シクラメン雪のまどべにしづかなり 万太郎
このシクラメンは、何色だろうか。紅だろうか、白だろうか、それともピンク……。それにしても、この静けさはどうだろう。「まどべにしづか」と、ひらがなばかりにしたところから生まれる静けさであろう。言うまでもないが、この「まどべ」は、病院の窓辺である。
ついでに、万太郎のシクラメンの句をもう一つ。
シクラメン花のうれひを葉にわかち 万太郎
ちかごろ、栽培技術が進んで、秋から鉢物が出回り、年末から正月にかけて家庭で楽しまれるようになった。
シクラメンは、小アジアのシリア地方が原産の、サクラソウ科の球根多年草である。いまでは世界中、いたるところに栽培されている。
日本には、いつごろ輸入されたものかはわからないが、おそらく明治以降ではないか、といわれている。
かつて、シクラメンの別名に“豚の饅頭」”というのがあった。手元の30年ほど前の歳時記には載っているが、10年前の歳時記には“豚の饅頭”は記載されていない。“豚の饅頭”とは、いくらなんでもシクラメンが可愛そうである。
シクラメンの根は、塊茎(かいけい)といって、里芋のようになっている。とても酸っぱい味がするにもかかわらず、イタリアのシシリー島では、野豚が好んでこれを掘り出して食べるので、「豚の饅頭」などと、情けない名がつけられたのであろう。
しかし、わが国の分類植物学の権威、牧野富太郎博士は、この花に“篝火草”という美しい名をつけてくれた。
シクラメンの五弁の花びらが、小首をかしげた茎から反り返って咲き、花全体は燃え立つ篝火のように、上へ反り返って開いているところから付けられた、いかにも洒落た名前であるが、いっこうにそれは通用していない。やはり、シクラメンという耳障りのよい名前が好まれているからであろう。
シクラメンふたりで入る喫茶店 季 己
このシクラメンは、何色だろうか。紅だろうか、白だろうか、それともピンク……。それにしても、この静けさはどうだろう。「まどべにしづか」と、ひらがなばかりにしたところから生まれる静けさであろう。言うまでもないが、この「まどべ」は、病院の窓辺である。
ついでに、万太郎のシクラメンの句をもう一つ。
シクラメン花のうれひを葉にわかち 万太郎
ちかごろ、栽培技術が進んで、秋から鉢物が出回り、年末から正月にかけて家庭で楽しまれるようになった。
シクラメンは、小アジアのシリア地方が原産の、サクラソウ科の球根多年草である。いまでは世界中、いたるところに栽培されている。
日本には、いつごろ輸入されたものかはわからないが、おそらく明治以降ではないか、といわれている。
かつて、シクラメンの別名に“豚の饅頭」”というのがあった。手元の30年ほど前の歳時記には載っているが、10年前の歳時記には“豚の饅頭”は記載されていない。“豚の饅頭”とは、いくらなんでもシクラメンが可愛そうである。
シクラメンの根は、塊茎(かいけい)といって、里芋のようになっている。とても酸っぱい味がするにもかかわらず、イタリアのシシリー島では、野豚が好んでこれを掘り出して食べるので、「豚の饅頭」などと、情けない名がつけられたのであろう。
しかし、わが国の分類植物学の権威、牧野富太郎博士は、この花に“篝火草”という美しい名をつけてくれた。
シクラメンの五弁の花びらが、小首をかしげた茎から反り返って咲き、花全体は燃え立つ篝火のように、上へ反り返って開いているところから付けられた、いかにも洒落た名前であるが、いっこうにそれは通用していない。やはり、シクラメンという耳障りのよい名前が好まれているからであろう。
シクラメンふたりで入る喫茶店 季 己