高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

もくじ

2018-06-11 08:21:00 | もくじ
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最近の動き new

 今進めている生き物調べの報告 new!

私の著書 
最近の論文 new
それ以外の著作 new
最終講義
退職記念文集「つながり」
唱歌「故郷」をめぐる議論


研究概要
 研究1.1 シカの食性関係
 研究1.2 シカと植物
 研究1.3 シカの個体群学
 研究1.4 シカの生態・保全
 研究2 調査法など
 研究3.1 その他の動物(有蹄類
  その他の動物(食肉目)
  その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)
  その他の動物(哺乳類以外)
 研究3.2 その他の動物(海外)
 研究4 アファンの森の生物調べ
 研究5 モンゴル(制作中)
 研究6 野生動物と人間の関係
 研究7 教育など
 研究8 その他

業績
 論文リスト 2010年まで
 論文リスト 2011年から
 書籍リスト
 総説リスト
 書評リスト
 意見リスト

エッセー
 どちらを向いているか:小保方事件を思う 2011.4
 皇居のタヌキの糞と陛下 2016.10
 バイリンガル 2018.6.11

2017年の記録
2016年の記録
2015年の記録
2014年の記録
2013年の記録
2012年の記録 6-12月
2012年の記録 1-5月
2011年の記録


その他
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「人間の偏見 動物の言い分」の書評

2018-06-10 08:10:22 | 私の著作
6月10日の読売新聞の書評欄に宮部みゆきさん(作家)が素敵な書評を書いてくださいました。

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裏高尾小下(こげ)沢国有林のタヌキの食性 経過報告

2018-06-01 16:34:42 | 報告
裏高尾小下(こげ)沢国有林のタヌキの食性 経過報告

高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)
山崎 勇(高尾の森づくりの会)
白井 聡一(高尾の森づくりの会)


 タヌキの食性は比較的よく調べられており、とくに関東地方では分析例が多い。東京近郊の里山的環境では雑木林の動植物、特に多肉果をよく利用することがわかっている。また多かれ少なかれ人工物(ポリ袋など)も食べることが報告されている。東京西部では日の出町の里山、八王子の多摩森林科学園での分析例があるが、いずれも市街地が近く、人工物が数パーセント検出されている。その点、市街地を離れた森林のタヌキの食性がどのようなものであるかはわかっていない。
 その一例として高尾山の北西部にある裏高尾小下(こげ)沢国有林を含む一帯に生息するタヌキの食性を調べることにした。ここは「高尾の森づくりの会」がボランティア活動をしている場所で、多様で豊かな森の復元を目指し、15年ほど前から広葉樹を植林し、下刈りなどの森づくりの活動を行なっている。また次世代に森林のことを伝える重要性を考え、子供に森づくりの体験をさせる活動なども行っている。森林の管理の一方で、動物の調査も行っており、森林の変化に伴う鳥類の変化や、モニターカメラによる哺乳類の記録なども行っている。こちら 

調査地
 調査地は高尾山の北西3kmほどにある景信山の北西に広がる小木(こげ)沢国有林で、スギ・ヒノキの人工林が広がるが、「高尾の森づくりの会」が広葉樹植林の活動をしており、小規模な伐採地や落葉広葉樹の若い林がパッチ上にある。ただし、付近に人家や市街地はない(図1)。


図1a 調査地の位置(赤線で囲んだ範囲)


図1b 調査地一帯の空中写真(Google earthより)


 タメフンが発見された場所のひとつはモミの大木があり、ヒサカキなどの常緑低木が生育していた(図2)。


図2 タメフンのあった場所の景観の一例(山崎撮影)


方法
 2018年2月より毎月現地を訪問し、発見したタヌキのタメフン場で、同じ排泄と判断されるタヌキの糞を数個採取した。糞サンプルは0.5mm間隔のフルイで水洗し、残った内容物をポイント枠法で分析した。ポイント数は200以上とした。

結果
 これまでに26の糞サンプルを確保し、分析した。
2018年2月のタヌキの糞の組成は果実が31.8%、種子が27.6%でこのふたつで60%近くを占めた。また昆虫が21.7%と比較的多かった。人工物はなかった。このうち種子はエノキ、サルナシ、ジャノヒゲ、マメガキが検出され、エノキは20.3%に達した。
 3月の組成は果実が35.4%、種子が7.4%でこのふたつで40%近くを占めた。また昆虫が30.7%と2月よりも多かった。また人工物としてゴム手袋の破片が検出された。種子の内訳は2月とは大きく違い、エノキは検出されなくなり、サルナシが増え、ヤマグワが2.1%を占めた。
 4月になると、2,3月とは大きく違う内容となった。果実(8.1%)と種子(0.5%)は少なくなり、鳥類の羽毛(18.8%)と哺乳類(23.4%)が増加した一方、昆虫(10.5%)が減少し、枯葉(15.7%)が増えた。
 5月になるとさらに大きな変化が生じた。すなわち、キイチゴ属の種子と果皮が大半をしめる試料が多くなり、合計が66.8%に達した。昆虫も23.2%に増加した。0.5%であるが人工物(ゴム製品)が出現した。


図3 小下(こげ)沢のタヌキの糞組成(2018年)


 果実が重要であることがわかったので、これだけを取り上げる。ただし、果肉は種名がわからないので種子だけを取り上げた。2月にはエノキとジャノヒゲの種子が多かった。また3月にはサルナシとマメガキの種子が多かった。これらは前年に地上に落ちたものを食べたと思われる。4月になると種子はごく少なくなり、もっとも食糧事情が悪くなった。しかし5月になるとキイチゴ属(Rubus)が急増した。


図4 小下(こげ)沢のタヌキの糞から検出された種子の占有率(2018年)


考察
 糞からの検出物では2,3月にエノキ、ムクノキ、サルナシ、ジャノヒゲなどこれまで他の場所のタヌキの糞からも検出されるものが確認された。その中でマメガキの種子が検出された。調査地にはマメガキが植林されている。4月には微量ではあるがカニの脚が検出された(付図3)。
 また人工物は26サンプル中で2例だけでゴム手袋の破片と青色の指サックのようなゴム製品が検出された。都市郊外などで検出されるポリ袋や輪ゴムなどとは違い、残飯を食べたのではないと考えられる。森林施行の関係者あるいは登山者の落し物などであるかもしれない。
 月変化を見ると、2、3月は果実が多かったが、これらはすでに植物体には残っていないから、前年の果実が地上に落ちたものをあさって食べたと思われる。4月にはごく少なくなり、鳥類、哺乳類と枯葉が多くなった。このことは前年の秋の果実をあさって食べていたが、それもなくなり、動物の死体を探すなど、食糧事情の悪い時期を迎えたと推察された。そして5月になるとその状況を脱して、新しいキイチゴの果実を大量に食べたことがわかった。種子からはキイチゴの種は識別できていないが、現地ではモモジイチゴ、ニガイチゴ、クサイチゴが多かった。6月もキイチゴが多かったが、ヤマザクラが含まれていた例もあった(付図5)。ただサンプル数が2つだけなので、5月とまとめることになるだろう。

まとめ
 今回の分析で、裏高尾に生息するタヌキの食性では、これまでの東京郊外のタヌキで見られたような人工物が、これまでのところほとんど検出されない事例であることがわかった。調査地は豊かな森林の復元を目指しており、そのことがタヌキの食性を通じても伺い知ることができるかもしれない。分析法などには問題はないので、今後、定期的に糞を回収し、季節変化を追跡したい。

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付図1 2018年2月のタヌキの糞から検出された種子(格子間隔は5mm)


付図2 2018年3月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


付図3 2018年4月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


付図4 2018年5月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)


付図4 2018年6月のタヌキの糞からの検出物(格子間隔は5mm)
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最近の論文

2018-06-01 16:06:10 | 最近の論文など
2018.5.14
動物の食物組成を読み取るための占有率−順位曲線の提案 
−集団の平均化による情報の消失を避ける工夫−

高槻成紀,高橋和弘,髙田隼人,遠藤嘉甫,安本 唯,野々村遥,菅谷圭太,宮岡利佐子,箕輪篤志
哺乳類科学、印刷中

摘 要
 動物の食物組成は平均値によって表現されることが多いが,同じ平均値でも内容に違いがあることがある.ニホンジカ(以下シカ),ニホンカモシカ(以下カモシカ),イノシシ,タヌキ,アカギツネ (以下キツネ),ニホンテン(以下テン)の糞組成の食物カテゴリーごとの占有率を高いものから低いものへと曲線で表現する「占有率−順位曲線」で比較したところ,さまざまなパターンが認められた.シカとカモシカでは占有率が小さく,頻度が高い例(「高頻度・低値」)が多く,イノシシでも同様であった.これに対して食肉目では占有率も出現頻度も多様であり,1)供給量が多く,栄養価が低い(あるいは採食効率が悪い)と想定される食物では「高頻度・低値」が多く,2)供給量が限定的で,高栄養と想定される食物では「低頻度・高値」(占有率−順位曲線はL字型)が多い傾向があった.テンでは果実が「高頻度・高値」であった.このパターンには供給量,動物種の食物要求や消化生理などが関係していると考えられた.この表現法の特徴などを整理し,その使用を提唱した.


非常に重要な食物で集団のほとんどが食べており、占有率は大から小まで続く


一部の個体にはよく食べられるが、半分くらいの個体は全く食べていない


ありつける個体がごく一部


 これは「大論文」で、かなり長くなりました。ある動物の食べ物におけるある食物の平均占有率が50%だったとします。その数字を出すのに10のサンプルがあったとして、平均値が50%になるのは色々なパターがあるはずです。全部が50%のこともあれば、半分が100%で残りの半分が0%という場合だって平均値は50%です。これは意味が違うのに「平均」されると同じ50%になってしまいます。私はこのことを問題と考えました。それで、サンプル全てを占有率の大きいものから小さいものへと並べ、そのカーブを「占有率−順位曲線」と名づけました。日本人10人の食事を考えた時、米は大体誰でもある程度食べていますが、肉だと食べる人と食べない人がいるはずです。そうするとこの曲線はコメではなだらかなカーブになり、肉では急カーブになり、ゼロ値のものもるはずです。これを動物について試みました。そうするとシカなどの装飾中では横長のグラフになるのに対して、肉食獣だと様々で、L時型になるものもあれば、低空飛行するものもありました。そのことは食物の供給量と動物の「食べたさ」にもよるし、シカのように反芻するかしないかにもよります。
 このことを麻布大学で指導した学生の皆さんのデータを計算し直してこの論文を書きました。高橋君はシカ、髙田君はカモシカ、遠藤君はこれらに加えてイノシシ、安本さんと宮岡さん、箕輪くん(帝京科学大)はテン、菅谷君はタヌキ、野々村さんはタヌキとキツネを調べてくれました。だから、この論文は私の麻布大学での指導の一つの集大成と言えると思います。その意味でも「大論文」と言ってよいと思います。

2018.5.8
タヌキが利用する果実の特徴 - 総説

高槻成紀
哺乳類科学、印刷中

摘 要
 ホンドタヌキ(以下タヌキ)が利用する果実の特徴を理解するために,タヌキの食性に関する15編の論文を通覧したところ,タヌキの糞から103種の種子が検出されていた.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹2種の種子を含む68種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.また,乾果は30種あり,蒴果6種,堅果4種,穎果4種,痩果4種などであった.このほかジャノヒゲなどの外見が多肉果に見える種子が3種あった.果実サイズは小型(直径10mm未満)が57種(55.3%)であり、 色は目立つものが70種(68.0%)で,小型で目立つ鳥類散布果実がタヌキによく食べられていることがわかった.「大型で目立つ」果実は15種あり,カキノキはとくに頻度が高かった.鳥類散布に典型的な「小型で目立つ」な果実と対照的な「大型で目立たない」果実は10種あり,イチョウは検討した15編の論文のうちの出現頻度も10と高かった.生育地ではとくに特徴はなかったが,栽培種が21種も含まれていたことはタヌキに特徴的であった.こうしたことを総合すると,タヌキが利用する果実には鳥類散布の多肉果とともに,イチョウ,カキノキなど大型の「多肉果」も多いことがわかった.テンと比較すると栽培植物が多いことと大きい果実が多いことが特徴的であった.

以前にテンについて同じ趣旨で論文を書きました。その比較をすると、タヌキの方が多様な果実を食べること、大きな種子を含む果実を食べること、栽培植物をよく食べることなどがわかり、タヌキの特徴を反映していました。

2018.5.3 モンゴルの放牧圧の論文
モンゴル北部の森林ステップの草地群落への放牧の影響:放牧と非放牧の比較
高槻成紀・佐藤雅俊・森永由紀

Grassland Science, in press

2002年からモンゴルに通っています。最初はモウコガゼルの調査から始まったのですが、その後家畜と草原の関係を調べるようになって今日に至っています。モンゴル中央の北部はモンゴルとしては比較的降水量があり、山の北斜面には森林があるので「森林ステップ」と呼ばれています。もっと北のロシアに行けばタイガになる、草原と森林の移行帯です。その一つとしてブルガンという場所があり、そこで放牧影響を調べた調査結果が論文になりました。こちら

要旨:モンゴルでは牧畜のあり方が移牧から定着に変化したため、草原が過放牧になり、群落に変化をもたらしている。この調査はモンゴル北部の深林ステップで長い時間家畜を排除した好例を見つけたので、放牧が草原にどのような影響をもたらすかを示そうとした。ブルガン飛行場は1950年代から柵をしてきたので、放牧された場所とされていない場所を比較できる。そこで群落構造、種組成、生育形に着目して柵の内外を比較した。植物量は柵外で40 g/m2であり、柵外(305 g/m2)の7分の1にすぎず、出現種数も半分ほどだった。柵内では草丈は30-40cmあったが、柵外では10cm未満だった。柵内では直立型、分枝型、大型叢生型が多いが、柵外では小型叢生型と匍匐型が優占的だった。柵内では微地形に応じて優占種に違いが見られたが、柵外ではCarex duriusculaというスゲとPotentilla acaulis(キジムシロ属)という匍匐型が優占していた。すなわち放牧影響はもともとある微地形の影響を「マスク」すると言える。この調査は、放牧による群落への影響を生育型を用いることで有効に示せることを示した。


A: 柵内外の比較、B:柵内の様子、C:柵外の様子、D: Potentilla acaulis

Effects of grazing on grassland communities of the forest-steppe of northern Mongolia: a comparison of grazed versus ungrazed places

Seiki Takatsuki, Masatoshi Sato, and Yuki Morinaga

Abstract
Overgrazing of grasslands in the Mongolian steppes resulting from a transition from pastoral to sedentary livestock production has led to significant changes in the plant communities. This study aimed to show how livestock grazing affects steppe vegetation in northern Mongolia by a good example of a long-termed exclusion of grazing. The Bulgan Airport in northern Mongolia has been fenced since the 1950s and thus is suitable to compare grazed and ungrazed plant communities. We studied plots both inside and outside the fence with reference to community structure, species composition, and growth form. Plant biomass for the outside plots averaged (40 g/m2) less than one-seventh of that inside the fence (305 g/m2), and average species number per plot was about half of that inside the fence. Height of plants inside the fence ranged from the ground surface to 30 - 40 cm, whereas most of the plants outside were less than 10 cm tall. Erect, branched, and tall tussock form plants were reduced outside the fence, and short tussock and prostrate form plants became dominant. Microtopography resulted in different dominant plants inside the fence whereas only Carex duriuscula, a sedge, and Potentilla acaulis, a short growing prostrate forb, prevailed outside. That is, grazing as a factor effecting plant communities prevailed and "masked" microtopography outside the fence. It was shown that the use of growth form is effective to evaluate vegetation changes by grazing.

2018.2.4 
仙台の海岸に生息するタヌキの食性
高槻成紀・岩田 翠・平吹喜彦・平泉秀樹


「3.11」はこんなところにも影響していたという事例です。あの津波は仙台の海岸では高さ9mにもなって何もかもを飲み込み、なぎ倒しました。この海岸にはタヌキも住んでいたのですが、流されたに違いありません。私の友人たちはその海岸の動植物の回復を記録してきました。その一人平泉さんは、東北大学時代の後輩ですが、鳥類の調査をしているときにタヌキのタメフンを見つけました。2013年6月のことですから、津波の2年後ということになります。タヌキは内陸まで津波でさらわれて、おそらく死んだはずですから、「戻ってきた」というより、新たな個体が海岸に住みついたものと思われます。ということは、タヌキが暮らせる環境が戻ってきたということです。そのタメフンが私のところに送られてきて分析をしました。そうしたら、テリハノイバラとドクウツギ、それにヨウシュヤマゴボウの種子がたくさん検出されました。テリハノイバラとドクウツギは砂浜に生える低木で、津波を受けたにもかかわらず、少なくとも地下部が残っていて復活したものと思われます。ヨウシュヤマゴボウは外来種ですが、かき回すように荒れた環境が好適だったようで、その後は少なくなったそうです。このほかコメや大麦、ポリ袋なども出てきたので、農業地帯の人工的な食物も食べていたことがわかりました。これはタヌキという動物の、環境が変わってもその環境に合わせて生きてゆくたくましさを示す好例だと思います。私は糞を分析しながら、そのことを感じ、不思議な感動を覚えました。

要約:これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を宮城県仙台市宮城区岡田南蒲生と岩沼市蒲崎寺島のタヌキを例に初めて明らかにした。このタヌキは2011年3月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。南蒲生では防潮堤建造、盛土などの復興工事がおこなわれ、生息環境が二重に改変されたが、寺島では工事は小規模であった。両集団とも海岸にすむタヌキであるが、魚類、貝類、カニ、海藻などの海の生物には依存的ではなかった。ただしテリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。復興工事によって大きく環境改変を受けた南蒲生において人工物の利用度が高く、自然の動植物の利用が少なかったことは、環境劣化の可能性を示唆する。また夏には昆虫、秋には果実・種子、冬には哺乳類が増加するなどの点は、これまでほかの場所で調べられたタヌキの食性と共通であることもわかった。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。

キーワード:津波、テリハノイバラ、ドクウツギ、糞分析、ヨウシュヤマゴボウ


タヌキの糞から検出された種子。1)ドクウツギ、2)テリハノイバラ、3)サクラ属、4)ノブドウ、5)クワ属、6)ヨウシュヤマゴボウ、7)イヌホオズキ、8)ツタウルシ、9)ヘクソカズラ、10)ギンナン(イチョウの種子)、11)コメ(イネの種子)、12)ウメ。格子間隔は5mm


2018.1.15 
東京西部にある津田塾大学小平キャンパスにすむタヌキの食性
高槻成紀

人と自然 Humans and Nature, 28: 1−10 (2017) こちら

 この論文は2016年の春から始めた玉川上水の自然観察から生まれたものです。津田塾大学によい林があり、タヌキがいそうだと目をつけていました。知人が津田の先生を知っているので連絡をとって入れてもらい、たしかにいることを確認し、タメフンばをみつけたところからスタートしました。大学を定年退職しても研究意欲は失っていないことが形になったという意味でもうれしいものでした。糞の分析だけでなく、森林の調査もして、なぜムクノキやカキノキの種子がよく出てくるかの説明もできました。観察会の成果が生かされました。以下は要旨です。

 東京西部の市街地にある津田塾大学に生息するタヌキの食性を糞分析によりあきらかにした.調査地の林は植林後90年経過したシラカシ林で,林内は暗いため,都市郊外の雑木林のタヌキの食物になる低木や草本は少ない.合計で109の糞試料をポイント枠法で分析した.糞組成は晩冬には果実や葉など多様であったが,春には昆虫と哺乳類が増加,夏には昆虫と葉が多く,秋には果実と種子が優占し,初冬には再び多様になった.果実としては高木のムクノキ,カキノキの果実が重要であり,低木や草本の果実は乏しかった.津田塾大学は周囲を市街地に囲まれているが,タヌキ糞中の人工物は少なかった.


津田塾大学のタヌキの糞の組成の季節変化


2017.12.25 
草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子

「哺乳類科学」, 57: 287-321.

 私は麻布大学にいるあいだに学生を指導していろいろな動物の食性を調べました。個々の卒論のいくつかはすでに論文になっていますし、これから論文にするものもあります。今回、それらを含め、個別の食性ではなく、多様度に注目してデータを整理しなおしました。多様度を、サンプルごとの多様度と、同じ季節の集団の多様度にわけて計算してみました。予測したのは、反芻獣の場合、食べ物が反芻胃で撹拌されているので、糞ごとの多様度と集団の多様度であまり違いがないだろうということです。そして、単胃でさまざまなものを食べる食肉目の場合、これとは対照的に、糞ごとに違いがあり、ひとつの糞の多様度は小さくても、集団としては多様になるだろうということです。実際にどうなっているかを調べたら、びっくりするほど予想があてはまりました。


サンプルごとの多様度(黒棒)と集団の多様度(灰色)の比較。草食獣は違いが小さいが、食肉目では違いが大きく、とくにテンではその傾向が著しい。

多くの学生との連名の論文になったのでうれしく思っています。下のグラフの1本の棒を引くために、山に行って糞を探し、持ち帰って水洗し、顕微鏡を覗いて分析し、データをまとめたと思うと、一枚のグラフにどれだけの時間とエネルギーが注がれたかという感慨があります。

2017.12.25
テンが利用する果実の特徴 – 総説
高槻成紀

「哺乳類科学」57: 337-347.

 テンが利用する果実の特徴を理解するために,テンの食性に関する15編の論文を通覧したところ,テンの糞から97種と11属の種子が検出されていることが確認された.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹3種の種子を含む89種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.そのほかの8種は乾果で,袋果が1種(コブシ),蒴果が7種であった.蒴果7種のうちマユミとツルウメモドキは種子が多肉化する.それ以外の蒴果にはウルシ科の3種とカラスザンショウ,ヤブツバキがあった.ウルシ科3種は脂質に富み,栄養価が高い.ヤブツバキは種子が脂質に富む.果実サイズは小型(直径 10mm未満)が70種(72.2%)であり,色は目立つものが76種(78.4%)で小さく目立つ鳥類散布果実がテンによく食べられていることがわかった.「大きく目立つ」果実は8種あり,このうち出現頻度が高かったのはアケビ属であった.鳥類散布に典型的な「小さく目立つ」果実と対照的な「大きく目立たない」な果実は3種あり,マタタビとケンポナシの2種は出現頻度も高かった.生育型は低木が41種,高木が31種,「つる」が15種,その他の草本が9種だった.これらが植生に占める面積を考えれば,「つる」は偏って多いと考えられた.生育地は林縁が20種,開放環境が36種,森林を含む「その他」が41種であった.こうしたことを総合すると,テンが利用する果実は鳥類散布の多肉果とともに,サルナシ,ケンポナシなど大きく目立たず,匂いで哺乳類を誘引するタイプのものも多いことが特徴的であることがわかった.

2017.10.10
A comparison of food habits between the Japanese marten and the raccoon dog in western Tokyo with reference to fruit use
東京西部のテンとタヌキの食性比較−果実利用に注目して

Seiki Takatsuki, Risako Miyaoka and Keita Sugaya
高槻成紀・菅谷圭太・宮岡利佐子
Zoological Science, 35: 68-74 こちら

 2014/15年に東京西部の多摩森林か学園で同所的なテンとタヌキの食性を糞分析により調べた。テンは一年中、果実に依存的で季節変化は不明瞭だった。タヌキはテンほどは果実に依存的でなく、春には哺乳類、夏と冬には昆虫をよく利用し、種子は一年中糞から出現した。テンはサルナシやキブシなど種子の小さな果実をよく食べたが、タヌキはギンナンやカキノキなど大きな種子をもつ果実も食べた。テンは林縁に生育する植物の果実をよく食べたが、タヌキは林内に生育する植物の果実をよく食べた。

 この論文のミソは同じ場所に住むテンとタヌキを比較したことにあります。テンとタヌキの食べ物は同じか?たぶん違うだろうが、どう違うのだろう?それはなぜ?という問いに答えを得ました。もうひとつのポイントは、これまで動物研究者のこの種の研究では果実の名前のリストがあるだけでしたが、今回、その果実をつける植物がどういう場所に生えているかということに着目して整理すると、非常にはっきりとテンは林縁植物をタヌキは林床植物をよく食べるということがわかりました。また残飯などの人工物を食べるのはタヌキだけだということもわかりました。





2017.10.02
>Comparison of the food habits of the sika deer (Cervus nippon), Japanese serow (Capricornis crispus), and wild boar (Sus scrofa), sympatric herbivorous mammals from Mt. Asama, central Japan
浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性比較
Yoshitomo Endo, Hayato Takada, and Seiki Takatsuki

Mammal Study, 42: 131-140 (2017)
遠藤嘉甫、髙田隼人、高槻成紀

糞分析法により浅間山のシカ、カモシカ、イノシシの食性を比較した。3種のうち、イノシシははっきり違い、地下部や支持組織が多かった。シカはササが特徴的でカモシカはシカに近かったが、イネ科が少なく双子葉植物の葉が多かった。おそらく消化生理の違いによると思われるが、糞中の植物片のサイズ分布はシカとカモシカでは微細なものが多かったが、イノシシでは大きめであった。これは日本の同所的草食獣の食性を比較した最初の論文である。

2017.4.25
「Mammal Study」が産声をあげた頃
高槻成紀

「哺乳類科学」57: 135-138

日本哺乳類学会はMammal Studyという英文誌を刊行していますが、これは20年前にスタートしました。この雑誌は今や国際誌となり、質も向上し、たくさんの論文が世界中から寄せられ、きびしい査読を受けるようになりましたが、かつてはそうではありませんでした。最初のときに私が編集委員長をしたのですが、今年20周年を迎えるので、現在の編集委員長が当時の思い出などを書いてほしいということで依頼がありました。思い出しながら当時のようすを書くとともに、古い文献などもひもといて、学会の先人の志なども紹介しました。
 その一例です。
「哺乳類科学」の創刊号をひもとくと,九州大学の平岩馨邦先生が若手研究者に次のようなことばを贈っておられる(平岩 1961)。曰く「”Keep the fire burning”私たちのともした。いと小さい火を若いみなさんで、もりたてて大きく燃やして頂きたいものである」.
 最後につぎのようにまとめました。
 内田先生が「老いも若きも一致協力して邁進しようではありませんか」と呼びかけられたことが、こうした時代の流れとともに学会の実質的な体力を蓄えることにつながったと思う。ネズミの研究が主体であった我が国の哺乳類学は中型、大型の哺乳類も対象とするようになり、生態学や形態学、遺伝学などもカバーするようになってバランスもよくなってきたし、野生動物管理などの面も力をつけてきた(高槻 2008)。こうして学会という木が育つための土壌に栄養が蓄積し、水も光も得て力強く育ってきた。これにはよきリーダー、コミュニケーション手段の進歩、制度の改革なども大いに力になったが、しかし私は「このおもしろい哺乳類学を進める学会をよいものにしたい」という会員の情熱がそれを実現したのだと思う。まさに半世紀以上前に平岩先生が点(とも)された「いと小さい火」が大きな炎に育ったとみてよいだろう。

2016.12.10
Effects of grazing forms on seasonal body weight changes of sheep and goats in north-central Mongolia: a comparison of nomadic and sedentary grazing
[放牧のしかたがモンゴル北部のヒツジとヤギの体重季節変化におよぼす影響:遊牧群と固定群の比較]

Nature and Peoples, 27: 27-31.

 この論文はモンゴルのヒツジとヤギの体重を調べたものです。モンゴルですごしていると遊牧生活のすばらしさを、自分の生活と対比として、しみじみと感じます。そのことを文章で表現するという方法もあるでしょうが、私たちはそれを自然科学的表現をしたいと思いました。どういうことかというと、モンゴルは広いことで知られた国です。人口密度は2人/km2ほどで、日本の340人/km2とは200倍も違います。それは「無駄が多い」ことでもあり、それだけしか住めないということは「土地生産性が低い」ともいえます。農耕民である中国人はそのことを「劣っている」とみなしました。モンゴルを「蒙古」といいますが、蒙はバカということ、古は古いです。ひどいものです。今でも一部のヨーロッパ研究者にはモンゴルに対して土地生産性をあげるための「提言」をする人がいます。でも乾燥地で土地を耕すことは長い目でみれば土地を荒廃させることが明らかになっています。私たちはモンゴル人と交流するなかで、頑固だなと感じることもありますが、この頑固さがこの土地と生活を守ってきたと賞賛したくなることがあります。
 そうしたことの一つが遊牧です。農耕民の生活とこれほど違うことはありません。広い土地を季節ごとに移動する - 農耕民からすれば落ち着かない貧しい無駄の多い生活です。でもそれには根拠があるのではないかと私たちは考えました。そこで通常の遊牧をする群れと、牧民にお願いして群れを一箇所で動かさないように頼み、その体重を1年追跡してもらいました。牧民は家畜を名前をつけて一頭づつ知っています。その体重を毎月測定してもらったのです。
 ヒツジの群れはスタート時は遊牧群と固定群で体重に違いはなかったのですが、冬の終わりになると固定群のほうがどんどんやせていき、違いが出ました。翌年の回復期にはつねに固定群が軽くなりました。

ヒツジの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 ヤギのほうは最初(6月)、遊牧群のほうが少し軽かったのですが、8月には追いつき、その後は違いがなくなり、2年目は逆転しました。
 これらの結果は、表面的に「土地を有効に利用して高密度に家畜を飼うべきだ」という発想がモンゴルのような乾燥地では合理性がないことを示しています。放牧の体制はさらに複雑なシステムですが、体重ひとつとっても伝統的な遊牧に合理性があることを示せたことはよかったと思います。

ヤギの体重変化 nomadic 遊牧、 sedentary 固定

 調べたのは2006年ですから10年も前のことで、ようやく論文になり、ほっとしました。

2016.10.27
「山梨県東部のテンの食性の季節変化と占有率−順位曲線による表現の試み」
箕輪篤志,下岡ゆき子,高槻成紀

「哺乳類科学」57: 1-8.

2015年に退職しましたが、ちょうどその年に帝京科学大学の下岡さんが産休なので講義をしてほしいといわれ、引き受けました。それだけでなく、卒論指導も頼みたいということで4人の学生さんを指導しました。そのうちの一人、箕輪君は大学の近くでテンの糞を拾って分析しました。その内容を論文にしたのがこの論文です。その要旨の一部は次のようにまとめています。
 春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワ,コウゾ,サクラ類などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキ,クマノミズキ,ムクノキ,エノキ,アケビ属などの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.
 タイトルの副題にある「占有率−順位曲線」というのは下の図のように、食べ物の占有率を高いものから低いものへ並べたもので、平均値が同じでも、なだらに減少するもの、急に減少してL字型になるものなどさまざまです。この表現法によって同じ食べ物でもその意味の解釈が深まることを指摘しました。


2016.9.4
論文ではありませんが、「須田修氏遺品寄贈の記録」を書きました。これは麻布大学の明治時代の卒業生である須田修氏の遺品をお孫さんの金子倫子様が寄贈されたことを機に、寄贈品について私とやりとりをしたことを含め紹介したものです。麻布大学は昭和20年に米軍の空襲により学舎を消失したので、戦前の資料は貴重です。それを博物館ではありがたくお受けしたのですが、それに添えるように2つの興味ふかいものがありました。ひとつは「赤城産馬會社設立願」で、須田氏のご尊父が群馬県の農民の貧困さを憂え、牧場を作ることを群馬県に提出したものです。その文章がすばらしく、文末に当時の群馬県令揖取(かとり)素彦の直筆サインがありました。また「夢馬記」という読み物があり、これは須田氏が誰かから借りて書き写したもののようです。内容を読むと、ある日、馬の専門家がうたた寝をしていたら、夢に馬が現れて「最近、日本馬は品質が悪くてよろしくないから品種改良をせよという声が大きいが、そういうことをいうものは馬のことを知らず、その扱いも知らないでいて、この馬はダメだといってひどい扱いをする。改良すべきは馬ではなく騎手のほうだ」といって立ち去った。目が覚めたら月が出ていた、というたいへん面白いものでした。こうした遺品についてのやりとりをしたので、金子様にも共著者になっていただいて、「麻布大学雑誌」に投稿しました。




牧場設立願いに書かれた揖取(かとり)群馬県令のサイン

2016.7.25
Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki

Zoological Science, 33: 611-615.

この論文の内容にはいくつかポイントがあります。カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを奥津くんが解明し、論文にしました(Okutsu and Takatsuki, 2012)。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。そういうわけで、目的がはっきりしており、結果も明白だったので、書きやすい論文でした。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。


改良型トラップ

2016.7.14
福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析− 
足立高行・桑原佳子・高槻成紀


福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。


テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。

2016.6.2
Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban(マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性)
Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )

Mammal Study, 41(3): 155-161.

これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。


ゾウの糞を拾った詩織さん

アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。


このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。
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タヌキのウンチ

2018-06-01 15:59:04 | それ以外の著作
昔ばなしのイメージ
 私は最近タヌキを調べています。
 タヌキと聞いて知らないという人はいません。それは子どもの頃に「かちかち山」や「ぶんぶく茶釜」の話を聞いているからでしょう。「かちかち山」のタヌキはおばあさんをだましたりする悪い動物である反面、ウサギの仕置きのあまりに厳しさにかわいそうなにも感じられます。「ぶんぶく茶釜」の方では、まぬけだけれど、恩人にお礼をしたいと一生懸命な動物というイメージがあります。
昔ばなしでは「知っている」タヌキですが、実際に目撃したことがある人はそう多くなく、その姿も、イラストなら思い浮かぶけれど、実物は知らないという人が大半のようです。タヌキよりも動物園にいるレッサーパンダのほうがよほどよく見られているかもしれません。まして、タヌキが実際にどういう生活をしているかということになると、みなさん「さあ?」と頼りない返事になります。研究上でもわからないことの多い動物なのです。
 タヌキは漢字では「狸」、つまりケモノ偏に里と書き、里山にいる動物であることを表しています。里山というのは昔ながらの農業地帯のことです。タヌキは世界的に見ればけっこう珍しい動物で、東アジアにしかいませんが、日本ではかつては身近な存在だったのです。道を歩いているのを見ることもあったし、畑の作物を食べられたりしました。だからこそ、「かちかち山」では、おじいさんに捕まえられたり、ウサギにお仕置きされたりと、憎まれる存在にもなったのです。

いまも都会に住むタヌキ
 そういう里山に活気があった時代とは違い、現代の都会では、せいぜい野良ネコやカラス程度しか野生動物を見かけなくなってしまいました。ですから、自分はタヌキとは無縁だと思っている人もいるかもしれません。
 しかし、多くの野生動物が郊外から山に追いやられてしまった中で、いまもタヌキだけが東京都心を含む都市にも生き延びているのです。東京都心の23区でもほとんどで生息が確認されているし、もちろん明治神宮や皇居のような豊かな緑があるところにはタヌキが暮らしています。
 一方、同じように里山で暮らし、同じように昔ばなしにもよく登場するキツネやノウサギは都市からはいなくなってしまいました。それは、キツネは神経質で警戒心が強く、自動車が走るような環境を嫌い、いなくなってしまうからです。一方、ノウサギは草はらに住んで植物の葉や芽などを食べるので、まとまった緑地がないと生きていけませんし、耳がとても良いので騒音にも耐えることができません。
 この点、タヌキは騒音などにも耐え、残飯でも食べるし、あまり広くない緑地でも生きてゆけます。こういうたくましさ、融通のきく性質が都市環境での生息を可能にしているようです。

ウンチの調査
 では、実際彼らはどんなふうに都市で暮らしているのでしょう。私は東京西部の小平市にある、津田塾大学に生息するタヌキを調べています。


津田塾大学で撮影されたタヌキ


 タヌキの食べ物を知るために、一緒に調べている仲間と大学内の林を歩くと、「タメフン」を見つけました。タメフンというのはタヌキのトイレのことです。タヌキは決まった場所に糞をします。複数の個体が共有しているようで、タメフンに来たタヌキはほかのタヌキの糞の匂いを嗅いでから、その上に「上書き」をするように、お尻を近づけて糞をします。
 見つけたタメフンから定期的に糞を回収し、細かいフルイの上で水道水を流して顕微鏡で調べます。するとタヌキが食べた物がわかるというわけです。
 調べてみると、津田塾大学のタヌキにとっては果実が重要な食べ物だということがわかりました。季節ごとに見ると、夏にはムクノキとエノキの実のほか、昆虫も食べます。秋から冬にはカキとイチョウ(ギンナン)を食べ、果実のとぼしい冬の終わりから春にかけては、ネズミの毛や骨、鳥の羽根などを食べているようです。

ウンチのつながり
ところで、タメフンがあるところには、夏になるとムクノキやエノキ、イチョウの芽生えがたくさん生えてきました。タヌキは植物の実を食べることで、種子を運んでいるということです。植物からすれば、タヌキにおいしい果肉を食べさせて、中に入っている種子を運ばせているのです。
 私の興味はタヌキそのものにもありますが、むしろタヌキがほかの生き物とどうつながって生きているかに興味があります。動物がほかの動物や植物を食べるということは、そのことを通じてほかの生き物とつながっているということです。
 タヌキは果実を食べて種子を運ぶということで植物とつながっていますが、タヌキとつながりを持つのは植物だけではありません。小さなバケツで簡単なトラップを作って大学キャンパスに置いてみたところ、翌日、数匹の小さな糞虫(ふんちゅう)が入っていました。調べてみるとコブマルエンマコガネという糞虫でした。


コブマルエンマコガネ


 ファーブル昆虫記に出てくるスカラベ(糞ころがし)よりはずっと小さく、長さ六ミリメートル程度の黒くて地味な糞虫です。飼育して観察してみると、五匹のエンマコガネがピンポン球ほどの馬糞を一日かからずにバラバラにしてしまったので、驚きました。こうして糞虫によってタヌキの糞も食料として利用され、また分解された養分が土に戻されていることがわかりました。


すぐそこにいるタヌキ
 コツコツと調べると、ありふれたタヌキがほかの生き物と確かにつながって生きていること、それぞれの生き物が懸命に生きているということが実感できました。
 子どもは動物が好きなものです。動物園に行けばゾウやライオン、場所によってはパンダもいて子どもたちは大喜び、だから動物園に行くのは特別にうれしいことです。そういう花形動物は絵本にもたびたび登場しますから、子どもの頭の中には、いろいろなイメージや想像がふくらみ、親しみを感じていることでしょう。
 それに比べると、タヌキはとくに大きくもなく、かわいくもなく、パッとしないかもしれません。でも、どこか遠くの国から来て、飼育員に餌をもらい、コンクリートの上で糞をしている動物園の動物とは違い、タヌキは、たとえ目撃しなくても、私たちと「ニアミス」するほど近くで暮らしている動物です。私たちが目にしている木になった実を食べ、私たちの足許からつながった土の上に糞をしているのです。そのことを想像するのは楽しいことです。
「あそこの林にタヌキがいるかもしれないよ」、そう声をかけてあげたら、子どもたちの想像は、きっと大きくふくらむことでしょう。

 
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それ以外の著作

2018-06-01 15:53:49 | それ以外の著作


タヌキのウンチ 童心社「母のひろば」2018.6 こちら

日本の山とシカ問題 山と渓谷 2018.7(No.999):143-154.
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最近の動き

2018-06-01 08:41:41 | 最近の動き
6月27日
「人による動物の勝手なイメージ:イタチも知らずにイタチごっこ」
人間の偏見、動物の言い分」について考えます。
武蔵野美大三鷹ルーム 午後7時-午後9時 (6時半開場)

6月25日
「人間の偏見、動物の言い分~動物のイメージを科学する」イースト・プレス社 こちら
最近出版した上記の本の解説をします。
武蔵野美術大学1号館103教室 午後6時から


人は動物に勝手なイメージを作ってきた


ハーツォグは実験のために「下等な」動物から「高等な」動物の順に熱湯に入れた。さて、高等下等とは??

6月16日の「高尾の森づくりの会」での講演
同会で「森と動物たちのかかわりについて」という講演をしました。

6月10日「人間の偏見 動物の言い分」の書評
宮部みゆきさんの書評 こちら

6月10日の桐生での実習指導
桐生の自然の森で食肉目(タヌキやテン)の糞分析の実習指導をしました。


作業室


記念撮影

異変
 このブログを訪問する人はだいたい100人前後です。ところが、今朝(5月13日)、そのブログを見て我が目を疑いました。なんと8800人もの訪問者があったのです。桁違いです。これはどうしたことかと思っていましたが、友人がメールをくれたので、そのわけがわかりました。
 それによると、私が2年前に書いたあるエッセーがツイッターで話題になったのだそうです。それは天皇陛下が書かれた皇居のタヌキの糞分析の論文についてのものです。こちら 興味のある人にはゆっくり読んでもらうこととして、そのとき私が作った次の歌はどうでしょう。

 故ありてタヌキが糞を分析しけむが、広きこの世にかくなる行なひを為す者、幾人ありなむとこそ思ひけれ。
 しかるに、あらむことか、帝がこれを為されけむと知り、いみじう驚きたりて作りたる歌・・



 それにしても、なぜ今頃話題になったのかはいまだにわかりません。もしご存知の方がおられたら教えてもらえると喜びます。

5月20日の観察会
気持ちの良い天気の中で終えました。全体の報告下生え調査の結果

2018.5.3 モンゴルの放牧圧の論文
 2002年からモンゴルに通っています。最初はモウコガゼルの調査から始まったのですが、その後家畜と草原の関係を調べるようになって今日に至っています。モンゴル中央の北部はモンゴルとしては比較的降水量があり、山の北斜面には森林があるので「森林ステップ」と呼ばれています。もっと北のロシアに行けばタイガになる、草原と森林の移行帯です。その一つとしてブルガンという場所があり、そこで放牧影響を調べた調査結果が論文になりました。こちら

モンゴル北部の森林ステップの草地群落への放牧の影響:放牧と非放牧の比較
高槻成紀・佐藤雅人・森永由紀

モンゴルでは牧畜のあり方が移牧から定着に変化したため、草原が過放牧になり、群落に変化をもたらしている。この調査はモンゴル北部の深林ステップで長い時間家畜を排除した好例を見つけたので、放牧が草原にどのような影響をもたらすかを示そうとした。ブルガン飛行場は1950年代から柵をしてきたので、放牧された場所とされていない場所を比較できる。そこで群落構造、種組成、生育形に着目して柵の内外を比較した。植物量は柵外で40 g/m2であり、柵外(305 g/m2)の7分の1にすぎず、出現種数も半分ほどだった。柵内では草丈は30-40cmあったが、柵外では10cm未満だった。柵内では直立型、分枝型、大型叢生型が多いが、柵外では小型叢生型と匍匐型が優占的だった。柵内では微地形に応じて優占種に違いが見られたが、柵外ではCarex duriusculaというスゲとPotentilla acaulis(キジムシロ属)という匍匐型が優占していた。すなわち放牧影響はもともとある微地形の影響を「マスク」すると言える。この調査は、放牧による群落への影響を生育型を用いることで有効に示せることを示した。


A: 柵内外の比較、B:柵内の様子、C:柵外の様子、D: Potentilla acaulis

Effects of grazing on grassland communities of the forest-steppe of northern Mongolia: a comparison of grazed versus ungrazed places

Seiki Takatsuki, Masatoshi Sato, and Yuki Morinaga

Abstract
Overgrazing of grasslands in the Mongolian steppes resulting from a transition from pastoral to sedentary livestock production has led to significant changes in the plant communities. This study aimed to show how livestock grazing affects steppe vegetation in northern Mongolia by a good example of a long-termed exclusion of grazing. The Bulgan Airport in northern Mongolia has been fenced since the 1950s and thus is suitable to compare grazed and ungrazed plant communities. We studied plots both inside and outside the fence with reference to community structure, species composition, and growth form. Plant biomass for the outside plots averaged (40 g/m2) less than one-seventh of that inside the fence (305 g/m2), and average species number per plot was about half of that inside the fence. Height of plants inside the fence ranged from the ground surface to 30 - 40 cm, whereas most of the plants outside were less than 10 cm tall. Erect, branched, and tall tussock form plants were reduced outside the fence, and short tussock and prostrate form plants became dominant. Microtopography resulted in different dominant plants inside the fence whereas only Carex duriuscula, a sedge, and Potentilla acaulis, a short growing prostrate forb, prevailed outside. That is, grazing as a factor effecting plant communities prevailed and "masked" microtopography outside the fence. It was shown that the use of growth form is effective to evaluate vegetation changes by grazing.

2018.4.22 骨格標本
2018年4月10日、麻布大学のキャンパスでモズの死体を見つけました。状態がよかったので、骨格標本を作ることにしました。


モズの死体


骨格標本



2018.5.17 新刊出版
「人間の偏見 動物の言い分」という本がイーストプレスから出版されます。



私は長いあいだ動物の研究をしてきて、動物の立場から見たらこの世はずいぶん理不尽だと思うだろうなと想像することがよくありました。それが本書で言いたいことなのですが、その主張のために2つの工夫をしました。
 一つは「動物」というときに、ペットも家畜も野生動物も区別がされないために「動物のいのちを大切に」というとき、多くはイヌ・ネコのイメージをしますが、食肉用のウシやブタのことは考えないし、野生動物の絶滅のことも考えません。そこで動物を類型しながら説明しました。
 もう一つは現代の都市生活と動物の関係を考えるために、大胆とは思いながら、狩猟採集時代、農業時代、都市生活時代という時代区分をし、それぞれの時代に人が動物にどう接してきたかを考えたということです。
 その作業をすることで、都市生活が下手をするとかなり深刻な問題を生む危険性があることにも言及しました。出版は2018年5月17日で、定価は1700円(+税)です。

株式会社イースト・プレス


2018.4.12 講演
4月12日に武蔵野美大の「三鷹ルーム」で講演をしました。これは関野義晴先生が地球永住計画というプロジェクトの活動の一つとして行なっておられる連続講座で、さまざまな分野の研究者や専門家が関野先生と対談をするというものです。私は「リンク(生き物のつながり)を求めて」という話をしました。
 関野先生からは、最近行っている玉川上水の話ではなく、これまでの研究を振り返るような話をして欲しいということだったので、シカとササ、タヌキとテンの食性比較、シカの多面的生物に及ぼす影響、アファンの森の訪花昆虫などの話をしました。
 それら研究の話の前に、子供の頃の写真を紹介し、中2の時にアゲハ蝶類と食草の対応関係に気づいて、愛読していた図鑑の監修者であった九州大学の白水先生に手紙を書いたこと、そして返事をもらったことを紹介しました。そのことが、動物の食べ物を調べることに関心を持ったことと繋がっているかもしれないと思うからです。
 話の最後にはアイヌ民話の「ミソサザイとサマイクル」の話を紹介し、小さく、顧みられることのない生き物への配慮をする文化の素晴らしさを話しました。






豊口信行さん撮影

2018.4.4 子どもイベント「シカ、サル、タヌキの骨比べ」 こちら





2018.3.17

動物園講演会「タヌキのウンチ 生き物のつながりを探る」@武蔵野公会堂
動物園に関心のある人が主催する講演会でお話をしました。動物好きの人が多く、タヌキに限らず、動物のいのちについて様々な意見が買わされました。[Believe」を一緒に歌いました。


質問に答える


一緒に「Believe」を歌う


2018.2.25
講演 「日本の山とシカ問題
山と渓谷社による「日本山岳遺産サミット」で話しました。
 

2018.2.19
NHKテレビの「視点・論点」で「身近な自然をじっくり眺める」を話しました。内容はこちら

月~金 午前4時20分~午前4時30分 [Eテレ] 月~金 午後1時50分~午後2時


2018.1.13
講演 「タヌキのポン?!」予告
多摩動物公園でタヌキの話をしました。こちら
感想など こちら





2018.1.8
「玉川上水花マップ」と称して花の分布を調べていますが、1月8日にシンポジウムを開催しました。こちら
動画は こちら


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報告

2018-06-01 08:40:44 | 報告


タヌキの食性
 津田塾大学のタヌキの糞に出てくる食べ物の推移 2018.2.24, 2018.4.30更新
 タヌキの糞からドングリ 2018.3.8
 タヌキの糞からシカの毛が出た 2018.3.10
 裏高尾のタヌキの食性 2018.5.21 new

シカの食性
 丹沢のシカの糞分析  2018.4.14, 6.12更新 new
 福岡 英彦山のシカの食性 2018.5.5
 鳥取県若桜町のシカの糞分析 2018.5.12, 6.12更新 new

その他
 都市における鳥類による種子散布の一断面 2018.2.20
 アファンの森のフクロウの食べ物 2018.6.21
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アファンのフクロウの食べ物

2018-06-01 02:56:51 | 報告
アファンの森にはフクロウがすんでいて、架けた巣箱に営巣し雛を育てます。


巣箱にネズミを運んできた親フクロウ(2012年撮影)


 一つの巣で育つ雛の数は大抵2羽ですが、今年は4羽も巣立ちました。


今年最初に巣立ったフクロウの雛(2018.5/16, アファン の森財団提供)


 私たちはこの巣に残されたフクロウが食べて吐き出したものを調べています。その分析試料を確保するため、6月14日にアファンの福地さんが巣箱まで登って回収してくださいました。アルミ製のハシゴで巣箱まで登って巣の底の巣材を取り出してくれました。これを持ち帰って少しずつ小骨を取り出します。




巣材を取り出すアファンの森の福地さん


 フクロウはネズミを食べることに特化した猛禽類で、巣に残されたものもほとんどはネズミなのですが、ときどき鳥の羽や骨、ヒミズ、ヤマネなども出てきます。
 おもな食べ物であるネズミには、森にすむアカネズミ、ヒメネズミのタイプと草原や牧場などにすむハタネズミのタイプがあります。この2つのネズミは歯の形がまったく違うので、下顎骨が出てくれば識別ができます。




 これまでの調べで、アファンの森のフクロウが利用するネズミの数のうち、アカネズミ系は比較的安定していますが、ハタネズミは年によって大きい変動があり、アカネズミ系を大きく上回る年があるかと思えば、それより少ないこともあることがわかっています。ハタネズミのようなネズミは年により数の変動があることが知られており、同じ仲間のレミングが爆発的に増えることがあります。「ハーメルンの笛吹き」という童話で、ネズミが笛を吹く男に導かれて川になだれ込むという描写がありますが、この「ネズミ」はハタネズミ系のものだと考えられています。
 さて、持ち帰った巣材はもともとはチップ材ですが、その形で残っているものは少なく、分解して粉のようになっています。そこから適量を取り出してバットに広げ、少しずつ点検しながら、丁寧にピンセットで取り出します。


バットに取り出した巣材


 取り出されるネズミの骨にはさまざまなものがあります。わりあい目につくものとしてPの次のような形をしたものがありますが、これは寛骨、つまり腰の骨です。これにもいくつかタイプがあるので、ネズミの種類によって違うものと思われますが、私には区別はつきません。それから大腿骨もわかります。これは付け根に「骨頭」と呼ばれる球状のコブのようなものが付いていて特徴的なので区別できます。人間でも大腿(太もも)は360度どの角度にも曲げることができますが、それはこの構造があるからです。大腿骨の下には膝の骨である「脛骨」があります。多くの動物では脛骨と腓骨が並行に走っていますが、ネズミの場合、脛骨と腓骨は上下の部分で癒合し、ちょうどバイオリンの弓と弦の関係になっています。


検出されたネズミの骨


 前脚の方では上腕骨が特徴的な形をしており、中央の少し上に人の鼻のような突起があります。上腕骨は上で肩甲骨につきますが、肩甲骨はあまり出てきません。薄いので、おそらく消化されてしまうのだと思います。上腕骨の下には尺骨と腓骨がありますが、腓骨細長いだけで特徴がありません。消化されてしまうのか、小さすぎて見つからないだけなのかわかりません。尺骨は上腕骨との関節部が半円形にくびれているのでわかります。
 こういう四肢骨のほか、頭部が割れたものも出てきます。


ハタネズミの頭骨


 この分析で一番重要なのは下顎骨です。これはアカネズミ系とハタネズミではっきりと違います。



 最大の違いは歯で、アカネズミ系の臼歯は普通の哺乳類によくある歯根がありますが、ハタネズミの臼歯は変わっていて、縦筋がいくつもある洗濯板のような特異なものです。



 下顎骨全体の形も違い、写真ではわかりにくいですが、ハタネズミの方が厚みがあります。

 この違いはネズミの食性と関係しており、アカネズミは主に果実など栄養価の高い植物質を食べますが、ハタネズミは繊維質の葉や地下部なども好んで食べます。そういう食べ物は歯を摩滅させますから、ハタネズミの板状の歯は伸び続けます。これに関連してハタネズミはよく発達した盲腸を持っており、ここで繊維質の食べ物を発酵させて利用します。

 これらのどれにも該当しないひょろ長い骨があり、鳥の脚の骨だと思われます。クチバシも出てきます。

 さて、アカネズミとハタネズミの下顎骨の数をグラフにすると下図ようになりました。これを見ると、アカネズミは比較的安定しているのに対して、ハタネズミはそれよりやや少ないことが多いのですが、2016年は飛び抜けて多くなっています。同じようなことは2002年にも記録されました。


アファンの森のフクロウの巣に残されたアカネズミとハタネズミの下顎骨の数の推移


 詳細はわかりませんが、ハタネズミが何らかの理由で急に多くなることがあるようです。アファンの森にはアカネズミ系のネズミが多いのですが、周りに畑や牧場があり、ハタネズミはそういう場所にいるので、フクロウは、ハタネズミが増えた年には少し遠出をしてハタネズミを捕獲するものと思われます。

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バイリンガル

2018-06-01 01:13:51 | エッセー
深刻な問題というのではないのだが、子供の頃から「自分はほかの子と違うんだな」と思っていたことがある。物事に熱中するために、周りのことがわからなくなったり、忘れ物をしたりするので、自分には何かが欠けているのかなと思った。そういうことは劣等感となった。それから4歳のときに生まれ育った(といってもわずか4年だが)町から少し離れた町に引っ越した。山陰では町が違えば言葉が違う。私が生まれた倉吉は因幡だが、引っ越した米子は伯耆だから、言葉がかなり違うのだ。通じないということはないが、アクセントも言い回しも(一部だが)単語も違うので、「あ、地元の人でないな」とすぐにわかる。
 引っ越したとき、周りの子供の話す言葉が、それまで馴染んでいた言葉と違うということを知った。子供の私はすぐに習得したが、親はそのままだった。思えば、父は九州出身で、倉吉出身の母とは違う言葉を話していたから、それ以前から言葉は人によって違うということはなんとなく感じていたのかもしれない。学校に行くようになり、友達の家に行くとおじいさん、おばあさんがいるのにうちはいないことも違うということもわかった。そういう風に自分は他の子と違うのだなと思っていた。

 さて、言葉である。私が生まれた倉吉という町では「あの子はしょうからだけえ、かなわんなあ」という。「あの子はいたずらで困ったもんだ」という意味である。文字で書くとあまり違わないが「あの子」も東京では「の」が高いが倉吉では平板にいって「あの子は」の「は」が高くなる。「しょうから」というのは「性」がカラい*、つまり性格がきついということから、大人の言うことを聞かない子のことを言う。引っ越した米子では「あの子はしょうからだけん、かなわんわ」という。その後、島根県の松江に引っ越したが、ここは出雲だから、さらに違い「あのさんはいけずだけん、かなわんねえ」という。「いけず」は「いけない」で、関西では意地悪のことをいうが、出雲弁ではいたずらっ子のことを言う。
 これは一例だが、全体の音の流れや、言葉の強さなども違い、倉吉が一番おっとりしており、松江は上品な響きがあり、米子が一番カラッとしている。

* 「からい」は山陰ではもっぱらしょっぱいの意味で使い、「辛い」は「胡椒がらい」という。味噌汁の味噌が多すぎると「からい」というが、少なすぎて水っぽいと「あまい」という。「甘い」のではなく、「あいつは仕事の詰めがあまい」の「あまい」ににて、程度が足りないというニュアンスだ。で、「しょうから」の「から」は逆に程度がきついことだ。

 英会話の勉強でマスターするためといっていろいろ理屈を言うが、子供はそんな理屈は知らなくても、単語もフレーズも、どう言う状況でどう表現されるかをトータルに覚える。というのは、子供にとって一緒に遊ぶと言うことは、同じ言葉を使うことが前提となり、違う言葉を使う子は「よそ者」になるからだ。そうなるとどこかよそよそしい雰囲気、心を開けないものが生じる。別に意地悪でそうなるのではなく、ごく自然にそう感じるにすぎないのだが・・・。
 ともかく私は4歳にしてこの世の中には違う言葉を使う人がいるということを知った。そして友達はそうではなく、一つの言葉しか使わないことも。幼い私は、家では倉吉の言葉を使い、玄関を出ると米子弁を使った。だから、我が家に友達が来て私が米子弁で会話しているのを聞いた母は目を丸くしていた。
 中学生になると英語を学ぶようになった。あまりおもしろいとは思わなかったが、ラジオから流れてくるアメリカンポップスを聞くのが好きになり、その英語は大好きだった。初めは意味もわからず聞いていたが、学校で習う英語の文法などがわかるようになったら、辞書を引いて歌の意味を理解するようになった。学校の英語の先生の発音は全然違うと思った。家では英語の教科書もポップス風に読んだが、学校では歌のように発音するのは恥ずかしいので、カタカナ英語にしていた。その感じは外で米子弁を使い、家で倉吉弁を使うのと似ていた。
 「言葉を変える」というのは、文法を考えながら文章を組み立て直すということではなく、雰囲気全体のチャンネルを切り替えると言う感じだった。だから、大学で仙台に行った時も、仙台弁を楽しんだし、違う地方から来た友達の方言を聞くのも好きだった。テレビなどで地方の人の話すのを聞いてその地方を当てる訓練をし、かなりの正解率になった。

 そういうわけだから、私は外国語を・・・、とは言えないが、「違う言葉」を使い分けられる人間だと思っている。それは程度の違いはあれ、地方から大都市に出た人が必要に迫られてしていることだ。

 ジャレド・ダイアモンドは驚くべき博学で、生態学で人類史を語り尽くす人だが、最近読んでいる本にバイリンガルのことを書いていた。それによるとアメリカで一つの言葉しか使わない子と、バイリンガルの子の成績を比較したら、後者の方が成績が悪いと言う結果が出たそうだ。私はちょっと意外であり、不満でもあった。だがそれは経済環境などが大きく違う集団を比較したものなので、比較として不適当だったということを明らかにし、後半では適切な比較をしたら、むしろ逆であったという。その理由は、脳の訓練にあるという。バイリンガルの人は毎日どっちの言葉を使うかを判断するから、脳をトレーニングしているのだという。実際、バイリンガルの人はアルツハイマーになりにくいという。

 自分の腹の中の言葉が口から出る言葉と同じものであるとしか思えない人と、そうでないことを知っている人では、大げさに言えば世界観が違うと思う。
 ある東京の下町に生まれ育った人が東北弁を聞いて「なんで普通に言わないんだろう」と言った。その人は、自分がそう感じることにつゆほどの疑いも持っていないようだったが、東北人は思ったことをわざわざわかりにくく話すとでも思っているのだろうか。同様のことはアメリカ人からも感じる。彼らは自分の話す言葉は世界中で通じると思い込んでいる。東京人やアメリカ人は、自分たちと違う言葉の人を気の毒に思っているようだが、私に言わせればそれは逆で、違う人の立場になれないという意味で気の毒なことだ。

 「せごどん」では薩摩や奄美の言葉が字幕付きで語られるが、リアリティがある。しかしこうなったのは最近のことで、長い間ドラマは東京弁だった。私は前々から思っていたのだが、赤穂浪士は赤穂の言葉、つまり神戸市あたりの方言で喋っていたはずだ。討ち入りが関西弁だとするとだいぶ雰囲気が違うはずだ。

 人はお母さんのお腹の中にいる時から耳にした言葉を聞いて心地よいと感じる。生まれてからは、それがどういう状況でどう使われるかを体得してゆく。それが「腹にある言葉」であり、多くの場合、それが「口から出る言葉」でもある。しかし、事情によりその両者が違う人がいる。そちらの方が少数派だから、そちら側の人が多数派に合わせる。そして多数派が哀れんでくれる。私はその少数派だったから、周りに合わせることをしてきた。そのことを「大変だねえ」と同情してくれる人もおり、曖昧な返事をしていたように思う。だが腹の中ではその方が良いと思ってきた。だから方言が好きだった。東京弁にはない表現があると嬉しかった。東京人が持たない感じ方や物事の捉え方をする世界があるのは当然であり、それは素晴らしいことであり、標準化することはそのすばらしいことを失うことだから、してはいけないと思ってきた。
 それを見事に表現してくれたJ・ダイアモンドを読んで溜飲を下げる思いがした。私は「他の子と違」っていたのは事実であった。それをコンプレックスに感じていたが、いまではそうではないと思っている。

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鳥取県若桜町のシカの食性分析の試み

2018-05-13 16:58:48 | 報告
2018.5.12, 6.12更新
鳥取県若桜町のシカの食性分析の試み

高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)・永松 大(鳥取大学)

目的
 シカ(ニホンジカ)の食性は北海道から屋久島まで広範に分析され、大体の傾向は把握されているが、まだまだより残された地域も多い。中国地方はその一つで、2000年に山口県のシカで断片的な情報が報告されたにすぎない(Jayasekara and Takatsuki, 2000)。この分析がなされた1990年代後半には中国地方でのシカの生息は限定的であったが、その後、徐々に拡大した。鳥取県においても兵庫県から連続的な分布域が県東部から徐々に拡大傾向にある(鳥取県, 2017)。1978年と2003年の生息分布をみると、1978年には東部に断続的に生息していたが、2003年になると東部では面的になり、中部、西部にも拡大したことがわかる(図1)。


図1. 鳥取県におけるシカの生息分布. 左:1978年, 右:2003年
(鳥取県, 2017より)


 このため農林業への被害が大きくなり、その抑制のために捕獲が進められ、2010年からは3000頭台、2013年以降は4000頭を超えるレベルになっている(図2)。


図2. 鳥取県におけるシカ捕獲数の推移. (鳥取県, 2017より)


 著者の一人永松は当地方で植生調査をしながら、年々シカの影響が強くなることを観察してきた。調査地である若桜町を含む鳥取県東南部で群落調査とシカのふ糞密度を調査を行い、若桜町はその中でもシカ密度が高く、植物への影響も強いことが示された(川島・永松, 2016)。場所によってはもともとはササがあったが、シカによって食べ尽くされ、低木層も貧弱化し、不嗜好植物(シカが嫌って食べない植物)が増えている場所もあった。


鳥取県東南部でのササと低木の影響の強さ(左)と糞密度(右)の分布図。色が濃いほど影響、密度の値が大きい(川嶋・永松, 2016)

 この地方は伝統的に林業が盛んであり、「若桜の杉の美林」として知られる。スギは常緑であり葉の垂直的厚さがあるために、林床は暗く、間伐が適切に行われないと林床植生は貧弱になりがちである。そのため、面積当たりのシカの頭数が同じであっても、下生えの豊富な落葉広葉樹林に比較すると環境収容力は小さくなる。このため、単純に生息密度を調べるだけではシカの置かれた状況を知ることはできない。筆者らはこれを把握する方法の一つとして、現状のシカの食性を明らかにしておくことが重要だと考えた。
 シカの食性は糞分析によっておこなわれる。糞分析法を採用すれば、非侵襲的に(シカを殺すことなく)、繰り返し調査ができるという利点がある。シカは植物が枯れる冬に食物不足に陥り、常緑のササがあれば集中的に利用するため、シカが増えるとササが減少して、シカの糞中の占有率も減る。ササは表皮細胞が特徴的であり、糞分析で確実に識別できるので、よい指標となる。またシカの主要な食物である植物の葉は一般には冬に減るため、シカが食性に強い影響を及ぼしていれば、シカは落ち葉やイネ科の稈、木本類の枝や樹皮まで利用するようになるが、もし鹿の影響が強くなくて、ササや常緑低木が多い環境であれば、シカの冬の糞にはこれらの葉が多く検出される。
 本調査はこのような背景から鳥取県東部の若桜町のシカの現時点での食性を明らかにすることを目的とした。

方法
1)調査地の選定
 春のデータとして2018年5月6日に若狭町の南にある鬼の城でシカ糞の採取をおこなった
(図3)。


図3. シカ糞採取地の位置


 糞採取した場所はアカマツとコナラの林で、下生えは強いシカの影響を受けて貧弱になっていた(図4, この植生は今後記述予定)。


図4. シカ糞採取地の景観。下生えは非常に貧弱である。

2)糞分析
 シカの糞の採取に際しては1回分の排泄と判断される糞塊から10粒を採取して1サンプルとし、10サンプルを集めた。これを光学顕微鏡でポイント枠法で分析した。ポイント数は200以上とした。
 糞中の成分は暫定的に図5の14群とした。これは今後の分析が進んだ時点で少量のものはまとめる予定である。

結果と考察
5月と6月の糞組成の平均値を図5に示した。
<5月の結果>
5月に最も多かったのは支持組織で木質繊維や樹皮など、葉でないものを含み、56.5%に達した。次に多かったのは枯葉で黒褐色の葉脈が見られた。これが17.8%を占めた。そのほかの成分は少なかった。特に双子葉植物は非常に少なく、シカの影響で減少したためと推察される。イネ科の葉は7.1%で、稈(イネ科の茎)が6.8%であった。これらは新鮮な植物由来であり、顕微鏡下では透過性の良い状態で観察された。
これらの結果は、当地のシカの春の食糧事情は劣悪であることを示唆している。多くの場所ではササや常緑樹の葉が10%以上検出されるが、ここではそのいずれもが微量しか検出されず、栄養価の低い支持組織が過半量、枯葉が2割近くを占めた。

<6月の結果>
6月9日のサンプルもさほどの変化は見られなかった。はっきりとした違いは支持組織が5月の55.5%から36.3%に減少して、稈(イネ科の茎)が6.8%から21.5%に大きく増加し、枯葉は17.8%から10.0%に減少したことである。このことは緑がほとんどなかった5月から新しいイネ科が育ち始めてシカがそれを食べ、みずみずしいイネ科の葉は消化されたために糞には7.9%しか出現しなかったが、同時に食べた稈が糞中に多く出現したことを示唆する。そのため枝先や枯葉はあまり食べなくなったものと考えられる。それでも6月時点で枯葉を除く葉が合計でも15.3%しかな買ったのはこの調査地ではシカが食べる植物が非常に限られていることを示唆する。


図5. 2018年5,6月の若狭町シカの糞組成(%)。食物カテゴリーは今後の結果に応じて変更する可能性がある。


まとめ
 分析の結果、糞の主要成分が支持組織と枯葉で占められていたことがわかり、シカが植生に強い影響を与えて、食糧事情が悪い状態にあることがわかった。特に6月になっても葉の占有率が20%未満であったことは注目される。今後、夏以降の分析を行う予定である。

文献
Jayasekara, P. and S. Takatsuki. 2000. Seasonal food habits of a sika deer population in the warm temperate forest of the westernmost part of Honshu, Japan. Ecological Research, 15: 153-157.
川嶋淳史・永松 大. 2016. 鳥取県東部におけるシカの採食による植生の被害状況. 山陰自然史研究, 12: 9-17.
鳥取県. 2017. 鳥取県特定鳥獣(ニホンジカ)管理計画.

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福岡 英彦山のシカの食性分析の試み

2018-05-05 09:38:16 | 報告

福岡 英彦山のシカの食性分析の試み (2018.5.5)

高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)


目的
 シカ(ニホンジカ)の食性は北海道から屋久島まで広範に分析されているが、九州本土では分析例がない。一方、シカは全国で増加傾向にあるが、九州も例外ではなく、各地で農林業被害だけでなく、自然植生への影響が強くなっている(福岡県, 2017)。英彦山でもシカが増え、1995年くらいまでは北西部の犬鳴地域と隔離していたシカ分布が、その後つながり(福岡県, 2017)、シカ密度も高く、英彦山周辺では30 頭/km2にもなるという(近藤ほか, 2017)。その結果、植生も強い影響を受けている(熊谷, 2010)
 シカの影響は思いがけないところにまで波及することがある。福岡県南部で長年テンの糞を採取してきた足立は過去10年ほどで調査地の植生がシカの採食によって大きく変化したことを観察し、そのことがテンの食性にも変化をもたらしたことを示した(足立ほか, 2016)。その意味でシカを取り巻く状況を把握することは重要である。
 シカの食性は糞分析によっておこなわれる。糞分析法を採用すれば、非侵襲的に(シカを殺すことなく)、繰り返し調査ができるという利点がある。シカは植物が枯れる冬に食物不足に陥り、常緑のササがあれば集中的に利用するため、シカが増えるとササが減少して、シカの糞中の占有率も減る。ササは表皮細胞が特徴的であり、糞分析で確実に識別できるので、よい指標となる。
 一方、英彦山は垂直的にいえば高地にはブナ林がひろがり(福岡県の稀少生物http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/kankyo/rdb/rdbs/detail/201100014)、中腹ではスギの人口林がひろがる。一般にスギ人工林は暗いために林床植物が貧弱であることが多く、シカの食物供給という意味では不適であるといえる。このような状況下にあるシカが現在、おもに何を食べているかを知ることは、現状の英彦山のシカの置かれた状況をシカの食性を通じて知ることにつながる。
本調査はこのような背景から現時点での英彦山のシカの食性を高地と低地で調べる。食物供給という視点からは季節変化を知ることが重要であるから、季節変化を明らかにする。

方法
1)調査地の選定
 春のデータとして2018年4月18日に次の2カ所でシカ糞の採取をおこなった。
一つは福岡県立英彦山青年の家に隣接するスギ人工林(以下「学校林」)、もう一つは北岳山頂付近近くのブナ林である(図1)。



図1 シカ糞採取地の位置


 「学校林」は英彦山の北側にあり、標高825mにある南向きのスギ人工林(田川高校の学校林)である。スギが優占し、亜高木層を欠き、低木層にはサンショウ、カジカエデなどがあり、草本層にはマツカゼソウ、テンナンショウ、タチツボスミレなどがあったが、全体に林が暗いため、林床は貧弱であった。シカ糞は2018年4月18日に採取した。
 北岳は英彦山(上宮)から北東に伸びる尾根にあり、標高1190mで、ブナが優占し、林床にはクマイザサが生育し、場所によりスゲが多かった。低木層にはケクロモジ、ネジキ、リョウブなどが散生していた。



図2 シカ糞採取地の景観。
左:「学校林」(田川高校のスギ人工林)、右:北岳のブナ林


2)糞分析
 シカの糞の採取に際しては1回分の排泄と判断される糞塊から10粒を採取して1サンプルとし、10サンプルを集めた。これを光学顕微鏡でポイント枠法で分析した。ポイント数は200以上とした。
 糞中の成分はできるだけ詳細に類型したが、最終的に図3の8類型とした。「グラミノイド」とはイネ科とカヤツリグサ科の総称で、ここではイネ科とスゲを指す。支持器官とはイネ科の稈(茎)、繊維などである。

結果と考察
 「学校林」のシカ糞組成は支持組織(49.3%)とグラミノイド(23.5%)が多いのが特徴的だった(図3)。支持組織の多くは稈であった。イネ科の葉も多かったことから、ここのシカはイネ科をよく食べているといえる。これらイネ科は顕微鏡下でも緑色であることがわかったから、新葉であり、糞採取日が4月18日であることを考えると牧草である可能性が大きい。というのは、牧草類は生育期間が長くなるように品種改良されており、早春から生育し、初冬まで緑色であるからである。実際、シカは牧草を好んで採食する。牧草は道路沿いなどで生育しているのがよく観察される。なお、双子葉植物は枯葉を含めても6.6%にすぎなかった。



図3 2018年4月の英彦山の青年の家近くのスギ人工林(学校林)と
北岳のブナ林におけるシカの糞組成の平均値(%)個別の結果は付図(下部)参照


 一方、北岳ではまったく様相が違い、ササが実に64.7%を占めていた。シカの食性において、一つの食物でこれだけ大きい占有率をとることはあまりなく、東北地方(Takatsuki, 1986)や北関東(Takatsuki, 1983)のミヤコザサ地帯におけるミヤコザサくらいしか類例がない。生育地の状況から、このササはクマイザサであると考えられる。調査地一帯のクマイザサは繰り返し採食されて小型化している。しかし、糞中でこれだけ大きな割合を占めていたということは、強い採食圧を受けながらも、シカの食物としては不足状態にはなく、ここのシカはもっとも食物の乏しい早春の時点でササを食べることができる状況にあったということを示唆する。
 東京西部の奥多摩ではスズタケがシカに食べられて消滅した。また丹沢でもスズタケが著しく減少した。このような場所では山地帯のシカの食物に占めるササの割合は小さくなっている。その意味では英彦山の高地にいるシカは事情が違い、早春というもっとも食物の乏しい時期にも十分なササが確保できていると言える。これは今回の分析で初めて明らかになったことである。
 なお北岳のシカ糞から検出されたグラミノイドにはスゲが見られた。また双子葉植物は学校林よりもさらに少なく、3.6%にすぎなかった。

まとめ
 今回、初めて英彦山のシカの糞を採取してもらったが、順調に実施できたということである。分析法についても問題はなかった。分析の結果、意外にも高地のシカが栄養価の高いササを食べていることがわかった。このように、シカの糞分析により、英彦山のシカが置かれている情報について示唆が得られたことは意義があると考えられる。今後、夏以降の分析を行う予定である。

文献
足立高行・桑原佳子・高槻成紀(2017)福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析.保全生態学研 究,21: 203-217.
熊谷信孝(2010)「英彦山・犬ヶ岳山地の自然と植物」、有限会社海鳥社
近藤 洋史・小泉 透・池田 浩一(2017)福岡県における15年間のシカ生息密度分布の動態. 第128回日本森林学会大会学術講演集
Takatsuki, S. 1983. The importance of Sasa nipponica as a forage for Sika deer (Cervus nippon) in Omote-Nikko . Japanese Journal of Ecology, 33: 17-25.
Takatsuki, S. 1986. Food habits of Sika deer on Mt. Goyo. Ecological Research, 1: 119-128.
福岡県の稀少生物
http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/kankyo/rdb/rdbs/detail/201100014

謝辞
 シカの糞採取は、柴戸慶子(ふくおか森づくりネットワーク)、小森耕太(ふくおか森づくりネットワーク)、福島 優(グリーンシティ福岡)によって実施されました。深くお礼申し上げます。

付図 糞サンプルごとの組成(%)学校林はグラミノイド、北岳はササの占有率を大きい順に配列した。





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丹沢のシカの糞分析の試み

2018-04-01 13:43:28 | 報告
2018.3.21, 4.14, 6.11更新

丹沢のシカの糞分析の試み


高槻成紀(麻布大学いのちの博物館)・梶谷敏夫(丹沢ブナ党)


目的
 丹沢大山は1970年代からシカ問題に取り組んできた。これは我が国でももっとも初期のことである。戦後は狩猟が解禁になってシカは激減したが、その後徐々に回復し1960年代後半には有害獣駆除がおこなわれ、1980年代を通じて植物への影響が顕在化した。その後、個体数管理の努力が続けられ、徐々に植生回復が認められるようになったが、場所によってはシカの過密状態を脱しておらず、低山帯への拡大傾向もあり、問題は続いている。
 シカの頭数調査や植生のモニタリングなどは神奈川県の事業としておこなわれているが、シカの食性については不明な部分が多い。ニホンジカの食性はおもに糞分析によっておこなわれ、北海道から九州にいたるおよその傾向が明らかにされている。この方法を採用すれば、非侵襲的に(シカを殺すことなく)、繰り返し調査ができるという利点がある。現在の丹沢では20年ほど前にシカの強い影響を受けて林床植物が退行し、とくにスズタケが大きく減少した。現在は徐々に回復しているといわれる。また山頂部にはミヤマクマザサが生育する。このような高密度な場所のシカは植物が枯れる冬に食物不足に陥り、常緑のササがあれば集中的に利用する。ササは表皮細胞が特徴的であるため、糞分析で確実に識別できる。
 一方、丹沢は垂直的にいえば高地には落葉広葉樹林がひろがり、中腹ではそのほかにおもにスギの人工林がひろがり、低地は落葉広葉樹の二次林の占める割合が大きい。したがってシカの食性にも垂直的な変異があることが想定される。一般にスギ人工林は暗いために林床植物が貧弱であることが多く、シカの食物供給という意味では不適であるといえる。このような状況下にあるシカがおもに何を食べているかを知ることは現状の丹沢のシカの置かれた状況を食性を通じて知ることにつながる。
 本調査はこのような背景から丹沢のシカの食性を丹沢の高地、中腹、低地で調べる。食物供給という視点からは季節変化を知ることが重要であるから、それぞれの高さでの季節変化を明らかにする。
 本報では2018年2-4月の冬の結果に引き続き、6月までに採取した糞の分析結果を報告する。

方法
 標高による違いを比較するために、2本のラインをとった。1本は高地が檜洞丸(中H)、中標高が西丹沢教室周辺(中M)、低地が丹沢湖北東岸(中L)で、これを「中ライン」とした。もう1本は高地が塔の岳(東H)、中標高が岳の台(東M)、低地が名古木(東L)のラインで、これを「東ライン」とした。このほか東西比較として切通峠(西H)でも糞を採取し、これを「西」とした(図1、表1)。


図1 シカ糞採集地の位置関係

表1 シカの糞採集地点



 図2には糞採集地の春の景観写真を示した。


図2 糞採取地の春の景観写真(晩冬の写真は文末)


 シカ生息地で代表的な群落を選び、新鮮なシカの糞を10の糞塊からそれぞれ10粒拾った。採取は晩冬のサンプルは2018年2月(中標高と低地)から4月(高地)、春のサンプルは5,6月に行った。ただし東ライン低地(東L)では新しいシカフンが発見できなかった。また「中M」では新しいフンは6群からしか発見できなかった。糞サンプルは0.5mm間隔のフルイ上で水洗し、残った植物片を顕微鏡でポイント枠法で分析した。カウント数は200以上とした。

結果
2018年晩冬

 糞分析の晩冬の結果を図3に示した。


図3 2018年晩冬の7カ所のシカの糞組成(%)

 全体に植物の葉が20-60%程度であり、繊維質など植物の支持組織が残りの30-80%を占めており、あまり食糧事情はよくないことがうかがえる。
 切通峠(西H)ではササがわずか4.1%であり、双子葉植物の葉が23.7%であった。そして繊維などが多くを占め、食料事情が悪いと考えられた。
 「中ライン」の檜洞丸(中H)ではササはほとんど検出されず、イネ科が5%ほどで、支持組織が80%を上回り、全ての地点でもっとも食料事情が悪いことがわかった。
 箒沢(中M)ではササが20.6%と多くなり、その他のイネ科も10.0%あった。双子葉植物は西Hと同程度であり、それだけ繊維分が少なかった。
 丹沢湖北東部(中L)ではササが29.8%と双子葉植物を上回り、両者を合わせれば過半量になり、果実も含まれており、食料事情が良いようであった。ただし、糞サンプルによってササの占有率に大きなばらつきがあった。
 「東ライン」の塔の岳(東H)では意外にササが多く(37.6%)、繊維質などの支持組織は38.0%であった。シカ糞採取地では植物はほとんどないようだが(図2)、周辺にはミヤマクマザサがあった。
 岳の台(東M)ではササが56.2%と5カ所中もっとも多く、その他の葉を合わせても7カ所中でもっとも多かった。ただし双子葉植物の葉は少なかった。
 名古木(東L)はササが14.2%と少なく、「中ライン」のように低地ほどササが多いというパターンにはならなかった。ただし双子葉植物の葉は20.3%を占めた。ササが少ない点を除けば「中L」の丹沢湖北東部の組成と似ていた。

2018年春
 糞分析の春の結果を図4に示した。


図4 2018年春の6カ所のシカの糞組成(%)東L(名古木)では糞が発見できず


 切通峠(西H)ではササが30%程度、残りは繊維とその他の支持組織(主に稈)が多かった。
 中ライン」の檜洞丸(中H)では新しいイネ科が26.2%で多く、ほかに繊維とその他の支持組織(主に稈)が多かったが、この稈は新しいイネ科のものと思われ、透明であった。。
 箒沢(中M)ではササが12.3%で、その他の支持組織(主に稈)が55.5%と過半となったが、その大半は稈であった。
 丹沢湖北東部(中L)でもササが10.8%のほかはその他の支持組織が61.3%と非常に多く、その主体は稈であり、全体に中Mとよく似ていた。
 「東ライン」の塔の岳(東H)ではイネ科が多く(37.6%)、ほかには繊維とその他の支持組織(主に稈)が多かった。
 岳の台(東M)ではササが56.2%と5カ所中もっとも多かった。
 名古木(東L)には新しい糞が発見できなかった。

季節変化
 以上の結果を晩冬期と比較する(図5)。


図5a. 西Hでの晩冬と春の糞組成


 西Hでは双子葉植物とイネ科が入れ替わるかのような変化を見せた(図5a)。


図5b. ライン中での晩冬と春の糞組成


 中Hではイネ科とその他の支持組織(主に稈)が増加し、繊維が減少した。
 中Mではササがやや減少、双子葉植物と繊維が大きく減少し、その他の支持組織(主に稈)が大きく増加した。
 中Lではササと双子葉植物、繊維が大幅に減少し、イネ科がやや増加し、その他の支持組織(主に稈)が大きく増加した。


図5c. ライン東での晩冬と春の糞組成。東Lでは糞なし。


 東Hではササが大きく減少し、イネ科とその他の支持組織(主に稈)が増加し、繊維が大幅に増加した。
 東Mではササがやや減少しながらも非常に重要で、繊維、その他の支持組織(主に稈)が増加した。
 多くの場所に共通していたのは、イネ科とその他の支持組織(主に稈)の増加である。また多くの場所でササと双子葉植物が減少した。

考察
 分析で「双子葉」としたのは常緑広葉樹の葉と思われ、これは関東北部や東北地方などの冷温帯ではあまりないことであり、その点で言えば丹沢のシカは冬に常緑広葉樹樹が20%程度は摂取できる状態にあることがわかった。切り通峠(西H)ではササが少なかった。「中ライン」では標高に従ってササが少なくなる傾向があり、シカにとって高地ほど冬の食料事情がきびしいものであることをうかがわせる結果であった。しかし、「東ライン」ではササ占有率に逆転が見られ、中標高の岳の台でササが非常に多く、東Hでも少ないとは言えなかった。従って、単純にササの量が低地ほど多いとは言い切れず、シカはササがあればササを食べるが、ない場合はあれば広葉樹を食べるという相補的な関係があるようである。ただし、檜洞丸のような高地ではそのどちらも乏しく、繊維や稈(イネ科の茎)などの支持組織が大半を占めていた。
 春の結果から、全体にイネ科の葉が増加し、これに関連すると思われる稈の増加が目立った。同時に晩冬季に重要であったササと場所によりかなり出現していた双子葉(主に常緑広葉樹の葉)が減少した。このことから、冬のあいだ利用していたササや常緑樹の葉が減少したか、残っていても硬くなり、栄養価も消化率も低くなっていたところに、他の植物に先駆けて出現したイネ科の葉や稈を食べるようになり、ササや常緑樹の葉が利用されなくなったものと思われる。こうした中にあった東Mの岳ノ台ではササが多いままであった。この辺りは臨床にササが多く(図6)、シカにとっては春になってもササが利用しやすかったものと考えられる。


図6. 岳ノ台(東M)の景観(2018年6月9日)。林床にササが多い。


 東L(名古木)では4月にはシカの糞があったが、5月には新しい糞が見当たらなかった。また東M(岳ノ台)でも新しい糞は少なかった。このことは東部では冬に雪を避けて低地に降りるシカが春になると高い方へ移動することを示唆する。
 以上、これまで定量的な分析が行われてこなかった丹沢のシカの食性が今回初めて分析できたことは、丹沢のシカの置かれた状況を判断する上でも、また今後のシカの管理の仕方を考える上でも有意義であると考えられる。冬には常緑植物の葉を食べるほか、栄養価の低い枝などを食べるため繊維が多かったが、春になるとイネ科が増加し、ササや常緑樹は減少した。夏に双子葉植物が増加すると思われ、今後も継続して分析したい。

謝辞
 シカの糞採取をしていただきました丹沢ブナ党の皆様にお礼申し上げます。


付図 糞採取地の冬の景観写真
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都市における鳥類による種子散布の一断面

2018-03-23 08:35:43 | 報告
都市における鳥類による種子散布の一断面

以下の記録は今年の1月に採取した鳥類による散布種子集団を2月11日の観察会で類型し、その後高槻が残りを類型、カウントしてまとめたものです。観察会当日のようすは こちら

<はじめに>
 私たちは赤い実のなる木にヒヨドリなどの鳥が来て食べているのを見ることがある。鳥たちは木の実をついばみながら下に落としたり、飲み込んだりしているが、やがていなくなる。おそらく別の木に移動するのであろう。その木の下にはたくさんの果実が落ちているが、その木の果実以外にもいろいろな果実が落ちている。これらはその前にいた木のものであろう。


鳥類による種子散布のイメージ


 こうして鳥類は移動できない植物の種子を散布している。そういう植物は鳥類に種子を運んでもらうために目立つ色の、あまり大きくなくて鳥がひと飲みできるくらいの大きさの果実をつくるように進化してきたと考えられている。
 このことは当然想定されることだが、実際に調べるのはそう簡単ではない。山の林で木の下にある果実を探すのはきわめてむずかしいので、シードトラップ(種子を受ける装置)をたくさん置いて回収するということがおこなわれるが、そう簡単にできることではない。その点、都会の公園などにある木で下が舗装されていれば、落ちた果実は容易に発見でき、回収も簡単である。

<方法>
 このことを利用して、小平市の3カ所で次のようなサンプリングをした。
1) 小平霊園のトウネズミモチの木の下
2) 小平市大沼公民館のクロガネモチの下
3) 青梅街道駅近くのJAの駐車場の電線の下


種子採取地の位置関係



小平霊園のトウネズミモチ(2018年1月)


と小平市大沼公民館のクロガネモチ(2018年1月)


 上に母樹がある場合は当然その木の果実が多いが、3)は直近には木はなく、鳥が電線にとまって吐き出したり、糞をしたりした果実や種子が落ちていた。
 採取は1)と2)は2018年1月4日、3)は1月7日におこなった。採取した面積はだいたい幅1m、長さが4、5mほどの範囲だが、厳密に測定してはいない。というのは絶対値が意味があるのではなく、内訳のほうが重要だからである。

<検出種子>
 検出された種子は21種と数種の識別不能種があった。不明種の数はごく少ない。


検出された種子(1)1. アオキ, 2. イヌツゲ, 3. カラスウリ, 4. クロガネモチ, 5. ケヤキ, 6. ケンポナシ, 7. ジャノヒゲ, 8. シロダモ, 9. センダン, 10. ツタ, 11. トウネズミモチ, 12. ナンテン。格子間隔は5mm


検出された種子(2)1. ネズミモチ、2. ハナミズキ, 3. ヒヨドリジョウゴ, 4. ピラカンサ, 5. ブドウ, 6. ヘクソカズラ, 7. マンリョウ, 8. ヤマハゼ。格子間隔は5mm


数が多かったのはトウネズミモチとクロガネモチで、この2種は母樹からの落下が大半である。このほかではピラカンサ、ナンテン、ネズミモチ、マンリョウ、エノキ、センダンなどがある程度多かった。
 21種のうち約半数の10種は栽培種であり、都市環境を反映していた。ただし、アオキ、イヌツゲ、ナンテンは野外にもある。またマンリョウも野外にあるが、調査地の範囲では野生のマンリョウはまずないので、栽培種とした。やや多かった6種のうち、野生種はネズミモチとエノキだけであった。なお、21種のほとんどは「多肉果」であり、堅果はケヤキ1種、乾果はヤマハゼ1種にすぎなかった。したがって鳥類に散布されるのは基本的に多肉果であり、そうでない場合でも実質的に多肉果状のものであることが確認された。

    
ピラカンサ、マンリョウ、イヌツゲ、エノキ、ヒヨドリジョウゴ

 カラスウリは果実が例外的に大きく、鳥類は果肉をついばむが、種子が食べられるかどうかわからなかったが、これで種子を散布することが確認された。


カラスウリ


 ケンポナシは形態学的には果肉でなく果柄部分が肥厚したものだが、生態学的には多肉果である。この「果実」はすぐに母樹から落ちて甘い匂いがするので哺乳類がよく利用するので、鳥類が利用していたのは発見であった。


ケンポナシ


 またジャノヒゲの種子は青くつやがあって多肉果のように見える。このため食べても栄養はないと思われるが、いわば「だまされて」食べるものと思われる。ジャノヒゲは密生する葉の下に果実をつけるので見つけたにくいが、それを鳥類が探して食べたものと思われる。


ジャノヒゲ


ヘクソカズラの果実は赤や青のように鮮やかではなく、人の目には目立たない黄褐色であり、果肉もあまりないように思われるとが、鳥類が食べていることが確認された。


ヘクソカズラ


 ヤマハゼの仲間は種子の外面に資質に富んだ物質があって鳥類が好むことが知られている(ヌルデ:桜谷2001,ヤマハゼ:佐藤・酒井 2001,上田・福居 1992,ヤマウルシ:原田 2005; 桜谷 2001)。
 ケヤキは風散布であり、鳥類がケヤキを食べるという記録があるかないか確認の必要がある。


ケヤキの果実


小平市の3カ所で回収した鳥類散布種子集団。母樹由来の種子は灰色で示した。


<落下種子集団>
 樹下には母樹の果実も多数あったが、これらは対象外とし、種子だけをカウントした。予想どおり、小平霊園ではトウネズミモチの種子が、大沼公民館ではクロガネモチの種子が大半を占めていた。青梅街道駅ではトウネズミモチの種子が大半を占めていた。


回収された種子の内訳(クロガネモチとトウネズミモチ以外はまとめて「その他」とした)


 次に外部から持ち込まれた種子集団について見る。小平霊園には11種が外部から持ち込まれていた。とくに多い種はなく、ばらついていた。大沼公民館では13種の持ち込み種子があり、トウネズミモチとピラカンサが多かった。これらに対して青梅街道駅では持ち込み種子数は10とさほど違いはなかったが、大半はトウネズミモチであり強い偏りがあった。


持ち込まれた種子の内訳(%) 


<まとめ>
 この調査でわかったのは、都市の多肉果をつける樹木や鳥だまりの下に落下している種子を調べることで、鳥類による持ち込み種子があることが確認され、その種数は10種あまりであったということである。母樹のない鳥だまりの1例ではトウネズミモチが大半を占めた。トウネズミモチはトウネズミモチの母樹の下ではもちろん、クロガネモチの下でもある程度検出されたから、小平市には絶対量が多いものと思われる。
 堅果であるケヤキが食べられていたのは意外であった。ニホンザルは冬にケヤキの堅果をよく食べることが知られているが(辻・中川, 2017)、鳥類での知見は未確認である。そのほか、小数ながらケヤキ、ジャノヒゲ、ヘクソカズラ、ケンポナシなどこれまで鳥類が食べることを確認していなかったものが確認できた。

<観察会のテーマとして>
 自然観察会などのテーマとして、野生植物だけでなく、庭に植えられたナンテン、マンリョウなどが鳥類に散布されていることを確認するものとして適していると思われる。難点は分析に時間がかかることで、すぐには答えが出ない点である。しかし通りいっぺんの観察では知り得ない「ストーリー」が読めるという程では一歩深みのある観察会に適用できると思われる。また少数ながらヘクソカズラ、
 
引用文献
上田恵介・福居信幸.1992.果実食者としてのカラス類Corvus spp.:ウルシ属Rhus spp.に対する選好性.日本鳥類学会誌 40: 67-74.
桜谷保之.2001.近畿大学奈良キャンパスにおける野鳥類の食性.近畿大学農学部紀要 34: 151-164.
佐藤重穂・酒井 敦.2001.ヤマハゼRhus sylvestris果実の鳥類による被食過程.森林応用研究 10: 63-67.
辻大和・中川尚史.2017.日本のサル.東京大学出版会
原田直國・上田義治.2005.農業環境技術研究所生態系保存実験圃場における果実食鳥による種子散布の記録.インベントリー 4: 15-19.
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タヌキの糞からドングリ

2018-03-18 19:20:26 | 報告
ちょっと意外というか、不思議に思っていることがあります。クマはドングリが大好きで秋の糞びはドングリがいっぱい入っています。ドングリはでんぷん質だから、脂肪に変えて冬眠に備えるわけです。津田塾大学にはシラカシがたくさんあって大量のドングリが落ちています。それを同じ食肉目のタヌキが全く食べません。私は去年100個以上の糞を分析しましたが、全く出て来ませんでした。だから論文に次のように記述しました。

津田塾大学の森林で最も優占するシラカシや個体数が少ないので調査区には出現しなかったコナラやスダジイなどは大量の堅果類(ドングリ)を実らせ,林床に多数落下するにもかかわらず,タヌキの糞からは検出されなかった.タヌキがドングリの種皮・種皮を食べないで,種皮を除いて子葉部だけを食べるとか,飲み込まれた子葉部が完全に消化されて糞に出現しないとは考えにくい.したがって,津田塾大学の森林での供給量の豊富さを考えれば,タヌキは実質的にドングリ類を食べていないと考えられる.ただ,東京都八王子市でのタヌキの糞分析例では少数例で,微量のドングリの種皮が検出されたことがある(Takatsuki et al., in press).ほかにも皇居でシイ・カシ類の種子片が出現しているが,出現頻度は8.8 %にすぎない(酒向ほか, 2008).そのほかの多くの分析事例ではドングリは検出されていない.これらの情報から,タヌキはドングリが豊富に供給されても,ごく少量を低頻度にしか利用しないと思われる.このことは,同じ食肉目のツキノワグマUrsus thibetanusがドングリ類を好んで採食すること(橋本・高槻, 1997)を考えれば,興味ある現象である.例えば,コナラ属の堅果の出現頻度は,秩父山地のツキノワグマの場合, 25 %(1993年)または67 %(1994年)であったし(Hashimoto, 2002),岩手県では95 %〜100 %であったし(坂本・青井, 2006),中国山地では85 %(9月),28 %(10月),47 %(11月)であり(大井ほか, 2012),いずれもタヌキよりもはるかに高頻度であった

 その結論は変わらないのですが、今年はマーカーのチェックのために、分析はしませんが、ふるいで水洗しています。すでに50個以上は調べました。そうしたら3月2日に回収した糞の中の1個からドングリの破片が出て来ました。中身(子葉)が一部欠けた状態で、外側の殻もありました。ほとんど未消化の状態なので、どれだけ栄養になっているかわからないし、150個以上見た中のわずか1個ですから、「ほとんど食べない」という結論は変わりませんが、ごく稀には食べることがあるという「小さな発見」があったということです。林には今でも大量のドングリが落ちています。


津田塾大学のタヌキの糞から検出されたドングリ。上は殻の破片、下の2つが中身(子葉)。格子間隔は5mm

以上の報告を書いた後、1月10日に拾っていたタメフン3と読んでいるタメフン場の大量の糞を3月10日に全て水洗しおわりました。潰れたり、くっついたりしていてどれが1個かわからなくなっているので、およその量しかわかりませんが、60個くらいです。たくさんのカキとブドウの種子が出てきましたが、その中に1個だけ、シラカシのまったく未消化なドングリが出てきました。同じ結論ではありますが、「タヌキはドングリを食べないわけではない、ただしほとんど未消化だ」ということです。


タヌキの糞から出てきたシラカシのドングリ

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