壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

私に触れないで

2008年08月16日 23時42分08秒 | Weblog
 今朝方、涼しい風が吹いてきた。まるで秋風のような。
 そして、午後から夜にかけての雷と豪雨。そのおかげで、現在の室温は30度、いつもより1~2度低い。どうやら今夜は、久しぶりによく眠れそうだ。

 秋とは名ばかりとは言いながら、八月も半ばを過ぎると、日中の暑さはまだまだ厳しくても、朝晩はいくらか涼しくなってくる。
 ちょうどその頃、朝露にしっとりと濡れて、淡い感じの紅や桃色・白と、色とりどりの花を咲かせ始めるのが、鳳仙花である。
 秋の哀れを知らせるかのような瑞々しい茎、桃の葉に似て柔らかい若緑の葉、そして次から次へと、いつ果てるともなく咲き続ける鳳仙花……。

 原産地は東南アジア、インド・マレーシア方面といわれるが、いつ頃、我国に渡って来たのだろうか。
 鳳仙花は、古くは「爪(つま)くれなゐ」と呼ばれ、『枕草子』にこの名が見えているので、平安時代には渡来したものと思われる。
 ツリフネソウ科の一年生草木で、世界各地で栽培されているという。

 鳳仙花の紅色の花を摘んで、カタバミの葉と揉み合わせて爪を染めるのが、昔の女の子の習わしであった。化学染料によるマニキュアと比べて、いかにも自然な効果を発揮したことであろう。
 その爪紅の他にも、鳳仙花は子どもたちの楽しい遊び相手となっていた。
 落下傘のように、傘を広げて舞い上がるタンポポの種子、キリキリと廻りながら舞い落ちる楓の種子、動物の身体にくっついて運ばれるイノコヅチの種子、おいしい果物を提供して、種子を撒き散らしてもらう柿や葡萄・桃などなど。
 造化の神は、ありとあらゆる手段を講じて、植物の繁殖を助けているが、鳳仙花もまた、一工夫凝らしたものである。
 鳳仙花の実は、よく熟してくると、ちょっとしたショックにも、自然と莢がはじけて、中の種子が散弾のように勢いよく飛び散る。ふっくらと膨らんだ実に、ちょっと触れただけで、間髪を入れずに、はじき出される茶褐色の粒。
 子どもたちはそれが面白くて、多少のショックも感じながら、飽くこともなく鳳仙花の繁殖を助けているのだ。
 このように、熟すと皮が自然に縦に裂けて、中から種子が飛び出すところから、鳳仙花の花言葉は、「私に触れないでください」。


      三度目の初恋もまた鳳仙花     季 己