高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

もくじ

2023-06-30 08:21:00 | もくじ

このブログでは主に研究について紹介します。


最近の動き 

今進めている生き物調べの報告 
 シカの食性 こちら

 シカ その他 こちら
 タヌキの食性 こちら new!
 その他の動物 こちら

 植物・植生 こちら
 標本 こちら new

 海外調査

  モンゴル2018年の記録こちら
  モンゴル、フスタイ国立公園のタヒとアカシカの食性と群落選択 こちら
  
  野生馬タヒを復帰させたモンゴルのフスタイ国立公園の森林に及ぼす
   タヒとアカシカの影響 こちら
  インドネシア、西ジャワのパンガンダラン自然保護区でのルサジカの食性 
   - 同所的なコロブスとの関係に注目して こちら
 

最近の論文 2020-2022 2023- new
私の著書 こちら
それ以外の著作 new
最終講義
退職記念文集「つながり」
唱歌「故郷」をめぐる議論


研究概要
 研究1.1 シカの食性関係
 研究1.2 シカと植物
 研究1.3 シカの個体群学
 研究1.4 シカの生態・保全
 研究2 調査法など
 研究3.1 その他の動物(有蹄類
  その他の動物(食肉目)
  その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)
  その他の動物(哺乳類以外)
 研究3.2 その他の動物(海外)
 研究4 アファンの森の生物調べ
 研究5 モンゴル(制作中)
 研究6 野生動物と人間の関係
 研究7 教育など
 研究8 その他

業績
 論文リスト 2010年まで
 論文リスト 2011年から
 書籍リスト
 総説リスト
 書評リスト
 意見リスト

エッセー
 どちらを向いているか:小保方事件を思う 2011.4
 皇居のタヌキの糞と陛下 2016.10
 バイリンガル 2018.6.11

2017年の記録
2016年の記録
2015年の記録
2014年の記録
2013年の記録
2012年の記録 6-12月
2012年の記録 1-5月
2011年の記録

その他

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秩父大山沢のシカの食性

2023-05-28 17:21:09 | 研究
秩父大山沢のシカの食性

高槻成紀・崎尾 均

1990年以降、関東地方でもシカが増加し、各地で植生に強い影響を及ぼしている。秩父地方も例外ではなく、その一か所である中津川上流の大山沢もシカの強い採食圧により渓畔林の林床が非常に貧弱になった。この沢では非常に詳細な植物生態学的調査が継続され、多くの知見が得られており(崎尾 1995; 2000; Sakio 2020)、シカによる樹木への影響についても調べられている(比嘉ほか 1995; Higa et al. 2020)。しかし、シカの食性自体は調べられたことがないので、糞分析によってこれを解明することにした。

方法
大山沢は荒川の支流である中津川の上流である(図1)。シオジなどからなる渓畔林であるが、2000年頃からシカが増加し、樹木への影響が顕著になってきた(比嘉ほか 1995)。

図1. 大山沢の位置図

 最近では林床にはハシリドコロ,コバイケイソウ,サンヨウブシなどのシカの不嗜好草本だけのような状態になっている(図2)。


図2. 調査地の林床の景観(2023年4月28日、撮影崎尾)

 シカの糞分析はポイント枠法で行なった。2023年4月28日に採集した10のサンプル(10粒)を分析した。

結果
<2023年4月の分析結果>
 分析の結果を図3に示した。繊維が78.7%もの多くを占めた。そのほかは枯葉が9.1%を占めたほかは5%未満であり、生葉は4.5%にすぎなかった。4月下旬であるにもかかわらず、これだけ生葉が少ないのはこれまでほとんど知られていない。これは、シカが採食する植物の葉がなく、木本類の枝などを食べていることを示唆する。


図3. シカ糞組成(%)。参考のために丹沢と早川の分析例も示した。

図3には参考までにほぼ同じ時期の分析例のうち、低質な繊維や支持組織が多いものとして神奈川県丹沢(高槻・梶谷 2019)と山梨県早川町(高槻・大西 2021)の結果も示したが、大山沢の結果はこれらと比較しても繊維が非常に多いことがわかる。
 これほど劣悪な食糧状況であれば、シカが生息すること自体が不思議なほどである。山梨県甲府市早川の場合、糞の採集地の落葉樹林内にはほとんど植物がなかったが、糞にはある程度イネ科の葉が検出されたことから、シカが林外で採食し、林内で糞を排泄したと推定された。大山沢ではそのようなことを示唆するデータも認められなかった。

<5月の結果>
 5月25日になると植物は増加したが、林床にはシカが食べないハシリドコロくらいしかないので、シカにとって食物となる植物は少ないままであるように思われる(図4)。


図4. 大山沢の2023年5月25日の景観(撮影、崎尾)

採取された糞を分析した結果、4月と同様に繊維が主体(75.3%)であることがわかった(図5)。枯葉が減少したり、イネ科や果実が増えたなどの変化はあったが、いずれも5%未満の微細な変化であった。5月になれば通常であれば植物が増えて、シカの糞にも葉が増えることが多いので、意外感があった。このことは調査地では植物の生育期でもシカの食べる植物が非常に乏しいことを意味する。

図4. 秩父大山沢でのシカの糞組成、2023年4月、5月

 なお、分析の過程を披瀝すると、糞は0.5mm間隔のフルイの上で水洗するが、そのとき、フルイから水が流れ出る。このとき、冬の糞は暗褐色であるが、夏の糞は緑色になる。東北地方などのシカの場合、冬にミヤコザサをよく食べるので、冬の糞でも流れ出る水は緑色となる。ところが秩父の糞は5月のものでも茶色であり、「これはひどい」と思ったが、実際に分析してみてそのことが確認された。
 今後、夏にはどのような糞組成になるか継続して分析したい。

文献
比嘉基紀・川西基博・久保満佐子・崎尾均. 2011. 大山沢渓畔林におけるニホンジカの食害の影響. 日本森林学会, 122: こちら
Higa, M., Kawanishi, M, Kubo M,  Sakio H. 2020. Temporal Changes in Browsing Damage by Sika Deer in a Natural Riparian Forest in Central Japan. In "Long-term Ecosystem Changes in Riparian Forests" (ed. H. Sakio). Springer こちら
崎尾 均. 1995. 渓畔域の撹乱体制と樹木の生活史からみた渓畔林の動態. 日本生態学会誌, 45: 307-310. こちら
崎尾 均. 2000. 水辺林 (渓畔林)の動態,生態的機能および保全・再生指針. 水利科学 44: 31-45. こちら
Sakio H. 2020. Long-term Ecosystem Changes in Riparian Forests. Springer こちら
高槻成紀・梶谷敏夫. 2019. 丹沢山地のシカの食性−長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例. 保全生態学研究, 24: 209-220. こちら
高槻成紀・大西信正. 2021. 山梨県早川町のシカの食性−過疎化した山村での事例−. 保全生態学研究, 26: 149-155. こちら

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最近の論文(2023-)

2023-05-23 07:44:26 | 最近の論文など
Takatsuki, S. and K. Kobayashi. 2023.
Seasonal changes in the diet of urban raccoon dogs in Saitama, eastern Japan.
埼玉の市街地のタヌキの食性の季節変化
Mammal Study, in press
埼玉県の都市部の高校で、タヌキの食性を調査した。調査地は住宅地に囲まれているが、池に隣接している。2022年1月から12月にかけて糞サンプル(n = 126)を採取し、ポイント枠法を用いて分析した。糞の組成は、冬は葉、果実、種子、人工物など多様であった。春はニホンヒキガエルと昆虫の割合が増加し、夏はエノキの果実、昆虫、アメリカザリガニの割合が増加した。秋には、エノキとムクノキの果実が優勢になった。ヒキガエルやザリガニわ食べていたことから、タヌキは日和見的な摂食をすることが示唆された。種子は10種、果実は5種の野生植物からしか回収されなかったが、これは関東地方の里山でキイチゴ、クワ、ヒサカキなどがしばしば大量に検出された既往論文よりも低い数値であった。また、さまざまな人工物が検出されたが、その量は少なかった。これらの結果は、樹木が少なく、池に隣接する市街地という調査地の特徴を反映していた。

高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫. 2023.
玉川上水の植生状態と鳥類群集
山階鳥学誌,55: 1‒24.
玉川上水は東京の市街地を流れる水路で,その緑地は貴重である。玉川上水の樹林管理は場 所ごとに違いがある。本調査は 2021 年に玉川上水の樹林管理が異なる 4 カ所(小平,小金井, 三鷹,杉並)で鳥類の種ごとの個体数の調査(7 回)と樹林調査(18 地点)を実施した。鳥類 群集は上水沿いの樹林帯と周辺の樹林も豊富な三鷹と小平で豊富であった。緑地が両側を交通 量の多い大型道路に挟まれた杉並では,鳥類の種数と個体数が少なかったが,オナガ ,ハシブトガラス,ドバトは比較的多かった。サ クラ以外の樹木を皆伐した小金井では,近くに広い小金井公園があるにもかかわらず,鳥類群 集は最も貧弱であった。とくに森林性の鳥類が少なく,都市環境でも生息するムクドリ ,スズメなどがやや多いに過ぎなかった。玉川上水での鳥類群 集の季節変化は都心の皇居や赤坂御所などと共通しており,夏にヒヨドリや他の森林性鳥類は減少した。これらの結果は,玉川上水の鳥類群集が植生管理の影響を強く 受ける可能性を示唆する。今後の玉川上水の植生管理においてはこのような生物多様性の視点 を配慮することが重要であることを指摘した。

大塚惠子・鈴木浩克・高槻成紀. 2023. 
玉川上水の杉並区に敷設された大型道路が鳥類群集に与えた影響. 
Strix, 39: 25-48.
玉川上水は東京を流れる水路で鳥類の生息地となっている.その開渠状態の東端の久我山に 2019 年 6 月に放射 5 号線が開通した.これを挟む 2017 年から 2022 年までの 6 年間ラインセンサスで鳥類の種数 と個体数を記録したところ,種数は開通前の 86%,個体数は 57% に減少した.とくに多かったのはヒヨドリ, スズメ,ムクドリなどであった.開通後はヒヨドリ,ムクドリ,ハシブトガラス,スズメは減少したが,ド バトとメジロは 50% 程度増加した.隣接する三鷹地区と井の頭公園では,エナガ,メジロなど樹林性の鳥 類が久我山より多かったが,ムクドリ,スズメ,ドバトなどは久我山の方が多かった.このことは 2019 年 の道路開通が久我山の鳥類の減少をもたらしたことを示唆する.

高槻成紀. 2023.
都市孤立樹木の結実パターンと鳥類による種子散布:舗装を利用した種子回収の試み
保全生態学研究、印刷中
都市緑地の生物多様性にとって鳥類による種子散布は重要であるが、都市での方法上の制約のため調査が進ん でいない。本調査では市街地の孤立木の樹下の舗装した地表面を利用することで、森林では困難な種子回収を試みた。 2020 年の 12 月から 2021 年の 3 月上旬まで、東京都の小平市でセンダン、ハゼノキ、トウネズミモチ、クロガネモチ の 4 本の樹木について、鳥類によって搬入された可能性のある種子を回収し、結実と種子の落下時期、鳥類による果 実の利用時期、対象とした樹木の外部からの搬入などを調査した。果実と種子の落下時期はトウネズミモチとハゼノ キは同調したが、センダンでは果実よりも種子の落下のピークが 2 週間、クロガネモチでは 1 カ月遅れ、鳥類の好み などに関係する可能性が示された。樹冠以外の種子の種数は 11 種から 29 種(不明種を除く)であり、樹下で回収さ れた種子数の延べ数はハゼノキ、トウネズミモチ、クロガネモチの 3 種では約 900-1300 個 /m2 と多かったが、センダ ンでは約 30 個 /m2 と少なかった。樹冠以外の種子数の割合はセンダンは 47.7%と大きかったが、センダン以外は 20% 以下と小さく、センダン樹冠下では高木種の種子が過半数であったが、ハゼノキとトウネズミモチの樹冠下では低木 種が最も多く、クロガネモチ樹冠下では高木、低木、つる植物の順で多様であった。回収された果実の大半は短径が 10 mm 以下で、ヒヨドリの嘴幅(15.4 mm)より小さく、それより大きいのはカラスウリとスズメウリだけであった。

Takatsuki, S., E. Hosoi and H. Tado. 2023. 
Food or rut: contrasting seasonal patterns in fat deposition between males and females of northern and southern sika deer populations in Japan. 
色気か食い気か−日本の南北のニホンジカにおけるオス、メスの脂肪蓄積の対照的な季節パターン
Mammalia, 2023aop. 
https://doi.org/10.1515/mammalia-2022-0092

Takatsuki, S., Purevdorj Y, Bat-Oyun T, Morinaga Y. 2023. 
Responses of plants protected by grazing-proof fences based on the growth form in north-central Mongolia.
モンゴル中北部における放牧圧排除柵内の植物の反応−生育形に注目して.
草原管理はモンゴルにとって重要である。放牧が草原に及ぼす影響を、生育型(Gimingham, 1951)に着目して評価するために、モンゴル中北部のブルガン・アイマグのモゴド・ソムにおいてオルホン川の川辺、平坦地、丘に2013年4月に柵を設置し、同年8月に柵内外の植物と植物群落を比較した。その結果、川辺はもともと多湿であるから植物生産性が高く、家畜がよく利用してCarex duriusculaが優占していたが、柵を作ると柵内でTt(大型叢生型)が高さを回復した。平坦地ではStipa krylovii, Leymus chinensis, Cleistogenes squarrosa, C. duriusuculaなどが生育しており、多様性は高かったが、柵内でTt, Er(直立型), Br(分枝型)などが回復した。丘ではもともとErが多かったが柵設置後もErが回復した。この調査により放牧の影響を生育型で評価するのは有効であること、同時に嗜好性も重要であることが示された。
Human and Nature, 33: 39-47.
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最近の論文 (2020-2022)

2023-05-23 07:34:38 | 最近の論文など

高槻成紀, 2022. 
ススキとシバの摘葉に対する反応−シカ生息地の群落変化の説明のために. 
1. シカ(ニホンジカ)が生息する金華山島のシカ高密度な場所で,ススキ群落がシバ群落に移行した.この現象を説明するため,両種の摘葉実験により,摘葉間隔の違いが両種に与える影響を調べた.
2. ススキは摘葉間隔が短くなるにつれて葉長,草丈,積算生産量が減少した.
3. ススキは摘葉間隔が30日より短いと開花しなくなった.
4. シバは摘葉間隔にかかわらず葉長,積算生産量に違いがなかった.
5. このことから,シカの強い採食圧がススキ群落を減少させてシバ群落に移行・維持させていることが説明できた.
植生学会誌, 39: 85-91. https://www.jstage.jst.go.jp/article/vegsci/39/2/39_85/_article/-char/ja

高槻成紀, 2022. 
生け垣を利用した種子散布の把握 – 東京都小平霊園での観察例. 
Binos, 29: 1-7. https://drive.google.com/file/d/116ZgHUzImm576feUk7WHPREwBd4yKC0r/view

Takatsuki S, Tsuji Y, Prayitno B, Widayati KA, Suryobroto B. 2022. 
Seasonal changes in dietary compositions of the Malayan flying lemur (Galeopterus variegatus) with reference to food availability. 
マレーヒヨケザルの食物組成の季節変化−食物供給に着目して
ヒヨケザルは、手足や胴体、尾の一部につながった薄い皮膚の膜(パタギウム)を使って滑空することができる。マレーヒヨケザル(Galeopterus variegatus)は、東南アジアの固有種である。本種の食性に関するこれまでの情報は断片的であり、食物組成に関する研究はほとんど行われていない。兄弟種の情報から、マレーヒヨケザルは葉食性であると予想された。そこで、まず、インドネシア・西ジャワ州において、マレーヒヨケザルの食性組成を、年間を通じての食料供給状況とあわせて定量的に分析した。マレーヒヨケザルは、12月から7月は雨季(10-6月)と対応的で葉が多く、8月から11月は乾季(7-9月)と対応的で果実が多いという具合に、季節ごとに食物が変化する。果実が多いときは糞中の果実の割合が増え、葉の割合は減る、つまりマレーヒヨケザルは葉から果実へと食性を変化させた。この時期には木の葉が多く、糞中での減少を説明できなかった。このことから、マレーヒヨケザルは1年の大半は木の葉を食べていたが、木の葉が豊富な時期には急激に果実にシフトしたことが推測される。このようにマレーヒヨケザルの食性は、葉から果実へと徐々に変化する葉食霊長類ジャワルトン(Trachypithecus auratus)の食性とは異なっていた。このような種間差は、体格や消化生理の違いに起因すると考えられる。
Mammal Research, 68: 77–83. 
https://doi.org/10.1007/s13364-022-00658-y

高槻成紀・立脇隆文, 2022. 
タヌキの体重の季節変化―冷温帯と暖温帯の比較. 
温帯・寒帯の哺乳類は越冬前に脂肪蓄積することが知 られている.暖温帯に属す和歌山県のタヌキの体重の調査により,タヌキは秋に体重 が 21%増加することが示された.本研究はその比較と して冷温帯の東京近郊で体重(n=192)と腎脂肪指数(n =152)を測定した.体重は 10 月に 37%増加し,腎脂 肪指数も 10 月に最大となった.このことはタヌキが夏 に主に昆虫を食べるのに対して秋には多肉果実を食べる ことに関係すると考えられた.本研究で冷温帯のタヌキ の体重増加の程度は暖温帯のタヌキよりも大きいことが 示された.
哺乳類科学, 62: 233-237. https://doi.org/10.11238/mammalianscience.62.233

高槻成紀・鈴木和男.  2022. 
和歌山県におけるタヌキの体重の季節変化.
温帯・寒帯の哺乳類では食物の乏しい冬に備えて体内 脂肪を蓄積するため体重が増加することが知られている が,日本のタヌキでは飼育 条件下の情報しかない.そこで和歌山県田辺市一帯のタ ヌキ(1 歳以上,オス 118,メス77,合計 195)の体重 を調べたところ,季節変化が認められた.体重の月平均 は 5 月が最小(3.4 kg)で 11 月(4.1 kg)までに 21.2% 増加し,その後,漸減した.このことはタヌキが秋に果 実類を食べて脂肪を蓄積すること,冬から春に食物が乏 しくなって痩せることを反映していると考えられた.
哺乳類科学, 62: 133-139. 
https://doi.org/10.11238/mammalianscience.62.133

Takatsuki, Seiki, and Suzuki, Shiori. 2022.
八ヶ岳のヤマネの食性
これまで定量的分析がほとんどなかったヤマネの食性を糞分析によって解明した。日本中部の八ヶ岳の亜高山帯のヤマネは夏には主に昆虫(69.2%)を、秋には果実(43.0%)と昆虫(33.4%)を食べていた。夏の果実は育児のため高タンパクを必要とし、秋の果実は冬眠前に脂肪蓄積をするために糖分を必要とするためと考えた。葉は微量しか検出されなかった。
Food Habits of the Japanese Dormouse in the Yatsugatake Mountains, Japan.
Zoological Science, 39: 1-5.        

高 槻 成 紀 ・ 望 月 亜 佑 子  2022.
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響  —アファンの森と隣接する人工林での観察例—.
人と自然, 32: 99−108  こちら

我が国の国土の27%は針葉樹人工林に占められている.林学研究は森林の生産性に力点がおかれ,生物多様性に対する注目度は低かった.本研究は長野県信濃町黒姫のスギ人工林の間伐が林内の気象などの環境要素,下層植生とその花への昆虫の訪花に及ぼす影響を調べた.間伐によって森林の下層部は明るくなった.間伐を行っていないスギ人工林に比べて間伐林では下層植生の積算優占度が1年目に1.7倍と多く,2年目に4.5倍に増加した.間伐林では先駆性の低木と大型双子葉草本が多かった.また虫媒花植物と訪花数も落葉広葉樹林と同レベルであった.これに対してスギ人工林では訪花昆虫はまったく観察されなかった.本研究はスギ人工林の生物多様性と訪花が間伐によって改善される可能性を示した.

21.12.1 受理
記載的な論文と査読のあり方について
高槻成紀
哺乳類科学、印刷中

生物学の論文は一般性を求める仮説検証型のものと、個別的な記述によって情報を蓄積することに貢献するものとに分かれる。そのいずれもが重要でいわば車の両輪のようなものといえる。私は「哺乳類科学」は後者の役割が大きいと考えるが、実際の査読においては前者型の原稿を高く評価し、記述型を評価しない傾向があり、科学を共有するための貢献というより形式的な粗探しのような査読姿勢が多い。これを改まるべきだという根拠と論理を書いた。

21.9.27 
八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用 − 高さ選択に注目して −
高槻成紀・大貫彩絵・加古菜甫子・鈴木詩織・南 正人
哺乳類科学, 62(1): 61-67 .DOI: 10.11238/mammalianscience.62.61 

 2013年5月に八ヶ岳の亜高山帯のカラマツLarix kaempferi林で同じ樹木の高さ0.5 mと1.8 mに43対(86個)の巣箱を設置し,2013年9月,11月,2014年5月,9月の4回点検してヤマネGlirulus japonicusなどによる利用を調べた.その結果,利用されたのべ108個の巣箱のうち101個(93.5%)はヤマネが利用したことがわかった.巣箱は高さ1.8 mのほうが高さ0.5 mよりも有意に多く利用された.ヤマネによる利用率は通算で27.7%と高く,特に9月には40-50%と非常に高かった.ヤマネは巣材としてコケ,サルオガセ,樹皮などを利用し,巣箱ごとに特定の材料が重量のほとんどを占めていた.

巣箱(蓋を開けたところ)

巣材. A: コケ, B: サルオガセ

巣箱にいたヤマネ

2021
スギ人工林が卓越する場所でのニホンジカの食性と林床植生への影響−鳥取県若桜町での事例−
高槻成紀・ 永松 大
保全生態学研究, 26 : 323-331, https://doi.org/10.18960/hozen.2042 

我が国では近年シカ(ニホンジカ)が増加して植生に強い影響を及ぼしている。鳥取県東部はスギ人工林が卓越するが、近年シカが侵入して影響が強まっている。スギ人工林は暗く、下層植物が少ないため、同じしか密度でも食物供給条件は乏しいことが想定されるが、こういう場所でのシカの食性は調べられていない。そこで本調査ではスギ人工林卓越地のシカの食性と林床植生に及ぼす影響を明らかにすることとした。糞分析により、糞中に占める緑葉の割合が夏(7-9月)でも13-26%に過ぎず、繊維、稈、枯葉など低質な食物が60-80%を占めることがわかった。シカ排除柵内外のバイオマス指数を比較するとスギ人工林、落葉広葉樹林ともに林床植生は乏しく、両群落で柵内が柵外よりもそれぞれ9倍、39倍も多かった。本調査はスギ人工林卓越地においては林床が貧弱であるため、シカの食性は夏でも低質な食物で占められていることを初めて示した。

若桜町のシカ糞中に占める主要食物の月変化

若桜町の針葉樹人工林と落葉広葉樹林の柵内外における林床植物の
バイオマス指数

21.8.18 受理
Long-term changes in food habits of deer and habitat vegetation: 25 year monitoring on a small island
シカの食性と生息地の長期的変化:小島での25年にわたる継続調査
Seiki Takatsuki
Ecological Research, こちら

1975年から2000年までの25年間、シカが高密度で生息する金華山島のススキ群落と芝群落で植生とシカの糞組成をモニタリングした。大型草食獣による植生変化が他の大型草食獣に影響与える研究はあるが、自らの食性に与える影響は知られていない。また長期的な植生変化の調査はあるが、草食獣の食性を併せておこなった長期調査はない。調査開始からススキ群落はシバ群落に徐々に入れ替わり、強い採食圧でも裸地化することはなかった。一方、シカの食性は1970年代にはススキ、アズマネザサ、シバが同程度含まれていたが、1980年以降はほぼシバだけになった。これにはシバの高い生産特性と高温多湿な日本の気候によるものと考えた。25年間の調査により、有蹄類は植生を変化させることを通じて自らの食性を変化させることと、植生の変化は連続的だったがシカの食性の変化は不連続であることが初めて示された。

金華山の調査地1と調査地2の景観の経年変化


調査地2における所用3種の被度の経年
変化
金華山の調査地1と調査地2でのシカ糞中の主要食物の経年変化

21.4
Human effects on habitat use of Japanese macaques (Macaca fuscata): importance of forest edges
ニホンザルの生息地選択に及ぼす人の影響ー林縁の重要性について
Hiroshi Ebihara and Seiki Takatsuki
Mammal Study, 46: 131-141. こちら
 ニホンザルの生息地は伐採、植林、農地化、森林分断など人為的な変形を受けた。そういう影響はサルの生息地利用に影響していると考えられる。そこで、農地群と森林群の2群の生息地利用を比較した。その際、これまで植生図に表現されなかった林縁を植生カテゴリーの一つで取り上げた。両群とも秋と冬には落葉広葉樹林を、また夏には林縁をよく利用した。森林群は森林と草地の林縁を、農地群は森林と農地の林縁をよく利用した。農地群は秋と冬に森林群よりも落葉広葉樹林をよく利用した。オープンな場所はサルにとって危険であるから、両群とも森林をよく利用した。人工林の増加による森林での食物の減少と、農地での食物の増加により、サルの林縁利用が増えた。本研究で林縁を独立した植生タイプとして取り上げることでサルの生息地利用を正確に捉えることができた。

21.4.15   
Diet compositions of two sympatric ungulates, the Japanese serow (Capricornis crispus) and the sika deer (Cervus nippon), in a montane forest and an alpine grassland of Mt. Asama, central Japan
日本の中部地方の浅間山の山地森林と高山草原に同所的に生息するシカとカモシカの食物組成
Takada, H., Yano, R., Katsumata, A., Takatsuki, S., Minami. 2021.  
Mammalian Biology, https://doi.org/10.1007/s42991-021-00122-5

21.3.25 受理
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響
– アファンの森と隣接する人工林での観察例
高槻成紀・望月亜佑子
人と自然:  in press
我が国の国土の27%は針葉樹人工林に占められている.林学研究は森林の生産性に力点がおかれ,生物多様性に対する注目度は低かった.本研究は長野県信濃町黒姫のスギ人工林の間伐が林内の気象などの環境要素,下層植生とその花への昆虫の訪花に及ぼす影響を調べた.間伐によって森林の下層部は明るくなった.間伐を行っていないスギ人工林に比べて間伐林では下層植生の積算優占度が1年目に1.7倍と多く,2年目に4.5倍に増加した.間伐林では先駆性の低木と大型双子葉草本が多かった.また虫媒花植物と訪花数も落葉広葉樹林と同レベルであった.これに対してスギ人工林では訪花昆虫はまったく観察されなかった.本研究はスギ人工林の生物多様性と訪花が間伐によって改善される可能性を示した.

21.3.3 受理
山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -
著者名:高槻成紀・植原 彰
植生学会誌, 38: 81-93.  こちら
1.山梨県の乙女高原は刈取により維持され,大型双子葉草本が多い草原であったが,2005年頃からススキ群落に変化してきた.この時期はシカ(ニホンジカ)の増加と同調していた.
2.主要11種の茎を地上10 cmで切断し,その後の生存率と植物高を継続測定したところ,双子葉草本9種のうち6種は枯れ,生存種も草丈が低くなった.これに対して,ススキとヤマハギは生存し,植物高も減少しなかった.
3.ススキを,6月,9月,11月,6,・9月に刈取処理をし,5年間継続したところ,ススキの草丈は11月処理は180-200 cmを維持し,6月区はやや低くなったまま維持した.これに対し,9月区は草丈が経年的に減少した.
4.シカの採食は双子葉草本には強い影響があるが,刈取処理よりは弱いから,ススキにとっては影響は弱く,乙女高原でのススキ群落化はシカの影響と考えるのが妥当であると考えた.
5.ススキ群落内に設置した15 m×15 mのシカ防除柵4年後の群落はススキが大幅に減少し,双子葉草本が優占した.群落多様度は柵外はH’ = 0.85だったが,柵内はH’ = 2.64と3倍も大きくなった.
6.上層の優占種が大型双子葉草本からススキに変化することで,ヒメシダのような地表性の陽性植物が増加し,ミツバツチグリの場合,ススキ群落では低い草丈で面的に広がったが,双子葉草本が密生していると被度は減少して葉柄を伸長させた.
7.シカの影響は1)シカの嗜好性(不嗜好植物は食べない)の違い,2)採食に対する植物の反応(成長点のいちの違いによる再生力など)の違い,3)その結果による上層の優占種の変化による下層植物への間接効果,という異なるレベルで起きていることを示した.

21.1.25 受理
過疎化した山村でのシカの食性− 山梨県早川町の事例−
高槻成紀・大西信正
保全生態学研究23: 155-165. こちら
過疎化が著しく、シカが高密度になって林床植生が乏しい状態にある山梨県早川町のシカの食性を糞分析により明らかにした。いずれの季節でも栄養価の低い繊維・稈などの支持組織が多く、栄養価の高い緑葉は少なかった。春には繊維が45.0%、稈・鞘が17.7%と多く、緑葉は10.3%に過ぎなかった。夏も繊維(54.6%)と稈・鞘(14.2%)が多かったが、双子葉植物が13.5%に増加した。秋は緑葉が36.0%と年間で最も多くなった。これは新しい落葉を食べたものと推定した。冬の糞組成は最も劣悪で、繊維が82.7%と大半を占め、緑葉は微量(2.5%)しか検出されなかった。早川町のシカの食性は他のシカ生息地と比較しても劣悪であった。シカの食性とシカの管理、特に過疎化との関連に言及した。

20.11.2 
麻布大学キャンパス内の植栽樹への種子散布
小島香澄・高槻成紀
Binos, 27: 11-16.
被食散布型の樹木にはさまざまな果実食鳥類が訪 れ、樹下には別の木で食べた種子が排泄される。しか し、野外の森林では多種の樹木が隣接している上に亜 高木、低木、草本にも被食散布植物があり、林床には 下生え植物や枯葉があるため落下種子を調べるのは難 しい。この点、都市の単純な環境に孤立木があれば調 べることが可能である。この論文では大学キャンパス内の同時期に結実する多肉果を着ける樹木を用いて、 外部から持ち込まれた種子の内容を明らかにすること を目的とした。カキノキでは 27 種以上 2,810 個、セ ンダンでは 17 種以上 451 個、エノキでは 10 種以上 1875 個の種子が回収された。対象木と同種の種子の 割合はカキノキ樹下では 15.6% と小さかったが、セ ンダン樹下で 52.3%、エノキ樹下では 91.1% であった。 外部由来の種子はカキノキとセンダンの樹下ではエノ キが多く、エノキ樹下ではセンダンが多かった。大学 キャンパスという単純な系を使うことで、鳥類による 種子散布の実態の一部が示された。

20.10.10 
長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性 
宗兼明香・南正人・高槻成紀. 2021.
哺乳類科学, 61: 39-47. こちら
長野県東部の御代田町のカラマツ林に生息するテンの食性を糞分析法により 明らかにした.食物組成の量的評価は出現頻度法とポイ ント枠法の占有率によった.平均占有率は,春には哺乳 類(64.1%),夏と秋には果実(夏は 65.3%,秋は 78.0%)が多かった.種子の出現からわかった果実利用 は月ごとに変化し,春にはミズキCornus controversaな ど,夏にはサクラ属 Cerasus spp. など,秋にはマタタビ 属 Actinidia spp. やアケビ属 Akebia spp. などが多かった. 昆虫は夏でも 4.9%に過ぎず,他の地域より少なかった. これは本調査地に果実が豊富なためと考えられた.出現 頻度法による評価では平均占有率が小さかった昆虫や葉 が過大に評価された.占有率-順位曲線からは平均値や 頻度だけではわからない,食物の供給量とテンの食物選 択性を読み取ることができた.テンに利用された果実に は林縁植物が多いことからテンが林縁植物の指向性散布 をする可能性が示唆された.

2020.10.8
麻布大学キャンパスのカキノキへの鳥類による種子散布 
高槻成紀. 2020.
麻布大学雑誌 こちら
被食散布型の樹木にはさまざまな果実食鳥類が訪れ、樹下には別の木で食べた種子が落下される。しか し、野外の森林では多種の樹木が隣接している上に亜高木、低木、草本にも被食散布植物があり、地表にも草 本類や枯葉があるために落下種子を調べるのは難しい。この点、都市の単純な環境に孤立木があれば調べるこ とが可能である。この論文では大学キャンパス内に植栽された1本のカキノキを用いて、外部から持ち込ま れた種子の内容を明らかにすることを目的とした。その結果、2009 年の 11 月と 12 月の間に、カキノキ種子を 除いて 36 種以上 7918 個の種子が回収された。その内訳は高木種が 18 種で種子数は 89.9% を占め、低木が 8 種、4.8%、つる植物が 7 種、3.2% などであった。これらを植栽種、野生種で分けると、植栽種が 37.5% を占め、 都市的な環境を反映していた。この調査により大学キャンパスという単純な系を使うことで、鳥類による種子 散布の実態の一端が示された。

2020.9.21 受理
四国三嶺山域のシカの食性−山地帯以上での変異に着目して
高槻成紀、石川愼吾、比嘉基紀. 2021.
日本生態学会誌, 71: 5-15.  こちら
これまで不明な点が多かった西日本のシカの食性の例として、四国剣山系三嶺のシカの食性を糞分析により解明 した。標高 1100 m 台のさおりが原ではシカの採食により林床が貧弱になっており、シカの糞でも繊維と稈・鞘が多く、 シカの食物状況は劣悪であった。標高 1600 m 台のカヤハゲでは 2007 年にシカの採食によりミヤマクマザサが消滅し、 現在はススキ群落になっており、糞組成でもイネ科と稈・鞘が多かった。標高 1700 m 台の地蔵の頭では稜線にミヤマ クマザサが密生しており、シカの糞もササが優占していた。山地帯では植生もシカの強い影響で壊滅状態であるが、シ カ自身の食性も劣悪であった。高標高に生息するシカにとっては尾根のミヤマクマザサは特に冬の食物として重要であ ることがわかった。シカの置かれた状態を判断するのに食性解明は有力な情報をもたらすことを指摘した。

Effects of 137Cs contamination after the TEPCO Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station accident on food and habitat of wild boar in Fukushima Prefecture.
Nemoto, Y., H. Oomachi, R. Saito, R. Kumada, M. Sasaki, S. Takatsuki. 2020.
Journal of Environmental Radioactivity こちら

20.4.21 受理
2018年台風24号による玉川上水の樹木への被害状況と今後の管理について
高槻成紀. 2020.
植生学会誌,  37: 49-55 こちら
1. 2018 年 9 月 30 日深夜から数時間,東京地方を襲った台風 24 号がもたらした玉川上水 30 km の風害 木の実態を記録したところ,合計 111 本(3.7 本 /km) が記録された.
2. 樹種はサクラ属が 3 分の 1 を占めた.風害木の うち,植林されたサクラ属,ヒノキは平均直径が 50 cm を上回っていたが,コナラ,クヌギなど自生する 雑木林の構成種は直径 30 cm 前後であった.
3. 風害木は全体に上流(西側)で少なく,下流 (東側)に多い傾向があり,特に小金井地区と井の頭 公園一帯に多かった.木の倒れた方位は北に偏ってお
り,南からの強風が吹いたことを反映していた. 4. 桜の名所である小金井地区はサクラ属以外は伐 採されるため立木に占めるサクラ属の割合がほかの地 区よりも高く,被害率も他の地区に比べて 7.1 倍も高かった.

2020.8.30
タヌキの日和見的な食性- 愛媛県諏訪崎での事例 -
Mammal Study, 46: 25-32. こちら
タヌキの食性が場所ごとに違いがあることがわかってきたが、南西日本のタヌキの食性は分析例が少ない。本論文では愛媛県の諏訪崎半島のタヌキの食性を糞分析(ポイント枠法)で調べた。調査は2019年5月から2020年4月に行った。果実が重要で秋には30%以上、冬でも20%以上を占めた。椋木あkが特に重要だったが、そのほかにも暖地の果実が季節に応じて食べられた。昆虫も重要で春、夏、初秋には20%以上を占めた。晩冬季にはミカンが40%ほどを占めた。哺乳類と鳥類は他の超幸よりも少な買った。諏訪崎のタヌキの食性は暖地の果実、昆虫、ミカンで特徴付けられ、タヌキが「日和見的」であることを示唆した。

2020.7.14
Kagamiuchi, Y. and S. Takatsuki.  
Diets of sika deer invading Mt. Yatsugatake and the Japanese South Alps in the alpine zone of central Japan.
(中部日本の八ヶ岳と南アルプスの高山帯に侵入したニホンジカの食物)        
Wildlife Biology 2020: wlb.00710 こちら
近年、日本列島でシカが増加しており、その分布は中部地方の高山帯に及び、冬は低地で過ごすが夏は高山帯で過ごす。しかしその食性は調べられていない。本調査では八ヶ岳と南アルプスで、山地帯、亜高山帯、高山帯のシカの糞を採集し、植物組成と栄養学的分析を行った。八ヶ岳の山地帯ではササが40-55%を占めたが、南アルプスの山地帯では双子葉植物が多かった。亜高山帯では、八ヶ岳ではイネ科が50%を占めたが、南アルプスでは単子葉植物と双子葉植物がそれぞれ10-20%をしめた。高山帯ではどちらの山でもイネ科が多かった。糞中の粗タンパク質含有率はどちらの山でも低地では8-12%だったが、高山帯では15-20%と高かった。

20.5.25 受理
高知県とその周辺のタヌキの食性 – 胃内容物分析–
高槻成紀・谷地森秀二
哺乳類科学, 61: 13-22. こちら
これまで四国のタヌキの食性は情報がなかったが,高知県と周辺から得た67例の胃内容物をポイント枠法で分析した.ほかの場所と比べると昆虫が多く(全体の占有率25.7%),特に冬でも25.8%を占めた.果実は重要であったが,他の場所に比べれば少なく,最大で秋の30.4%であった.カタツムリ(ウスカワマイマイ)が春(19.3%)を中心に多かったことと,春にコメを主体とした作物が25.0%と多かった点は特異であった.

2019.7.16 受理
東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –
高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020.
哺乳類科学, 31: 67-69. こちら
人為的影響の少ない東京西部の裏高尾のタヌキの食性 を調べたところ,人工物は出現頻度 5.0%,ポイント枠 法による平均占有率 0.4%に過ぎなかった.果実・種子 が一年を通じて重要で,出現頻度(果実 98.0%,種子 93.1%),平均占有率(果実 30.0%,種子 25.7%)とも 高かった.季節的には春は果実,種子,昆虫の占有率が 20%前後を占め,夏には種子が 36.7%に増加した.秋に は果実が 71.5%と最多になり,昆虫は微量になった.初 冬には果実が 43.2%に減り,種子が 31.7%に増えた.晩 冬は果実(15–35%),種子(15–25%),昆虫(20–30%) が主要であった.種子は晩冬のエノキ,春のキチイゴ属, 夏のミズキ,秋のケンポナシ,初冬と晩冬のヤマグワと 推移した.ヤマグワやサルナシは結実期とタヌキによる 利用の時期が対応しなかった.



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奈良公園と春日山のシカの食性(経過報告)

2023-05-21 07:20:40 | 研究
高槻成紀・前迫ゆり

 奈良公園のシカの食性については、古く1978年に報告した(高槻・朝日 1978)。これは ニホンジカの食性の定量的分析の最も古い論文の一つである。そこで明らかになったのは、奈良公園の平坦地ではシバを主体とした 食物組成であること、若草山では春にススキが多くなるということであった。 奈良公園のシカは少なくとも数百年あいだ、奈良の人々に手厚く守られることで、公園の、シバを代表とするイネ科を主要な植物としてきた。そして、非常に高密度で生息している。このことは、人と大型野生動物との共存という意味で注目に値することである。このことは、同時に難しい問題を発生してもいる。奈良公園の背後には春日山がある。春日山の森はこの地方の原生的な植生であり、価値が高いが、高密度の奈良のシカが侵入して、森林植生に強い影響を及ぼし、森林の構造だけでなく、維持という点でも問題がある。照葉樹林の更新過程で、シカが食べないナギやナンキンハゼが定着し、場所によっては置き換えが起きている(前迫 2022)。ところが春日山に生息するシカの食性は全く知られていない。
 春日山の保全について長年調査してこられた前迫氏との共同で、春日山のシカの食性調査をすることになり、2023年5月に現地を訪問して、予備調査を兼ねてシカの糞のサンプリングもしたので、その結果を報告する。

調査地
 調査地は3カ所とし、調査地1は飛火野、調査地2は春日山の西側標高300mのツクバネガシ・コジイ林、調査地3は春日山の東側標高500mのアカガシ林とした(図1)。飛火野は平坦地でシバ群落が優占し(図2A)、観光客が多く、シカ密度も高い。調査地2は山腹斜面でコジイなどのブナ科常緑樹が卓越し、下層植生としてはイヌガシ、シキミ、アセビなどが生育し、草本層は貧弱であった(図2B)。調査地3も常緑広葉樹のアカガシが優占するが、スギも混在した。下生えは調査地2と同様で、きわめて乏しいものであった(図2C)


図1. シカの糞採集地


図2. 調査地の景観. A: 調査地1、B: 調査地2、C: 調査地3.

方法
 調査地で新鮮なシカの糞を探し、糞1群から10粒を10群から採集した。これを0.5 mm間隔のフルイ上で水洗し、植物片を光学顕微鏡で検鏡し、ポイント枠法で評価した。ポイント数は100以上とした。食物はシバ、その他のイネ科、その他のグラミノイド、その他の単子葉類、常緑広葉樹、その他の双子葉植物、針葉樹、枯葉、果実、種子、繊維、稈、不明に分けた。

結果
 調査地1(飛火野)ではシバが42%と最重要で、双子葉植物が14.7%であった。これに対して春日山では全く違い、調査地2(春日山1)では植物の葉は少なく、繊維が47.7%という高率を示した。植物の葉では常緑広葉樹が17.8%と最重要であった。注目されたのは枯れ葉がほぼ同様の14.6%を占めていたことで、このことはシカが林床の落葉を食べていたことを強く示唆する。調査地の林床には落葉が豊富にあった。調査地3(春日山2)の糞組成も同様であったが、繊維が54.4%とさらに多く、常緑広葉樹と落葉は9.5%と5.7%と、やや少なかった。


図3. シカの糞組成. 図には参考までに九州大学宮崎演習林の4月の分析結果も示した。

考察
  飛火野ではシバが42%を占めたが、半世紀ほど前の1976年5月の糞組成でもシバが32%を占めていた(高槻・朝日 1978)。春日山のシカの食性は知られていなかったが、飛火野のそれとは全く違う組成であり、イネ科はほとんど出現せず、常緑広葉樹が10-18%であり、繊維が48-55%と多いということがわかった。図3には宮崎県椎葉の九州大学演習林での4月の結果も示したが、春日山と非常に似ていた。宮崎演習林ではシカが増加し、かつて豊富にあったスズタケは消失した(猿木ほか 2004)。このことは、シカ密度が高い常緑広葉樹林では、次のようなことが起きることを示唆する。林床が暗いために元々下層植生が乏しいが、それがシカに採食されると、回復力が乏しいため、林床が極端に貧弱になる。そのため、シカが採食する植物が乏しく、シカは常緑樹を探して食べるが、量的には少なく10-20%に過ぎない。その時に枝先も同時に摂取するため、糞中に繊維が多くなる。同時に林床にある落ち葉も採食するため、糞中に枯葉が5-15%程度検出される。
 今回、初めて春日山に生息するシカの食性の一端が明らかになり、奈良公園の平坦地のものとは全く違うことがわかった。そして、シカは林内の乏しい植物を食べていることがわかった。このことは、価値ある原生的常緑広葉樹の更新を考えると問題がある。この林は時間をかけて更新する過程で後継樹が供給できず、場所によってナギやナンキンハゼに置き換わることがわかっている(前迫 2022)。
 奈良のシカは伝統的な人とシカとの共存の例として広く知られ、観光的にも価値があり、その保護が必要であろうが、春日山原生林も世界遺産としての価値がある。その両立のためには、現状を把握し、何が起きているかの客観的把握が必要である。もし森林の更新が必要であると判断されたのであれば、シカ排除柵などにより、後継樹の確保をするなどの対策が必要になるだろう。
 シカの食性は季節的に変化するので、今後も追跡したい。

文献
前迫ゆり. 2022. 照葉樹林に侵入した外来木本種の拡散にニホンジカが与える影響. 日本生態学会誌, 72: 5-12. 
猿木重文・井上 晋・椎葉康喜・長澤久視・大崎 繁・久保田勝義. 2004. 九州大学宮崎演習林においてキュウシュウジカの摂食被害を受けたスズタケ群落分布と生育状況 2003年調査結果. 九州大学演習林報告, 85: 47-57.
高槻成紀・朝日稔.1978. 糞分析による奈良公園のシカの食性,II.季節変化と特異性. 「天然記念物「奈良のシカ」報告(昭和52年度」:25-37.
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シカの食性分析

2023-05-14 17:00:01 | 研究

金華山での25年間における植生とシカの食性の変化 こちら

秩父大山沢のシカの食性 こちら 分析中

丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例. 高槻成紀・梶谷敏夫. 2019. 保全生態学研究, 24: 1-12.  こちら
山梨県早川町のシカの食性. 高槻成紀・大西信正. 2021. 保全生態学研究, 23: 155-165. こちら

奈良公園と春日山のシカの食性. 高槻成紀・前迫ゆり(分析中)こちら
スギ人工林が卓越する場所でのニホンジカの食性と林床植生への影響: 鳥取県若桜町での事例. 高槻 成紀・永松 大. 2021. 保全生態学研究, 26 : 323-331. こちら
四国三嶺山系のシカの食性. 高槻成紀、石川愼吾、比嘉基紀. 2021. 日本生態学会誌, 71: 5-15. こちら 
九州大学福岡演習林 こちら 分析中

九州大学宮崎演習林 こちら 分析中


シカの食性を知りたいという調査地があれば、はこのサイトのコメントにご連絡ください。高槻


高槻によるシカの食性分析点

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九州大学宮崎演習林のシカの食性

2023-05-14 16:59:40 | 研究
宮崎県椎葉村の九州大学宮崎演習林のシカの食性−2022年12月の報告−

高槻成紀・片山歩美(九州大学院農学研究院、環境農学部門)

これまで九州のシカの食性は情報が限られている。屋久島で垂直分布に注目した分析があるほか(Takatsuki, 1990)、九州本土ではわずかに2例があるに過ぎない。1例は福岡県のシカの胃内容物分析で双子葉草本が10-50%で夏に多く、常緑広葉樹が10-50%で冬に多かった(池田, 2001)。もう一つは宮崎県椎葉村の九州大学宮崎演習林と周辺のシカの胃内容物で、グラミノイド(イネ科、カヤツリグサ科など)が50-60%程度と多く、落葉広葉樹が20-30%であった(矢部ほか, 2007)。
 宮崎演習林では1970年代からシカが増え始め、1985年に人工林被害が始まり、1986年にはスズタケが消失し始め、2001年には9割が消失したという(村田ほか, 2009)。そして2003年には演習林のうち東側で面積の広い三方岳団地ではスズタケが壊滅的な被害を受けていた(猿木ほか, 2004)。
 矢部ほか(2007)の当地でのシカ食性分析は2002-2004年のサンプルを分析したものであり、すでにスズタケの占有率は少なかったとされる。
 こうした状況で2022年に片山氏からシカの糞分析の依頼があり、12月の糞サンプルが確保されたので、分析を試みた。

方法
 調査地は宮崎県椎葉村にある九州大学宮崎演習林(32.375342N, 131.163436E)である(図1)。



図1. 調査地(九州大学宮崎演習林)の位置を示す地図

 森林の下層植生はシカの影響により非常に貧弱であり、低木層にはシカが食べないシキミ、アセビなどが点在する。


図2. 宮崎演習林の林内の景観

 2022年12月14日に新鮮なシカの糞を10糞塊から10粒づつ採集し、0.5 mm間隔のフルイで水洗し、残留物を光学顕微鏡によりポイント枠法で分析した。

結果
 分析の結果、葉は常緑樹、針葉樹などが検出されたがいずれも微量で、全てを合計しても24.3%にすぎなかった(図3)。ただしこれには枯葉は含んでおらず、枯葉は3.9%であった。最も多かったのは稈(イネ科の茎)で37.3%を占めた。また繊維(15.3%)も多かった。


 
図3. 2022年12月のシカ糞組成。参考のために丹沢と岩手県五葉山のデータも示した。

 図3には比較のために神奈川県の丹沢(高槻・梶谷, 2019)と岩手県五葉山(Takatsuki, 1986)の冬の結果をあわせて示した。丹沢はシカが高密度であることで知られるが、ここでも葉が少なく、支持組織が大半を占める点では宮崎演習林と同様であった。そして支持組織が多いのは共通していたが、丹沢では稈は少なく、繊維が61.8%を占めた。これらに対して、五葉山ではミヤコザサが70.6%を占めていた。ここはシカの密度が低く、シカの健康状態も非常に良好である。
 この分析により、宮崎演習林の現在のシカの冬の食性は、矢部ほか(2007)が2003年前後に分析した宮崎演習林と周辺でのシカ胃内容物ではグラミノイドが50%前後、落葉広葉樹が30%前後と、葉が大半を占めていたのとは大きく違うことがわかった。当時でもスズタケの割合は少なかったが、グラミノイドが多かったのに対して、現状ではグラミノイドは7%にすぎなかった。したがってシカは食糧事情が悪い状況にいることは間違いない。

 図4には4月の分析結果を示した。明らかな変化は繊維の増加、稈の減少、常緑広葉樹の増加であった。


図4 2022年12月と2023年4月のシカ糞組成。

このことは12月には常緑広葉樹を含む生葉が乏しかったが、新しい葉が展開して利用できるようになり、シカがその葉とともに枝を食べるようになったことを示唆する。稈が大きく減少した理由は明らかでないが、12月にはシカが立ち枯れたススキなどのイネ科の稈を食べていたが、4月にはその必要が亡くなったことを示唆するものと思われる。双子葉草本が増加することを予測していたが、ほとんど出現しなかった。これは新葉はみずみずしいため、消化率が良く、糞中には残りにくいためである可能性がある。

 季節変化がどうなるか、今後も継続調査をしたい。

文献
池田浩一. 2001. 福岡県におけるニホンジカの生息および被害状況について. 福岡県森林林業技術センター研究報告, 3: 1083. こちら
村田育恵・井上幸子・矢部恒晶・壁村勇二・鍛治清弘・久保田勝義・馬渕哲也・椎葉康喜・内海康弘. 2009. 九州大学宮崎演習林における ニホンジカの生息密度と下層植生の変遷. 九州大学演習林報告, 90: 13-24. こちら
猿木重文・井上 晋・椎葉康喜・長澤久視・大崎 繁・久保田勝義. 2004. 九州大学宮崎演習林においてキュウシュウジカの摂食被害を受けたスズタケ群落分布と生育状況 2003年調査結果. 九州大学演習林報告, 85: 47-57. こちら
Takatsuki, S. 1986. Food habits of Sika deer on Mt. Goyo, northern Honshu. Ecological Research, 1: 119-128. こちら
Takatsuki, S. 1990. Summer dietary compositions of sika deer on Yakushima Island, southern Japan. Ecological Research, 5: 253-260. こちら
高槻成紀・梶谷敏夫. 2019. 丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例. 保全生態学研究, 24: 209-220. こちら                         
矢部恒晶・當房こず枝・吉山佳代・小泉 透. 2007. 九州山地の落葉広葉樹林帯におけるニホンジカの胃内容. 九州森林研究, 60: 99-100. こちら

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愛媛県松山市郊外のタヌキの食性

2023-05-06 14:17:28 | 研究
タヌキの食性は主に関東地方で行われ、果実を主体として夏には昆虫が増え、冬には哺乳類や鳥類がやや多くなるという傾向がわかってきた。ただ、タヌキは生息地も産地から海岸、農耕地から都市にまで及ぶため、場所ごとの変異が大きいため、その全体像を把握するためには各地での分析例を増やす必要がある。これまで関東地方以外では東北地方、中部地方などで少数例があるだけで、西日本では全体に分析例が乏しい。これまでのところ九州と四国で少数の分析例があるに過ぎない。私は愛媛県の稲葉正和氏の協力を得て、佐多岬のタヌキの糞分析をしたことがある(こちら)。ここでは冬にミカンが食べられるのが特徴的だった。また高知県の各地の交通事故死体のタヌキの胃内容物を分析したこともある(こちら)。
 今回、稲葉氏から連絡があり、松山市郊外で確実にタヌキのフンが得られるので採取したという連絡があったので、分析することにした。

方法 
 松山市の位置は四国の西側で、調査地は松山市の南側で平地が山に接する辺りである。西側には住宅地があるが、東側は農耕地で里山的環境といえる。


松山市の位置と調査地(赤丸)と周辺の状態

 これまでと同じく、フンを0.5 mm間隔のフルイ上で水洗し、残滓をポイント枠法で分析した。採集期間は2022年の5月から2023年の4月までである。

結果
 糞組成の月変化を示したのが次のグラフである。


松山市郊外のタヌキの糞組成の月変化

  5月の組成は多様で、果実(21.7%)、葉(15.6%)、昆虫(14.5%)、人工物(14.0%)がやや多かった。作物はコメ(米)で5.3%であった。人工物は厚いゴムの破片であった。


2022年5月の検出物。格子間隔は5 mm

 6月になると果実が32.1%に増え、昆虫が6.0%に減った。種子ではキイチゴ属、マタタビ属などが検出された。マタタビ属、私はサルナシだと思ったのだが、稲葉氏によればサルナシは山地にしかなく、キウイフルーツであろうということであった。作物はやはりコメとキウイフルーツで10.2%であった。1例だがカタツムリの殻と「フタ」が検出された。人工物はゴム手袋であった。
 このように、地方都市郊外のタヌキらしく、作物(コメ)や人工物(ゴム手袋)なども含む多様な食性を示しているようである。


2022年6月の検出物。格子間隔は5 mm

 7月は果実と種子がさらに増加し、果実は51.6%、種子は16.5%になった。作物はコメとキウイフルーツで6.2%であった。種子ではエノキとクワが多く、センダンも検出された。多くの場所では夏に昆虫が増えるが、ここではむしろ少なくなってわずか2.4%に過ぎなかった。太い羽軸が検出され、大きめの骨もあったことから、ニワトリが食べられた可能性がある。ただし、羽毛部分は見られていない。作物は主にコメで6.2%であった。厚いゴム片と輪ゴムが検出されたが、量的には少なく0.7%に過ぎなかった。


2022年7月の検出物。格子間隔は5 mm

 8月にも果実は重要で44.0%を占め、種子は9.7%で7月よりはやや少なくなった。種子ではクワ、エノキが多かったが、ギンナン、センダン、ムクノキも検出された。昆虫は11.0%に増え、作物も12.3%に増えた。作物はコメが主体で一部キウイフルーツもあった。8月も太い羽軸が検出された。人工物としてはアルミホイルと輪ゴムが検出された。

2022年8月の検出物。格子間隔は5 mm

 9月になると昆虫が35.4%で最も多いカテゴリーになった。このうち10.5%は卵であった。果実は24.3%で大幅に減少した。種子のほとんどはクワで、作物、人工物はほとんど見られなくなった。9月に果実が減少した意味は不明だが、作物や人工物をほとんど食べていないことから、食物が乏しいのではなく、昆虫が得やすくなったため、そちらを主に食べるようになったためと思われる。


2022年9月の検出物。格子間隔は5 mm

 10月には大きな変化が認められた。一つは作物(主にコメ)が大幅に増えて26.6%になったことである。これにはカキノキの種子も含む。またゴマの種子も10.6%出現し、頻度も高かった。したがって、作物が38.0%に上った。果実も増えたが、39.4%であり、8月の44.0%には及ばない。昆虫が9月の35.4%から4.1%に大幅に減ったことも大きな変化だった。人工物としては糸が検出された。タヌキの食物環境としてはコメやゴマがみのり、カキノキも結実したことで昆虫や野生植物の果実をあまり食べなくて良くなったと思われる。

2022年10月の検出物。格子間隔は5 mm

 11月になると果実がさらに増え、52.6%に達した。作物ではゴマ(こちら)が増え、カキノキの果実は減った。そのほかの成分は少なく、昆虫は1.0%に過ぎなかった。人工物はゴム製品が検出されたが、1.8%に過ぎなかった。

2022年11月の検出物。格子間隔は5 mm

 12月の糞組成は10月と似ていた。果実は53.3%で10月の52.6%と同レベルであった。作物ではゴマ(こちら)がさらに増えて28.0%となり、カキノキの果実は減った。そのほかの成分は少なく、昆虫は1.6%、人工物(ゴム製品)は1.4%に過ぎなかった。
 ごまを取り上げると、9月から出現しはじめて10月以降急増し、12月には糞の内容がほとんどゴマばかりのようなものさえあった。

ゴマの占有率(%)



2022年12月の検出物。格子間隔は5 mm

 2023年1月になると少し変化が見られた。果実がほぼ半量を占めるのはこれまでと同様であったが、種子と作物は大幅に減少し、人工物が増えた。作物の減少はゴマが少なくなったことにある。人工物はゴム片であった。

ゴマの占有率の推移

2023年1月の検出物

 2月になると果実が減少、昆虫が増加したほか、人工物が8%ほど出た。カメが食べられていたのは突起するに値する。


3月は果実が増えて、昆虫が減ったが、基本的に2月と似通った蘇生であった。

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九州大学福岡演習林のシカの食性

2023-05-05 22:05:03 | 研究
九州大学福岡演習林のシカの食性

高槻成紀
片山歩美(九州大学院農学研究院、環境農学部門)
阿部隼人(九州大学生物資源環境科学府)

 九州のシカの食性は情報が限定的で宮崎県と福岡県での分析例がある。宮崎県の事例は椎葉村にある九州大学の演習林において、2003年前後の胃内容物分析が行われ、グラミノイド(イネ科、カヤツリグサ科)が多かった(矢部ほか, 2007)。ここではシカが増え、植生も変化したので、我々が2022年の12月から糞分析を開始した(こちら)。一方、福岡県での事例は有害鳥獣駆除の胃内容物分析で、場所は県内各所であるが、低地が多いとされており、内容は双子葉草本が多く、夏には落葉樹が、冬には常緑樹が多くなる傾向があった(池田, 2001)。今回、片山氏から九州大学福岡演習林のシカの糞の提供があったので分析することにした。

方法
 調査地は福岡市の東側にある九州大学福岡演習林で、森林とオープンな場所が混在している(図1)。ここでは2009年から2013年にかけてシカが増えたが(壁村ほか, 2018)、植生への影響はさほど強くない段階にある。

図1. 調査地(九州大学福岡演習林)の位置図

 新鮮なシカの糞を10糞塊から10粒づつ採集し、0.5 mm間隔のフルイで水洗し、残留物を光学顕微鏡によりポイント枠法で分析した。

結果
 2月28日のサンプルを分析した結果、常緑広葉樹の葉が19.9%、グラミノイドが11.5%、ササが8.8%などで、葉の合計が42.1%であった(図2)。枯葉(8.6%)はこれには含んでいない。そして稈(イネ科の茎)と繊維がそれぞれ20.5%と22.2%を占めた。つまり葉と支持組織がほぼ半々であった。図2には福岡県全体の1月の胃内容物も示したが、演習林の結果はこれと比べると支持組織が多い。また宮崎演習林の12月の結果と比較すると葉が多く、食糧事情はこれよりはよいと言える。


図2. 福岡演習林のシカの糞組成(左)と比較のための2カ所の冬のシカ食性

 2023年4月26日のサンプルの分析結果は次のとおりであった。2月に比べると、ササ、枯葉、稈が減少し、常緑広葉樹は変わらず、繊維が倍増した。このことは、2月よりも食料事情が悪くなり、シカは木本類の枝先などをより多く食べるようになったことを示唆する。草本類や落葉広葉樹も増加したはずであるが、糞中ではこれらは増加しなかった。これらは消化率が良いから糞中で過小に出現した可能性は否定できない。

図3. 福岡演習林のシカの糞組成(2023年)



文献
池田浩一. 2001. 福岡県におけるニホンジカの生息および被害状況について. 福岡県森林林業技術センター研究報告, 3: 1083. 
壁村勇二 ・榎木 勉 ・大崎 繁 ・山内康平 ・扇 大輔 ・古賀信也・菱 拓雄・井上幸子・安田悠子・内海泰弘. 2018. 九州大学福岡演習林におけるニホンジカの目撃数増加と造林木 および下層植生への食害. 九大演報 , 99:18-21.
矢部恒晶・當房こず枝・吉山佳代・小泉 透. 2007. 九州山地の落葉広葉樹林帯におけるニホンジカの胃内容. 九州森林研究, 60: 99-100. 

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愛媛県松山市郊外のタヌキの食性

2023-04-03 17:35:35 | 研究
タヌキの食性は主に関東地方で行われ、果実を主体として夏には昆虫が増え、冬には哺乳類や鳥類がやや多くなるという傾向がわかってきた。ただ、タヌキは生息地も産地から海岸、農耕地から都市にまで及ぶため、場所ごとの変異が大きいため、その全体像を把握するためには各地での分析例を増やす必要がある。これまで関東地方以外では東北地方、中部地方などで少数例があるだけで、西日本では全体に分析例が乏しい。これまでのところ九州と四国で少数の分析例があるに過ぎない。私は愛媛県の稲葉正和氏の協力を得て、佐多岬のタヌキの糞分析をしたことがある(こちら)。ここでは冬にミカンが食べられるのが特徴的だった。また高知県の各地の交通事故死体のタヌキの胃内容物を分析したこともある(こちら)。
 今回、稲葉氏から連絡があり、松山市郊外で確実にタヌキのフンが得られるので採取したという連絡があったので、分析することにした。

方法 
 松山市の位置は四国の西側で、調査地は松山市の南側で平地が山に接する辺りである。西側には住宅地があるが、東側は農耕地で里山的環境といえる。


松山市の位置と調査地(赤丸)と周辺の状態

 これまでと同じく、フンを0.5 mm間隔のフルイ上で水洗し、残滓をポイント枠法で分析した。採集期間は2022年の5月からで2023年4月で完了した。

結果
 糞組成の月変化を示したのが次のグラフである。全体の傾向を見ると5月は多くの食物が少しずつ含まれていたが、6月以降は果実が増え、人工物が減った。7月になると果実がさらに増え、人工物は出なくなった。8月になると作物が少し増え、昆虫もやや増えた。9月になると昆虫が大幅に増え、作物は非常に少なくなった。10月になると昆虫が大きく減って作物が非常に多くなり、この傾向は1月まで続いた。ただし、12月までは人工物は少なかったが、1月、2月は10%ほどを占めた。2月以降は昆虫などが増えて果実は減った。このようにこの調査地のタヌキは果実に依存的であると同時に秋以降は作物(コメ、カキノキ、ゴマ、サツマイモなど)を多く食べ、冬と初には人工物(輪ゴムなど)も食べるという傾向があった。これは農耕地に近い場所に生息することをよく反映していた。


松山市郊外のタヌキの糞組成の月変化

 主要食物の月変化は次のとおりである。
 動物質は全体に少ないが、9月の昆虫は多く、2月以降もやや多くなった。

昆虫の月変化

 果実・種子は最も重要な食物で、7-1月に50-60%を占め、安定的に多かった。
 
果実・種子の月変化

 支持組織(繊維、稈など)は少なく、ほぼ10%未満であった。


支持組織の月変化

 作物は果実・種子についで重要で、10月をピークにほぼ富士山型を示した。

作物の月変化

 次に種子について、どこかの月で5%以上になったものを取り上げると6種に限られた。そのうち野生植物はエノキのみで7月と12月に7-8%を占めた。


 クワはヤマグワと区別できないが、栽培のクワであるとすると野生植物ではないことになる。これは7-9月に6-12%を占めた。


 作物としてはコメが毎月検出され、5,6月、8月、10月に10%を上回った。籾殻もあったから、生育中のもの、落穂などを食べたものと思われる。ムギは3月に13%となった。



 ゴマは11-12月を中心に多く検出されたが、ゴマの畑は未確認であり、個人菜園的な場所で確保しているのかもしれない。



 多くないがキウイフルーツの種子も検出され、7月と2月には5%以上になった。サンプルによればかなり多いものもあり、果肉も確認された。



 カキノキは畑で栽培される作物ではなく、農家の庭などに植えられる果樹であり、10月以降利用され、特に10月に多かった。



 このように本調査地のタヌキは種子から見ても栽培植物に依存的だといえる。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
以下は各月の記述である。

  5月の組成は多様で、果実(21.7%)、葉(15.6%)、昆虫(14.5%)、人工物(14.0%)がやや多かった。作物はコメ(米)で5.3%であった。人工物は厚いゴムの破片であった。


2022年5月の検出物。格子間隔は5 mm

 6月になると果実が32.1%に増え、昆虫が6.0%に減った。種子ではキイチゴ属、マタタビ属などが検出された。マタタビ属、私はサルナシだと思ったのだが、稲葉氏によればサルナシは山地にしかなく、キウイフルーツであろうということであった。作物はやはりコメとキウイフルーツで10.2%であった。1例だがカタツムリの殻と「フタ」が検出された。人工物はゴム手袋であった。
 このように、地方都市郊外のタヌキらしく、作物(コメ)や人工物(ゴム手袋)なども含む多様な食性を示しているようである。


2022年6月の検出物。格子間隔は5 mm

 7月は果実と種子がさらに増加し、果実は51.6%、種子は16.5%になった。作物はコメとキウイフルーツで6.2%であった。種子ではエノキとクワが多く、センダンも検出された。多くの場所では夏に昆虫が増えるが、ここではむしろ少なくなってわずか2.4%に過ぎなかった。太い羽軸が検出され、大きめの骨もあったことから、ニワトリが食べられた可能性がある。ただし、羽毛部分は見られていない。作物は主にコメで6.2%であった。厚いゴム片と輪ゴムが検出されたが、量的には少なく0.7%に過ぎなかった。


2022年7月の検出物。格子間隔は5 mm

 8月にも果実は重要で44.0%を占め、種子は9.7%で7月よりはやや少なくなった。種子ではクワ、エノキが多かったが、ギンナン、センダン、ムクノキも検出された。昆虫は11.0%に増え、作物も12.3%に増えた。作物はコメが主体で一部キウイフルーツもあった。8月も太い羽軸が検出された。人工物としてはアルミホイルと輪ゴムが検出された。

2022年8月の検出物。格子間隔は5 mm

 9月になると昆虫が35.4%で最も多いカテゴリーになった。このうち10.5%は卵であった。果実は24.3%で大幅に減少した。種子のほとんどはクワで、作物、人工物はほとんど見られなくなった。9月に果実が減少した意味は不明だが、作物や人工物をほとんど食べていないことから、食物が乏しいのではなく、昆虫が得やすくなったため、そちらを主に食べるようになったためと思われる。


2022年9月の検出物。格子間隔は5 mm

 10月には大きな変化が認められた。一つは作物(主にコメ)が大幅に増えて26.6%になったことである。これにはカキノキの種子も含む。またゴマの種子も10.6%出現し、頻度も高かった。したがって、作物が38.0%に上った。果実も増えたが、39.4%であり、8月の44.0%には及ばない。昆虫が9月の35.4%から4.1%に大幅に減ったことも大きな変化だった。人工物としては糸が検出された。タヌキの食物環境としてはコメやゴマがみのり、カキノキも結実したことで昆虫や野生植物の果実をあまり食べなくて良くなったと思われる。

2022年10月の検出物。格子間隔は5 mm

 11月になると果実がさらに増え、52.6%に達した。作物ではゴマ(こちら)が増え、カキノキの果実は減った。そのほかの成分は少なく、昆虫は1.0%に過ぎなかった。人工物はゴム製品が検出されたが、1.8%に過ぎなかった。

2022年11月の検出物。格子間隔は5 mm

 12月の糞組成は10月と似ていた。果実は53.3%で10月の52.6%と同レベルであった。作物ではゴマ(こちら)がさらに増えて28.0%となり、カキノキの果実は減った。そのほかの成分は少なく、昆虫は1.6%、人工物(ゴム製品)は1.4%に過ぎなかった。
 ごまを取り上げると、9月から出現しはじめて10月以降急増し、12月には糞の内容がほとんどゴマばかりのようなものさえあった。



2022年12月の検出物。格子間隔は5 mm

 2023年1月になると少し変化が見られた。果実がほぼ半量を占めるのはこれまでと同様であったが、種子と作物は大幅に減少し、人工物が増えた。作物の減少はゴマが少なくなったことにある。人工物はゴム片であった。


2023年1月の検出物

 2023年2月になる果実がさらに減り、昆虫などがやや増えた。注目されたのは、1例からカメが検出されたことで、手、尾、甲羅の破片が確認された。そのほか骨、腸などもカメのものと思われた。調査地にはため池が多く、ミドリガメがいるとのことであり、砥部動物園の前田園長や専門家の見解で、ミドリガメであることが確認された。

2023年2月の検出物(植物)
2023年2月の検出物(動物)

2023年2月の検出物(人工物)

 なお2月下旬からセンサーカメラを設置し、健康そうな複数のタヌキが訪問することが確認された。

2023.2.25 撮影

3月の糞組成は基本的に2月と似ていた。種子がやや増えたが、センダン、サクラ、キウイフルーツなどであった。なお、ドングリが未消化のまま検出された。タヌキの糞からはドングリがほとんど検出されず、これが食べようとして食べたかどうか不明である。作物としては2月に検出されたサツマイモは検出されず、コメ、ムギが見られた。人工物としてはゴム片、輪ゴムなどが検出されたが、ポリ袋はなく、残飯や腰袋などを食べるのではないようである。この組成は昨年の5月に近づいており、このまま推移していくものと思われる。

2023年3月の検出物(植物と作物)


2023年3月の検出物(動物質と人工物)

 4月は、予測としては去年の5月に近づくと思っていたのですが、そうでもありませんでした。まず昆虫が予想以上に多かったことで、最多の9月に次ぐ値でした。作物は追う少しあると予想していたのですが、少ない結果で、これは去年の5月に近いとは言えません。人工物は3月にもでて、5月にも出ているので、あっていいのですが、全くありませんでした。そういうわけでグラフの動きは滑らかではありませんでしたが、この程度のばらつきは不思議ではありません。オランダイチゴの「へた」と思われるものが出てきたので、これも農地が近いことを反映しているようです。

2023年4月の検出物
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千葉県佐倉市のタヌキの食性 

2023-03-22 18:01:19 | 調査
千葉県佐倉市のタヌキの食性

高槻成紀・原 慶太郎

 タヌキの食性は関東地方を中心にかなりわかってきた。これまでの報告例の生息地をタイプわけすると、市街地、東京都心の皇居のような大きな緑地、里山、二次林を含む自然植生にわけられる。タヌキはそれぞれの環境に応じて食性を変化させる柔軟性をもつ。それだけにより多くの事例報告が蓄積されるのがのぞましい。
 今回、原慶太郎氏から、千葉県佐倉市の自然公園の一部でタヌキのため糞があったので分析してもらえないかと提案があった。原氏は古くからの知人であり、景観生態学研究者でもあり、この場所の観察や調査もしておられるので、ただの食性分析よりも、環境のことを調べながら進められそうだという期待もあり、引き受けることにした。

 場所は図1-1の通りで、佐倉市の北西部、北総台地に谷津が接している場所で、図1-2の空中写真を見ると、雑木林と耕作地がモザイク状に混在する地域である。

図1-1 調査地の位置図

図1-2 調査地の空中写真

 <2023年1月>
 1月21日に採取された13の糞サンプルを分析したところ、極めて単純であることがわかった。すなわち果実と種子で90%を占めていた。この全てはムクノキの果実と種子であった。そのほかでは、2例でゴム片がに比較的多く含まれていたにすぎない。


図1-3. 佐倉(左)と他の2カ所での1月のタヌキの糞組成

 タヌキは雑食性なので、10個の糞があれば、数個に同じ食物が含まれていることはあっても、そのほかの糞には別のものが含まれているのが普通であり、全ての糞で果実だけが優占していることは珍しい。しかもそれがムクノキただ1種であったことは、これまでの報告でもなく、私自身の分析でも経験していない。
 図1-3には、参考までに浦和市の浦和商業高校と愛媛県松山の里山で調査した1月の結果を合わせて示した。浦和でもムクノキ果実は検出されたが、他にも植物の葉、茎などの支持組織、昆虫なども検出され、組成は多様であった。松山ではキウイフルーツなど果実が多く、ゴマ、米、カキノキなど「作物」としたもの、ゴム片などの人工物なども目立つなど、いずれも佐倉のように単純な組成ではなかった。

 ムクノキはタヌキが好んで食べる果実だが、多くの場合、エノキの果実が一緒に出てくる。原氏によれば、ため糞場の近くにムクノキが多い樹林があるということなので、タヌキはこの季節にはもっぱらムクノキ果実を食べているのであろう。なお微量ではあるがゴマの種子も検出された。

 図1-4には検出物を示した。

図4. 2023年1月の検出物

<2月>
 2月19日に回収された糞の状態は図2-1のようであった。

図2-1. 2023年2月19日のため糞(原慶太郎撮影)

 糞の組成をその後のものを含め図2-2に示した。1月の糞がムクノキの果実と種子だけだったのに対して、2月には果実全体は減少し、ムクノキ以外の果実が増え、種子も減少した。代わって作物が増えたが、大半はサツマイモであった。人工物としてはゴム片が検出された。ムクノキ種子は1月の26.0%から4.6%に減少した。そして1月にはなかったエノキが3.5%検出された。エノキとムクノキの果実は夏の終わりから落下しているから、1月にエノキを食べていなかったのは、なかったからではなく、ムクノキを確保する方が効率的だったからであろう。したがって今回エノキ果実が検出されたのは、ムクノキ果実をほぼ食べ尽くし、1月にもあったが食べていなかったエノキ果実も食べるようになった可能性が大きい。2例でサツマイモが多く出たが、これは農耕地に生息するタヌキらしい食性といえる。つまり2月になったら、これまでムクノキ果実だけに依存的であった状況を脱し、他の食物を探しながらややメニューが拡大したといえる。


図2-2.  佐倉の2023年3月までのタヌキの糞組成

 糞中のサツマイモと思われる物質を潰して確認したところ、澱粉粒が確認された(図2-3)。これは市販のサツマイモとも、インターネットで確認したものとも符合した。


図2-3 検出された澱粉粒(A)と市販のサツマイモの澱粉粒(B)
およびインターネットのサツマイモ澱粉粒(C)


図2-4 2月の糞からの検出物

<3月>
 3月20日に採集した10例のサンプルを分析した。3月になると果実と種子が減少し、植物の支持組織(主に繊維)が増えた(図3-1)。果肉は識別できなかったが、果皮にはムクノキが少量含まれていた。種子はエノキとムクノキが全体でそれぞれ1個と2個あったにすぎない。2月よりは昆虫が増えたが、幼虫が主体であった。葉が14.0%であったが、枯葉(5.6%)が多く、イネ科(4.4%)がこれに次いだ。農作物として2月に多かったサツマイモは少なく、籾殻が見られた。人工物としては2例でゴム片が検出された(6.0%)。
 全体的に3月は地上に残っていた果実類も少なくなり、新しい果実はないため、また農閑期でもあるために、タヌキにとって食物が乏しい月といえる。1月から2カ月しか経過していないが、内容が大きく変化した。このことも里山農耕地のタヌキの食性の特徴であるかもしれない。

図3-1. 3月の糞からの検出物

<4月>
これまで利用されていた「ため糞場」は利用されなくなったので、少し離れた場所に見つけたため糞場でサンプリングした。
4月になるとフンの組成は 大きく変化した。これまで多かった果実が非常に少なくなった。また安定的に検出されていたムクノキの種子が 全く検出されなくなった。これに対して、これまで少なかった昆虫が56.2%と大きく増加した。また 作物と識別されるものは検出されなくなった。
このような違いはサンプリングの場所が違ったことにも影響されるかもしれないが、場所の違いよりも、季節的な違いの方が大きいと思われる。4月は新しい草本類などが生育し始め、タヌキにとっては利用しやすいはずだが、糞中の植物の葉は特に多くなったわけではない。この時期、作物はあまりないものと思われる。タヌキはおそらく摂取しにくい小さな昆虫を探して食べていたものと思われる。その意味では、4月がこれまでよりも食物事情が良くなったとはいえないのかもしれない。しかし人工物も検出されなかったので、食料事情がそう悪くなかった可能性もあり、現段階では判断を保留したい。

継続中

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タヌキの食性

2023-01-31 09:15:44 | 研究
タヌキの食性: 北から南へ


宮城県仙台市 
高槻成紀・岩田翠・平泉秀樹・平吹喜彦. 2018. 仙台の海岸に生息するタヌキの食性 ―東北地方太平洋沖地震後に復帰し復興事業で生息地が改変された事例―. 保全生態学研究, 23: 155-165. こちら

埼玉県浦和市 高槻成紀・小林邦夫 Seasonal changes in the diet of urban raccoon dogs in Saitama, eastern Japan. Mammal Study, accepted.

千葉県佐倉市 高槻成紀・原 慶太郎 こちら 分析中

東京都日出町 
Hirasawa, M., E. Kanda and S. Takatsuki. 2006. Seasonal food habits of the raccoon dog at a western suburb of Tokyo.  Mammal Study, 31: 9-14. こちら 

東京都日出町 
Sakamoto, Y. and S. Takatsuki, 2015. Seeds recovered from the droppings at latrines of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides viverrinus): the possibility of seed dispersal.
 Zoological Science, 32: 157-162.   こちら   

東京都裏高尾
東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –. 高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020. 哺乳類科学, 31: 67-69. こちら

東京都小平市 
高槻成紀. 2017. 東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性. 人と自然, 28: 1-9. こちら

東京都八王子市 
Takatsuki, S., R. Miyaoka and K. Sugaya. 2018. A Comparison of Food Habits Between Japanese Marten and Raccoon Dog in Western Tokyo with Reference to Fruit Use.         
Zoological Science, 35(1): 68–74 . こちら

東京都八王子市 
高槻成紀・山崎 勇・白井 聰一. 2020. 東京西部の裏高尾のタヌキの食性 – 人為的影響の少ない場所での事例 –. 
哺乳類科学, 31: 67-69. こちら  

東京都明治神宮 
高槻成紀・釣谷洋輔. 2021. 明治神宮の杜のタヌキの食性. こちら

愛媛県諏訪崎 
Takatsuki, S., M. Inaba, K. Hashigoe, H. Matsui.          Opportunistic food habits of the raccoon dog – a case study on Suwazaki Peninsula, Shikoku, western Japan. Mammal Study, 46: 25-32. こちら

愛媛県松山市郊外 こちら 分析中

高知県 
高槻成紀・谷地森秀二.      高知県とその周辺のタヌキの食性 – 胃内容物分析–.   哺乳類科学, 61: 13-22. こちら

場所特定せず 高槻成紀. 2018.    タヌキが利用する果実の特徴 – 総説. 
哺乳類科学, 58: 1-10.    こちら

このような記述的な研究により、タヌキの食性がきわめて多様であり、可塑的であることがわかってきました。しかしまだ未知の場所が広く残されています。北海道や九州などの方で、タヌキの糞が確実に確保できる人は分析を引き受けますので、ぜひご協力ください。

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玉川上水の植生状態と鳥類群集 謝辞

2022-12-20 09:46:16 | 研究

謝 辞
調査には以下の方の協力をいただきました。朝日智子,足達千恵子,有賀喜見子,有賀誠門,大西治子,大原正子,尾川直子,荻窪奈緒,小口治男,加藤嘉六,菊地香帆,黒木由里子,輿水光子,近藤秀子,笹本禮子,澤口節子,関野吉晴,高槻知子,高橋健,田中利秋, 田中操,棚橋早苗,辻京子,豊口信行,永添景子,長峰トモイ,春山公子,藤尾かず子,松井尚子,松山景二,水口和恵,安河内葉子,リー智子。放送大学の加藤和弘教授には貴重なアドバイスをいただきました。また玉川上水での調査には東京都環境局から(書類「3環自緑180」),現地への立ち入りには水道局から(書類「3水東浄庶101」など)許可をいただきました。これらの方々,部局にお礼申し上げます。

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玉川上水の植生状態と鳥類群集 考察

2022-12-20 09:45:38 | 研究
論 議
鳥類群集と生息地の植生
都市鳥類と緑地の関係については多くの研究があり,緑地面積やその構造が鳥類群集の種数や個体数に影響を与えることが示された(樋口ら 1985,加藤 1996など)。本研究はこれらを参考にしつつ,東京に残された貴重な緑地帯である玉川上水の植生状態が大きく異なる4カ所を選んで,植生状態と鳥類群集との対応関係を明らかにすることを目的とした。
調査した4カ所の人口密度と緑地率を比較すると,おおむね西から東に向けていわゆる「都市化」が進んでいるから,人口密度が高くなり,緑地率は杉並以外は30%前後で杉並が21.8%と低いことがわかる(付表4)。つまり自然度が「西高東低」となっている。しかしその全体傾向とは違い,玉川上水沿いの樹林はさまざまな理由によりこの「西高東低」になっていない。西にあるのに樹林が貧弱であったのが小金井で,サクラ以外の樹木が皆伐されたために多様度が極端に低く,樹高も低く,低木層の被度も4カ所中最も小さかった。逆に東にあるのに樹林が豊かであったのは三鷹で,ここでは玉川上水が面積の広い井の頭公園を通過するので樹林は連続的である。
このような樹林帯の違いは鳥類群集に強い影響を与えていた。最も特徴的なのは鳥類の個体数とその内訳であった(図9)。樹林帯が豊かな小平と三鷹では鳥類の種数と個体数が多く,内訳は樹林型,非都市型,都市樹林型など森林性の種が多かったが,樹林幅の狭い杉並では個体数が少なく,都市オープン型の割合が大きかった。そして樹林が貧弱な小金井では鳥類の個体数が最も少なく,内訳では都市オープン型が多かった。つまり樹林が貧弱であると森林性の鳥類が少なくなる可能性が示唆された。
個別に検討すると,三鷹の井の頭公園の部分は玉川上水沿いの樹林帯を包み込むように樹林が続いており(図4),植被率も60%と4カ所中最も大きかった(表1)。鳥類の個体数が玉川上水沿いの樹林内と樹林外のどちらでも多かったことはこのことと対応する(図8)。
小平では多くの樹林調査の測定項目の数値も三鷹についで2位であった(表1)。小平に特徴的だったのは,鳥類個体数が玉川上水沿いの樹林の内側では4カ所中最多であったのに対して,外側では最少であり,両者の違いが著しかったことである(図8)。このことは,小平では樹林帯が広く,鳥類の生息に適しているが,その外側の多くは住宅地であるために鳥類の生息には不適であるためだと考えられる。
このことは繁殖期と越冬期においても基本的に同様であったが,繁殖期は小平と三鷹でほぼ同様であったのに対して,越冬期には小平が目立って個体数が多かった(図10)。その理由は不明だが,以下のような可能性がある。冬季はカラ類などが混群を形成し,葉を落とした落葉樹林で採餌したり,猛禽類やカラス類から逃れようとして常緑樹林や宅地の庭の緑に逃げ込むのがみられる。このことが小平と三鷹の井の頭公園の植生の状態と関連する可能性がある。小平では玉川上水沿いの樹林帯の幅が広く(表2),低木類も多いのでカラ類の混群がよく見られると同時に,玉川上水に隣接する津田塾大学にシラカシ林があるので(図4A),ヒヨドリやカラ類の混群が集中し,センサス時にもここで多くの鳥類が記録された。これに比較すると井の頭公園では玉川上水沿いの樹林は公園の樹林と連続し(図4C),常緑樹が分散するため小平のように混群が玉川上水の樹林帯に集中することが少ない。ここでも混群は観察されるが,上水内は見通しがきかない中低木の常緑樹があるため,センサス時には発見しにくく、記録されなかった可能性は否定できない。
杉並では三鷹,小平に比較すると鳥類が乏しかったが(表2),これは玉川上水沿いの樹林帯の幅が狭く(表1),しかも両側に大型道路が走っており,周辺に緑地が少ないこと(図4)にも関係していると考えられる。
小金井は鳥類が最も貧弱であった。種数は4カ所中で最少の19種で,最多の三鷹の29種より大幅に少なかった(表2)。しかもセンサスルートの距離は小金井のほうが三鷹(1.4 km)よりも長かった(1.6 km,表2)。ここの植生はサクラが散在するだけなので植被率も低く,樹高も低く(表1),鳥類の生息には適していない可能性がある。小金井のサクラは樹高の平均値が7.5 mであり,この結果は生息地の樹高が8 m未満になると鳥類の種数が少なくなるというMaeda (1998)の指摘を支持する。また低木層の植被率も小金井は19%と小さく(表1),加藤(1996)の低木層の被度が小さくなると鳥類の種数が少なくなるという指摘を支持する。小金井の場合は杉並と違い,周辺に広い緑地として小金井公園があるが,玉川上水とは離れており,その間に五日市街道があって隔離されている(図4)。そして玉川上水沿いの樹木としてはサクラしかなく,餌や隠れ場も少ないので,小金井公園にいる鳥類も玉川上水沿いの緑地はあまり利用しないのかもしれない。鳥類生息地の周辺の緑地の重要性は鵜川・加藤(2007),加藤・吉田(2011),加藤ら(2015)でも指摘されており,杉並で鳥類がかなり乏しかったことも,周辺の緑地が乏しかったこと(図4)を反映している可能性がある。
鳥類の多様度を場所間で比較すると,種数,個体数,タイプ分けほどの違いがなかった。多様度は種数と上位種の占有率によって決まる。樹木の多様度は,小平,三鷹,杉並では第1位の樹種の占有率が35-79%と比較的小さいために多様度指数は大きかったのに対して,小金井はサクラが99%を占めていたために多様度指数が極端に小さかった(図6A, B)。これに比較すれば,鳥類の多様度は小金井が最低ではあったが,他の場所よりも極端に小さいということはなかった(表2)。シャノン・ウィーナーの多様度指数は小金井が3.35で最大の三鷹の3.65と違いは小さく,シンプソン指数は小金井と小平で違いがなかった(いずれも0.875)。この理由は個体数が最多であった種の占有率が場所ごとに違いが小さかったためである。すなわち,小金井ではムクドリが21.0%,小平,三鷹,杉並はヒヨドリがそれぞれ20.4%, 18.0%, 19.1%であった。

鳥類群集の季節変化
調査した4カ所では鳥類の個体数はかなり大きな季節変化を示した(図7)。これを東京都の他の緑地での鳥類群集の調査と比較すると,赤坂御用地では本調査と同様に夏に鳥類群集の種数と多様度指数が減少した(濱尾ら 2005)。中でもヒヨドリは8, 9月には記録されなかったが11月に急増し,本調査と同様のパターンをとった。シジュウカラは5月に最多となった後減少し,本調査とおおむね同様なパターンをとった。メジロも6月に最多となり,9月に最少となった後回復するという本調査と同様のパターンをとった。皇居でも同様で,多様度指数は9月に最小となり,春と冬には大きかった(西海ら 2014)。そしてヒヨドリ,シジュウカラ,メジロは9月に最も少なくなった。このように本調査で得られた玉川上水での鳥類群集の季節変化は他の東京の緑地のものと基本的に同様であると考えられた。

緑道の連続性と生物多様性の視点
本調査は都市緑地における鳥類の種数や個体数の実態を樹林の状態との関係に着目して記述した。鳥類の種数と個体数が最も貧弱であった小金井地区は「史跡玉川上水整備活用計画」(東京都水道局 2009)により1.6 kmほどの範囲でサクラだけを残して他の樹木が皆伐された。ここでは文化財としての桜並木復活が優先されたが,本調査の結果は,このような樹林管理が鳥類にマイナスの影響を与える可能性を示した。この範囲周辺では桜並木のためにさらに伐採する可能性がある。しかし東京都が重視する生物多様性保全を考えれば,これ以上の伐採は再検討する必要があろう。
これまでにも玉川上水の植生管理において,住民の安全という面からサクラ類だけを残すと風害に遭いやすいなどの問題があることが指摘されたし(高槻 2020),保全活動のシーンでは樹種をとりあげて「サクラを残すか,ほかの樹木も残すか」という樹林管理についての議論がおこなわれてきた。これに対して,本調査は初めて生物多様性保全の視点にたち,樹林管理が鳥類群集に波及する可能性を示した。今後の都市緑地管理においては生物多様性保全の観点を取り入れ,樹林の状態と鳥類をはじめとする生息動物との関係にも配慮されることを期待したい。

付記
* 1:測定した樹木の測定部位に瘤などがあった場合はその直下で測定し,樹幹の断面が楕円形などに歪んでいる場合も周長を測定した。一部に上水の肩部に生えた樹木があり,危険なので,塩化ビニールパイプで作ったT字状の器具で,2方向から精度1 cmで直径を測定し,平均直径を求めた。予備調査によれば胸高周測定から求めた直径D1と,T字状器具で測定した直径D2では最大でも5%しか違いがなかった(n = 30)。
*2:樹林が一様である小平と小金井ではそれぞれ3カ所と4カ所をとったが,三鷹では井の頭公園の樹林が広がる場所とその下流の住宅地内の帯状区で違いがある可能性があったので6カ所とった。杉並も場所により道路との関係で帯状区の幅に変異があったので5カ所とった。
*3:玉川上水は掘削されたために水路の両側はほぼ垂直の壁面となっている。岸の肩部分の外側には歩道があり,安全のために柵が設置されている。この柵から壁面の「肩」の間に樹林帯があり,その幅は場所により違いがある。
*4:小平では大出水幹男がカウントをおこない,尾川直子が補足し,高槻成紀が記録をした。小金井では大石征夫が一人でカウントと記録をした。三鷹では鈴木浩克がカウントし,菊池香帆が記録をした。杉並では大塚惠子がカウントし,田中操,黒木由里子,高橋健が補足と記録をした。


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玉川上水の植生状態と鳥類群集 結果

2022-12-20 09:44:26 | 研究
結果
1)樹林調査
A. 植被率と樹高
植被率と樹高の測定結果を表1に示した。調査範囲内の植被率は三鷹(60.6%)と小平(56.1%)が高く,杉並が40.3%でこれらに次ぎ,小金井が5.1%と極端に低かった(表1)。


玉川上水沿いの樹林帯での植被率は小金井以外は80%以上であったが,小金井だけが11.1%と極端に低かった。低木層の植被率は三鷹(61.9%),小平(47.7%),杉並(38.0%)の順で小さくなり,小金井が19.0%と大幅に小さかった。
樹高は三鷹と小平で15 m以上と高く,杉並がこれらに次ぎ,小金井は7.5 mと低かった。

B. 胸高断面積
各調査区で樹種ごとの胸高断面積の合計値を算出し,主要種をとり上げたところ場所ごとに違いが明瞭であった(図5)。


小平ではコナラQuercus serrata,クヌギQ. acutissima,イヌシデCarpinus tschonoskiiなどの落葉樹が多かった。小金井ではサクラ類Cerasus spp.だけで構成されており,合計値は16,000-20,000 cm2/100 m程度であった。三鷹では,20,000 cm2/100 mを超えた場所が2カ所あった。内訳は調査区ごとに多様で,ムクノキAphananthe asperaが多い調査区,シラカシQ. myrsinifoliaが多い調査区,ケヤキZelkova serrata,イヌシデが多い調査区があった。杉並で平均28,000 cm2/100 m前後で,45,000 cm2/100 mあった調査区もあった。ただし10,000cm2/100 m程度の調査区もあった。内訳はサクラ類が多い場所が3カ所,ヒノキChamaecyparis obtusaが多い場所が1カ所あったほか,エノキCeltis sinensis var. japonicaが多い調査区もあり,多様であった。

C. 樹林の多様度
4カ所の樹林の胸高断面積によるシャノン・ウィーナーの多様度指数H’を図6aに示した。指数はすべての樹木をもとにした指数1と,直径10 cm以上の樹木だけをもとにした指数2を算出した。これによると帯状区3,13,1など多様度指数2が指数1よりやや小さい場合があったものの大きな違いはなく,ほとんどの調査区では両者が連動していた(図6a)。


これらに対して小金井ではサクラ類しかなかったので,多様度指数は極めて小さかった。シンプソンの多様度指数Dも基本的に同じで,杉並に1カ所値の小さい帯状区があったものの,小平,三鷹,杉並では大きく,小金井だけが著しく小さかった(図6b)。



2) 鳥類群集
A. 鳥類群集の個体数,密度,多様度
表2には鳥類の個体数を示したが,この数字は各調査時での発見個体数を調査区の長さ1 kmに換算した数字を7回分合計したもので,個体数の多寡の指標とした。樹林帯の幅は小平が35 mと最も広く,小金井と三鷹が20 m,杉並が15 mで最も狭かった(表2)。



個体数は小平が最多の673.1羽で,三鷹がこれに近く(640.0羽),杉並が466.2羽と少なく,小金井が小平,三鷹の半分以下(283.4羽)であった(表2)。このことは樹林帯の幅が広いほど鳥類の個体数が多いことを示唆する。鳥類群集の多様度指数のうちシャノン・ウィーナーの多様度指数H’は三鷹(3.65),小平(3.44),杉並(3.43),小金井(3.35)の順で小さくなった。一方,シンプソンの多様度指数Dは三鷹(0.894)と杉並(0.891)が近く,小平(0.875)と小金井(0.873)がやや小さく接近していた。樹木の多様度では小金井だけが極端に指数値が小さかったのに比較すれば,鳥類の多様度指数は違いが小さく,小金井だけが目立って小さいということはなかった。
 これらの項目を繁殖期と越冬期で比較したところ,個体数は全ての場所で越冬期の方が多かった(表3)。


 これはヒヨドリのような漂鳥が夏には少なくなり,秋に戻ってくることなどによるものと考えられる。種数は小平では越冬期の方が2種少なく,そのほかではやや多かったものの,違いは小さかった。多様度は季節の違いはほとんどなかった。場所ごとには種数,個体数,多様度いずれも小平,三鷹,杉並,小金井の順で小さくなった。ただし多様度は小平と三鷹,杉並と小金井がほぼ同じであった。

B. 個体数の季節変化
 個体数の季節変化を見ると,最も多かった小平では1月から次第に少なくなり9月に最低値に達した後急増して12月に最大値となるV字型をとった(図7)。



 次に多かった三鷹ではほぼ同様のパターンをとったが12月は小平ほど多くはならなかった。杉並ではやや乱高下し,5月が最多で7月が最少だった。最も少なかった小金井ではほぼ常に最低値であった。その結果多くの月で小平,三鷹,杉並,小金井の順であったが,9月だけは4カ所の値が接近した。

C. 玉川上水沿いの樹林帯内外の鳥類
玉川上水沿い樹林帯の内側と外側で記録された鳥類数を図8に示した。樹林調査により鳥類の生息環境としての樹林の多様度は小平,三鷹,杉並,小金井の順に小さくなることがわかったので,図8ではこれに対応して鳥類の個体数の合計値をこの順に並べた。


 樹林帯の内側の個体数は小平が非常に高く,三鷹と杉並が半数程度で,小金井が最少であったが,外側は小平で少なく,三鷹は内側以上であった。杉並は内側の8割程度,小金井では内側とほぼ同じであった。なお,4カ所全体で樹林帯の内側と外側の個体数を比較すると(付表2),内側が多かったのはウグイスCettia diphone,エナガAegithalos caudatus,メジロZosterops japonicus,コゲラDendrocopos kizuki,シジュウカラParus minor,などであり,外部の方が多かったのはハシボソガラスCorvus corone,スズメPasser montanus ,ホンセイインコPsittacula krameria manillensisなどであった。ドバトColumba livia,ハシブトガラスCorvus macrorhynchosなどは内外の違いが小さかった。

D. 鳥類群集のタイプ分け
次に鳥類群集の内訳を鳥類の生息地利用のタイプによって類型別に比較した(図9)。


 各タイプで個体数の多かったのは次の通りである。樹林型:エナガなど,非都市型:ウグイスなど,都市樹林型:シジュウカラ,ハシブトガラス,メジロなど,都市オープン型:ムクドリ,スズメなど,ジェネラリスト:ヒヨドリ,キジバト,ハシボソガラスなど,その他:オオタカなど。
個体数が最多であった小平では都市樹林型が最も多く,ジェネラリストがこれに次いだ。三鷹もほぼ同じであったが,都市オープン型が小平よりやや少なく,樹林型がやや多かった。杉並では都市樹林型が三鷹の半分ほどで,ジェネラリストも少なかったが,都市オープン型は小平,三鷹の2倍以上と多かった。小金井では都市樹林型が杉並の半分以下になり,ジェネラリスも少なかったが,都市オープン型は杉並と同程度であった。杉並と小金井には樹林型はほとんどなかった。
 相対値では,小平と三鷹では都市樹林型が49%前後を占めたが,杉並では36%,小金井では23%と少なくなったのに対して,都市オープン型はこの順で12%,5%,26%,36%と多くなった。ジェネラリストはどこでも30%台であった。つまり樹林の幅が狭くなり,樹木の胸高断面積合計が小さくなり,種数が単純になるという樹林の貧弱化に伴い,鳥類の個体数は少なくなり,内訳は都市樹林型と樹林型は少なくなり,都市オープン型が多くなった。
以上は7回の調査の合計数であるが,繁殖期と越冬期では鳥類の生活の意味も違うので,繁殖期の5, 7月と,越冬期の1, 12月とを取り上げて図9と同様の比較をした(図10)。


繁殖期は通年の結果と似ており,小平と三鷹では都市樹林型が多く,杉並と三鷹で都市オープン型が多かった(図10A)。越冬期は小平が目立って多く,内訳を見ても都市樹林型が非常に多く,都市オープン型も多かった(図10B)。三鷹はこれら(都市樹林型と都市オープン型)は少なかったが,ジェネラリストはやや多く,相対値は過半数となった(図10B)。杉並では三鷹よりも都市オープン型が多かった。小金井では都市樹林型が非常に少なく,都市オープン型がこれを上回った。全体としては季節分けをしても通年と基本的には似ていたが,越冬期には小平で都市樹林型が目立って多いという点が違った。
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