壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

吹き落せ

2010年07月09日 22時50分06秒 | Weblog
        五月雨の空吹き落せ大井川     芭 蕉

 「吹き落せ」という措辞は、風に対してのことばのようにもとれ、やや問題を残す。しかしここは素直に、大井川に呼びかけた発想として理解したい。
 大井川の増水の豪壮さを詠じて、
        五月雨を集めて早し最上川
 を想起せしめる力強さをもっている。
 句形としては、「雲吹き落せ」であると、穏当であるが、景が主になり、「空吹き落せ」であると、一見誇張のようであるが、心の勢いが主になってくると思う。

 大井川の出水のために、芭蕉は島田滞留を余儀なくされ、焦燥感も次第にたかまり、晴天をこいねがっていたのでもあろう。閏五月二十一日付曾良宛書簡には、この時を回想して、
        「大雨風一夜荒れ候ひて、当年の大水、三日渡り留り候。さのみ俳諧の
         相手にもならざるほどのものども、先にもよく合点いたし、俳諧ばなし
         のみにて、近所草庵のある所など見歩き……」
 とある。元禄七年五月島田での作。

 季語は「五月雨」で夏。「五月雨」の勢いの面がよく生かされた発想である。

    「五月雨のために増水した大井川は、濁流が滔々(とうとう)と流れ下っている。
     いっそのこと大井川よ、このいつ晴れるともない五月雨の空を、濁流もろとも
     一気に吹き落し流してしまってくれよ」


 ――先週に引き続き、今日も例の「好中球」の数値が回復せず、抗ガン剤治療は延期となった。どうすればよいのか尋ねたところ、気長に回復を待つしかない、とのこと。おかげで時間が出来たので浅草へ。
 七月九・十の両日は、浅草寺の「鬼灯市(ほおずきいち)」。子どもの虫封じ、女の癪に効くとして鉢植えの鬼灯が、境内で売られる。また、十日の観世音菩薩の結縁日に参詣すると、平日の四万六千日分、つまり126年分に相当する功徳・御利益を授かるといわれている。
 ここ数年、欠かさず四万六千日(しまんろくせんにち)にお参りしている変人には、いったいどんな御利益が授かるのだろう。もしかすると「極楽行き超特急券」かも。非常に楽しみである。

      ガン治療のびて四万六千日     季 己