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新刊紹介:習志野ドイツ人俘虜収容所も出て来る「音楽と越境」

2022-01-30 01:47:26 | 俘虜収容所

習志野ドイツ人俘虜収容所も出て来る「音楽と越境」

「音楽と越境 8つの視点が拓く音楽研究の地平」(音楽之友社)という本が出版されました。

音楽と越境 - 音楽之友社

 

この本の中に「引用文献」として紹介されている「ドイツ兵士の見たニッポン」

の著者、星正幸さんが、この「音楽と越境」という本の紹介をしてくれました。

(著者のお一人、七條めぐみさんから、この本が星さんに寄贈されてきたそうです。)

新刊紹介 星昌幸

音楽に国境なし、とはいうものの、実際には異文化の壁は大きい。それを越境し受容されていく音楽というものの姿を、8人の音楽学者が考察した論考集です。今日はこの本に収められた七條めぐみ「大正時代の日本におけるドイツ兵俘虜の音楽活動 -「俘虜楽団」の目指した音楽実践-」という論考をご紹介したいと思います。

 習志野収容所にいたドイツ俘虜の音楽については、既にこのブログでも何回も取り上げられています。また、徳島県鳴門市にあった板東俘虜収容所のオーケストラがベートーヴェンの「第九」を本邦初演したという話は、映画にもなってよく知られています。当時、日本には6つの収容所(習志野、名古屋、青野ヶ原、板東、似島、久留米)があり、それぞれにオーケストラや合唱団があって音楽活動が行われていました。しかしその史実は、これまでもっぱら、それぞれの地の“郷土史”として扱われ、日本音楽史の立場から、6つの収容所の音楽活動を通観し、横断的に考察するということはいまだ行われていませんでした。今回の論考は、その初めての試みだということが出来ます。

 6つの収容所を比較するだけでなく、著者の目はさらに、当時のドイツ国内や租借地・青島における音楽活動との比較に向けられます。俘虜楽団のプログラムを分析し、演奏曲目には19世紀のドイツ国内における音楽文化との連動性が認められ、管弦楽作品、特にベートーヴェンの交響曲が重要視されたのはその現れだと見ています。

 著者はさらに、俘虜名簿や俘虜職業調を駆使して、各収容所の俘虜楽団の人員構成を分析します。その結果、軍楽隊員や職業音楽家の比重は意外に低く、召集された一般人が趣味として身に着けていた音楽の果たした役割が大きかったことを指摘しています。青島には第三海兵大隊軍楽隊という軍楽隊がいましたが、彼らは戦闘時には衛生兵(赤十字要員)となったため俘虜にはならず、長崎を経て、まだ中立国だったアメリカで解放されている事実は、この論考の発掘した大きな指摘と言えるでしょう。

 23ページに及ぶこの論考で著者の視線は、同じ第一次世界大戦で他の国に収容されたドイツ俘虜の音楽活動にも向けられています。イギリスやロシアの収容所でも、ドイツ兵による小オーケストラがあったことが紹介されているのです。

 巷間、ドイツ俘虜を人道的に遇したといってもそれは松江所長を頂く板東収容所だけで起きた「奇跡」であって、他の収容所は習志野も久留米もひどいものだったのだ、とか、その「奇跡」の証しとして板東では特別にオーケストラが許されていたのであって、習志野にもオーケストラがあったなどというのはウソだろう、という誤った理解をしている人が大勢います。しかし、習志野にも久留米にも立派なオーケストラがあり、さらにはシベリアの劣悪な収容所の中でも彼らの音楽活動は行われていたのです。板東だけで奇跡が起きた、という「神話」はそろそろ終りにして、今回の論考を皮切りに、各収容所の音楽活動が日本音楽史の1ページとして認知され、さらに研究が深められていくことを期待したいと思います。

 

 著者の七條めぐみ博士は愛知県立芸術大学講師。これまでに、名古屋収容所の音楽活動について優れた論文を発表されています。

「名古屋におけるドイツ兵俘虜の音楽活動 :

 1918(大正7)年12月~1919(大正8)年6月の演奏会を中心に」

(ダウンロードはこちらから)

https://ai-arts.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=744&item_no=1&page_id=13&block_id=52

 その名古屋俘虜収容所の跡地は、その後、県立旭丘高校(旧・愛知一中)になっていますが、七條先生はその卒業生だそうです。

旭丘高校には現在、塀沿いに「日独友好の碑」が建てられています。

 ご自分の出身校の歴史が、このように多角的な研究に結びついたというのも素晴らしいことですね。

(以上が星さんの「新刊紹介」文です)

この著書の七條さんの論考のうち習志野ドイツ人俘虜収容所に関する部分をピックアップしてみました。

(「住みたい習志野」の以下の記事もご覧ください)

津田沼高校オーケストラが「閉じておくれ…」など演奏(読売新聞) - 住みたい習志野

6日にプラッツ習志野でおこなわれたコンサートのことが報道されました。津田沼高生の演奏に拍手(読売新聞の記事から抜粋)県立津田沼高校オーケスト...

津田沼高校オーケストラが「閉じておくれ…」など演奏(読売新聞) - 住みたい習志野

 

習志野から消される?ドイツ人捕虜収容所の歴史(菩提樹、聞き書き民話、西郷寅太郎) - 住みたい習志野

テレビで西郷寅太郎(西郷隆盛の息子で習志野ドイツ人俘虜収容所長)の生涯を紹介 - 住みたい習志野

 

 

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