2021.10.28
小金井市はけの森美術館付近のタヌキについて
高槻成紀
2021年9月に安田桂子さんからはけの森美術館に近いあるお宅の庭に動物の糞があるが、何の糞だろうと質問を受けた。そこで9月20日に現地を見に行くことにした。この場所は野川の北で「はけ」があるために段丘の坂道が多く、住宅地ではあるが個人の庭や小金井市の緑地などもあり、比較的林が残っている。このお宅ははけの森美術館と道路を挟んで接するようにある(図1) 。
図1. 調査地の空中写真
そのお宅に行くと確かに軒下に動物の糞がパラパラと落ちていた(図2)。タヌキの糞の可能性が大きいが、私がこれまで見たものはもっと集中的に重ねるようなものが多かったので確定はできないと思った。そこでセンサーカメラを置くことにした(図2)。カメラは1台は静止画、もう一台は動画とした。
図.2 軒下の動物の糞とセンサーカメラ(奥の2台)
9月24日にセンサーカメラの結果を確認しに行ったところ、20日の夜にタヌキが写っていた(図3)。しかも1つの動画には同時に3頭が写っており、少なくとも3頭が利用していることがわかった。
図3. 撮影された2頭のタヌキ. 2021.10.20
動画によればこの後ろにもう1頭撮影された.
新しい糞を拾って帰り、分析した。分析はポイント枠法という方法を採用した。この方法は間隔が0.5 mmのふるいの上で水洗し、残った物質を顕微鏡で識別し、格子のついたスライドグラスで定量的に評価する方法である。
9月は新しい糞が4個しか得られなかった。その組成の主体はムクノキの果実で、3例はムクノキの果実が大半をしめたが、1例は昆虫が多かった。タヌキの食物は、多くの場所で夏は昆虫が多くなり、秋は果実が多くなるので、9月中旬はその移行的な段階なのだと思われる。
図4 検出されたムクノキの種子(2021年9月)
10月には12個の糞が確保された。その組成は全体としては9月と違いがなかった(図5)。
図5. 2021年9月と10月のタヌキの糞組成
果実としてはムクノキが多かったが、コブシやヤブミョウガを含むサンプルもあった(図6)。またほとんどが昆虫(幼虫)に占められていたサンプルやカエルの骨を含んだサンプルもあった。
図5. 2021年10月のタヌキの糞からの検出物
東京の市街地でもこの場所は「はけ」があり、その水流の周りに良い状態の林が残っているので、タヌキの生息地としては良好であり、タヌキの食糧事情は比較的良好だと思われる。これまで果実・種子としてはムクノキ、エノキ、コブシ、カキノキ、ヤブミョウガが確認された。これらはいずれも落葉樹林の構成種で、ヤブミョウガは常緑樹林にも生育する。ただしカキノキは人家などに植栽される。これまでのところポリ袋などの人工物は検出されておらず、糞組成はここのタヌキが比較的良好な状態の林で生活していることを示唆する。今後、果実が乏しくなったときに、何を食べているか興味が持たれる。
ムクノキ
エノキ
コブシ
ヤブミョウガ