壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

はつかに白し

2011年07月18日 00時00分57秒 | Weblog
          眺 望
        更衣野路の人はつかに白し     蕪 村

 上五の「更衣(ころもがえ)」は、一般的に更衣の季節であることを述べたもの。したがって、野路に眼をやる人自身も、白い衣に更(か)えているのである。
 おのれ自身の一新した気持が基となって、微細な一点の白をさえ、白衣の人影であることを思いやるのである。
 みどりの中のはるかな白一点によって、天下すべて衣を更える時候であることを、力強く表現しているところが技倆である。もっとも、みどりの中に遠く白を点出したことは、持統天皇の、
        春過ぎて 夏来るらし 白妙の
          衣乾したり 天の香具山
 の御製あたりから暗示を得ているのかも知れない。
 また、「はつかに白し」の手法は、
        海暮れて鴨の声ほのかに白し     芭 蕉
 にならっているもののように思われる。
 「はつかに」は、「わずかに」の古語。

 季語は「更衣」で夏。

    「みんなが衣を更える時節である。野路をはるかに眺めると、一面の
     緑の中の遠方にただ一点白いものが見える。ふだんなら人影とは
     わからないほどの遠さなのだが、やはり白いものに更えていると見
     えて、はっきりと動くのさえ見える」


      七月の海ひかる窓 雨の後     季 己