壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

春ぞ暮れ行く

2009年05月01日 23時33分36秒 | Weblog
        長持に春ぞ暮れ行く更衣     西 鶴

 寛文十一年(1671)序の『落花集』に、初五「長持へ」で出ているが、これが初案。「長持に」の句形は、延宝元年(1673)刊『歌仙大坂俳諧師』による。また、『画賛草稿十二ヶ月』には、「袖をつらねて見し花も絶えて、女中きる物も今朝名残ぞかし」の前書きがある。

 「長持」は、衣服や道具類を納めておく長方形の蓋つきの箱のこと。
 「更衣(ころもがへ)」は、四月一日(陰暦)に、袷(あわせ)に着替える行事で、夏の季語である。

 この春袖を連ねて浮かれ歩いた花見小袖も、長持にしまう衣更えの日がやって来た。まるで春は、長持の中に暮れてゆくようなものだ、というのである。
 さまざまな花見の思い出を秘めた衣装が、去りゆく春とともに、一枚一枚、長持の中へしまわれてゆく惜春の情を、長持に春が暮れると、奇抜に言いとった出色の作品である。

 北村季吟の『山の井』に、更衣の句作心得を説いて「花衣ぬぎかへて はらわたをたつ」などとするのに比べて、西鶴の句は、いかにも優美である。


      作務衣着て下駄のつめたき暮春かな     季 己