壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

己が火を

2010年07月16日 21時00分16秒 | Weblog
        己が火を木々の蛍や花の宿     芭 蕉

 弟子の支考が『東華集』にいうように、「錯綜顚倒之法(さくそうてんとうのほう)」によった作で、倒置法の一種であるといわれる。これは、『句選年考』に「蛍は己が火を花として木々に宿す」の意とするのに従うほかないであろう。
 一度受け取った感動を、自分の思いを通して表現する――すなわち、木の枝に蛍火のちりばめられた美しさを直観的に詠まず、己が火を花として、その花の宿に泊まっているのであろうと興じた発想で、その‘はからい’の混入している点が、致命的な句の曇りとなっている。

 季語は「蛍」で夏。「花の宿」も春の季語だが、ここでは季語として働かない。

    「蛍は己が光を花として木々の枝に灯して、その中に宿り、まさに‘花の宿’に
     宿っているともいえるようなみごとさだ」


 ――好中球の不足で延び延びになっていた抗ガン剤治療。今日やっと基準値の1500を越え、1820まで回復したのでGOサインが出た。うれしいような、うれしくないような複雑な気分のまま、抗ガン剤治療を受けた。
 2時間45分の点滴時間中、2時間余りは夢も見ずに熟睡していたようである。気がついたら、看護師さんが掛けてくれたのであろう、タオルケットがしっかり掛けてあった。駒込病院の看護師さんは皆、「看護師の鏡」のような立派な方ばかりである。感謝! 感謝! 感謝!

 先日のCT検査の結果、現在の治療法は功を奏して、ガンをしっかり押さえ切っているとのこと。うれしいことに、大腸・肺・副腎すべてに治療の効果が現れていた。
 副作用の鼻水ダラダラも、前回よりはずっと少なくなったような気がする。手足のしびれも、ずっと楽になった。脱毛については、もう抜ける毛もほとんどないので……。
 どうやら「身辺整理」は少々早過ぎたようで、だいぶ後になりそうな気がする。しかし、作品の前に立ったら、「身辺整理、身辺整理」の呪文を止めるつもりはない。
 そんな変人に、「ぜひ売ってください」と言わせるような作品を、作家の先生方に強くお願いしたい。身体全体が、あたたかいものにつつまれるような作品を!

      看護服 聖金曜の蛍とぶ     季 己