高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

もくじ

2018-10-11 08:21:00 | もくじ
プロフィール
日々の自然日誌はこちらをどうぞ

最近の動き new

 モンゴル 2018 new

 今進めている生き物調べの報告 new!

私の著書 
最近の論文 new
それ以外の著作 new
最終講義
退職記念文集「つながり」
唱歌「故郷」をめぐる議論


研究概要
 研究1.1 シカの食性関係
 研究1.2 シカと植物
 研究1.3 シカの個体群学
 研究1.4 シカの生態・保全
 研究2 調査法など
 研究3.1 その他の動物(有蹄類
  その他の動物(食肉目)
  その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)
  その他の動物(哺乳類以外)
 研究3.2 その他の動物(海外)
 研究4 アファンの森の生物調べ
 研究5 モンゴル(制作中)
 研究6 野生動物と人間の関係
 研究7 教育など
 研究8 その他

業績
 論文リスト 2010年まで
 論文リスト 2011年から
 書籍リスト
 総説リスト
 書評リスト
 意見リスト

エッセー
 どちらを向いているか:小保方事件を思う 2011.4
 皇居のタヌキの糞と陛下 2016.10
 バイリンガル 2018.6.11

2017年の記録
2016年の記録
2015年の記録
2014年の記録
2013年の記録
2012年の記録 6-12月
2012年の記録 1-5月
2011年の記録


その他
コメント (2)

最近の動き

2018-09-28 14:40:41 | 最近の動き

10月12日

科学技術振興機構のポータルサイト(サイエンスポータル)に私を取材した記事が載りました。こちら

9月28日
鳥取県若桜のシカ糞を分析していますが、これまで知られているどこよりも劣悪で、夏でも枯葉を多く食べていることがわかりました。こちら

9月27日
小平市にある津田塾大学のタヌキの食べ物を調べていますが、9月になったら急に糞が見つかるようになり、中身も昆虫が激減してカキを主体とし、ムクノキなどが混じる「秋モード」に入ったようです。こちら

9月16日
玉川上水の9月の観察会を小金井で行いました。こちら

9月7-10日
日本哺乳類学会が伊那市の信州大学農学部で行われ、参加して来ました。若い人の活気を感じるる学会です。

9月6日
森林インストラクター東京会で「玉川上水の生き物しらべの愉しみ」という講演をしました。


質問に答える

8月30日
サクラサイエンスというプロジェクトで麻布大学で研修中のアジアの若手獣医研究者が麻布大学いのちの博物館に来館しまし他ので、解説しました。こちら

8月26日
玉川上水の観察会をしました。こちら

8月25日
「玉川上水にはフン虫がいるよ」を実施しました。こちら

8月21日
明治神宮にタヌキの糞を探しに行きましたが、見つからずがっかりでした。

8月19日
乙女高原で訪花昆虫の調査をしました。大きな柵を作ってシカの影響を排除したおかげで花が戻ってきて全体でポリネーション(花に昆虫が受粉にくること)が咲く設置前の5階程増えていました。花と昆虫にに囲まれてとても幸福感のある調査でした。

8月16日
「3.11」後の仙台の海岸に戻ってきたタヌキの論文が朝日新聞の宮城県版に載りましたが、その英訳ができたそうです。

http://www.asahi.com/ajw/articles/AJ201808110001.html

7月31日-8月11日
モンゴル調査

7月27日
私は仲間と東日本大震災の後、仙台の海岸に「戻ってきた」タヌキの糞分析をして、「保全生態学研究」という学術誌に論文を書きました。それを朝日新聞の宮城版が取り上げてくれました。研究をこういう形で発信することも大事だと思います。



7月24日-26日
7月24-26日、麻布大学いのちの博物館で小学生を対象とした夏休み子ども教室をしました。子供達の真剣な眼差し、ユニークなスケッチ作品を見れば、あれこれの評価は無用であることがわかります。

スケッチする子供達

(写真の公開は了解を得ています)もっとみる

子供ならではの作品ができました。

もっと見る

 小学生に解説をしていると、自分の言葉が子供の心に入って行くようで、まさに「語れば応える」が実感できます。スケッチの仕方や動物の見方をアドバイスすると、驚くほどの効果がみられます。自分は大学の先生より、小学校の先生の方が向いていたかな、と思うくらいです。



 アオダイショウの骨の説明をする時、南米でアナコンダにおばあさんが食べられた話をしました。その時はホワイトボードにヘビの頭を描いて大きく開けた口に丸い人の頭だけを描いておきました。その後、感想文を書いてもらっているときに、人の顔に目や口を描き、体も描き加えて、男の子にしました。そうしたら子どもたちが目ざとく見つけて、笑顔が見られました。それを見て一人の子が「さっき、おばあさんって言ったのに」と言いました。そこで男の子の頭の上に丸い髪の塊りを描き、口の脇にほうれい線を引きました。それから半ズボンをスカートにしました。子どもたちは大喜びでした。
 落書きが得意なのもこういうときは役に立つものです。




7月16日
「玉川上水を守るには?」という集会で講演をしました。こちら



7月8日
玉川上水観察会
内容 津田塾大学でタヌキのタメフンを観察、回収し、水洗してマーカーの検出をします。マーカーとはソーセージに入れたプラスチック片で、キャンパスの外に置いてあり、タヌキの動きを調べようとしています。
無事完了しました。報告はこちら

6月27日
武蔵野美大三鷹ルームで「人による動物の勝手なイメージ:イタチも知らずにイタチごっこ」
人間の偏見、動物の言い分」について話しました。




関野先生と対談


話が終わってから子供たちもお話にきました。写真は豊口信行さんによる。


6月25日
「人間の偏見、動物の言い分~動物のイメージを科学する」イースト・プレス社 こちら
武蔵野美術大学で最近出版した上記の本の解説をしました。


人は動物に勝手なイメージを作ってきた


ハーツォグは実験のために「下等な」動物から「高等な」動物の順に熱湯に入れた。さて、高等下等とは??

++++++++++++
当日は武蔵美大の学生を主体に一般の方も聞きに来てくださいました。


動物のイメージを板書して説明(棚橋早苗さん撮影)


6月16日の「高尾の森づくりの会」での講演
同会で「森と動物たちのかかわりについて」という講演をしました。

6月10日「人間の偏見 動物の言い分」の書評
宮部みゆきさんの書評 こちら

6月10日の桐生での実習指導
桐生の自然の森で食肉目(タヌキやテン)の糞分析の実習指導をしました。


作業室


記念撮影

異変
 このブログを訪問する人はだいたい100人前後です。ところが、今朝(5月13日)、そのブログを見て我が目を疑いました。なんと8800人もの訪問者があったのです。桁違いです。これはどうしたことかと思っていましたが、友人がメールをくれたので、そのわけがわかりました。
 それによると、私が2年前に書いたあるエッセーがツイッターで話題になったのだそうです。それは天皇陛下が書かれた皇居のタヌキの糞分析の論文についてのものです。こちら 興味のある人にはゆっくり読んでもらうこととして、そのとき私が作った次の歌はどうでしょう。

 故ありてタヌキが糞を分析しけむが、広きこの世にかくなる行なひを為す者、幾人ありなむとこそ思ひけれ。
 しかるに、あらむことか、帝がこれを為されけむと知り、いみじう驚きたりて作りたる歌・・



 それにしても、なぜ今頃話題になったのかはいまだにわかりません。もしご存知の方がおられたら教えてもらえると喜びます。

5月20日の観察会
気持ちの良い天気の中で終えました。全体の報告下生え調査の結果

2018.5.3 モンゴルの放牧圧の論文
 2002年からモンゴルに通っています。最初はモウコガゼルの調査から始まったのですが、その後家畜と草原の関係を調べるようになって今日に至っています。モンゴル中央の北部はモンゴルとしては比較的降水量があり、山の北斜面には森林があるので「森林ステップ」と呼ばれています。もっと北のロシアに行けばタイガになる、草原と森林の移行帯です。その一つとしてブルガンという場所があり、そこで放牧影響を調べた調査結果が論文になりました。こちら

モンゴル北部の森林ステップの草地群落への放牧の影響:放牧と非放牧の比較
高槻成紀・佐藤雅人・森永由紀

モンゴルでは牧畜のあり方が移牧から定着に変化したため、草原が過放牧になり、群落に変化をもたらしている。この調査はモンゴル北部の深林ステップで長い時間家畜を排除した好例を見つけたので、放牧が草原にどのような影響をもたらすかを示そうとした。ブルガン飛行場は1950年代から柵をしてきたので、放牧された場所とされていない場所を比較できる。そこで群落構造、種組成、生育形に着目して柵の内外を比較した。植物量は柵外で40 g/m2であり、柵外(305 g/m2)の7分の1にすぎず、出現種数も半分ほどだった。柵内では草丈は30-40cmあったが、柵外では10cm未満だった。柵内では直立型、分枝型、大型叢生型が多いが、柵外では小型叢生型と匍匐型が優占的だった。柵内では微地形に応じて優占種に違いが見られたが、柵外ではCarex duriusculaというスゲとPotentilla acaulis(キジムシロ属)という匍匐型が優占していた。すなわち放牧影響はもともとある微地形の影響を「マスク」すると言える。この調査は、放牧による群落への影響を生育型を用いることで有効に示せることを示した。


A: 柵内外の比較、B:柵内の様子、C:柵外の様子、D: Potentilla acaulis

Effects of grazing on grassland communities of the forest-steppe of northern Mongolia: a comparison of grazed versus ungrazed places

Seiki Takatsuki, Masatoshi Sato, and Yuki Morinaga

Abstract
Overgrazing of grasslands in the Mongolian steppes resulting from a transition from pastoral to sedentary livestock production has led to significant changes in the plant communities. This study aimed to show how livestock grazing affects steppe vegetation in northern Mongolia by a good example of a long-termed exclusion of grazing. The Bulgan Airport in northern Mongolia has been fenced since the 1950s and thus is suitable to compare grazed and ungrazed plant communities. We studied plots both inside and outside the fence with reference to community structure, species composition, and growth form. Plant biomass for the outside plots averaged (40 g/m2) less than one-seventh of that inside the fence (305 g/m2), and average species number per plot was about half of that inside the fence. Height of plants inside the fence ranged from the ground surface to 30 - 40 cm, whereas most of the plants outside were less than 10 cm tall. Erect, branched, and tall tussock form plants were reduced outside the fence, and short tussock and prostrate form plants became dominant. Microtopography resulted in different dominant plants inside the fence whereas only Carex duriuscula, a sedge, and Potentilla acaulis, a short growing prostrate forb, prevailed outside. That is, grazing as a factor effecting plant communities prevailed and "masked" microtopography outside the fence. It was shown that the use of growth form is effective to evaluate vegetation changes by grazing.

2018.4.22 骨格標本
2018年4月10日、麻布大学のキャンパスでモズの死体を見つけました。状態がよかったので、骨格標本を作ることにしました。


モズの死体


骨格標本



2018.5.17 新刊出版
「人間の偏見 動物の言い分」という本がイーストプレスから出版されます。



私は長いあいだ動物の研究をしてきて、動物の立場から見たらこの世はずいぶん理不尽だと思うだろうなと想像することがよくありました。それが本書で言いたいことなのですが、その主張のために2つの工夫をしました。
 一つは「動物」というときに、ペットも家畜も野生動物も区別がされないために「動物のいのちを大切に」というとき、多くはイヌ・ネコのイメージをしますが、食肉用のウシやブタのことは考えないし、野生動物の絶滅のことも考えません。そこで動物を類型しながら説明しました。
 もう一つは現代の都市生活と動物の関係を考えるために、大胆とは思いながら、狩猟採集時代、農業時代、都市生活時代という時代区分をし、それぞれの時代に人が動物にどう接してきたかを考えたということです。
 その作業をすることで、都市生活が下手をするとかなり深刻な問題を生む危険性があることにも言及しました。出版は2018年5月17日で、定価は1700円(+税)です。

株式会社イースト・プレス


2018.4.12 講演
4月12日に武蔵野美大の「三鷹ルーム」で講演をしました。これは関野義晴先生が地球永住計画というプロジェクトの活動の一つとして行なっておられる連続講座で、さまざまな分野の研究者や専門家が関野先生と対談をするというものです。私は「リンク(生き物のつながり)を求めて」という話をしました。
 関野先生からは、最近行っている玉川上水の話ではなく、これまでの研究を振り返るような話をして欲しいということだったので、シカとササ、タヌキとテンの食性比較、シカの多面的生物に及ぼす影響、アファンの森の訪花昆虫などの話をしました。
 それら研究の話の前に、子供の頃の写真を紹介し、中2の時にアゲハ蝶類と食草の対応関係に気づいて、愛読していた図鑑の監修者であった九州大学の白水先生に手紙を書いたこと、そして返事をもらったことを紹介しました。そのことが、動物の食べ物を調べることに関心を持ったことと繋がっているかもしれないと思うからです。
 話の最後にはアイヌ民話の「ミソサザイとサマイクル」の話を紹介し、小さく、顧みられることのない生き物への配慮をする文化の素晴らしさを話しました。






豊口信行さん撮影

2018.4.4 子どもイベント「シカ、サル、タヌキの骨比べ」 こちら





2018.3.17

動物園講演会「タヌキのウンチ 生き物のつながりを探る」@武蔵野公会堂
動物園に関心のある人が主催する講演会でお話をしました。動物好きの人が多く、タヌキに限らず、動物のいのちについて様々な意見が買わされました。[Believe」を一緒に歌いました。


質問に答える


一緒に「Believe」を歌う


2018.2.25
講演 「日本の山とシカ問題
山と渓谷社による「日本山岳遺産サミット」で話しました。
 

2018.2.19
NHKテレビの「視点・論点」で「身近な自然をじっくり眺める」を話しました。内容はこちら

月~金 午前4時20分~午前4時30分 [Eテレ] 月~金 午後1時50分~午後2時


2018.1.13
講演 「タヌキのポン?!」予告
多摩動物公園でタヌキの話をしました。こちら
感想など こちら





2018.1.8
「玉川上水花マップ」と称して花の分布を調べていますが、1月8日にシンポジウムを開催しました。こちら
動画は こちら


コメント (9)

鳥取県若桜町のシカの食性分析の試み

2018-09-28 14:10:30 | 報告
2018.9.28 更新


鳥取県若桜町のシカの食性分析の試み

高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)・永松 大(鳥取大学)


目的
 シカ(ニホンジカ)の食性は北海道から屋久島まで広範に分析され、大体の傾向は把握されているが、まだまだより残された地域も多い。中国地方はその一つで、2000年に山口県のシカで断片的な情報が報告されたにすぎない(Jayasekara and Takatsuki, 2000)。この分析がなされた1990年代後半には中国地方でのシカの生息は限定的であったが、その後、徐々に拡大した。鳥取県においても兵庫県から連続的な分布域が県東部から徐々に拡大傾向にある(鳥取県, 2017)。1978年と2003年の生息分布をみると、1978年には東部に断続的に生息していたが、2003年になると東部では面的になり、中部、西部にも拡大したことがわかる(図1)。


図1. 鳥取県におけるシカの生息分布. 左:1978年, 右:2003年
(鳥取県, 2017より)


 このため農林業への被害が大きくなり、その抑制のために捕獲が進められ、2010年からは3000頭台、2013年以降は4000頭を超えるレベルになっている(図2)。


図2. 鳥取県におけるシカ捕獲数の推移. (鳥取県, 2017より)


 著者の一人永松は当地方で植生調査をしながら、年々シカの影響が強くなることを観察してきた。調査地である若桜町を含む鳥取県東南部で群落調査とシカのふ糞密度を調査を行い、若桜町はその中でもシカ密度が高く、植物への影響も強いことが示された(川島・永松, 2016)。場所によってはもともとはササがあったが、シカによって食べ尽くされ、低木層も貧弱化し、不嗜好植物(シカが嫌って食べない植物)が増えている場所もあった。


鳥取県東南部でのササと低木の影響の強さ(左)と糞密度(右)の分布図。色が濃いほど影響、密度の値が大きい(川嶋・永松, 2016)

 この地方は伝統的に林業が盛んであり、「若桜の杉の美林」として知られる。スギは常緑であり葉の垂直的厚さがあるために、林床は暗く、間伐が適切に行われないと林床植生は貧弱になりがちである。そのため、面積当たりのシカの頭数が同じであっても、下生えの豊富な落葉広葉樹林に比較すると環境収容力は小さくなる。このため、単純に生息密度を調べるだけではシカの置かれた状況を知ることはできない。筆者らはこれを把握する方法の一つとして、現状のシカの食性を明らかにしておくことが重要だと考えた。
 シカの食性は糞分析によっておこなわれる。糞分析法を採用すれば、非侵襲的に(シカを殺すことなく)、繰り返し調査ができるという利点がある。シカは植物が枯れる冬に食物不足に陥り、常緑のササがあれば集中的に利用するため、シカが増えるとササが減少して、シカの糞中の占有率も減る。ササは表皮細胞が特徴的であり、糞分析で確実に識別できるので、よい指標となる。またシカの主要な食物である植物の葉は一般には冬に減るため、シカが食性に強い影響を及ぼしていれば、シカは落ち葉やイネ科の稈、木本類の枝や樹皮まで利用するようになるが、もし鹿の影響が強くなくて、ササや常緑低木が多い環境であれば、シカの冬の糞にはこれらの葉が多く検出される。
 本調査はこのような背景から鳥取県東部の若桜町のシカの現時点での食性を明らかにすることを目的とした。

方法
1)調査地の選定
 春のデータとして2018年5月6日、6月9日、7月28日に若狭町の南にある鬼の城でシカ糞の採取をおこなった
(図3)。


図3. シカ糞採取地の位置


 糞採取した場所はアカマツとコナラの林で、下生えは強いシカの影響を受けて貧弱になっていた(図4, この植生は今後記述予定)。


図4. シカ糞採取地の景観。下生えは非常に貧弱である。

2)糞分析
 シカの糞の採取に際しては1回分の排泄と判断される糞塊から10粒を採取して1サンプルとし、10サンプルを集めた。これを光学顕微鏡でポイント枠法で分析した。ポイント数は200以上とした。
 糞中の成分は暫定的に図5の14群とした。これは今後の分析が進んだ時点で少量のものはまとめる予定である。

結果と考察
5月から7月までの糞組成の平均値を図5に示した。
<5月の結果>
5月に最も多かったのは支持組織で木質繊維や樹皮など、葉でないものを含み、56.5%に達した。次に多かったのは枯葉で黒褐色の葉脈が見られた。これが17.8%を占めた。そのほかの成分は少なかった。特に双子葉植物は非常に少なく、シカの影響で減少したためと推察される。イネ科の葉は7.1%で、稈(イネ科の茎)が6.8%であった。これらは新鮮な植物由来であり、顕微鏡下では透過性の良い状態で観察された。
これらの結果は、当地のシカの春の食糧事情は劣悪であることを示唆している。多くの場所ではササや常緑樹の葉が10%以上検出されるが、ここではそのいずれもが微量しか検出されず、栄養価の低い支持組織が過半量、枯葉が2割近くを占めた。

<6月の結果>
 6月9日のサンプルもさほどの変化は見られなかった。はっきりとした違いは支持組織が5月の55.5%から36.3%に減少して、稈(イネ科の茎)が6.8%から21.5%に大きく増加し、枯葉は17.8%から10.0%に減少したことである。このことは緑がほとんどなかった5月から新しいイネ科が育ち始めてシカがそれを食べ、みずみずしいイネ科の葉は消化されたために糞には7.9%しか出現しなかったが、同時に食べた稈が糞中に多く出現したことを示唆する。そのため枝先や枯葉はあまり食べなくなったものと考えられる。それでも6月時点で枯葉を除く葉が合計でも15.3%しかなかったのはこの調査地ではシカが食べる植物が非常に限られていることを示唆する。

<7月の結果>
 7月28日のサンプルはかなり変化を見せた。まずそれまで少量ながら出現していたササが全く出現しなかった。大きく増加したのは稈(イネ科の茎)で,45.4%を占めた。イネ科の葉も10.3%に増加したが、増加の程度は稈が著しかった。これはまだイネ科の葉が若く、柔らかいために消化率が高いからであろう。また双子葉植物の葉も6月の1.7%から15.6%と大きく増加した。これに対して繊維は激減した。繊維は5月に55.5%、6月に38.3%と大きな値を示したが、7月にはわずか4.2%になった。このように、糞中の葉の合計値は30.4%になり、シカの食物状況は大幅に改善されたが、注目すべきは、それでも枯葉が12.9%を占めていたことである。通常であれば夏に枯葉は食べないと思われるので、この地域のシカは夏でも枯葉を食べざるを得ない劣悪な食物環境で生活していると考えられる。

<9月の結果>
 9月25日の糞組成は緑葉が大幅に減少し、双子葉、単子葉合わせても15%にしかならなかった。枯葉が25.1%の高率を占め、繊維と稈を合わせると56.3%と過半量になった。


図5. 2018年5-9月の若狭町シカの糞組成(%)。食物カテゴリーは今後の結果に応じて変更する可能性がある。

まとめ
 分析の結果、糞の主要成分が支持組織と枯葉で占められていたことがわかり、シカが植生に強い影響を与えて、食糧事情が悪い状態にあることがわかった。特に6月になっても葉の占有率が20%未満であったこと、7月、9月という植物が一年で最も多い時期においても枯葉をかなりの程度食べていたことは注目される。
 シカが高密度で知られる宮城県金華山島でも夏はシバなどイネ科植物をよく食べており、このように枯葉を多く食べることはない(Takatsuki, 1980)。そうしたことを考えれば、この地域のシカはこれまで知られる日本のシカ集団でも最も貧弱な食糧事情にある例だと思われる。

文献
Jayasekara, P. and S. Takatsuki. 2000. Seasonal food habits of a sika deer population in the warm temperate forest of the westernmost part of Honshu, Japan. Ecological Research, 15: 153-157.
川嶋淳史・永松 大. 2016. 鳥取県東部におけるシカの採食による植生の被害状況. 山陰自然史研究, 12: 9-17.
鳥取県. 2017. 鳥取県特定鳥獣(ニホンジカ)管理計画.
Takatsuki, S. 1980. Food habits of Sika deer on Kinkazan Island. Science Report of Tohoku University, Series IV (Biology), 38(1): 7-31.
コメント

丹沢のシカの糞分析

2018-09-22 16:11:56 | 報告
2018. 9.22更新

丹沢のシカの糞分析の試み


高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)・梶谷敏夫(丹沢ブナ党)


目的
 丹沢大山は1970年代からシカ問題に取り組んできた。これは我が国でももっとも初期のことである。戦後は狩猟が解禁になってシカは激減したが、その後徐々に回復し1960年代後半には有害獣駆除がおこなわれ、1980年代を通じて植物への影響が顕在化した。その後、個体数管理の努力が続けられ、徐々に植生回復が認められるようになったが、場所によってはシカの過密状態を脱しておらず、低山帯への拡大傾向もあり、問題は続いている。
 シカの頭数調査や植生のモニタリングなどは神奈川県の事業としておこなわれているが、シカの食性については不明な部分が多い。ニホンジカの食性はおもに糞分析によっておこなわれ、北海道から九州にいたるおよその傾向が明らかにされている。この方法を採用すれば、非侵襲的に(シカを殺すことなく)、繰り返し調査ができるという利点がある。現在の丹沢では20年ほど前にシカの強い影響を受けて林床植物が退行し、とくにスズタケが大きく減少した。現在は徐々に回復しているといわれる。また山頂部にはミヤマクマザサが生育する。このような高密度な場所のシカは植物が枯れる冬に食物不足に陥り、常緑のササがあれば集中的に利用する。ササは表皮細胞が特徴的であるため、糞分析で確実に識別できる。
 一方、丹沢は垂直的にいえば高地には落葉広葉樹林がひろがり、中腹ではそのほかにおもにスギの人工林がひろがり、低地は落葉広葉樹の二次林の占める割合が大きい。したがってシカの食性にも垂直的な変異があることが想定される。一般にスギ人工林は暗いために林床植物が貧弱であることが多く、シカの食物供給という意味では不適であるといえる。このような状況下にあるシカがおもに何を食べているかを知ることは現状の丹沢のシカの置かれた状況を食性を通じて知ることにつながる。
 本調査はこのような背景から丹沢のシカの食性を丹沢の高地、中腹、低地で調べる。食物供給という視点からは季節変化を知ることが重要であるから、それぞれの高さでの季節変化を明らかにする。
 本報では2018年2-4月の冬の結果に引き続き、6月までに採取した糞の分析結果を報告する。

方法
 標高による違いを比較するために、2本のラインをとった。1本は高地が檜洞丸(中H)、中標高が西丹沢教室周辺(中M)、低地が丹沢湖北東岸(中L)で、これを「中ライン」とした。もう1本は高地が塔の岳(東H)、中標高が岳の台(東M)、低地が名古木(東L)のラインで、これを「東ライン」とした。このほか東西比較として切通峠(西H)でも糞を採取し、これを「西」とした(図1、表1)。


図1 シカ糞採集地の位置関係


表1 シカの糞採集地点


 図2には糞採集地の夏の景観写真を示した。


図2 糞採取地の夏の景観写真(晩冬、春の写真は文末)


 シカ生息地で代表的な群落を選び、新鮮なシカの糞を10の糞塊からそれぞれ10粒拾った。採取は晩冬のサンプルは2018年2月(中標高と低地)から4月(高地)、春のサンプルは5,6月に行った。ただし東ライン低地(東L)では新しいシカフンが発見できなかった。また「中M」では新しいフンは6群からしか発見できなかった。糞サンプルは0.5mm間隔のフルイ上で水洗し、残った植物片を顕微鏡でポイント枠法で分析した。カウント数は200以上とした。

結果
2018年晩冬

 糞分析の晩冬の結果を図3に示した。


図3 2018年晩冬の7カ所のシカの糞組成(%)

 全体に植物の葉が20-60%程度であり、繊維質など植物の支持組織が残りの30-80%を占めており、あまり食糧事情はよくないことがうかがえる。
 切通峠(西H)ではササがわずか4.1%であり、双子葉植物の葉が23.7%であった。そして繊維などが多くを占め、食料事情が悪いと考えられた。
 「中ライン」の檜洞丸(中H)ではササはほとんど検出されず、イネ科が5%ほどで、支持組織が80%を上回り、全ての地点でもっとも食料事情が悪いことがわかった。
 箒沢(中M)ではササが20.6%と多くなり、その他のイネ科も10.0%あった。双子葉植物は西Hと同程度であり、それだけ繊維分が少なかった。
 丹沢湖北東部(中L)ではササが29.8%と双子葉植物を上回り、両者を合わせれば過半量になり、果実も含まれており、食料事情が良いようであった。ただし、糞サンプルによってササの占有率に大きなばらつきがあった。
 「東ライン」の塔の岳(東H)では意外にササが多く(37.6%)、繊維質などの支持組織は38.0%であった。シカ糞採取地では植物はほとんどないようだが(図2)、周辺にはミヤマクマザサがあった。
 岳の台(東M)ではササが56.2%と5カ所中もっとも多く、その他の葉を合わせても7カ所中でもっとも多かった。ただし双子葉植物の葉は少なかった。
 名古木(東L)はササが14.2%と少なく、「中ライン」のように低地ほどササが多いというパターンにはならなかった。ただし双子葉植物の葉は20.3%を占めた。ササが少ない点を除けば「中L」の丹沢湖北東部の組成と似ていた。

2018年春
 糞分析の春の結果を図4に示した。


図4 2018年春の6カ所のシカの糞組成(%)東L(名古木)では糞が発見できず


 切通峠(西H)ではササが30%程度、残りは繊維とその他の支持組織(主に稈)が多かった。
 中ライン」の檜洞丸(中H)では新しいイネ科が26.2%で多く、ほかに繊維とその他の支持組織(主に稈)が多かったが、この稈は新しいイネ科のものと思われ、透明であった。。
 箒沢(中M)ではササが12.3%で、その他の支持組織(主に稈)が55.5%と過半となったが、その大半は稈であった。
 丹沢湖北東部(中L)でもササが10.8%のほかはその他の支持組織が61.3%と非常に多く、その主体は稈であり、全体に中Mとよく似ていた。
 「東ライン」の塔の岳(東H)ではイネ科が多く(37.6%)、ほかには繊維とその他の支持組織(主に稈)が多かった。
 岳の台(東M)ではササが56.2%と5カ所中もっとも多かった。
 名古木(東L)には新しい糞が発見できなかった。

2018年夏
 夏は糞が採取できない場所が多かった。採取できた場所の分析結果は以下の通りであった(図5)。


図5 2018年夏の4カ所のシカの糞組成(%)中L(丹沢湖岸)、東M(岳の台)、東L(名古木)では糞が発見できず


 西H(切り通し峠)ではイネ科が30%程度で、単子葉、双子葉、繊維、その他の支持組織(ほとんどは稈)が10〜15%程度を占め、多様な組成であった。
中M(箒沢)ではやや古い糞しか採取できなかった。組成は大半が繊維であり、イネ科は10%ほどであった。中H(檜洞丸)では新鮮な糞が確保できた。イネ科が約20%で、その稈と考えられる「その他の支持組織」が40%近くを占めた。
 東では東H(塔の岳)だけで糞が得られた。イネ科の葉が過半量を占め、その稈と合わせると90%ほどにもなった。

季節変化
 以上の結果を晩冬期、春と比較する。

西Hでは冬は繊維と常緑の葉が多く、春になっても繊維が多いことは変わらなかったが、イネ科が増え、その稈も増えた。夏になるとイネ科は春と同じほどあり、加えて単子葉、双子葉が増えて、繊維などは少なくなった。


図5a. 西Hでの糞組成の季節変化


中L、中Hでは冬は繊維が主体、春はイネ科が増え、その稈も増えて食物事情が好転した。夏も同様であった。


図5b. ライン中での糞組成の季節変化


 東Hでは冬はササが多く、他の場所よりは良い食物を食べていたが、春になるとササは大きく減り、イネ科がやや増え、繊維が大きく増えたので、冬よりも良いとは言い難い状況であったが、夏になるとイネ科とその稈が大半を占め、非常に良い食物を食べていた。


図5c. ライン東での糞組成の季節変化


 このように夏はイネ科が増えて食物状況は好転していたが、その程度は場所により大きな違いがあった。

考察
 晩冬季の分析で「双子葉」としたのは常緑広葉樹の葉と思われ、これは関東北部や東北地方などの冷温帯ではあまりないことであり、その点で言えば丹沢のシカは冬に常緑広葉樹樹が20%程度は摂取できる状態にあることがわかった。切り通峠(西H)ではササが少なかった。「中ライン」では標高に従ってササが少なくなる傾向があり、シカにとって高地ほど冬の食料事情がきびしいものであることをうかがわせる結果であった。しかし、「東ライン」ではササ占有率に逆転が見られ、中標高の岳の台でササが非常に多く、東Hでも少ないとは言えなかった。従って、単純にササの量が低地ほど多いとは言い切れず、シカはササがあればササを食べるが、ない場合はあれば広葉樹を食べるという相補的な関係があるようである。ただし、檜洞丸のような高地ではそのどちらも乏しく、繊維や稈(イネ科の茎)などの支持組織が大半を占めていた。
 春の結果から、全体にイネ科の葉が増加し、これに関連すると思われる稈の増加が目立った。同時に晩冬季に重要であったササと場所によりかなり出現していた双子葉(主に常緑広葉樹の葉)が減少した。このことから、冬のあいだ利用していたササや常緑樹の葉が減少したか、残っていても硬くなり、栄養価も消化率も低くなっていたところに、他の植物に先駆けて出現したイネ科の葉や稈を食べるようになり、ササや常緑樹の葉が利用されなくなったものと思われる。こうした中にあった東Mの岳ノ台ではササが多いままであった。この辺りは林床にササが多く(図6)、シカにとっては春になってもササが利用しやすかったものと考えられる。


図6. 岳ノ台(東M)の景観(2018年6月9日)。林床にササが多い。


 東L(名古木)では4月にはシカの糞があったが、5月には新しい糞が見当たらなかった。また東M(岳ノ台)でも新しい糞は少なかった。このことは東部では冬に雪を避けて低地に降りるシカが春になると高い方へ移動することを示唆する。
 夏になるとイネ科が増え、その稈と合わせると主要食物になっていた。ただし、場所により、量的な違いがあった。夏には双子葉植物の葉が多くなるものと想定したが、実際には少なかった。これには消化率が大きいことが影響していると考えられるが、それを考慮しても少なかった。また慎重な探索にも関わらず、中標高、低標高では新しいシカの糞が発見できなかった。これにはシカ対策による追い払い効果や、糞虫による分解などが影響していると考えられるが、糞が得られた高標高においても糞の中に糞虫がいたから、糞虫による分解が大きい要因とは考えにくい。

 何れにしても、これまで定量的な分析が行われてこなかった丹沢のシカの食性が解明できたことは、丹沢のシカの置かれた状況を判断する上でも、また今後のシカの管理の仕方を考える上でも有意義であると考えられる。今後も継続して分析したい。

謝辞
 シカの糞採取をしていただきました丹沢ブナ党の皆様にお礼申し上げます。


糞採取地の冬の景観写真


糞採取地の春の景観写真
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裏高尾小下(こげ)沢国有林のタヌキの食性 経過報告

2018-09-21 16:34:42 | 報告
裏高尾小下(こげ)沢国有林のタヌキの食性 経過報告 2018.9.21 更新

高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)
山崎 勇(高尾の森づくりの会)
白井 聡一(高尾の森づくりの会)


 タヌキの食性は比較的よく調べられており、とくに関東地方では分析例が多い。東京近郊の里山的環境では雑木林の動植物、特に多肉果をよく利用することがわかっている。また多かれ少なかれ人工物(ポリ袋など)も食べることが報告されている。東京西部では日の出町の里山、八王子の多摩森林科学園での分析例があるが、いずれも市街地が近く、人工物が数パーセント検出されている。その点、市街地を離れた森林のタヌキの食性がどのようなものであるかはわかっていない。
 その一例として高尾山の北西部にある裏高尾小下(こげ)沢国有林を含む一帯に生息するタヌキの食性を調べることにした。ここは「高尾の森づくりの会」がボランティア活動をしている場所で、多様で豊かな森の復元を目指し、15年ほど前から広葉樹を植林し、下刈りなどの森づくりの活動を行なっている。また次世代に森林のことを伝える重要性を考え、子供に森づくりの体験をさせる活動なども行っている。森林の管理の一方で、動物の調査も行っており、森林の変化に伴う鳥類の変化や、モニターカメラによる哺乳類の記録なども行っている。こちら 

調査地
 調査地は高尾山の北西3kmほどにある景信山の北西に広がる小木(こげ)沢国有林で、スギ・ヒノキの人工林が広がるが、「高尾の森づくりの会」が広葉樹植林の活動をしており、小規模な伐採地や落葉広葉樹の若い林がパッチ上にある。ただし、付近に人家や市街地はない(図1)。


図1a 調査地の位置(赤線で囲んだ範囲)


図1b 調査地一帯の空中写真(Google earthより)


 タメフンが発見された場所のひとつはモミの大木があり、ヒサカキなどの常緑低木が生育していた(図2)。


図2 タメフンのあった場所の景観の一例(山崎撮影)


方法
 2018年2月より毎月現地を訪問し、発見したタヌキのタメフン場で、同じ排泄と判断されるタヌキの糞を数個採取した。糞サンプルは0.5mm間隔のフルイで水洗し、残った内容物をポイント枠法で分析した。ポイント数は200以上とした。

結果
 2018年2月のタヌキの糞の組成は果実が31.8%、種子が27.6%でこのふたつで60%近くを占めた。また昆虫が21.7%と比較的多かった。人工物はなかった。このうち種子はエノキ、サルナシ、ジャノヒゲ、マメガキが検出され、エノキは20.3%に達した。
 3月の組成は果実が35.4%、種子が7.4%でこのふたつで40%近くを占めた。また昆虫が30.7%と2月よりも多かった。また人工物としてゴム手袋の破片が検出された。種子の内訳は2月とは大きく違い、エノキは検出されなくなり、サルナシが増え、ヤマグワが2.1%を占めた。
 4月になると、2,3月とは大きく違う内容となった。果実(8.1%)と種子(0.5%)は少なくなり、鳥類の羽毛(18.8%)と哺乳類(23.4%)が増加した一方、昆虫(10.5%)が減少し、枯葉(15.7%)が増えた。
 5月になるとさらに大きな変化が生じた。すなわち、キイチゴ属の種子と果皮が大半をしめる試料が多くなり、合計が66.8%に達した。昆虫も23.2%に増加した。0.5%であるが人工物(ゴム製品)が出現した。
 6月は2例しかなかったが、基本的には5月の組成と似ており、キイチゴなど果実が79.9%と多かった。
 7月は糞虫と雨により、糞が分解、流失し、確保できなかった。
 8月も同様であったが、2例だけ確保できた。内容はミズキの種子と昆虫が多かった。
 9月は4例が確保できた。昆虫が30%を超え、これまでで最も多かった。果実・種子も多く、特にミズキが多かった。


図3 小下(こげ)沢のタヌキの糞組成(2018年)


 果実が重要であることがわかったので、これだけを取り上げる。ただし、果肉は種名がわからないので種子だけを取り上げた。2月にはエノキとジャノヒゲの種子が多かった。また3月にはサルナシとマメガキの種子が多かった。これらは前年に地上に落ちたものを食べたと思われる。4月になると種子はごく少なくなり、もっとも食糧事情が悪くなった。しかし5月になるとキイチゴ属(Rubus)が急増し、6月も続いた。8月にはミズキの種子が非常に多く検出された。9月もミズキが多かったが、ほかにヤマボウシとサルナシが検出された。


図4 小下(こげ)沢のタヌキの糞から検出された種子の占有率(2018年)


考察
 糞からの検出物では2,3月にエノキ、ムクノキ、サルナシ、ジャノヒゲなどこれまで他の場所のタヌキの糞からも検出されるものが確認された。その中でマメガキの種子が検出された。調査地にはマメガキが植林されている。4月には微量ではあるがカニの脚が検出された(付図)。
 また人工物は,34サンプル中で2例だけで、ゴム手袋の破片と青色の指サックのようなゴム製品が検出された(付図)。都市郊外などで検出されるポリ袋や輪ゴムなどとは違い、残飯を食べたのではないと考えられる。森林施行の関係者あるいは登山者の落し物などであるかもしれない。
 月変化を見ると、2、3月は果実が多かったが、これらはすでに植物体には残っていないから、前年の果実が地上に落ちたものをあさって食べたと思われる。4月にはごく少なくなり、鳥類、哺乳類と枯葉が多くなった。このことは前年の秋の果実をあさって食べていたが、それもなくなり、動物の死体を探すなど、食糧事情の悪い時期を迎えたと推察された。そして5月になるとその状況を脱して、新しいキイチゴの果実を大量に食べたことがわかった。種子からはキイチゴの種は識別できていないが、現地ではモモジイチゴ、ニガイチゴ、クサイチゴが多かった。6月もキイチゴが多かったが、ヤマザクラが含まれていた例もあった(付図5)。ただサンプル数が2つだけなので、5月とまとめることになるだろう。7月、8月は糞虫の活動が活発で、タメフン場に糞の跡はあるが、サンプリングできなかった。8月末に2例、9月に4例だけ確保できたが、ミズキと昆虫が多かった。果実の占有率は8月より9月が少なかったが、試料数が少ないので、最終的には8,9月をまとめることになるだあろう。いずれにしても、夏は情報が乏しいが、果実と昆虫が主体と言えそうである。

まとめ
 裏高尾に生息するタヌキの食性では、これまでの東京郊外のタヌキで見られたような人工物が、これまでのところほとんど検出されないことがわかった。調査地は豊かな森林の復元を目指しており、そのことがタヌキの食性を通じても伺い知ることができるかもしれない。今後、糞回収を継続して、季節変化を追跡したい。

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2018年2月のタヌキの糞から検出された種子(格子間隔は5mm)


2018年3月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


2018年4月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


2018年5月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


2018年6月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


2018年6月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


2018年8月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


2018年9月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)

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森とシカと日本人

2018-09-01 06:44:25 | 私の著作

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柵をした後の乙女高原の訪花昆虫 - 2018年8月 -

2018-08-20 19:39:38 | 報告
柵をした後の乙女高原の訪花昆虫 - 2018年8月 -

高槻成紀・植原 彰


乙女高原ではシカの影響により虫媒花が減少し、ススキが優占していた。2015年に草原全体を囲う柵(以下「大柵」とする)が作られ、虫媒花が回復した。植物が変化すれば、それを利用する動物も変化するが、虫媒花の場合は訪花昆虫が直接的な影響を受ける。
 高槻は柵設置前に学生を指導して訪花昆虫に関する2つの調査をおこなった。
1)2013年に乙女高原の草原部分と深林部分にルートを決め、そこを歩いて左右2m幅内で観察された虫媒花と訪花昆虫を記録したところ、訪花頻度は1000mで66回であった(加古, 2015)。
2)2010年5月に実験的に設置した小型柵(以下「小柵」)の内外で2014年に訪花回数の定量的な調査をおこなった。このうち8月のデータでは柵内ではおよそ4m2の訪花数は9.9であったのに対して柵外では2.6に過ぎなかった(大竹、2015)。
 これらの結果が大柵を作って3年後の2018年にどの程度回復したかを調べることにした。以下の2点が予測された。
1) 森林では変化はないが、草原では訪花頻度が増加(回復)するであろう。
2) 小柵での訪花頻度は違いが小さいが、柵外では増加(回復)し、両者の違いは接近するであろう。
また、2018年のデータから、花のタイプと訪花昆虫の組み合わせを整理した。

方法
 大柵においては遊歩道に沿ってゆっくり歩き、左右1m程度の範囲で虫媒花にとまっている訪花昆虫を発見したら時刻とともに花の名前と昆虫(目レベル)を記録した。このうち草原部分の730mを解析した。
これらの虫媒花を花の形態から皿状、筒状、「その他」に分けた。皿状はシシウドやオミナエシのように花が皿状で浅く、ハエ・アブのように棍棒上の吻をもつ昆虫でも蜜を得やすいもの、筒状はアザミ類のように細長い筒状花であるため、チョウやハチなど特殊な吻をもつ昆虫が吸蜜しやすいものである。「その他」としたのは、アザミ類などに比較すれば筒が太いツリガネニンジン、あるいはヤマハギのような蝶形花で、皿形花のように蜜が得やすくはないが、筒状花ほど得にくくはないと考えられるものである。

結果
1) 大柵
 2013年8月22日の乙女高原の草原部分で記録された訪花回数は66回(1000mあたり)であったが、今回は328.8回であり、5.0倍も増加していた(表1)。内訳をみると、特に大きく増加したのはシシウドとオミナエシで、2013年には全く記録されなかった。またノハラアザミとシラヤマギクの増加も大きかった。増加したものの中ではタムラソウ、マルバダケブキ、ヤマハギは2倍程度以内で柵設置前にもある程度あったものである。

表1 大柵設置前(2013年)と設置3年後(2018年)に乙女高原の草原部で記録された訪花回数(1000mあたり)



図1 大柵設置前(2013年)と設置3年後(2018年)に乙女高原の草原部で記録された訪花回数(1000mあたり)を花のタイプごとに分けて示した図。左の1群は皿状花、中の1軍は筒状花、右の1軍は「やや筒状」。詳細は本文参照


 これらの虫媒花を花の形態から皿状、筒状、「その他」に分けたのが図2である。これを見るといずれのタイプも2018年に増加しているものの、増加の程度は皿状花がもっとも著しいことがわかる。具体的にはシシウドとオミナエシの増加によるところが大きい。筒状花は2013年にもある程度あり、ノハラアザミ、タムラソウ、ヨツバヒヨドリなどがそれに該当する。ノハラアザミは植物体にトゲがあるためシカが食べにくく、ヨツバヒヨドリはシカが食べないことが知られている。また「その他」のヤマハギも2013年にある程度訪花回数が多かった。ヤマハギは低木であり、刈り取りやシカの採食を受けてもある程度回復力があるため、柵設置前にも生育していた。


図2 大柵の2013年と2018年の訪花回数を虫媒花のタイプ別にまとめたもの


2) 小柵
 小柵では設置4年後の2013年に柵内での訪花回数が9.9回(プロットあたり)、柵外では2.6回であった。当時の「柵外」は現在は「柵内」となった。
これに対して、2018年には柵内で28.2回(2.8倍)、「柵外」で10.2回(3.9倍)であり、いずれも増加したが、増加の程度は柵外の方が大きかった。

 2018年の柵内外の違いを種ごとに見ると、柵外で最多であったのがヤマハギで、これが後述する「その他」の値を引き上げていた(図3)。柵外(大柵の内側)では調査区にヤマハギは見当たらなかったが、その周辺にはヤマハギはあった。オミナエシ、ツリガネニンジンも柵外で多かったが、オミナエシは柵外にも柵内の半分程度はあった。ツリガネニンジンは柵内外の違いが大きかった。これらに比べれば、ヨツバヒヨドリ、ノハラアアミは柵内が多いとはいえ、柵外にもかなりあった。ヨツバヒヨドリはシカが食べず、ノハラアザミは棘があってシカは好まないからもともと柵外に残っていたことは納得できる。また柵外のほうが多いものとしてはイタドリ、ホタルサイコ、ハンゴンソウなどがあった。これは調査区数が少なかったため、偶然の要素が大きいと推察される。
 

図3 2018年の小柵内外の花あたりの訪花回数


次に花のタイプ別に年次比較すると、柵内では、すべてのタイプで2018年に増加したが、皿状と筒状は2013年にもある程度あり、大きく増加したのは「その他」、具体的にはヤマハギであった(図4a)。


図4a 小柵内での花タイプ別訪花回数の年次比較


 柵外では皿状が大きく増加した。筒状は2倍以上増加したとは言え、2013年も2回程度あった。「その他」では増加が小さかった。これは偶然の要素が大きいと思われ、調査区にではヤマハギがなかったが、調査区の外にはヤマハギはあった。


図4b 小柵外での花タイプ別訪花回数の年次比較


3) 花と昆虫の組み合わせ
 2018年のデータをもとに、虫媒花と訪花昆虫の組み合わせをまとめてみた。
① 大柵
大柵では730mで220の訪花が記録された。それを花のタイプ別に分けると、皿状ではハチ・アブが非常に多く、筒状ではハチが非常に多かった。「その他」への訪花数は少なく、ハチが最多であった(図5a)。

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図5a 大柵草原部における花のタイプ別訪花回数(730mあたり)


同じデータを昆虫別にまとめると、チョウ・ガは低頻度で、訪問しているのは筒状の花が多く、ハチは筒状、ハエ・アブは皿状の花を高頻度に訪問していた(図5b)。


図5b 大柵草原部における花のタイプ別訪花回数(730mあたり)


 特殊化した長い吻をもって蜜を吸い上げるチョウ・ガ、ハチが筒状の花を訪問し、短い吻を持って蜜を舐めるハエ・アブが皿状の花を訪問したのは合理的なことである。

② 小柵
同じまとめを小柵で行うと、皿状の花にハエ・アブが多く、筒状にハチが多いという点は大柵と同様であった(図6a)。ただ「その他」(ヤマハギの貢献度が大きい)が非常に多い点が違い、訪花昆虫としてはハチが多かった。これも合理的なことである。


図6a 小柵とその周辺における花のタイプ別訪花回数(10分あたり)


昆虫別にまとめると、大柵同様、ハエ・アブが皿状で多かったが、ハチは大柵では筒状(ノハラアザミが最多)であったが、小柵では「その他」が最多であった(図6b)。これはヤマハギがあってそこにマルハナバチが非常に多かったためである。チョウ・ガは少なく、その中では筒型が多いという大柵と同じパターンであった。


図6b 小柵とその周辺における花のタイプ別訪花回数(10分あたり)


 まとめ
 乙女高原を柵で囲って3年が経過した。訪問者は口々に「花が増えてよかった」という。そのことを訪花昆虫を指標にして確認しようとしたわけだが、2013年当時と比べて5倍ほど増えていた。特に大幅に増えたのはオミナエシやシシウドのような皿状の花で特にハエ・アブが多かった。2010年に作られた小柵の2013年の調査では、柵外より柵内に訪花昆虫が多かったが、それよりもさらに3倍ほど増え、柵外では4倍になった。増加の程度がさほどでもなかったものに、ヨツバヨヒドリ、マルバダケブキ、ノハラアザミ、ヤマハギなどがあった。ヨルバヒヨドリとマルバダケブキはシカが食べないし、ノハラアザミも棘のためシカが食べにくい。またヤマハギは低木であるため、シカの採食を受けても枝を再生するので、シカの影響下でもある程度開花していた。
 虫媒花の類型のうち、ツリガネニンジンとヤマハギは「その他」としたが、内容としては両者は違う。ここでは皿状とキク科の筒状花に該当しないもので、季節によってはこのタイプの多くなるので、虫媒花の類型は授粉の実態を踏まえてさらに工夫をする必要がある。

 このように、シカの採食で減少していた虫媒花が柵で囲うことで回復しつつあるが、この回復が今後も続くか、回復しながらも花の種類やタイプの増加の程度に違いが見られるか、など関心が持たれる。さらに継続調査をしたい。

謝辞:調査では井上敬子様にご協力いただきました。


ヨツバヒヨドリとアザギマダラ


マツムシソウとアブ


マルバダケブキとオオマルハナバチ


ノハラアザミとトラマルハナバチ


ツリガネニンジンとトラマルハナバチ


シシウドとハナカミキリの1種

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モンゴル 2018

2018-08-01 23:41:29 | 研究
去年でモンゴルに来れるのも最後かと思っていた。森永さんの科研費採択もなかったということで、「いよいよ2002年以来続けてきたモンゴル訪問もなしか、まあ定年退職した身でもあるから、やむを得まい」と気持ちを整理していたのだが、森永さんが明治大学に提出していてアイラグ博物館に関する計画が採択されたので、少人数はいけるので私も拾われることになった。これまで数年モゴッドで地形と植生の対応、家畜の食性を調べてきて、だいたいのことろがわかってきたので、同じ手法で乾燥地であるバイヤンウンジュル(BU)に行きたいと伝えていたので、それが実現できることになった。
 内容は次の通り
1)BUの主要な群落を記載する。これはアイラグ(馬乳酒)が美味しいとして有名なブルガンとの比較という意味がある。
2)204年くらいに作られた大型柵(1辺300mの正方形)の内外の群落比較 こちら
3)家畜の糞採取

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7月31日
 成田で森永さんと土屋さんに会う。いやもう一人虎彦くんがいた。東京都市大学でメディア関係の勉強をしているので、今回の博物館準備の記録をするために参加したということだった。虎ちゃんがまだ幼稚園くらいの時にウランバートルのお宅にお邪魔して、外でボール投げか何かをして遊んだ記憶があるが、今や大学生だ。彼と少し話をしたのは少し後で、実は私の名前がアナウンスされたというので、カウンターに行くと、荷物にライターが2本あったので、1本を放棄してくれといことだった。あいにくというか、荷物を一つにするためラップしたほうがいいと言われたので、それを開くのが面倒だった。
 ウランバートルに着くと、緑が濃い印象を受けた。アユーシュさんが迎えにきてくれていたのでフラワーホテルに泊まる。土屋さんと夕食をとる。

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8月1日
 バイヤンウンジュルに出発。昨夜はよく眠れなかったので、道中ウトウトしていた。緑は濃い印象があるが、春は雨が降らなかったということで、そのせいか、ウシの死体がけっこうあった。


ウシの死体

 それと、ノスリなど猛禽が多いなあと思っていたら、ハタネズミがたくさんいて道路をチョロチョロ横切る。それを狙って猛禽が集まっているらしい。
 BUについて、ゾルゴーさんのゲルにお世話になる。奥さんのサラさんが水を運んでいた。ゲルにはストーブがなく、冷蔵庫、冷凍庫、大型テレビがある。
 柵に人がいるので行くと、佐々木さんと横浜国大の学生2人(岩知道さんと南部さん)が作業をしていたので、少し話をする。
 夕方、ゲルの外に出ると、ヒツジの解体をしていた。その手際は見事なものだ。腹側から皮を開き、四肢の先端部を関節で外す。それから腹腔に割を入れる。消化管は剥ぎ取るように外す。内容物も血液も出さない。肛門部を直腸に沿って切り、内側から直腸を引き抜く。胸腔に移り、ここには血があるが、心臓や肺を取り出したあとですくい出す。血液を一滴もこぼさない。


ヒツジ解体の様子

 最後は肋骨、寛骨などを適当な大きさに分けて完了だった。

 その見事さもあるが、解体を少年が見ているのが心に残った。その子はヒツジの解体をどうということなさげに見ていた。これが初めてではないのだろう。子供の時にこういう体験をするかしないかは生命感に大きな違いを生むはずだ。


ヒツジの解体をながめる少年

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8月2日
 調査をするつもりでいたが、ナーダムがあるというので見に行くことにする。曇り空で、人もあまり集まっていない。いつ始まるかわからないということなので、群落記載を始める。非常に印象的な岩山で、そこの岩から始まる扇状地にラインを取る。種数は少ない。
 ひと段落ついたので、会場に行くと、歌をうたっていた。伝統的な長唄は非常にうまく、独特のひっくり返す発声が巧みだった。次に出てきたのは、現代風の歌で巧みではあったが、自信過剰で感じが悪かった。
 珍しいことに弓をしていた。明らかな腕の違いがある。うまい人は姿勢が安定しており、ピタッと決まる。精度も高く、何度も当てていた。


弓を射る

 運転手のジャガさんが「競馬が始まるが見にいきますか」というので、行くことにする。少年たちが馬に乗ってスタート地点に向かって進んで行く。小雨が降ってきた。


スタート地点に近づくうちに雨が降ってきた

 進んでいるといきなり競馬が始まった。少年たちの裏声が響き、ギャロップの馬が進み出す。馬上の少年は小学低学年で、幼いのだが、馬の扱いは思いのままになるようだ。鞭を両側に大きく打ったりして進む。見ると女の子もいる。


奇声をあげながら走り出す


中には女の子もいる

 去年初めて見たとき、感動して涙が出たが、今回も同じだった。子供が生まれ、元気に育って競馬に出れるまでになった。その勇姿を社会みんなで称え、喜ぶということだろう。大人たちも懸命で、自分が少年だった時も大人が支えてくれた、今度は自分の番だということだろう。

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8月3日

 今回、調査を予定しているのは以下の通り。ただしNaは追加。



 手始めに西(W)に行くことにする。1時間ほどで着く。なだらかな丘陵にCaragana(マメ科の低木)が点々とある。


Plot Wの景観

 ここで6つほどプロットをとるが、皆同じなのでそれでやめる。帰りに、往路で見ていたAchnatherum(モンゴル語でデリス)の群落によって少しプロットをとる。


Achnatherum群落

 帰ってから柵内のデータもとる。柵外よりStipaが多く、大きいのが明らかで、そのほかはシロザが多い。種数は非常に少ない。


柵内の景観。Stipaが多い。

 柵内外の比較については こちら
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8月4日
 今日は東(E)に挑戦する。ここが一番遠いところで、時間がかかりそうだった。2時間ほどかかったが、とても良い場所に着く。ここでラインをとった。


Line Eの景観。手前のなだらかな場所から山の麓までラインをとった。

一番下の湿ったところにはElymusが多いが、すぐにStipa型に変わり、Artemisia adamsiiが多いところもある。山の急斜面までとる。Dontostemon(「コナズナ」と呼ぶことにする)の白い花が多い。見下ろすと、草原に白い部分があるが、これがDontostemon。


白く見えるのはDontostemon

 休憩をするとジャガさんが椅子を出してくれた。


休憩をする。

 戻って柵外のデータを10個とる。

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8月5日
 天候も順調で、体調も良く、日程もこなしている。今日はセンターから近いラインCを取りに行く。湖の近くのAchnatherumから始め、22プロットをとる。

 戻って柵内のとり残しをとり、草丈の比較データを取る。野帳を使い切る。



 いつもゲルに来る人懐っこい少年(名前はオウゴンバット)が水入れタンクを載せた台車を運んでいた。もちろん水は入っていないのだが、大人のすることを真似したいようだ。モンゴルでいつも目にする、子供が、働く大人の姿を真似るという微笑ましく、素晴らしい光景だ。


水運びをする少年

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8月6日
 少し距離のある南に行く。岩山があり、その裾野に扇状地があってStipaやArtemisia frigidaがあり、その下にCaraganaがあるというのが一つのパターンのようだ。これで終わることが多いが、さらに低くなって湖があるような場合はAchnatherumが出るというのがこの辺りのパターンのようだ。ただしCaraganaの出方は単純ではない。

行きがけに1000頭もいようというヒツジの群れがいたので、糞を拾おうとしたが、全然ない。かなりしつこく探したのだがない。腑に落ちないのでジャガさんにいうと、草を食べ始めたばかりで、まだ糞をする段階にないのではないかという。それもそうかもしれない。


ヒツジの群れ。これだけいるのに糞が見つからなかった。

1時間あまり走ると大きな湖があり、ラインCよりは距離があるが、時間をかければなんとかなるだろうと思っていた。だが、あまりに長いので、写真をとって優占種だけ記載するやり方にする。それでもいくら歩いても変わらないので、うち切ろうかと思っているところに馬に乗った少年が現れてジャガさんが何か話をしている。
「先生、アルガリを作っているゲルがあるみたいですよ」
というので、早速いってみると、老人が集まって酔っ払っていた。いかにも「モンゴル牧民」という人たちで写真を取らせてもらおうと思っていたら、そのままゲルを出て解散してしまった。アイラグとサームをとってもらい、1万Tを払おうとしたが、あいにく2万Tしかないので、それを渡す。照れたような表情で受け取った。


珍しくアイラグを作っているゲルが偶然見つかり、サンプルをもらう

 その少年は競馬に行くというので、そちらに移動することにした。先日の雨の競馬のリベンジだったようだ。今回はスタートを見ることができた。一応、ロープを張っていたが、長さは5メートルほどしかない。馬の群れがきたらとても足りないのだが、そこにいる人たちは興奮した様子で遅れて線にこない馬に大声で何か叫んでいる。その馬がラインについた途端、馬が走り出し、少年の声が響く。今日は天気が良く、砂埃が上がる。感動は変わらない。





 砂埃が上がり、ドラマチックだったが、埃がない草原を走った方がいいのではないかと思ってジャガさんにそう言うと、「いや、草原は、ネズミの穴などがあって、馬が足を痛めるから危ないんです」という。なるほどそういうことがあるのか。

 それから一度戻って、谷に入って調査をする。Alliumがたくさんある、桃源郷のようなところだった。


ラインSの奥の谷

 いつもゲルに来る少年と何となく仲良くなり、一緒に写真を撮った。



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8月7日
 昨日アイラグを一口だが飲んだせいで、お腹がゴロゴロする。
 予定していた調査は全部終わったので、土屋さんに頼まれて取れていなかったW(西側)での植物サンプリングにいく。そこからBUに戻る道すがら、CaraganaがBUに近づくと低くなって、ついには密度も小さくなることを見ていたので、そのデータを4箇所で取る。CaraganaだけでなくStipaもとったが、こちらはそれほどきれいな推移にはならなかった。
 明日でBUを去るので、横国の学生にドライブに行かないかと声をかけた。二人は柵の実験データを取っているが、車がないので、それだけしかしていないようすだった。それで、BUの草原全体を見てもらう方が良いと思い誘ったのだが、とても興味を持っているようで良かった。競馬のあった山の西の谷が良さそうなので、そこを目指す。途中、Stipa群落の説明などする。谷に入るとArtemisia frigidaが多い、きれいな谷だった。







 谷を南下して山を抜け、東に出て、岩山を通過してBUに戻った。
 夕食を待っている時、外を見たら西の空は雨のようで鉛色の雲が覆っていた。その雲がきたようで、強風が吹き、雨が降ってきた。「こういう厳しい自然もモンゴルらしくて良い経験だ」くらいの軽い気持ちでいたら、ゲルに二人の男が入ってきて、何やら様子がおかしい。見るとゲルの床にポタポタと鮮血が垂れた。見ると頭を抑えている。突風で柵内においていた気象測器が倒れて頭を打ったらしい。ジャガさんが車で送っていった。ショッキングなことだった。
 あとで聞くと後頭部に10cmほどの裂傷だったとのことだった。

この写真は嵐が去った後、西の空は雲が去って赤みがさしたところ。



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8月8日
 朝起きると、パネルの作業をしていた残りの人が作業をしていた。ジャガさんの説明で気象測器と思っていたら、温暖化の効果を調べるためのアクリル・パネルが突風で飛んだという音だったようだ。


作業をする人

 順調に予定を消化したのと、シロザが多いのがバイヤンウンジュルに特異なことなのか、今年の特異な天候のせいなのかが気になったので、それなら森林ステップに行ってみて、そこでもシロザが多ければ今年の天候のせいだということになるし、少なければバイヤンウンジュルの場所の特徴であることが確認できると考え、ウランバートルに戻ることにした。
 昨夜ケガをした人を車に乗せてUBに送ることにした。UBについてその人の家族が迎えに来たので、食堂でお昼を食べる。UBには金持ちがいて、まるで違う民族の様な顔をしていると感じた。
 ザハ(市場)に行って馬具のコーナーを覗く。小物を買った。


ザハで見つけた小物

 夕方、森永さんと土屋さんにあってアイラグ・サームのサンプルを渡し、馬糞のサンプルを受け取る。モゴッドに計画している博物館の話をしたが、少し狭い様に感じた。

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8月9日
 ウランバートルの北にドライブに行く。景色が北海道みたいだった。道路にガードがあること、畑があること、谷間に狭い平地があることなどがそう感じさせる。
 適当に山に入ると草地はブルガンで馴染みのものになり、斜面北側にはカラマツ林がある。降りて見るがシロザはない。あるいはあっても、荒地の様なところだけで、モゴッドなどと違いがない。やはりシロザが多いのはバイヤンウンジュルの特別なことなのだと思う。
 林の間の道を進むと花が多くなり、フウロやナンブトラノオなどが見られる。BUを見慣れた目には植物の豊かさが印象的だった。




Vicia, Trifolium


Polygonum, Polygala


Geranium, Campanula


ワスレナグサ、「オバケアザミ」

 昨夜、床が変わったのであまり眠れなかったので、少し頭痛があるので、早めにUBに戻ってもらう。
 11日に帰国予定だったが、10日でも帰れるのでジャガさんに相談したらMiatに電話してくれ、10日朝の便が取れた。

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バイヤンウンジュルの柵 内外の比較

2018-08-01 11:10:49 | 研究
バイヤンウンジュル(以下BU)に2004年頃に篠田班が作った柵があり、その内外の群落比較をする機会を得た。BUはウランバートルの南西で(図1a)、空中写真を見ると、ウランバートルが森林に囲まれているのに対して、その南では深林がなくなることがよくわかる(図1b)。前者を「森林ステップ」帯と呼び、後者は「ステップ帯」という。これより南はゴビの砂漠帯に続く。Google earthで拡大すると、BUの柵がはっきりわかる(図1c)。


図1a バイヤンウンジュル(赤枠)の位置


図1b ウランバートルとバイヤンウンジュル(赤枠内)の空中写真


図1c バイヤンウンジュルのの空中写真 左上の暗色の正方形が実験柵、下方の格子模様が家屋


地上で見ると、柵内外の景観はこのように違う(図2)。


図2 柵内外の比較 上:柵内、下:柵外


 柵の外は家畜に食べられているから、この違いは採食圧の違いによると思われる。これには植物の生育形が意味を持つ。ブルガン飛行場で調べた場合、直立型が減少して匍匐型が増加した。また柵内では美地形に応じて場所ごとに優占種が違っているが、柵外ではどこでもPotentilla acaulisが優占するという意味で、群落の多様性が失われることがわかった(Takatsuki et al. 2017)。
 そこでBUでも同様の比較をすることにしたが、生育形(Giminghamによるもの)は草本を対象に、生育する形で類型したものだが、BUでは低木もあり、草本類をそれほど細かく類型することにあまり意味を見出せなかったので、低木、イネ科、その他程度に分けることにしたが、BUでは1年生雑草が非常に多かったので、この点は配慮して類型した(後述)。

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予想1 植物高の比較
 柵外は家畜の採食影響を受け、柵内は菜食から保護されているから、植物の高さは柵外の方が低いであろう。その場合、植物によって影響の受け方が違うはずである。1年草であれば、発芽して2、3ヶ月しか経っていないから、影響は弱く、多年草は影響が少なくとも2,3年受けているから影響はより大きく、低木は最も影響が大きはずである。ただし、家畜が嫌って食べない植物では違いがない、あるいは小さいであろう

方法
 そのことを確認するために、柵内外で主要種20個体の高さ(イネ科の場合は葉長)を測定した。

結果
 結果を図3に示す。このうち、Aは1年草で、いずれも雑草である。多くは柵内外の高さの違いは小さかったが、Salsolaは明らかに柵外が短かった。これに対して多年草であるイネ科とスゲCarexは柵外が草丈が低かった。ただしCarexは違いが小さかった。低木はCaragana2種は非常に大きな違いがあったが、Artemisia frigidaは違いが小さかった。
 このように、予想通り、植物の寿命が長いほど、家畜の採食に暴露される確率が高くなるから影響が大きいであろうという予測は概ね支持された。ただし1年草でもSalsolaは違いが大きいし、多年草でもCarexは違いが小さく、低木でもArtemisia frigidaは違いが小さかった。Salsolaの違いの理由はよくわからない。Carexはモゴッドの柵でも内外の違いが小さく、菜食影響下でも回復力が大きいことが確認されている。Artemisia frigidaは植物体が強い香りを持っており、家畜が食べるのを好まない。牧民によるとこの匂いが秋には弱くなるので食べるようになるという。Art frigidaは柵外にも多いので、家畜があまり食べないのは確かであろう。ただ、私の観察ではブルガンでみるArt frigidaは高さが30cm程度になるのに比べ、BUのものは草丈が低いという印象があり、柵内でも回復が遅いように感じた。
 この結果は採食影響は植物の寿命が長いほど植物高に影響が強く出るが、それに植物側の回復力、家畜の好みが複合的に影響していることを示唆する。

 
図3a 柵内外の植物の高さの比較。A 1年草雑草、B 多年草、C 低木


1年生雑草。いずれも左が柵外、右が柵内


多年草。いずれも左が柵外、右が柵内


多年草あるいは低木。いずれも左が柵外、右が柵内

図3b 柵内外の植物の高さの比較


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予想2  群落組成の違い
 家畜による採食影響を植物種ごとの高さだけでなく、被度を含む植物量として捉え、群落レベルでどのような影響を受けるかを考えると、群落の構造などの効果があることが想定される。日本では時間が立つほど木本類が優勢になり、草本類が抑制される傾向がある。モンゴルでは木本類は少ないので影響は違うが、ブルガンの飛行場では柵内では草丈が高くなれる直立型の草本が増え、柵外では匍匐型の小型草本が多くなった(Takatsuki et al. 2017)。BUでも基本的には同じことが起き、柵内で草丈の高い双子葉草本やイネ科などが増えるものと予想されるが、BUの方が乾燥しているので、柵内での回復に何らかの違いがあるかもしれない。

方法
 1m^2のプロット内の植物の被度(%)と高さ(cm)の積をバイオマス指数として算出した。柵内20、柵外10のプロットをとった。
 植物は以下の群に分けた。

1年草雑草:主にシロザの仲間
双子葉草本:多年草
イネ科:Stipa, Elymusなど20cm以上になるイネ科
イネ科小型:Cleistogenes, Carexなど最大でも20cmにならない小型のもの(正確にはCarexはカヤツリグサ科だがここではイネ科で代表させた)
単子葉:Alliumなどイネ科でない単子葉植物
低木:Caragana2種

結果
 バイオマス指数を比較すると柵内が3.04倍も多かった。タイプごとに比較すると、図4のようになった。


図4 植物群ごとの柵内外でのバイオマス指数


 1年草は予想通り柵内外で違いがあまりなかった。イネ科は多年草だから柵内が圧倒的に多く、それは図1で明白である。同じイネ科でも小型は採食をまぬがれやすいので、違いは小さ買った(図4)。低木もイネ科並みに違った。
 双子葉草本は逆に柵外の方が多かったが、その主体はArtemisia adamsiiとfrigidaであった。家畜に採食される外で多いのは不思議かもしれないが、理由は1)柵外ではイネ科が少ないので被陰されない、2)Artemisiaは強い匂いがするので家畜が好まないためと思われる。
 かくして、柵内はイネ科、低木、1年草雑草で、柵外は1年草雑草と双子葉草本で特徴づけられるということが確認された。何れにしてもバイヤンウンジュルでは1年草雑草が多いのが特徴的であった。

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予想3 面積 - 種数曲線の比較
 柵内では採食を免れていた植物が生育できるから、群落の多様度が高くなり、一定面積内に出現する植物種数が多くなると予想される。

方法
 群落の多様性を比較するために、面積-種数曲線を描いた。そのために10cm四方の区画から、面積をほぼ2倍に拡大して2m四方まで拡大し、新たに出現した種数を記録した。

結果
 面積-種数曲線を見ると予想とは違い、柵内外で最大出現種数に違いがなかった(図5)。


図5 柵内外の面積-種数曲線


 そして、1m^2まではむしろ柵内の方が少ない傾向さえあった。群落高が低い芝生状の群落では調査面積が狭いうちから種数が増えて小面積のうちに飽和する傾向があるが、ここでも群落高の低い柵外でその傾向があった。柵内では調査面積が広くなるほど種数が増え、4m^2においても飽和していないようだった。
 ブルガン飛行場の場合、柵内では草丈が伸び、柵外にあまりない草丈の高い草本が生育し、しかも柵外にある小型の草本類も残存するため、柵内で種数が多かったのだが、BUにおいてはイネ科や低木が背丈が高くなることはあったが、草丈の低い草本類がないことが多く、種数は少ないままだった。
 ブルガンとの大きな違いは大型の(直立型、分枝肩など)の草本が侵入していないことで、これらがもともとないのか、あるいは元々はあるのだが、柵を作った時点ですでに採食影響によって失われ、十数年経過しても回復できないのかは判断できない。いずれにしても言えることは、森林ステップで起きた「採食影響を排除すると柵外になかった生育型の草本が増加する」ことはなく、草丈は回復したが、種数は10年以上たっても回復していないということである。深林ステップとBUの違いは基本的には降水量の違いだから、乾燥地では採食影響がなくても大型草本は乏しいという背景があるものと思われる。

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最近の調査結果

2018-08-01 08:40:44 | 報告


タヌキの食性
 津田塾大学のタヌキの糞に出てくる食べ物の推移 2018.9.28 更新 new
 タヌキの糞からドングリ 2018.3.8
 タヌキの糞からシカの毛が出た 2018.3.10
 裏高尾のタヌキの食性 2018.9.21 更新 new!

シカの食性
 丹沢のシカの糞分析  2018.9.22更新 new
 福岡 英彦山のシカの食性 2018.5.5
 鳥取県若桜町のシカの糞分析 2018.9.28更新 new

その他
 都市における鳥類による種子散布の一断面 2018.2.20
 アファンの森のフクロウの食べ物 2018.6.21
 柵をした乙女高原の訪花昆虫 - 2018年 - 2018.9.20 new
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私の著作

2018-07-01 21:56:30 | 私の著作
2018.5.17

「人間の偏見 動物の言い分」という本がイースト・プレスから出版されました。



 私は長いあいだ動物の研究をしてきて、動物の立場から見たらこの世はずいぶん理不尽だと思うだろうなと想像することがよくありました。それが本書で言いたいことなのですが、その主張のために2つの工夫をしました。
 一つは 動物を類型したことです。「動物」というときに、ペットも家畜も野生動物も区別がされないために「動物のいのちを大切に」ときくと、多くはイヌ・ネコのイメージをして、食肉用のウシやブタのことは考えないし、野生動物の絶滅のことも考えません。そこで動物を類型しながら説明しました。
 もう一つは現代の都市生活と動物の関係を考えるために、大胆とは思いながら、狩猟採集時代、農業時代、都市生活時代という時代区分をし、それぞれの時代に人が動物にどう接してきたかを考えたということです。
 その作業をすることで、都市生活が下手をするとかなり深刻な問題を生む危険性があることにも言及しました。

〒101-0051 
東京都千代田区神田神保町2-4-7 久月神田ビル
株式会社イースト・プレス
書籍1部
木下 衛
TEL:03-5213-4706
FAX:03-5213-4705

イースト・プレスの関連のサイト こちら
読者からの感想 こちら

2017.12.7



2006年に出版された「野生動物と共存できるか」が8刷になりました。本が売れない時代に増刷をつづけているのはありがたいことです。このなかの文章が中学2年生の国語の教科書2種に採用されています。

「都会の自然の話を聴--玉川上水のタヌキと動植物のつながり」2017, 彩流社
退職後はじめたことのひとつが玉川上水の動植物の調査です。前々から興味があり、ときどき調べていたのですが、2016年から地域の知人といっしょに観察会や調査を始めました。ちょうどその頃に、彩流社の出口さんから話があり、観察会の記録などをもとにした本を作ることになりました。具体的な話題としてはタヌキをめぐる動植物の話がひとつ。タヌキの糞分析や種子散布、それに糞虫の調査の結果や、その過程でのできごとなどを紹介しました。玉川上水の群落の違いとその下生えの変化、変化にともなう訪花昆虫の調査なども紹介しました。その過程で認識を新たにしたのは、ふつうの生き物が一生懸命生きていることへの共感、それを知ることの感動ということです。国立公園の希少な動植物がすばらしいことに異論はありませんが、そうでない生き物すべてば魅力に溢れている、その気になれば、おもしろい話がいくらでも聞けるということです。
 いっしょに活動をしている武蔵美大の関野吉晴先生が過分な紹介文を書いてくださいました。彩流社のサイト



読売新聞の書評


「動物のくらし」玉川大学出版部, 2016.5.20
「玉川百科 こども博物誌」というシリーズの1冊で、その最初のものとして出版されました。旧友の浅野文彦さんのすばらしいイラストで、これまで日本のこの種の本ではないできばえになったと思います。小学校低学年向けということで本作りの面ではむずかしさもありましたが、内容は充実しており、大人が読んでも楽しめるものになりました。関心のある方はぜひ一度ご覧になってください。


出版案内

気に入ったページを少し紹介します。ここをクリック

執筆過程を紹介しました。習慣読書人2016.8/5


たぬき学入門-かちかち山から3.11まで』2016, 誠文堂新光社


 タヌキのポンタといえば愛らしいキャラクターですが、「かちかち山」に出てくるタヌキはおばあさんを騙した上に鍋にしておじいさんに食べさせるというひどいことをする動物と描かれています。この違いは何を意味しているのでしょうか。いずれにしてもタヌキはわれわれになじみの深い動物で、里山だけでなく大都会にでも生きています。私たちはタヌキの食性や種子散布について調べ、タヌキのおもしろさに気づきました。玉川上水という都市緑地での群落利用や東京近郊での交通事故の実態も調べましたし、東日本大震災で津波で全滅したはずの仙台の海岸に2年後にはもどってきたことの意味も考えました。こうした体験を通じて、タヌキと私たちがこれからどういう関係を築いていけばよいのかを考えてみました。この本を読むと分類学、形態学、生態学、動物と植物の関係、保全生態学などが学べるように工夫しました。

以下もくじです。
序章
1章 タヌキの基礎知識
2章 タヌキのイメージを考える
3章 タヌキの生態学
4章 東日本大震災とタヌキ
5章 タヌキと私たち
タヌキのQ & A

以下は本文の最後の部分です。

タヌキに関する情報をまとめてみて、タヌキという動物の存在は、我々日本人にとってなかなか大きいものだということことが改めて確認できた。同時にタヌキが時代、時代で違う動物になってきたこともわかった。もちろん動物学的な意味でのタヌキは不変であり、変わったのは我々のほうだ。憎き害獣とみた時代もあれば、人を化かすあやしい動物をみた時代もあり、平和な現代はかわいい動物とみるようになった。その意味で動物に抱くイメージそのものが、人間社会を投影しているといえる。
 タヌキの持ついくつかの性質があるから、現代の都市でも生息が可能になっている。トキやコウノトリの復活に一喜一憂し、ゴリラやホッキョクグマなどの絶滅を心配する私たちは、一方でタヌキを珍しくもないありふれた動物だとみなし、その将来のことを思うこともない。だが、私はそういう姿勢が、あれだけいたメダカを絶滅危惧種に追いやり、気づいたら雑木林がなくしてきたのだと思う。
 本書でながめてきたように、タヌキは実におもしろく、またすぐれた動物でもある。私は植物にしても動物にしても、貴重だから守るのではなく、ありふれたもの、身近なものの存在意義を考えて大切にするということのほうがよほど大切だと思う。それは災害があって初めて平凡な日常のありがたみがわかることと似ている。今ありふれていると思われているタヌキも決して安泰ということではない。その未来は我々がいかなる社会を作ろうとしているかにかかっている。私がこの本を書きながら到達した思いは、私たちはタヌキの生活を思いやる程度にはゆとりを持ちたいということであった。

感想

シカ問題を考える』2015, ヤマケイ新書, 山と渓谷社


 最近、シカが増えており、野生動物管理あるいは自然の保全シーンでも重大な問題になっています。本書ではシカが増えると何が起きるのか、その何が問題なのか、そもそもシカはなぜ増えたのかといった問題を広い読者層に知ってもらうために書きました。そのために動物学的、植物学的、生態学的に重要な項目をできるだけ具体的に解説しました。シカの増加の背景には温暖化、森林伐採、オオカミの絶滅、ハンターの減少などさまざまな要因が考えられていますが、そのどれもシカの増加とはタイムラグがあり、うまく説明できません。こういう解析を通して、私は農山村の人口減少による土地管理など農業形態の変容がキーポイントになることに気づきました。そしてシカ問題の解決はこのことの解決なしにはありえないことを指摘しました。

感想


となりの野生動物』2015、ベレ出版

この本は少し挑戦的なことをしました。野生動物の解説を書いてほしいという申し出があったのですが、ただそれだけでは物足りないと思ったので、動物に対して我々がどういうイメージをもっているか、それはどこから来るのか、それが実像を見る目を曇らせてはいないかということを書きました。そして最後で動物たちの言い分を語らせることにしました。

朝日新聞 2015年12月28日 夕刊


感想

たくさんのふしぎ 食べられて生きる草の話』2015、福音館

「子供に動植物のすばらしさを伝えたい」という長年の思いの具体的な作品ができたと思っています。画家さんが実際に金華山まで行って取材をしてくれて感激しました。「子供だまし」という言葉は大嫌いです。子供のほうが透明な眼差しをもっているし、おもしろくなければ読んでくれないに違いない、子供だからこそ真剣に書かなければいけないと自分に言い聞かせながら書きました。
感想

『シカの脅威と森の未来―シカ柵による植生保全の有効性と限界』前迫ゆり・高槻成紀(編) 2015、文一出版

専門書です。充実した執筆陣による力作になりました。
感想

『唱歌「ふるさと」の生態学』2014、山と渓谷社

読後感想

ホネホネ博物館(このは特集)2014、文一出版

表紙のサキ(サルの1種)を含め、麻布大学の標本がたくさん採用されました。

「このは」8号、骨特集

 文一総合出版という出版社があり、生物系の本を出しています。同好の人であれば「ハンドブック」シリーズの出版社といえばおわかりかと思います。そこが「このは」という雑誌を出しています。なかなか内容のある雑誌で気に入っています。
 この「このは」が骨の特集号を出すことになり、相談をもちかけられました。麻布大学には動物の骨の標本はたくさんあるので、撮影協力をし、解説文を書きました。カメラマンと編集者が来て、多少の荷物をもっていましたが、二人で運べる程度のものでした。標本室で撮影をはじめましたが、三脚にカメラをつけたのはいいんですが、白い骨だから黒いバックがよいと思いました。壁は灰色で、よくないので、暗幕をもってきていると思ったのですが、出て来たのは幅1mあまり、長さ2mくらいの黒布です。ネコの標本ならまにあいそうですが、ウシやウマもあるのでどうするのかと思っていたら、頭の部分の背後の布をおいてそこを写し、それから肩、腹、尻と動かして行きます。あとでゲラが送ってきたのをみたら、見事に合成されて真っ黒なバックに馬の骨がありました。
 その「このは」ができて送ってきましたが、なかなかの出来でした。骨についてさまざまな記事があり、これまでにない本になったと思います。骨のことを知らない人、1200円です。内容は3000円くらいはあるので、ぜひ進化の産物としての骨の魅力を味わってみてください。


 

「捕食者なき世界」ウィリアム・ソウルゼンバーグ著、野中香方子訳、高槻成紀解説
2010年に単行本として出たものがわりあいによく読まれたらしく、文庫本化されました。こういう本が一般の読者に受け入れられるというのは意外感があります。内容はけっこう難解で、私などからするともっとすっきりと書いたほうがよいのにと思うところがたくさんあります。しかしサイエンスライターの取材力はすごいもので、アルド・レオポルドの位置づけなどはとても興味深いものです。



『動物を守りたい君へ』2013, 岩波ジュニア新書

世に動物好きはたくさんいます。子供はだいたい動物が好きで、中学生くらいになると、「守ってあげたい」と思うようになる子もいます。それは交通事故にあった犬だったりします。そのことと、たとえばホッキョクグマを守ることとはどう違うのか。あるいはタヌキならどうか。そういうことを考えてもらおうと書きました。『野生動物と共存できるか』の姉妹編的なところがありますが、野生動物に限らず、ペットや家畜の命についても書きました。
感想

『北に生きるシカたち』(復刻版)2013、丸善出版

この本は1992年の私の処女作の復刻版です。初版はすぐに売れたのですが、出版のどうぶつ者は増刷してくれませんでした。当時は今のようにシカ問題が深刻だと思われていませんでした。「あの本が欲しい」という声をよく聴きましたが、私の手元にも余分がなくなってしまい、申し訳なく思っていたので、復刻されうれしかったです。この本は調査で明らかにしたことだけでなく、調査の過程で何を考えたかや、野外調査の息遣いが伝わるように書きました。

『野生動物と共存できるか』2006、岩波ジュニア新書

この時点で一番若い世代に書いた本で、たくさんの生態学的な事象を紹介しながら、個々の動物をみるだけでなく、環境や生き物のつながりを守ることのたいせつさを書きました。思いがけないことに、その年の「もっとも入試によく出題された本」に(養老孟司を抜いて!)選ばれました。そして、光栄なことに中学2年の国語の教科書2つに採用されました。
感想
コメント

人間の偏見 動物の言い分 感想

2018-07-01 04:10:56 | 私の著作
いい本はいつ読んでも一定の満足を得られる。 だけど、こういうのを読みたいと思っていたタイミングでいい本に出会うことはなかなかなく、今回は稀有な体験で、満足度も高水準だった。 都市生活者が大半を占める現在において、動物のイメージは簡素化・貧困化の一途をたどり、よくわからないものに対する畏敬は鳴りを潜め、よくわからないからとにかく排除してしまえばいいという蛮行が常態化しつつある。 生きものに対する尊敬と愛情、地道な調査の積み重ねと科学的な論考。 我々は互いに関係し合っていることを再認識させてくれる良書。

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神様として崇められていたニホンオオカミは明治政府が施した教育改革により欧米の価値観が輸入され、次第に悪魔の象徴と見なされたことが絶滅に繋がった⁉我々が動物に対して抱いているステレオタイプなイメージの根源を歴史的・文化的な側面などから読み解きつつ、動物豆知識も豊富に紹介してくれる一冊。命に優劣を付け、人間を害する存在は徹底的な駆除の対象とする。実はこれ、無知や偏見が生んだ行いだとしたら?作物を荒らす害鳥であるスズメとも共存共栄の道を歩いたお百姓さん。無駄な殺生を控えるために必要なのは知識と日本人が歩んだ道。

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宮部みゆき
 本書を読んだ後、アニメ映画『ズートピア』に登場する動物キャラクターのうち、実物を見たことがあるもの、触ったことがあるものが何種類いるか数えてみたら、私の生活はまさに著者が書いているとおり「存在感があるのはペットだけ」の都市生活者のものだと身にしみてしまった。
 その外見や生態が情報として「知られる」動物たちは、ほとんどのヒトにとって実体ではなくイメージの存在だ。神話や伝説、ファンタジー小説のなかのキャラクター付けされた動物たちも、イメージの集合体である。そのイメージ=「想像と解釈」はどこから生まれてきたのだろう? パンダはなぜ人気者なのか。ヘビはなぜ気味が悪いのか。タヌキやキツネが「化かす」のはなぜか。
 様々なイメージは、ヒトと野生動物や家畜との関わり合いの歴史に根ざしている。ではヒトの未来には、また新たなイメージを生んだり、共有することができるほど豊かな動物たちとの関わりがあり得るだろうか。そんな関わりを維持してゆくにはどうしたらいいのだろう。ぜひ著者の考察に触れてみてください。(イースト・プレス、1700円)

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 高槻成紀『人間の偏見 動物の言い分 動物の「イメージ」を科学する』は、動物にまつわる言葉を取り上げ、その背景にある意味を考え、ヒトが動物に対してイメージを持つときのパターンを考え、動物を解説する。
 恐怖心や不快感が嫌われる動物を生む。例えば蛇。
 かわいらしい動物は好まれる。例えばパンダ。
 危険であり、気味が悪く、不潔な動物、あるいはそのようなレッテルを貼られた動物は嫌悪される。このことは室内にいる小動物への非寛容と、その結果としての徹底駆除の姿勢に典型的に見ることができる。動物のヒトとして難しい時代に入りつつあるという。
 DNAは不変であるが、それが自然に発露できなくなり、都市生活の質的変化は、動物の死を隠す。

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私は、ゆずというペット動物と暮らしているわけですが。
テレビで愛らしい動物の様子を放映していても、それがペットか野生動物か、はたまた家畜か。
そのようなことは意識して見ていなかったなぁ、と思いました。
パンダのシャンシャンは、かわいいけれど野生動物。
農家さんが大切に育てている野菜を横取りする、にくたらしい猿や猪、熊とおなじ。
鹿も野生動物だが、奈良では神様の使いとして保護される一方、ジビエブームの昨今食べられることも多い狩猟動物。
日本人の動物を見る目は、その生活史の中で、食料調達の変遷に従って形成され、その基盤となる生活が大きく変化した明治を境に、また変わってきたそうです。
猫飼いとしては、猫のイメージ変遷も知りたかったけど(そんな下心で読み始めたけど)、ぜんっぜん違いました、この本。(^0^;)

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「人間の偏見 動物の言い分」の書評

2018-06-10 08:10:22 | 私の著作
6月10日の読売新聞の書評欄に宮部みゆきさん(作家)が素敵な書評を書いてくださいました。

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最近の論文

2018-06-01 16:06:10 | 最近の論文など
2018.6.30
動物の食物組成を読み取るための占有率−順位曲線の提案 
−集団の平均化による情報の消失を避ける工夫−

高槻成紀,高橋和弘,髙田隼人,遠藤嘉甫,安本 唯,野々村遥,菅谷圭太,宮岡利佐子,箕輪篤志
哺乳類科学、印刷中

摘 要
 動物の食物組成は平均値によって表現されることが多いが,同じ平均値でも内容に違いがあることがある.ニホンジカ(以下シカ),ニホンカモシカ(以下カモシカ),イノシシ,タヌキ,アカギツネ (以下キツネ),ニホンテン(以下テン)の糞組成の食物カテゴリーごとの占有率を高いものから低いものへと曲線で表現する「占有率−順位曲線」で比較したところ,さまざまなパターンが認められた.シカとカモシカでは占有率が小さく,頻度が高い例(「高頻度・低値」)が多く,イノシシでも同様であった.これに対して食肉目では占有率も出現頻度も多様であり,1)供給量が多く,栄養価が低い(あるいは採食効率が悪い)と想定される食物では「高頻度・低値」が多く,2)供給量が限定的で,高栄養と想定される食物では「低頻度・高値」(占有率−順位曲線はL字型)が多い傾向があった.テンでは果実が「高頻度・高値」であった.このパターンには供給量,動物種の食物要求や消化生理などが関係していると考えられた.この表現法の特徴などを整理し,その使用を提唱した.


非常に重要な食物で集団のほとんどが食べており、占有率は大から小まで続く


一部の個体にはよく食べられるが、半分くらいの個体は全く食べていない


ありつける個体がごく一部


 これは「大論文」で、かなり長くなりました。ある動物の食べ物におけるある食物の平均占有率が50%だったとします。その数字を出すのに10のサンプルがあったとして、平均値が50%になるのは色々なパターがあるはずです。全部が50%のこともあれば、半分が100%で残りの半分が0%という場合だって平均値は50%です。これは意味が違うのに「平均」されると同じ50%になってしまいます。私はこのことを問題と考えました。それで、サンプル全てを占有率の大きいものから小さいものへと並べ、そのカーブを「占有率−順位曲線」と名づけました。日本人10人の食事を考えた時、米は大体誰でもある程度食べていますが、肉だと食べる人と食べない人がいるはずです。そうするとこの曲線はコメではなだらかなカーブになり、肉では急カーブになり、ゼロ値のものもるはずです。これを動物について試みました。そうするとシカなどの装飾中では横長のグラフになるのに対して、肉食獣だと様々で、L時型になるものもあれば、低空飛行するものもありました。そのことは食物の供給量と動物の「食べたさ」にもよるし、シカのように反芻するかしないかにもよります。
 このことを麻布大学で指導した学生の皆さんのデータを計算し直してこの論文を書きました。高橋君はシカ、髙田君はカモシカ、遠藤君はこれらに加えてイノシシ、安本さんと宮岡さん、箕輪くん(帝京科学大)はテン、菅谷君はタヌキ、野々村さんはタヌキとキツネを調べてくれました。だから、この論文は私の麻布大学での指導の一つの集大成と言えると思います。その意味でも「大論文」と言ってよいと思います。

2018.2.4 
仙台の海岸に生息するタヌキの食性

高槻成紀・岩田 翠・平吹喜彦・平泉秀樹
保全生態学研究, 23: 155-165.

「3.11」はこんなところにも影響していたという事例です。あの津波は仙台の海岸では高さ9mにもなって何もかもを飲み込み、なぎ倒しました。この海岸にはタヌキも住んでいたのですが、流されたに違いありません。私の友人たちはその海岸の動植物の回復を記録してきました。その一人平泉さんは、東北大学時代の後輩ですが、鳥類の調査をしているときにタヌキのタメフンを見つけました。2013年6月のことですから、津波の2年後ということになります。タヌキは内陸まで津波でさらわれて、おそらく死んだはずですから、「戻ってきた」というより、新たな個体が海岸に住みついたものと思われます。ということは、タヌキが暮らせる環境が戻ってきたということです。そのタメフンが私のところに送られてきて分析をしました。そうしたら、テリハノイバラとドクウツギ、それにヨウシュヤマゴボウの種子がたくさん検出されました。テリハノイバラとドクウツギは砂浜に生える低木で、津波を受けたにもかかわらず、少なくとも地下部が残っていて復活したものと思われます。ヨウシュヤマゴボウは外来種ですが、かき回すように荒れた環境が好適だったようで、その後は少なくなったそうです。このほかコメや大麦、ポリ袋なども出てきたので、農業地帯の人工的な食物も食べていたことがわかりました。これはタヌキという動物の、環境が変わってもその環境に合わせて生きてゆくたくましさを示す好例だと思います。私は糞を分析しながら、そのことを感じ、不思議な感動を覚えました。

要約:これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を宮城県仙台市宮城区岡田南蒲生と岩沼市蒲崎寺島のタヌキを例に初めて明らかにした。このタヌキは2011年3月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。南蒲生では防潮堤建造、盛土などの復興工事がおこなわれ、生息環境が二重に改変されたが、寺島では工事は小規模であった。両集団とも海岸にすむタヌキであるが、魚類、貝類、カニ、海藻などの海の生物には依存的ではなかった。ただしテリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。復興工事によって大きく環境改変を受けた南蒲生において人工物の利用度が高く、自然の動植物の利用が少なかったことは、環境劣化の可能性を示唆する。また夏には昆虫、秋には果実・種子、冬には哺乳類が増加するなどの点は、これまでほかの場所で調べられたタヌキの食性と共通であることもわかった。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。

キーワード:津波、テリハノイバラ、ドクウツギ、糞分析、ヨウシュヤマゴボウ


タヌキの糞から検出された種子。1)ドクウツギ、2)テリハノイバラ、3)サクラ属、4)ノブドウ、5)クワ属、6)ヨウシュヤマゴボウ、7)イヌホオズキ、8)ツタウルシ、9)ヘクソカズラ、10)ギンナン(イチョウの種子)、11)コメ(イネの種子)、12)ウメ。格子間隔は5mm


2018.5.8
タヌキが利用する果実の特徴 - 総説

高槻成紀
哺乳類科学、印刷中

摘 要
 ホンドタヌキ(以下タヌキ)が利用する果実の特徴を理解するために,タヌキの食性に関する15編の論文を通覧したところ,タヌキの糞から103種の種子が検出されていた.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹2種の種子を含む68種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.また,乾果は30種あり,蒴果6種,堅果4種,穎果4種,痩果4種などであった.このほかジャノヒゲなどの外見が多肉果に見える種子が3種あった.果実サイズは小型(直径10mm未満)が57種(55.3%)であり、 色は目立つものが70種(68.0%)で,小型で目立つ鳥類散布果実がタヌキによく食べられていることがわかった.「大型で目立つ」果実は15種あり,カキノキはとくに頻度が高かった.鳥類散布に典型的な「小型で目立つ」な果実と対照的な「大型で目立たない」果実は10種あり,イチョウは検討した15編の論文のうちの出現頻度も10と高かった.生育地ではとくに特徴はなかったが,栽培種が21種も含まれていたことはタヌキに特徴的であった.こうしたことを総合すると,タヌキが利用する果実には鳥類散布の多肉果とともに,イチョウ,カキノキなど大型の「多肉果」も多いことがわかった.テンと比較すると栽培植物が多いことと大きい果実が多いことが特徴的であった.

以前にテンについて同じ趣旨で論文を書きました。その比較をすると、タヌキの方が多様な果実を食べること、大きな種子を含む果実を食べること、栽培植物をよく食べることなどがわかり、タヌキの特徴を反映していました。

2018.5.3 モンゴルの放牧圧の論文
モンゴル北部の森林ステップの草地群落への放牧の影響:放牧と非放牧の比較
高槻成紀・佐藤雅俊・森永由紀

Grassland Science, in press

2002年からモンゴルに通っています。最初はモウコガゼルの調査から始まったのですが、その後家畜と草原の関係を調べるようになって今日に至っています。モンゴル中央の北部はモンゴルとしては比較的降水量があり、山の北斜面には森林があるので「森林ステップ」と呼ばれています。もっと北のロシアに行けばタイガになる、草原と森林の移行帯です。その一つとしてブルガンという場所があり、そこで放牧影響を調べた調査結果が論文になりました。こちら

要旨:モンゴルでは牧畜のあり方が移牧から定着に変化したため、草原が過放牧になり、群落に変化をもたらしている。この調査はモンゴル北部の深林ステップで長い時間家畜を排除した好例を見つけたので、放牧が草原にどのような影響をもたらすかを示そうとした。ブルガン飛行場は1950年代から柵をしてきたので、放牧された場所とされていない場所を比較できる。そこで群落構造、種組成、生育形に着目して柵の内外を比較した。植物量は柵外で40 g/m2であり、柵外(305 g/m2)の7分の1にすぎず、出現種数も半分ほどだった。柵内では草丈は30-40cmあったが、柵外では10cm未満だった。柵内では直立型、分枝型、大型叢生型が多いが、柵外では小型叢生型と匍匐型が優占的だった。柵内では微地形に応じて優占種に違いが見られたが、柵外ではCarex duriusculaというスゲとPotentilla acaulis(キジムシロ属)という匍匐型が優占していた。すなわち放牧影響はもともとある微地形の影響を「マスク」すると言える。この調査は、放牧による群落への影響を生育型を用いることで有効に示せることを示した。


A: 柵内外の比較、B:柵内の様子、C:柵外の様子、D: Potentilla acaulis

Effects of grazing on grassland communities of the forest-steppe of northern Mongolia: a comparison of grazed versus ungrazed places

Seiki Takatsuki, Masatoshi Sato, and Yuki Morinaga

Abstract
Overgrazing of grasslands in the Mongolian steppes resulting from a transition from pastoral to sedentary livestock production has led to significant changes in the plant communities. This study aimed to show how livestock grazing affects steppe vegetation in northern Mongolia by a good example of a long-termed exclusion of grazing. The Bulgan Airport in northern Mongolia has been fenced since the 1950s and thus is suitable to compare grazed and ungrazed plant communities. We studied plots both inside and outside the fence with reference to community structure, species composition, and growth form. Plant biomass for the outside plots averaged (40 g/m2) less than one-seventh of that inside the fence (305 g/m2), and average species number per plot was about half of that inside the fence. Height of plants inside the fence ranged from the ground surface to 30 - 40 cm, whereas most of the plants outside were less than 10 cm tall. Erect, branched, and tall tussock form plants were reduced outside the fence, and short tussock and prostrate form plants became dominant. Microtopography resulted in different dominant plants inside the fence whereas only Carex duriuscula, a sedge, and Potentilla acaulis, a short growing prostrate forb, prevailed outside. That is, grazing as a factor effecting plant communities prevailed and "masked" microtopography outside the fence. It was shown that the use of growth form is effective to evaluate vegetation changes by grazing.


2018.1.15 
東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性
高槻成紀

人と自然 Humans and Nature, 28: 1−10 (2017) こちら

 この論文は2016年の春から始めた玉川上水の自然観察から生まれたものです。津田塾大学によい林があり、タヌキがいそうだと目をつけていました。知人が津田の先生を知っているので連絡をとって入れてもらい、たしかにいることを確認し、タメフンばをみつけたところからスタートしました。大学を定年退職しても研究意欲は失っていないことが形になったという意味でもうれしいものでした。糞の分析だけでなく、森林の調査もして、なぜムクノキやカキノキの種子がよく出てくるかの説明もできました。観察会の成果が生かされました。以下は要旨です。

 東京西部の市街地にある津田塾大学に生息するタヌキの食性を糞分析によりあきらかにした.調査地の林は植林後90年経過したシラカシ林で,林内は暗いため,都市郊外の雑木林のタヌキの食物になる低木や草本は少ない.合計で109の糞試料をポイント枠法で分析した.糞組成は晩冬には果実や葉など多様であったが,春には昆虫と哺乳類が増加,夏には昆虫と葉が多く,秋には果実と種子が優占し,初冬には再び多様になった.果実としては高木のムクノキ,カキノキの果実が重要であり,低木や草本の果実は乏しかった.津田塾大学は周囲を市街地に囲まれているが,タヌキ糞中の人工物は少なかった.


津田塾大学のタヌキの糞の組成の季節変化


2017.12.25 
草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子

「哺乳類科学」, 57: 287-321.

 私は麻布大学にいるあいだに学生を指導していろいろな動物の食性を調べました。個々の卒論のいくつかはすでに論文になっていますし、これから論文にするものもあります。今回、それらを含め、個別の食性ではなく、多様度に注目してデータを整理しなおしました。多様度を、サンプルごとの多様度と、同じ季節の集団の多様度にわけて計算してみました。予測したのは、反芻獣の場合、食べ物が反芻胃で撹拌されているので、糞ごとの多様度と集団の多様度であまり違いがないだろうということです。そして、単胃でさまざまなものを食べる食肉目の場合、これとは対照的に、糞ごとに違いがあり、ひとつの糞の多様度は小さくても、集団としては多様になるだろうということです。実際にどうなっているかを調べたら、びっくりするほど予想があてはまりました。


サンプルごとの多様度(黒棒)と集団の多様度(灰色)の比較。草食獣は違いが小さいが、食肉目では違いが大きく、とくにテンではその傾向が著しい。

多くの学生との連名の論文になったのでうれしく思っています。下のグラフの1本の棒を引くために、山に行って糞を探し、持ち帰って水洗し、顕微鏡を覗いて分析し、データをまとめたと思うと、一枚のグラフにどれだけの時間とエネルギーが注がれたかという感慨があります。

2017.12.25
テンが利用する果実の特徴 – 総説
高槻成紀

「哺乳類科学」57: 337-347.

 テンが利用する果実の特徴を理解するために,テンの食性に関する15編の論文を通覧したところ,テンの糞から97種と11属の種子が検出されていることが確認された.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹3種の種子を含む89種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.そのほかの8種は乾果で,袋果が1種(コブシ),蒴果が7種であった.蒴果7種のうちマユミとツルウメモドキは種子が多肉化する.それ以外の蒴果にはウルシ科の3種とカラスザンショウ,ヤブツバキがあった.ウルシ科3種は脂質に富み,栄養価が高い.ヤブツバキは種子が脂質に富む.果実サイズは小型(直径 10mm未満)が70種(72.2%)であり,色は目立つものが76種(78.4%)で小さく目立つ鳥類散布果実がテンによく食べられていることがわかった.「大きく目立つ」果実は8種あり,このうち出現頻度が高かったのはアケビ属であった.鳥類散布に典型的な「小さく目立つ」果実と対照的な「大きく目立たない」な果実は3種あり,マタタビとケンポナシの2種は出現頻度も高かった.生育型は低木が41種,高木が31種,「つる」が15種,その他の草本が9種だった.これらが植生に占める面積を考えれば,「つる」は偏って多いと考えられた.生育地は林縁が20種,開放環境が36種,森林を含む「その他」が41種であった.こうしたことを総合すると,テンが利用する果実は鳥類散布の多肉果とともに,サルナシ,ケンポナシなど大きく目立たず,匂いで哺乳類を誘引するタイプのものも多いことが特徴的であることがわかった.

2017.10.10
A comparison of food habits between the Japanese marten and the raccoon dog in western Tokyo with reference to fruit use
東京西部のテンとタヌキの食性比較−果実利用に注目して

Seiki Takatsuki, Risako Miyaoka and Keita Sugaya
高槻成紀・菅谷圭太・宮岡利佐子
Zoological Science, 35: 68-74 こちら

 2014/15年に東京西部の多摩森林か学園で同所的なテンとタヌキの食性を糞分析により調べた。テンは一年中、果実に依存的で季節変化は不明瞭だった。タヌキはテンほどは果実に依存的でなく、春には哺乳類、夏と冬には昆虫をよく利用し、種子は一年中糞から出現した。テンはサルナシやキブシなど種子の小さな果実をよく食べたが、タヌキはギンナンやカキノキなど大きな種子をもつ果実も食べた。テンは林縁に生育する植物の果実をよく食べたが、タヌキは林内に生育する植物の果実をよく食べた。

 この論文のミソは同じ場所に住むテンとタヌキを比較したことにあります。テンとタヌキの食べ物は同じか?たぶん違うだろうが、どう違うのだろう?それはなぜ?という問いに答えを得ました。もうひとつのポイントは、これまで動物研究者のこの種の研究では果実の名前のリストがあるだけでしたが、今回、その果実をつける植物がどういう場所に生えているかということに着目して整理すると、非常にはっきりとテンは林縁植物をタヌキは林床植物をよく食べるということがわかりました。また残飯などの人工物を食べるのはタヌキだけだということもわかりました。





2017.10.02
>Comparison of the food habits of the sika deer (Cervus nippon), Japanese serow (Capricornis crispus), and wild boar (Sus scrofa), sympatric herbivorous mammals from Mt. Asama, central Japan
浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性比較
Yoshitomo Endo, Hayato Takada, and Seiki Takatsuki

Mammal Study, 42: 131-140 (2017)
遠藤嘉甫、髙田隼人、高槻成紀

糞分析法により浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性を比較した。3種のうち、イノシシははっきり違い、地下部や支持組織が多かった。シカはササが特徴的でカモシカはシカに近かったが、イネ科が少なく双子葉植物の葉が多かった。おそらく消化生理の違いによると思われるが、糞中の植物片のサイズ分布はシカとカモシカでは微細なものが多かったが、イノシシでは大きめであった。これは日本の同所的草食獣の食性を比較した最初の論文である。

2017.4.25
「Mammal Study」が産声をあげた頃
高槻成紀

「哺乳類科学」57: 135-138

日本哺乳類学会はMammal Studyという英文誌を刊行していますが、これは20年前にスタートしました。この雑誌は今や国際誌となり、質も向上し、たくさんの論文が世界中から寄せられ、きびしい査読を受けるようになりましたが、かつてはそうではありませんでした。最初のときに私が編集委員長をしたのですが、今年20周年を迎えるので、現在の編集委員長が当時の思い出などを書いてほしいということで依頼がありました。思い出しながら当時のようすを書くとともに、古い文献などもひもといて、学会の先人の志なども紹介しました。
 その一例です。
「哺乳類科学」の創刊号をひもとくと,九州大学の平岩馨邦先生が若手研究者に次のようなことばを贈っておられる(平岩 1961)。曰く「”Keep the fire burning”私たちのともした。いと小さい火を若いみなさんで、もりたてて大きく燃やして頂きたいものである」.
 最後につぎのようにまとめました。
 内田先生が「老いも若きも一致協力して邁進しようではありませんか」と呼びかけられたことが、こうした時代の流れとともに学会の実質的な体力を蓄えることにつながったと思う。ネズミの研究が主体であった我が国の哺乳類学は中型、大型の哺乳類も対象とするようになり、生態学や形態学、遺伝学などもカバーするようになってバランスもよくなってきたし、野生動物管理などの面も力をつけてきた(高槻 2008)。こうして学会という木が育つための土壌に栄養が蓄積し、水も光も得て力強く育ってきた。これにはよきリーダー、コミュニケーション手段の進歩、制度の改革なども大いに力になったが、しかし私は「このおもしろい哺乳類学を進める学会をよいものにしたい」という会員の情熱がそれを実現したのだと思う。まさに半世紀以上前に平岩先生が点(とも)された「いと小さい火」が大きな炎に育ったとみてよいだろう。

2016.12.10
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia: a comparison of nomadic and sedentary grazing
[放牧のしかたがモンゴル北部のヒツジとヤギの体重季節変化におよぼす影響:遊牧群と固定群の比較]

Nature and Peoples, 27: 27-31.

 この論文はモンゴルのヒツジとヤギの体重を調べたものです。モンゴルですごしていると遊牧生活のすばらしさを、自分の生活と対比として、しみじみと感じます。そのことを文章で表現するという方法もあるでしょうが、私たちはそれを自然科学的表現をしたいと思いました。どういうことかというと、モンゴルは広いことで知られた国です。人口密度は2人/km2ほどで、日本の340人/km2とは200倍も違います。それは「無駄が多い」ことでもあり、それだけしか住めないということは「土地生産性が低い」ともいえます。農耕民である中国人はそのことを「劣っている」とみなしました。モンゴルを「蒙古」といいますが、蒙はバカということ、古は古いです。ひどいものです。今でも一部のヨーロッパ研究者にはモンゴルに対して土地生産性をあげるための「提言」をする人がいます。でも乾燥地で土地を耕すことは長い目でみれば土地を荒廃させることが明らかになっています。私たちはモンゴル人と交流するなかで、頑固だなと感じることもありますが、この頑固さがこの土地と生活を守ってきたと賞賛したくなることがあります。
 そうしたことの一つが遊牧です。農耕民の生活とこれほど違うことはありません。広い土地を季節ごとに移動する - 農耕民からすれば落ち着かない貧しい無駄の多い生活です。でもそれには根拠があるのではないかと私たちは考えました。そこで通常の遊牧をする群れと、牧民にお願いして群れを一箇所で動かさないように頼み、その体重を1年追跡してもらいました。牧民は家畜を名前をつけて一頭づつ知っています。その体重を毎月測定してもらったのです。
 ヒツジの群れはスタート時は遊牧群と固定群で体重に違いはなかったのですが、冬の終わりになると固定群のほうがどんどんやせていき、違いが出ました。翌年の回復期にはつねに固定群が軽くなりました。

ヒツジの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 ヤギのほうは最初(6月)、遊牧群のほうが少し軽かったのですが、8月には追いつき、その後は違いがなくなり、2年目は逆転しました。
 これらの結果は、表面的に「土地を有効に利用して高密度に家畜を飼うべきだ」という発想がモンゴルのような乾燥地では合理性がないことを示しています。放牧の体制はさらに複雑なシステムですが、体重ひとつとっても伝統的な遊牧に合理性があることを示せたことはよかったと思います。

ヤギの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 調べたのは2006年ですから10年も前のことで、ようやく論文になり、ほっとしました。

2016.10.27
「山梨県東部のテンの食性の季節変化と占有率−順位曲線による表現の試み」
箕輪篤志,下岡ゆき子,高槻成紀

「哺乳類科学」57: 1-8.

2015年に退職しましたが、ちょうどその年に帝京科学大学の下岡さんが産休なので講義をしてほしいといわれ、引き受けました。それだけでなく、卒論指導も頼みたいということで4人の学生さんを指導しました。そのうちの一人、箕輪君は大学の近くでテンの糞を拾って分析しました。その内容を論文にしたのがこの論文です。その要旨の一部は次のようにまとめています。
 春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワ,コウゾ,サクラ類などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキ,クマノミズキ,ムクノキ,エノキ,アケビ属などの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.
 タイトルの副題にある「占有率−順位曲線」というのは下の図のように、食べ物の占有率を高いものから低いものへ並べたもので、平均値が同じでも、なだらに減少するもの、急に減少してL字型になるものなどさまざまです。この表現法によって同じ食べ物でもその意味の解釈が深まることを指摘しました。


2016.9.4
論文ではありませんが、「須田修氏遺品寄贈の記録」を書きました。これは麻布大学の明治時代の卒業生である須田修氏の遺品をお孫さんの金子倫子様が寄贈されたことを機に、寄贈品について私とやりとりをしたことを含め紹介したものです。麻布大学は昭和20年に米軍の空襲により学舎を消失したので、戦前の資料は貴重です。それを博物館ではありがたくお受けしたのですが、それに添えるように2つの興味ふかいものがありました。ひとつは「赤城産馬會社設立願」で、須田氏のご尊父が群馬県の農民の貧困さを憂え、牧場を作ることを群馬県に提出したものです。その文章がすばらしく、文末に当時の群馬県令揖取(かとり)素彦の直筆サインがありました。また「夢馬記」という読み物があり、これは須田氏が誰かから借りて書き写したもののようです。内容を読むと、ある日、馬の専門家がうたた寝をしていたら、夢に馬が現れて「最近、日本馬は品質が悪くてよろしくないから品種改良をせよという声が大きいが、そういうことをいうものは馬のことを知らず、その扱いも知らないでいて、この馬はダメだといってひどい扱いをする。改良すべきは馬ではなく騎手のほうだ」といって立ち去った。目が覚めたら月が出ていた、というたいへん面白いものでした。こうした遺品についてのやりとりをしたので、金子様にも共著者になっていただいて、「麻布大学雑誌」に投稿しました。




牧場設立願いに書かれた揖取(かとり)群馬県令のサイン

2016.7.25
Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki

Zoological Science, 33: 611-615.

この論文の内容にはいくつかポイントがあります。カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを奥津くんが解明し、論文にしました(Okutsu and Takatsuki, 2012)。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。そういうわけで、目的がはっきりしており、結果も明白だったので、書きやすい論文でした。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。


改良型トラップ

2016.7.14
福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析− 
足立高行・桑原佳子・高槻成紀


福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。


テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。

2016.6.2
Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban(マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性)
Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )

Mammal Study, 41(3): 155-161.

これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。


ゾウの糞を拾った詩織さん

アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。


このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。
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タヌキのウンチ

2018-06-01 15:59:04 | それ以外の著作
昔ばなしのイメージ
 私は最近タヌキを調べています。
 タヌキと聞いて知らないという人はいません。それは子どもの頃に「かちかち山」や「ぶんぶく茶釜」の話を聞いているからでしょう。「かちかち山」のタヌキはおばあさんをだましたりする悪い動物である反面、ウサギの仕置きのあまりに厳しさにかわいそうなにも感じられます。「ぶんぶく茶釜」の方では、まぬけだけれど、恩人にお礼をしたいと一生懸命な動物というイメージがあります。
昔ばなしでは「知っている」タヌキですが、実際に目撃したことがある人はそう多くなく、その姿も、イラストなら思い浮かぶけれど、実物は知らないという人が大半のようです。タヌキよりも動物園にいるレッサーパンダのほうがよほどよく見られているかもしれません。まして、タヌキが実際にどういう生活をしているかということになると、みなさん「さあ?」と頼りない返事になります。研究上でもわからないことの多い動物なのです。
 タヌキは漢字では「狸」、つまりケモノ偏に里と書き、里山にいる動物であることを表しています。里山というのは昔ながらの農業地帯のことです。タヌキは世界的に見ればけっこう珍しい動物で、東アジアにしかいませんが、日本ではかつては身近な存在だったのです。道を歩いているのを見ることもあったし、畑の作物を食べられたりしました。だからこそ、「かちかち山」では、おじいさんに捕まえられたり、ウサギにお仕置きされたりと、憎まれる存在にもなったのです。

いまも都会に住むタヌキ
 そういう里山に活気があった時代とは違い、現代の都会では、せいぜい野良ネコやカラス程度しか野生動物を見かけなくなってしまいました。ですから、自分はタヌキとは無縁だと思っている人もいるかもしれません。
 しかし、多くの野生動物が郊外から山に追いやられてしまった中で、いまもタヌキだけが東京都心を含む都市にも生き延びているのです。東京都心の23区でもほとんどで生息が確認されているし、もちろん明治神宮や皇居のような豊かな緑があるところにはタヌキが暮らしています。
 一方、同じように里山で暮らし、同じように昔ばなしにもよく登場するキツネやノウサギは都市からはいなくなってしまいました。それは、キツネは神経質で警戒心が強く、自動車が走るような環境を嫌い、いなくなってしまうからです。一方、ノウサギは草はらに住んで植物の葉や芽などを食べるので、まとまった緑地がないと生きていけませんし、耳がとても良いので騒音にも耐えることができません。
 この点、タヌキは騒音などにも耐え、残飯でも食べるし、あまり広くない緑地でも生きてゆけます。こういうたくましさ、融通のきく性質が都市環境での生息を可能にしているようです。

ウンチの調査
 では、実際彼らはどんなふうに都市で暮らしているのでしょう。私は東京西部の小平市にある、津田塾大学に生息するタヌキを調べています。


津田塾大学で撮影されたタヌキ


 タヌキの食べ物を知るために、一緒に調べている仲間と大学内の林を歩くと、「タメフン」を見つけました。タメフンというのはタヌキのトイレのことです。タヌキは決まった場所に糞をします。複数の個体が共有しているようで、タメフンに来たタヌキはほかのタヌキの糞の匂いを嗅いでから、その上に「上書き」をするように、お尻を近づけて糞をします。
 見つけたタメフンから定期的に糞を回収し、細かいフルイの上で水道水を流して顕微鏡で調べます。するとタヌキが食べた物がわかるというわけです。
 調べてみると、津田塾大学のタヌキにとっては果実が重要な食べ物だということがわかりました。季節ごとに見ると、夏にはムクノキとエノキの実のほか、昆虫も食べます。秋から冬にはカキとイチョウ(ギンナン)を食べ、果実のとぼしい冬の終わりから春にかけては、ネズミの毛や骨、鳥の羽根などを食べているようです。

ウンチのつながり
ところで、タメフンがあるところには、夏になるとムクノキやエノキ、イチョウの芽生えがたくさん生えてきました。タヌキは植物の実を食べることで、種子を運んでいるということです。植物からすれば、タヌキにおいしい果肉を食べさせて、中に入っている種子を運ばせているのです。
 私の興味はタヌキそのものにもありますが、むしろタヌキがほかの生き物とどうつながって生きているかに興味があります。動物がほかの動物や植物を食べるということは、そのことを通じてほかの生き物とつながっているということです。
 タヌキは果実を食べて種子を運ぶということで植物とつながっていますが、タヌキとつながりを持つのは植物だけではありません。小さなバケツで簡単なトラップを作って大学キャンパスに置いてみたところ、翌日、数匹の小さな糞虫(ふんちゅう)が入っていました。調べてみるとコブマルエンマコガネという糞虫でした。


コブマルエンマコガネ


 ファーブル昆虫記に出てくるスカラベ(糞ころがし)よりはずっと小さく、長さ六ミリメートル程度の黒くて地味な糞虫です。飼育して観察してみると、五匹のエンマコガネがピンポン球ほどの馬糞を一日かからずにバラバラにしてしまったので、驚きました。こうして糞虫によってタヌキの糞も食料として利用され、また分解された養分が土に戻されていることがわかりました。


すぐそこにいるタヌキ
 コツコツと調べると、ありふれたタヌキがほかの生き物と確かにつながって生きていること、それぞれの生き物が懸命に生きているということが実感できました。
 子どもは動物が好きなものです。動物園に行けばゾウやライオン、場所によってはパンダもいて子どもたちは大喜び、だから動物園に行くのは特別にうれしいことです。そういう花形動物は絵本にもたびたび登場しますから、子どもの頭の中には、いろいろなイメージや想像がふくらみ、親しみを感じていることでしょう。
 それに比べると、タヌキはとくに大きくもなく、かわいくもなく、パッとしないかもしれません。でも、どこか遠くの国から来て、飼育員に餌をもらい、コンクリートの上で糞をしている動物園の動物とは違い、タヌキは、たとえ目撃しなくても、私たちと「ニアミス」するほど近くで暮らしている動物です。私たちが目にしている木になった実を食べ、私たちの足許からつながった土の上に糞をしているのです。そのことを想像するのは楽しいことです。
「あそこの林にタヌキがいるかもしれないよ」、そう声をかけてあげたら、子どもたちの想像は、きっと大きくふくらむことでしょう。

 
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