壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

曼珠沙華

2011年09月27日 22時40分16秒 | Weblog
        まんじゆさげ蘭に類ひて狐啼く     蕪 村

 真紅・凄艶な曼珠沙華は、歌題に詠まれなかったせいか、其角と許六、それに蕪村がよそよそしくこの句を詠んだだけで、まったく顧みられなかった。
 激情の人・芭蕉さえも、旅路に、この花の赤光に目を射られながら、ついに句にはしなかった。
 和歌から派生した連句を祖とする俳句の哀しい束縛のようなものの感じがする。
 この花に、極楽を荘厳するという赤花「曼珠沙華」の名を充てた人は、どんな人であったろうか。
 昭和に入ってから、俳人の目は拭われてきた。
        つきぬけて天上の紺曼珠沙華     山口誓子
        西国の畦曼珠沙華曼珠沙華     森 澄雄

などなど、絶唱ともいえる名吟が目白押しにあらわれて、しかもまだこの妖花の味わいは詠み尽くされていない。
 「彼岸花」と言いかえると、なつかしい道のべの童画の草花と化するのもいい。
 この鱗茎は搗いてよく水にさらすと、純白な餅やウエハースの原料にもなる。「死人花」「捨子花」の陰惨な名をもつこの毒草に、飢餓を救われた人々の数もまた少なくはない。

 季語は「まんじゆさげ」で秋。

    「曼珠沙華が妖艶に咲いている。蘭と狐は付合(縁のある言葉)であるが、
     その蘭ではないが、狐の啼き声が曼珠沙華にもよく似合うことだ」


      曼珠沙華茎にたましひ余しをり     季 己