中公新書ラクレの「ウクライナ戦争の嘘」(アメリカの秘密情報に詳しい手嶋龍一氏と、「ラスプーチン」の異名を持つロシア政治専門家佐藤優氏の対談)という本を読みました。
こんな宣伝文句が書かれています。
戦争で「利益」を得ているのは誰か?なぜ殺し合いを支援するのか。
ウクライナへのプーチンの侵略戦争は許されない。誰もがそう思っています。一方で「ゼレンスキーは正義の味方。ウクライナにじゃんじゃん武器を送って、プーチンがつぶれるまでとことん戦争をエスカレートしろ」というような日本のメディアの「好戦的な」論調、なんだか戦前の「大本営発表」のようで気味が悪い、と感じる人も多いのではないでしょうか?この本で、メディアに載らないウクライナ戦争の側面を知ることができるようです。
今回のウクライナ戦争、欧米や日本のメディアの情報源はアメリカの戦争研究所(ISW)とイギリスの国防省
佐藤 ISWの情報を中立的なものとして日本のメディアは全面的に頼って報道しています。ISWはネオコン系の研究所。
手嶋 イラク戦争にアメリカを進ませる原動力になったネオコン系の研究所。主な運営資金はジェネラル・ダイナミクスを含む防衛請負業者からの寄付。国際紛争への米軍の関与を増やすことを提唱しています。
テレビでコメントする防衛研究所のスタッフは「秘密情報に接することができない人たち」なのに、そのことを視聴者は知らない
佐藤 問題は、メディアに登場している防衛研究所のスタッフが、極秘や秘密指定のなされた公電に接することができないという事実です。
アメリカはウクライナを勝たせるつもりはない
佐藤 ゼレンスキー大統領は、4州のロシアへの併合を認めた形で戦争を終結させたりしたら、自分が縛り首になりますから必死です。ただ、アメリカはウクライナが望むような勝利のシナリオは描いていない、とみるべきです。
手嶋 ウクライナで戦いが起き、国際秩序にかくまで甚大なダメージを与えてきた責任の一端は、超大国アメリカにあると言っていい。かつては、口先でウクライナのNATO加盟を支持すると言っていながら実際には何もせず、ウクライナのすべての領土の奪還がいかに困難かを知りながら、これまた口先で都合のいいことを繰り返す。この点でアメリカは、歴史の審判を受けなければならないと思います。
佐藤 現実問題として、ウクライナ軍単独でクリミア半島に攻め入ることは考えられません。その場合には、アメリカ軍を中心とするNATO軍による直接介入と言うことになるでしょう。事実上の米ロ衝突ですから、そのまま第三次世界大戦に発展してしまう公算が大きくなります。
ロシアを弱体化させるためにこの戦争が「使える」、ということに気づいたアメリカ
佐藤 ロシアのような国はけしからん、アメリカがつくりあげた国際秩序を乱すことができないようにしてやりたい。ただ、そこには「第三次世界大戦を招かぬように」という制約条件がつく。つまり、戦争はあくまでウクライナにとどめておかなくてはならない。
手嶋 一方で世界大戦のリスクは避けたいと考えながら、巨額の資金をはたいて武器の供与はウクライナに続けている。そんなアメリカの胸の内をどう読みますか?
佐藤 ワシントンの視点にたてばこの戦いはウクライナとロシアの間接戦争でした。それがいまや、ウクライナ・西側連合対ロシアの直接対決に近づいています。そのプロセスで、アメリカは、今回の戦争が「使える」ことに気づいたのだと思います。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは疲弊していくと考えるようになったのです。
手嶋 超大国アメリカとしては、民主主義と相いれない価値観を持つ「プーチンのロシア」と直に戦争を構えなくても、ロシアの国力をおおいに殺(そ)ぐことができると思い至ったということですね。
佐藤 しかも、アメリカが現地に送っているのは兵器のみで、自らの将兵の血を流すことはありません。戦争で死ぬのは、両軍兵士とウクライナの民間人だけです。アメリカはウクライナをけしかけて戦わせることで、「ならず者」ロシアの弱体化を実現できるわけです。
アメリカにより管理された戦争。アメリカの目的はロシアの弱体化
佐藤 ですから私は、この戦争を、「アメリカにより管理された戦争」と呼んでいます。この戦争におけるアメリカの真の目的は、ロシアの弱体化です。ウクライナは、その道具に過ぎません。
笑いが止まらないアメリカの軍需産業
佐藤 戦争が思いのほか長期化した結果、軍産複合体が濡れ手に粟で巨利を貪ることになった。また、軍産複合体に資金を提供しているアメリカの金融資本にとっても大儲けのチャンスとなっています。
手嶋 弾薬などは、一定期間が過ぎれば廃棄せざるをえないのですが、降って湧いたように格好の使い所ができ、新鋭の兵器については、これ以上はない実験場が提供された。ウクライナの戦場では「中古品」も一気に使ってくれ、米軍には新鋭の兵器が補給されていますから、軍需産業にとっては笑いが止まりません。
佐藤 さらなる追い風が吹いています。
手嶋 (日本政府が)アメリカ製のトマホーク巡航ミサイルを400基も調達する計画です。
クリミア併合の背景にあったウクライナの右傾化
佐藤 (クリミアへの電撃的な侵攻の)きっかけになったのは、13年11月から始まった「マイダン革命」です。その結果、親ロシア派のヤヌコヴィチ政権が倒され、翌14年2月に親欧米政権が誕生しました。
手嶋 この政変劇には、アメリカの国務次官補だったビクトリア・ヌーランドらが、ウクライナのアメリカ大使館を拠点に露骨に介入したと言われています。そう、戦争研究所(ISW)を立ち上げたケーガン一族のロバート・ケーガンの妻です。
三つの「異なる地域」から成り立っているウクライナ
佐藤 革命を起こした反政権側は、ウクライナ西部のガリツィアを拠点とする反ロシア的な民族主義勢力です。
今回の戦争の舞台となっている東部から南部の黒海沿岸地域は、親ロシア、ノヴォロシアといわれ、歴史的にもロシア人が多く、ロシア正教の影響力が強い。
首都キーウを中心とする中部は、ロシア系、ウクライナ系の両方の人たちが混ざっている。そしていま一つが反ロシア感情を抱く西部のガリツィア。
マイダン革命は、東部ノヴォロシアに権力基盤があったヤヌコヴィチを、西部の民族主義者を中心とする勢力がアメリカの後ろ盾を得て打倒したという性格のものでした。
プーチンの最大の関心はクリミア半島のセヴァストポリ軍港
佐藤 プーチン大統領の最大の関心は、クリミア半島というより、ずばり黒海に面した要衝、セヴァストポリの軍港です。ウクライナの政権が親NATO化して、この戦略上の拠点を奪われでもしたら、ロシアは未来永劫、黒海へのアクセスを喪(うしな)ってしまう。
クリミア半島はなぜウクライナ領なのか
佐藤 1954年に、当時ソ連の最高指導者だったニキータ・フルシチョフが、ロシア共和国の領土だったクリミアをウクライナ共和国に割譲した。
第二次世界大戦では、ナチス・ドイツと組んでソ連に銃口を向けるウクライナ人もいました。そうしたことも踏まえて、ウクライナに対する融和政策の一環として、クリミアを贈与したのです。
侵攻を「予告」したバイデンの錯誤
手嶋 バイデン大統領は、重大にして深刻な錯誤を犯しています。ロシアの侵攻直前の2月18日の記者会見で、「ロシア軍が次週、数日中にも、ウクライナを攻撃すると、考えるだけの理由を米国政府は得ている」と述べた。通常は米国の最高首脳がこれほどの開戦情報を確定的に語ったりしないものです。
加えて、バイデン大統領はもう一つ重要なことを言っている。「もし侵攻があれば、大規模な経済制裁で応じる」と。
この発言を聞いて、プーチン大統領は「米軍の直接介入はない」と受け取ったでしょう。
ユダヤ人虐殺に手を染めたガリツィアの英雄、バンデラ
佐藤 マイダン革命の以前は、ガリツィア地方はあまり表舞台に出て来ることはなかった。そもそもこの地方がソ連領のウクライナ共和国に統合されたのは、第二次世界大戦後のこと。
ウクライナ民族主義運動の指導者といわれるガリツィア出身のステパン・バンデラという人物がいます。
40年代に侵攻してきたナチス・ドイツに協力し、ユダヤ人、ポーランド人、チェコ人などの虐殺に手を染めています。しかも、「純粋なウクライナ人」による支配というナチス流の人種イデオロギーに通じる世界観の持ち主でもあった。マイダン革命で生まれたウクライナの政権にも、彼を崇拝する民族至上主義者が加わっていた。
ガリツィアの「神話」を拒絶する東ウクライナ
手嶋 ウクライナ・ナショナリズムを標榜する政権は、一時期、ウクライナ語だけを公用語にしてしまった。それによって、東側の住民の多くは、日常使っているロシア語を公には使えなくなってしまいました。
佐藤 ウクライナ語しか認められなくなれば、ウクライナ語で書類を書けない人は公務員の資格を失います。ノヴォロシア、クリミアでは実際にウクライナ語を使う人はほとんどいません。公務員が身分を失い、そこにウクライナ語ができる西ウクライナの人間が入ってくる。結果的に、エリート層の組み替えが起こることになります。
政治腐敗の根絶を叫ぶコメディアン
佐藤 ゼレンスキーはテレビドラマを通じたプロパガンダも駆使して、国民の実に7割以上の信任を得て権力を手にしました。
しかし腐敗まみれの政治を動かして、結果を出すのは容易ではない。”有言不実行”のゼレンスキー政権の支持率は、すぐに40%台に下落。2021年10月には、彼が海外のタックスヘイブン(租税回避地)に資産を隠していた事実が明るみに出て、国民の失望を買いました。ロシアとの開戦時の政権支持率は、20%台にまでガタ落ちしていた。
手嶋 ゼレンスキーの窮地を救ったのは、皮肉にもプーチンの強硬な対ウクライナ政策でした。
ロシア侵攻の4カ月前、ドローンで東部ロシア人地域を攻撃し、ロシアを強く刺激。ヨーロッパ諸国からも非難されたゼレンスキー氏
佐藤 (ゼレンスキーは)ロシア侵攻の4カ月前の21年10月、トルコから供与されていた自爆型ドローンを使って武装勢力に攻撃を仕掛けるという「悪手」に手を染めた。民間人を巻き添えにする可能性もあるこの攻撃は、ロシアを強く刺激しただけでなく、ヨーロッパ諸国も非難声明を出す事態となりました。
ウクライナ軍、トルコ製ドローンで親ロシア派武装集団を初めて攻撃
ゼレンスキーはロシア侵攻を止められた?
佐藤 14年9月、紛争状態にあったウクライナの中央政府とドンバス地域の親ロシア派武装勢力は停戦に合意します。(第1ミンスク合意)しかし、武力紛争は止まず、15年2月に、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領の4首脳が一堂に会し、首脳会談でとりまとめたのが、「第2ミンスク合意」でした。
手嶋 二つの「ミンスク合意」は、ロシア軍の侵攻を阻む盾だったのですが、ウクライナは合意の実行に踏み切れず、プーチンの軍事侵攻を招いてしまった側面は否めません。だからといって主権国家を武力で踏みにじり、領土を奪い取っていいことにはなりません。
佐藤 それにしても、ウクライナの主権の下で、この問題を軟着陸させる可能性を最終的に消し去ったのはウクライナ側でした。ゼレンスキー大統領に自国民を悲惨な戦争に巻き込んだ責任がないというのは、到底公正な評価とは思えません。
(過去のブログ記事もご参照ください)
こんなウクライナに誰がした?権力者たちの犠牲にされる市民 - 住みたい習志野
ウクライナが兵器の「見本市」に。アメリカの軍需産業は戦争の長期化で大もうけ? - 住みたい習志野
ウクライナ軍を仕切っているのはアメリカ軍?! 「ウクライナ特需」に色めき立つ軍需産業 - 住みたい習志野
ウクライナ戦争の責任はアメリカにある!―アメリカとフランスの研究者が - 住みたい習志野
ウクライナ、日本のメディアが触れない「非ナチ化」とは?フェイクニュースも多い - 住みたい習志野
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