研究6 野生動物と人間の関係
 研究7 教育など
 研究8 その他

業績
 論文リスト 2010年まで
 論文リスト 2011年から
 書籍リスト
 総説リスト
 書評リスト
 意見リスト

エッセー
 どちらを向いているか:小保方事件を思う 2011.4
 皇居のタヌキの糞と陛下 2016.10
 バイリンガル 2018.6.11

2017年の記録
2016年の記録
2015年の記録
2014年の記録
2013年の記録
2012年の記録 6-12月
2012年の記録 1-5月
2011年の記録

その他
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シカの食性分析

2024-07-17 22:38:19 | 研究

金華山での25年間における植生とシカの食性の変化 こちら

秩父大山沢のシカの食性 こちら 分析中

丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例. 高槻成紀・梶谷敏夫. 2019. 保全生態学研究, 24: 1-12.  こちら
山梨県早川町のシカの食性. 高槻成紀・大西信正. 2021. 保全生態学研究, 23: 155-165. こちら

奈良公園と春日山のシカの食性. 高槻成紀・前迫ゆり(完了)こちら
スギ人工林が卓越する場所でのニホンジカの食性と林床植生への影響: 鳥取県若桜町での事例. 高槻 成紀・永松 大. 2021. 保全生態学研究, 26 : 323-331. こちら
四国三嶺山系のシカの食性. 高槻成紀、石川愼吾、比嘉基紀. 2021. 日本生態学会誌, 71: 5-15. 
こちら 
九州大学福岡演習林 こちら 完了

九州大学宮崎演習林 こちら 完了(「保全生態学研究」、受理)

鹿児島大学高隈演習林 こちら 分析中


シカの食性を知りたいという調査地があれば、はこのサイトのコメントにご連絡ください。高槻


高槻によるシカの食性分析点

コメント (3)
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千葉県佐倉市のタヌキの食性 

2024-06-24 19:11:17 | 調査
千葉県佐倉市のタヌキの食性

高槻成紀・原 慶太郎

 タヌキの食性は関東地方を中心にかなりわかってきた。これまでの報告例の生息地をタイプわけすると、市街地、東京都心の皇居のような大きな緑地、里山、二次林を含む自然植生にわけられる。タヌキはそれぞれの環境に応じて食性を変化させる柔軟性をもつ。それだけにより多くの事例報告が蓄積されるのがのぞましい。
 今回、原慶太郎氏から、千葉県佐倉市の自然公園の一部でタヌキのため糞があったので分析してもらえないかと提案があった。原氏は古くからの知人であり、景観生態学研究者でもあり、この場所の観察や調査もしておられるので、ただの食性分析よりも、環境のことを調べながら進められそうだという期待もあり、引き受けることにした。

 場所は図1-1の通りで、佐倉市の北西部、北総台地に谷津が接している場所で、図1-2の空中写真を見ると、雑木林と耕作地がモザイク状に混在する地域である。

図1-1 調査地の位置図

図1-2a 調査地の空中写真


図1-2b タヌキの糞採集地の空中写真
 <2023年1月>
 1月21日に採取された13の糞サンプルを分析したところ、極めて単純であることがわかった。すなわち果実と種子で90%を占めていた。この全てはムクノキの果実と種子であった。そのほかでは、2例でゴム片がに比較的多く含まれていたにすぎない。


図1-4. 佐倉(左)と他の2カ所での1月のタヌキの糞組成

 タヌキは雑食性なので、10個の糞があれば、数個に同じ食物が含まれていることはあっても、そのほかの糞には別のものが含まれているのが普通であり、全ての糞で果実だけが優占していることは珍しい。しかもそれがムクノキただ1種であったことは、これまでの報告でもなく、私自身の分析でも経験していない。
 図1-4には、参考までに浦和市の浦和商業高校と愛媛県松山の里山で調査した1月の結果を合わせて示した。浦和でもムクノキ果実は検出されたが、他にも植物の葉、茎などの支持組織、昆虫なども検出され、組成は多様であった。松山ではキウイフルーツなど果実が多く、ゴマ、米、カキノキなど「作物」としたもの、ゴム片などの人工物なども目立つなど、いずれも佐倉のように単純な組成ではなかった。

 ムクノキはタヌキが好んで食べる果実だが、多くの場合、エノキの果実が一緒に出てくる。原氏によれば、ため糞場の近くにムクノキが多い樹林があるということなので、タヌキはこの季節にはもっぱらムクノキ果実を食べているのであろう。なお微量ではあるがゴマの種子も検出された。

 図1-5には検出物を示した。

図1-5. 2023年1月の検出物

<2月>
 2月19日に回収された糞の状態は図2-1のようであった。

図2-1. 2023年2月19日のため糞(原慶太郎撮影)

 糞の組成をその後のものを含め図2-2に示した。1月の糞がムクノキの果実と種子だけだったのに対して、2月には果実全体は減少し、ムクノキ以外の果実が増え、種子も減少した。代わって作物が増えたが、大半はサツマイモであった。人工物としてはゴム片が検出された。ムクノキ種子は1月の26.0%から4.6%に減少した。そして1月にはなかったエノキが3.5%検出された。エノキとムクノキの果実は夏の終わりから落下しているから、1月にエノキを食べていなかったのは、なかったからではなく、ムクノキを確保する方が効率的だったからであろう。したがって今回エノキ果実が検出されたのは、ムクノキ果実をほぼ食べ尽くし、1月にもあったが食べていなかったエノキ果実も食べるようになった可能性が大きい。2例でサツマイモが多く出たが、これは農耕地に生息するタヌキらしい食性といえる。つまり2月になったら、これまでムクノキ果実だけに依存的であった状況を脱し、他の食物を探しながらややメニューが拡大したといえる。


図2-2.  佐倉の2024年6月までのタヌキの糞組成

 糞中のサツマイモと思われる物質を潰して確認したところ、澱粉粒が確認された(図2-3)。これは市販のサツマイモとも、インターネットで確認したものとも符合した。


図2-3 検出された澱粉粒(A)と市販のサツマイモの澱粉粒(B)
およびインターネットのサツマイモ澱粉粒(C)


図2-4 2月の糞からの検出物

<3月>
 3月20日に採集した10例のサンプルを分析した。3月になると果実と種子が減少し、植物の支持組織(主に繊維)が増えた(図3-1)。果肉は識別できなかったが、果皮にはムクノキが少量含まれていた。種子はエノキとムクノキが全体でそれぞれ1個と2個あったにすぎない。2月よりは昆虫が増えたが、幼虫が主体であった。葉が14.0%であったが、枯葉(5.6%)が多く、イネ科(4.4%)がこれに次いだ。農作物として2月に多かったサツマイモは少なく、籾殻が見られた。人工物としては2例でゴム片が検出された(6.0%)。
 全体的に3月は地上に残っていた果実類も少なくなり、新しい果実はないため、また農閑期でもあるために、タヌキにとって食物が乏しい月といえる。1月から2カ月しか経過していないが、内容が大きく変化した。このことも里山農耕地のタヌキの食性の特徴であるかもしれない。

図3-1. 3月の糞からの検出物

<4月>
これまで利用されていた「ため糞場」は利用されなくなったので、少し離れた場所に見つけたため糞場でサンプリングした。
4月になるとフンの組成は 大きく変化した。これまで多かった果実が非常に少なくなった。また安定的に検出されていたムクノキの種子が 全く検出されなくなった。これに対して、これまで少なかった昆虫が56.2%と大きく増加した。また 作物と識別されるものは検出されなくなった。
このような違いはサンプリングの場所が違ったことにも影響されるかもしれないが、場所の違いよりも、季節的な違いの方が大きいと思われる。4月は新しい草本類などが生育し始め、タヌキにとっては利用しやすいはずだが、糞中の植物の葉は特に多くなったわけではない。この時期、作物はあまりないものと思われる。タヌキはおそらく摂取しにくい小さな昆虫を探して食べていたものと思われる。その意味では、4月がこれまでよりも食物事情が良くなったとはいえないのかもしれない。しかし人工物も検出されなかったので、食料事情がそう悪くなかった可能性もあり、現段階では判断を保留したい。

<2023年12月>
 その後、タヌキの糞が発見できなくなった。これは珍しいことではなく、タヌキは突然、それまで利用していたため糞場を放棄することがある。また、糞をしても糞虫の分解が活発になって、分解された糞の残りしかないこともしばしばある。そのため11月まではサンプルを確保することができなかった。それでも12月17日にはB1で、12月23にはA1で発見された。
 結果は図2-2の通りで、A1では果実が非常に多かった。その多くはカキノキとムクノキの果皮であった。動物質は検出されなかった。B1でも果実が最も多く、昆虫が次いだ。一部の糞からはイネ科のはも検出された(図12-1)。果実はムクノキが最も多かった。昆虫は幼虫が多かったが、甲虫の薄い膜状の翅も検出された。図2-2では野生植物を「果実」や「種子」とし、カキノキの種子は「農作物」に分けた。

図12-1 2023年12月の検出物

 この結果を振り返ると、1月にはほとんどがムクノキの果皮と種子で閉められていたが、2月になると作物が増え、3月に緑葉や繊維、人工物などが増えて、4月になると昆虫が大幅に増えて果実が少なくなるという変化を示し、夏さ糞が確保されなかったので不明であるが、12月には再び果実が増え、昆虫も残っているという状況を示した。ただしAでは昆虫は検出されず、1月にはほとんどがムクノキであったのに対して、カキノキが多くなるという違いがあった。全体としては農作物に対する依存性は低く、雑木林の植物に依存的であった。

 糞採集地は農耕地であるが、農作物への依存度は小さく、カキノキなどはここでは農作物としたが、どちらかといえば庭などに植えられることが多く、畑の農作物ではない。したがって里山といっても農地よりは雑木林に依存度が高い食性を持っているといえる。なお人工物は1-3月に数%検出されたが、12月には全く検出されず、依存度が高いとはいえないようだった。

<2024年1月>
1月の糞組成は12月と大きい違いはなかった(図2.2)。最も重要であった果実は47.5とさらに増加し、昆虫はやや減少して15.8%となった。昆虫の多くは幼虫であった(図24-1)。農作物にはコメ(図24-1)とカキノキ(図24-1)を含め10.1%を占めた。カキノキが3.8%と増えた。前年の同期と比較すると前年はムクノキが非常に多かったが(図2.2)、今年はそうではなかった。
 ここまでで分かったことは、調査地のタヌキは基本的に雑木林のムクノキなどを食べ、時に農作物や人工物も食べるという、里山でも雑木林に依存性が強い食性を持っているようである。

図24-1. 2024年1月の検出物

<2024年2月>
2月になると糞組成に大きな変化が見られた(図2.2)。一つにはコメが大きく増えて27.1%に達したことである。このほかキウイフルーツの種子やギンナンの種子も検出された(図++)。糞から検出されたコメは炊いたものではなく硬い種子であるが、籾殻はごく少なかったので、農地に残された未脱穀のコメではなく農家やその近くに置かれた脱穀米を食べた可能性が大きい。2月の変化のもう一つは一部の糞にゴム片など人工物が多く含まれていたことである(図24-2)。そして野生植物の果実は大きく減少し、ムクノキが少量検出されたにすぎない。


図24-2. 2024年2月のタヌキの糞からのおもな検出物, 格子間隔は5 mm.

前月の1月までは雑木林に生育する野生植物の果実が多く、農作物は10.1%に過ぎなかったが、2月になると野生植物の果実は13.1%になって農作物は32.8%に大きく増加し、人工物も28.0%に大きく増えた。このことは冬になって雑木林の植物の果実を食べていたタヌキが、それらが乏しくなって農作物や人工物に依存するようになった可能性を示唆する。調査地は雑木林と農地が交錯しており(図1.2a)、タヌキは行動圏内に両方の植生を持っているが、可能な限りは安全な雑木林の食物を利用し、それが乏しくなると農地に出て農作物や人工物を口にするようになるものと推察される。

<2024年3月>
2024年3月までの結果を図2-2に、検出物を図24-3に示す。3月には2月と大きな変化が見られた。最大の違いは農作物が増えて74.3%に達したことである。その内訳はイモ類であり、サツマイモが多く、ジャガイモもあった(図24-3)。またギンナンが大量に含まれるサンプルもあり、またニンジンが多いサンプルもあった。ただしコメは検出されなかった。そのほかは少なかったが、人工物として2mm厚ほどのゴム片があった(図24-3)。
 雑木林に生息するタヌキの場合、秋に実った果実類を利用しながら冬を過ごし、その供給量が次第に減少して、2月、3月に最も食物が乏しくなり、糞中では哺乳類や鳥類の骨や羽毛、毛などが多くなることが多い。これに対して本調査地では2月、3月の農作物が多くなり、この季節の食物が乏しくはないようであった。これは本調査地のタヌキの食性の特徴の一つと言えそうである。


図24-3. 2024年3月のタヌキの糞からのおもな検出物, 格子間隔は5 mm.

<2024年4月>
4月になると、新鮮な糞が少なくなり、6サンプルを分析した。以下のような変化があった(図2-2)。大きい変化は作物が3月の74.3%から40.9%に減少したことである。作物の大半はコメであったが、1例にダイコンまたはカブと思われるものが多く含まれていた(図24-4)。また昆虫が3月の3.4%から18.8%に増加した。昆虫は甲虫が多かった。多くはないがイネ科も増加した。果実は9.3%であり、これは1月の47.5%と比較すると大幅に減少した。工物としてはティッシュが検出された(図24-4)。
 これをまとめると、4月になると前年の秋のムクノキやエノキなどの果実はほとんどなくなり、コメやダイコンなどの作物を食べ、現れてきた葉や昆虫を食べ、人工物も食べるという状況にあるようである。なお、2022年の4月は作物が検出されなかったので、年による違いもあることがわかった。

図24-4. 2024年4月のタヌキの糞からのおもな検出物, 格子間隔は5 mm.

<2024年5月>
 5月になると、これまでのため糞場が使われなくなり、近くにあった6サンプルを確保して分析した。以下のような変化があった(図2-2)。作物は4月よりさらに減り、昆虫、果実、葉などが増えて、作物依存の程度が弱まった。人工物は全く検出されなかった。種子は不明が多かったが、ハコベの仲間、ケヤキ、イネ科が確認された。
 これをまとめると、冬の間のエノキ、ムクノキなどの果実依存は、春になってなくなったが、その傾向がさらに進み、タヌキにとっての食糧事情は良くなって、人工物を食べる必要もなくなったと思われる。なお、糞の匂いも強くなり、果実から昆虫へのシフトを反映しているようだった。なお、2023年は5月以降は糞が発見されなくなったので、今回5月の糞が確保され、季節変化の新知見が得られた。


図24-5. 2024年5月のタヌキの糞からのおもな検出物, 格子間隔は5 mm.

<2024年6月>
昨年は5月以降は糞が発見できなかったが、今年は5月も6月も確保できた。内容を見ると、双子葉植物の葉が大きく増加し、昆虫も増加した。これに対して農作物は検出されなくなった。また人工物も検出されなくなった。種子としてはヒメコウゾが検出された。他の里山でこの時期によく見られるサクラ類やキイチゴ類の種子は検出されなかった。したがって、タヌキの食糧事情は好転し、タヌキは農作物や人工物への依存はやめ、昆虫や葉を食べるようになったことがわかった。現場で観察した糞はこれまでの分よりも水分が多かったが、これは植物の葉を食べるようになったからである可能性がある。
 これにより、これまで不明であった初夏のタヌキの糞組成が明らかになった。


図24-6. 2024年6月のタヌキの糞からのおもな検出物, 格子間隔は5 mm.
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フクロウの食物の識別の試みとその教材利用の可能性

2024-06-18 13:33:50 | 最近の論文など
フクロウの食物の識別の試みとその教材利用の可能性
高槻成紀
日本野鳥の会神奈川支部研究年報 BINOS 第 30 集 (2023) : 23-28

フクロウのペリットあるいは分析が困難と思い敬遠 されがちである。そこで検出される骨の識別法を試み た。特に重要なのはアカネズミ類とハタネズミ類の識別で、これは下顎骨により確実に可能である。またこ の材料は骨の学習にも適している。代表的な骨の特徴を以下に示した。



図 1 アカネズミ(A)とハタネズミ(B)の下顎骨と臼歯


図 2 アカネズミの骨格と主要な骨


図 3 モグラの骨格と主要な骨


図 4 ドバトの骨格と主要な骨


図 5a 主要な骨の一覧図


図 5b 主要な骨の一覧写真


図 6 アカネズミの切歯(上)下顎骨(下)


図 7 モグラの鎌状骨


図 8 モグラの下顎骨

そしてフクロウの食物を調べることの教 材としての可能性を、
1)フクロウのネズミ捕食の特 徴を学ぶ、
2)食物連鎖と頂点捕食者の意義を学ぶ、
3) 齧歯類、食虫類、鳥類の骨を学ぶ、
4)リンゴ園の被 害対策におけるフクロウの活用成功例を通じて保全生 態学を学ぶ、
などの利点があることを指摘した。
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宮城県東松島の復興の森のフクロウの食物

2024-06-18 13:21:38 | 最近の論文など
宮城県東松島の復興の森のフクロウの食物

高槻成紀・福地健太郎

<摘要>宮城県東松島市にある「復興の森」にかけたフクロウの巣箱に残された残存物を分析したところ、アカネズミ属の下顎骨6例、ハタネズミ属の下顎骨12例のほか、アズマモグラの上腕骨1例、ヒミズの上腕骨4例が検出された。鳥類の骨と羽毛も検出されたが、個体数推定は困難であった。森林性のアカネズミ属と草原性のハタネズミの双方が検出され、「ハタネズミ率」が66.7%であったのは他の場所と比較して多い方であった。このことは、調査地が丘陵地の落葉広葉樹林であり、周辺に丘陵の間にある谷津田と接していることを反映していると考えられた。


図 1 復興の森とフクロウの巣箱の位置.ツリーハウスは 木に木製の小屋を作ったもの,サウンドシェルターは 林の中で音を聞くための構造物


図 2 フクロウの巣箱と巣箱から顔を見せるヒナ.背後に いるのは親鳥 . 2021 年 5 月 23 日 , センサーカメラに よる

表 1 検出物の数

図3. 検出物

なお、巣箱に残った骨の中で大きめの鳥の足があり、足輪がついていました。山階鳥類研究所に問い合わせたらレース鳩であることがわかりました。

図 4 検出されたやや大きい鳥の足と骨 . A. 足 , B. 上腕骨 , C. 手根中手骨

図 5 検出された足輪。レース鳩のものであることが判明した

表 2 既往研究の「ハタネズミ率」の比較.「ハタネズミ」はハタネズミ属(Microtus),ビロードネズミ属(Eothenomys), ヤチネズミ属(Craseomys)など含む vole を指す.Suzuki et al. (2013) は複数の巣箱を比較しており,率に幅がある.

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甲州市菅田天神社のフクロウのペリット内容 – 市街地での1例

2024-06-18 07:15:23 | 最近の論文など
甲州市菅田天神社のフクロウのペリット内容 – 市街地での1例
高槻成紀・植原彰
Strix,40: 129-135. 2024

 日本のフクロウは森林に住むアカネズミ類を食べるというのが定説でしたが、わたしたちが八ヶ岳で調べたら牧場に近いところではハタネズミの割合が高いことがわかりました。その後、町中では鳥がよく食べられているという報告がチラホラではじめました。山梨の乙女高原で一緒に植物や訪花昆虫をしらべている植原さんと話していたら、以前に甲州市の神社の木立でペリットを集めていたということで、分析させてもらいました。そうしたら確かに鳥が多く検出されました。タヌキでもそうですが、融通のきく食性を持つ動物の場合、とにかく具体的な事例の蓄積が不可欠で、私はそういう事実の記録に役立ちたいと思っています。

<摘要>2001年5月に山梨県甲州市の神田天神社の森で採集したフクロウのペレット37個を分析した。げっ歯類、鳥類、食虫動物の出現頻度は、それぞれ26、24、4であった。この研究における鳥の出現頻度(64.9%)を以前の研究と比較したところ、森林や里山(約10 %)よりも高く、都市地(約70 %)と同様だった。本調査の結果は、都市域に生息するフクロウが獲物として鳥に依存する可能性を裏付けるものであった。


調査地

検出物

検出物内容

既往研究におけるフクロウの食性に占める鳥類の生息地別出現率(%)。森林1:白石・北原(2007)、森林2:松岡(1977)、里山1:米田ほか(1979)、里山2:今泉(1968)、市街地1:本研究、市街地2:森井・塩入(1996)、市街地3:内山ほか(2014)
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フクロウの食性

2024-06-18 07:09:35 | 研究
宮城県「復興の森」のフクロウの食性 こちら
アファンの森のフクロウの食性 準備中
山梨県甲州市菅田天神社のフクロウのペリット内容 – 市街地での1例 こちら

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フクロウの食物の識別の試みとその教材利用の可能性 こちら
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八王子市の滝山保全地域のタヌキの食性

2024-05-20 11:34:08 | 研究
東京都八王子滝山里山保全地域

豊口信行氏が東京都八王子滝山里山保全地域でタヌキのため糞があるのを発見したということで、2023年12月から糞を採集してもらうことになった。以下、逐次報告する。

調査地は東京都八王子滝山里山保全地域である(図1)。

図1 調査地の位置と空中写真

ここは里山として管理され、クリやコナラ、イヌシデなどの林が広がる(図2)。その東側にある竹林内で10個の糞を回収した(図3)。糞は0.5 mm間隔のフルイで水洗し、残渣をポイント枠法で分析した。

図2 保全地域の景観(棚橋さん撮影)

図3 竹林内のタヌキのため糞を採集する(棚橋さん撮影)

<12月>
結果は図4の通りであった。検出物の写真は図A-12に示した。


図4 タヌキ糞組成

12月の糞組成で最も多かったのは果実で48%を占めた。種子は12%で、このうちエノキが10.4%を占めた。少量ながらヒヨドリジョウゴの種子も検出された。農作物は全てコメで、コメ、稲籾、糠層(果皮、種皮)を合わせて15.0%を占めた。人工物としては、3例からゴム手袋の破片、プラスチック片などが検出され、4%を占めた。その他、昆虫(4%)、支持組織(繊維、6%)などが検出された。
 このような組成をみると、本調査地のタヌキの12月の食性は、保全地域内の落葉樹であるエノキの果実などを主体に果実を食べ、時に農地でコメを食べ、場合によって人工物も口にするというものであると考えられた。


図A-12 2023年12月の検出物

<1月>
1月も基本的に似たフン組成であり、果実、農作物、種子が重要であった。果実でも種子でもイヌホオズキが大きい割合を占めた(図A-1)。種子としてはエノキが多かった。


図A-1 2024年1月の検出物

<2月>
2月になると、やや変化が見られ、果実はこれまでの40%台から24.3%に減少した。農作物が20%前後から31.7%に大きく増加したが、その主体はコメであった。コメには籾殻がついたものもつかないものもあったので(図A-2)、保全地域に隣接する田んぼ(図4)に残った落穂を食べている可能性がある。また人工物が5.8%に増加した。内訳としては化学繊維のネット、ゴミ袋などにある黒いポリ袋、ブヨブヨの柔らかいプラスチック製品などがあった。これらの結果は、林内のエノキなどの野生植物の果実が少なくなって、タヌキは田んぼに出て落穂を食べたり、人家に接近して人工物などを食べるようになったと考えられる。


図4 保全地域(右側)に隣接する池と田んぼ(棚橋さん撮影)


図A-2 2024年2月の検出物

写真の一部は棚橋早苗さんの撮影によるものです。

<3月>
分析結果は図4に、検出物は図A-3に示した。分析結果を見ると、2月と似ており、果実が23.5%農作物が23.1%と多かった。農作物はやや減少した。逆に緑葉が増えたが、ほとんどはイネ科であった。種子にはエノキ、ヨウシュヤマゴボウ、センダンなどがあった(図A-3)。作物の多くはイネであったが、アズキも検出された(図A-3)。人工物としてはゴム手袋が検出されたが(図A-3)、量的には少なかった。
 このように3月は基本的に果実とコメを中心に冬の食物を食べていたが、昆虫とイネ科のはが少し増えたことは早春の到来を反映していた。

図A-3. 2024年3月の検出物

<4月>
 4月になると、いくつかの変化があった(図4)。検出物は図A-4に示した。一つは昆虫の増加で、3月には12.2%であったが、4月には20.4%になった。次に果実の減少である。タヌキは前の年の秋に実った果実を食べて、冬のあいだも食べるだけでなく、翌年の春にも食べ続けることがあるが、滝山では大きく減少し、エノキの種子が少数検出に過ぎなくなった。作物は3月(23.1%)よりやや増加したが、2月(31.7%)とほぼ同じレベル(29.4%)であった。内訳はコメが主体であった。人工物としてはティッシュとポリ袋が検出された。また不透過物が増え、「不明」が21.8%になった。
 これをまとめると、4月になって昆虫が出現してタヌキは昆虫を食べるようになったが、果実類は少なく、また作物も米くらいしか食べられないため、ティッシュやポリ袋など人工物も食べているという状況にあるようである。

図A-4. 2024年4月の検出物

<5月>
5月になると、大きな変化があった(図4)。検出物は図A-5に示した。これまで20-40%占めていた農作物はなくなり、羽毛(31.5%)と骨(24.1%)が多くなった。骨は空隙が多く、鳥の骨の可能性が大きい(図A-5)。骨は大きく、スズメ・サイズではなく、ヒヨドリやハト・クラスと思われる。昆虫は14.8%で4月とあまり違わない。種子ではクワが多かった(図A-5)。また人工物は全く検出されなかった。この結果は、これまでの農作物依存がなくなり、鳥の死体を食べ、昆虫や果実も多少食べたということを示している。ただし、これがタヌキの食物事情が良くなったのかはよくわからない。農作物と人工物がなくなったことを「食べる必要がなくなった」と解釈すれば、食物事情が良くなったといえるが、鳥の死体を確保するのは容易でないだろうから、安定的に良くなったといえるかどうか不明である。このサンプルは5月8日に確保されたものであり、質感から別の排泄と判断されたもの(n = 5)を採取したが、鳥の死体を食べた時の残渣が連続的に排泄されたのかもしれない。

図A-5. 2024年5月の検出物
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鹿児島県高隈演習林のシカの食性

2024-04-21 18:11:30 | 報告
鹿児島大学高隈演習林のシカの食性

高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)
川西基博(鹿児島大学・教育学系)

ニホンジカは北海道から沖縄まで日本列島に広く生息し、その分布域は亜寒帯から亜熱帯に及ぶ。この多様な生態系を反映して、シカの食性も一様ではなく、大きく見れば冷温帯の落葉広葉樹林帯ではササを主体とするグラミノイドが多く、暖温帯の常緑広葉樹林帯では常緑樹や果実などが多い傾向がある(Takatsuki 2009)。ただし、後者の情報は不十分であり、屋久島や山口などに限定的であった。特に九州では情報が乏しかったが、福岡と宮崎で分析例がある。福岡では駆除個体の胃内容物を分析した例があり(池田 2001)、双子葉草本が多く,夏には落葉樹が,冬には常緑樹が多くなる傾向があった。宮崎県では落葉広葉樹林での調査があり、グラミノイドが多く、落葉広葉樹がこれに次いだ(矢部ほか 2007)。その後、福岡県の九州大学福岡演習林と宮崎県の九州大学椎葉演習林で糞分析を行ったが、いずれもシカの密度が高いために、常緑、落葉を問わず広葉樹の葉、イネ科の葉ともに非常に少なく、九州の常緑広葉樹林帯でシカが低密度の場所での情報はいまだに不十分なままであった。
 今回、鹿児島大学の川西氏から鹿児島大学農学部附属高隈演習林でシカの糞が確保される可能性があると連絡をもらったが、秋までは発見ができなかった。2024年の2月以降、糞が確保されるようになったので分析したので、報告する。

方法
調査地は大隅半島基部の桜島の東側にある鹿児島大学農学部附属高隈演習林で(図1)、林内は巨樹の中に常緑低木類が多い(図2a, b)。詳しくは鹿児島大学のサイトを参照されたい(こちら)。方法はこれまでの他の場所と同一のポイント枠法なので省略する。


図1. 調査地の位置図

図2a. 高隈演習林の景観(2024年2月)

図2b. 高隈演習林の景観(2024年3月)

結果と考察
1)2024年2月上旬
シカの糞組成は常緑広葉樹の葉(図3)が60.3%を占め、優占していた(図4)。その多くはアオキの葉と思われ、実際調査地ではアオキに食痕が見られる(図5)。ただし、類似の表皮もあるかもしれないので種の特定は控える。これに次いで多かったのは繊維で34.4%であった。そのほかは微量であり、この結果は調査地のシカは林内に豊富にある常緑広葉樹の葉を食べ、その時に必然的に食べる葉の基部の枝部分の繊維が糞中に出現したと思われる。


図3. 検出された常緑広葉樹の表皮細胞. 格子間隔は1 mm.



図4. 高隈演習林における2024日7月までのシカ糞の組成(%)

図5. アオキの食痕(2024年3月20日)

2)2024年2月下旬
2月23にも同じ場所で糞が確保された。下旬になると常緑広葉樹がさらに増えて、66.4%に達した(図4)。また繊維は減少した。

3)2024年3月下旬
3月20日に採集した糞の組成は2月とあまり違わず、常緑広葉樹の葉がやや増えて71.2%と優占していた。2月下旬に11.2%を占めていた稈は0.9%に減少し、繊維が23.7%に増加して2月上旬と近い値になった。したがって3月になっても2月と同様、常緑広葉樹を食べている状態が維持されているといえる。

 今後、春から夏にかけては草本類、落葉広葉樹、イネ科などが増える可能性はある。ただし、シカ低密度の場所では糞の密度が低く、しかも夏には糞虫によって糞が分解するので、さらに発見がむずかしくなることが予想される。今後も糞が確保されるのが望ましいが、冬に常緑広葉樹の葉が60%以上検出されたことは意味が大きい。現在はシカが高密度になっている宮崎県の椎葉演習林でも、シカが低密度の時代にはこのような糞組成であった可能性がある。

4) 2004年4月
4月15日にはサンプルは2つしか確保できなかった。その糞の組成はこれまでとほとんど違わず、常緑広葉樹の葉が63.7%と優占していた(図4)。繊維が27.0%で、これまでとほぼ同じレベルであった。果実は5.7%とやや多くなった。したがって4月もこれまで同様、常緑広葉樹を食べている状態が続いている。ただしサンプル数が少ないので、参考程度としておく。

5) 2024年6月
 5月はシカの糞を発見できず、6月も11日に1糞塊が発見されたにすぎない。元々シカ密度が低く、おそらく糞虫の分解活動が活発なため、新鮮な糞が残っていないためと推察される。参考までに分析したところ、ほとんどが繊維と常緑広葉樹の葉で占められ、それぞれ54.5%と31.5%であった。これは繊維が増加し、常緑広葉樹の減少したということだが、サンプル数が1つだけなので、参考記録としたい。減少したとはいえ常緑広葉樹が30%ほどを占めたということは、ここでは常に常緑広葉樹が重要な食物であることを示唆する。

6) 2024年7月
 7月9日にはサンプルは2つしか確保できなかった。ひつとは演習林102林班、もう一つは103林班である。その糞の組成はこれまでと違い、常緑広葉樹が少なく、葉でない支持期間が多くなった(図1)。この傾向は6月から認められ、常緑広葉樹が半減し、繊維が半分ほどを占めた。7月になると常緑広葉樹はさらに減少して15%にな理、稈が40.2%と大幅に増え、これまでほとんどなかったイネ科が11.9%になった。このことはシカが道路沿いの林縁などにはえたイネ科を食べるようになり、葉は消化率が高く、稈が消化率が低いため糞に反映されている可能性が大きい。このことは宮城県の金華山島や山梨県の早川町でも認められている。
ただしサンプル数が少ないので、参考程度としておくが、常緑広葉樹林では一年を通じて常緑広葉樹が多いわけではなく、夏になるとシカの食物においてイネ科が増えて常緑広葉樹が減るということであれば興味お深く、十分にあり得ると思う。
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タヌキの食性

2024-02-16 12:57:09 | 研究
タヌキの食性: 北から南へ


宮城県仙台市 
高槻成紀・岩田翠・平泉秀樹・平吹喜彦. 2018. 仙台の海岸に生息するタヌキの食性 ―東北地方太平洋沖地震後に復帰し復興事業で生息地が改変された事例―. 保全生態学研究, 23: 155-165. こちら

埼玉県浦和市 高槻成紀・小林邦夫 Seasonal changes in the diet of urban raccoon dogs in Saitama, eastern Japan. Mammal Study, accepted.

千葉県佐倉市 高槻成紀・原 慶太郎 こちら 継続中

東京都日ノ出町 1
Hirasawa, M., E. Kanda and S. Takatsuki. 2006. Seasonal food habits of the raccoon dog at a western suburb of Tokyo.  Mammal Study, 31: 9-14. こちら 

東京都日ノ出町 2 
Sakamoto, Y. and S. Takatsuki, 2015. Seeds recovered from the droppings at latrines of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides viverrinus): the possibility of seed dispersal.
 Zoological Science, 32: 157-162.   こちら   

東京都裏高尾
東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –. 高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020. 哺乳類科学, 31: 67-69. こちら

東京都小平市 1
高槻成紀. 2017. 東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性. 人と自然, 28: 1-9. こちら

東京都小平市 2

東京都八王子市 森林科学園
Takatsuki, S., R. Miyaoka and K. Sugaya. 2018. A Comparison of Food Habits Between Japanese Marten and Raccoon Dog in Western Tokyo with Reference to Fruit Use.         
Zoological Science, 35(1): 68–74 . こちら

東京都八王子市 裏高尾 
高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020. 東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –. 
哺乳類科学, 31: 67-69. こちら  

東京都八王子市 滝山里山保全地域
高槻成紀・豊口信行 こちら 継続中

東京都明治神宮 
高槻成紀・釣谷洋輔. 2021. 明治神宮の杜のタヌキの食性. こちら

愛媛県諏訪崎 
Takatsuki, S., M. Inaba, K. Hashigoe, H. Matsui.          Opportunistic food habits of the raccoon dog – a case study on Suwazaki Peninsula, Shikoku, western Japan. Mammal Study, 46: 25-32. こちら

愛媛県松山市郊外 こちら 分析中

高知県 
高槻成紀・谷地森秀二.      高知県とその周辺のタヌキの食性 – 胃内容物分析–.   哺乳類科学, 61: 13-22. こちら

場所特定せず 高槻成紀. 2018.    タヌキが利用する果実の特徴 – 総説. 
哺乳類科学, 58: 1-10.    こちら

このような記述的な研究により、タヌキの食性がきわめて多様であり、可塑的であることがわかってきました。しかしまだ未知の場所が広く残されています。北海道や九州などの方で、タヌキの糞が確実に確保できる人は分析を引き受けますので、ぜひご協力ください。

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奈良公園と春日山のシカの食性

2024-01-11 08:49:20 | 研究
奈良公園の飛火野と春日山林内のシカの食性

高槻成紀・前迫ゆり

 奈良公園のシカの食性については、古く1978年に報告した(高槻・朝日 1978)。これはニホンジカの食性の定量的分析の最も古い論文の一つである。そこで明らかになったのは、奈良公園の平坦地ではシバを主体とした食物組成であること、若草山では春にススキが多くなるということであった。奈良公園のシカは少なくとも数百年あいだ、奈良の人々に手厚く守られることで、公園のシバなどのイネ科を主要な植物としてきた。そして、非常に高密度で生息している。このことは、人と大型野生動物との共存という意味で注目に値することである。同時に, このことは難しい問題を発生してもいる。奈良公園の背後には春日山がある。春日山の森はこの地方の原生的な植生であり、価値が高いが、高密度の奈良のシカが侵入して、森林植生に強い影響を及ぼし、森林の構造だけでなく、維持という点でも問題がある。照葉樹林の更新過程で、シカが食べないナギやナンキンハゼが定着し、場所によっては置き換えが起きている(前迫 2022)。ところが春日山に生息するシカの食性は全く知られていない。
 春日山の保全について長年調査してこられた前迫氏との共同で、春日山のシカの食性調査をすることになり、2023年5月から季節ごとにシカのフンを回収して分析したので、その結果を報告する。

調査地
 調査地は飛火野と春日山の2カ所とした。調査地2は春日山の西側標高300mのツクバネガシ・コジイ林である(図1)。


図1. シカの糞採集地

飛火野は平坦地でシバ群落が優占し(図2A)、観光客が多く、シカ密度も高い。調査地2は山腹斜面でコジイなどのブナ科常緑樹が卓越し、下層植生としてはイヌガシ、シキミ、アセビなどが生育し、草本層は貧弱であった(図2B)。


図2. 調査地の景観. A: 調査地1、B: 調査地2

方法
 調査地で新鮮なシカの糞を探し、糞1群から10粒を10群から採集した。これを0.5 mm間隔のフルイ上で水洗し、植物片を光学顕微鏡で検鏡し、ポイント枠法で評価した。ポイント数は100以上とした。食物はシバ、その他のイネ科、その他のグラミノイド、その他の単子葉類、常緑広葉樹、その他の双子葉植物、針葉樹、枯葉、果実、種子、繊維、稈、不明、不透過に分けた。「不明」は葉や果実ではなく、光学顕微鏡で見て透過性があるもので、特定できないもので、破砕した種子や芽鱗の断片なども含む可能性がある。「不透過」は真っ黒に見えるもので、ドングリの種皮などを含む可能性がある。
 またシカの食物供給量の指標として、調査地の地表群落の記述をした。各地に1 m四方の方形区をランダムに10個とり、出現種の(%)と高さ(cm)を記録した。この被度と高さの咳をバイオマス指数(高槻 2009)とて平均値を算出した。そして生育型(沼田 1969)を修正して種ごとにまとめた。
 またシカの利用度の指標としてシカの糞粒密度を測定した。調査地1では2 m四方の方形区、調査地2では糞粒が少ないので10 m四方の方形区を5つとり、糞粒の平均値を求めた。この調査は2023年7月から1月までおこなった。

結果
1.シカの糞組成
 調査地1(飛火野)ではシバが30%以上を占めたことが最も特徴的だった。特に5月と7月には40%以上となった。そのほかでは5月に彼は、繊維が多かった。7月にはシバ以外では稈が多くなった。10月になるとシバがやや減少し、稈が32.2%と大幅に増え、シバ以外のイネ科も13.2%を占めた。しかし1月になるとシバは大幅に減少し(3.6%)、繊維が39.2%を占めたほか、不明も27.0%と大きく増えた。シバは生産性が高いが、現存量は小さいため、冬になって枯れるとシカの食物としての価値を失い、シカはおそらく木本植物の枝などを食べるために繊維が増えるものと考えられる。


図3. 調査地1(飛火野)のシカの糞組成

 一方、調査地2(春日山)では調査地1とは大きく違い、シバはほとんど検出されなかった。5月に多かったのは、繊維(47.7%%)と常緑広葉樹(17.8%)で、シカは林内で常緑樹の葉を枝とともに採食することが多いと考えられる。7月になるとイネ科や落葉樹などが増えるものと想定していたが、全く違い、繊維が60.%もの大きい割合を占め、枯葉も11.8%であり、シカの食糧事情は非常に劣悪であることがわかった。10月になっても緑葉は増えず、繊維は減少したものの不明物が28.9%に増加した。また不透過物も31.0%と多くなった。この不透過物はドングリの殻(種皮)などを含む可能性がある。1月も同様であったが、不明がさらに増えた(43.7%)。


図4. 調査地2(春日山)のシカの糞組成

 以上の結果から、調査地1、2での季節間の変化の指標としてWhittakerの類似度指数(PS)を求めたところ、調査地1では春から秋まではPSは80%近かったが、冬になると23.8%と大きく落ち込んだ(図5)。これに対して調査地2では春と夏は71.3%%であったが夏から秋で46.3%に減った後、冬には81.5%に大きく上昇した。


図5. 調査地1(飛火野)と調査地2(春日山)における季節間の糞組成の類似度指数

 一方、調査地1と調査地2との類似度を季節ごとに見ると、春から秋までは30%前後と違いが大きかったが、冬には69.6%と大きくなった。これは春から秋までは調査地1ではシバが主要であり、調査地2では樹木の繊維や葉、不明物が多く、組成の違いが大きかったが、冬にはどちらでも繊維が多くなったことを反映しているためである。


図5. 調査地1(飛火野)と調査地2(春日山)における糞組成の類似度指数の季節変化

2.供給量
調査地1でのバイオマス指数の季節変化は春から秋までは300-500と非常に大きかったが、冬になるとシバが蹴れたため激減した(図6)。


図6. 調査地1(飛火野)におけるバイオマス指数の季節変化

一方、調査地2では春は高木と低木が少量あるだけだが、夏になるとシダと香木が増えてピークとなった。ただし値は調査地1の半量以下であった。その後、秋には減少し、冬には常緑高木がわずかになった(図7)。


図7. 調査地2(春日山)におけるバイオマス指数の季節変化

3.糞粒密度
 調査地1では10月には460/4m2と非常に多く、11月に半分程度に減少してそのまま維持された(図8)。一方、調査地2では10/4m2以下と非常に少なかったが、1月には490/4m2ほどと非常に多くなり、調査地1を上回った(ただし、この時は時間の関係で1か所しか調べていないので、今後追加調査をする予定)。つまり、春日山の林内では夏秋はシカがあまり利用しないが、冬になると大きく利用度が高くなることがわかった。


図8. 調査地1(飛火野)と調査地2(春日山)における糞粒密度の季節変化(暫定)

考察
<飛火野のシカの食性>
飛火野では春と夏にはシバが40%を前後を占めたが、半世紀ほど前の1976年5月の糞組成でもシバが春は30-40%、夏には70-80%占めていた(高槻・朝日 1978)。シバは生産力が高く(吉良 1952, Inoue et al. 1975, 高槻 2023)、シカは生育期にはシカにとって非常に重要な食物となりうる。しかし、現存量が小さいため、枯れると飼料価値は大幅に減る。実際、糞組成でも冬にシバは激減したし、バイオマス指数の変化もこれを裏付けていた。宮城県金華山においては、夏にシバ群落を利用していたシカが冬には周辺の森林を利用するようになることが知られている(Ito and Takatsuki 2005)。調査地1でも夏から秋まではシカの糞粒密度が高く、それは1月まで維持された。この点は金華山と違うが、飛火野ではシバが枯れても、観光客がシカ煎餅を与えるなどの事情でシカがシバ群落にとどまるものと考えられる。

<春日山のシカの食性>
春日山のシカの食性は知られていなかったが、今回初めて明らかになった。それによると、春日山のシカの糞組成は飛火野のそれとは全く違い、イネ科はほとんど出現せず、5月に常緑広葉樹が10-18%を占めた。他の季節では葉は少なく、繊維や不明物が多かった。これらは概ねバイオマス指数と対応したが、夏にはバイオマス指数がある程度大きくなったにもかかわらず、糞組成には葉は少なかった。その理由は林床では木本実生やシダが多くなったが、これらはシキミ、イヌガシ、イワヒメワラビ、コバノイシカグマなど不嗜好植物であり、シカは食べない。このためバイオマス指数が大きくてもシカの食物としては価値がない。 
 調査地2は若草山と500 mほどしか離れていない。若草山にはススキなどシカの食物になる植物が多く、実際シカも多くいる。調査地2と若草山の距離はシカにとって移動は十分可能であると思われるが、糞組成にはイネ科はほとんど検出されなかったことから、春日山のシカは行動上の理由から自由に行き来をするということはないようである。

<シカによる春日山の利用の季節変化>
春日山の森林は冬でも食物が増えるわけではないが、シカの利用度が著しく高くなった。これはシカが林内で寒さを防ぐとか林床の果実などを探して食べるためなどの理由でシカ利用度が非常に高くなるものと考えられる。

<シカによる春日山の森林に及ぼす影響>
この森林は林内が暗いため、シカが採食する植物が乏しく、シカは常緑樹などを探して食べるが、量的には少ない。その時に枝先も同時に摂取するため、糞中に繊維が多くなるものと思われる。春、夏は林床にある落ち葉も採食するため、糞中に枯葉が5-15%程度検出されたが、秋冬は枯葉も5%未満になった。
 
<飛火野のシカと春日山のシカの関係>
この分析により、春日山林内のシカの食性は奈良公園の平坦地のものとはまったく違い、シカは林内にとどまって乏しい植物を食べていることがわかった。もし、シカが林外で植物を食べて林内では休息や睡眠だけをするのであれば、後述する森林への影響は問題とならないが、実際にはシバ群落にいるシカはおもにシバを、森林にいるシカは基本的に森林の植物を食べていた。このことは、春日山の原生的常緑広葉樹の更新のためには問題がある。常緑広葉樹林は林床が暗く、採食を受けた植物の回復力が乏しい。同じ常緑広葉樹林である宮崎県椎葉にある九州大学の演習林ではシカが増加してからスズタケが壊滅的な影響を受けたことが知られているが(猿木ほか 2004)、これも回復力の弱さが関係している。春日山の林では時間をかけて更新する過程で後継樹が供給できず、場所によってシカの不嗜好植物であるナギやナンキンハゼに置き換わることが知られている(前迫 2022)。そのため樹冠を形成するシイ、カシなどの幼樹が生育できず、健全な森林更新ができず、一種の偏向遷移が起きているといえる、
 
<奈良のシカと春日山森林の保全>
奈良のシカは長い時間をかけて形成された人とシカとの共存の例として広く知られ、観光的にも価値があり、その保護が必要であろう。しかし、同時に春日山原生林も世界遺産としての価値がある。奈良公園の自然を管理する上では、この両方を実現することに難しさがある。その両立のためには、現状を把握し、何が起きているかの客観的把握が必要である。本調査により、春日山のシカの行動権の把握も解明すべき課題であることが示された。もし森林の更新が必要であると判断されたのであれば、ある程度広いシカ排除柵を設置することなどにより、後継樹の確保をするなどの対策が必要になるだろう。

文献
Inoue, Y., M. Iwamoto, T. Kaminaga and S. Ogawa. 1975. Measurement and comparison of primary production of semi-natural pastures dominated by Zoysia japonica. In Ecological Studies in Japanese Grasslands, with Special Reference to the IBP Area (ed. Numata, M.), JIBP Synthesis, Vol. 13: 123-124.
Ito, T. Y. and S. Takatsuki. 2005. Relationship between a high density of sika deer and productivity of the short-grass (Zoysia japonica) community: a case study on Kinkazan Island, northern Japan. Ecological Research, 20: 573-579. DOI:10.1007/s11284-005-0073-6
吉良龍夫. 1952. 生態学的に見たいわゆる過放牧牧野. 小物生態学報, 1: 209-213.
前迫ゆり. 2022. 照葉樹林に侵入した外来木本種の拡散にニホンジカが与える影響. 日本生態学会誌, 72: 5-12. 
沼田真(編). 1967.『図説植物生態学』, 朝倉書店
猿木重文・井上晋・椎葉康喜・長澤久視・大崎繁・久保田勝義. 2004. 九州大学宮崎演習林においてキュウシュウジカの摂食被害を受けたスズタケ群落分布と生育状況 2003年調査結果. 九州大学演習林報告, 85: 47-57.
高槻成紀. 2009. 野生動物生息地の植物量的評価のためのバイオマス指数について. 麻布大学雑誌,19/20: 1-4. https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030800112.pdf
高槻成紀. 2022. ススキとシバの摘葉に対する反応−シカ生息地の群落変化の説明のために. 植生学会誌, 39: 85-91. https://www.jstage.jst.go.jp/article/vegsci/39/2/39_85/_article/-char/ja
高槻成紀・朝日稔.1978. 糞分析による奈良公園のシカの食性,II.季節変化と特異性. 「天然記念物「奈良のシカ」報告(昭和52年度」:25-37.

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小平のタヌキ

2023-12-12 20:50:45 | 研究
玉川上水(小平)脇で死亡したタヌキについて

 2023年12月8日に玉川上水花マップのメンバーである桜井秀雄氏からタヌキの死体を発見したと連絡があった。前日の7日の夕方、小平市の八佐衛門橋の近くでうずくまるタヌキを見たとのことであった(図1)。


図1. うずくまるタヌキ(桜井秀雄氏撮影、2023年12月7日)

 この場所は八佐衛門橋(西武多摩湖線との交差点にある桜橋の下流の八佐右衛門橋の下流右岸、図2)

図2. タヌキ死体発見場所の位置

 気になって朝見に行ったら死亡していたとのことで、桜井氏はその死体を確保された(図3)。それを譲り受け、計測し、胃内容物を採取し、頭骨標本を作成した。


図3. 計測したタヌキ

 胃内容物を0.5 mm間隔のフルイで水洗し、残った食物片をポイント枠法で分析した。

計測など
 このタヌキはオスであり、まだ乳歯であったことから(図4)、0歳であることがわかった。

 
図4. 死亡したタヌキの頭骨(左)と切歯列(右)

 体重は3.0 kgで、皮下脂肪は厚い部位では5 mm以上あり、痩せてはいなかった。肩から尾の付け根まで(胴長)は29 cm、胸囲は29 cm、前肢長は15 cm、後足長は11 cmであった。
 目立った外傷、出血はなかったが、骨盤が複雑骨折を起こしており、腹腔内に内出血していたことから、交通事故にあったものと思われる。

胃内容物分析
 胃内容物分析からはエノキ、カキノキ、ムクノキの種子が検出された(図5)。そのほか直径20 mmを超える大きい魚の鱗、大きい幼虫も検出された。人工物としては輪ゴムが検出された。

図5. タヌキの胃内容物からの検出物。格子間隔は5 mm

 組成分析はポイント枠法で行なった。その結果、特定の食物群が多いということはなく、魚鱗と幼虫で4分の1、果実と種子が10%あまり、葉が20%、カキノキの種子が18%、人工物(輪ゴム)が5%などであった(図6)。


図6. 胃内容物の組成(ポイント枠法による)

考察
 これから推定すると、このタヌキは玉川上水かその近くに生息していて、五日市街道で交通事故に遭って死亡したようである。その胃内容物からは、エノキ、ムクノキ、カキノキの種子が検出された。エノキとムクノキは玉川上水沿いの樹林帯にあり、この場所の西側にある津田塾大学のタヌキの秋から冬の重要な食物であった(高槻 2017)。カキノキは玉川上水沿いにはなく、このあたりにはすでに農家はほとんどないから、カキノキは庭に植えられたものである可能性が大きい。大きい鱗は料理して廃棄されたものを食べたのかもしれないが、玉川上水には大きいコイがいるから、あるいはそれを捕食したのかもしれない。輪ゴムが出てきたことは残飯などを食べている可能性を示唆するが、量的には少なかった。このことから、基本的には野生の果実類を食べているようだった。

文献
高槻成紀. 2017. 東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性. 人と自然, 28: 1-9. こちら

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ジャワ島中部Pangandaranのルサの食性

2023-11-15 22:02:54 | 研究
ジャワ島中部Pangandaranのルサの食性の季節変化

高槻成紀・辻大和・A.W. カンティ・B. スリオブロト

この論文は以下のように公表されました。
Seiki Takatsuki, Yamato Tsuji, Kanthi Arum Widayati, Bambang Suryobroto. 2023.
Seasonal changes in the dietary compositions of rusa deer in Pangandaran Nature Reserve, West Java, Indonesia。Austral Ecology, 48: 1056-1063. こちら


摘要:ジャワ中部のパガンダランのルサの食性を調べたところ、雨季と乾季で明瞭な違いがあった。雨季には芝生状のCynodonが50%を占めるほど依存的であった。これに対して乾季にはCynodonは20%前後に減少し、繊維が30-40%に増加した。この時期にはルトンの落とした枝をルサが食べられることが知られているが、糞組成でも果実が増加した。温帯では「夏は食物が豊かな季節だが、冬は乏しくなる」のに対して熱帯では「雨季は食物が豊かな季節だが、乾季はそれに加えて果実も食べられるさらに豊かな季節である」という違いがあることがわかった。

調査地のパンガンダラン保護区

降水量の季節変化


ルサの糞組成 graminoidはイネ科など、fruitsは果実、フィbれは繊維、culmは稈(イネ科の茎)
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九州大学宮崎演習林のシカの食性

2023-09-24 07:09:19 | 研究
宮崎県椎葉村の九州大学宮崎演習林のシカの食性−経過報告−

高槻成紀・片山歩美(九州大学院農学研究院、環境農学部門)

これまで九州のシカの食性は情報が限られている。屋久島で垂直分布に注目した分析があるほか(Takatsuki, 1990)、九州本土ではわずかに2例があるに過ぎない。1例は福岡県のシカの胃内容物分析で双子葉草本が10-50%で夏に多く、常緑広葉樹が10-50%で冬に多かった(池田, 2001)。もう一つは宮崎県椎葉村の九州大学宮崎演習林と周辺のシカの胃内容物で、グラミノイド(イネ科、カヤツリグサ科など)が50-60%程度と多く、落葉広葉樹が20-30%であった(矢部ほか, 2007)。
 宮崎演習林では1970年代からシカが増え始め、1985年に人工林被害が始まり、1986年にはスズタケが消失し始め、2001年には9割が消失したという(村田ほか, 2009)。そして2003年には演習林のうち東側で面積の広い三方岳団地ではスズタケが壊滅的な被害を受けていた(猿木ほか, 2004)。
 矢部ほか(2007)の当地でのシカ食性分析は2002-2004年のサンプルを分析したものであり、すでにスズタケの占有率は少なかったとされる。
 こうした状況で2022年に片山氏からシカの糞分析の依頼があり、糞サンプルが確保されることになったので、分析することにした(進行中)。

方法
 調査地は宮崎県椎葉村にある九州大学宮崎演習林(32.375342N, 131.163436E)である(図1)。



図1. 調査地(九州大学宮崎演習林)の位置を示す地図

 森林の下層植生はシカの影響により非常に貧弱であり、低木層にはシカが食べないシキミ、アセビなどが点在する。


図2. 宮崎演習林の林内の景観

 新鮮なシカの糞を10糞塊から10粒づつ採集し、0.5 mm間隔のフルイで水洗し、残留物を光学顕微鏡によりポイント枠法で分析した。

結果
 2022年12月の分析結果は、葉は常緑樹、針葉樹などが検出されたがいずれも微量で、全てを合計しても24.3%にすぎなかった(図3)。ただしこれには枯葉は含んでおらず、枯葉は3.9%であった。最も多かったのは稈(イネ科の茎)で37.3%を占めた。また繊維(15.3%)も多かった。
 図3には比較のために神奈川県の丹沢(高槻・梶谷, 2019)と岩手県五葉山(Takatsuki, 1986)の冬の結果をあわせて示した。丹沢はシカが高密度であることで知られるが、ここでも葉が少なく、支持組織が大半を占める点では宮崎演習林と同様であった。そして支持組織が多いのは共通していたが、丹沢では稈は少なく、繊維が61.8%を占めた。これらに対して、五葉山ではミヤコザサが70.6%を占めていた。ここはシカの密度が低く、シカの健康状態も非常に良好である。

 
図3. 2022年12月のシカ糞組成。参考のために丹沢と岩手県五葉山の冬のデータも示した。

 この分析により、宮崎演習林の現在のシカの冬の食性は、矢部ほか(2007)が2003年前後に分析した宮崎演習林と周辺でのシカ胃内容物ではグラミノイドが50%前後、落葉広葉樹が30%前後と、葉が大半を占めていたのとは大きく違うことがわかった。当時でもスズタケの割合は少なかったが、グラミノイドが多かったのに対して、現状ではグラミノイドは7%にすぎなかった。したがってシカの食糧事情が悪いことがわかった。

 図4には2023年4月-11月の分析結果を示した。4月には明らかに繊維と常緑広葉樹が増加し、稈が減少した。


図4 2022年12月から2023年11月までのシカ糞組成。

 このことは12月には常緑広葉樹を含む生葉が乏しかったが、4月になると新しい葉が展開して利用できるようになり、シカがその葉とともに枝を食べるようになったことを示唆する。稈が大きく減少した理由は明らかでないが、12月にはシカが立ち枯れたススキなどのイネ科の稈を食べていたが、4月にはその必要がなくなったことを示唆するものと思われる。双子葉草本が増加することを予測していたが、ほとんど出現しなかった。これは新葉はみずみずしいため、消化率が良く、糞中には残りにくいためである可能性がある。
 9月は大きな変化はなく、繊維が57.2%と過半を占めた。常緑広葉樹は9.3%に減少し、イネ科が14.5%に増えた。これに伴い稈も9.0%に増えた。食物環境としては、常緑広葉樹が減少したとは考えにくく、相対的にイネ科が増加したためと考えられる。しかし、葉が少なく、繊維が多いという状況は変わっておらず、本調査地のシカは夏でも小枝などを食べていることがわかった。
 11月になると、葉はさらに減少し、イネ科は8.4%に、常緑広葉樹も5.0%に減少したが、枯葉は5.4%に増加した。これらに対しては繊維が9月の56.8%からさらに増えて68.3%に達した。昨年の12月には稈が37.3%をしめていたが、今年(2023年)の11月の結果はそれとは大きく違っていた。福岡演習林ではこの時期(10月)にヨウシュヤマゴボウなどの種子が検出されたが(こちら)、宮崎演習林ではそのようなことはなかった。
 全体として本調査地では糞中に占める葉の割合が小さく、シカにとって食物になる植物が乏しくなっていることを反映していた。これはシカ密度が高い山梨県早川町の状態などと共通である(こちら)。

文献
池田浩一. 2001. 福岡県におけるニホンジカの生息および被害状況について. 福岡県森林林業技術センター研究報告, 3: 1083. こちら
村田育恵・井上幸子・矢部恒晶・壁村勇二・鍛治清弘・久保田勝義・馬渕哲也・椎葉康喜・内海康弘. 2009. 九州大学宮崎演習林における ニホンジカの生息密度と下層植生の変遷. 九州大学演習林報告, 90: 13-24. こちら
猿木重文・井上 晋・椎葉康喜・長澤久視・大崎 繁・久保田勝義. 2004. 九州大学宮崎演習林においてキュウシュウジカの摂食被害を受けたスズタケ群落分布と生育状況 2003年調査結果. 九州大学演習林報告, 85: 47-57. こちら
Takatsuki, S. 1986. Food habits of Sika deer on Mt. Goyo, northern Honshu. Ecological Research, 1: 119-128. こちら
Takatsuki, S. 1990. Summer dietary compositions of sika deer on Yakushima Island, southern Japan. Ecological Research, 5: 253-260. こちら
高槻成紀・梶谷敏夫. 2019. 丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例. 保全生態学研究, 24: 209-220. こちら                         
高槻成紀・大西信正. 2021. 山梨県早川町のシカの食性 − 過疎化した山村での事例 −. 保全生態学研究, 26: 149-155. こちら
矢部恒晶・當房こず枝・吉山佳代・小泉 透. 2007. 九州山地の落葉広葉樹林帯におけるニホンジカの胃内容. 九州森林研究, 60: 99-100. こちら

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都庁水道局を訪問 2023.9.1

2023-09-01 10:40:18 | その他
私たちは小金井の桜並木の復活において樹林伐採が行われたことは問題があるとして関連団体とともに活動をしています。大きい問題は樹木の伐採が小金井だけでなく、玉川上水全体で進められていることで、砂防学や森林科学で定説とされている「樹木は土壌流失を防ぐ」こととは真っ向から違う樹林管理がされています。実際に松影橋近くでは樹木伐採の結果土砂崩れが起きました。
 こういう問題を委員会への質問という形でまとめ、資料とともに東京都水道局に持参しました。高槻と加藤嘉六さんが書類を持参し、都議の漢人あきこさんと岩永やす代さんが同道くださいました。しかし経理部用地担当課の武井豊課長は「委員には渡せない」と拒絶しました。
 高槻は「委員会は都民のためにあるはず、そうであれば都民がする質問が渡せないというのはおかしいではないか」と説明しましたが、課長は「委員会は局にアドバイスするためのもので、質問に答えるものでない」の一点張りでした。漢人都議が強くサポートしてくださり、心強かったのですが、結局態度は変わらなかったので、書類は一部を渡して引き取りました。

左より 岩永都議、漢人都議、高槻、武井課長

 その質問に答えるかどうかは委員が判断すれば良いので、手渡すことさえしないというのは東京都の態度として正当性があるとは思えないと感じました。



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