壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

豊饒

2009年05月10日 20時41分30秒 | Weblog
 西野慎二先生の「豊饒」を受取ってきた。
 作品名は「豊饒」であるが、副題として「ヴィレンドルフのビーナス模刻」と記してある。先生お得意の脱乾漆像である。
 「西野先生は奈良にお住まいで、乾漆像の名手です。乾漆像は、ブロンズ像とは違い、一点物なのでより価値が高いのです」とは、係の大塚道男先生のお話。
 どこかで見たような気がしていたが、「ヴィレンドルフのビーナス模刻」で思い出した。石器時代の女性像の最初の出土例として、世界史の教科書でも有名なアレである。

 ヴィレンドルフのビーナスは、今からおよそ100年前にオーストリアのヴィレンドルフ近くの旧石器時代の遺跡で発見された。
 像は、その地方では産出しない魚卵状石灰岩で彫刻して造られた、高さ11cmほどで、乳房・腹・腰・尻などが肥満した女性の全身像である、とのこと。
 このデフォルメされた女性像は、2万4千~2万2千年前に造られたもので、発見地の名を冠し、「ヴィレンドルフのビーナス」と呼ばれている。豊饒・多産を祈念して造られた像という説が多いが、詳しいことは、まだわからないようだ。
 長野県・茅野市で発見された、国宝「縄文のビーナス」は、たかだか4千5百年前に造られたもの、それより2万年も前に造られていたとは……。

 「模刻」とあるように、作品「豊饒」は、「ヴィレンドルフのビーナス」を原寸大で、忠実に模したものと思われる。脱乾漆像であるが、出土品である感じが非常によく出ていて、素晴らしい作品だと思う。文字通り、早速、文机の右上に鎮座している。
 写真で見た本物もそうであるが、この像の顔の部分は、縄か組紐のようなものでぐるぐる巻きにされているので、目鼻立ちが全くわからない。
 現代は、「人形は顔が命です」と言われるように、顔の表情が大事である。石器時代は、顔はどうでもよく、豊満な肉体を持っている女性が崇拝されたのであろうか。顔が見えないだけに、顔を想像する楽しみもある。
 ミロのビーナスの美しさも格別であるが、女性像の元祖「ヴィレンドルフのビーナス」は、水墨画や俳句のようで、これまた格別である。

 今、あらためて気づいた。
 ぐるぐる巻の顔が束ねた髪に、巨大な乳房が大きな眼に、ヘソがおちょぼ口に、太股が頬杖をついた手に見えるのだ。
 この分だと、まだまだ新発見?があるかも知れない。


      母の日やデフォルメされし女性像     季 己