高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

タヌキ学 感想

2015-10-05 21:13:10 | 私の著作
ありがたいことに多くの感想をもらっています。そしてその多くは好意的なものです。そうでないもののうち、建設的なものについて私の考えを書いておきます。

読書メーター

Satomi (2016年7月12日)
タヌキだけでなく、野生生物との共存について考えさせられる本でした。3.11で津波の被害を受けた自然は、意外と早く立ち直りつつあった。けれども、復興工事でせっかく生えてきた植物や戻ってきたタヌキがいなくなってしまったそうです。物事は、いろいろな側面から正しく理解して、考えないとダメですね。

涼色桔梗(2016年6月5日)
「けものへん」に「里」と書いて「狸」ってくらい、タヌキは人里に近くないと生きられない野生動物。アライグマでもアナグマでもハクビシンでも無いから注意。野毛山動物園でみんな並んでるから見比べると吉。糞の山から生態を研究するのは、好きでも大変そう…

小鳥遊小鳥(2016年5月26日)
まず、巻頭の写真が可愛いです。秋のタヌキってこんなに太るのね…… 著者は生態学の専門家ですがタヌキのイメージについての説明もわかりやすかったです。

ムージョ(2016年4月19日)
タヌキの生物学的説明からイメージの変遷。そして今日の生息環境の問題と一通りが学べる本。タヌキに関するイメージが実物とはずいぶんかけ離れていることが興味深い。身近な動物でありながら実はそれほど人と接触してこなかったということか。信楽焼きのタヌキがわりと最近個人が作ったというのも驚き。タヌキが食べる果実がどれも美味しそうでちょっと食べてみたくなった。著者は交通事故に対策がなされていないというが、町田には20年以上前からタヌキ道が作られている。使用状況は不明だけど。事故調査の際その話は聞かなかったのかな。

とりぞう(2016年4月13日)
「タヌキは同じイヌ科のキツネに比べると四肢が短く、太っている」なんていうあたりまえ(?)のことから、「アナグマはタヌキに似ているが、実はイタチ科」なんていうちょっと使ってみたくなるフレーズなど。「タヌキ学」があるのかどうか知らないけれど、タヌキのみならず動物好きには必ず得るものがある本。

みそ(2016年3月31日)
可愛い挿絵に惹かれて手に取った。中盤以降は調査記録的な記述が多い気がした。今日のタヌキのイメージがどう作られていったかという推理は興味深かった。

asiantamtam(2016年3月23日)
本一面タヌキタヌキとタヌキがゲシュタルト崩壊。タヌキが普通に生きていけるような里山が残っていったらいいのになあ。

ソラ(2016年3月18日)
タヌキには、どこか惚けていて親しみがわくイメージがある。本作では、昔話でお馴染みのタヌキを、食性や生態を分かりやすく述べられており、筆者のタヌキ愛が伝わってくる。意外だったのは、環境への適応力で、大都会でも生息していける種としての強さに驚いた。人間が生活範囲を広げていくにつれ、動物たちの棲家はどんどん狭められていったが、上手く生き残る術を身に付けた、まさにタヌキ親父的な立ち回り方は自分が持つタヌキの印象とはかなり違っていた。環境破壊が進み、これ以上タヌキ達が住む場所を追われる世の中にはなって欲しくないなあ

tall_hemlock(2016年3月16日)
シカが専門の方のタヌキの本で、生態学的なことだけでなく文化にも結構触れていて興味深い。東日本震災の後にタヌキが戻ってきた話も。  読み終わった翌日にロードキルされたタヌキ…通り過ぎざまにちらっとしか見てないからタヌキかハクビシンかわかんないけど、に遭遇してちょっと見につまされる思い。でも、「タヌキのための道を作った話は聞いたことがない」とあったけれど、「平成狸合戦ぽんぽこ」の頃にどっかでタヌキ道(車道の上だか下だかに設けたタヌキ横断用の通路)作ったという話はあった気がするなあ。

ayukaeru(2016年3月16日)
タヌキ愛にあふれている!イラストが非常にかわいらしい。タヌキ好きだ〜なんて健気なんだろう。そんな思惑なんて意に介さず、タヌキたちは淡々と生きているのだ。

木崎智行(2016年3月8日)
人間にどんなイメージを持たれるかは、その動物の生存に対して大きな影響を与えます。タヌキはどうでしょうか。ぽんぽこ腹鼓のポン太でしょうか。カチカチ山の残忍なタヌキでしょうか。人を化かすいたずらもの?やっかいなタヌキ親父?老練な古狸?タヌキ顔のおっとり優しいあの娘?たんたんタヌキのぶーらぶら?タヌキほど多彩なイメージを持たれている野生動物は他にいないかもしれません。なぜそんなにたくさんのイメージを持たれるようになったのか。日本人の暮らしの変遷や生態などから著者が考えます。他の野生動物が姿を消していく中、逞しく

夜兎(2016年3月7日)
たぬきがマイブームなので読んでみた。付かず離れずの関係でたぬきと暮らしていきたい。毎日餌をもらいに訪ねてくるけど、決して触らせないし一定の距離を保ち、餌を貰ったら少し離れた場所で食べる、みたいな。自然との共生という意味でも、付かず離れずのたぬきを。

詩ごとのblog(2016.3.5)

これはかわいらしくも、まじめでおもしろい本なのですね。
私はタヌキについてほとんど知らないけれど、
読めます。

イヌ科である。
というような、非常に基本的な情報からはじまって。

周囲の環境に合わせて、柔軟に餌を選ぶこと。
そのため、「これしか食べられない」
「これがなくなったら生息できない」
ということが、あまりないようなのです。

都市部でも見かける(私は見かけたことがありません)理由は
そのあたりにあるようですね。


しかし、やはり胸が痛むのは
交通事故で命を落とす件数が、多いということです。

とにかくざっとでも読んでみると、
あたりまえのことではあるけど

命は自然という舞台があってはじめて存在すること、

自然とは、人工物の対義語であること、

などが理解できる。


理解だけじゃだめということも。


都市部にもっと緑地を増やしたいと
やはり思うようになりますね。

ただ、緑地っていっても、
小さな緑地が途切れ、途切れにあるようでは
野生の動物たちのすみかとして不十分なようです。


というのも、
ある程度の距離を移動することが、彼らには
必要だから。


都市部になんらかの手を加えるときには
(例えば川沿いの土地をどう処理するか)、

人間以外の命が、ひきつづき生きていけるように
考える必要があると思います。

そのとき、必ずしも人間にとって
便利な結果だけを望むわけにはいかない。

そこがたぶん、いちばん人々を納得させにくいところでしょう。

先入観とか誤解とかによって
かえって不自然な環境、つまり人工的な環境を作ってしまうことも
ありますよね。

整備という名の、破壊です。


自然とは、お庭のお花畑のようなもの。
そういう先入観をもっている人が、多いのではないでしょうか。


よくよくまわりを見ると、そんなカラフルなお花だけが
集まって咲いている場所は、
あまりないはず。
しかも、なぜか外国原産のお花を
植えたがる人が多いのは、
いったいあれは、なぜでしょうか。


本来の自然とは、
もっと地味なものだと思いますね。
枯れたものは枯れたまま
季節が巡ってくるまでそこに放っておく。

その方がいい。

野々ゴリラ(2016年2月26日)
 タヌキについての入門書であり、イラスト付きでわかりやすく説明されています。本書はタヌキの基礎データから始まり、世間でのイメージについて、自然環境との関係、人と社会との関わり、と続きます。本書を読むと、タヌキは都会でも被災地でも生息できるたくましい生き物であることがわかります。しかし現代日本のように経済成長ばかりを優先し自然を破壊すれば、そのタヌキさえ生きていけなくなってしまうのではないかと、著者は最後に警告します。

魚京童!(2016年2月21日)
誠文堂新光社の栁千絵さんとは何度も議論し、ときに意見がぶつかることもあったが、よい本にしたいという思いは一致していた。

shiropiyo(2016年2月16日)
タヌキに思い入れがあるので手に取ったのですが、非常に楽しく読ませて頂きました。本書の中で高槻先生のタヌキ愛(?)が想定外のユーモアを生み出しています。

たくのみ(2016年2月14日)
タヌキのことに詳しくなる、というよりタヌキ雑学の入門書。キツネ、アナグマ、アライグマに比べ、世界での分布は狭い(アジアの一部)。震災後のタヌキの復活ドキュメント、ちょっと上から目線の問答解説Q&Aは読みにくいけど、画像が豊富で絵が可愛い。身近なだけにあまりにも知らないことが多かったタヌキ。ユーモラスな彼らの写真で癒されたい人にはピッタリです。

かい(2016年2月13日)
キャラクターとして、野生動物として、タヌキを解きあかした一冊。とはいえ「入門」とつく上に著者の専門は生態学なので、そちらがメインの本である。キャラクターとしての参考文献はほとんどあげられていない。それにしても挿し絵がかわいい。

yamakujira(2016年2月11日)
第4章の「東日本大震災とタヌキ」に、震災からまもなく5年を経た時期に発行する意味を思う。壊滅した沿岸部に戻ってきたタヌキが、防潮堤工事で追い払われる現実を嘆く。田老の被害を見れば愚行を重ねているとしか思えないのに。最終章の「タヌキと私たち」では「玉川上水とタヌキ」が近所の話題なので興味深かった。でも、グラフと本文の記述にズレを感じたのは理解不足だろうか。読んでみると、なるほど、タヌキという感じが獣偏に里と書くのが頷ける。生態については物足りないけれど、書名が「入門」だからね。

ㄜƕ(2016年2月6日
タヌキはイヌ科!!!!!

Daisuke Azuma(2016年2月2日)
タヌキの生態だけでなく、文化的な面からも考察されていて、化かすイメージ、狐と比べて間が抜けたイメージ、タヌキおやじのイメージ、等考察されていて面白い。生態のところも楽しく読めた。しかし震災でいなくなったタヌキが戻ってきたのを研究することで被災者を励ましたいみたいなくだりはどうかと思うし、あまつさえせっかく戻ってきたタヌキが防潮堤の工事で追い払われた、と批判的に書くに至っては神経を疑う。タヌキをかわいいのかわいくないのと言っていられるのも日々の生活が安定してあってこそで、そこをはき違えてはいけないと思う。

高槻:私の主張が理解されていないようで残念です。まず震災で被害を受けたタヌキが戻ってきたこと。このことで被災者が勇気付けられると思うことが「どうか」ということの意味が私には理解できません。それはふつうの感覚ではないでしょうか。あれほどの災害を受けながら植物も昆虫も鳥もけものもしっかりと生をまっとうしていることは、私にはいのちのすばらしさの象徴のように思えます。
 このことと、堤防工事のことはまったく別の話です。私は津波を防潮堤で防ぐことには、たくさんの意味で批判的です。これについて同様の結論に達した研究者は数多くいます。日本列島は本質的に津波を宿命のように受けるのです。まさに「日々の生活が安定」するためには、防潮堤を作るという、自然をねじ伏せるような姿勢は日本列島では逆効果なのです。東日本大震災はそのことを学ぶ最大のチャンスであったにもかかわらず、まったく学ぶことをしないで防潮堤を作ることに私は批判的です。なぜ「神経を疑い」ますか?論理的に書いてほしいものです。研究者は行政のすることを賛同するものだとお考えでしょうか?申し訳ありませんが、それはまちがいです。自分の研究の結論から批判すべきとなれば批判する、それが科学者の態度です。私は日本列島で日本人が暮らしてゆくには、自然に立ち向かうのではなく、自然とおりあいをつけることが肝要だということを半世紀の研究人生で学びました。この本にもそのことを書いたつもりですが、残念ながらこの方には読み取ってもらえなかったようです。


しぇるぱ(2016年2月1日)
シカと植物群落との関係を研究するのが得手のようです。当然、シカ、クマ、タヌキなどとも親しい。根が真面目な人なんでしょうね。懸命に面白くしようと筆を掻き立てているが、面白くない。東北大学で学んで研究生活に入ったのだそうです。後に東大で教授してます。東日本大震災が起きました。海岸は津波で破壊され、植物は塩害で枯れました。タヌキの溜め糞があると聞き、調査に赴きました。植生は回復し、タヌキも戻ってきました。巨大堤防を築く工事が進行し、溜め糞は重機で蹴散らされました。タヌキは再び海岸から追い払われました。

高槻:不思議なことにおもしろくない本を最後まで読まれたようです。根が真面目なひとなんでしょうね。ふつうのレトリックであれば、おもしろくないといったあとに、その理由を述べることで説得力をもたせるのですが、この人はただ目次を写しただけのような記述をし、感想が書いてないため、読む人を納得させることに成功していません。

Saku(2016年1月23日)
狸のことを知らなくても、生きて行く上では全く支障がないのだけれど(笑)この本では狸の生態だけでなく、人を化かすとか腹鼓を打つとかどこか抜けているとかっていうイメージが付いたのは何故かという観点からも 語られているのが面白い。意外に都会にも狸は棲息しているというのに驚き。読み進めていくうちに狸に親近感がわいて、3.11で被災し居なくなった狸が戻ってきたところで、帰ってこれて良かったね狸!ってなった。

あんこ(2016年1月23日)
「ケモノヘンに里と書いてタヌキと読みます。人にとって身近な野生動物です。ほんとんどの東京23区で生息が確認されています。」えええっ?うちの近所では見たことないぞ。でも、もしかしたらいるかもしれないタヌキは、あらためて見るところころしててかわいい。シティーダヌキの生態についてもうちょっと知りたくなった。

ささ(2016年1月21日)
たぬきかわいい。意外に知らない狸というものに少しばかり迫れた気がした。質問コーナーは誰かから寄せられたものなの?寄せられたものに対してなら、辛辣すぎやしませんか?

高槻:最近の若い人の反応でおもしろいのは、大人にきついことを言われたことがないものだから、正論をきちんというだけで「辛辣だ」「きつすぎる」「上から目線きらい」などということです。もし世界の同年代の人と交流するつもりなら、それではまったく通用しないことを覚悟してください。こういうふうにしてしまったのは私たちの世代の責任で、まことに申し訳ないことです。

Book Hunting

帰り道、住宅街の物陰から、ひょいとネコが出てくる。だが、ネコにしては歩き方がおかしい。しっぽも太い。なんだ、タヌキじゃないか。という程度には、タヌキに化かされたことはある。こんなふうに身近にいるといえば、タヌキは身近にいる。しかし詳しいことは、ほとんど知らない。いや、知っていることなど皆無に等しい。ここはひとつタヌキ学に入門とくか?

そして、タヌキといえば、キツネである。内山節の『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』は、べらぼうに面白かったので、タヌキも同じように面白いことを期待する(安直)。なお、2月10日に荻上チキのラジオ番組「Session-22」に著者の高槻が出てた。音声はこのリンク先から聞ける。かなり渋い声してる。

里山はもちろん、東京23区のほとんどで生息が確認されている一方、その生態はほとんど知られていないタヌキ。

どこにすんでなにを食べているのか、どうして化かすと思われたのかなどの基礎知識から、津波後の仙台湾にヒトより早く戻ってきた話など、野生動物の専門家がひとつひとつわかりやすく解説。

タヌキへの親しみと敬意を与えてくれる一冊

投稿者 dynee 投稿日 2016/1/8

生態学を専門とする筆者ではあるが、本の内容は人間から見たタヌキの文化的イメージなどにも触れており、タヌキを網羅した内容となっている。3.11後のタヌキの糞の組成を調べた記述は非常に興味深く、彼らの逞しさに改めて驚嘆するばかりである。また添えられたイラストも非常に愛らしく、まさにタヌキ学入門の名を冠するに相応しい入門書である。

深夜放送
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シカ問題を考える 感想

2015-10-05 09:50:47 | 私の著作
読書メーター


科学に佇む(2016年7月10日)
複数シカ本をあたった中でこれがまずイチオシ。手軽な新書で、全方位目配りで、濃い。ほかには『シカと日本の森林』『シカの脅威と森の未来』『世界遺産をシカが喰う』などがあるが、おおむね専門書仕様が過ぎて一般の入門には推しづらい。

イグアナの会 事務局長(2016年6月28日)
急激にシカが増えたことで、山が壊れていく。農作物への被害。林業への被害。生態系の変化。。。シカが急増の原因は、森林伐採によるシカの食糧増加、牧場の増加、暖冬、ハンター数の減、オオカミの絶滅。。。。いいテーマだし、よく調べられていると思うのですが、、、ロジックツリーが見えづらく、読みづらい。なんで、著者が何をおっしゃりたいのかが、研究者でない私にはよくわからない。

MOKIZAN(2016年6月27日)
この四半世紀で鹿が急増し、様々な懸念事象が発生している。とくに食害により、森林の世代交代は勿論、最早不毛地帯と化し、地盤崩落の危機に陥っている地域が増えているとのこと。同様のケースは、とうに無人島になった島で、住民が置き去りにした山羊が繁殖、やはり食害で草木が繁らず地肌が露出し、風雨の度に土砂が海岸伝いに流出している画像を見たことがある。林野庁あたりで、もみじ肉の普及国家プロジェクトを立ち上げ、意義ある鹿捕獲策を検討、着手しませんか。それとも浅草あたりで、鹿革なめす?にしても本書あとがきは秀逸と感じる。

光影光(2016年5月7日)
タイトル通り、近年、ようやく問題視され始めたシカ問題について書かれているのですが、シカ問題を通して、自然の営みについて、我々人間について考えさせられる本でした。

yamakujira(2015年12月29日)
各地で問題視されているシカの食害と対策について考察する。高山植物が食われ、草原が裸地化して、斜面が崩落するなど、自然環境に与えるシカのインパクトは座視できないほどだと、あらためて驚愕した。オオカミの絶滅、積雪量の減少、狩猟圧の低減、山村の過疎化など、さまざまな要因が一気に噴出した感じだね。シカ柵の設置で凌ぐのも限界となった現在、当面は心を鬼にしてシカを駆除するしかないだろう。環境省が主導して、啓蒙活動と並行しながら都市住民の非難を怖れずに、思い切った駆除対策を施してほしい。

now and then

シカ問題、つまりニホンジカが増えすぎ、日本のあちこちで被害が出ている問題のことなのですが、前から関心があるので、関連した本をこれまで何冊か読んできました。
しかし、著者の高槻先生が冒頭で書かれている通り、どちらかというと研究発表的な難しいものばかりでした。そんな中で、長年シカと植物の関係を研究されてきた高槻先生が、一般の読者向けに書いた新書です。
シカの被害…と言うと、農作物への被害を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実際はもっとグローバルに森林・山地の植物への被害が深刻になっています。
急増するシカの話で真っ先に出てくるのは、今や石巻市内ということになった金華山のシカの話。現在あの小さな島に400頭のシカがおり、これはかなりの高密度なのだそうです。そのため、慢性的なエサ不足で、島の植生にも大きな影響を与えています。
農作物への被害はわかりやすいですが、森林の植物への影響は、都市部に住んでいる私たちには日頃目にすることがないだけに、日本全国そんなことになっているとはと思うほどのもの。先生は「森を食べ尽くす」とまで書かれています。植物に影響が出ると、森に住む他の昆虫や動植物にも影響が広がるというわけです。
後半は、なぜこれほどまでにシカが増えてしまったのか、原因と思われることを1つ1つ考察していくのですが、諸説あるもののズバリの正解は浮かんできません。それは複合的な要素もあるからですが、最終的には日本の農村社会の崩壊が招いたことなのではという結論に達しています。


趣 深 山

『シカ問題を考える』高槻成紀著 山と溪谷社 2015年12月25日初版

著者は動物生態学、保全生態学を専攻してきたが、今日のシカ急増の背景を動物生態学から説明しよう試みたが、どの要因でも十分に説明できない。

1 森林伐採による食料の増加
2 牧場の存在
3 地球温暖化による暖冬
4 狩猟圧の低下
5 オオカミの絶滅

そして 著者の手には余る大きな課題として
6 農山村の変化
に 大きな要因があるのではないかと論じている。

「かつての農山村は人がたくさんいて、密猟を含む野生動物の頭数抑制や徹底した草刈りが行われたから、草食獣にとっての食糧は乏しく、身を隠すところもない、近づきたくても 近づけない場所であった。」


実際 かつての山村は人が溢れて 活気があった。
きれいに手入れされた田畑は動物の入るスキがなかった。
しかし いまでは 山村では 人口が減少し 耕作放棄地 廃屋 人手の入らない里山、山林が いたるところにも 野生動物が闊歩している。

シカ問題解決に向けての 取り組みも 本書のなかで 紹介されているが 著者の動物生態学の立場だけでは どうにもならない 山村の活性化の課題を提起している。


http://blog.goo.ne.jp/shumiyama/e/9eaa1c31ba8a75cfc83b7f1a192db497

16.1.28
【書評】●高槻成紀著『シカ問題を考える』●
     ~バランスを崩した自然の行方~ ヤマケイ新書

 乙女高原でお世話になっている高槻さんがまた,本を出されました。すごいペースです。
 高槻さんの本は、このメールマガジンでも何回か紹介しました。
 メルマ319号で紹介した『唱歌「ふるさと」の生態学』
  http://fruits.jp/~otomefc/maga319.html
(ヤマケイ新書)もそうだったのですが、今回のこの本も、このテーマで書くとしたらた高槻さんが一番ふさわしく、しかも、書くことが一番求められているの
は「今」だよなと心から思える本です。

 この本は,今,日本中で問題となっているシカの急増に伴う自然保護問題を解説した一般の人向けの本です。今,シカ問題を知らない人のほうが少ないと思います
が、シカが増えることによって、そこの自然にどんな影響があるのか、その影響をどのようにして「見とる」のか、そもそもシカとはどんな動物なのか・・・など、シ
カ問題に対峙するための基本的な知識と、向き合うさいの立ち位置や考え方の方向性を示唆してくれる本です。
 たとえば、シカが増えるということは、その土地の土も問題を抱えてしまうし、花だけでなく虫にまで影響が及ぶし、森林の更新にも影を落としてしまいます。ま
た、シカの増加が害になる動植物ばかりかと思えば,シカがたくさんいた方が生存に有利に働く動植物もいます。具体的に、どんなことが起きているか想像がつきます
か?

 この本には高槻さんと麻布大学野生動物学研究室の皆さんが乙女高原で行ってきた調査観察の成果も書かれています。見慣れた写真も出てきますよ。私たち乙女高
原ファンにとっては、それもこの本の魅力のひとつです。

 シカが急増した「背景」には何があるのか?も考察しています。森林伐採による食糧の増加? 牧場の存在? 地球温暖化による暖冬? 狩猟圧の低下? オオカミ
の絶滅? それぞれについて疑わしい点、それだと断定すると出てくる矛盾点について分析し、最終的には農山村での暮らしのあり方の変化であると言っています。

 シカ問題は、乙女高原でも顕在化し,最近,シカ柵を作ってもらったばかりです。多くの人でシカ問題を考え,そのよりよい解決方法を探っていくためにも、ぜひご一
読をお勧めします。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
16.1/1
『シカ問題を考える』高槻成紀著 山と溪谷社 2015年12月25日初版

著者は動物生態学、保全生態学を専攻してきたが、今日のシカ急増の背景を動物生態学から説明しよう試みたが、どの要因でも十分に説明できない。

1 森林伐採による食料の増加
2 牧場の存在
3 地球温暖化による暖冬
4 狩猟圧の低下
5 オオカミの絶滅

そして 著者の手には余る大きな課題として
6 農山村の変化
に 大きな要因があるのではないかと論じている。

「かつての農山村は人がたくさんいて、密猟を含む野生動物の頭数抑制や徹底した草刈りが行われたから、草食獣にとっての食糧は乏しく、身を隠すところもない、近づきたくても 近づけない場所であった。」


実際 かつての山村は人が溢れて 活気があった。
きれいに手入れされた田畑は動物の入るスキがなかった。
しかし いまでは 山村では 人口が減少し 耕作放棄地 廃屋 人手の入らない里山、山林が いたるところにも 野生動物が闊歩している。

シカ問題解決に向けての取り組みも本書のなかで紹介されているが、著者の動物生態学の立場だけではどうにもならない山村の活性化の課題を提起している。

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となりの野生動物

2015-10-04 22:46:04 | 私の著作
いちおし!楽しいもの調査隊
2016年01月17日
今日の一冊は、高槻成紀著「となりの野生動物」
です。

 東京23区にも生息するタヌキ、
すみかを追われたウサギやカヤネズミ、
人が持ち込んだアライグマ、
人里に出没したり、田畑に被害を与えたりするクマやサル、シカ。
 
 野生動物は、私たち人間にとって身近な「隣人」です。

 私たちはその隣人のことをどこまで知っているでしょうか。

 野生動物の生態から人間との関係性まで、
「動物目線」で野生動物を見続けてきた著者が伝える、
野生動物について考えるキッカケになる一冊です。

 高槻さんは、元東京大学教授で動物生態学、保全生態学を研究していました。
でも、小難しいところはちっともなくて、
軽妙洒脱な筆致で、気軽に読める本になっています。
1章ごとに各動物が取り上げられていて、
昔話に出て来るイメージから人間がその動物をどうしてそう捉えてきたのか、
など、面白い語り口に引き付けられます。

 理系の学者先生の書く本は、
論文を書くクセが抜けないせいか、
だいたい一般人には読み辛いものですが、

この本は、エッセイのようで非常に読みやすいです。
それでいて長年、フィールドワークをしてきた高槻さんの経験が
随所にちらっと、しかし控えめに出て来て、
なかなか深い読み物でもあります。

各章が独立しているので、
好きな章から読むことが出来るのもいいですね。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

カヤネズミのかわいさは異常。露出が少ないだけで有名になれば、かわいい動物特権で本気で保護してもらえるはず。著者はネズミがもってきた負のイメージを背負っていると考えているようだけど、新しい世代ならネズミ自体との接触機会が少ないので、あまり抵抗がないはず。
 そしてハムスターのたぐいは愛玩されているのである。
 茅場がカヤネズミのために保全されれば、ノウサギも保護されて、ノウサギが増えればオオワシの個体数にもいい影響があるかもしれない。もしかしたら、トキよりもカヤネズミの保護は連鎖効果が大きい?

 となりの野生動物はタヌキのしっぽに縞はない。縞があるのはアライグマである。など人が抱きがちな身近なはずの動物への勘違いに触れた本。なぜそんな勘違いが起きたのか、歴史的な経緯から考えている。
 最初に勉強になることは少ないと書いていたが、100kgを超える大型動物で冬眠するのはクマだけであり、大型で冬眠するのは恒温動物として矛盾しているという指摘がとても面白かった。
 さいきんは暖冬によって冬眠しないクマがちらほら観察されるようになっているが、彼らの生理にとってはどうなのかなぁ。

 野生動物に対する著者の考え方には頷けるところも首を傾げるところもある。都会の人を「動物を良く知らないため、感情的に保護を求める」集団とみているが、もっとも厄介なのは「ともかく攻撃的になっていれば、一段レベルの高い自分だと思いこめる」人々なのではないか。
 彼らは彼らで対象への理解を深めることをせずに場当たり的な殺戮で問題解決から遠ざかっていく恐れが強い。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

2015.2.14

暮らし・環境・人との関わり、というタイトルから、人為も含めた生き物の生態、の話だと思っていたら、冒頭のタヌキがいきなりカチカチ山とかタヌキおやじとか、そういうイメージの話からでびっくりする。どうもタヌキは間抜けというイメージが付いている。
この導入部は、ムズカシクないよ、というアピールだろうか。タヌキは狸と書くように里の生き物で、今も東京23区すべてにすんでいるという。高速道路での死亡動物も一番はタヌキだ。
著者は、自動車は公共の整備による道路で発展してきたのに自動車会社はロードキルを減らすためにその利潤を還元したりしない、と責める。
それでもなおタヌキは人里ちかくに暮らしている。タヌキなんていなくても困らない、という人が多いだろうけど、みんなだいすき「環境」問題は、そういうのも含まれるんじゃないだろうか。

続いてウサギ。これもイメージから。学校でウサギを飼うのは情操教育の一環、のようだけど、もともとは日清・日露戦争での兵員の防寒のため、ノウサギが穫られて激減したので、軍部が学校でウサギを飼え、と文部省を動かしたのだそうだ。

イノシシ。シシとは肉をさし、イノシシとは本来「猪の肉」らしい。十二支では亥(い)、の一文字だが、やはり獣としては「イ」だけでよいようだ。見た目やイメージとは違い、人里に斥候を送ったり、1メートルの障害物も飛び越え、60kgの重いものも持ち上げるというスーパーな動物。

アライグマ。外来種だが野生化している。アライグマはタヌキ以上に環境適応力がありそうだ。著者はここでもペットの放逐と、そしてその後に起こる生態系の混乱への無理解に怒る。

こういう感じで9種の動物が紹介される。それぞれイメージからはいる導入部は、社会が動物にイメージを持つ、ということ自体がおもしろそうだと思ったからだ、というおよそ自然科学者らしくはない理由からだった。
最後に、逆に動物からみた人間のイメージが語られている。
「人口が3倍にもなって、世界中から食べ物を買って、エネルギーを輸入して、都市に集中し、地方で人口が減って、僕たちが増えたらけしからんという。わからないことだらけだ。」これはシカの言い分の抜粋。ベタだがそのとおりだ。けれど、この問題も林業家にとっては大きい問題でも、都市生活者にとってはあまり関心が持てない。
無関心はすなわち無知であり、無知は誤解を生んで決断を誤る。シカ以外の里山動物もみな田畑を荒らしたりするから生産者は困る。だが都市生活者は生産そのものに対しても無関心から決断を誤るループにあるかもしれない。

この動物はこう思われているけど、本当はこうなんです、なんていうだけの話ではない。やっぱり「暮らし・環境・人との関わり」だった。
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野生動物と共存できるか 感想

2015-10-03 22:08:37 | 私の著作
共存は難しい
投稿者 志村真幸 トップ1000レビュアーVINE メンバー 投稿日 2015/9/22
 著者は保全生態学の研究者。
 岩波ジュニア新書で、中高生向けにわかりやすく書かれている。
 著者は日本でシカ、サル、クマを対象としているほか、モンゴルでモウコガゼル、スリランカでゾウなども研究しているらしい。モンゴルの茫漠たる草原で動物たちを追いかけた体験談なども盛り込まれており、おもしろい。
 人間の生活と、野生動物との衝突に関する現状がいろいろと挙げてあり、一部については解決例も示されている。基本的には人間側に立ち、しかし、動物への対処も可能なかぎり手厚くというスタンスだ。科学的な態度を徹底している点が特徴。
 野生動物との共存はかなり困難なようだが、それでも可能性はあると思った。

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2014/11/28 23:17
 以前読んだ、同じ著者の「動物を守りたい君へ」がとても良かったのでこちらも子供に読み聞かせしました。同じように良書でした。こちらの方が焦点が絞れているとも言えます。
 とても良いのは総合的だということです。基本的には生き物の話であるわけですが生態学ということで、社会科的な視点が必要になっています。たとえば、スリランカやモンゴルの暮らし、そこの人々の考え方や、ほんの少しだけれど歴史も。この本を読むと、多面的なものの見方をしなければいけないとか、人は社会全体で間違った通念を持ってしまうことがあるといった、とても大切なことが生き物という親しみやすい具体例を通して学べます。「かわいい!」とか「かわいそう!」とか表面的な衝動で終わってはいけなくて、詳しく検討して意見・行動すべきである、ということは知性に本質的なことだと思うんです。
 難易度が、親が適度に解説を加えながら小学生に読んでやるのにちょうどよいです。中学生なら自分で読むのにいいでしょう。
 「ラクダはラクダだが、ホルゴルはラクダではない。」

大人が読んでも手ごたえあり
投稿者 chairo 投稿日 2014/2/14
子供向けに簡単には書いてありますが
そうだそうだと納得することが多く、大人が読んでも
十分にいろいろ考えさせられる本でした

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2014/03/07 14:54
保全生態学入門のサブタイトルどおり理解しやすく目的を達成できた。
第1章の生物が消えていくの中で、農業基盤整備事業を農業基本整備事業と書き違えたり、暗渠排水の説明が咀嚼不十分からか間違っていて気になった。

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2013/07/27 14:21
生物の保全には生態の保全が必要、つまりその生物を取り巻く環境の保全こそが重要。
そこで力を発揮するのが、「保全生態学」。
本書はこの保全生態学の基本について丁寧に書かれてます。

今どんな問題が起きているか、絶滅とは、保全生態学とは、その実践とは、生物に対する価値観とは…
そういったテーマごとに多くの具体例で話をしてくれるので、とてもわかりやすい。

設定されてる読者層が中学生くらい(たぶん)のジュニア新書らしいつくり。
語りかける文体なので、非常にとっつきやすいです。

ただこの「ジュニア新書」、侮るなかれ。
読んだことのある人はわかると思うけど、「どこが『ジュニア』だ」と感じさせるしっかりした内容の本が多い。
本書もそのひとつ。

ウニや貝を食べて漁業被害をもたらすラッコを駆除したら漁獲高が減った。
サケの遡上による海・川・山のつながり。
オオカミをめぐる自然観・動物観の変化。

こういう内容はそれなりに知識を得てきた大人でも知らない、おもしろくて興味深いことだと思う。
大人にこそオススメ。

本書には、筆者の野生動物への愛と尊敬が満ちている。
「どうにかこの想いを知ってもらいたい」という熱のあるいい本。

筆者は動物を好きになってもらいたいと言う。
それは「かわいいから好き」だというのではなく、理解してほしいということ。
人間にとってどんな生物であるかは関係ない、その存在自体に価値があるし尊ぶべきだ、というわけですな。

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2012/10/16 22:59
野生動物とわたしたち人間とのつながりについて、とても分かりやすく書かれていた。日本のみならず、世界の野生動物や植物についても、興味関心を広げていきたいと思った。

ジュニア本と侮るなかれ!生物多様性入門に最適
投稿者 maimai 投稿日 2011/1/30
生物多様性については、いまだに個人や企業として何をすれば良いのかよく分からないし、十分な理解がないままに「何をすればいいのか?」という答えを出すことに急いだり、アクションリストに先走ってしまう雰囲気になんとなく抵抗感がありました。

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2012/08/23 21:02
ジュニア新書ということで子供むけに書かれた内容。
しかし生態学を知らない大人が読むにもわかりやすくてよくまとまった内容だった。
子供向けなのに「科学的な知見から」ということを徹底していたところがよかった。

私は大学である程度生物学を勉強したので、「生態学全般」に関してこの本を読むことで新たに発見したことは多くなかったけれど、恥ずかしながら個々の事象については新たに知ったことが多かった。
子供たちにこの本の内容を知ってほしいのはもちろんだが、ジュニアと言わず様々な人が読む価値があると思った。

アイヌの人々の考え方と保全生態学の考え方に通じるものがある、という記述に共感した。『カムイ・ユーカラ』(山本多助)を今度読もうと思った。

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2012/06/23 14:12
子供が読んだので語ろうと読む。自分の小学校時代に子供だけで山に冒険しに入りニホンカモシカを見た時は感動した(実は小学校にもシカが時々出没するほど田舎だった。熊に遭遇しなかった事が幸い)。小中で好きだった人の父親はハンターだったな…などと懐古。以降は本からの引用です//飼育動物と野生動物。メダカ。農業基本整備事業…田んぼに大きな変化。外来生物。農業被害、ラッコ、ウニ、昆布、漁獲高減。生息地の破壊。1900年は20億未満。世界中の島々…ヤギ…捕鯨のため。

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2011/04/16 12:46
是非ともこどもたちに読んでほしい一冊。
ペットと野生の生き物の違いは何?恐竜の絶滅とアマミノクロウサギの絶滅はどうちがう?同じ野生生物なのにトキは守って、シカを駆除するのはなぜ?
オオカミは欧米では悪者、日本では神様として扱われるのはどうして?
これらの答えは簡単ではありませんし、ひとつではないかもしれません。野生生物に触れ合う機会が激減し、ほとんと隔離状態ともいえる現代のこどもたちといっしょに考えながら読みたい本です。

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2010/12/19 14:32
この前に読んだ「捕食者なき世界」ウィリアム・ソウルゼエンバーグ著
や、「沈黙の春」レイチェル・カードン著の読破メモも書けていないけど
先にこっちをやっつける。

本書は
人間と野生動物とがどのようにしたら共存できるか!というノウハウ本ではなく
野生動物との共存を例に
1)動植物のつながりあいの重要性
2)単純なメディアから情報だけで信用せずに深く考える力
3)価値観や文化や生活習慣の違いの認識
を、判りやすく伝えている。

2010.12.12
生物多様性については、いまだに個人や企業として何をすれば良いのかよく分からないし、十分な理解がないままに「何をすればいいのか?」という答えを出すことに急いだり、アクションリストに先走ってしまう雰囲気になんとなく抵抗感がありました。

そんなモヤモヤしたなか、本書は、「そもそも何が問題なのだろう?」と自問自答させられるような、本質的な問いを投げかけてくれます。

動物は好きだけど、ペットと野生動物は全く違う。
何故そもそも野生動物は絶滅しているのか。
保全にとって大切なのはどういうバランスなのか。
そもそも人間優越、自然支配、自分たちの当たり前を見直す必要はないだろうか。
本当の豊かさとは。

ジュニア向けの本なので非常に分かりやすく、また著者のとても熱い思いが伝わってくる良書です。子供のころこんな本を早く読んでおけば良かったなぁ。としみじみ思いました。

f087022の日記
2010-06-26
 20世紀、特に後半になって野生動物に関する問題が多くなっている。生息地や個体数減少のような問題であるが、その大半は人間が原因である。この本はそのような時代において、人と動物との付き合いを示す一冊である。全体的に話し言葉でつづられているため、とても読みやすい本である。

 まず第一章では野生動物に関する問題をメダカ、ツキノワグマ、サル、シカ、ヤギ、マングース、ラッコを例に解説している。

例えばツキノワグマとサルでは農業被害や人に危害を加えることが問題になっている。この問題の原因は生息地が少なくなっていることや、食べ物が少なくなっていることが挙げられる。しかしそれらの原因のほとんどは人間が関係している。奥山の伐採であったり、山の恵みを過剰に採取したりしているのだ。このような問題を考えるうえで重要なことは安易に目先の結論に飛びつくのではなく、事実を確認し、長い期間、広い視野をもつことである。

第二章では「絶滅」について書かれている。

はじめに、イギリス、北アメリカでの出来事を紹介している。イギリスやアメリカでは現在は動物愛護や自然保護の精神が根付いており、大きな国立公園などを設置している。しかし、時代をさかのぼるとその精神は、多くの動物の犠牲の上になりたっていることがわかる。イギリスでは産業革命以降、森を切り開いたことでヒグマやオオカミなどが絶滅。アメリカでは食料、羽毛のためにリョコウバトが絶滅し、バイソンは娯楽のための射撃に利用され、激減した。これ以外にも多くの動物を絶滅させている。絶滅は自然界ではごく普通におきる現象であり、とても長い期間での出来事である。しかし近年の絶滅は人間が原因であり、かつてないスピードで起こっている。

絶滅した種の特徴を考えることで、これ以上の悲劇を引き起こさないヒントを得ることができる。ジャイアントパンダやガンジスカワイルカは生息地が限られる。何らかの理由で生息地の環境が変化すれば絶滅してしまう種だ。またスペシャリストと言って、特定の食べ物しか食べない種がいる。これらの種は食物に融通が利かないため、人間による環境変化が起きた場合に絶滅する危険性がある。スペシャリストの反対の言葉はジェネラリストと言われる。一方で生物学的な特徴ではなく、人間による利用ができる種も絶滅の危険がある。天然資源と考えられ、スポーツ狩猟に利用され激減する。また人口問題で食料、住居が必要になり動物たちの生息地を奪ってしまっている。

野生動物絶滅に対する深刻さに気付き、世界各地で保護運動が展開されている。絶滅が危惧されているジャイアントパンダ、タヒ、アホウドリを保護する運動を紹介している。これらの動物の減少した理由は生息地の減少であったり、乱獲であったり、人間が原因である。ここでは、保護に携わった人々の努力が記されている。保護するために研究が重ねられ、生息地を確保し、繁殖させる。これらには長い期間が必要で、失敗はつきものである。国同士の国際的な協力や、多くの人の協力が必要であることがよくわかる。

第三章では生態学、保全生態学の考え方やそれを通じた生物のつながりを解説している。まず分類学、生理学、遺伝学などを総合し保全生物学が生まれた。そのなかで生態学は生物と環境、生物個体同士、種間の関係などを研究対象にしており、保全にはとても重要な学問である。保全生物学の中で特に生態学に重きを置く学問が保全生態学である。保全生態学の考え方で、キーストーン種、アンブレラ種、フラッグシップ種、コリドーがある。キーストーン種を金華山のシカを例に解説している。キーストーン種というのはその生態系で最も影響の強い種を言う。またアンブレラ種の解説するためにコウノトリが例になっている。コウノトリを守ることで、関係する小動物、植物が守られる。フラッグシップ種はその名の通り、旗のように目立つ種である。パンダが例になっている。パンダは生物学的にも特徴があるのだが、世界的に人気があるということで特別である。その人気を利用することも大切なことだ。この言葉は保全生態学というより、保全のための言葉である。コリドーは回廊という意味である。人間によって森が減少し、小さな森がとびとびに存在するようになる。範囲の狭い森林では生息できなくなる種が出てきてしまう。広い範囲の森を再生することは困難であるが、狭い範囲では可能であるかもしれない。ということで小さな森をつなげようという考え方が生まれた。それがコリドーである。

次は生物同士のつながりをオオカミ、サケを中心にして解説している。まずオオカミはヘラジカと森林との関係である。オオカミが減れば、ヘラジカが増え、森林が荒れる。その逆もある。自然界の微妙なバランスが存在し、それは時間的にも場所的にも存在する。サケはクマやタカとの関係が記されている。遡上してきたサケをクマなどが食べ、山で糞をすることで栄養が山に運ばれる。その栄養は森林に吸収され、健全性が保たれるのだ。

生物同士が複雑な関係を持つことが分かる。保護する対象のみを考えるのではなく、もっと広い環境を守ること、微妙なバランスを保つことが大切である。

第四章では筆者の研究に関する体験が書かれている。

まずは岩手県五葉山一帯で起きているシカの食害に関する体験である。シカが増え、山に食べ物が無くなると人里に下りてきて、農作物を食べてしまう。筆者はシカが増えすぎていることを収集したデータから示し、シカを減らす提言をした。そして行政と地元ハンターと共同し、農林業被害を減らすことに成功した。このプロジェクトは筆者にとって初めての経験であり、研究成果を対策に生かしたいと思う経験であったそうだ。

このほかに、モンゴルにおけるモウコガゼルの研究や、鳥の渡りに関する研究が記されている。これらは研究者の実際がよくわかるように書かれている。網を張って対象を捕獲したり、地味な作業はつきもののようだ。動物には国境がないが、人間にはあり、それらの相互協力がなければ研究は成り立たない。また行動範囲が広いため、調査器具の進歩が研究に大きな影響を与えることもよくわかる。

第五章ではクマ、サル、シカ、ヤギを例にしてどういう取り組みが必要なのかを解説している。クマやサルは山が荒れ、農山村が衰えて農林業被害につながっている。シカも同様であるが加えて自然林に影響を与えている。ヤギは人間が持ち込んだ外来種であり、その被害が広がっている例であった。それぞれ違った性質の問題を抱えている。違った性質を見極めるためにはそれぞれに綿密な調査を行い、必要なデータを集めることで、科学的な判断をとることができる。これらの問題はメジャーになりつつあるが、里山の動物のようにありふれたものの保全は遅れている。

第六章では人と動物との関わりを通じて、その国の人を理解しなければならないという筆者の考えが述べられている。ここではモンゴル、スリランカでの体験が書かれている。モンゴルでは家畜との関係、スリランカではゾウとの関係が例に挙がっている。この章では同じ人間でも環境が変われば、生活習慣が違い、その違いによって自然環境や野生動物に対する考えが異なることがよくわかる。国によって、人によって様々な価値観を持っている。その例をオオカミ、アイヌ民話を例に書いている。

生物保全に必要なことは、本当に動植物を好きになること。動植物をよく知り、理解することである。また自分にとって当たり前なことが、実は違うかもしれないと常に疑うことで、様々な価値観を理解することである。

野生動物の価値として、「薬や食料になる可能性がある」とか、「美しいものを見て感動できる」とか、人間にとって役立つから価値があるとする人がいる。しかし、いま地球上の生命のほとんどが人間より先に生まれ、互いに微妙なバランスをとりながら生きてきたのだ。そのこと自体がかけがえのないことであり、価値があるのだ。動物が地球に存在している価値は、人間の存在には関係がなく、人間も動物も同じ価値であると認めることが必要である。だが人間は特異な存在であることは理解しなければならない。特異ということは知能が発達し、あまりにも大きな力を持ち、人口が増加し、資源を使いすぎているということである。だからこそ立場を正しく評価し、野生動物の立場を考慮して、いかに生きるかを考えていかなければならない。

本書で筆者はさまざまな野生動物の問題を紹介している。そのなかには筆者の経験した出来事が多く含まれている。実体験が交えられていることで、現実味があり、研究者の苦難などがよくわかる。問題に対する研究後の対策では行政などとのやり取りもあり、交際的な協力の必要性もわかる。動物のことだけでなく、その土地の特徴などの描写もあり、関わった地元民とのやり取りもある。そういった人間との関わりから、価値観の違いがあることがわかる。価値観の違いが異なる環境から成立した生活習慣や異なる宗教などが関連していることも書かれている。岩波ジュニア新書であるから、やさしい言葉で書かれているが宗教の価値観などにも言及し、生物保全にはさまざまな分野を知っておくことが必要であることがよくわかるだろう。保全生態学の考え方もわかり、生物の関わろうとする子どもにはとても参考になる本であると思う。また全く関係のない人でも生態学についての考えや、野生動物に関する問題についてよくわかるだろう

【釋知恵子 2006/12/22】
 とにかく読みやすく、わかりやすい。野生動物の現状と問題に人間の営みがどんなに関係しているのか、それを解決するために何を考えて行動しないといけないのか、実例が随所に織り込まれ、著者の考えるところがよくわかる。特にいいなと思ったのは6章。暮らす環境の違いで野生動物に対する考え方もいろいろあるんだから、自分の価値観が全てと思わず疑ってみようというところ。スリランカの人が、バナナをゾウに食べられて被害が大変でも、「ゾウを殺すなんてとんでもない、ただどこか遠くに行ってほしいだけだ」と答えたという例とともにストレートに伝わってきた。

【六車恭子 2007/02/23】
 人里に出没するツキノワグマ、農作物を食べるサル、国立公園の貴重な植物を食いつくすニホンジカ・・・、いま野生動物たちに何が起こっているのか。ここ数十年の人々の暮らしの変容が背景にあるという。かって北アメリカで起こったリョコウバトやバイソン、インド洋のモーリシャス島のドードー、イギリスのヒグマ、オオカミ、そして日本のオオカミ、これらは生物の進化の過程で起こった絶滅ではない。彼らの生息地の森林が切り開かれ人的要因で滅ぼされたのだ。その滅びの途上にある野生動物は枚挙にいとまがない。保全生態学の見地から人知を結集して危機を脱した野生たちもいるのだ。真に豊かである意味を野生動物との関わりで探ろうとする好著。何を知り何をしなければならないかを見極める、保全生態学の果たす役割は大きい。

【和田岳 2006/12/04】
 著者は、もともとシカの研究者。海外では、モウコガゼルやアジアゾウの研究や保護活動に関わってきた。そんな著者が、動物好きの子どもに向けて、哺乳類をおもな題材に、保全生態学を、そして、人と野生動物との付き合い方について書いた本。
 野生動物と言いながら、出てくる大部分が中型~大型の哺乳類。というのは、少し片寄ってる気もする。でも、出てくる動物になじみやすいという意味では、大型哺乳類を中心にするには間違ってないかもしれない。近年、日本で問題になっているクマ、サル、シカの問題についての、著者なりの考え方も示される。
 この本を読んで、少しでも多くの人が、野生動物との付き合い方について多少でも考えてみて欲しい。という意味でお薦めの本。ただ、全体的に牧歌的というか、現実のきれいな側面しか紹介していない感が強いのが、少し気になるところ。子ども向けだから?

【西村寿雄 2006/08/05】
 この本は〈ジュニア新書〉とはいうものの、子どもたちがすっと手にする体裁の本ではないかもしれない。しかし、今の人間にとってかけがえのない自然観について切々と説いている。わたしたち大人が手ほどきをしてでも、ぜひ生徒たちに伝えたい本である。
 最終頁に著者は〈野生動物の価値〉について問いかけている。〈いま地球上にいる生命は、おたがいにつながりを保ちながら生きている。そのこと自体かけがえのない価値をもっている」と語りかけている。〈保全生態学〉という新しい学問分野から、今の野生動物の実態と研究過程が紹介されていく。シカやクマ、サル問題を考える材料を提供してくれている。

ヲチ後感想文

ウニやアワビを食害するので、ラッコを駆除した。
漁獲高は上がるかに思われたが、逆に下がってきた。
なぜか。
ウニが増えすぎて、ジャイアントケルプを食べ尽くしてしまい、ウニやアワビはもちろん、その他の海中の生き物の生活の場が失われてしまったから。

クマの話、ニホンザルの話、オオカミとシカの話などでよく聞く話なんだけど「自然環境を守る」ことの難しさを研究者の立場で著したもの。

豊かさの基準を少し変える必要があるんですよね。
便利であること=豊かさではないってことで。
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シカの脅威

2015-10-03 19:48:47 | 私の著作
http://d.hatena.ne.jp/yoshitomushi/20151005/1444003395
まるはなのみのみ

2015-10-05
【書評】シカの脅威と森の未来―シカ柵による植生保全の有効性と限界Add Star
読書 | 09:03

私はシカ柵が嫌いだ。今年はシカ柵により痛ましい事故もおきたが、それ以上に、囲い込みによる自然と人間との乖離間が半端なく、人間の生きるゾーンと(シカを含めた)自然環境ゾーンと区別されているようで嫌なのだ。最近は道路へのシカの飛び出し防止柵がいたるところに張り巡らされていて道路から森林に入るにも一苦労だったり、河川伝いに人家周辺にシカが入り込まないように河川沿いにシカ柵が張り巡らされていて河川内に降りるにも柵を潜れそうなところを探さなければならなかったりと、たいへんな思いをさせられることも多い。本書で扱われているシカ柵は、植生の保全目的のものが多いので設置は仕方ないところであるが、本当ならないほうが良い。それはこの本の中のどの著者も同じように考えているようだ。

本書を読み、勉強になったことが2つあった。1つは単にシカ柵を設置しても植生の成立過程や性質により、基の植生が成立するとは限らない点。もう1つは、シカの移動経路として大規模林道等が使われており、その法面緑化がシカの移動期の主要な餌場となっていて、そのような開発行為がシカの増えすぎを助長している可能性がある点。後者は何となくそうかな、と感じていただけに、やっぱりそうだったのかとすごく納得させられた。

地域ごとの今まさに動いている著者らの報告はとても勉強になる。お勧め本。

余談だけど、ショッキングな写真も多かったが、加藤真「生命は細部に宿りたまう――ミクロハビタットの小宇宙」に出ていた写真が、1987年と2003年の全く同じ構図で対比されていたので、こちらの方が思いっきり殴られたようにインパクトが強かった。
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食べられて生きる草の話

2015-10-03 12:28:02 | 私の著作
2015年10月 2日

たくさんのふしぎ2015年10月号「食べられて生きる草の話」は金華山のシカのお話!

タイトルだけではよくわからなかったのですが、中を開いてみますと、牡鹿半島の先端にある金華山(石巻市)に住むニホンジカとノシバ(野芝→日本に昔からある芝)のお話でした!
近年は、あちこちの森林でシカによる食害が広がっている話を聞きます。もちろん金華山でもそうなのですが、ノシバにとってはそのシカが大きな味方になっているのです。

40年ほど前は、ススキ原だった金華山が、徐々に増えてきたシカによって食べられていくうちに、今はノシバの芝生になっていきました。シバはシカにモリモリ食べられることに強いのです。芝は芝刈りをすることによって他の雑草などが生えにくくなるのですが、シカが芝刈り機のような役割を果たしているのですね。

しかも…です。ノシバの種は、一度シカに食べてもらって糞となって出てきたほうが、発芽率が高いとか。どうしてなのかは読んでいただくとして、まさにシカと共生しているような植物ですねぇ。金華山の芝は日本のノシバであることは知っていまして、観光地なので芝生を貼っているものだとばかり思っていました。あれは言わばシカが作り出した風景だったのですね。

著者の高槻先生は、植物にとって迷惑なシカも、芝は食べられても平気…逆に助かっているという、動物と植物の関係が見えてきて「自然の話」が見えてきたとありました。私も目を開かれたような気がして、子供向けの本ながら最後はちょっと感動しました。

シカの脅威と森の未来―シカ柵による植生保全の有効性と限界
前迫 ゆり 文一総合出版 2015-08-03

植生学的な観点からみたシカの害とシカ柵の調査研究をまとめたもの。金華山にもシカ柵があり、「たくさんのふしぎ」の中にも出てきます。思っていた以上にシカの食害が全国に広がっているということがわかります。そしてシカ柵にはもちろん限界もあるということも。
シカが若い木や森の下草を食べ尽くしてしまうことは「驚異」ではあるのですが、かつてシカが日本各地で激減したのは、人間が狩猟によって捕りすぎ(おそらく食べた)たからですし、森林面積がどんどん減っているのも、ほとんど人間の仕業。そうでなくても、江戸時代後期には、人間が増えすぎて、燃料にするために木を伐っていたので、日本各地の里山は丸裸だったそうです。シカを食べるオオカミを絶滅させたのも人間ですし。

日本の森に昔から住んでいるシカを、森林から排除してしまうのも「自然」ではありません。芝のようにシカからの恩恵を受けている植物もあります。何が「自然」かということなのでしょうね。

本当は人間が増えすぎることが一番不自然なのかもしれないですね。「絶滅危惧種」という言葉を聞くたびに、人間の身勝手さも少し感じます。

読んで、人間ももう少し謙虚になって、自分たちも「動物」であることを思い出したほうが良いのではないかと思いました。

『食べられて生きる草の話』(「たくさんのふしぎ」2015年10月)
高槻成紀/文 福音館書店

 著者が長年,宮城県にある金華山で観察したシカとシバ草の関係をまとめた記録がもとになっている。まずは,金華山の地形紹介から入る。金華山は,10km2ほどの島に500頭ものシカが棲んでいるというかなり高密度のシカの
生息域となっている。次に,著者が調査に入った1975年頃の様子が描かれている。シカの頭数もうんと少なく,地面をほとんど覆っていたのは…シバではなくススキだった。背丈も大きいススキが島の地面を覆っていた。ところが1985年ではススキはどんどん背が低くなり,1990年にはススキは影を潜め,シバ草が面積を広げるようになった。ここで,著者は疑問を持つ。ススキと同時にシバ草もシカに食べられているのに,どうしてシバ草は増えているのか。このことをつきとめるために,著者は大学構内でシバを植え,10cm四方の中だけをハサミで刈り取りシバの生育を見たり,ススキも刈り取ってススキの生育も見る。3年後には見事な結果が出る。ススキはほとんど生育せず,刈り取ったシバ草は青々と茂っていた。植物界では知られていることなのだが,シバは地下茎を持っていて刈られたらまた芽を出す習性なのだ。金華山では,シカが日光を遮るススキを食べ,シバ刈りの役目も果たしていたというわけである。ここで,さらに著者は「シバ草の種はそんなに飛散する構造ではないのに,どうしてこんなに広がるのか」と疑問を持つ。著者は,さらにシカの役割を考えて実証していく。さて,シカはシバ草を食べる(刈る)と同時に,どんな役目をしていたのでしょうか。「40年前には聞こえなかった自然の話が今ははっきり聞こえます。」と著者は結びに書いている。別書でこの著者の『唱歌「ふるさと」の生態学』(山と渓谷社)もなかなか楽しい本である。                  

遠い日
2015年9月17日:おーちゃんママ
「食べられて生きる草の話」高槻成紀・文/菊谷詩子・絵 宮城県金華山のシカとそのシカが食べる芝との関係の研究を40年にわたって続けてきた高槻さん。シカに食べられることで、消滅するのではなく逆に増えていく芝の謎をわかりやすい実験を含めて解説する。シカと芝の絶妙なバランスがおもしろい。環境というものの応用能力、自然の意思ともいうべき変化が興味深かった。

40年たって聞こえてきた自然の話
投稿者 りあーな 投稿日 2015/12/29
シカとその餌となる植物の関係を、日本各地で40年以上にわたって研究してきた高槻成紀さんの想いがつまった絵本です。著者の研究の出発点となった宮城県の金華山島での40年にわたるシカと植物の研究をとおして、ようやく聞こえてきた自然の話。
「いま、この鹿山の景色をみると、40年前には聞こえなかった自然の話がはっきりと聞こえます。」
この挿話は、ソロモンの王が指輪をはめると動物の話が聞こえたことを引いて、自然をよく観察し、必要なら実験をすると「自然の話が聞こえてくる」という、著者がもっとも伝えたかったこと。とてもいい絵本です。

絵はとても気に入りました
投稿者 Cosyo 投稿日 2015/12/8
絵本のような内容だとは思わずに購入。うちの高学年には向かなかったようです。新聞コーナーをもっと充実させて読みやすい形になればよいかも。
毎月購入はしません。
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