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Narashino Geography ⑬ 考える地理授業

2021-01-15 14:13:25 | 地理学

考える地理授業

ボクが教員になったのは1978年です。自分が受けた地理の授業は「静態地誌」の「地名物産」「物知りの地理」「暗記の地理」でした。1970年代にはこのような地理教育を批判する動きがでてきました。

地理教育研究会では「地理は合切袋(がっさいぶくろ)か?」という議論※があり、社会参加を促す、市民性育成の地理教育が模索されました。

(何でもかんでも詰め込める「合切袋」)

「地理は合切袋か論争」は、地域経済論のマルクス経済地理学者の鴨沢巌(かもざわいわお)さんが、「地理教育は何でもかんでも詰め込んだ合切袋でいいのか」というそれまでの「静態地誌」「物知りの地理」でいいのかという提言でした。ボクは直接、鴨澤さんと面識はありませんが、30年以上前にアムネスティのボランティアをした時にアムネスティのスタッフから「大学の地理の先生」のエピソードを聞いたのが最初でした。「合切袋」論争もボクが地理教育研究会に加わった時には、決着がついていたようです。単なる知識の集積でなく、そこから法則を見出す、科学的地理学が重要だと訴えたのだと思います。当時は「計量地理学」の導入時期で、コンピュータでの数値分析が始まった時期でもあり、それまでの地理学や地理教育のあり方から抜け出すための模索をしていたのだと思います。現在では「動態地誌」や「地理システムアプローチ」、「社会参画を目指す地理」などのスタイルが主流になりつつあります。
クイズの答えを覚えるような「暗記の地理」は陳腐化していますが、教室ではいまだに教員の圧倒的知識を教え込む授業が珍しくありません。これは発展途上国型学力と呼ばれ、文科省などはこの20年以上、日本の教育のスタイルを必死に先進国型(考える力、知識の応用力)に変容させようとしていますが、成功していません。

生徒中心のアクティビティを取り入れた授業を工夫してみた

ボクは1980年ごろから講義式(トーク&チョーク)の「暗記の地理」を変えようと、生徒中心のアクティビティを取り入れた授業を工夫するようになりました。

文科省が「アクティブラーニング」と言い出す20年以上前です。

当時は社会科教室にやっとビデオセットが入り始めた頃で、録画したビデオを生徒に見せて考えさせる授業もやりました。NHK特集などのドキュメンタリを中心に録画したビデオテープは1000本を越え、今は、静かに眠っています。

①アクティブラーニングのイメージ

 

②トーク&チョーク(暗記の地理)は時代おくれ

(「アクティブラーニングがよくわかる本」より)

イギリス発の「参加型授業」(オープンエンドやジレンマストーリー)

 アクティビティ中心の授業のヒントになったのは1980年ころに国際理解教育協議会(現・開発教育協会・DEAR)というNGOの夏の研修会に参加したことからです。
認定NPO法人開発教育協会(DEAR)

そこで経験した参加型学習は、イギリスで行われ始めたものでした。「貿易ゲーム」などは企業の研修会などでも注目されるようになりました。ディベートやグループワークなど、その後注目された手法に触れたのもその頃でした。

アクティビティでは、

①「正解」のない問題(オープンエンド)

サンデル教授の番組、類推,オープンエンドの授業の意義

②矛盾する課題をどう調整するか(ジレンマストーリー)

(トロッコ問題:一人の命か、多数の命か。間接的殺人か、直接的殺人か)

など、現実社会での課題解決に近いストーリーを設定し、生徒に考えてもらうことをリードするのが教員の役割とされています。

「知識を教え込む」から、生徒の思いや考えを引き出す「ファシリテーター」へ

教員の圧倒的な知識を教え込むのでなく、生徒の思いや考えを引き出し、寄り添う役割を求める立場は「ファシリテーター(学習や議論の進行など何かしらを促進する機能を担おうとする者)」と呼ばれます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

日本ではひろがらなかったESD

こういう学習方法はその後、日本政府が国連に提案して、国連の教育スタンダードとなり、ESD(Education for Sustainable Development/持続可能な開発のための教育)と呼ばれるようになりました。しかし、日本政府が提唱したESD は日本ではひろがりませんでした。

持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development):文部科学省

毎日の一人ひとりの行動が問われるSDGs(エスディージーズ)

ESD はその後、国連が掲げたSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標) につながりました。今では、多くの人が胸にSDGsの17色のシンボル・バッジを付けているのを目にします。バッジを付けるだけでなく、毎日の一人ひとりの行動がSDGsに沿っているかが問われます。

エシカル(倫理的な)消費

消費行動についても、「神の見えざる手」(アダム・スミスの「国富論」に出てくる言葉。詳しく知りたい方はビデオをご覧ください)

という価格決定論を超えて、価格以外の価値を評価して選択する時代です。エシカル消費(倫理的な消費行動)という言葉もよく聞くようになりました。
(コンビニにも、こんなのぼりが)

フェアトレード(公正な貿易)
30年ほど前にはフェアトレード(公正な貿易)という、発展途上地域の生産者(小規模農民など)に適正な利益配分が行われるような貿易を進めようという動きが出てきました。ボクが最初に触れたフェアトレードは元・デザイナーの女性がラオスの少数民族の絹織物を輸入して販売するプロジェクトでした。その後、コーヒーなどのフェアトレードは珍しくなくなり、スターバックスでもフェアトレードと銘打ったコーヒー豆が売られています。ボクがコーヒーで最初にかかわったのは、東ティモールの独立運動を支援するためのフェアトレード・プロジェクトでした。今でも「ピース・コーヒー」と名づけられたコーヒーをわが家では買っています。

(東ティモールは、1975年ポルトガルから独立した後も、西ティモールを支配していたインドネシア軍に占領され、過酷な支配を味わいましたが、27年にわたる闘いでこの占領を終わらせ、2002年に「東ティモール民主共和国」を樹立しました。戦争の傷跡は深く、今も復興途上にあります)


(Obrigada オブリガーダ、東ティモールの言葉「テトゥン語」で「ありがとう」という意味。元はポルトガル語で、長い間ポルトガル領だった東ティモールの言葉「テトゥン語」には、沢山のポルトガルの言葉が含まれています)

毎日の消費行動は、地球への1票

さまざまな背景を考えて、商品を吟味して購入することを生徒にも話していました。「安いから買う」というのではなく、公正・公平な商品かを考えて消費する行動を選択しようということです。「毎日の消費行動は、地球への1票」です。(近)

 

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