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秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

鏡天/盆とうろう

2019-08-13 18:57:02 | 秋田の季節・風景
お盆の仏事の風習。
秋田やその隣県の一部地域では、全国的に見て珍しい供え物や飾りが行われることを、これまで何度か紹介してきた。
2016年の記事など参照。
※秋田県内どこでも同じではなく、地域や宗派、家庭ごとに違いもあります。我が家独自のルール(無意味なこだわり?)であったり、誤りもあるかもしれません。一例としてご覧ください。

まず、これまで取り上げていなかった「鏡天(かがみてん)」。これも地域限定なのだった。
我が家では、お盆に仏壇に供えるお膳料理(※)の1品として、欠かせないことになっていた。
※ネットによれば、全国的には「霊供膳(りょうぐぜん)」または「御霊供膳(おりくぜん)」と呼ぶそうだ。うちの年寄りは「おれきぜん」または秋田弁らしく「おれきぜんッコ」と呼ぶ。

鏡天はスーパーで売っている。
かがみ天
秋田では最大手であろう豆腐類メーカー、秋田市の「臨海食品協業組合(ブランド名:りんかい食品)」の商品。浅い豆腐容器みたいなのに200グラム(サイズは11センチ弱×8センチ、厚さ3センチ弱)入って100円ほど。常温保存。

お盆前の期間限定生産・販売のようで、お盆用品コーナーに置かれているが、冷蔵の豆腐・コンニャク売り場に置く店もあった。
消費期限欄はスタンプなどでなく、「2019年8月31日」とバーコードや各種表示と同時に印刷されていることからも、お盆限定生産であることがうかがえる。
【18日追記】下の写真の通り「消“費”期限」となっているが、消費期限は5日程度で品質が低下する食品用。この寒天は「賞味期限」のほうが妥当ではないだろうか。

ほかに、りんかい食品製で同サイズで赤や緑に着色したもの(鏡天じゃない商品名だった※=下の追記参照)、秋田県内陸南部のメーカー製で、着色だけでなく部分的に色を濃くして溶き卵を流したような見かけのものも見かけた。

りんかい食品のは、大きく書かれた商品名は「かがみ天」、品名欄は「かがみてん」となっている。
そして原材料名欄は「寒天粉」のみ!

そう。鏡天の正体は「味なし寒天」!
カビの観察とか、植物片から植物体を作る組織培養などでは、こういう見た目の寒天培地に植え付けるが、あれはそれぞれの生育に必要な成分を寒天に溶かして固めている。こっちは寒天のみ。
味なし寒天なら、安い寒天粉(粉寒天)を買ってきて、お湯に溶かして冷ませばできてしまうから、これで100円は高い気もするけれど、値段は手間がかからない分ってことでしょうね。
これを適当にカットして、盛り付けることになる(他の方法は後述)。

【18日追記】※りんかい食品の色付きは「色かんてん」という商品名で、ピンク(赤)と緑を確認。期限はやはりいっしょに印字されていて、8月31日まで。寒天と着色料だけが原料で、やはり味なし。
かがみ天にはなかった「カットしてサラダ、デザートに。」という使い方の説明書きもあった。
【2020年8月12日追記】りんかい食品のスーパーでの販売価格は、無着色のかがみ天が100円程度、色かんてんはやや高く130円程度。
2020年版のかがみ天は大きな変更はないが、食品表示法の経過措置終了を受け、ラベルの内容が若干変更。商品名の書体とイラストは同じだが、印刷がやや青みが強くなった。変更点は、「品名/かがみてん」の代わりに「名称:寒天」になり、原材料名は「寒天粉(韓国、チリ)」と原産地が表示され、栄養成分表示を新設。100gあたり推定値で炭水化物1.8g、その他は全部0。


さて、鏡天の意味など。
お盆は暑い時期だから、涼しげな寒天は見た目にもふさわしい。だから全国的な風習かと思いがちだが、違うらしい。
秋田の特に内陸部では、食文化として寒天が根付いている。野菜や玉子など、なんでも寒天で固めると言われるほど。それも関係しているのか、とすれば秋田限定なのか?

ネットで調べると、秋田と青森(西側の津軽地方?)だけで見られるようだ。どうも秋田より津軽のほうがより盛んな感じ。
山形県庄内地方でも、鏡天を供えるとの情報も少しあった。モナカの皮の「盆とうろう(後述)」の分布と、おおむね重なるのかもしれない。

秋田ではあまりないが、津軽では「法界折」という折り詰め料理をお盆にお墓に供える。その1品として鏡天を入れるのが、津軽ではオーソドックスな供え方のようだ。
津軽でも、秋田と同様な四角い鏡天もあるようだが、水まんじゅうのようなドーム形のものもあり、そちらのほうが本来の形という情報もあった。秋田では水まんじゅう形は見たことがないが、ネット上の写真ではまさに水まんじゅうとかゼリーみたいで、おいしそうに見える。
それに、鏡天は「寒天」ではなく、突いて糸状にする前の塊の「ところてん」が本来らしい。※ところてんを凍結乾燥させたのが寒天。
鏡天の意味は、「仏様を映す鏡」「仏様は普通の鏡には映らないので、鏡天に姿を映して身なりを整える」とするサイトがいくつかあった。
お盆は、仏様(故人)が自宅へ帰る行事だから、帰宅するご先祖が身なりを整えられるようにという配慮なのか。昔の鏡といえば円形だろうから、それが本来の形ということか。
【28日追記】鏡天と関係あるかは分からないけれど、秋田では、具が何も入っていないみそ汁(醤油仕立ての汁物なども含むのかも?)のことを「かがみ汁」と呼ぶ。これは水面が鏡のようだからということなんだろうか?

2012年の「青森県立郷土館研究紀要第36号(31-36)」に「城下町の商家の年中行事-青森県弘前市石場家調査報告-」という、弘前公園近くの旧家の風習をまとめた報告があった。その「盆」。
「料理は、仏壇、タナッコ、「ほっけおり」(法界折)3つの計5食を用意し、内容はすべて共通である。」
「ただし、法界折1つについては、鏡天をゼリーで代用する。」
どうして?
「理由は、スーパーで販売されている鏡天が1パックに4個しか入っていないため、2パック購入すると3個が無駄になるからである。」
おおらかなのですね。(じゃあ、全部ゼリーでも…)
したがって、石場家では、豆腐容器入りでない、水まんじゅう形のものを使っているようだ(論文にはモノクロ写真が掲載されていて、そう見える)。

そう言えば、青森で市販される法界折のセットには、1口大のカップに入った色・味付きゼリー、いわゆる「メン子ちゃんゼリー(宮城のメーカーで東北中心の流通らしい)」タイプのものが添えられていることも多い。
生きた人間がデザートとして食べておいしいようにということかもしれないが、鏡天の代用の意味もあるのかもしれない。でも、寒天よりゼリーのほうが高温に弱いから、真夏の屋外では溶けるかも。



後半は、おなじみ「(盆)とうろう」。さげもの、とろんこ等異称多し。
仏事にちなんだアイテムなどをかたどった、厚手のモナカの皮状のもの(色が着いているのが基本)を、仏壇や盆棚につり下げるもの。
北海道から山形にかけての日本海側を中心に行われるようで、特に秋田県と青森県津軽で盛んな模様。山形県庄内では、モナカでなく落雁状らしい。岩手県では一般的ではないらしいが、近年は秋田のものを販売するスーパーもあるそうだ。

製造業者は複数あり、形や色が違うが、秋田ではたけや製パンのものがメジャー。
ところが、青森県ではたけやと中身も袋もそっくりなものが「かさい製菓」から発売されており、どちらかが製造を請け負っているのか、両社とも第3の業者へ委託しているようだ。

青森市の「(株)種金 山野辺商店」もしくは「八甲堂」ブランドのとうろうもあり、ザ・ガーデン自由が丘西武秋田店では、毎年、たけやのよりも多く取り扱っていた。たけやのと同サイズのものと、少し小さいのと2種類あり、たけやより色が鮮やか。
(再掲)2016年の種金 山野辺商店名義の小さいもの
「山野辺最中種製造所」というモナカの皮専門メーカーだそうだ。

2018年12月1日付朝日新聞東北ブロックの特集で、ここ(と思われる製造元)が取り上げられていた。
「青森市でこの最中を6月まで作っていた山野辺さん…」
過去形になっていて、廃業したかのように読める。2018年のお盆用は売られていたのに。2019年はどうなるかと思っていた。

2019年のザ・ガーデンでは、2018年よりたけやの扱い量が増えた感じはしたが、昨年までの山野辺さんのと同じに見えるのも、大小それぞれ売られていた。
2019年購入
中身も、商品名「お盆供養とうろう」も、袋のデザインもほぼ同じ(中央の菊のイラストが立体的になった。こういう形の最中は実在するね)だが、北津軽郡鶴田町の「サトウ商事」に代わっていた!
サトウ商事は、もともとはしめ縄・しめ飾りを製造販売する企業。
【12月30日追記】2019年末にイオン秋田中央店の正月用生花コーナーで売られていた、ユズリハと松の枝を1本ずつセットにして140円の「ゆずり葉」に製造販売者名はなかったがバーコードが付いており、それによればサトウ商事の商品のようだ。松ヤニが多かったけど、モノは良かった。

これにより、バーコードも変わったほか、原材料が表示された。「もち米・ワキシースターチ・(以下着色料)」。
食べられない旨も書かれており、非食品だから表示の義務はないのだろうが、たけやでは以前から表記されていた。たけやでも、もち米、ワキシースターチの順だった。

朝日新聞によれば、「元々は農家が副業で作っていたもので、山野辺さん自身も秋田県の農家から手焼きの型を買い取り、1960年代に造り始めた。」。
60年近く前の秋田の型を今も使い続けているのかは不明だが、現行の型や袋のデザインは、青森市の山野辺さんから鶴田のサトウさんに引き継がれたのだろう。
秋田と津軽。盆とうろうでの結びつきは深いと言える。

2020年の盆とうろう事情。消費税率、サトウ商事の製造風景など。

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2 コメント

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働けども働けども(戸川純さんにそんな曲があったような・・) (あんなか)
2019-08-19 04:16:05
秋田のメーカーでは一部製品は障害者の旧授産所(作業所)で作られてますね。
今は地域活動支援センターというのかな?
1時間の工賃は100円です。
購入すれば障害者への手助けになるとも言えます。
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啄木は働けど働けど (taic02)
2019-08-19 22:38:03
焼き上がったものをくっつけて、袋詰めする感じでしょうか。
何年か前の冬に灯油価格が高騰した時、NHKのローカルニュースにその作業所の苦心が取り上げられていました。
そういう製造工程であることを初めて知りましたが、真冬のうちから作り置きしていることにも驚きました。
昔は農家の副業だったそうですが、時代が変わってつくり手も代わって、地域の伝統を維持していることになります。
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