(産経新聞の記事より)
4630万円「返還拒否」は罪に問えない?後味悪い給付金誤入金
新型コロナウイルス対策の給付金をめぐり人口3千人の町が揺れている。山口県阿武(あぶ)町で4月、コロナ禍の影響があった住民税非課税世帯への臨時特別給付金を1世帯に誤って振り込むミスが発覚した。その額、463世帯分相当の4630万円。思わぬ大金を手にした世帯主は「戻せない」と返還を拒んでおり、回収のめどは立っていない。町は刑事告訴などを検討しているというが、専門家からは「罪に問うことは難しい」との指摘もある。
フロッピー使用の理由
誤入金があったのは、コロナ禍で苦しむ家庭を支援する臨時特別給付金。本来の支給額は1世帯10万円だ。中野貴夫副町長によると町は4月初旬、対象の全463世帯と、それぞれの振込先を記録したフロッピーディスクを金融機関に提出。だが後日、1世帯だけが記載された振り込み依頼書を職員が誤って金融機関に提出し、463世帯分にあたる4630万円が8日、この世帯に振り込まれたという。
この世帯は支給対象名簿の一番上に記載されており、「代表者」として取り扱われた可能性がある。誤入金があった世帯には、フロッピーディスクで進められた正規の10万円を含む計4640万円が振り込まれた。
フロッピーディスクの提出は金融機関から求められたものといい、中野副町長は「これまでの給付で問題が起きたことはなかった」と強調。誤った依頼書提出は「ミスが重なった」と釈明した。
一転「役場が悪い」
町の担当者が世帯主と接触できたのは、問題が発覚した8日だった。中野副町長によると、世帯主は当初、返還に応じる姿勢を見せていたがその後、電話やメールでの連絡がつきにくくなり、次に会えたのは14日。その際、世帯主は一転して「(誤入金した)役場が悪い」との趣旨の発言をしたという。
町は返還要求を続け、世帯主の自宅の車や照明の状況などを確認しては接触の機会を探った。21日、職員が外出した世帯主に声をかけると、「お金は口座から動かし、戻せない。罪は償う」と告げられたという。給付金を借金返済にあてていないかを尋ねると否定されたが、事実確認はできていない。
罪に問えない?
他の自治体でも同様の問題は起きている。大阪府摂津市では平成30年、市内に住む男性に住民税の還付金を約1500万円を過大に払うミスが発生。市は返還を求めたが、男性側は「市側の誤り。使ってしまったので、返す義務はない」などと拒否した。
事態は法廷闘争に発展し、大阪地裁は昨年10月、男性に全額の返還を命じた。地裁は男性が株取引で生計を立てていたとし、還付金制度などについて「相当深い理解があった」と指摘。受領に「悪意」があったと認定した。摂津市によると判決は確定したが、男性側からの返還はないという。
今回の阿武町の受給世帯主は、「罪は償う」と発言したとされる。今後、刑事事件に発展する可能性はあるのか。
甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は誤入金された現金を引き出す行為について「学説が分かれている」と前置きした上で、「民事判例では、口座の名義人が預金を引き出すことは正当な行為として認めている」と指摘。「誤入金と認識し、金を動かしていたとしても詐欺や窃盗、電子計算機使用詐欺などの罪に問うことは難しいと考えられる」と明かし、「民事で不当利得返還請求を行うのが妥当だろう」と述べた。(以上、産経新聞の記事より)
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