壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

梅が香

2010年02月16日 22時30分07秒 | Weblog
 立春が過ぎ、十日以上もたつというのに、今夜も雪。東京の二月の雪日数の平均は3.5日というのに、今年は今夜で7日目の雪という。
 日脚はたしかに伸びてはいるが、春になったという実感は全くない。‘春隣り’といったところだろうか。

        梅が香やとなりは荻生惣右衛門     其 角

 荻生惣右衛門(おぎゅうそうえもん)というのは、元禄時代の有名な漢学者、荻生徂徠のことで、江戸茅場町に、其角と隣り合わせに住んでいた。
 塀越しに、梅の香りが漂ってくる近所づきあいの親しさは、
        秋深き隣は何をする人ぞ
 という芭蕉の句とは違って、むしろ、弟子の其角の人間くささが妙にうれしい。
 隠密かとも疑われるほど、旅に明け、旅に暮らした芭蕉は、江戸深川の芭蕉庵にいても、あまり腰が落ち着かず、ほとんど近所づきあいをしなかったのかも知れない。

 それはさておき、関東では熱海、関西では南部(みなべ)など、温暖な梅林では、中咲きの梅が盛りを迎えた頃であろうか。我が家の盆梅も、一つは満開、もう一つは、日増しに莟をふくらませている。
 もっとも、早梅(そうばい)などといって、暮れや冬至の頃に咲き出す、早咲きの梅もある。春にさきがけてとか、寒さをしのいで、などと形容されるように、大寒の終わり頃からほころび始める梅にこそ、その潔い風格が尊ばれることである。

        霜雪も いまだ過ぎねば 思はぬに
          春日の里に 梅の花見つ

 『萬葉集』巻八に見えるこの歌は、ちょうど今頃の梅を歌ったものであろうか。


      四人展出て春雪の青むかに     季 己