壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

やつるる恋

2010年02月18日 22時59分38秒 | Weblog
          田家にありて
        麦飯にやつるる恋か猫の妻     芭 蕉

 「田家(でんか)」とは文字通り、田舎(いなか)の家、あるいは単に、田舎を意味する。その田家の雌猫が、痩せてそわそわしている様に、興じている句である。
 「やつるる」は、田家の猫が麦飯にやつれる様と、恋にやつれる様とを、微妙にからませた表現で、「麦飯に」の「に」も、単に原因をあらわす以上に、微妙な用い方をしているように思える。
 どことなく、田舎住まいの侘び人の恋の姿が寄せられているようなところに、俳諧が感じられる発想である。

 「猫の妻」は、交尾期にある雌猫。「猫の恋」にかかわる季語で春。古典の匂いをただよわせたところが俳諧で、句の眼目になる。

    「麦飯ばかり食わされて痩せている雌猫が、このごろまた、ひとしおやつれているのは、
     これはまた、恋ゆえであろうか」


      いくたびも闇あたためて恋の猫     季 己