住みたい習志野

市内の情報を中心に掲載します。伝わりにくい情報も提供して行きます。

Narashino Geography 29   多様な世界のリアリティ

2021-05-08 22:49:15 | 地理学

多様な世界のリアリティ

 
ステレオタイプな「暗記」ではなく、「動態的でリアルな世界」を見る目が大事

現実の世界は多様で刻々と変化しています。この、動態的な「世界」をリアルに理解することは至難のことです。ですから「地理は暗記」と言って、いくら地理的な知識を詰め込んでも、すぐに陳腐なものになってしまいます。世界の大枠はおぼえる必要がありますが、それはスタートラインであって、ゴールではありません。世界の全てを「暗記」することは、こういうことが得意なAIのディープラーニングでも不可能です。ですから、私たちはリアルで健全な「世界観」を身に付けられるように努力する必要があります。「歴史観」と同じように、「世界観」も偏見で歪められたり、ステレオタイプな理解に終わることがあります。

「歴史修正主義」や「分かったつもり」は目をくもらせる

「歴史修正主義のような悪意がなくても、分かったつもりで終わらせず、常にフィードバックしながら、自らの世界観を検証することが大切です。

歴史修正主義※(れきししゅうせいしゅぎ: Historical revisionism)とは、歴史に関する定説や通説を再検討し、新たな解釈を示すこと、あるいは一般的な歴史認識とは異なる解釈を主張する人、またはそうした言動を否定的にいう語である。単に修正主義リビジョニズムとも呼ばれる。「従来の歴史観を見直してナチスや侵略戦争を美化するような歴史観」などはその一例


「日本すごい」の自国中心主義は誤った世界理解を生む

ここ数年、気になるのは「日本すごい」というキャンペーンです。日本が特別な存在でユニーク、他の地域と比べて優れていると単純に思い込むような風潮に疑問を感じています。このような自国文化中心主義というような世界観は誤った世界理解に帰着することが心配です。
例えば、環境問題や経済的格差について学習すると「日本に生まれてよかった」という単純な理解をすることがあります。社会経験が未熟な高校生などには珍しくありませんが、このような理解を起点として、その理解の未熟さを理解させていく授業の工夫も必要です。また、教員がそのような偏見からいかに逃れるかも課題です。

以前は、日本を外国人の目を通して見る「ここが変だよ日本人」

のような番組がありましたが、

今は「世界が驚いたニッポン! スゴ~イデスネ!!視察団」
のように、日本人が「自画自賛」して自分をなぐさめるような番組が増えていますし、「自画自賛過ぎる表題がチョッと恥ずかしい」こんな本も出ています。

なお、この本の著者の竹田さん、JCO前会長だった氏の父親がオリンピックをめぐる贈収賄疑惑で辞任したことでも話題になりましたが、今、五輪中止の声が高まる中、逆にオリンピック開催を支持する署名活動を開始した、ということでも話題になっています。

竹田恒泰氏が五輪開催を支持するオンライン署名活動開始! 父は贈収賄疑惑で辞任のJOC前会長(東スポWeb) - Yahoo!ニュース

 

文化相対主義(シニフィアンとシニフィエ)

自らの「世界観」を、どうアップデートしていくか、容易ではありません。ボク自身も、偏見やステレオタイプに汚染されていることがあるからです。常に反省しながら深く考えるよう努力しています。文化人類学では「文化相対主義」が唱えられ、絶対的な文化というものの不存在が文化理解の基本とされてきました。また、ソシュールの言語学では「シニフィアン(※1)とシニフィエ(※2)」と言い、言語と言語の意味するものとが峻別されるという概念が提示されています。


シニフィアンsignifiant)(※1)「意味しているもの=記号表現(言語)」
シニフィエsignifié)(※2)「イメージされているもの=記号内容(事物のイメージ)」



例えば、日本語では「蝶(ちょう)」と「蛾(が)」は別物ですが、フランス語では「蝶」も「蛾」もpapillon(パピヨン)と言います。
日本人には「蝶」と「蛾」の区別は大事ですが、フランス人にとっては「蝶」だろうが「蛾」だろうがどうでもいい。
これを「文化の違い」として素直に受け入れるのが「文化相対主義」
「蝶も蛾も一緒くたにするフランス人はイカれている。日本人の方が正しい」と見てしまうのが「自国文化中心主義」



世界は広く多様⇒「世界を理解した」つもりにならず、謙虚に「世界に向き合う」ことが大切

これらは世界の理解について、より慎重に吟味する必要があることを考えさせてくれ、「リアルな世界」と簡単に言って、それを理解したつもりになることを戒めています。まるで「禅問答」のように「分かったは、分からないこと」と言われているようです。

以上のようなことを踏まえて、もう一度「世界」を眺めてみると、ちょっと違う世界が見えてくるのではないでしょうか。傲慢(ごうまん)に「世界を理解した」と言うのではなく、謙虚に「世界に向き合う」ことが大切だということです。

静態地誌から動態地誌へ

しかし、世界は広く多様で、理解することは簡単ではありません。それぞれの地域の特徴を上手に選び出し、理解することが必要になります。このような地誌的な理解は伝統的地理の大きな中心です。古代ギリシアでも発見した物産、民族や文化を記録するのが地理の大きな役割でした。現代では、単に記録する「静態地誌」(※1)ではなく、地域の構造やシステムを明らかにする「動態地誌」(※2)が重視されています。日本の地理教育では、静態地誌を教え込むことが地理学習の中心に置かれてきたため、「地理は暗記」と言われてきました。文科省も教育現代化、世界標準へのシフトのため、地理でも動態地誌学習を進めるよう学習指導要領で示しています。

静態地誌(※1)は、ある地域の地形・気候・産業・人口・交通などの各項目を学習することによって、地域の特色を発見する学習法

動態地誌(※2)は、ある地域のある地域的な特色(例えば、中華人民共和国の人口・フランスの農業など)を抽出し、それがどのようにして成立するかを多面的に考察する学習法
Narashino Geography⑦ 地誌 - 住みたい習志野

「暗記」の地理から「考える力を問う、正解が一つとは限らない」地理へ

皆さんが学んだ「クイズの答えを覚える」ような暗記の地理は徐々に変化しています。

また入試でも、穴埋めのような問題ではなく、記述式の問題が導入されようとしています。ボクの試験では40年ほど前から「論述問題」として試験に出していました。論述問題では、クイズの答えを聞くような、明確な正解があるような問題は適当ではありません。考える力を問う、正解がないような問題を工夫する必要があります。

生徒を点数で支配・管理しないボクのやり方

採点では「論」全体をみて評価するようにしていました。点数は、A40点)・B30点)・C20点)などと幅を持たせ。「おまけ点」を加えることがありました。生徒があきらめて無記入にならないように「何か書いてあれば最低3点はあげる」と言っていました。論述問題の採点のポイントは、できるだけ点数をあげることでした。生徒たちは「意外と点数が取れる」となると頑張って答えを書いてくれるようになります。また、4月の授業初めで、「基本的にボクは赤点をつけない」と、生徒を点数で支配・管理しないことを宣言していました。生徒はチョッと安心するようでした。(近)

 

(編集部より)

Beatles(ビートルズ)は「ゴキブリーズ」?

パピヨン(蝶・蛾)の話が出ていましたが、伝説のロックバンド、ビートルズについてもこんなエピソードが紹介されています。
ビートルズ、日本では「カブトムシーズ」と思われているけど、本国イギリスでは「ゴキブリーズ」だ、という「文化相対主義」のお話。

 

コメントをお寄せください。


<パソコンの場合>
このブログの右下「コメント」をクリック⇒「コメントを投稿する」をクリック⇒名前(ニックネームでも可)、タイトル、コメントを入力し、下に表示された4桁の数字を下の枠に入力⇒「コメントを投稿する」をクリック
<スマホの場合>
このブログの下の方「コメントする」を押す⇒名前(ニックネームでも可)、コメントを入力⇒「私はロボットではありません」の左の四角を押す⇒表示された項目に該当する画像を選択し、右下の「確認」を押す⇒「投稿する」を押す

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国民投票法改正。最大限の注... | トップ | 東邦高校や市内事業所でクラ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。