高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

もくじ

2022-12-31 08:21:00 | もくじ

このブログでは主に研究について紹介します。


最近の動き 

今進めている生き物調べの報告 
 シカの食性 こちら

 シカ その他 こちら
 タヌキの食性 こちら 
 その他の動物 こちら

 植物・植生 こちら
 標本 こちら new

 海外調査

  モンゴル2018年の記録こちら
  モンゴル、フスタイ国立公園のタヒとアカシカの食性と群落選択 こちら
  
  野生馬タヒを復帰させたモンゴルのフスタイ国立公園の森林に及ぼす
   タヒとアカシカの影響 こちら
  インドネシア、西ジャワのパンガンダラン自然保護区でのルサジカの食性 
   - 同所的なコロブスとの関係に注目して こちら
 

最近の論文 こちら new
私の著書 こちら
それ以外の著作 new
最終講義
退職記念文集「つながり」
唱歌「故郷」をめぐる議論


研究概要
 研究1.1 シカの食性関係
 研究1.2 シカと植物
 研究1.3 シカの個体群学
 研究1.4 シカの生態・保全
 研究2 調査法など
 研究3.1 その他の動物(有蹄類
  その他の動物(食肉目)
  その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)
  その他の動物(哺乳類以外)
 研究3.2 その他の動物(海外)
 研究4 アファンの森の生物調べ
 研究5 モンゴル(制作中)
 研究6 野生動物と人間の関係
 研究7 教育など
 研究8 その他

業績
 論文リスト 2010年まで
 論文リスト 2011年から
 書籍リスト
 総説リスト
 書評リスト
 意見リスト

エッセー
 どちらを向いているか:小保方事件を思う 2011.4
 皇居のタヌキの糞と陛下 2016.10
 バイリンガル 2018.6.11

2017年の記録
2016年の記録
2015年の記録
2014年の記録
2013年の記録
2012年の記録 6-12月
2012年の記録 1-5月
2011年の記録

その他

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山形市近郊のタヌキの食性

2022-05-15 20:53:16 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
山形市近郊のタヌキの食性

高槻成紀・中村夢奈(やまがたヤマネ研究会 代表)

 タヌキの食性分析は他の野生動物に比較して比較的よく調べられている(高槻 2018)。しかしその大半は関東地方のタヌキに関するものであり、そのほかは少数例が点在するに過ぎない。東北地方では山形県での事例(加藤ほか 2000)と東日本大震災後の仙台の海岸における事例(高槻ほか 2018)があるに過ぎない。
 今回、山形でヤマネの研究をしている中村氏の協力で共同調査ができることになったので、分析結果を報告する。

調査地
 タヌキの糞を採取したのは山形県西川町大井沢(38度23分15.13秒 139度59分30.00秒)で、山形市の西方約35km、標高481mである。


図1 調査地(黄丸)の位置

ここは寒河江川沿いで、この川が北上し、北方で本流と合流する部分に月山湖がある。糞採集地は湯殿神社の近くである(図1)。ここは山形県でも多雪地であり、採取した5月3日時点ではまだ残雪があった(図2)。


図2. タヌキの糞採集地の景観

 タヌキのタメ糞を発見し、色や質感から1回に排泄分と判断されたものを1サンプルとして10サンプルを分析した。分析法はポイント枠法(高槻・立脇 2012)である。

結果
10例のサンプルの組成には大きい変異があった(図3)。図3では組成を哺乳類の多い順に並べ、次に鳥類、そして脊椎動物の骨が多い順に並べた。これを見ると4つの資料では哺乳類が40-70%を占めた。2つでは鳥類の羽毛が多く、他の2例では脊椎動物の骨が多かった。また果実が多いサンプルが4つあった。


図3. タヌキの糞組成(%)。左から哺乳類、鳥類、脊椎動物の骨が多い順に並べた。

  個別サンプルから平均値を示したのが図4である。多かったのは果実の24%、哺乳類の22%であり、これについで脊椎動物の骨(14%)、鳥の羽毛(9%)などが続いた。哺乳類、鳥、脊椎動物でほぼ半量であり、これだけ鳥類、哺乳類が多い例は少ない。


図4. タヌキの糞組成の平均値

 検出物を付図1に示した。脊椎動物の骨の中には哺乳類の長骨が粉砕されたものがあり、縁は鋭く尖っており、消化管を傷つける可能性のあるものもあった。昆虫の多くは幼虫であり、そのほかに微細に粉砕された翅、脚などが検出された。植物の葉は落葉樹の枯葉が多かったが、少数ながらイネ科の緑葉が検出された。種子は少なかったが、ヤマブドウの種子が検出された。また出現頻度は2例だけだったが、人工物があり、化学繊維のヒモと輪ゴムが検出された。

 このデータに基づき「占有率ー順位曲線」(高槻ほか 2018)を求めたところ、3タイプが認められた。
 一つは大きい値から徐々に下がるもの(Sタイプ)で、果実が該当した(図5a)。これは多くのタヌキに需要と供給がある、つまり生息地にある程度確実に存在し、タヌキの食物として魅力ある食物と言える。

図5a. 占有率ー順位曲線のS型の例

 2つ目はL字タイプで、最大値は大きいが出現頻度が高いためにL字型になるもので、昆虫、脊椎動物の骨、人工物、哺乳類の毛、鳥類が該当した。ほとんどが動物質であり、タヌキは好んで食べる(需要が高い)が、供給が限定的なものである。ただし人工物は最大値が小さかったので、非典型的である。また哺乳類は10例のうち5例で検出されたので、低頻度とはいえず、これも非典型的である。

図5b. 占有率ー順位曲線のL字型の例

 第3はF型で低い値で高頻度であった。葉と植物の支持組織が該当し、タヌキにとって供給はあるが、タヌキにとって魅力ある食物とはいえず、食べても少量しか食べないものである。

図5c. 占有率ー順位曲線のF型の例

考 察
 これまで情報の乏しかった東北地方多雪地のタヌキの糞を分析することができた。糞を採取したのは5月上旬であり、晩冬といえる時期であった。平均値では鳥類、哺乳類が多く、しかもサンプルごとにばらつきが大きかったことを考えると、タヌキの食糧事情は悪く、低確率で遭遇した哺乳類や鳥類の、おそらくは死体を集中的に食べるものと推察される。というのは、今日k重量が安定していれば、頻度は高くサンプルごとのばらつきはこれほど大きくはならないはずだからである。果実は24%で他の場所よりは少なかった。これらは果皮と果肉で、種名はわからなかった。ヒモと輪ゴムが検出されたことは、ここのタヌキがある程度人工物を利用していることを示唆する。
今後、雪解け後にどのように変化するか、継続して調査したい。

文 献
加藤智恵・那須嘉明・林田光祐. 2000. タヌキによって 種子散布される植物の果実の特徴. 東北森林科学会誌, 5: 9-15. こちら
高槻成紀. 2018.タヌキが利用する果実の特徴 – 総説哺乳類科学, 58: 1-10.  こちら
高槻成紀・岩田 翠・平泉秀樹・平吹喜彦. 2018.仙台の海岸に生息するタヌキの食性  - 東北地方太平洋沖地震後に復帰し復興事業で生息地が改変された事例 -.   保全生態学研究, 23: 155-165.  こちら
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・野々村 遥・菅谷圭太・宮岡利佐子・箕輪篤志. 2018.     動物の食物組成を読み取るための占有率 − 順位曲線の提案−集団の平均化による情報の消失を避ける工夫 −哺乳類科学, 58: 49-62. こちら
高槻成紀・立脇隆文. 2012. 雑食性哺乳類の食性分析のためのポイント枠法の評価: 中型食肉目の事例. 哺乳類科学, 52: 167-177. こちら


付図1. 検出物. 最初の数字はサンプル番号, 格子間隔は5 mm.


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浦和のタヌキの食性

2022-04-01 21:32:21 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
浦和商業高校のタヌキの食性

高槻成紀・小林邦夫

東京周辺のタヌキの食性はかなり明らかになってきた(皇居:酒向ほか2008,Akihito et al. 2016、赤坂御所:手塚・遠藤2005、明治神宮:高槻・釣谷2021、新宿御苑:Enomoto et al. 2018、東京西部郊外:Hirasawa et al. 2006Sakamoto and Takatsuki 2015, Takatsuki et al. 2017, 高槻 2017; 高槻ほか 2018)。この地域のタヌキの食性は基本的に果実を主体にしており、特に秋と冬は果実をよく食べる。ただし夏には果実が少なくなるので、食物中に昆虫が多くなり、食物が最も乏しい冬の終わりから早春には鳥や哺乳類の羽毛、毛、骨などが検出されるようになる。これらの調査は主に郊外や山地で行われたが、市街地のものもある。ただし皇居、赤坂御所、明治神宮などは都市に例外的な森林があり、都市的緑地を代表するとは言えない。市街地での調査事例としては川崎市(山本・木下1994)と小平市の津田塾大学の事例(高槻 2017)がある。川崎市では果実とともに人工物が非常に多かったが、小平市ではそうではなかった。これは家庭ゴミの提出方が変化し、1990年代まではゴミ提出法が管理されていなかったためにタヌキが利用できたが、その後カラスによるゴミ被害が増えたために、家庭ゴミはボックスなどに入れて提出されるようになったためにタヌキは利用しにくくなったものと考えられる。このように市街地のタヌキの食性分析例は少なく、さらなる分析事例が必要である。
 本調査の調査地である浦和商業高校は埼玉県浦和市にあり、武蔵浦和の駅に近いため開発が進み、緑地は非常に限定的であり、ビルや住宅地に囲まれているため、市街地のタヌキの食性調査事例として適している。最近、浦和商の一角にタヌキが亜生息し、ため糞場も確認されたので、糞分析を試みることにした。

方法
調査地は武蔵浦和駅の東500mほどの位置にあり、東北新幹線が近く、その西には首都高速道路大宮線があるなど交通の要所であり、開発が進んでいる(図1)。

図1 調査地の位置

 浦和商業の西側には白幡沼があり、その東側には弁天神社の小さな祠があって周囲に樹林がある(図2)。タヌキはこのあたりに生息し、昼間でも複数の個体が観察される。ため糞はこの樹林内にあり、そこからフンサンプルを回収した。


図2. 白幡沼南西部から東をのぞむ

 採集にあたっては,糞の大きさ,色,つや,新しさなどから同一個体による1回の排泄と判断されるタヌキの糞数個を1サンプルとし,それを複数採取した.
 糞サンプルは0.5 mm間隔のフルイで水洗し,残った内容物を次の15群に類型してポイント枠法(Stewart 1967)で分析した.昆虫(鞘翅目,直翅目,膜翅目,幼虫など),節足動物(多足類など),無脊椎動物(甲殻類,貝類など),鳥類,哺乳類,脊椎動物の骨,その他の動物質,果実,種子,緑葉(イネ科,スゲ類,単子葉植物,双子葉植物など),枯葉,植物その他(コケ,キノコなど),人工物(輪ゴム,ポリ袋,紙片など),その他,不明.「脊椎動物の骨」の中には一部に鳥類,両生類の骨とわかるものもあるが,多くは不明であり,哺乳類の骨の破砕された小片も含まれる.
ポイント枠法では,食物片を1 mm格子つきの枠つきスライドグラス(株式会社ヤガミ,「方眼目盛り付きスライドグラス」)上に広げ,食物片が覆った格子交点のポイント数を百分率表現して占有率とした.1サンプルのポイント数は合計100以上とした.

結果と考察
 月ごとの分析結果は別項に記述した(こちら)。

<月比較>
 月比較をすると次のようであった(図1)。12月は「植物その他」が多く、コメの種皮の可能性があるが特定できない。
 1月上旬にはエノキ、ムクノキなどの果実と種子が増えた。1月下旬にはイネ科が増えたが、糞分析は内容物を面積で評価するのでイネ科の葉のような面的なものは大きく評価されるが、食物としては貢献度は小さいと思われる。
 2月には再び果実・種子が多くなり、ポリ袋などの人工物も増えた。
 3月は果実・種子がこれまでで最も少なくなった。脊椎動物の骨が多くなったが、これはヒキガエルの骨であった。その占有率は18.6%だが食物としてはその2倍以上の意味があるだろう。種子と人工物は2月より少なくなった。



図1. タヌキの糞組成の月変化

 3月のサンプルから検出された骨の中に図2のような骨があった。これは広い部分は8 mmくらいある大きなもので、しかも2本の中空なストローのような骨が2本合体している。高槻が知るネズミなど小哺乳類の四肢骨ではこのようなものはなく、可能性としてはヒキガエルではないかと思われた。

図 2. 3月のサンプルから検出された骨

 そこで小林に連絡を取ったところ、白幡沼にはヒキガエルはいて、時々グランドでローラーに轢かれて死んでいたりするということだった(図15)。


図3. ヒキガエルの死体(2021.2/24 小林撮影)

そこでもし死体があったら確認したいと連絡したところ、小林が死体を確保した。そのヒキガエルは鼻先から大腿の付け根までが102 mm、体重71 gの大きさだった。


図4. ヒキガエルの背面と腹面

この死体から骨格標本を作った(図5)。


図5. ヒキガエルの骨格標本

 その前肢の橈骨(とうこつ)を見ると、間違いなく図14と同じだった(図6)。ただしこの中空構造は前肢だけでなく後肢の脛骨にもあった。

図17. ヒキガエルの前肢の骨格

 これは古いヨーロッパのイラストにもあった(図7)。

図7. カエルの骨格図. 

 4月には、種子は1サンプルからセンダンの種子が1個検出しただけだった。昆虫が大きく増加し、無脊椎動物も増えて両者で半量となった。1例ではカニが検出された。人工物も少なくなり、透明なプラスチックと糸が検出されただけであった。植物供給量は増加したが、糞中では減少したので、果実がなくなり、昆虫などの供給状態が良くなって葉を食べなくなったものと推察される。

 5月は再びエノキなどの種子が検出された。カエルの骨が10例中7例あった。1例では鳥の羽毛があった。平均値では種子が14.5%、昆虫が13.5%、脊椎動物の骨(カエル)が10.8%であった。これまでの葉は枯れ葉が主体でイネ科が少量あったが、5月には双子葉草本が見られた。「その他」が26.9%と多かったが、その主体は木質の材であり、ボロボロの微細なブロック状であった。これは古い枯れ木の材と思われ、食物として摂取したものとは思われず、中にいる昆虫などを食べるときに一緒に食べたのかもしれない。人工物としては菓子類の包袋と思われる「銀紙」が2例、紙類が1例あった。
 4月と比較するとカエルの骨、種子、「その他」が増え、昆虫、無脊椎動物が減った。
 
2022年5月16日 記





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浦和のタヌキの食性 月ごとの分析結果

2022-04-01 20:45:29 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
<2021年12月>
 2021年12月は7サンプルを分析した。試料ごとのばらつきが大きかった
が、平均値で見ると「植物その他」が多かった(図1a)。多くは種皮と思われる薄片で、コメの種皮(ヌカ層)である可能性があるが確定していない。籾殻は微量しか検出されていないので、未脱穀のコメを食べたのではないと推察される。その他は果実と種子がやや多く、内訳はエノキとムクノキが多かった。1例ではテープ絆が検出された。検出物は図1bに示した。


図1a. 2021年12月の糞組成

図1b. 2021年12月の検出物

<2022年1月14日>
 2022年1月14日は10サンプルを分析した(図2a)。試料ごとのばらつきはやや大きかったが、センダンの果実と種子が多い糞が多かった。果実と種子が増加した。また量は多くないが鳥の羽毛、ネズミの肋骨部分、カエルと思われる骨などが検出された。また輪ゴム、ゴム栓、プラスチック袋(菓子類などを包む薄い膜状のもの)など人工物が%検出された。センダンの種子のほか、ムクノキ、エノキの種子も検出された(図2b)。多くはないがゴム製品などの人工物が検出されている(図2b)。


図2a. 2022年1月15日の糞組成


図2b. 2022年1月14日の検出物

<2022年1月25日>
 2022年1月25日に採取した糞11個を分析した。多くの試料でイネ科の葉が検出された(図3a)。イネ科の葉は消化しないまま排泄され、面的なため、ポイント枠法では過大に評価されるので、実際に食べた量はそれほど多くないと推察される。種子としてはムクノキとエノキが検出され得たほか、サンプルNo. 1からはカキノキの種子が検出された(図3b)。不明の種子も少数あった。またコメの種皮も検出された。



図3a. 2022年1月25日のタヌキの糞組成。番号は試料番号(順不同)

 ユニークなサンプルとして、サンプルNo. 8はムクノキの種子が多数含まれたほか、ヤママユと思われるガの繭(まゆ)が検出された(図8)。これは高槻の経験では初めての記録である。またサンプルNo. 11からはカニの体の外骨格が、またサンプルNo. 8からは輪ゴムが検出された。

図3b. 2022年1月25日のタヌキの糞からの検出物 


 1月15日から10日ほどしか経っていないにもかかわらず、内容が大きく変化し、イネ科の葉が増え、種子が減少し他ことから、タヌキの食糧事情は悪くなってきたと考えられる。

<2022年2月18日>
2022年2月18日に採取したタヌキの糞10個を分析した。サンプルごとの変異が大きく、エノキ、ムクノキなどの種子が過半量を占めたものが3例、人工物が過半量を占めたものが2例、イネ科の葉が過半量を占めたものが2例、カニが過半量を占めたものが1例などあった(図4a)。

図4a. 2022年2月18日のタヌキの糞組成。番号は試料番号(順不同)

 検出物は動物としては鳥の羽毛、カニの外骨格などがあった(図4b)。羽毛が検出されたのは1例だけであったが、鳥の死体を食べたのかもしれない。カニの外骨格は赤色であったので、ベンケイガニであるかもしれない。量は多いとは言えないが、出現頻度は10例中4であったから、タヌキは池でカニを探して食べているのかもしれない。種子としてはエノキ、ムクノキが多く、センダンもあった。オニグルミの果皮のような硬いスポンジ質の果皮もあった。直径5 mmほどある落葉広葉樹の枝先も検出された。人工物としてはチョコレートなどのアルミ包装紙、食品の包装紙、ゴムのような柔らかい人工物、いわゆる「レジ袋」、輪ゴムなどがあった。食品包装紙には「伊藤園」という文字が確認できた。また皮革製品があったが、片側に白い塗装があり(皮革製品1)、糸がついたもの(皮革製品2)もあったので靴の一部ではないかと思われた。


図4b. 2022年2月18日のタヌキの糞からの検出物

人工物では皮革製品が多かったが、皮革製品の検出例は他の場所でもある。タヌキはその匂いを嗅ぐと動物の体の一部と思って食べるのかもしれない。皮革製品は片面が白い塗装をしたものや糸がついたものがあったので、靴などであるかもしれない。これらは当然全く消化されておらず、量的に多い場合はタヌキの健康上の問題もあるかもしれない。種子はムクノキとエノキがこれまでと同様に検出されたが、1例ではセンダンもあった。エノキ、ムクノキの果実はすでに樹上にはないから、タヌキは地上に落ちた果実を探して食べるものと考えられる。今回はカニを含むサンプルが4例あり、1例では54.7%に達した。またイネ科の葉が多く検出されたのが2例あった。

<2022年3月>
2022年3月9日と11日に回収した糞を分析した。今回もサンプルごとの違いが大きかった(図5a)。種子は少なくなり、脊椎動物の骨が増加した。種子はエノキが少しと、センダン、ムクノキが10個の糞のうち1粒だけあったに過ぎない。骨は太く、ヒキガエルの四肢骨と思われるものが多かった。細かく破砕されていたが、識別できるものもあり、椎骨、指骨もあった(図5b)。糞回収地の近くに白幡沼があり、ヒキガエルはよく見かけられる(図13)。節足動物の外骨格と思われる小さな半透明の剝片が多かった。ただし先月このカテゴリーに多かったカニの甲羅は検出されなかった。イネ科のはがコンスタントに出て、量的に多いこともあった。人工物としてはプラスチック、ゴム紐などがあったが、2月よりは少なくなった。

図11. 2022年3月のタヌキの糞組成(%)

 主要な検出物を図12に示した。前肢骨?としたのは、哺乳類には見られない中空構造でカエルの前肢である可能性がある。今後確認したい。

図12. 3月の主要な検出物. 格子間隔は5 mm

<2022年4月>
 2022年4月9日に回収した糞を分析した。今回もサンプルごとの違いが大きかった(図13)。種子は少なくなり、センダンが10個の糞サンプルうち1粒だけあったに過ぎない。昆虫と節足動物の外骨格が多くなった。昆虫は微小な脚のほか、幼虫の皮膚があった。外骨格は不明が多かったが1例でカニが検出された(図14)。植物はイネ科の葉を含め葉がほとんど出なくなった。一部にサクラの花弁があった。人工物としては1例でプラスチックがあったが、3月よりさらに少なくなった。


図13. 2022.4月のフン組成


図14. 2022.4月フンからの検出物

参考 サクラの花弁

<2022年5月10日>
 5月になり、木のはは展開し、草本類ものび太が、タヌキの食物としては少数例で双子葉草本の葉が検出されたが、特に季節にふさわしい食物は特になかった。むしろ古い木材と思われるボロボロのブロック状の材が多かった。これは食物として食べられたとは考えられず、中にいた昆虫を食べるときに混食されたのかもしれない。4月に少なくなっていたカエルの骨が検出された他、やはり4月に少なくなっていた種子がやや増えた。多かったのはエノキの種子で噛み砕かれたものもあった。ムクノキの種子が1例あった。また少量ながらクワの種子もあった。今年のクワはまだ結実していないので、前年の果実を探して食べたのかもしれない。1例だが鳥類の羽毛が多く検出された。
 これらを占有率の大きいものから小さいものに並べると3つのパターンが認められた。一つは比較的大きい最大値からほぼ直線的に小さくなり、多数のサンプルから出現したものでS型とした。S型には脊椎動物(カエルの骨)、昆虫、種子、葉があり、タヌキにとって遭遇率が高く、可能な限り摂取すると考えられる。

S型の例

 第2のタイプはL字型で、最大値はS型涙が少数例しかなく、カーブは急激に下がってL字型となる。これには鳥の羽毛と人工物が該当した。これらは遭遇率が低く、タヌキが確保しにくいと考えられる。

L字型の例

第3は低い値を続けるためカーブは横一文字のようにな離、果実と植物の支持組織が該当した。これは一般には遭遇率は高いが、タヌキにとってさほど魅力が高くないために、多くは摂取しないと考えられる。支持組織はこれに該当するが、果実(果皮と果肉)はタヌキにとって魅力的なはずであり、消化率が高いために占有率が低かったものと考えられる。種子の出現からすればその多くはエノキだと思われる。

F型の例
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その他の調査

2022-01-01 09:10:26 | 研究

その他

シカ
高尾山に迫るシカ 2019.5.27 こちら
裏高尾の植物に見られたシカによる食痕 2019.12.5 こちら

サル
ニホンザル2群の群落利用に対する人の影響 – 林縁に注目して こちら


ヤマネ

八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用と巣材 2021.5.4 こちら
八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性 2021.5.5 こちら


鳥類
都市における鳥類による種子散布の一断面 予備調査 こちら 2020.4/15

我が家(東京都小平市)の周りでの鳥類種子散布 こちら 2021.4/16
アファンの森のフクロウの食べ物こちら 2018.6.21

バードストライク ビルにぶつかったデンショバト 2019.3.6  こちら


その他
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例 こちら

柵をした乙女高原の訪花昆虫 - 2018年 -こちら 2018.9.20 

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記載的な論文と査読のあり方について

2021-12-30 07:03:57 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
2021.12.1 「哺乳類科学」受理

記載的な論文と査読のあり方について

高槻成紀

ある哺乳類研究者の発言
 年代や出典は不確かだが,内容ははっきり覚えている.哺乳類について書籍も論文も貧弱であった1970年代に,ある哺乳類研究者が博物学の伝統について次のような内容を書いておられた.曰く,
 「欧米には博物学の伝統があるが,日本にはそれがない.そのために分子生物学のような研究は盛んだが,哺乳類の生活に関する地道な研究が乏しい.」
 これに続く内容については記憶が曖昧だが,学生だった私はその言葉に強く共鳴して「だから日本の研究者もそのような研究を進めるべきだ」と思った.そして自分は学生だが,そう書いた人は大学の教授だったから,日本でもそういう研究が進められるものと期待していた.しかし私の知る限り,その人や周辺からそういう研究が生まれることはなかった.
 遠藤(1992)は比較解剖学の立場から1980年代から1990年代の我が国の生物学における還元主義重視と,その必然的動きとしての記述軽視の状況を捉え,批判的警告を発している.
 時が経ち,2003年に「Wild Mammals of North America」(Feldhamer et al. 2003)が出版された.A4版で5 cmほどの厚さがあるその大著は,大部であるにもかかわらず小さな文字で膨大な記述があり,本文が1187ページもあって,種ごとに文献がついていた.例えばミュールジカを例にとると,文献だけで7ページに及ぶ.1970年代に大きく水を開けられていた日本の哺乳類学は,私が「これからはその距離が縮むはずだ」と思っていたのとは裏腹に,四半世紀後にさらに隔たりが大きくなったことを思い知らされた.

記載的論文
 私はその後,研究者になった.博物学的な研究が重要だという意識はあった.ではこのことについてお前はどれだけ貢献したのだと問われれば恥入るしかないが,私なりに動物の生活を描くタイプの論文を書いてきたつもりである.それはいろいろな種の食性,ニホンジカのハビタット利用(高槻 1983),ニホンジカの個体群動態(Takatsuki et al. 1994),ニホンジカによる群落への影響(Takatsuki 2009),種子散布(タヌキ: Sakamoto and Takatsuki 2015, テン: Yasumoto and Takatsuki 2015)などである.食性についての論文は多種にわたるので代表的なものだけ紹介すると,
ニホンジカ(高槻ほか 2021), 
ニホンカモシカ (Takatsuki and Suzuki 1984), 
ニホンジカとニホンカモシカ(Kobayashi and Takatsuki 2012), 
モウコガゼル(Yoshihara et al. 2008), 
タヒとアカシカ (Ohtsu and Takatsuki 2020),
モンゴルの家畜(Takatsuki and Morinaga 2019), 
アジアゾウ(Campos-Arceiz et al. 2008), 
ニホンザル(Tsuji and Takatsuki 2004), 
タヌキ(Takatsuki et al. 2020), 
テン(足立ほか 2017), 
タヌキとテン(Takatsuki et al. 2017), 
ツキノワグマ(Hashimoto et al. 2003
ヒグマ(Sato et al. 2004), 
カヤネズミ(Okutsu et al. 2012)などである.
 さて,この種の論文は必然的に記載的であるから,投稿してすんなりと受理されることはあまりない.多くの例ではさまざまなきびしい査読コメントがつく.その内容はさまざまだが,かなり多いのは「このことはすでに判っていることだから新規性がない」という類のものである.これは通常の科学論文では正当なコメントであることは認めたい.もし私が「どこどこのアカシカの食性」という論文を査読することになったら,雑誌と内容によって評価を違えるだろう.というのは,私は雑誌によって役割分担があると考えるからだ.もしその論文が国際誌に投稿されたのであり,何らかの生態学的概念を提唱するなどの内容であれば,その部分を読んで評価を考える.しかし,もしその論文が対象とする調査地では未知であったアカシカの食性情報を記述するという内容であれば,地方誌を奨めることになるだろう.

仮説検証型と記載型
 国際誌に掲載される論文は,一般性があり,未知な内容を解明する意義が明解であり,優れた総説がされており,方法が適切で,結果が充実しており,論理的な考察がなされたものであらねばならない.その種の論文はしばしば仮説検証型である.そのような論文が価値があり,国際誌に掲載されるにふさわしいものであることを認めた上で,動物種や対象地域が個別的で,新規性はあまりない記載的な論文(このような論文を以下「個別記載的論文」とする)もまた哺乳類学には必要不可欠であることを強調したい.昆虫や魚類に比べて大量のサンプル数を確保することも飼育にも困難が伴う傾向のある哺乳類の研究においては記載的研究の価値は大きい.冒頭にあげた哺乳類研究者が強調した博物学的研究にはその種の要素がある.例えば私が取り組んできた課題の一つである哺乳類の食性解明はギリシアの時代から情報の蓄積がある.博物学には創造主によって生み出された被造物を讃えるためにあらゆる生物のあらゆる属性を記載するという精神がある.文字通り枚挙的に記載しようというわけである.しかし現代生物学では,例えば体重と食物内容との関係の原理を解明すべくクライバー則があり,有蹄類についてはジャーマン・ベルの原理(グレイザー・ブラウザーの類型,いずれも例えば高槻, 1998)があるなど,生物の特性の背後にある原則を理論的に説明することで一般性を追求する.
 個別記載的研究の蓄積があることが,例えば前述の北米の哺乳類の大著に見るように,ある哺乳類の体格の南北変異とか食性の地域変異を示すことを可能にする.ジャーマン・ベル原理も個別記載的研究があってこそ可能であった.そうした俯瞰的総説は個別の情報なしには不可能である.
 では個別記載的な論文は俯瞰的総説のためだけにあるかといえばそうではない.個別記載的な論文がある時代のある理論のために有益な情報となることもある.そして,また新たな発見があって考え方が変われば,別の記載的論文が役に立つこともある.その意味で,記載された事実そのものに価値があるのであり,その意義は既往の概念で評価できないこともしばしばある.
 ここではあえて単純化して仮説検証型と記載型の典型例を取り上げたが,実際にはさまざまなレベルでその中間型の論文がある.
 さて,論文の内容と雑誌の関係であるが,大きくいって国際誌には一般性を重んじた仮説検証型の論文が主体であり,個別記載的な論文はローカルな雑誌が掲載を引き受けるのが妥当だというのが私の考えである.もちろん前者に優れた記載的論文があったり,後者に一般性を解明した論文があることを否定するものではない.本学会で言えばMammal Studyが前者,「哺乳類科学」が後者に対応する.「哺乳類科学」は日本というローカルな地方の雑誌である.
 このような雑誌の役割分担を考えると,査読のポイントも自ずと力点が違って然るべきである.私は,「哺乳類科学」は個別記載的論文が総合的に見て日本の哺乳類学を底上げするものであれば積極的に取り上げるべきだと思う.原稿の記載事実に価値があるが,執筆者が論文執筆に不慣れであることや,原稿の文章がわかりにくいこと,論理に無理があることなどはしばしばあるが,それは論文の致命点ではなく,査読によって改善すればよい.この点,現行の「哺乳類科学」の査読者には,上記の一般性追求型の論文以外は否定すべきと考えている人がいるようである.私は,それはローカル雑誌としての「哺乳類科学」のあり方としては違うと思う.このことについて私自身のささやかな体験を紹介したい.

フクロウ論文の体験
 私は鳥類について一つだけ論文を書いたことがある.それはフクロウの食性に関するもので,八ヶ岳に架けたフクロウの巣箱を調べたところ,牧場に近い巣箱ではハタネズミの割合が高く,森林に近い巣箱ではそれが低くなり,アカネズミ属が多くなるという結果が得られた(Suzuki et al. 2013).実際,牧場と森林でネズミの捕獲をしたらこれを裏付ける結果が得られた.これまでの日本のフクロウの食性分析例のほとんどはアカネズミ属が主体であることを示唆しており,里山的な環境で例外的にハタネズミが多いという事例があるに過ぎなかった.このことから八ヶ岳では開拓のために森林伐採が行われて牧場が造成された結果,アカネズミ属が減少し,それまでアカネズミ属を食べていたフクロウは牧場のハタネズミを食べるようになったのであろうと考察した.考察にはアムールで調べられたフクロウの食物はハタネズミが主体であることも付け加えた.
 これを日本の鳥類関係の雑誌に投稿したところ否定的だった.その理由の一つは「世界中の全てのフクロウの論文を網羅的に引用しない限り受理できない」というものだった.私は,この論文の意義は森林が卓越する日本ではフクロウは基本的に森林のアカネズミ属を主食とするが,草原的な環境になればハタネズミにシフトすることもあるということを示したことにあるので,それを論じるに必要十分な引用をすればよいと考えた.そして,この査読者との議論に生産性はないと判断して取り下げ,Journal of Raptor Researchに投稿し直した.すると,その反応は驚くほど違っていた.編集者は「これは大変よい論文であり,特に牧場との距離とハタネズミの割合の関係は美しい.ぜひ論文を改良してほしい」とあった.「Beautiful」という言葉が忘れがたい.そして「日本のフクロウの食性論文はほとんどが和文で書かれているので我々は読めない.この論文で総説して特徴を記述してほしい」とあり,さらに「そちらでは手に入りにくいであろう東ヨーロッパの博物館の報告に重要なものがあるから送るので引用してほしい」として論文が添付されていた.

査読の精神
 私はもちろんその査読のよい評価に喜んだのだが,同時に査読の姿勢が彼我でこれほどまでに違うのかとため息の出る思いだった.もちろん別の論文を国際誌に投稿して門前払いのように却下されたこともある.それはそれで悔しいが科学する精神として納得すべきことは納得する.しかし総合的に「よし」と判断すれば,微細な改善点はアドバイスして直し,こうすればもっと良くなると建設的な情報を提供するという対応をしてもらえば,「一緒に科学をしている」という充実感を持てる.いや,却下された場合であっても,自然界で起きていることを捉えようとしたのに,自分の方法はそれをうまく捉えるのにふさわしくなかった,あるいはとったデータの解析が不適切であったと知ることも「一緒に科学している」ことだと思える.
 これに対して,論文は仮説検証型のものこそ重要であり,記載的なものはレベルが低いとし,内容を十分に理解しないまま,重箱の隅をつつくような否定的なコメントをし,まるでアラ探しをして足を引っ張ることを査読と心得違いをしているような査読者に出会うと,失意しか残らない.そういうことが繰り返されると「哺乳類科学」に記載的論文が投稿されなくなり,そうなれば日本でその種の研究が低調になるであろう.とくに若手研究者が記載的研究に関心を失うようなことがあれば,日本の哺乳類学にとって大きなマイナスである.
 私は論文の査読とスポーツの解説に共通点があるように思う.よき選手必ずしもよき解説者ならずというのは周知のことである.そして解説と応援を混同している「解説者」もいる.だが,そのスポーツの世界,特に一般人が知らない,練習での苦労やプレーの背後にある意味などを論理的に解説されると「さすがにその道のプロだ」と感銘を受ける.
 私自身,査読はよくするが,思えば査読とはどういうことかを教わったことはない.自分が査読された体験から査読とはこういうものらしいと推察して実行してきたに過ぎない.「哺乳類科学」の編集委員会は査読について講習をすることを検討したらどうだろうか.それによって査読の精神を理解した人に査読を依頼すれば状況は大きく改善されると思われる.
 ただし,誤解があってはいけないので付け加えると,私は査読が甘くてもよいと言っているのではまったくない.すでに述べたように,哺乳類の調査では多くの事例を確保したり,観察の繰り返しが難しいことが少なくない.それだけにその記載によって言えることと言えないことを厳密に見極めなければならない.根拠がある論理的な解釈は許容されるが,主観的解釈は排除されなければならない.またその記載がどのような意義があるかは,背景を含めて明確に書かれなければならない.そうした点や記載の仕方には厳密な科学的姿勢が求められるのは論を俟たない.私が取り上げるべきであるという論文はこれらの点をクリアしたものであることを確認しておきたい.その上で,査読者には記載の価値を正しく捉えてもらいたい.
 付け加えることがもう一つある.ここまで私はMammal Studyを国際誌,「哺乳類科学」を地方誌として論を進めてきた.しかしMammal Studyは「アジアという地域の雑誌」という側面もあり,その意味では私がここで論じたことはMammal Studyにも当てはまる部分があると思う.アジアという世界でも稀に見る多様な生物を擁する地域の牽引という重要なミッションを担うMammal Studyが記述を重んじるよき地方紙となればなんとすばらしいことであろうか.

結語
 編集委員会と査読者が「哺乳類科学」を記載的論文を評価する雑誌にするという意識を持ち,読者,執筆者とそのことが共有されれば,個別記載的な論文が増えるに違いない.そうなれば欧米の哺乳類学との差は縮まらないまでも,開きが大きくはならなくなるだろう.
 1994年の「日本の哺乳類」(阿部 1994,現在は改訂2版, 2004)は我が国の哺乳類学の一里塚であり,2009年の「The Wild Mammals of Japan」(Ohdachi et al. 2009)はその時点での記念すべき到達点であった.「哺乳類科学」に個別記載的な論文がどんどん蓄積され,これら古典的な書籍を「古いもの」にできる日が来ることを期待したい.

謝辞
 東京大学総合研究博物館の遠藤秀紀教授にはもとの原稿を読んで有益なコメントを頂いた.そこでは科学哲学に言及されていたが,私はそこについて深めることはできなかった.しかし記述を軽んずる空気が現在よりも強かった1990年代の我が国の生物学の空気の意味などについて見解を共有でき,もとの原稿を改善することができた.遠藤教授に感謝申し上げる.

引用文献
阿部 永(監修)1994. 日本の哺乳類. 東海大学出版会, 東京, 195pp.(改訂2版は2008, 206pp.)
足立高行・桑原佳子・高槻成紀,2017. 福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析.保全生態学研究 21: 203-217.
Campos-Arceiz, A., Larrinaga, A. R., Weerasinghe, U. R., Takatsuki, S., Pastorini, J., Leimberger, P., Fernando, P. and Santamaria, L. 2008. Behavior rather than diet mediates seasonal differences in seed dispersal by Asian elephants. Ecology 89: 2684-2691.
遠藤秀紀, 1992. 比較解剖学は今.生物科学 44:52-54.
Feldhamer, G. A., Thompson, B. C. and Chapman, J. A. 2003. Wild Mammals of North America: Biology, Management, and Conservation. JHU Press, Maryland, 1216pp.
Hashimoto, Y., Kaji, M., Sawada, H. and Takatsuki, S. 2003. Five-year study on the autumn food habits of the Asiatic black bear in relation to nut production. Ecological Research 18: 485-492.
Kobayashi, K. and Takatsuki, S. 2012. A comparison of food habits of two sympatric ruminants of Mt. Yatsugatake, central Japan: sika deer and Japanese serow. Acta Theriologica 57: 343-349.
Ohdachi, S. D., Ishibashi, Y., Iwasa, M. A. and Saitoh, T. 2009. The Wild Mammals of Japan. Shoukadoh, Kyoto, 544pp.
Ohtsu, A. and Takatsuki, S. 2020. Diets and habitat selection of takhi and red deer in Hustai National Park, Mongolia Wildlife Biology 2021: wlb.00749 
Okutsu, K., Takatsuki, S. and Ishiwaka, R. 2012. Food composition of the harvest mouse (Micromys minutus) in a western suburb of Tokyo, Japan, with reference to frugivory and insectivory. Mammal Study 37: 155-158.
Sakamoto, Y. and Takatsuki, S. 2015. Seeds recovered from the droppings at latrines of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides viverrinus): the possibility of seed dispersal. Zoological Science 32: 157-162.
Sato, Y., Aoi, T., Kaji, K. and Takatsuki, S. 2004. Temporal changes in the population density and diet of brown bears in eastern Hokkaido, Japan. Mammal Study 29: 47-53.
高槻成紀. 1983. 金華山島のシカによるハビタット選択.哺乳動物学雑誌 9:183-191.
高槻成紀. 1998. 哺乳類の生物学5 – 生態. 東京大学出版会, 東京, 144pp.
Takatsuki, S. 2009. Effects of sika deer on vegetation in Japan: a review. Biological Conservation 142: 1922-1929.
Takatsuki, S., Inaba, M., Hashigoe, K., Matsui, H. 2021. Opportunistic food habits of the raccoon dog - a case study on Suwazaki Peninsula, Shikoku, western Japan. Mammal Study 46: 25-32.
高槻成紀・石川愼吾・比嘉基紀. 2021. 四国三嶺山域のシカの食性−山地帯以上での変異に着目して. 日本生態学会誌 71: 5-15.
Takatsuki, S., Miyaoka, R. and Sugaya, K. 2017. A comparison of food habits between the Japanese marten and the raccoon dog in western Tokyo with reference to fruit use. Zoological Science 35: 1-7.
Takatsuki, S. and Morinaga, Y. 2019. Food habits of horses, cattle, and sheep-goats and food supply in the forest-steppe zone of Mongolia: A case study in Mogod sum (county) in Bulgan aimag (province). Journal of Arid Environments 104039.
Takatsuki, S. and Suzuki, K. 1984. Status and food habits of Japanese serow. Proceedings of the Biennial Symposium of Northern Wild Sheep and Goat Council 4: 231-240.
Takatsuki, S., Suzuki, K. and Suzuki, I. 1994. A mass-mortality of Sika deer on Kinkazan Island, northern Japan. Ecological Research 9: 215-223.
Tsuji, Y. and Takatsuki, S. 2004. Food habits and home range use of Japanese macaques on an island inhabited by deer. Ecological Research 19: 381-388.
Yasumoto, Y. and Takatsuki, S. 2015. The Japanese marten favors Actinidia arguta, a forest edge liane as a directed seed disperser. Zoological Science 32: 255-259.
Yoshihara, Y., Ito, Y. T., Lhagvasuren, B. and Takatsuki, S. 2008. A comparison of food resources used by Mongolian gazelles and sympatric livestock in three areas in Mongolia. Journal of Arid Environment 72: 48-55.

著者名:高槻成紀,
住所:郵便番号187-0041 東京都小平市美園町3-29-2(所属機関の住所ではなく自宅)
所属:麻布大学いのちの博物館,
ファックス番号042-347-5280,電子メールアドレス takatuki@azabu-u.ac.jp
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植物・植生

2021-12-28 07:04:05 | 研究
植物・植生

2018年台風24号による玉川上水の樹木への被害状況と今後の管理について. 
高槻成紀. 2020. 植生学会誌,  37: 49-55. こちら
 
我が家(東京都小平市)の周りでの鳥類種子散布 2021.4.2 こちら
 
生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 −  2021.12.27 こちら new!

麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布. 
高槻成紀. 2020. 麻布大学雑誌, 32: 1-9.  こちら 

スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例 こちら

山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -. 
高槻成紀・植原彰(2021)植生学会誌, 38: 81-93. こちら 

乙女高原に訪花昆虫が戻ってきた (2021年8月) こちら
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生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 

2021-12-24 18:43:02 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
生垣を利用した種子散布の把握 – 小平霊園での観察例 −

要 約
 都市緑地の多肉果をつける樹木には冬季に野鳥によって別の樹木で採食した果実の種子がもたらされ、一冬に30種ほどが記録されている。これらの種子の一部は発芽定着すると想定されるが、そのことを調べた調査はほとんどない。そこで、都市の大規模霊園という場所の特殊性を利用して、生垣内に生育する若木で散布状態を調べた。予測としては、鳥散布型の種子はより均一に散布され、重力散布型の種子、あるいは鳥散布型でも母樹が近くにある場合は集中的に散布されることが想定される。生垣(1.5 m×8 m程度, n = 90)で若木の密度を調べたところ、シラカシ(248本)、ムクノキ(212本)、エノキ(143本)など合計で959本が確認された。若木の分布パターンを見ると、若木分布を密度-順位曲線をもとに考えると、鳥散布型果実のうち、ムクノキ、エノキは分散型であったが、クワ属はやや集中的だった。鳥散布型でも母樹が霊園内にあったトウネズミモチは集中型であり、かつ分散型でもあった。重力散布型のシラカシは強い集中型であった。風散布型のケヤキは分散型の傾向があった。このように生垣内の若木の空間分布は種子散布特性と母樹のあり方で説明できた。都市緑地では鳥散布型の植物が鳥類によって種子散布されていることが実証的に明らかにされた。

はじめに

 鳥類による種子散布は植物の世代交代に重要な意味を持っている。これまでシードトラップを用いたり、舗装地面を利用するなどの方法で鳥類が運び込んだ種子が調べられてきた(橋口・上田 1990; 田中・佐野 2013; 小島・高槻 2020; 高槻 2020)。そして多様な種子が散布され、市街地においてさえひと冬に30種ほどの種子が散布されることが示された(小島・高槻 2020; 高槻 2020)。都市では必然的に自然が失われ、生物多様性の劣化が起きる。その中で孤立した緑地が鳥類の種子散布によっていわば「つながれる」ことは大きな意味がある。一般に都市環境においては森林環境に適応的な特殊な生活史を持つ鳥類が減少し、一部のジェネラリスト的な種が増えることが知られている(Clavel et al. 2011White et al. 2018)。このような鳥類は食性幅が広いために、鳥類-植物のネットワークは鳥類の種数が減少するほどは減少しないとされている(García et al. 2014White et al. 2018Schneiberg et al. 2020)。そのような意味において都市環境で鳥類による種子散布の実態を明らかにすることは意義がある。
 都市において鳥類が種子散布することは確実だが、散布後の発芽や定着についてはほとんど調べられていない。そうした中で故選・森本(2002)は京都市街地の樹木と種子散布の関係を調べて、エノキ、ムクノキなどの鳥類散布の実生が増加していることを示したが、調査は200 m四方の区画内の実生数と母樹数の対応に留まり、散布の実態の把握はできていない。
 筆者は東京西部の小平霊園において種子散布の実態を調べたが(こちら)、このような大都市の霊園は広いオープンスペースに少数の樹木があり、下草や低木は定期的に刈り取り処理をされる。霊園の中にはツツジなどの生垣があり、その中に明らかにもともと生垣にはなかった植物が観察される。これらの植物はほぼ間違いなく何らかの原因で種子がもたらされ、そこから発芽したものと考えられる。
 このように、都市の大規模霊園には
1)市街地に囲まれた広いオープンスペースである、
2)樹木はあるが低密度である、
3)低木や草本は抑制する管理が行われる、
4)オープンスペースに生垣があり、そこに外部由来の種子が散布され、その一部が生育している、
という特殊な状況がある。これを種子散布研究という視点からすれば、生垣は「種子トラップ」になっており、一種の野外実験が行われていると見ることができる。つまり生垣に生育する植物は生垣の植物ではなく、外部からもたらされたものであり、その植物をもたらした母樹がその場所の周辺にあるかないかを確認できるという条件が満たされている。
 本調査は、このような条件を利用して、霊園の生垣に生育する植物を記録し、その種子散布様式との関係を明らかにすることを目的とした。

方 法
調査地

 調査は東京都の多摩地区北部にある小平市の小平霊園(北緯35°74’、東経139°48’)で行なった(図1)。


図1. 調査地(小平霊園)の位置図

 小平霊園は1948年に開園し、面積は65haである。外縁にシラカシなどの樹木が植えられており、園内の主要道路にはサクラ、アカマツ、ケヤキなどが植栽されている。小平市は人口約20万人で、東京都としては農地、公園などの緑地が比較的多い。

方 法
 生垣は主要道路沿いにあり、主にツツジ類であり、少数ながらドウダンツツジなどもあった。生垣の幅は1-2 mで、長さは短いものは2 m程度、長いものは10 mほどで、多くは幅1 m程度で分断されている(図2)。

図2. 小平霊園内の生垣

 これらの生垣をプロットとし、その中に生育する木本植物も個体数を記録した。生垣から突出したものもあるが(図3, 4A)、選定されるので目立たない場合もあるので丁寧に観察した。そのプロットにもたらす可能性のある樹木の参考にするために、プロット周辺の樹木のうち、その樹高と同じ距離にある樹木の種名を記録した(図4B)。図4Bの場合、樹木1は散布の可能性があるが、樹木2はその可能性がないとした。これはその樹木から散布される果実・種子が重力散布あるいは風散布であれば飛来する可能性があると考えたからである。またプロットの真上に樹木があった場合はそれも記録した。これは鳥類が止まり木として利用した場合に、その下に散布される種子が多くなると考えられるからである。


図3. 生垣に生育するシラカシの若木


図4. A: 生垣で生育する外部由来植物のイメージ、
B: 霊園内の生垣と樹木の位置関係を示すイメージ

 生垣に運び込まれた種子が重力散布によりものであれば、プロットの真上にある樹木が多いはずであるし、風散布によるのであれば、周辺で記録された種との対応があるはずであるし、鳥類散布であれば、これら出自となる樹木とは関係がないか、弱いはずである。このことを表現する指標としてプロットあたりの個体密度の順位曲線を用い、これを「密度-順位曲線」とした。これはプロットごとの個体密度の値の大きいものから小さいものへと配したグラフで、重力散布であれば集中してゼロのプロットが多くなるからL字型、風散布であれば母樹を中心に次第に少なくなるから急傾斜のカーブ、鳥類散布であれば広く分散されるからなだらかなカーブになると想定される。

結 果
 90のプロットのうち89のプロットに外部由来の植物が見られ、密度は0.8本/m2から8.0本/m2までの幅があった。出現した木本植物は11種であった。ただし「クワ属」にはヤマグワもマグワもあり、さらに判別の困難なものもあったのでまとめて「クワ属」とした。

+++ コラム +++
以下には密度-順位曲線を示す。ここでこの曲線の説明をする。もし種子が鳥によって散布されたら、左図のように実生は「広く薄く」生育しているはずであり、重力散布で母樹から落ちたり、多少風によって散布される場合、右図のように母樹の近くに集中するはずである。

図5. [広く薄く」散布された場合と「狭く集中して」散布された場合の区画の
イメージ。鳥散布では「広く薄く」、重力散布では「狭く集中」する。

 この結果を生垣ごとに高密度から低密度に並べたのが「密度^順位曲線」で「広く薄く」の場合は、富士山の裾野のように横長になるはずであり、「狭く集中」の場合は滑り台のように急角度のカーブになるはずである。

++++++++++++++++++++++

 密度-順位曲線は、密度が0.08/m2 以上であった6種を取り上げた。このうちシラカシはカケスが散布する可能性はあるがほとんどは重力落下するはずである。また小平霊園ではトウネズミモチは生垣近くに母樹があるので、鳥散布であっても「狭く集中」することが予測される。そのほかは鳥散布である可能性が大きい。実際の結果を示したのが図6である。
 鳥散布型の多肉果であるムクノキ、エノキ、クワ属のうち、ムクノキとエノキはなだらかなカーブをとり、出現頻度も高かった。クワ属はやや急勾配で低頻度だった。


図6a. 鳥散布型の主要種の密度-順位曲線

 トウネズミモチは非常に高密度なプロットが数点あり、1本/m2程度の低密度のプロットも多かったのでL字型となった(図6b)。トウネズミモチは生垣の近くに結実する木があったためカーブが急になるとともに、鳥に散布されるものもあるために裾が広がったものと考えられる。シラカシの堅果は基本的に重力散布であり、生垣の近くにもあったのでグラフの左端に集中していた。ケヤキは風散布型であり、霊園内にも多いが、頻度は低く、勾配はなだらかであった。


図6b. 鳥散布型(トウネズミモチ)、重力散布型(シラカシ)、風散布型(ケヤキ)の主要種の密度-順位曲線

考 察

 種子散布のタイプと種子を供給する母樹を考えて若木の密度-順位曲線から若木の密度の広がりを予想した。この予想と実際の密度-順位曲線を比較すると、重力散布であるシラカシは確かに「高密度であるプロット以外は若木はない」というパターンをとった。このカーブはL字型というよりI字型というべきかもしれない。鳥類散布は頻度が高い傾向があったが、トウネズミモチはプロットの近くに母樹があるケースがあったので、典型的なL字型をとった。その他の鳥散布型の樹種ではなだらかに裾を引くパターンをとった。その他にも低密度・地頻度な鳥散布型の樹種があり、これらは密度-順位曲線を描くには適していなかったが、周囲に母樹はなかったから鳥類が散布したと考えられた。
 このように生垣に種子が散布されそこから芽生えたと考えられる若木の密度と頻度のパターンによって、種子散布のタイプと母樹の存在が若木の分布パターンに大きな影響を与えていることが概ね説明された。しかし未解決の課題もある。付表1には同じ小平霊園の樹下で種子回収をした調査結果(高槻、未発表)を合わせて示した。

付表1. 生垣内の若木密度とセンダン、トウネズミモチの樹下で回収された種子の割合(%)。出現タイプはA: 若木も回収種子ともにあり、B: 若木はあったが、回収種子なし、C:種子は回収されたが若木はなし。



 表のタイプAは本調査で若木が確認され、散布種子調査でも回収された種であり、13種が確認された。
 タイプBは生垣に若木が確認されたが、散布種子は回収されなかった11種で、このうちアカメガシワとクワ属は夏に結実するが、種子回収調査を冬(12月から2月まで)におこなったため回収されなかった可能性が大きい。他の9種は種子回収調査の範囲では運び込まれなかったと考えられる。
 タイプCはこれとは逆に、種子は回収されたにもかかわらず生垣に若木が確認されなかったもので、9種があった。このうちセンダンとモチノキは調査対象以外の生垣では確認したが、数は少ない。クロガネモチは種子がセンダンの樹下で多数回収されたが若木は確認されなかった。タイプCは種子散布されても生垣では発芽しにくいか、発芽後の生存率が低いと考えられる。
 野鳥について定量的なカウントはしていないが、最も頻繁に観察されたはヒヨドリである。そのほかではムクドリやハシブトガラスが果実を採食するのが観察された。これらの野鳥が生垣に止まって種子を吐き出したり糞を排泄することで種子散布していることの実態の一部が明らかになった。都市においては特に森林に生息し、生息地選択や食性などが特殊化した鳥類は減少し、融通が効く「ジェネラリスト」が相対的にも、絶対数でも増加するとされる(Clavel et al. 2011White et al. 2018)。ジェネラリストは食性幅も広いから、さまざまな果実を食べ、種子散布する。スペインのある都市緑地ではズグロムシクイ(Sylvia atricapilla)というジェネラリストが主要な種子散布者で、特にヨウシュヤマゴボウを散布しているという(Cruz et al. 2013)。東京圏ではヒヨドリがその典型例であろう。実際、1970年代に盛んに植栽されたトウネズミモチの分布拡大は鳥類によるものだとされる(吉永・亀山 2001)。本調査でも生垣内で最も多かった若木はトウネズミモチであった。同時にムクノキとエノキも多く、在来の高木種も高頻度に散布されていることがわかった。霊園での生垣は定期的に剪定されるから、これらの若木が大きく育つことはないが、この事例からわかることは、都市緑地にこれらの種子が散布され、若木も生育しているということである。これらほど数は多くないが、そのほかにも多種の樹種が種子散布され若木が育っていることが確認された。このことから、都市緑地においてヒヨドリを中心として野鳥が樹林の動態に影響しているのは確実と考えられる。このことは都市緑地の生物多様性を考える上でも参考にされて良いことであろう。

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シカの食性分析

2021-12-10 23:20:53 | 研究

金華山での25年間における植生とシカの食性の変化 こちら
東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –. 高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020. 哺乳類科学, 31: 67-69. こちら 
丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例. 高槻成紀・梶谷敏夫. 2019. 保全生態学研究, 24: 1-12.  
こちら
山梨県早川町のシカの食性. 
高槻成紀・大西信正. 2021. 保全生態学研究, 23: 155-165. こちら
鳥取県東部のスギ植林地のシカの食性 こちら
四国三嶺山系のシカの食性. 高槻成紀、石川愼吾、比嘉基紀. 2021. 日本生態学会誌, 71: 5-15. こちら 

九州がまだです。もし定期的にシカの糞が確保できる方はご協力ください。まずはこのサイトのコメントにご連絡ください。九州を優先しますが、その他の場所も可能です。高槻


高槻によるシカの食性分析点
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タヌキの食性

2021-12-10 17:50:49 | 研究
タヌキの食性: 北から南へ

宮城県仙台市 高槻成紀・岩田翠・平泉秀樹・平吹喜彦. 2018. 仙台の海岸に生息するタヌキの食性 ―東北地方太平洋沖地震後に復帰し復興事業で生息地が改変された事例―. 
保全生態学研究, 23: 155-165. こちら

山形県西川町 高槻成紀・中村夢奈 (分析中)こちら

埼玉県浦和市 高槻成紀・小林邦夫 (分析中)こちら

東京都日出町 Hirasawa, M., E. Kanda and S. Takatsuki. 2006. Seasonal food habits of the raccoon dog at a western suburb of Tokyo.  Mammal Study, 31: 9-14. こちら 

東京都日出町 Sakamoto, Y. and S. Takatsuki, 2015. Seeds recovered from the droppings at latrines of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides viverrinus): the possibility of seed dispersal.
 Zoological Science, 32: 157-162.   こちら   

東京都小平市 高槻成紀. 2017. 東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性. 
人と自然, 28: 1-9. こちら

東京都八王子市 Takatsuki, S., R. Miyaoka and K. Sugaya. 2018. A Comparison of Food Habits Between Japanese Marten and Raccoon Dog in Western Tokyo with Reference to Fruit Use.         
Zoological Science, 35(1): 68–74 . こちら

東京都八王子市 高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020. 東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –. 
哺乳類科学, 31: 67-69. こちら  

東京都明治神宮 高槻成紀・釣谷洋輔. 2021. 明治神宮の杜のタヌキの食性. こちら

愛媛県諏訪崎 Takatsuki, S., M. Inaba, K. Hashigoe, H. Matsui.          Opportunistic food habits of the raccoon dog – a case study on Suwazaki Peninsula, Shikoku, western Japan. Mammal Study, 46: 25-32. こちら

高知県 高槻成紀・谷地森秀二.      高知県とその周辺のタヌキの食性 – 胃内容物分析–.   哺乳類科学, 61: 13-22. こちら

場所特定せず 高槻成紀. 2018.    タヌキが利用する果実の特徴 – 総説. 
哺乳類科学, 58: 1-10.    こちら

このような記述的な研究により、タヌキの食性がきわめて多様であり、可塑的であることがわかってきました。しかしまだ未知の場所が広く残されています。北海道や九州などの方で、タヌキの糞が確実に確保できる人は分析を引き受けますので、ぜひご協力ください。


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アンケートのお願い

2021-11-19 18:56:24 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
みなさま

玉川上水についてのアンケートにご協力お願いします。


周辺にも拡散していただけるとありがたいです。

2021.11/19
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八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性

2021-11-12 22:30:40 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性

高槻成紀・鈴木詩織

これまで定量的分析がほとんどなかったヤマネの食性を糞分析によって解明した。日本中部の八ヶ岳の亜高山帯のヤマネは夏には主に昆虫(69.2%)を、秋には果実(43.0%)と昆虫(33.4%)を食べていた。夏の果実は育児のため高タンパクを必要とし、秋の果実は冬眠前に脂肪蓄積をするために糖分を必要とするためと考えた。葉は微量しか検出されなかった。
キーワード:ヤマネ、食性、糞分析、昆虫食、果実食

Food habits of the Japanese dormouse in the Yatsugatake Mountains, Japan
Zoological Science, 39(2) online   https://doi.org/10.2108/zs210055 
2021年11月12日受理

ヤマネの糞組成
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八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性

2021-11-12 10:42:18 | 研究
Food habits of the Japanese dormouse in the Yatsugatake Mountains, Japan
Seiki Takatsuki1 and Shiori Suzuki
Zoological Science, 2012. 11/12 受理

八ヶ岳亜高山帯のヤマネの食性
高槻成紀・鈴木詩織

摘要:
これまで定量的分析がほとんどなかったヤマネの食性を糞分析によって解明した。日本中部の八ヶ岳の亜高山帯のヤマネは夏には主に昆虫(69.2%)を、秋には果実(43.0%)と昆虫(33.4%)を食べていた。夏の果実は育児のため高タンパクを必要とし、秋の果実は冬眠前に脂肪蓄積をするために糖分を必要とするためと考えた。葉は微量しか検出されなかった。
キーワード:ヤマネ、食性、糞分析、昆虫食、果実食

 

ヤマネの糞



八ヶ岳のヤマネの糞組成(%)


ヤマネの糞内容物の占有率ー順位曲線。A: 2013年9月、B: 11月


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小金井「はけ」のタヌキの食性

2021-10-28 22:05:40 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
2021.10.28

小金井市はけの森美術館付近のタヌキについて

高槻成紀

2021年9月に安田桂子さんからはけの森美術館に近いあるお宅の庭に動物の糞があるが、何の糞だろうと質問を受けた。そこで9月20日に現地を見に行くことにした。この場所は野川の北で「はけ」があるために段丘の坂道が多く、住宅地ではあるが個人の庭や小金井市の緑地などもあり、比較的林が残っている。このお宅ははけの森美術館と道路を挟んで接するようにある(図1) 。


図1. 調査地の空中写真

そのお宅に行くと確かに軒下に動物の糞がパラパラと落ちていた(図2)。タヌキの糞の可能性が大きいが、私がこれまで見たものはもっと集中的に重ねるようなものが多かったので確定はできないと思った。そこでセンサーカメラを置くことにした(図2)。カメラは1台は静止画、もう一台は動画とした。


図.2 軒下の動物の糞とセンサーカメラ(奥の2台)

 9月24日にセンサーカメラの結果を確認しに行ったところ、20日の夜にタヌキが写っていた(図3)。しかも1つの動画には同時に3頭が写っており、少なくとも3頭が利用していることがわかった。


図3. 撮影された2頭のタヌキ. 2021.10.20
動画によればこの後ろにもう1頭撮影された.

 新しい糞を拾って帰り、分析した。分析はポイント枠法という方法を採用した。この方法は間隔が0.5 mmのふるいの上で水洗し、残った物質を顕微鏡で識別し、格子のついたスライドグラスで定量的に評価する方法である。
 9月は新しい糞が4個しか得られなかった。その組成の主体はムクノキの果実で、3例はムクノキの果実が大半をしめたが、1例は昆虫が多かった。タヌキの食物は、多くの場所で夏は昆虫が多くなり、秋は果実が多くなるので、9月中旬はその移行的な段階なのだと思われる。


図4 検出されたムクノキの種子(2021年9月)


 10月には12個の糞が確保された。その組成は全体としては9月と違いがなかった(図5)。


図5. 2021年9月と10月のタヌキの糞組成

果実としてはムクノキが多かったが、コブシやヤブミョウガを含むサンプルもあった(図6)。またほとんどが昆虫(幼虫)に占められていたサンプルやカエルの骨を含んだサンプルもあった。


図5. 2021年10月のタヌキの糞からの検出物

 東京の市街地でもこの場所は「はけ」があり、その水流の周りに良い状態の林が残っているので、タヌキの生息地としては良好であり、タヌキの食糧事情は比較的良好だと思われる。これまで果実・種子としてはムクノキ、エノキ、コブシ、カキノキ、ヤブミョウガが確認された。これらはいずれも落葉樹林の構成種で、ヤブミョウガは常緑樹林にも生育する。ただしカキノキは人家などに植栽される。これまでのところポリ袋などの人工物は検出されておらず、糞組成はここのタヌキが比較的良好な状態の林で生活していることを示唆する。今後、果実が乏しくなったときに、何を食べているか興味が持たれる。

ムクノキ

エノキ

コブシ

ヤブミョウガ


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最近の論文 (2020以降)

2021-10-01 04:02:26 | 最近の論文など
21.12.1 受理
記載的な論文と査読のあり方について

21.9.27 受理
八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用 − 高さ選択に注目して −
高槻成紀・大貫彩絵・加古菜甫子・鈴木詩織・南 正人
哺乳類科学、印刷中

 2013年5月に八ヶ岳の亜高山帯のカラマツLarix kaempferi林で同じ樹木の高さ0.5 mと1.8 mに43対(86個)の巣箱を設置し,2013年9月,11月,2014年5月,9月の4回点検してヤマネGlirulus japonicusなどによる利用を調べた.その結果,利用されたのべ108個の巣箱のうち101個(93.5%)はヤマネが利用したことがわかった.巣箱は高さ1.8 mのほうが高さ0.5 mよりも有意に多く利用された.ヤマネによる利用率は通算で27.7%と高く,特に9月には40-50%と非常に高かった.ヤマネは巣材としてコケ,サルオガセ,樹皮などを利用し,巣箱ごとに特定の材料が重量のほとんどを占めていた.
巣箱(蓋を開けたところ)

巣材. A: コケ, B: サルオガセ

巣箱にいたヤマネ

21.8.27 受理
スギ人工林が卓越する場所でのニホンジカの食性と林床植生への影響−鳥取県若桜町での事例−
高槻成紀・ 永松 大
保全生態学研究、印刷中

我が国では近年シカ(ニホンジカ)が増加して植生に強い影響を及ぼしている。鳥取県東部はスギ人工林が卓越するが、近年シカが侵入して影響が強まっている。スギ人工林は暗く、下層植物が少ないため、同じしか密度でも食物供給条件は乏しいことが想定されるが、こういう場所でのシカの食性は調べられていない。そこで本調査ではスギ人工林卓越地のシカの食性と林床植生に及ぼす影響を明らかにすることとした。糞分析により、糞中に占める緑葉の割合が夏(7-9月)でも13-26%に過ぎず、繊維、稈、枯葉など低質な食物が60-80%を占めることがわかった。シカ排除柵内外のバイオマス指数を比較するとスギ人工林、落葉広葉樹林ともに林床植生は乏しく、両群落で柵内が柵外よりもそれぞれ9倍、39倍も多かった。本調査はスギ人工林卓越地においては林床が貧弱であるため、シカの食性は夏でも低質な食物で占められていることを初めて示した。

若桜町のシカ糞中に占める主要食物の月変化

若桜町の針葉樹人工林と落葉広葉樹林の柵内外における林床植物の
バイオマス指数

21.8.18 受理
Long-term changes in food habits of deer and habitat vegetation: 25 year monitoring on a small island
シカの食性と生息地の長期的変化:小島での25年にわたる継続調査
Seiki Takatsuki
Ecological Research, こちら

1975年から2000年までの25年間、シカが高密度で生息する金華山島のススキ群落と芝群落で植生とシカの糞組成をモニタリングした。大型草食獣による植生変化が他の大型草食獣に影響与える研究はあるが、自らの食性に与える影響は知られていない。また長期的な植生変化の調査はあるが、草食獣の食性を併せておこなった長期調査はない。調査開始からススキ群落はシバ群落に徐々に入れ替わり、強い採食圧でも裸地化することはなかった。一方、シカの食性は1970年代にはススキ、アズマネザサ、シバが同程度含まれていたが、1980年以降はほぼシバだけになった。これにはシバの高い生産特性と高温多湿な日本の気候によるものと考えた。25年間の調査により、有蹄類は植生を変化させることを通じて自らの食性を変化させることと、植生の変化は連続的だったがシカの食性の変化は不連続であることが初めて示された。

金華山の調査地1と調査地2の景観の経年変化


調査地2における所用3種の被度の経年
変化
金華山の調査地1と調査地2でのシカ糞中の主要食物の経年変化

21.4
Human effects on habitat use of Japanese macaques (Macaca fuscata): importance of forest edges
ニホンザルの生息地選択に及ぼす人の影響ー林縁の重要性について
Hiroshi Ebihara and Seiki Takatsuki
Mammal Study, 46: 131-141. こちら
 ニホンザルの生息地は伐採、植林、農地化、森林分断など人為的な変形を受けた。そういう影響はサルの生息地利用に影響していると考えられる。そこで、農地群と森林群の2群の生息地利用を比較した。その際、これまで植生図に表現されなかった林縁を植生カテゴリーの一つで取り上げた。両群とも秋と冬には落葉広葉樹林を、また夏には林縁をよく利用した。森林群は森林と草地の林縁を、農地群は森林と農地の林縁をよく利用した。農地群は秋と冬に森林群よりも落葉広葉樹林をよく利用した。オープンな場所はサルにとって危険であるから、両群とも森林をよく利用した。人工林の増加による森林での食物の減少と、農地での食物の増加により、サルの林縁利用が増えた。本研究で林縁を独立した植生タイプとして取り上げることでサルの生息地利用を正確に捉えることができた。

21.4.15   
Diet compositions of two sympatric ungulates, the Japanese serow (Capricornis crispus) and the sika deer (Cervus nippon), in a montane forest and an alpine grassland of Mt. Asama, central Japan
日本の中部地方の浅間山の山地森林と高山草原に同所的に生息するシカとカモシカの食物組成
Takada, H., Yano, R., Katsumata, A., Takatsuki, S., Minami. 2021.  
Mammalian Biology, https://doi.org/10.1007/s42991-021-00122-5

21.3.25 受理
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響
– アファンの森と隣接する人工林での観察例
高槻成紀・望月亜佑子
人と自然:  in press
我が国の国土の27%は針葉樹人工林に占められている.林学研究は森林の生産性に力点がおかれ,生物多様性に対する注目度は低かった.本研究は長野県信濃町黒姫のスギ人工林の間伐が林内の気象などの環境要素,下層植生とその花への昆虫の訪花に及ぼす影響を調べた.間伐によって森林の下層部は明るくなった.間伐を行っていないスギ人工林に比べて間伐林では下層植生の積算優占度が1年目に1.7倍と多く,2年目に4.5倍に増加した.間伐林では先駆性の低木と大型双子葉草本が多かった.また虫媒花植物と訪花数も落葉広葉樹林と同レベルであった.これに対してスギ人工林では訪花昆虫はまったく観察されなかった.本研究はスギ人工林の生物多様性と訪花が間伐によって改善される可能性を示した.

21.3.3 受理
山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -
著者名:高槻成紀・植原 彰
植生学会誌, 38: 81-93.  こちら
1.山梨県の乙女高原は刈取により維持され,大型双子葉草本が多い草原であったが,2005年頃からススキ群落に変化してきた.この時期はシカ(ニホンジカ)の増加と同調していた.
2.主要11種の茎を地上10 cmで切断し,その後の生存率と植物高を継続測定したところ,双子葉草本9種のうち6種は枯れ,生存種も草丈が低くなった.これに対して,ススキとヤマハギは生存し,植物高も減少しなかった.
3.ススキを,6月,9月,11月,6,・9月に刈取処理をし,5年間継続したところ,ススキの草丈は11月処理は180-200 cmを維持し,6月区はやや低くなったまま維持した.これに対し,9月区は草丈が経年的に減少した.
4.シカの採食は双子葉草本には強い影響があるが,刈取処理よりは弱いから,ススキにとっては影響は弱く,乙女高原でのススキ群落化はシカの影響と考えるのが妥当であると考えた.
5.ススキ群落内に設置した15 m×15 mのシカ防除柵4年後の群落はススキが大幅に減少し,双子葉草本が優占した.群落多様度は柵外はH’ = 0.85だったが,柵内はH’ = 2.64と3倍も大きくなった.
6.上層の優占種が大型双子葉草本からススキに変化することで,ヒメシダのような地表性の陽性植物が増加し,ミツバツチグリの場合,ススキ群落では低い草丈で面的に広がったが,双子葉草本が密生していると被度は減少して葉柄を伸長させた.
7.シカの影響は1)シカの嗜好性(不嗜好植物は食べない)の違い,2)採食に対する植物の反応(成長点のいちの違いによる再生力など)の違い,3)その結果による上層の優占種の変化による下層植物への間接効果,という異なるレベルで起きていることを示した.

21.1.25 受理
過疎化した山村でのシカの食性− 山梨県早川町の事例−
高槻成紀・大西信正
保全生態学研究23: 155-165. こちら
過疎化が著しく、シカが高密度になって林床植生が乏しい状態にある山梨県早川町のシカの食性を糞分析により明らかにした。いずれの季節でも栄養価の低い繊維・稈などの支持組織が多く、栄養価の高い緑葉は少なかった。春には繊維が45.0%、稈・鞘が17.7%と多く、緑葉は10.3%に過ぎなかった。夏も繊維(54.6%)と稈・鞘(14.2%)が多かったが、双子葉植物が13.5%に増加した。秋は緑葉が36.0%と年間で最も多くなった。これは新しい落葉を食べたものと推定した。冬の糞組成は最も劣悪で、繊維が82.7%と大半を占め、緑葉は微量(2.5%)しか検出されなかった。早川町のシカの食性は他のシカ生息地と比較しても劣悪であった。シカの食性とシカの管理、特に過疎化との関連に言及した。

20.11.2 
麻布大学キャンパス内の植栽樹への種子散布
小島香澄・高槻成紀
Binos, 27: 11-16.
被食散布型の樹木にはさまざまな果実食鳥類が訪 れ、樹下には別の木で食べた種子が排泄される。しか し、野外の森林では多種の樹木が隣接している上に亜 高木、低木、草本にも被食散布植物があり、林床には 下生え植物や枯葉があるため落下種子を調べるのは難 しい。この点、都市の単純な環境に孤立木があれば調 べることが可能である。この論文では大学キャンパス内の同時期に結実する多肉果を着ける樹木を用いて、 外部から持ち込まれた種子の内容を明らかにすること を目的とした。カキノキでは 27 種以上 2,810 個、セ ンダンでは 17 種以上 451 個、エノキでは 10 種以上 1875 個の種子が回収された。対象木と同種の種子の 割合はカキノキ樹下では 15.6% と小さかったが、セ ンダン樹下で 52.3%、エノキ樹下では 91.1% であった。 外部由来の種子はカキノキとセンダンの樹下ではエノ キが多く、エノキ樹下ではセンダンが多かった。大学 キャンパスという単純な系を使うことで、鳥類による 種子散布の実態の一部が示された。

20.10.10 
長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性 
宗兼明香・南正人・高槻成紀. 2021.
哺乳類科学, 61: 39-47. こちら
長野県東部の御代田町のカラマツ林に生息するテンの食性を糞分析法により 明らかにした.食物組成の量的評価は出現頻度法とポイ ント枠法の占有率によった.平均占有率は,春には哺乳 類(64.1%),夏と秋には果実(夏は 65.3%,秋は 78.0%)が多かった.種子の出現からわかった果実利用 は月ごとに変化し,春にはミズキCornus controversaな ど,夏にはサクラ属 Cerasus spp. など,秋にはマタタビ 属 Actinidia spp. やアケビ属 Akebia spp. などが多かった. 昆虫は夏でも 4.9%に過ぎず,他の地域より少なかった. これは本調査地に果実が豊富なためと考えられた.出現 頻度法による評価では平均占有率が小さかった昆虫や葉 が過大に評価された.占有率-順位曲線からは平均値や 頻度だけではわからない,食物の供給量とテンの食物選 択性を読み取ることができた.テンに利用された果実に は林縁植物が多いことからテンが林縁植物の指向性散布 をする可能性が示唆された.

2020.10.8
麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布 
高槻成紀. 2020.
麻布大学雑誌 こちら
被食散布型の樹木にはさまざまな果実食鳥類が訪れ、樹下には別の木で食べた種子が落下される。しか し、野外の森林では多種の樹木が隣接している上に亜高木、低木、草本にも被食散布植物があり、地表にも草 本類や枯葉があるために落下種子を調べるのは難しい。この点、都市の単純な環境に孤立木があれば調べるこ とが可能である。この論文では大学キャンパス内に植栽された1本のカキノキを用いて、外部から持ち込ま れた種子の内容を明らかにすることを目的とした。その結果、2009 年の 11 月と 12 月の間に、カキノキ種子を 除いて 36 種以上 7918 個の種子が回収された。その内訳は高木種が 18 種で種子数は 89.9% を占め、低木が 8 種、4.8%、つる植物が 7 種、3.2% などであった。これらを植栽種、野生種で分けると、植栽種が 37.5% を占め、 都市的な環境を反映していた。この調査により大学キャンパスという単純な系を使うことで、鳥類による種子 散布の実態の一端が示された。

2020.9.21 受理
四国三嶺山域のシカの食性−山地帯以上での変異に着目して
高槻成紀、石川愼吾、比嘉基紀. 2021.
日本生態学会誌, 71: 5-15.  こちら
これまで不明な点が多かった西日本のシカの食性の例として、四国剣山系三嶺のシカの食性を糞分析により解明 した。標高 1100 m 台のさおりが原ではシカの採食により林床が貧弱になっており、シカの糞でも繊維と稈・鞘が多く、 シカの食物状況は劣悪であった。標高 1600 m 台のカヤハゲでは 2007 年にシカの採食によりミヤマクマザサが消滅し、 現在はススキ群落になっており、糞組成でもイネ科と稈・鞘が多かった。標高 1700 m 台の地蔵の頭では稜線にミヤマ クマザサが密生しており、シカの糞もササが優占していた。山地帯では植生もシカの強い影響で壊滅状態であるが、シ カ自身の食性も劣悪であった。高標高に生息するシカにとっては尾根のミヤマクマザサは特に冬の食物として重要であ ることがわかった。シカの置かれた状態を判断するのに食性解明は有力な情報をもたらすことを指摘した。

Effects of 137Cs contamination after the TEPCO Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station accident on food and habitat of wild boar in Fukushima Prefecture.
Nemoto, Y., H. Oomachi, R. Saito, R. Kumada, M. Sasaki, S. Takatsuki. 2020.
Journal of Environmental Radioactivity こちら

20.4.21 受理
2018年台風24号による玉川上水の樹木への被害状況と今後の管理について
高槻成紀. 2020.
植生学会誌,  37: 49-55 こちら
1. 2018 年 9 月 30 日深夜から数時間,東京地方を襲った台風 24 号がもたらした玉川上水 30 km の風害 木の実態を記録したところ,合計 111 本(3.7 本 /km) が記録された.
2. 樹種はサクラ属が 3 分の 1 を占めた.風害木の うち,植林されたサクラ属,ヒノキは平均直径が 50 cm を上回っていたが,コナラ,クヌギなど自生する 雑木林の構成種は直径 30 cm 前後であった.
3. 風害木は全体に上流(西側)で少なく,下流 (東側)に多い傾向があり,特に小金井地区と井の頭 公園一帯に多かった.木の倒れた方位は北に偏ってお
り,南からの強風が吹いたことを反映していた. 4. 桜の名所である小金井地区はサクラ属以外は伐 採されるため立木に占めるサクラ属の割合がほかの地 区よりも高く,被害率も他の地区に比べて 7.1 倍も高かった.

2020.8.30
タヌキの日和見的な食性- 愛媛県諏訪崎での事例 -
Mammal Study, 46: 25-32. こちら
タヌキの食性が場所ごとに違いがあることがわかってきたが、南西日本のタヌキの食性は分析例が少ない。本論文では愛媛県の諏訪崎半島のタヌキの食性を糞分析(ポイント枠法)で調べた。調査は2019年5月から2020年4月に行った。果実が重要で秋には30%以上、冬でも20%以上を占めた。椋木あkが特に重要だったが、そのほかにも暖地の果実が季節に応じて食べられた。昆虫も重要で春、夏、初秋には20%以上を占めた。晩冬季にはミカンが40%ほどを占めた。哺乳類と鳥類は他の超幸よりも少な買った。諏訪崎のタヌキの食性は暖地の果実、昆虫、ミカンで特徴付けられ、タヌキが「日和見的」であることを示唆した。

2020.7.14
Kagamiuchi, Y. and S. Takatsuki.  
Diets of sika deer invading Mt. Yatsugatake and the Japanese South Alps in the alpine zone of central Japan.
(中部日本の八ヶ岳と南アルプスの高山帯に侵入したニホンジカの食物)        
Wildlife Biology 2020: wlb.00710 こちら
近年、日本列島でシカが増加しており、その分布は中部地方の高山帯に及び、冬は低地で過ごすが夏は高山帯で過ごす。しかしその食性は調べられていない。本調査では八ヶ岳と南アルプスで、山地帯、亜高山帯、高山帯のシカの糞を採集し、植物組成と栄養学的分析を行った。八ヶ岳の山地帯ではササが40-55%を占めたが、南アルプスの山地帯では双子葉植物が多かった。亜高山帯では、八ヶ岳ではイネ科が50%を占めたが、南アルプスでは単子葉植物と双子葉植物がそれぞれ10-20%をしめた。高山帯ではどちらの山でもイネ科が多かった。糞中の粗タンパク質含有率はどちらの山でも低地では8-12%だったが、高山帯では15-20%と高かった。

20.5.25 受理
高知県とその周辺のタヌキの食性 – 胃内容物分析–
高槻成紀・谷地森秀二
哺乳類科学, 61: 13-22. こちら
これまで四国のタヌキの食性は情報がなかったが,高知県と周辺から得た67例の胃内容物をポイント枠法で分析した.ほかの場所と比べると昆虫が多く(全体の占有率25.7%),特に冬でも25.8%を占めた.果実は重要であったが,他の場所に比べれば少なく,最大で秋の30.4%であった.カタツムリ(ウスカワマイマイ)が春(19.3%)を中心に多かったことと,春にコメを主体とした作物が25.0%と多かった点は特異であった.

2019.7.16 受理
東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –
高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020.
哺乳類科学, 31: 67-69. こちら
人為的影響の少ない東京西部の裏高尾のタヌキの食性 を調べたところ,人工物は出現頻度 5.0%,ポイント枠 法による平均占有率 0.4%に過ぎなかった.果実・種子 が一年を通じて重要で,出現頻度(果実 98.0%,種子 93.1%),平均占有率(果実 30.0%,種子 25.7%)とも 高かった.季節的には春は果実,種子,昆虫の占有率が 20%前後を占め,夏には種子が 36.7%に増加した.秋に は果実が 71.5%と最多になり,昆虫は微量になった.初 冬には果実が 43.2%に減り,種子が 31.7%に増えた.晩 冬は果実(15–35%),種子(15–25%),昆虫(20–30%) が主要であった.種子は晩冬のエノキ,春のキチイゴ属, 夏のミズキ,秋のケンポナシ,初冬と晩冬のヤマグワと 推移した.ヤマグワやサルナシは結実期とタヌキによる 利用の時期が対応しなかった.


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