壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

取合せの効果

2008年08月18日 21時53分25秒 | Weblog
 昨日に比べれば暑かったが、それでもだいぶ凌ぎやすくなった。
 このまま秋に突入してくれればいいが、まだまだ残暑が続くことだろう。

 昨日、取合せの句にふれたが、今日は、取合せの効果について考えてみたい。

        あき風やしら木の弓に弦はらん     去 来
 
 さわやかな秋風の今日この頃、久しぶりに白木の弓を手に、的に向かってみたいものだ、との意であろう。
 秋風の感触と白木の弓とが、感覚的にマッチして、いかにも快い。
 秋は、素秋ともいわれるように、白がふさわしい。「素」は白の意で、五行で白を秋に配するところから、秋の異称となり、また白秋ともいう。

 俳句には、その表現手法の一つとして、しばしば“取合せ”ということが問題にされる。感覚的に通じ合う二つの素材を一句の中に詠みこんで、そのイメージを豊かにし、印象効果を高める方法である。
 取合せの効果は、“和”ではなくて“積”であるといわれる。
 三と三とを加えれば六であるが、取合せの巧みなものは、三と三の積、すなわち九の効果をもたらす。
 去来のこの句は、その意味で成功した例である。

 取合せのコツを会得するには、蕪村の句を学ぶのがよい。
 蕪村は、取合せの第一人者であったが、例えば、「行く春やおもたき琵琶の抱きごころ」には、「行く春」のけだるい気分と、「琵琶の抱きごころ」の重ったるい感情とが、巧みに取合わされて、晩春のものうい季節感が、まことに巧みにうたいあげられている。
 こうした二つの素材を発見するには、鋭敏な感覚と繊細な感受性とが、詩人に要求されることはもちろんである。

 秋風の句で最も好きなのは、原石鼎のつぎの句である。
        秋風や模様のちがふ皿二つ     原  石 鼎
 小さな卓袱台(ちゃぶだい)に、模様も大きさも揃わない皿が二つ。その小さな陶器の模様を、あたかも不思議な発見であるかのように、じっと見入っている男の所在なさ、やるせなさの思いが、ひしひしと胸に伝わってくる。
 この句も、「秋風」と「模様のちがふ皿二つ」の取合せである。「秋風」と「模様のちがふ皿二つ」との間には、なんの因果関係もないが、デリケートな情感と秋風とが、みごとにマッチしている。
 この句は、秋風索漠の情感が沁み透った、作者、一世一代の秀吟と言われるが、変人も強くそう思う。


      この川も廃校となる目高かな     季 己